雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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5.新学年

人混みをかき分け、なんとかして自分の名前を見つけた。

 

「A組か……」

 

桜も緑が見えるようになった頃。

されども心を入れ換えることなく、俺は三年になった。

雲雀?あいつは知らん。

歳が近いのは確かだけど、学年もクラスもよくわからないのが雲雀だ。

春になるとおかしなやつが現れるのが常。

新入生も調子に乗る。ついでに在校生だって調子に乗る。

雲雀はそういうやつらを監視してるか、群れが見たくないから応接室で寝てるかだろうか。

因みに、後ろで胴上げなんかをしてるやつらは俺には見えてないし聞こえていない。

中学生なんだから、二年に進級くらいはさせてもらえるだろ。喜ぶな。

この学校、平々凡々を歌いながら、なんで突出してヤバい奴等が多いんだろう。

雲雀は一体この学校のどこが好きなんだか。

平凡なこの学校を、町を愛しているというのなら、本人は平凡に努めるべきなのでは?

 

「………」

 

馬鹿馬鹿しい。

無理だ。あいつにそんなことは出来まい。

周りを見回す。

徐々に教室へと向かっているらしい。

教室、騒がしいだろうけど、行かなくちゃいけないのか……。

 

新学年というと新クラスとなり、クラスの顔ぶれも大幅に変わったり、変わらなかったりするものだ。

つまり、知らない顔というものが現れるので、自己紹介などという面倒なことをしなければならないのだ。

 

「桂木明祢です。よくサボります」

 

先程よりもざわつく教室。

今思い出したが、俺は同学年では無駄に有名だったのだった。

主に雲雀との関係のせいで。

それ以前に酷い自己紹介だから、まぁ、ざわついても仕方がないだろう。

何人かが当たり障りのない自己紹介をした後。

 

「俺は笹川了平だ!!部活はボクシング!極限に部員を募集中だぁ!!」

 

とんでもなくうるさい奴が現れた。なんだあいつ。

いや、俺はそいつを知っていた。

いつ頃かは忘れたが、あの草壁を雲雀と勘違いし、ボクシング部に勧誘していた人だ。

それに何度か部活で表彰もされていたはずだし、声が大きいから覚えている。

こいつと一年間、卒業するまで同じクラスか……。

体育祭とかなんやらで率先するタイプだろう。

俺の一年間、大丈夫だろうか。

 

不安は現実に形となるものだ。

 

「我がボクシングに入れ、カツラギアカネ!!」

「……却下」

「何ぃ!?貴様、何様のつもりだ!!」

「お前が何様のつもりだよ」

 

笹川了平は、見込みのあるやつを事あるごとにボクシング部に勧誘するという。

実際に見たことは……ないわけではないが、自分かやられるとなるとここまでキツイか。

うん、これは迷惑だ。

 

「俺にはボクシングは向いてないと思うけど」

「そんなことはない。お前はあのヒバリより強いらしいではないか」

「んなわけあるか」

 

話を聞いてほしい。切実に。

俺はそんな正々堂々としたスポーツなんか出来ない。

背徳感が沸いてくるからだ。

自分は既に道を踏み外していて、これからも当分はそうあり続けると決めている。だから、そんなことをしてしまえば、堪えられなくなってしまう。

それを笹川に伝えるには彼との関係が浅すぎるし、それを伝えたところで彼はあまり理解できないんじゃないだろうか。二転三転する話なんかは、苦手そうだ。

そして雲雀より強いとかそんなことは天地がひっくり返りでもしない限り有り得ない。俺の中で、雲雀はいつも頂点に立っている。

 

「今年は去年よりは真面目になろうと思ったのに……!」

 

少しだけ。少しだけ、サボらないようにしよう。

欠席の記録は両親に通達されるのだし、今年は受験の問題もあるから、出席率を上げようと思っていた。

けれど、こんな面倒なことに関わらなければならないのなら、自分はやはりサボるしかないじゃないか──!

まさか、こんなところに伏兵がいたとは。

クラス分けとは想像以上に大事なものだということを知った。

 

「で、どうだ。入るか?」

「入らない」

 

真っ直ぐなところは認めよう。

だが、猪突猛進にも程がある!!

どうすればこの場から離れられるか考えて、咄嗟に頭を押さえる。

 

「ごめん、俺ちょっと頭痛がしてきたから保健室行ってくる」

「む、それは大変だな。早く保健室へ行くべきだ」

「うん、それじゃあ」

 

そして、まさしく字の通り脱兎の如く逃げた。

明日からどうしよう。

同じクラスなんだよな。

毎日頭痛を使うのは無理だよな。

別に笹川が嫌いなわけじゃないけど、毎回あんなのされてたら、本当に頭痛がする気がする。

だって、眩しい。太陽みたいなのは本当に。

 

 

静かな廊下を歩く。

学年の教室ではなく、特別教室がある練を歩いているからか、人の気配は全くない。

 

「保健室なぁ……」

 

屋上は雲雀の前からの根城だ。

今日みたいな春の穏やかな時は、絶好の昼寝日和だろう。

なら静かだし大丈夫なんじゃないかと思うだろうが、あいつは物音をたてるとすぐに起きる。

葉の落ちる音で起きるとか言ってたが、真相は知らない。

咬み殺されないからいいだろうとか思っても、やはりそれも否だ。

咬み殺さないからといって、不機嫌でない訳じゃない。

途中で起こされて、その上不機嫌の種が目の前にいるってなれば、屋上には雲雀の殺意が充満していることだろう。

だから、屋上なんか行けない。

まぁ、保健室ならベッドもあるし、言いくるめばいつも通り何とかなるか。

 

「失礼します」

「あ?今は授業中じゃねーのか」

「………どちら様でしょうか」

 

保健室の中にいたのは、見覚えのない中年の男。

白衣を着てはいるが、養護教諭というにはあまりにだらしがない。

あと、授業中というより、実際はHRだ。

 

「養護教諭だ」

「……」

「俺は男は見ねぇぞ」

「それは別に良いんで、ベッドで寝かせてください」

「サボりか?」

「そんなところです」

 

何か養護教諭としてあるまじき発言を聞いた気がするが、いちいち突っ込む気にもならない。

男はだらだらと椅子に腰かけていた。

それを横目で見ながら、カーテンで区切られたベッドへ向かう。

本当に、ここ最近は一般人という規格から外れた奴が多すぎる。

こんな男にまで気にしていたら、自分が何人いても足らないだろう。

 

「おい待て、ベッドは貸さねーからな」

「寝不足なんです」

「んなもんテメーの自業自得だろうが!」

「承知の上です。お休みなさい」

「おい」

 

保健室のベッドは寝心地が良いと聞かれれば微妙だ。

教室の机で突っ伏すよりは随分マシだけど。

しかし、あの男なんか妙だな。

養護教諭という体裁を保つ気がないんじゃないか。

体裁を気にしない。初めから興味がないか、最早体裁なんてどこにもないか。

……駄目だ。

最近はところ構わず疑心暗鬼に陥っている。

見慣れないもの全てが怪しく感じる。

そういう点でいけば、笹川は楽だといえるだろう。

あんな真っ直ぐな男、隠し事は苦手に違いない。

 

いつから自分は、こんな風になってしまったんだろう。

変わらないものがあるなかで、変わってしまった自分を嘆く。

 

 




授業をよくサボり、夜歩きが趣味で、町の不良をあれしてるなら、それはもう不良と言っていい。
明祢はそれに気付かない。

ロンシャンって、絶対噂になってると思う。

了平お兄さんに目をつけられる人が、同じクラスになったら相当疲れるだろうな。という思いから。
シャマルはあの人、あれで養護教諭してるから不思議なんですよね。
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