万丈「まさかあの先生が一枚噛んでたとはな………って、腕組みながら考えてる風に言うと頭良さそうに見えるって本当か戦兎?」
桐生「そうやって自ら頭の悪さを公開しないの。こっちも恥ずかしいから」
万丈「うるせえな!いいだろ別に!ほら、なんか知らねえ間に士道達大変な目に遭ってるじゃねえか!」
桐生「うわ本当だ!ていうか今ちらっと見たけど今回文章長えな!ま、まあ取り敢えず、第28話をどうぞ!」
「狂三………お前、一体何をしたんだ!何だよ、この結界は………!」
士道は、狂三に問いかけた。狂三はそんな士道の様子が楽しくて仕方ない様子で、さらに笑みを濃くする。
「うふふ、素敵でしょう?これは【
「時間を、吸い上げる…………?」
士道が怪訝そうに聞くと、狂三はくすくす笑いながら歩み寄り、優雅な仕草で髪をかきあげた。髪で常に隠された左目が、露わになる。
「な…………」
そこには、無機質な金色の、時計があった。
その上その時計は、おかしなことにその針をくるくると逆方向に回転していたのだ。
「ふふ、これはわたくしの『時間』ですの。命______寿命と言った方がよろしいですわね」
言いながら、狂三がその場でくるりと回る。
「わたくしの
「な………っ」
狂三のその言葉に、士道は戦慄した。
もしそれが本当だとするのなら、今結界内で倒れている人たちは、狂三に残りの寿命を吸い上げられていることになる。
狂三はそんな士道の顔を見て、何故か少し寂しそうにしながら、しかしすぐに凄絶な笑みを浮かべた。
「精霊と人間の関係性なんて、そんなものですのよ。皆さん、哀れで可愛い私の餌。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
士道を挑発するように続ける。
「ああ_____でも、でも、士道さん。あなただけは別ですわ。あなただけは特別ですわ」
「………俺が?」
「ええ、ええ。あなたは最高ですわ。あなたと一つになるために、わたくしはこんな所まで来たのですもの」
「何だって………?どういうことだ」
士道は眉をひそめた。
「そのままの意味ですわ。あなたは殺したりなんてしませんわ。それでは意味がありませんもの。______わたくしが、直接あなたを
その『食べる』という表現が言葉通りの意味か、それとも比喩表現かは判別がつかなかったが、士道はその言葉に底冷えた何かを感じた。
しかし、そんなことで怯んでいられない。
「俺が目的だっていうなら、俺だけを狙えばいいだろ!なんでこんな______!」
士道が叫ぶと、狂三が愉快そうに言葉を続けてくる。
「うふふ、そろそろ時間を補充しておかねばなりませんでしたし_____それに」
狂三はふっと、鋭い視線で士道を射抜いてきた。
「_____あなたを食べる前に、今朝方の発言を取り消していただかないとなりませんもの」
「何………?」
「ええ。______わたくしを、
「…………っ」
狂三のあまりの視線の冷たさに、士道は息を呑んだ。
『狂三を救う』_______それは士道が、意思表示として狂三に今朝宣言した言葉であった。
「______ねえ、士道さん。そんな理由で、こんなことをするわたくしは恐ろしいでしょう?関係のない方々を巻き込む私が憎いでしょう?救う、だなんて言葉をかける相手でない事は明白でしょう?」
狂三が、役者のように大仰に手振りをする。
「だから、あの言葉を撤回してくださいまし。もう。口にする事はないと。そうすれば、この結界を解いて差し上げても構いませんわよ?元々わたくしの目的は、士道さん一人なのですもの」
「な………」
目を見開く。その条件はあまりにも簡単だった。あまりにも拍子抜けしすぎて、思わず唖然とした。
「きひひ、ひひ。さあ、早く止めなければなりませんわねぇ。急がないと手遅れになってしまう方もいらっしゃるかもしれませんわよォ?それともぉ………変身してでも、止めに来ますかぁ?」
狂三が、挑発するように言う。しかし士道は、確固たる意志を持って言い放った。
「………俺のこの力は、お前たちと戦うためのものじゃない。お前を、精霊を………救う為にあるんだ」
例えどんな事があろうと、捻じ曲げない士道のプライド。
ライダーの力を、精霊と戦うことに使うのは、なによりも士道自身が許さなかった。
「……いい台詞ですわ、感動的ですわねぇ。でも………無意味ですわ。あなたが戦うか、言葉を撤回するかしない限り、この結界は解かれませんわよ?」
「…………っ」
士道は、狂三と目を合わせた。
戦うか、言葉を撤回するか。
間違い無く、後者の方が圧倒的に簡単だろう。たったそれだけで多くの人の命が助かる。何も難しいことはない。
そして、狂三と戦うことは士道の望むところではない。
選択の余地は、無かった。
「……結界を、解いてくれ」
狂三が、まるで安堵したかの様に息を吐く。
「なら、言ってくださいまし。もうわたくしを救うだなんて言わないこと」
士道は深呼吸をしてから、言葉を続けた。
「それは……できない」
「は_________?」
士道が言った瞬間、狂三は今まで見たことがないほど瞼と口を開け、ポカンとした様子を見せた。
「あら?あら?あら?聞こえませんでしたの?それを撤回しない限り、私は結界を解きませんわよ?」
「……それは解いてくれ、今すぐ。………でも、俺は言葉を撤回しない。一度でもそうしたら…………お前はもう、後戻りできなくなる!」
士道は叫び、首を振った。
だって、それを撤回してしまったら、何も変わらない。
伸ばす手も無くなって、狂三も、士道も、もう後戻りできなくなる。
「____わたくしは、それを望みました。聞き分けのない方は、嫌いでしてよ…………ッ!」
狂三はそう叫ぶと、士道と距離を取り、右手をバッと頭上に掲げる。
_____瞬間。
ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ_________
けたたましい音が、街全体に鳴り響いた。
「っ、空間震警報…………ッ!?」
顔を戦慄に染め、呻く。嫌という程聞き慣れたそれは、空間震の発生を知らせるものであった。
まさか狂三は______意図的に空間震を引き起こそうとでもしているのか。
そんな事が出来るだなんて、聞いたことがない。
だが、今この状況が、全てを物語っていた。
「きひ、きひひ、きひひひひひひひひひひッ!さぁさ、どォうしますの?今この場で空間震が起こったら、結界内にいる人々はどうなるでしょうねぇ」
「………!」
言われて、士道は言葉を失った。
今この状態では、避難などできるはずもない。もし空間震が起きた時、どれほどの死者がでるか_______
が、そこで。ふと、士道の頭に一つの疑問が浮かんだ。
何故、狂三はここまでして士道に言葉を撤回させたいのだろうか。
いくら癪に触ったとはいえ、所詮は言葉一つ。狂三の目的が士道なら、言葉に構わずとっとと煮るなり焼くなり、言葉通り食うなりすればいいだけだ。
それなのに、なぜ、そこまで気にするのか。
その疑問が士道の頭を埋め尽くし、士道を自分でも信じられないほど冷静にさせていた。
『……シン』
と、そこで令音からの通信が聞こえる。
『……狂三の精神状態が変化している。まるで君を……恐れているかのような数値だ』
「ぇ………?」
士道はかすかに眉をひそめ_____そして、すぐに納得した。
「ああ_____そう、か」
士道は細く息を吐き、狂三を見直した。
怖くて恐ろしくて仕方ない、精霊。
だけれど______
「_____令音さん、一つ、確認したいんですが」
士道は、小声で令音に話しかけた。
「_________ても、助かりますかね?」
『……?ああ、君の回復能力とハザードレベルなら、余程のことがない限りは大丈夫だと思うが………一体何をするつもりだい?』
「そうですか」
短く通信を終えると、士道はその場から駆け出し、背の高いフェンスへと向かって登り始めた。そしてその頂上に足をかけ、狂三の方へと顔をやる。
「………っ、何のつもりですの?」
「おい狂三!お前、確か俺を食べるのが目的とか言ってたよなぁ!?」
「え、ええ!そうでしてよ!殺したりしたら、意味がありませんもの」
「………そっか!」
その一言で、確信を持った。
「狂三!今すぐ空間震を止めろ!さもないと______」
ビッと、校庭の方を指差す。
「俺は、ここから落ちて死んでやる!」
「は………はぁ…………っ!?」
狂三が、素っ頓狂な声を上げた。
◆
「おいっ、まだ着かねえのかよ!」
「もう少しだっ!」
ビルドとクローズは、来禅高校までの道を、マシンビルダーで駆け抜けていた。法定速度を無視し、最高速で学校まで向かう。
先程から聞こえている空間震警報と言い、狂三の霊波反応といい、どうも嫌な予感がする。
その予感を胸に押し込めながら、ビルドはひたすらバイクを走らせた。
「っ!見えたぞ!」
そこでクローズが身を乗り出し正面を指差す。正面方向には確かに、来禅高校が見えていた。この速度であれば、もう目と鼻の先である。
「よし!しっかり掴まってろよっ!舌噛むぞ!」
「おう______ってぁぁぁぁああぁああッ!?ヒャブッ!?」
そこからさらにスピードを上げる。後ろから悲鳴と変な音が聞こえたが、多分風切り音だろう。バイクの速度が速いから、きっと石でも轢いてしまったのだろう。
と、心の中で強引に結論付け、なんとか学校まで数メートルの距離まで辿り着いた____その時。
「ん?あれ………士道か?」
強化されたマスクアイによって、学校の屋上から身を乗り出している士道の姿があった。校庭の方を指差して、何かを叫んでいるようである。
そして、その向こうには狂三が。
「っ!何をする気だ、あいつ_______っ!!」
士道の性格を知ってしまったが故に、戦兎には士道がきっとまともでない事をやろうとしているのが容易に想像できた。
そして、その悪い予感は的中した。
_______士道はそのまま、身体をフェンスの向こうへと投げ出したのだった。
「ッ、士道ッ!?」
「あの馬鹿_______ッ!!」
困惑した声を上げるクローズをよそに、ビルドはバイクに乗ったまま、校舎の壁へと走らせ、そして壁を走っていった。
そしてさらに、信じられない光景を目にする。
「っ!何……………!?」
士道の身体は、地面に落下しなかった。
______校舎の壁の影から、狂三が上半身を現して士道を抱きとめていたからだ。
◆
「あー……」
狂三によって救出され、乱雑に屋上へと放られた士道は、大きく息を吐いた。
「死ぬかと思った……」
「あっ………たり前ですわ………ッ!」
すると狂三が、興奮した様子で声を荒げてきた。
「信じられませんわ!何を考えていますの!?私がいなかったら、本当に死んでいましたわよ!?」
「あー……その、なんだ。ありがとう」
士道はその場に立ち上がると、狂三に向かって声をあげる。
「狂三。お前、なんで俺を助けてくれたんだ?」
「…………っ、それは_____あなたに死なれると、わたくしの目的が達せなくなるから…………」
「そっか。てことは、やっぱ俺には人質としての価値があるって事だな」
「………っ」
士道は、狂三にビッと指を突きつけた。
「さーて!じゃあ空間震を止めてもらおうか!ついでにこの結界も解除してもらう!さもないと今度は舌を噛み切って死ぬぞ!」
「そ、そんな脅しが______」
「脅しと思うか?」
「ぐっ…………」
狂三は一瞬悔しげな顔を作った後、パチンと指を鳴らした。瞬間、あたりに響いていた耳鳴りのような音と、重い空気が消えていった。
「ま、まあ、構いませんわ。私の狙いはもとより士道さんだけですもの。何も問題ありませんわ。何も問題ありませんわっ!」
狂三が自分に言い聞かせるように言うと、バッと両手を開いて士道の方を向いた。
だが、ここで終わりじゃない。
「じゃあもう一つ_____聞いてもらおうか」
「こ、この期に及んでまだありますの………っ!?」
狂三が困惑したように言う。
「ああ。____一度でいい。狂三。お前に一度だけ、やり直す機会を与えさせてくれないか」
「え………?」
狂三が驚いたように目を見開く。
「まだそれを言いますの?いい加減にしてくださいまし。ありがた迷惑でしてよ。私は殺すのも殺されるのも、大ッ好きですの!あなたにとやかく言われる筋合いはありませんわ!」
士道を拒絶するように狂三が叫んでいる。
しかし間髪入れずに、士道が言葉を続ける。
「狂三、お前さ。誰も殺さず、命を狙われずに生活した事って………あるか?」
「………っ、それは………」
「だったら分かんねえだろ。殺して殺されるだけの生活がいいだなんて。もしかしたら、そんな穏やかな暮らしを、お前も好きになれるかも知れねえじゃねえか………っ!」
「でも、そんなこと_____」
「できるんだよ!俺になら!」
士道が叫ぶと、狂三は気圧されたように息を詰まらせた。
「お前がやってきたことは許されることじゃねえよ。一生かけて償わなきゃならねえ!でもな………ッ!お前がどんなに間違っていようが、狂三!それは俺がお前を救っちゃいけない理由にはならないッ!」
「っ______」
狂三が、数歩後ずさった。
そして、困惑したように言う。
「どうして、ですの…………どうして、私に、そこまで…………」
「俺がそうしたいからだ。______誰かが苦しんでて、手が届く距離にいるのに、手を伸ばさなかったら、きっと死ぬほど後悔する。だから手を伸ばすんだ。それは狂三、お前だって同じだ!」
そう言って、士道は手を伸ばす。
「わ、わたくし……わたくしは…………」
狂三が混乱したように目をぐるぐると泳がせ、声を発する。
「士道さん、わたくしは…………本当に…………っ______」
と_____狂三が何かを言おうとした瞬間。
『______駄目だろぅ?お嬢さん。そぉーんな甘い言葉に惑わされちゃあよぉ〜』
何処からともなく、そんな声が響いた。
「ぎ…………ッ!?」
すると、前方に立っていた狂三が、奇妙な声を喉から漏らした。
「狂三…………?」
士道がそちらに目をやった、その瞬間。
「ぃ、あ、ぁ…………」
狂三が、前方にばたりと倒れた。
「え…………」
「士、道、さん……………」
そして、そのまま狂三の身体が紫色に変色したかと思うと、黒い粒子と化して消滅した。
よくよく目を凝らすと、狂三の背中があった場所には、黄色い針がついた関節が伸びている。
『_____これでいいのかい?お嬢さんよぉ』
「_____ええ、わざわざ手を煩わせてしまい、申し訳ありませんわ」
「な……………」
士道は、戦慄した。身体が、動かなかった。
だって、今しがた消滅した狂三の後ろに立っていたのは。
「あら、あら。如何致しましたの、士道さん?顔色が優れないようですけれど」
_______時崎狂三、その人だったのだから。
「く、るみ………?それに、マッド、クラウン…………は?なんで………」
士道は、新たに現れた狂三と、その隣で立っているクラウンを交互に見やって、混乱に満ちた声を漏らした。
それは、間違いなく狂三であった。顔も、声も、姿形も、今までと同じだ。
ただその表情は_____今までと違う、余裕に満ちた妖しい微笑であった。
「まったく、あの子にも困ったものですわね。_____まだ、
「な、何、が………」
起こって、いるのだろうか。
意味が分からない。思考が、目の前の光景に追いつかない。
「さあ、さあ。もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう」
狂三がそう言うと、士道の足元から手が生え、両足をがっちりとホールドした。
「うわっ…………!?」
「「士道!」」
その時、向こうから声が聞こえ、同時にバイクの走行音が聞こえる。
ビルドとクローズに変身した、戦兎と万丈だ。
「戦兎、万丈……………ッ!!」
「あらあら。お邪魔が入りましたわね。_____クラウンさん、申し訳ありませんが……」
『へぇへぇ。分かりましたよお嬢さん………と、言うわけだ。悪いな、二人とも』
「ッ、マッドクラウン………ッ!」
「やっぱりてめえも一枚噛んでやがったかッ!!」
クラウンが狂三の指示を受け、ビルドとクローズへと迫る。
その間にも、士道の目の前には狂三が迫ってきていた。
「あなたの力……… いただきますわよ、士道さん」
言いながら狂三が、士道に右手を伸ばしてくる。
そして、ひんやりと冷たい手が士道の頬を撫でた瞬間。
「ぎ………っ」
狂三が、そんな声を発した。
天から光線が降ってきたかと思うと、士道に触れていた狂三の右手が落とされ、地面へと落ちたのである。
「_____あら、あら」
痛みに耐えるように眉をひそめながら、狂三は後方へ飛び退く。
そして次の瞬間に、士道と狂三の間にもう一人の人間が立っているのが確認できた。
「真那………!」
「_____あぶねーところでしたね」
手に何か光剣のような武器を持ち、ワイヤリングスーツを装着した真那が、ちらりと士道の方を向いた。そして、その向こうにいる、ビルドとクローズ、そしてクラウンの姿を認識する。
「…………色々言いてえことはありますが、後回しです。取り敢えず、今はこいつを」
そして、真那は懐からベルト____【リバースドライバー】を取り出すと、腰にあてがった。
そして取り出した、【ウルフオルタナティブフルボトル】を振り、ドライバーに装填する。
【WOLF ALTERNATIVE】
「______変身」
【ABSORB CHANGE】
その音声とともに、真那の周囲にフラスコ瓶状の【ボトルリバーストランサー】が展開され、内部成分が
【WOLF IN DEMOLISH】
仮面ライダーデモリッシュへの変身を終えた真那は、その青く鋭い複眼でもって狂三を睨みつけた。手に持った光刃____【デュアルスレイヤー】を持ち直す。
「随分と派手にやってくれやがったようですね、ナイトメア」
「____く、ひひ、ひひ、いつもながら、流石ですわね。わたくしの【
「悪りーですが、そんな霊装は私の前では無意味。大人しく______」
と、真那が言いかけたところで、狂三が大仰に手を挙げ、その場でくるりと旋回した。
そして、ステップを踏むように両足を地面に打ち付ける。
「さあ、さあ、御出でなさい_______【
瞬間_____狂三の背後から、ゆっくりと、巨大な時計が現れた。
狂三の身の丈の倍はあろうかという、巨大な文字盤だ。
「あれは…………っ!」
「なんだよ、あのバカでけえ時計!」
『おっ!とぉーうとうおっぱじめたなぁ?お嬢さん』
遠くで交戦していたビルドとクローズからは驚きの声が、そしてクラウンからは驚嘆したような声が上がった。
「これは…………天使…………っ!?」
「うふふ………」
狂三が笑うと、巨大な時計の文字盤から、短針の役割を担っていた銃が外れ、狂三の手に収まった。
「【
狂三がそう唱えると、時計に刻まれた【Ⅳ】の数字が、じわりと影のようなものを出し、狂三の短銃の銃口へと吸い込まれた。
「な…………」
真那の怪訝そうな声が、士道の耳に届く。マスクの下で真那の顔を窺い知ることはできなかったが、おそらく士道と同じような顔になっていることだろう。
狂三が、左手に持った銃の銃口を、自分の顎に押し当てていたのである。
「一体何を_____」
真那の言葉の途中で、狂三はニヤッと笑って躊躇いなく引き金を引いた。
ドン!と言う音ともに狂三の頭が揺れる。誰がどう見たって自殺にしか見えない、その光景。
しかし、次の瞬間。
「は…………?」
士道は、途方もない阿呆面を自らが晒しているのがわかった。
だが無理もあるまい。何故なら狂三が銃で自らを撃った瞬間、地面に転がっていた狂三の右手が、まるで映像を巻き戻したかのように宙へ浮き上がり、狂三の元へ飛んで行ったのである。
そしてその右手はそのまま狂三の右腕に触れると、まるで何事もなかったかのように綺麗に復元された。
「うふふ、良い子ですわ、
「嘘……だろ……ぐわッ!」
『余所見をする暇があるのかぁ?』
ビルドからも驚きの声が上がるが、クラウンの攻撃に遮られる。士道がビルドとクローズの方を見ると、二人はクラウンと彼が呼び出したと思しきリキッドスマッシュ数体相手に、苦戦している様子だった。
「_____ああ、ああ。真那さん、真那さん。今日ばかりは、勝たせていただきますわ」
言いながら、狂三が右手を高く掲げ、
_____まるで、時間を示すかのように。
「さあ、さあ。始めましょう。破壊と殺戮の
「_____ふん、上等です。またいつものように殺してやりましょう」
真那は言うと、すぐさまドライバーに手をかけ、狂三に向かって走り出した。レバーを操作し、エネルギーを充填する。
「ふ……ッ!」
その勢いのまま、狂三へとボレーキックを繰り出した。
【STAND BY DEMOLISHON FINISH】
_______しかし、その攻撃が当たる事はなかった。
「【
狂三が左手の短銃を掲げ、先ほどと同じように影を集める。そしてその銃口を自分の顎にあて、引き金を引いた。
瞬間。
「ぐ…………ッ!?」
その場から狂三の姿が消え、それと同時に真那が横へと吹き飛ばされた。
「あッはははははははははははははッ!!見・え・ま・せんでしたかしらァ!?」
「っ、この_________!」
真那は攻撃を中止、空中で方向転換すると、虚空を蹴るように狂三の方へと猛進した。
だが狂三の身体がまた霞のように消え去ると、次の瞬間には真那の後方に出てその背に踵を振り下ろす。
「あめー、ですね………ッ!」
しかしその攻撃は、途中で止まった。恐らくは
【STAND BY WOLF BREAK】
そしてすかさずドライバーからボトルを抜き、デュアルスレイヤーに挿す。そして技を放ち、狂三の脇腹を両断するように滑らせた。だが狂三はすんでのところで身をかわすと、給水塔の上に着地した。
「ふふッ!さすがですわっ!もう
「ふん……確かに面白えですが、あいにくと私には相性が悪ーんじゃねーですか?
「ああ、ああ、そうでしたわねぇ。じゃあ______」
再び、狂三が目にも留まらぬスピードで真那に向かっていく。
「【
次の瞬間、文字盤の【Ⅶ】から滲み出した影が歩兵銃へと吸い込まれ、その銃口を即座に真那に向けて放つ。
「ふん、無駄と言っているでしょう………ッ!」
だが_____
「な…………!?」
士道は、呆然と声を発した。
_____真那の身体が、空中に飛び立った状態で完全に静止していたのである。
「真那ッ!!」
呼びかけるが、真那は動かない。反応も示さない。まるで、その場で真那の
「くそっ、何が起きやがった!?」
『おーおー!やる事が派手だねぇ!』
クローズとクラウンから声が発されるが、当然それにも真那は反応を示さない。
「あァ、はァ」
狂三が笑い、真那の身体_____否、アーマーの構造上脆い箇所に何発も銃弾を撃ち込んでいく。
狂三が握っているのは、どれも単発式の古式銃だ。しかし狂三の足元から滲み出た影が、矢継ぎ早に銃口へと弾となって装填されていったのだ。
そして数秒の後、狂三が地面に降り立つ。それと同時に、
「が_____ああぁあっ!?………ぁっ………」
その身に何発もの弾丸を受けた真那が、全身から血を、アーマーから火花を散らして地面に落ちていった。
「きひひひひひひひひひ!あぁらあら、どうかしましたのォ?」
「今の、は……………クソ______」
「真那!」
士道が叫ぶと、真那はそれに構わずに立ち上がった。
「まだ………です______私は、あいつを、殺さなきゃいけねーんです。あいつを、殺さなきゃ_______その為なら______私の命なんて________」
そんな言葉を言うと、真那は手元から何か、
「ッ、真那!何をするつもりだ!」
「兄、様は______離れやがってください………私にも、どうなるか分かりませんから…………」
そう言うと、真那はドライバーに、その黒いボトルを躊躇い無く差し込んだ。
そして、右側部のハンドルレバー、【アブソーブチャージャー】を操作する。
瞬間、真那の肉体に電流が走った。
「ッ!ガァァァァアアァァァアァアアアアアッッッ!!!???」
「ッ!?真那ッ!!」
尋常ならざる叫びとともに、真那の肉体から電流が迸る。
「っ、真那!」
『ッ!フッ、フハハハハハハハハハッ!!』
すると、ビルド達と交戦中だったクラウンが突如として高笑いをはじめ、大仰に手を振りかざす。
『つぃにぃ〜ッ!遂に遂に遂にぃぃぃーーッ!!覚醒したかァッ!!』
その声がこだまするのと、真那のアーマーが砕けたのはほぼ同時だった。
「ッ!なんだよ、それ…………っ!」
そして次の瞬間、士道は戦慄した。
何しろアーマーの下の真那の肉体は、身体のあちこちが金属や機械のようになり、まるでSF映画のアンドロイドがもっと生物的になったような_______強いて言うならば、
「アァッ!アァ、ァガァァァァアアアアッ!!」
さらにその肉体が、どんどんと変化していく。全身から黒と白の煙を噴き出させ、生々しくその肉体が変化していく。
「ッ、テメエッ!アイツに何しやがったァッ!!」
クローズが怒り狂ったようにクラウンへと駆けるが、その進行はリキッドスマッシュによって阻まれる。
「何が、起きていますの………?」
この現象は狂三ですら知らなかったらしい。先ほどまで余裕だった表情が少し崩れ、混乱を隠しきれない様子になっている。
『よぉーく見てなぁッ!遂にご開帳だぁ………ッ!!』
そして、クラウンがそう高らかに放った瞬間。
「アガゥッ…………ぁッ……………」
______真那の肉体が、完全に変化を遂げた。
細身の全身から刃が生えたかのような、鋭利な体躯。
まるで狼をさらに凶暴にしたかのような、鋭い眼光。
腰に巻かれたドライバーをそのままに、そこには、崇宮真那ではない
「な、んだよ…………あれ…………!!」
士道が、震えた声でそう呟く。
その呟きに答えるかのように、クラウンが高らかに言い放った。
『記念すべき第一号だ、崇宮真那_______いぃやっ!!ファングオーバースマッシュゥッ!!!』
物言わぬ、その真那だったものは、ゆらりとその顔を上げた。
どうでしたか?
今回はタイトル回収をしようとしたら自然と文章量が多くなってしまいました。そのためまた誤字とか矛盾とかがあるかもしれませんが、感想欄や誤字報告で伝えてくださると幸いです。
そして真那がスマッシュと化しましたが______安心して下さい!ちゃんと生存しますよ!(読者の不安を消してくれる作者の鏡にしてネタバレを食らわす人間の屑)
そして、次回、クローズが遂に…………?
それでは、『第29話 物言わぬ牙と溢れるチャージ』、をお楽しみに!
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