年に一度、この日だけは愛する二人が出会える日。
七夕というと、短冊に願いを書くものだと認識されているが、別にそれだけではない。
七夕は様々な由来が複合されているという話を聞いたことがある。
有名な彦星、織姫の話は中国から伝来されたものだが、短冊そのものは日本由来のものだとか。
家はそういう行事とはあまり縁がないので、町中で見かける短冊に自分勝手に願いを書く。
とはいえ、少しばかり気恥ずかしくて、名前は書かなかった。バレると困る。
『町内会の出し物で一位になったら、短冊の願いを叶えてやる』
先日、学校帰りにどこからともなく現れた奇怪な赤ん坊は、そんなことを言った。手に、俺が昨日書いて竹に括った筈の短冊を持って。
勿論、俺は信じていない。
そもそも、人様に叶えてもらうようなものじゃない。
でも、もしそれが本当なら、と思わないこともない。
神様でも何でも、それを叶えてくれるのなら、俺は自分の命だって掛けられる。今までがそうしてきたように。
「……この状況はなに」
「願いを叶えてもらうために本気なんだぞ」
「純粋だな……」
公民館の中では、見知った顔や知らない顔が何か躍起になっている様子。その危機迫った顔は真剣そのものだ。
沢田と山本以外は、という言葉がつくが。
「か、桂木さんまで!?」
「俺が呼んだんだぞ」
沢田は頭を抱えている。
赤ん坊の傍若無人というか、無茶苦茶なところは、いつものことからなのだろう。
そのやりとりには、もう何度も繰り返したような慣れた雰囲気がある。
「……短冊の願い、本当に叶えるつもりなのか?」
「本当だぞ」
「荒唐無稽な話だな。だが、本当ならやる価値はある」
赤ん坊の表情から読み取れるのは、半分冗談、半分本気だということ。
判断がし難いが、半分は本気ならそちらにかけるしかない。
それは人の領域ではなかなか難しいことだが、ある観点から考えれば充分価値はある。
「桂木さんが本気になったぁ!?」
出し物なんぞ準備していなかったが、なければつくればいいだけのこと。
それに。
「騒がしいのは嫌いだが、こういう催し物は好きだ」
少しばかり、心が踊っているのも事実だ。
公民館はお年寄りが百人も詰め込まれていた。
よくもまぁ、こんなことを出来たもんだ。赤ん坊のくせに末恐ろしいやつである。
しかしここにいるお年寄りは大体が少しはボケている。
山本がジャグリングを失敗して飛ばした玉で壊れた壁を見て、「暴力はいかん」なんて緩く言葉が出ているのは平和ボケか現状が把握できてないに違いない。
そのあとも、常識を逸脱した出し物ばかりで、正直彼等には一度、常識というものを叩き込んでやったほうがいいんじゃないかと思った。
この時点で俺は、彼等がおかしいことに気付いてしまった。
最近町で聞こえている爆音や銃声は、彼等によるものなのではないかと疑い始めている。
まさか、と思いたい。
……自分の番が近づいてきた。
自分でも馬鹿だと思うが、この際は手段を問わずには要られない。
「次は、キュートな兎さんを飼っている桂木明祢さんです!」
桂木さんの願い事ってなんだろう?
綱吉は想像がつかなかった。
そこまできて、自分が桂木についてあまり知らないことに気付いたほどだ。
(ヒバリさんもそうだけど、桂木さんもよくわからない人だよな……)
せいぜいが飼っているウサギが危険な程度である。
「えーと、願い事は……」
「森屋の和菓子一年分」
「はひっ? でも短冊には」
「和菓子一年分だって言ってるだろ!」
「見掛けによらず強引な人ですー!」
ハルの言動は、短冊に書いてある内容と桂木本人が言っている内容が矛盾するのだと言っているようだった。
いや、実際そうなのだろう。
ハルは良くも悪くも真っ直ぐな少女だ。彼女は誤魔化すという行為があまり得意ではない。そもそも彼女には嘘をつくメリットがないのだから、彼女の言うことは正しいに違いなかった。
「兎に角、マジックします」
そこまで言われると、ハルはしぶしぶといった形で端へ捌けていく。
それを見届けてから、桂木は手のひらを掲げた。
この手をよく見ていてください。というマジシャン風の言葉を加えて。
「1、2の3」
掛け声と同時に、桂木が手を叩く。
パチン、という音が公民館に響き渡る。
「うわ!?」
バサバサッ、という羽音が耳に入る。
手が離れると、先程まではいなかった筈の白いハトが突然現れた。
手の中から飛び出たようだった。
「おやまあ、凄いねぇ」
お年寄りも目を瞬かせる。
「や、やるじゃねーか」
然しもの獄寺も、これには目を見張る。
確かに、綱吉が素人目に見ても、種も仕掛けもわからなかった。ハトを隠すようなものなんて、どこにもなかったはずなのに。
まるで、無いものがいきなり現れたような感覚だ。
いや、そういう風に見せるのがマジックなのだったか。なら、彼は相当なマジシャンに違いない。
「うわぁ……!」
その後も、桂木は次々と目を見張るマジックをした。
さっきあったものが消えている。さっきなかったものがそこにある。あり得ない筈のことが現実に起きている。
テンポ良く、それでいて丁寧に繰り広げられるその魔法に、綱吉は目を輝かせた。
思えば、マトモなマジックというものを見たのはこれが初めてだった。
綱吉は感動した。これが普通なのだと。
最初から最後まで、綱吉が呆れたり恐れたり、そういうことは一度もなかった。
「97点、イーピンを超えたな」
「今日の最高得点だ……!」
リボーンが言った。顔はボルサリーノで見えない。
高得点。それを納得せざるを得ない魅力があった。
獄寺には悪いが、これを越えることはもう無理なんじゃないだろうか。
流石の獄寺も……と振り返ってみる。
「十代目、絶対に優勝しましょうね!!」
寧ろ、俄然やる気を出していた。
結局、死ぬ気となった綱吉の見事な剣捌きと、時代劇好きのお年寄り達によって、優勝したのは綱吉と獄寺だった。
だが、願い事はおかしな形で叶えられることとなった。
ただし、綱吉の願いは本人の望まぬものへと改変されているが。
しかしそれは、特に語るべきことでもないだろう。
何もかもが終わったあと、綱吉は公民館から出る。
外には眠そうな顔をした桂木が一人、空を見上げていた。
「桂木さん、今日はリボーンがすいませんでした」
「いや、別に。それなりに楽しかったから」
「あ、桂木さんのマジック凄かったですね! 俺、あんなの初めて見ましたよ。得意なんですか?」
「……はじめて?」
聞いた桂木の表情が、一瞬固まる。
まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったみたいだ。
「あぁ、あれ。えーと、うん。まぁ、得意……かな」
「?」
常の桂木と違い、やけにしどろもどろとした答えだった。
表情も、笑ってはいるが綱吉が最近よくするようになってしまった誤魔化すときの顔である。
「ごめん。あー、その、家の用事を思い出したから。じゃあな、沢田!」
本当にごめん!と顔を青くしながら妙に急ぎ足で桂木は駆けていく。
その背を綱吉は呆然として見つめた。
(あの人、いきなりどうしたんだろう)
そうして少し距離が離れたとき、桂木のポケットから、ひらりと風に揺れて何かが落ちる。
「あっ」
駆け寄って、拾う。
それは紫色の短冊だった。裏を向いていて、何が書かれているかはわからないが、もしかするとこれは桂木の短冊だろうか。
「これ、落としまし……」
声をかけようと顔を上げたときには、桂木の姿はもう見えなくなってしまっていた。
「どうしよう、リボーン……」
桂木の家を綱吉は知らない。
だがリボーンならば、知っているかもしれない。
「……テメーでなんとかしろ。俺は用が出来たからな、先に帰る」
「え、ちょっとリボーン!!」
何故か真剣な顔で、家庭教師は去っていく。
途方にくれて、手元を見た。
そこには桂木明祢の願いごとが書いてある。
───昔馴染みが、ずっと元気でありますように。
目を見開いた。
「これ、って」
本当は見てはいけなかったんじゃないだろうか。
名前も書かれていないそれは、間違いなく彼の本音だろう。
彼のいう昔馴染みが誰なのか、そんなことは綱吉にはわからない。
思い返せば、いきなりやる気になった彼。
半信半疑だった筈の彼がやる気になった理由は、これだったんじゃないか。
知られたくなかったに違いない。
だから、押しきったんだ。
リボーンだって、おそらくは九代目にだって、この願いは叶えられない。
それでもこの願いが叶うなら、それはどんなに素敵なことだろう。
くしゃくしゃにも出来ず、綱吉はその場に立ち尽くした。
「………」
それから暫くして、近くの商店街に行った。
行って、色取り取りの竹を探して、綱吉にできる限り一番高く、それをくくりつけた。
綱吉は神様なんて信じてはいない。空の上の彦星や織姫が願いを叶えてくれるなんて思っていない。
それでも、彼の願いが届けばいいと思った。
彼の大切な人に。
──願いは結局、叶うことはなかった。
──星が綺麗ですね。と誰にも聞こえないように呟いた。
ツナにとっては、変だけどあんまり怖くない先輩になってる明祢くん。
ふと基本設定出してなかったなぁと思いまして、とりあえず置いておきます。
桂木 明祢(カツラギ アカネ)
並盛中2年B組→3年A組
9月16日生まれ B型
166㎝、57㎏
好きな食べ物
親子丼、和菓子全般(水羊羹系は苦手)
苦手なもの
熱苦しい人
趣味
夜の散歩、水泳
焦げ茶色の髪に黄色みの強い茶色の瞳。奥二重。
風紀委員会に目をつけられるほどの遅刻魔というより、サボり魔。
夜行性で、低血圧ぎみ。日中は眠かったりすることが多い。
実は軽い偏頭痛持ち。
友達が一人もいない。