ザコ敵から逃げたらボス部屋に来ちゃった… 作:カナーさん
少女は薄っすらと眉を開けた。ぼやけた視界に映るのは一面の白。
少しだけ、意識がはっきりとした。人工的で、寂しい無機室の白。白い光。その光源を瞳に入れたのか眉を細める。
「…ごほっ……うぅ…」
呼吸に支障が出たのか咳き込み、そして痛みを感じた。
少女は視界にうつった彼の姿を見ると絶望したような表情をしようとしたのだろう。だが顔の筋肉がうまく動かず、ぎこちない表情をしていた。
「…なん…で…」
「安心しろ、君が俺の選択を選んだなら、ちゃんと死なせてやる。なんなら埋葬までしてやる」
流し込んだ血が喉に残って咳き込んだいたのだろう、と思い、やる事に支障はないだろうっと彼は踏んでいた。
「…ほん…と…?」
「本当だ。時間がない、どちらか選んでくれ。
一つ目はこのまま家族に会えず毒で苦しみ悶ながら死ぬこと。君が選んだ道。
二つ目はまだ何処かに監禁されてるかもしれない家族を探し、いないなら本当の家族に会いに行く。その為に生きる。俺が推奨する道だ」
「…!?…むり…よ…このから…だ…じゃ…」
少女は一瞬驚いたように目に見開いたがすぐにもとの表情に戻った。
「それなら安心してくれ、君が現に生きてる事が証明だ。今は楽に死ぬ為にその状態にしているが、俺には君を生かす事ができる。
それとどうせ出てくる質問の答えを先に言っとく。ここは島だが、脱出手段は考えある。これらの事を考慮してくれ」
「やめ…て…そん…な…ゆめを…みさ…せ…ないで…」
少女の心は折れていた。希望的観測をできるほどここはあまくなかった。それに何度も裏切られたのだから、信じられなかった。
「君を生かす手段は確実だよ。だからたぶん、会いに行けるって所を信じてないのか?
…確かに俺は超能力者じゃない。海を歩けないし、空も飛べない。だからといって、ヘリもボートすら操縦したことないしね。
でも問題ないんだ。ここには必ず人間が来る。情報の為にね。それに、俺は情報の塊だ。人間達が俺を逃すはずがない。それを逆に利用する。俺達が海を渡る必要ない。人間達に運んで貰えばいい。
そして一番重要な事だが…家族に会いたくないのか?あの気持ちは偽りだったのか?
今どうなっているのか知りたくないのか?もしかしたら捕まっているかもしれないのに君だけ逃げるのかい?会えるかもしれない可能性を捨てるのかい?」
「………。………………」
彼は焚き付ける。ガソリンを流し込んで火を爆発させるように。確実な事はなにひとつ少女に教えずに。
そもそもの話、何故彼がこんな事をしているのか。それすら少女に話していない。信用が上がるかもしれない事柄なのにも関わらずだ。彼の事だから、話せば不味い理由なのだろう。
「…会い…たい…。…会いた…くない…わけ……ない………よぅ…」
目から涙を流し、弱っているからではない、弱々しい言葉だった。
それが少女の本音だった。会えるなら会いたい。抱き締めてほしい。家族に自分と同じ目にあってほしくない。様々な思いが少女を駆け巡った。
「生きたいならこれを飲め。嫌ならそこらに投げ捨てろ。選択の答えをそれで見る」
キャップの外した小さなペットボトルのような物を少女に渡す。
少女は受け取ろう起き上がろうとするが弱り切った体にはキツそうだった。子鹿のように腕が震え、起き上がることすらままならない。
彼は右手で優しく背中を支えてやり、左手でペットボトルの底を持ってやった。
選択肢を選ぶのは少女がしなければならない事だがその補助くらいはいいかなっと思っての行動だった。
少女は液体の口に流し込んだ。色合いからしてまるでワインを飲んでいるようだった。
久しく一度に大量の液体を喉に流し込んだからか「ゴフッ」と少し噎せた。少しずつでいいからと教え、猫舌の人が飲むようにチョビチョビッと時間はかかったが全てを少女は飲み終えた。
疲れたのか少女はまた眠りに落ちた。それを彼は優しく寝かせ、毛布を被せた。
少女には見えなかったが、その時の彼の口は三日月のような不気味な笑みを浮かべていた。
✝
その頃ふうのは、エレベーターホールで彼を待っていた。あの別れた後、管理室に戻るとケイは居らず代わりに紫色のヤツらの死骸とメッセージが残されていた。
どうやらケイは脱出の情報を地下研究施設製剤研究ブロックに見つけ、ヤツらに襲われため、先に向かったようだった。
ケイの所へ向かう途中でエレベーターを使うので彼を待っていたのだが、遅すぎる。入れ違いになってはいけないと思い、ここにずっといるのだが、一向に来る気配がない。
ケイの事もあるので速く向かいたいのだが、ケイの様に襲われた可能性も捨てきれずモヤモヤとした肌に纏わりつく霧のよう気分だった。
…ふうのはエレベーターに乗った。
自衛手段があり、あまり動けないケイと自衛手段がなく、動ける彼。天秤の結果、信用があるケイに傾いた。何より急いでとあったのも大きかった。
…ここからふうのは過酷な道を歩む事になる。
ケイの裏切りに水槽の大型生物。水槽の生物より巨大な"奴"との死闘。どれも一筋縄ではいかず、ふうのに余裕を奪い、絶望を与えてくる。
外部に助けを呼んでいた事すら"奴"と退治した後に思い出すほど、ふうのは追い詰められていた。
呼吸は整わず、喉が苦しい。肺と喉を空気が通っていく感触が一際大きく感じる。
肌寒いはずなのに体は真夏のように暑い。体のとくに傷を負った部分が熱を持ち、指先などの末端は凍えていた。ひと休みした床がヒンヤリとして気持ちいい。それでも体の熱が冷める気配はなかった。
腕は銃の打ち過ぎで文字から書けないほど、プルプルと電話のように震える。
脳に血液がいかず、碌に思考が纏まらない。視界が滲んでどこにいるわからなくなっていた。船に乗ったように揺れて、平衡感覚すらあやふやだった。
…それも、休憩したからか、安定して…ある事に気付いた。パッとこれが夢だと気付いたように唐突に思い付いた。
思考が戻った脳にはある可能性が示唆されていた。今まで出来なかった、纏める隙がなかった一つの可能性。
もし、ケイと彼が出会ってしまったら…。
ふうのはもうケイを信用していなかった。地下で聞こえた銃声も恐らくケイだろう。ケイは危険が有ったら銃の引き金を躊躇いなく引くだろう。恐らく私でも。
いや、そうでなくてもだ。ケイは彼を私のように利用するかもしれない。
そんな考えがふうのの頭の中を回っていた。そもそも彼の裏切りが発覚した時点で戻るべきだったのだ。
でも何もかもが遅い。ケイと別れてかなりの時間が経ってしまった。いや、ヤツらに襲われてるかもしれない。
深い、自責の念に襲われた。速く行かなくては、と疲れ切ったボロボロの体を引きずって、無理矢理動かし、エレベーターホールに向かう。彼がそこに居ると淡い期待を持って。
✝
羽ばたきが聞こえる。そこは至って普通の大自然が広がっていた。だが今そこにその面影はなかった。
あたり一面灰、灰。まるで火山灰を被ったように、一面を灰が包んでいた。空は禍々しい紫色で地上には生物の気配はなく、代わりに石像のような物が鎮座していた。
その間を何かが高速で横切る。それは犬の様な生物でまるで焦っているように、石像を走り抜けていく。
その犬に羽ばたきが近づく。そして、一閃。
その光が犬を包みこんで光がなくなると、そこにはさっきまで逃げ回っていた犬ような石像が周りを囲む石像と同じようにその列に加わった。
「…なにを…見てるの…?」
「うん?あぁ、おはよう。なにってポケットなモンスターの映画だよ。最新作だったかな。それとデスウイングって名前だけどビームだし、ひこうタイプの技じゃなくてあくタイプの技だよね、見た目的に。ウイングってところがひこう要素なのかな」
「………………」
少女が目を覚ますとスライド式の画面が無駄に良い音質と画質で、部屋を暗くして、ベットの近くに椅子を持って来て映画を見ていた。
少女が知らないモンスターが飛んでいるので最新なのだろう。と当たりを付けた。
「あぁ、起きなくていいよ。まだ体調は万全とはいえないからね。まあ、体の毒はある程度って感じかな」
「……!」
少女は言われて気付いた。体を覆っていた倦怠感などがさっぱりとなくなっていた。
「君を運ぶ時に少しばかり寄り道してね、生かすことは俺が出来たけど、毒をどうにかする方法がなかったからね。ただ声に関してはどうも言えないなぁ。弱っていたからだと思っていたけど…様子見だね」
そして彼は突如、浮かべていた表情を沈め、左耳をおさえた。よく見ると左耳からコードが垂れ下がっており、おさえた手から言語化できない、僅かな音が漏れていた。
「…まいったな、寝てる場合じゃなさそうだ」
歯に食べ物が挟まったような顔をすると、手といっしょにイヤホンを離す。
「…どうやら一機ヘリが来るみたいだね。マニュアルはまだ見ていないからわからないけど、数が少な過ぎるし、どういう事だ?
とにかく、今すぐ移動って事にはならないけど、今日中に移動する事は頭に入れといてくれ」
そう言うと椅子を立ち、タンスまで歩き戸棚を開け、ガサガサと漁り始めた。
「緊急事態用の装備のセット…あった。中身は…よし問題ないな」
彼が荷物と格闘している間少女は部屋を見渡した。
寂しい感じのする白色の壁だが、僅かにある記憶から、一番最初に閉じ込められていた牢を思い出したがあそこよりも無機質というか、何かが足りない印象、違和感を受けた。
その違和感は壁のみに留まらず家具にも及んでいた。虚無感といえばいいのか、とにかく何かが足りていなかった。何故かわからないがここに家具あるのが可笑しいように思えてきたのだ。本来そこにあってはならないような印象をこの部屋は孕んでいた。言葉に表せない不気味が当たりを包んでいた。
茶道具でコーヒーを淹れるような、ポスターを貼るなという注意をポスターを貼って促すような矛盾したなにかを感じさせた。
いや、違う。足りないじゃない、余分なんだ。
全体的だった視点を少し狭めるとわかった。
家具に何かが纏わりつき蠢いていた。蜂のようにびっしりとくっつきギチギチと動く虫の様な
何故かそれが家具のみに及ばず床を壁にこびり付いていた。
虫に対する生理的嫌悪感が体をあの家具のように這いずり回っていたが、別の事に気を取られそれどころではなくやった。
やけに静かだと思い彼が居るであろうタンスに目を向けるといなかった。部屋にあるのは死んだ虫に集る蟻のように蠢く家具のみ。
「……!?」
その事実に気付くと恐怖で言葉が出なかった。急な静寂に不安と恐れが少女を包んでいた。
見えない虫がガサガサとギチギチと蠢き、蠱毒のように少女を部屋に閉じ込めていた。
「…何を怯えているんだ?」
いきなりの事で心臓が飛び上がったが声の方に振り向けば彼がいた。
本や紙束を両手で持ち、胸で支えていた彼が力強く握りしめてシワになった毛布やシーツを尚も握り続けていた少女に、問いかけていた。
目から涙が溢れそうになった。経験したこともない恐怖に開放された気分だった。
少女は寝かされていたベットを這って彼に近付いた。とにかく人肌が人の温もりが欲しかった。
彼に手を伸ばそうとして彼の持っている荷物の一番上の本に、不思議と目がいった。
「……!」
空気が凍りついた。唾を呑み込む音が聞こえてきそうな不気味な静寂に身動きができなかった。
カサカサと動く
左肩にその何かの大群がびっしりと一つの生命体のように這っていた。
「………!!」
いつの間にか着替えた学生服に鳥肌のようにびっしりとこびり付き上へ上と登っていた。
先程イヤホンで、通信を聞いていた耳に大群が、蟻が餌を巣に引きずり込もうとしているかのように、押し寄せていた。
少女の様子に気付いたのか、驚いたように彼は少女に問いかけた。
「…これが見えているのか?」
「!!」
✝
「そうか、見えるだけでなにが蠢いてるかはわからないのか」
「……うん………」
あの後、彼から説明があった。あの悍ましい
先程、彼の姿が見えなかったのもこの蟻のせいらしかった。
「まあ、詳しい話はここを脱出してからね。ヘリポートに待機してないと」
ヘリが到着するまで…残り数時間。
一番やりたかったこと→少女ちゃんを助ける
達成〜!会話が噛み合ってないし無理矢理感半端ない。
ふうの視点がダイジェストなのは彼がいないのに描写してもつまらないので。そんな理由で激闘をカットされるふうのちゃん可哀想。
ヘリ到着までの時間長いですがふうのちゃんに休憩させてやりたかったので。
それと感想ほしい。