デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!琴里の霊力を封印するため、士道と琴里のデートに同行する!が、途中現れたマッドクラウン達の妨害を受けてしまう」

万丈「ていうか!俺の出番あれで終わりかよ!もっとあるだろ他に!」

桐生「しょうがないでしょーが。お前真っ先にやられて気絶しちまうんだからさぁ」

万丈「しょーがねーだろ!強かったんだから!」

桐生「もっと根性を見せろ根性を。ほら、いよいよこの第四章もラストだから!第39話、どうぞ!」




第39話 兄妹アイが止まらない

『っ、夜刀神、十香…………!』

 

折紙が襲撃者______十香の正体に気付いた瞬間、忌々しげに唇を歪ませる。マスクの下で視線を研ぎ澄ますと、背に負ったウェポンコンテナを展開させた。あれだけの数を撃っても、まだ弾薬は尽きていないようである。

 

『邪魔を_______』

 

しかし、折紙がそれらを射出するよりも先に、右方から折紙に向けて、光線が放たれた。

 

『く………』

 

上空に飛び立ち、すんでのところで攻撃を避ける。

それと同時に折紙の集中が途切れたのだろう。アライブと戦兎を覆っていた不可視の壁が消え失せた。

そこで気付く。今放たれたそれは光線ではなかった。それが通った地面が、一瞬にしてパリパリと音を立てて凍てついたのである。

 

「これは………」

 

この力には、見覚えがあった。戦兎に至っては、つい先程にその力を使っていた。

 

「大丈夫……ですか、士道さん、戦兎さん、琴里さん………」

 

攻撃のあった方から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。見やると、そこには前見た時よりも幾分小さなウサギの人形と、水着の周囲にぼんやりとした輝きを放つドレスを纏った四糸乃が張り付いていた。

 

「四糸乃!」

 

「はい」

 

戦兎が名を叫ぶと、四糸乃がこくりと頷いた。

 

「その姿………それに、氷結傀儡(ザドキエル)………まさか」

 

「は……い。令音さんから、危ないって連絡を受けて、こっちに来たんですけど………三人を助けなきゃって思ったら、心がざわって………」

 

と、そこで四糸乃が言葉を切り、戦兎の身体を見て戦慄した。

 

「っ、せ、戦兎さん、怪我を………!」

 

「ん、ああ、これくらい、どうって事ないよ。安心しろって。……それよりも、今は______」

 

瞬間、十香と四糸乃目掛けて、幾発ものミサイルが降り注いだ。

 

「ぐ_____!」

 

「きゃ………!」

 

二人が苦悶の声を漏らす。十香は剣で、四糸乃は氷の壁によって砲撃を退けたものの、双方その衝撃を全て殺しきることは叶わなかったらしい。

いかに【鏖殺公(サンダルフォン)】と【氷結傀儡(ザドキエル)】とはいえ、今その力は恐らく全力の十分の一も出せていない状態である。流石に精霊とはいえ分が悪すぎた。

しかし十香は顔を苦しげに歪ませながらも、士道に向かって叫びを発してきた。

 

「シドー!ここは私たちに任せて、早く逃げろ!」

 

「と、十香……四糸乃」

 

「いいから早くするのだ!」

 

「そんなに……長くは、保ちません………っ!」

 

折紙が忌々しげに十香を、四糸乃をマスク越しに睨みつける。

 

『ッ………!邪魔を………するなッ!』

 

「_____ふん、琴里はシドーやセントと同じく、我らの恩人だ。貴様には決して討たせぬぞ」

 

「……です!」

 

十香が折紙を睨み返しながら言い、四糸乃が続くように言う。

折紙は細く息を吐くと、レーザーブレードを握る手に力を込めた。

 

『なら_____消えろッ!』

 

普段の折紙からは想像できない荒々しい口調とともに、ウェポンユニットを展開させようとする。

が、そこに戦兎が、ドライバーを巻いて飛び出してきた。

 

「させるかよッ!」

 

飛び出すや否や、懐から缶状の強化アイテム_____ラビットタンクスパークリングを振り、プルタブを開けてドライバーにセットした。

 

 

RABBIT TANK SPARKLING!!

 

 

ボルテックチャージャーを回し、エネルギーを生成する。スナップライドビルダーが前後に形成され、ベストマッチリキッドを内包した強化アーマーが形成された。

 

 

Are You Ready?

 

 

「変身ッ!」

 

 

シュワっと弾けるッ!ラビットタンクスパークリングッ!!イェイイェーイッ!!

 

 

ラビットタンクスパークリングへと変身した戦兎は、そのままドリルクラッシャー(ガンモード)と、ホークガトリンガーを取り出し、ミサイルを撃ち落とした。落とし損じたミサイルは、十香の斬撃によってその場で爆発した。

 

「セント!身体は、大丈夫なのか!?」

 

「ああ。時間を稼ぐくらいなら、出来る」

 

ビルドが短く答えると、そのまま士道の方を一瞥した。

 

「(早く_____逃げろ)」

 

ビルドのその思いが伝わったのか、士道は一瞬逡巡した後。

 

「く_____すまない………っ!」

 

奥歯を噛み締めながら、琴里を抱えてその場から走り出した。

今士道がやるべき事は、彼らを案じてここに留まることでなく、戦兎達の思いをくんで、琴里をここから遠ざけることだった。

 

『仮面ライダー……ビルド………ッ!』

 

「悪いな。ここを通すわけには、いかないんだ!」

 

そう言うや、戦兎はビルドフォンを操作し、先日入手した【ヘリコプターフルボトル】を挿した。

 

 

BUIlD CHANGE!

 

 

音声と共に、ビルドフォンがビルドの手を離れ変形する。

それは一瞬バイクの形を象ったが、やがて前後輪のタイヤが変形し、まるでホバークラフトのような形状の、奇妙なマシンへと変わった。

これこそがビルドフォンに搭載された新形態、【フライトモード】である。

 

対AST戦を想定し、ホークガトリング以外での空中戦を可能とするために開発したものだ。

 

「よっし、行くぞ!」

 

早速乗り込み、ハンドルを回す。

するとタイヤ部分が回転、宙に浮き上がり、折紙と巨大ユニットへと向かっていった。

 

『何………ッ!』

 

「どうよ!俺の、発明品ッ!」

 

そんな口を叩きながらも、ビルドと折紙は、交戦を開始した。

 

片や、復讐を遂げる為に。

 

片や、大事なものを守る為に。

 

 

 

「し、ど………う………」

 

顔を青くしながら、琴里が士道の名を呼ぶ。

 

「大丈夫だ______すぐに、なんとかしてやる………ッ!」

 

走りながら、既に変身を解除した士道が言うと、琴里は少しだけ安心したように小さく頷いた。

後ろから爆発音が聞こえてくる。ビルドと十香と四糸乃は善戦しているが______いくら三対一とはいえ、ビルドは手負いの状態で、十香と四糸乃も霊力が完全に戻ったわけではない。あの巨大な兵装とライダーシステムによって強化された折紙を相手取るのは、流石に分が悪い。それこそ、最悪殺されることだってあり得た。

 

そして、琴里にももはや猶予が無い。このままでは琴里の意識は破壊衝動に呑み込まれ、また暴れてしまうだろう。

 

 

_____そう。士道は、ただ逃げるだけでは駄目なのだ。

 

 

琴里に、折紙に、戦兎に、十香に、四糸乃。全員無事でなければ、意味が無い。

そしてその為の伸ばす腕を_____士道は確かに、持っていた。

 

「よし……………!」

 

士道は誰もいなくなったアトラクションの陰に身を隠し、抱きかかえていた琴里を地面に下ろす。それだけの動作で、琴里は辛そうに身を捩った。

 

「大丈夫か、琴里!」

 

「っ、ええ………なんとか、ね」

 

琴里はアトラクションに背を預けるようにして、力無く言った。

やはりもう時間は無い。士道は口を開いた。

琴里の肩に手を置き、吐息がかかるくらいの距離でジッと目を見据える。

 

「琴里」

 

「は………っ、はい」

 

琴里が強張った面持ちで返事を返してくる。

 

士道に残された、琴里を救う為の唯一の方法。それを_____今から、実行に移すのである。

 

「くぁ………ッ!?」

 

「ぐっ…………」

 

と、背後から十香とビルドの苦悶が聞こえると同時、折紙のユニットの駆動音が一層大きく聞こえてきた。

 

『見つけ、た………ッ!』

 

そのまま凄まじいスピードで、折紙がこちらに迫ってくる。

 

「く_______!」

 

士道は息を詰まらせ、琴里に顔を近づける。

そして口づけをする_____その前に、口を開いた。

 

「琴里!」

 

急に大声を出したものだから、琴里がびっくりしたように目を丸くする。

だが士道は構わず続けた。あまりにも稚拙な、しかし心からの、確かな思いを。

 

 

「琴里、琴里。お前は俺の可愛い妹だ。この世で一番最っ高の、自慢の妹だ!もうどうしようもないくらい…………大好きだ!愛してる!」

 

 

「ふ………ッ、ふぇーーーッ!?」

 

琴里が顔を真っ赤に染める。士道は同じような顔をしながら、言葉を続けた。

 

「琴里………ッ!お前は、俺のこと好きか!?」

 

「そ、そんな、急に言われても_____!」

 

と、その瞬間、後方から鉄の礫が飛んできて、士道たちの隠れているアトラクションに着弾し、火花を散らした。

 

「琴里!」

 

「あ、ああっ………もうッ!」

 

琴里が混乱したようにぐるぐると視線を巡らせ、叫ぶように言ってくる。

 

 

「好き!私も大好きよ!おにーちゃん大好き!世界で一番愛してる!」

 

 

「…………!」

 

それを聞き届け______士道は、意を決して琴里の唇に、自分の唇を触れさせた。

何年も共に過ごした妹とキスをすると言う、背徳感にも似た感覚が肺腑を満たし、得も言われぬ恍惚となって抜き出ていく。

 

そして士道は唇を介して、自分に暖かいものが流れるのを感じた。

 

十香の時にも経験した、精霊の力が自分の中に封印される感覚。

 

が、それと同時に_____

 

「……………?」

 

頭の中に、ぼんやりとした記憶が流れ込んできて、士道は小さく眉を動かした。

 

 

 

 

眼前には______炎が、広がっていた。

 

(あ、あ、あ………)

 

琴里の大好きな家が、公園が、街が、燃えていく。

 

それが、自分の手によるものであることは明らかだった。琴里の身体に巻きついた帯が、視界にあるもの全てを燃やし尽くしているのである。

 

(や、めて………やめて………っ!)

 

懇願しても、焔の勢いは衰えず、それどころか琴里の意思を無視するようにその体積をどんどんと増やしていく。琴里は顔を歪め、目から大粒の涙を零した。

 

(お……にーちゃん………!おにーちゃん………ッ!)

 

(琴里!)

 

と。

そんな琴里の鼓膜を、聞き慣れた声が震わせた。

 

琴里が今、一番聞きたかった声。_____大好きな、おにーちゃんの声。

 

顔を向けると、そこには士道の姿があった。手にした荷物をその場に放り、琴里の名を叫びながらこちらに走ってくる。

 

(ぅ、ぁ、ぁ、お、おにぃちゃん………っ、おにーちゃん、おにーちゃん………ッ!)

 

涙でぐしゃぐしゃの顔を両手で拭いながら、士道の名を呼び返す。

 

だが、そんな二人を遮るように、謎の影がその瞬間、現れた。

 

 

おぉっと、感動の再会に水差すようで悪いが、ちいと良いか?

 

 

(なっ、なんだよ、お前っ!)

 

士道の前に現れたそれは、突然士道の身体へと纏わりつき、士道を縛りつけるようにした。

 

(は、離せ、よ!俺は琴里のとこに行かなきゃいけないんだッ!)

 

士道が必死に叫ぶも、影は離れようとしない。

 

(おにーちゃんっ?おにーちゃんっ!)

 

琴里が士道の名を呼んだ、その時。

琴里の身体に纏わりついていた焔が、急に大きく膨れ上がった。

 

(………っ!)

 

琴里は身を固くした。

これは______駄目だ。このままでは______

 

(おにーぢゃん!避けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!)

 

(えっ?)

 

おおっと

 

士道が、呆然と声を発する。

しかしその時にはもう、士道の身体の影は消え、琴里と焔によって吹き飛ばされていた。

 

(おにーちゃん………っ!)

 

琴里は痛む足をどうにか動かし、士道の元へと駆け寄った。

 

倒れた士道の有様は、酷いものだった。全身が灼け爛れ、肩から腹にかけて肉を抉られたような大きな傷跡が這っている。どう見ても、助かるような状態には思えない。

 

(おにーちゃん………おにーちゃん!おにーちゃん………ッ!)

 

何度も呼びかけるが、返事は無い。やがて、士道はうっすらと開けていた瞼を閉じ_____

 

 

______ねえ、彼を助けたい?

 

 

その瞬間。

 

さっき聞いたことのある声が、琴里の頭上から聞こえてきた。

 

(…………ッ!?)

 

弾かれるように顔を上げると、そこには『何か』が______琴里にこの力を与えた、『何か』が立っていた。

 

(あなた、は______)

 

琴里はわなわなと身体を震わせながら、『何か』を見上げた。

 

(わ、私の身体に………何をしたの!?私、要らないっ、こんな力………要らないっ!)

 

琴里が言うと、『何か』は静かに返した。

 

【そう。でもそれじゃあ、彼はこのまま死んでしまうけれど、それでもいい?】

 

(…………っ!)

 

ひっ、と喉を痙攣させるように息を途切れさせ、琴里は士道の方へと視線を戻した。

 

(おにーちゃんを、助ける方法が………あるの?)

 

【ええ】

 

そして『何か』は、その『方法』とやらを、静かに語り始めた。こんな状況で言うには、あまりにも馬鹿馬鹿しい方法。だけど琴里には、他に選択肢など無かった。

この『何か』が信用に値しないことは承知している。けどこのままでは士道が死んでしまうのも、また事実であった。

琴里は小さく深呼吸をすると、『何か』の言った『方法』を実行した。

 

ゆっくりと士道に顔を近づけ____その唇に、自分の唇を押し当てる。すると、

 

(___________!)

 

琴里の身体に纏わりついていた白い和装が一瞬淡く輝き、徐々に士道の手元へと集まっていく。

 

そしてその粒子は、一本の黒ずんだ、ボトルのような物を生み出した。

 

そしてそれと同時に、士道の身体に炎が這っていく。

だがそれは、士道の身体を灼くものではなかった。

 

炎が這った跡から、凄惨な傷跡が消えていったのである。

 

(お……にーちゃ………)

 

そして、程なくして。

 

(あ______、………)

 

士道が、ゆっくりと目を開けた。

 

(お、にーちゃん……おにーちゃん、おにーちゃん………っ!)

 

琴里は自分が半裸になっているのにも構わず、士道に抱きついた。

 

(……琴里。まだ、泣いて、るのか………)

 

(だって……だっで………)

 

言いながら、琴里はずずっと鼻を啜った。

すると士道は困ったように苦笑して、ゆっくりと身を起こした。程なくして、手に握ったボトルのようなものを見て怪訝そうな顔になる。

 

(なんだこりゃ。_____って、ああ、そうだ)

 

士道はボトルを無造作にポケットに突っ込んで、先ほどまで自分のいた位置まで這っていった。

そして琴里に駆け寄る前に放った鞄を拾うと、再び琴里のもとに戻ってくる。

 

士道は鞄を開け、中から綺麗にラッピングされた小さい紙袋を取り出した。

 

(お誕生日、おめでとう……琴里)

 

(え_____)

 

琴里は目を丸くしてぽかんと口を開けた。今の今までそんなことすっかり忘れていたし_____泣き虫で注意されてばかりの琴里の誕生日なんて、士道は気にしてないと思っていたから。

 

士道はそんな琴里のアクションに苦笑しながら、それを手渡してくる。

 

琴里はキョトンと、士道の顔と紙袋を交互に見てから、それを開け_____中から、琴里の趣味よりも少しだけ大人びた、黒のリボンを取り出した。

 

(リボン______)

 

士道はああ、と頷くと、そのリボンを手に取り、琴里の髪を二つに括った。

慣れない作業の上に、今しがた死の際を彷徨っていた状況である。琴里のあたまはなんとも不格好な様相になってしまう。

 

だけど琴里は、そこで初めて、弱々しくではあるが、唇を笑みの形にした。

 

それを見て、士道も微笑む。

 

(ん……やっぱ俺、笑ってる琴里の方が好きだぞ)

 

(ほんとう………?)

 

(ああ。____だから、兄ちゃんと約束できるか?最初は………それを着けてる間だけでいい。それを着けてるときは、琴里は………()()()だ)

 

(強い………子)

 

琴里は、二つに結われた髪を撫でながら呟いた。そして、手で目をごしごしと擦り、鼻を真っ赤にしながら、先ほどよりも強い笑顔を作って見せた。

 

(………うん、分かった。おにーちゃんが、言ってくれるなら、私は、強い子になる)

 

あの『何か』がくれた力でさえ、琴里は強くなれなかった。

 

でも_____士道がくれたこのリボンでなら、少しだけ、強くなれる気がした。

 

すると、そこで。

 

【_____治ったんだね。何よりよ】

 

『何か』が、三たび琴里の目の前に現れた。

 

(な…………)

 

士道が琴里を自分の身体の陰に隠す。そんな様子を見て、『何か』は小さく笑った。

 

【安心していいよ。私は君たちに危害を加えるつもりはない。_____まあ、余計な事をしてくれた誰かさんには、その限りではないけどね】

 

(何を………言って)

 

しかし『何か』は琴里の問いに答えずに、ゆらり、と二人の頭に手を伸ばしてきた。

 

(………っ!)

 

本能的な恐怖を感じ、今すぐここから逃げ出そうと士道の身体を引っ張るも______まるで射竦められたように、その場から動くことができなかった。

 

ゆっくりと、『何か』の手が近づいてくる。

 

【_____でも、君たちはまだ、私のことを知らなくていい。少し、忘れていてもらうよ。それから______これを】

 

そして、『何か』の右手が琴里の額に触れ、左手が何かを持ったまま士道に触れた瞬間。

 

______世界が、暗転した。

 

 

 

 

「今の____は」

 

額に手を当てながら、士道は顔を歪めた。

琴里とキスをした瞬間、精霊の力と共に流れてきた、記憶。

 

士道ではなく、琴里の目から見た、五年前の記憶。それが、経路(パス)を通って士道と共有されたのである。

 

「思い………出した。あの時………私は______あの、『何か』に______」

 

琴里もまた、呆然と声を発する。その瞬間、琴里の身体を包んでいた羽衣や帯が光の粒子となって士道の掌に集まり_____一本の、真紅のボトルを生み出した。

 

前に見た、灰色のボトルと、描かれた柄は同じ。でも、そこに込められた力が、炎が、明らかに違っていた。

 

そのボトルが生成されたと同時に、琴里の白い肌が露わとなり、気を失ってしまう。

 

「_______」

 

その光景に、やはり一瞬、言葉を失ってしまう。

 

霊装が搔き消える際の光に包まれた琴里の裸身は、ぞっとするほどに美しかった。

 

が、そんな思考はすぐに放逐されることになった。

 

「士道、避けろッ!!」

 

「…………ッ!」

 

ビルドの叫び声と共に、小型のミサイルが迫っていたのである。

ビルドが撃ち落そうとするが、間に合わない。士道は琴里の身体を抱くと、その場から飛び退いた。

 

「………………ッ!」

 

瞬間、琴里がいた場所にミサイルが着弾し、凄まじい爆風が士道を襲った。

 

「士道ッ!」

 

灼けるような痛みが背に広がり、そのまま倒れ込んでしまう。琴里はどうにか無事だったようだが、士道の背中は直視するにも躊躇われるほどの惨状になっていた。

 

「ぁ_______」

 

『………!士道………!』

 

士道の名を呼ぶ声は、折紙のものだった。すぐさま折紙が士道の傍に降り立ってくる。

 

『何故_____、く、医療用ではないけれど、なんとか処置を………』

 

言いかけて、折紙は目を見開いた。

それもそうだろう。何しろ士道の身体に焔が這い、その傷を治癒させていったのだから。

 

「っ、ぁ…………」

 

士道は背に手をやり、そこに肌がある事を確認すると、ゆっくりと身を起こした。

そして、顔を驚愕に染める折紙に視線をやる。

 

『な………今のは_____』

 

「_____そう。折紙。お前はさっき、言ったよな。自分の仇は炎の精霊【イフリート】であって、人間の五河琴里じゃないって」

 

言いながら、その場に立ち上がる。

 

「もう、琴里を殺したって意味がない。琴里は………俺の妹は、人間だ………!お前が殺したいのは、【イフリート】なんだろう?なら____俺とこれを狙え!今は俺とこいつが、【イフリート】だ!」

 

士道が叫びながら、手にした真紅のボトルを突き出す。

 

『な、に………が、一体、これは………』

 

折紙は、狼狽も露わに喉を震わせる。

だがそれも仕方のない事だった。いきなり精霊の力が、士道に移ったというのだから。

 

「でも_____」

 

と、士道は言葉を続けた。つい今し方思い出した記憶。そこにあった真実を。

 

「その前に、俺の話を聞いてくれ。____やっと思い出したんだ。五年前のことを。あの時俺が何をしていたか。あの時、琴里が何をしていたか………!」

 

『………っ、五年前、【イフリート】は______私の両親を_____』

 

士道は、静かに首を振った。

 

「琴里が、精霊の力を得てからそれが封印されるまでの間、あたりには俺ともう二人しかいなかった!確かに火事が起こったのは【イフリート】の力が原因だ。でも、街に炎が撒かれたのは、琴里の意思じゃない…………!まして琴里は、自分の手で人を殺すことなんて、してなかったんだよ………!」

 

『なに………を、言っている、の…………』

 

士道が言うと、折紙は呆然と声を発した。

 

『そんなはず………ない!あれは間違いなく精霊の姿だった______!』

 

「そう………きっと見たんだろう。だけど、それは本当に琴里だったのか………?」

 

士道が言うと、折紙は怪訝そうに言った。

 

『………っ、ならあれは、なんだったというの?あの日、私の両親を殺したのは_____』

 

「居たんだよ………!あの場には!琴里をこんな目に遭わせた精霊が………ッ!」

 

『な…………』

 

そう____士道の記憶の中には、士道の近くにいたあの影ともう一人_____人ならざる者の姿があったのである。

折紙にその精霊の事を説明すると、折紙は一層怪訝そうにした。

 

『そんな言葉を………信じろというの?』

 

「………ああ」

 

士道は頷いた。もう、士道から言える情報は無い。あとはそれを_____折紙に信じてもらう他なかった。

 

しかし折紙は、下げかけていたレーザーブレードを再びまっすぐに突きつけ、マスクの複眼を鋭く光らせた。

 

『……本当は信じたい。でも、信じられるはずが____ない。そんな精霊の存在なんて。あなたが【イフリート】を、五河琴里を守るために嘘をついているとしか思えない………!』

 

だが士道とて、ここで引くわけにいかなかった。再びその場に膝をつき、頭を下げる。

 

「_____頼む。信じてくれ。もうどうしても信じられないなら、その時は【イフリート】を_____この俺を討ってくれ。琴里は関係無い。あいつはもう、ただの人間なんだ…………!」

 

『そんな………こと_____』

 

「折紙。お前、俺に言ってくれたよな。____もう、自分と同じ思いをする人は作らせないって。そのために、ASTに入ったって」

 

『………っ、それ、は…………』

 

顔を上げ、折紙を見つめる。

 

『ッ!ぅ、ぐぅ………っ!?』

 

その瞬間_____折紙が胸元に手を当て、顔を苦悶に歪めたかと思うと、光の刃や身に纏っていたアーマー、マスクにノイズが走り、背負っていたウェポンコンテナや砲門が、重さを取り戻したように地面に落ち、折紙の変身が解除された。

 

「く………活動、限界?そんな、こんなところで____」

 

「折紙_____お願いだ………!俺から、琴里を奪わないでくれ。あいつは、俺を救ってくれた。俺の明日を、救ってくれた!頼む………!生涯最後でも構わない!俺を____信じてくれ…………ッ!」

 

「……………」

 

数瞬の間、折紙は逡巡のようなものを見せ_____力無く、その場に倒れこんだ。

 

 

 

 

あれからすぐ、琴里はフラクシナスに収容された。どうやら、異常は無かったらしい。

先に収容されていた万丈も、既に意識は回復しており、いつも通りの馬鹿っぽい顔(戦兎の談)でいたらしい。戦兎も治療用顕現装置(リアライザ)による治療で、すぐに回復した。ちなみにその横では四糸乃が健気にずっと看病していたが、令音が先に家に帰した。

 

折紙については______令音によると、ASTを退役させられ、二度と顕現装置(リアライザ)に触れられないかもしれない、という事だった。

 

とはいえ、それは仕方ないことだった。理由があったとはいえ、最高機密を衆目に晒し、市民を危険に晒したのである。到底許される行為ではないだろう。

 

まあ、今ここでそれを考えても詮無い事である。それよりも戦兎が気になったのは_____

 

「(………あのドライバー……)」

 

折紙が、リバースドライバーを所持している事だった。

真那も持っていたことから可能性としては有り得たが、それでも考えずにはいられなかった。その上、あの時解析で出たデメリットが、あまりあの時の折紙には見受けられなかったのだ。

今後の検査などで異常が無いことを祈る_____そう思い、戦兎は一度思考をやめた。

 

「じゃあ……俺たちはそろそろ帰ります。十香と四糸乃も万丈も腹空かしてるだろうし」

 

「だな。調べることも増えたし」

 

言って、人差し指で床____要は、その先にあるであろう五河家を指す。

あの時助けてくれた十香と四糸乃は、フラクシナスで簡単な検査を受け、今は五河家で待機しているのである。万丈も同様だ。

琴里の無事も確認できたし、そろそろ夕飯時だ。一度戻る方がいいだろう。

 

「……ん。そうだね。彼女らも心配をしているだろうし、安心させてやりたまえ。特に四糸乃は、セイの事をずっと心配してたよ?」

 

「あはは………そうですね」

 

「じゃあ、琴里のこと、頼みます」

 

「……ああ、任せておいてくれ。____と、そうだ、セイ、シン」

 

と、士道達が出ようとしたところで、令音が声をかけてきた。そのまま、深々と頭を下げてくる。

 

「……すまなかった」

 

「え……?」

 

「ど、どうしたんすか、急に」

 

あまりに急すぎて、士道も戦兎も困惑した声を上げた。

 

「……今回の件に関しては、完全に私の判断ミスだ。要らぬ気を回して、結果的に君たちを危険に晒してしまった。……本当にすまない」

 

「や、そんな………」

 

「そうですよ。判断ミスって………あ」

 

そこで戦兎が、一つの可能性に思い当たった。

 

「もしかして、十香と四糸乃達をデートに同行させたやつですか?まあでも、あれで結果的に俺も士道も助けられましたし………」

 

戦兎が苦笑しながら言うと、令音はふっと首を横に振った。

 

「……確かにそれもある。____が、私が致命的に読み違えたのは、もっと前のことだ」

 

「え?」

 

「もっと前?」

 

予想外の言葉に、目を丸くする。令音がコンソールを操作しながら続けた。

 

「……本来であれば、そもそも今日のデート自体するべきでなかったんだ。一昨日_____シンが目覚めた時点でキスをしてしまった方が、安全に琴里の力を封印できた。………ただ、琴里があまりにも今日のデートを楽しみにしていたものだから、言い出すことができなかったんだ。………本当に、すまない」

 

「は……?い、いや、そんなの無理でしょ?まずは好感度を上げないと_____」

 

「ん?」

 

士道が困惑したように言い、戦兎が首を傾げ、思案顔になる。

 

とそこでモニタに、奇妙な画面が映し出される。見覚えのある画面ではある。精霊の好感度の推移を時間ごとに表した折れ線グラフだ。

 

だがそこには、今好感度を示す線が描かれていなかった。

 

否、正確には、線は、描かれている。

 

 

______画面の一番上に沿うように、真っ直ぐに。

 

 

「これは………」

 

「……琴里の、シンに対する好感度の推移さ。この二日間。その間、好感度数値は全く変化していてなかったんだ。()()()()()()()()()()で………一度もね」

 

「………なるほど、そういうことか」

 

令音の言葉に、戦兎が得心したようにニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「そ、それって………つまり」

 

「ほら、あん時大声で言ってたじゃん」

 

士道の言葉に、戦兎が愉しげに笑いながら言う。

 

「琴里は、おにーちゃんが大好きだって」

 

「え………」

 

士道が、ポカンと口を開けて目を見開______

 

 

「う………ッ、うがあああああああああああああああッ!」

 

 

「グフッ!?」

 

こうとしたところで、戦兎が背後から琴里に蹴りを入れられ、艦橋の床に思いっきり頭をぶつける。

 

「せ、戦兎!?大丈夫か!?」

 

「最………悪だ…………」

 

 

そう言い切ると、戦兎は気絶した様子で目を閉じた。

 

 




どうでしたか?

やっと中間考査が終わり、琴里編最後の話も投稿できました。最後雑でしたが、すいません許してください。考査終わりで疲れたんです。(見苦しい言い訳)
最近ビルド要素が薄れてきた感じがするので、次章ではもっとビルド要素を増やしたいと思います!

とここで、アンケート結果発表です!

まあ、皆さん知っての通り_______万丈が、士道に倍以上の大差をつけて圧勝したので、耶倶矢は万丈のヒロインとなります!この章で理由付けもできましたし。
まああれに関してはこちらの出題の仕方が悪かった気もしますが。そこは少し反省です。まあ、原作通りばっかってのも面白くないですからね。これ書くとき一番つまらないのって原作の文をなぞる時だから。

そして次章、遂に、あのキャラが登場します………!

と言うわけで、『第五章 八舞ベストマッチ』『第40話 嵐を呼ぶトラベル』、をお楽しみに!

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