デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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一海「仮面ライダーグリスことこの俺、猿渡一海(二十九歳)は、推しであるみーたんに看取って貰った後、何故か海に転がって気絶していた。気が付けば知らない旅館で目覚め、何故か身体が縮んだ戦兎と龍我と再会する。なんか色々と大変そうだが、それより俺には大事なことがある。それは………」

桐生「おいおいおい!何主役の俺を差し置いて勝手にあらすじ紹介してんだよ!」

一海「あ?そりゃお前、折角のこの俺、かずみん復活回だぞ?俺があらすじ紹介すんのは当然だろうがよ。と!言うわけで、【デート・ア・ビルド】・完!今回から俺が主役の新作、【ドルヲタ、推しと付き合うってよ。2nd Season】が______」

桐生「始まんないから!それ前も言ってただろ………まだまだこの俺ビルドが主役の第44話をどうぞ!」

一海「あ!仮面ライダーグリスと同時上映の【劇場版 ドルヲタ、推しと付き合うってよ】!絶対見てくれよな!」

桐生「最後に露骨な宣伝挟むんじゃないの」


第44話 気まぐれなベルセルク

「一海!」

 

「かずみん!」

 

一海の様子に、戦兎と万丈が駆け寄る。すると一海が身体を乗り出し、二人の肩を掴んできた。

 

「ここはどこだ?エボルトは!?パンドラタワーは、スカイウォールはどうなった!?みーたんは!?ここは新世界かってのわっ!?」

 

まだ治りきっていない身体で無理やり身体を乗り出したからだろう。寝ていたのは布団なのに、転んだ様にその場に倒れこんだ。

 

「………落ち着け。今から俺らの知ってる限りの事を説明するから」

 

戦兎が一海の肩に手を置き、位置を戻して、これまでの一連の出来事についての説明を始めた。

 

 

エボルトとの戦いを制した事。

 

目覚めたこの世界が、新世界ではないかもしれないという事。

 

この世界に、未知のライダーシステム、敵の存在があるかもしれないという事。

 

 

など、戦兎達に説明できることは可能な限り話した。ラタトスクと精霊の件については、上手くぼかして話した。

一海はその説明を聞くと、しばし押し黙り______

 

「………そっか。勝ったんだな、お前ら」

 

一言、そう紡いだ。

 

「ああ。_______けどな」

 

「?」

 

戦兎はそう言うと、ほんの少し体を上げた。そして_______

 

 

「この______馬鹿野郎がッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

 

思い切り、一海の顔をぶん殴った。当然、一海の身体は後方へと下がる。

 

「痛ってぇ………おい!何すんだ______」

 

一海が頰をさすりながら、抗議の声を上げようとするも、それよりも前に、戦兎が一海の胸倉を掴んで、顔を近づけた。

 

「お、おい!戦兎!?」

 

「何、すんだよ…………」

 

万丈が困惑したような声をあげ、一海が困惑の声をあげる。

そして戦兎はそのまま、絞り出すように声を上げた。

 

 

「何で……………何であの時、ブリザードに変身したッ!?あの時のお前が変身したらどうなるか、あれ程警告しただろうがッ!!」

 

 

「ッ………………!」

 

戦兎が怒りに震えた、しかし、確かな後悔の念を込めた声に、一海は押し黙った。

 

 

_______かつて、地球の存亡をかけた、パンドラタワーでの闘い。

 

 

その戦いで一海は、かつて自らを『カシラ』と慕った、三人の仲間達と____正確にはエボルトが作り出した偽物だが_______戦うことになった。

 

 

赤羽(あかば)大山勝(おおやままさる)

 

青羽(あおば)相河修也(あいかわしゅうや)

 

黄羽(きば)三原聖吉(みはらしょうきち)

 

 

三人の擬態ロストスマッシュとの戦いにおいて、一海は、グリスは彼らの卑劣な戦法により、追い詰められてしまった。

そこで彼が取り出したのは、かつて戦兎の父である、葛城忍が使用していたビルドドライバー、そして______グリスブリザードナックル だった。

 

元々戦兎が一海の使用を想定して作ったそれは、専用の『ノースブリザードフルボトル』をセットし、ビルドドライバーに挿す事で変身ができるアイテムだった。

だがその変身は、二度もネビュラガスを注入された一海にとって危険すぎるものだった。だからこそ、戦兎はナックルをあくまでも武器として使うよう、忠告していたのだ。

 

だが________

 

 

 

Are You Ready?

 

 

『出来てるよ……………!』

 

 

 

 

その忠告を破り、一海はグリスブリザードへと変身を遂げた。

その結果として一海は_______戦兎達の元へ辿り着くことなく、その命を、散らせてしまったのだ。

 

「あの時………俺たちが、どんな思いで…………ッ!」

 

「戦兎……………」

 

震える手で胸ぐらを掴みながら、戦兎が少し顔を伏せて言葉を吐き出す。

一海は気まずげに視線を逸らしながら、呟いた。

 

「………すまねえ。約束、破っちまって。……ああでもしなきゃ…………」

 

「…………」

 

一海が拳を握り締めながら言い紡いだその言葉に、戦兎は掴んでいた手の力を緩めた。

 

「………もういい。………生きていてくれたなら、十分だ」

 

「戦兎…………」

 

それは戦兎の、紛れも無い本心だった。

正直なところ、不安だったのだ。もし新世界が創造できていたとして、一海達は生き返っていないのではないかと。もう二度と、会う事もないのかもしれないと。

 

だがこうして、違う世界ではあれども、再会できた。

 

それだけで、今は十分だった。

 

「………そうだな。ったく、今度はもう勝手にいなくなんじゃねえ。バカずみんが」

 

「龍我………お前ら………」

 

万丈の続けた言葉に、一海が一瞬呆けた様子になり、そして、くしゃっと笑った。

 

すると次の瞬間、一海が何かに気づいたように、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「………つーかお前ら、なんでそんな縮んでんだ?」

 

その言葉は、戦兎と万丈の身体を指したものだった。どういうわけかかつて大人のそれであった二人の体は、一般的な高校生と変わらない体格となっている。

だが、しかし_____

 

「いや、逆になんでお前は縮んでねえんだよ」

 

「逆になんで縮んでんだよお前ら」

 

「あ?」

 

「お?」

 

「ハイハイ、落ち着きなさいって」

 

戦兎が二人を宥める。

 

そう。この世界で目覚めた際、戦兎と万丈の身体が縮んだのに対して、一海は元の世界と同じ_____二十九歳の身体と全く同じ肉体だったのだ。

いや、本来であれば一海の状態が正しいのだろうが、二人揃って若返った為、どうも一海の方がおかしいと感じてしまうのだ。戦兎も細かい事情は分からないと説明し、今は高校生として過ごしていることを告げた。

 

「成る程。………にしても、戦兎はともかく、こいつが高校生かよ」

 

一海が万丈へと視線をやり、馬鹿にしたような目を向ける。

 

「あぁ?なんか文句あるのかよ」

 

「いやだってお前、馬鹿だろ」

 

「馬鹿ってなんだよ!」

 

「馬鹿以外の何者でもねえだろ」

 

「ふざけんな!俺だって足し算と引き算くらい分かりますぅー!」

 

「そんなの分かる分からない以前の問題だろこのエビフライヘッド」

 

「エビフライの何処が悪いんだよ!」

 

「いや悪かねえけどお前そろそろタルタルすっぞこの野郎」

 

「タルタルするってなんだよ!」

 

「ソースぶっかけるって意味だよ」

 

と、何処かで見覚えのあるやり取りをする万丈と一海を制止するように。

 

 

「……ああ。もう目覚めたか」

 

 

聞き覚えのある気怠げな声が、扉の前から聞こえてきた。

 

「令音さん」

 

「あん?おい戦兎、誰だこの人」

 

「……来禅高校教師、及び空中艦【フラクシナス】の解析官、村雨令音だ」

 

「っ、令音さん、それは………」

 

令音が語った肩書きに、思わず声を出してしまう。フラクシナス_____即ち、ラタトスクに関する情報は無闇矢鱈と話すべきでない事は、戦兎は勿論、令音が誰よりも理解している筈だった。

だが令音は問題無い、とばかりに戦兎を手で制止すると、一海の前に出てきた。

 

「空中艦?フラクシナス?おい万じ……戦兎。こいつ何言ってんだ?」

 

「おい、何で俺じゃなくて戦兎に訊くんだよ!」

 

「お前が説明するといいとこ猿までしか理解できねえからだよ」

 

「ウキ?」

 

「まあ一海の言う通りだな」

 

「何納得してんだよ!」

 

「……私から説明しよう。猿渡一海」

 

令音は一海の前まで来ると、こう切り出し始めた。

 

 

「……単刀直入に言おう。______君に、ラタトスクへ加入して欲しい」

 

 

「は?」

 

 

 

 

令音が一海に語ったのは、精霊の存在に関する情報。及びラタトスク機関、ASTなどの、精霊を取り巻く組織についての概要。

そして、ラタトスク____【フラクシナス】への加入の打診だった。

一海がライダーとして戦えば、戦兎や士道達が、精霊の攻略中にスマッシュとの戦闘へ参加せず、安全に攻略を行うことが出来る、との事だ。

 

「……セイに聞いた話では、君もライダーだったという。____このような形で申し訳無いが、どうか我々に、力を貸して欲しい」

 

「…………」

 

令音からの説明に、一海はしばし静まった。

そして、口を開く。

 

「………正直、まだ信じた訳じゃねえ。戦兎や龍我がいるつっても、あまりに胡散臭え話だ。それに、また新しい敵がいるって話じゃねえか」

 

「………」

 

まあ、それはそうだろう。戦兎とて、まだラタトスクという組織には不可解な点があると思っている。しかしそれでも、精霊を救うという目的のもと、行動を共にしているのだ。それに______戦兎がここにきてからの間で見たフラクシナスクルーは、少なくとも悪い奴らには、見えなかった。

 

だが初めて説明された一海が、はいそうですかと頷ける話でもない。当然リスクも伴うし、簡単には承諾できないだろう。

 

 

「……けどまあ、他に行く当てもねえしな」

 

 

しかし一海は不承不承、といった様子で、そう呟いた。

 

「っ、協力してくれるのか?」

 

「……ほんとだったら、もうちっと悩んでんだけどな…………あんな話、されたらな」

 

あんな話、というのは精霊のことだろう。

世界の災厄として、殺意に、憎しみに晒され続ける存在。

 

自分の意思に関係なく、世界を破壊してしまう、悲しい存在。

 

一海にとってもそれは、気分の良い話では無かった。

 

「……あーくっそ、お前らのせいで、俺もすっかり毒されちまったみてえだな」

 

そう言って、よっこらせ、と一海が立ち上がる。

そして、順に令音を、戦兎を、万丈へ視線を向けた。

 

「………いいぜ、協力してやるよ。少なくとも、この世界にいる間はな」

 

一海はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

 

「……感謝するよ。名目上、君はセイやバジンたちと同じく、保護という名目で我々の元に置くことになる。だが生活に不自由な事はないだろうし、寝床もある。安心してくれ」

 

「ああ、それなら安心だな。_____戦兎、龍我」

 

令音から向き変え、戦兎と万丈の方を向く。

戦兎と万丈も立ち上がり、一海の方を向いた。

 

 

「……色々あったけどよ。………改めて、よろしくな」

 

「………ああ」

 

「おう」

 

言い、笑いあって_____三人は、拳を突き合わせた。

 

だが次の瞬間。

 

「………はっ!」

 

一海は、何かに気付いたような様子で、戦兎の肩を縋るように掴んだ。

 

「はっ?お、おい、どうしたんだよ…………」

 

「…………は、どこだ

 

「は?」

 

もう一度聞くと、一海は、一際大きな声で叫んだ。

 

 

「………みーたんは!どこだァッ!!」

 

 

「…………は?」

 

「…………あ?」

 

「?」

 

三人の困惑した様子にも気付かない様子で、一海が戦兎の肩を揺らしながら畳み掛ける。

 

「みーたんは………み、みーたんは、いるのか!?いるんだよな!?いるんだよなッ!?」

 

「………あ、あぁ〜…………」

 

戦兎が、思い出したような声と顔になる。

 

そう、この猿渡一海という男_______ネットアイドルだったかつての仲間、【石動美空(いするぎみそら)】の大のファン、所謂、ドルヲタだったのだ。

しかし、どうしたものか。この様子では、いると答えない限り収まらないだろう。どうやってこの場を____

 

 

「あん?美空ならいねえぞ?」

 

 

_______鎮める、鶴の一声ならぬ、馬鹿の一声。

 

 

「…………………………………………」

 

「か、一海?」

 

たっぷり数秒、石像のように硬直した後、ギギギ、と油の抜けた機械のような動作でこちらを向く。

そして、震えながらガタガタと膝を落とし、この世の終わりのような形相で口を開いた。

 

 

「う、嘘だ……………みぃぃぃぃたぁぁぁーーんーーーっ!!!」

 

 

或美島のとある旅館に、一人の哀しいドルヲタの号哭が、響き渡った。

 

 

 

 

「………一海のやつ、放っといて大丈夫なのかよ」

 

「まぁいずれ治るだろ」

 

この世の全てが終わったような顔で嘆き続ける一海を宥めること数分、少し落ち着いたところで、令音に一海を任せて二人は出て行ってしまった。

今二人が向かっているのは、士道のもとだった。一海の件や、今後の方針について、令音から伝えるよう言われていたのである。

だが、戦兎は丁字路に差し掛かったところで足を止めた。

 

「あん?どうした戦兎」

 

万丈が戦兎に問うが、戦兎はそれを無視してちらりと前を見る。

 

「………隠れてないで出てこいよ、耶倶矢、夕弦」

 

………左右の通路の両側から、頭がちょこんと飛び出、戦兎と万丈にジーッと視線を送り続けているのに気付いたのである。

 

「くく……我が気配に気づくとはやりおるわ。流石、蒼炎の竜騎士と言うべきか」

 

「指摘。隠れ方がお粗末だっただけでは」

 

「………っ!ゆ、夕弦に言われたくないし!あんたよりは上手く隠れてたし!」

 

「反論。耶倶矢が夕弦よりも上手く隠れられる道理がありません」

 

………戦兎から言わせれば、どっちも等しくバレバレだったのだが、それは口に出さずに置く。

 

「いや、どっちもどっちだったぞ?」

 

「っ。驚愕。そんな訳ありません」

 

「ほーら!夕弦だって全然駄目じゃん!」

 

ほら、戦兎が口に出さずとも、万丈(バカ)がすぐ口に出す。

 

「………それで、二人とも何してたんだよ」

 

戦兎が嘆息しながら問うと、二人は目を合わせ、こほんと咳払いしてから視線を二人に戻してきた。

 

「ふ……教えてやろう。来るがいい」

 

「確保。どうぞ、こちらへ」

 

そして全く同じタイミングで、耶倶矢が万丈の、夕弦が戦兎の両腕を引っ張ってくる。

 

「な、なんだよ………」

 

「どうしたんだよ、お前ら………?」

 

困惑気味になりながらも、二人はズルズルと引きずられ____程なくして、とある場所にたどり着いた。

 

「………風呂、だよな?」

 

「………風呂、だな」

 

二つの隣り合った入り口に赤と青の暖簾がかけられ、それぞれ大きな字で『男』『女』と書かれている。誰がどう見ても風呂だ。

 

「くく……貴様らの身体は常闇の穢れを蓄積し過ぎた。その身を浄化することを許す」

 

「は?」

 

「通訳。お風呂に入って汗でも流してください、と言っています」

 

「あ、ああ。そういう事か。つっても、まだ入浴時間まで大分時間あるだろ。タオルも着替えも無いし、それに今、行かなきゃいけないとこがあるしな」

 

「ああ。つーわけで、悪いな」

 

言って二人で踵を返そうとすると、両腕がさらにがっしと掴まれた。

 

「いって!おい、なにすんだよ」

 

「貴様らに選択肢などあると思うてか?四の五の言わずにその穢れを祓うが良い」

 

「請願。お願いします。入用の準備はこちらで整えておきました」

 

夕弦が視線を下に落とす。そこにはきっちり二人分、バスタオルとタオル、そして浴衣が折り畳まれていた。

 

「な、何を企んでやがる………」

 

「ふ……我が崇高にして玄妙なる思考は、常人には到底理解し得ないものなのだ」

 

「提言。誰もいない大浴場というのもいいものです」

 

「…………おい、どうする?」

 

「…………まあ、このままじゃ解放してくれそうにないし………」

 

まあ士道には、後で説明すればいいだろう。訝しげな目で二人を交互に見たのち、はぁと大きなため息をついた。

 

「………分かった。じゃあ先に入るさ。行くぜ、万丈」

 

「あ?ちょ、おい!」

 

「くく……解れば良いのだ」

 

「賞賛。戦兎の決断に敬意を表します」

 

今ひとつ二人の真意が読めないが、まあ今のうちに一風呂浴びるのも悪くないだろう。というか、さっきの戦闘でいろいろ疲れたので、汗とか諸々を流したいのも事実であった。

用意されたタオルなどを手に持ち、男湯の方へと入っていく。

 

特に何と言うわけでもなく脱衣所で服を脱ぐと、タオルを携えて曇った引き戸を開けた。

 

「おお………!」

 

「こりゃ、凄えな……………」

 

目の前に広がった光景に、思わず感嘆の声を漏らす。

岩で形作った浴槽に、微かに褐色がかった湯が満たされ、湯気が立ち上っている。浴槽のすぐ側には海が広がり、静かなさざ波が響いていた。

まだ入浴時間ではないため、戦兎と万丈以外に人はいない。なるほど、これは夕弦の言う通りに最高のロケーションかもしれない。

 

「よっし、早く入ろうぜ戦兎!」

 

「おい、急ぐと滑るぞー」

 

と、戦兎も口では言いつつも、手早く身体を洗って、タオルを頭に乗せ、そそくさと身体を湯に沈み込ませた。

 

「「あぁー……………」」

 

などと、二人揃って年寄り臭い声が喉から漏れた。両手両足を伸ばすと、少し熱いくらいの湯が全身に染み渡ってきた。日頃スマッシュと戦い、精霊を攻略する激務の日々を送る戦兎と万丈には、今これ以上の至福は無いと思えた。

すると、その時。ガラリと音が鳴り、浴場の引き戸が開いたのである。

 

「ん?誰だ?」

 

「一海か?」

 

二人は入り口に目をやり______絶句した。

 

「な…………」

 

「ちょ……………」

 

それもそうだろう。何しろ、先程廊下で別れたはずの耶倶矢と夕弦が、身体にバスタオル一枚を巻き付けた状態でそこに立っていたのだから。

 

「お、お前らぁぁッ!何してんの!そんな格好でッ!?」

 

「ここ男湯だぞ!?」

 

堪らず戦兎と万丈が叫ぶも、二人はそのまま湯船に足を浸し、耶倶矢は万丈の、夕弦は戦兎の隣まで歩いてきた。

薄いバスタオルが湯気で身体に張り付き、肢体のシルエットがくっきりと浮かび上がっている。二人とも慌てて目を逸らし、身体を深く湯に沈ませた。

そんな二人の様子を見てか、耶倶矢が頬を赤く染めながら腕組みする。

 

「く、くくく…………ど、どうだ。流石の貴様も我が色香の前にはひれ伏さざるを得まい」

 

その言葉に、対面するような格好で立っていた夕弦が嘆息した。

 

「嘲笑。色香(笑)。耶倶矢にそんなものが備わっていたとは初耳です」

 

「……ふん、すぐに吠え面かかせてくれるわ。そこな龍我を我が魅力の虜にしてな!」

 

「応戦。望むところです。この夕弦が耶倶矢より先に、戦兎を落として見せましょう」

 

言って、二人はそのままゆっくりと足を折り、戦兎と万丈を挟むように湯船に入ってきた。

 

「…………ッ」

 

「お、おい………」

 

バスタオルを巻いたまま入浴した事を咎める暇もなく、戦兎は思わず目を瞑った。

 

「くく……覚悟するがいいぞ龍我。もう我無しでは生きられぬ身体にしてくれよう」

 

「覚悟。戦兎には夕弦の肉体の虜になってもらいます」

 

「い、一体何を…………」

 

「する気だ……………!?」

 

二人の言葉に、戦兎と万丈はさらに身を固くした。嗚呼、一体何をされてしまうんだ。ああ駄目だ、俺は二十六。こんな子に手ぇ出しちゃいけない。未知への恐怖と理性との戦いで、ぐるぐると頭の中が渦巻く。

 

だが。

 

「…………ん?」

 

しばらく経っても、何も起こらない。戦兎と万丈はゆっくりと目を開けた。

戦兎と万丈を挟むように左右に陣取った二人は、挑発し合うように視線を交じらせているだけだった。

 

「ふ………っ、せめてもの情けだ。夕弦よ、貴様から先にやる事を許す」

 

「否定。不要です。むしろハンデが必要なのは耶倶矢の方です。先制権くらい譲ります」

 

「かか、分からぬ奴よの。我が手を下した瞬間に龍我の目は我に釘付けぞ。貴様にも機会を与えてやろうという、我の配慮を解さぬか」

 

「懐疑。本当は何をすれば良いのか分からないのではないですか?」

 

夕弦が言うと、耶倶矢がビクッと肩を揺らした。

 

「そ、そんな訳ないし!超エロッエロだし!な、なーに言ってんのかねこいつは!あんたなんか考えもしないような大人のテクニックをいーっぱい持ってるんだから!」

 

「疑念。では、見せてください」

 

「な………っ、ふ、ふん!いいわ、見てなさい!」

 

「お、おお…………」

 

耶倶矢がその場に立ち上がると、万丈の方を見ながら右手を頭に、左手を腰に当て、

 

「………う、うふーん」

 

などと、旬が過ぎたグラビアアイドルでもしないようなポーズをとった。戦兎達は行った事ないが、多分場末のキャバ嬢でもやらないだろう。

夕弦がその様子を見て、プークスクス、の口に手を当てながら息を漏らす。

 

「…………………は?」

 

万丈は何をしてるか分からないような様子で目をパチクリさせ、戦兎はどこか居た堪れない様子で頭をかいた。

いや、別に色っぽくない、と言うわけではないのだ。確かに見た感じ耶倶矢のスタイルは良いし、バスタオルが肌に張り付いた様子は確かにセクシーと言われればセクシーである。

 

だが…………それよりも先に、何か哀れみにも似たいたたまれなさが、戦兎の胸中を包んだのだった。実際に受けたのは万丈なのに、不思議である。

そんな三人の様子に、耶倶矢は顔を真っ赤に染めて湯船に再ダイブした。

 

「な、何よ三人して!」

 

「嘲笑。流石耶倶矢の色香(笑)は違います」

 

「な、何ですって!?っ、ていうかあれなんじゃないの?あんたの方こそ、実は何していいのかわかんないんでしょ!」

 

耶倶矢がビッ!と指を突き付けながら言うと、夕弦がピクリと眉の端を動かした。

 

「……否定。そんな訳ありません」

 

「はっ、どーだか!じゃあやって見せなさいよ!」

 

「了承。……いいでしょう」

 

夕弦はそう言うと、戦兎の方へと向き直り、

 

「悩殺。ちゅっ」

 

と、一昔前のアイドルのような仕草で投げキッスを放ってきた。

 

「………お、おう」

 

またもリアクションに困り、戦兎は真顔で答えた。

 

「おい戦兎、こいつら何してんだ?」

 

「ごめん、ちょっと黙っててくれ」

 

遂に万丈が真顔で言い始めたので、片手で顔を覆いながら制止する。

夕弦のそれを見て、耶倶矢が腹を抱えて笑い出した。

 

「きゃははははは!なんだそれ、なーんだそれ!それで悩殺してるつもりなの?」

 

「憮然。耶倶矢には言われたくありません」

 

「はん、お互い様でしょーが!」

 

「否定。そもそも耶倶矢の幼児体型では、誘惑にすらなっていません」

 

「だ、誰が幼児体型よ!」

 

と、またも二人で言い合いを始める。と______

 

「「………っ!?」」

 

戦兎と万丈は肩を揺らした。再び戸を開く音がし、誰かがこちらに入ってきたのである。

 

「お、おい、これ誰か入ってきたんじゃねえか………?」

 

「あ、ああ。おい二人とも。早く隠れないとまずいぞ」

 

ここは男湯である。無論、新たな闖入者は男子生徒か一海のどちらか二択である。

しかし耶倶矢と夕弦は平然とした様子で言ってきた。

 

「くく……何を言っておるのだ、戦兎、龍我」

 

「否定。大丈夫です。心配要りません」

 

「は………?」

 

「何言ってんだ?」

 

二人の言っている意味が分からず、揃って首を傾げる。と、

 

「とりゃー!」

 

元気の良い声と共に、新たな入浴客が勢いよく湯船に飛び込んできた。

そして、先に入っていた戦兎、万丈と目が合う。

 

聞き覚えのある声音に、夜色の長い髪。男とはかけ離れた、美しい曲線のボディライン。そう、その姿は_____

 

紛れもなく、夜刀神十香のものだった。

 

「ん?」

 

そこで十香も先客に気付いたらしい。キョトンとした様子で戦兎と万丈を見てくる。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

そして。

 

 

「ギャーーーーーーーーッ!?」

 

「イヤーーーーーーーーッ!?」

 

「ハァーーーーーーーーッ!?」

 

 

三人揃って、全く違う悲鳴を上げた。

 

 

 

 

一方その頃、とある部屋にて。

 

「おーい五河、そろそろ風呂入りに行こうぜ?」

 

「わ、悪い。ちょっと、先行っててくれ」

 

「ん?忘れもんか?じゃ、先行って待ってるからな」

 

「あ、ああ」

 

士道は同じ部屋のクラスメイト達が去っていくのを見届けた後、急いで鞄の中を漁った。

無い。無い。無い。

 

どこに、あるんだ。

 

 

「…………ガルーダどこ行ったんだ?おーい」

 

 

飛行機の時と同じく、士道の鞄からガルーダが消え失せていた。

 

 

 

 

 




どうでしたか?
また投稿が遅れてすいませんでした。
最初のかずみんぶん殴るシーン、戦兎にするか万丈にするかで迷ったんですが、結局戦兎にしました。戦友ポジの万丈にやらせるのもいいかと思ったんですが、本編でその事を戦兎に問い詰めてたので。

突然ですがこの小説って、本編ビルドのようなギャグの掛け合いちゃんと出来てますかね?最近他の方のビルド小説も見るのですが、再現率が高くて驚いてます。本編ビルド見返さなきゃ……………

あ、こちら劇場版限定ライダー、ユートピアです。


【挿絵表示】


参考程度に、よろしければ。

それでは次回、『第45話 ベルセルクと呼ばれた姉妹』、をお楽しみに!

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