士道「なんか、大変なことになってるんだな………こっちも大分凹んでるけど」
桐生「というか士道、なんか心折れる機会が多くね?」
士道「な!?そ、そんな事ないだろ!ていうか、それを言ったら戦兎だって元の世界じゃめちゃくちゃ心折れてたって聞いたぞ!なんかいつも泣いてたって!」
桐生「おい、誰からそれ聞いた!?」
士道「万丈から」
桐生「よし後でシバく。それじゃ、万丈の処遇が決まったところで、第49話をどうぞ!」
「…………」
その日の夜、万丈は砂浜に一人佇んでいた。
その日の夕食は、味がしなかった。というか、喉を通らなかった。
誰とも会話を交わさずに食事を済ませた後、ぼんやりと考えていたら、気づけばここに足を運んでいた。
日中、耶倶矢に言われた言葉が、未だに頭の中を渦巻いていた。
____もう一人の自分を生かすために、自分の死を選ぶ。
それを聞いた時は一瞬、バカか、と思った。
だが、例えば。
もし万丈が命を投げ出さねば、戦兎や一海や士道達が、死んでしまうとしたら。
昔ならいざ知らず、今の万丈であれば………間違い無く、応と首を振るだろう。
自己犠牲がどうとか、そんな難しい事は頭にない。
ただ、それしかないなら、そうする他ないだろうと、思うだけ。
選択肢ですらないと、この単純な頭が判断してしまうだけだ。
「_____よお、万丈」
その時、後ろから声が聞こえた。
いつも聴き慣れた、それは相棒の声だった。
「………戦兎」
「何だよ、しけたツラしてんな」
「うるせえよ」
戦兎がいつものようにおちょくりながら、万丈の隣まで歩み寄ってくる。
その時ふと、気になった。
そして気がついたら、口にしていた。
「…………なあ、戦兎」
「ん?どうした」
「もし、例えばの話だけどよ。………お前が死ななきゃ、仲間が死んじまうってなった時………お前だったら、どうするんだ?」
「…………っ」
その質問を聞いた途端、戦兎の顔が一瞬驚愕に染まり、しかしすぐに顔を戻して、口を開いた。
「_____そうだなぁ。多分、そうなったら俺は、迷わずに死んじまうだろうな。それしか方法が無いなら、の話だけど」
でも、と、戦兎はひとつ区切り、どこか懐かしむように、夜空を見上げた。
「______前に、美空に説教されちまったからなぁ。もっと自分を大切にしろ、残された奴の気持ちも考えろ、って」
「……っ!それは……」
「ほら、北都と戦争になった時にさ。言われちまったんだよ。だから………」
そこで再び言葉を区切り、少しだけ下を向いた。
「______俺と仲間の両方が助かる方法を、最後まで探す。本当に最後の瞬間までな。それで見つからなかったらもう諦めだ。俺が死んで、仲間を助ける」
その答えを聞き、万丈は予想していた通りだ、とでも言わんばかりの顔で、少し笑いながら言った。
「………そう、だよな。お前なら、そう言うと思った」
すると戦兎が表情を少し硬くして、再び口を開いた。
「______耶倶矢と夕弦の事で、なんか言われたのか?」
「………っ!」
図星だった。思わず身体がビクッと震え、冷や汗をかく。
「ほらな。お前はすぐ反応が出る。分かりやすいんだよ」
「う、うるせえっ…………実はよ」
それから万丈は話した。
耶倶矢が夕弦を生かすために、自分を敗北させろという、話をしてきたことを。
その話を聞くと戦兎は、やはり、と言わんばかりの顔になり、そして驚きの言葉を発してきた。
「………そっか、そっちもそう言われたんだな」
「ッ!まさか、お前も………」
「……ああ。夕弦に同じようなこと言われたよ。脅し文句までそっくりだった」
ほんとそっくりだよな、と戦兎が明らかに無理をしている笑い顔で、そう言う。
そして数秒後に、神妙な面持ちで口を動かし始めた。
「なあ、万丈。俺は______」
と、その瞬間。後方から地面を踏みしめるような音が響いて、万丈は顔を上げた。
そしてその数瞬後に、違う方から足音が聞こえ、戦兎が顔を向けた。
そこに立っていたのは________
「か、耶倶矢、なんで…………」
「夕弦、お前…………」
そう。耶倶矢と、夕弦だった。
「今の………何?」
「復唱_____要求。耶倶矢が………夕弦を生かすと、そう言ったのですか?」
戦兎と万丈には目もくれず、二人は静かな_____しかし激しい憤怒に彩られた、声音を発してきた。
そして_______
『
_______嵐が、吹き荒れた。
◆
時は、少し遡る。
士道は食事を済ませた後、どこか浮かない表情をして、旅館の廊下をのろのろと歩いていた。
日中の戦闘で、シーカーに言われた言葉。
そして、先日折紙から聞かれた事が、未だに脳裏を渦巻いていたのだ。
『君………本当に人間かい?』
『士道。あなたは………人間?』
「ッ!俺は………」
そんな心の声に、思わず反応してしまう。
自分は人間だと、言うのは簡単だ。
しかし実際はどうだ。精霊を封印する力、ライダーシステムが使えるようになった訳。
自分が本当に人間であるのかという馬鹿馬鹿しい疑問が、馬鹿馬鹿しいものでないと思ってしまう。
「______ドー」
こんな、口から出たでまかせかもしれない事でいちいち悩むのも、それこそ馬鹿馬鹿しいと思う。けどそれでも、考えずにはいられないのだ。
「シドー」
本当は自分がどういう存在なのか。
小さい頃の記憶すらあやふやだと言うのに、それで自分が本当に_____
「おい、シドー!」
「っ!?」
耳元で大声を発され、士道はハッと目を見開いた。
「まったく、ようやく気付いたかシドー」
言って、いつのまにかそこにいた浴衣姿の十香がぷくー、と頰を膨らます。
「と、十香………いつからそこにいたんだ?」
「随分前から隣を歩いていたぞ」
士道が言うと、十香はジッと士道の顔を見つめてきた。
「ん………何だ?」
「いや」
十香はふっと視線をそらすと、小さく唇の端を上げ、士道の手をぎゅっと握った。
「シドー、よかったら、少し外へ行かないか?」
「え?」
「夜の海をな、見てみたいのだ」
言って、士道の手を引いてくる。
「あ、おい、ちょっと……」
士道は慌てて足を踏ん張り、十香の進行を止めた。
「いや、まずいだろ勝手に外出たら。そろそろ先生も見回りに来るだろうし………」
すると十香は唇を突き出すようにしながら、ほうと息を吐いた。
「………すまん、シドー。少し嘘を吐いた」
「え?」
「その、なんだ。シドーが少し元気が無いようだったし、あまり話せてないと思ってな。だから_____シドーと二人で話しがしたかったのだ」
「………っ」
「駄目、だろうか……」
言って、上目遣いになりながら士道を見てくる。
「………いや、そんな、ことは」
これで駄目だと言える男がいるなら、是非一度お目にかかりたいものだ。次の瞬間士道は、満面の笑みを浮かべた十香に引っ張られていった。
◆
「____はぁっ、はぁっ」
旅館の壁に張り付くようにしながら、エレンは荒い息を整えるように深呼吸をした。
すると。
「ははは、最強の
「………今、貴方の声は一番聞きたくありませんでしたね」
旅館の窓に腰掛けた白衣の男、神大針魏が愉快そうに笑いながら話しかけてきた。
「……まあ。何はともあれチャンスです。プロフェッサー・シンギ、近くに人の気配は?」
「大丈夫、私が見張っておくよ。ああ、それと____」
神大は窓から降りて旅館の廊下に立つと、エレンに一つ告げた。
「_____彼らに一つ連絡を頼まれてくれるかな?
「ッ、もう完成したのですか?」
神大の言った、アレ____その意味に気付いたエレンは、僅かな驚きを滲ませながら、訊き直した。
「まだ少しだけどね。折角今、この島に四人_____いや、
そう言うと、神大は何か含みを持った視線を、エレンに向けた。
「……なるほど。了解しました」
エレンは一つ頷き、インカムに手を伸ばした。
そしてそれを見た神大は______まるで、
「さあ_____実験を、始めようかな?」
◆
夜の浜辺は静かで、日中の喧騒が嘘のようだった。
まあ士道達がいたビーチは、元から静かだったのだが。
士道と十香はゆったりとした歩調で海岸沿いの防波堤付近を歩きながら、何くれとない会話を交わしていた。
「_____でな、昨日の夜は亜衣、麻衣、美衣たちと枕投げをしていたのだ」
「はは、そんな事してたのかよ」
「うむ。途中からつい熱くなってしまってな。互いに疲れて眠るまでやってしまった」
「そうか、楽しそうだったな」
士道は笑って、十香の話を聞いた。
なんと言うのだろうか、さして意味の無い会話を交わしているだけだというのに、何となく気分が楽になってきていた。
と、少しばかり歩みを進めたところで、不意に十香が振り返ってくる。
「それで_____シドー、どうしたのだ?」
言われて、士道はどきんと心臓が跳ねるのを感じた。
「……っ、ど、どうしたって、何が」
「いや、具体的には分からないのだが………何か、あるのだろう?」
「な、なんでそう思うんだ?」
士道が問うと、十香が「んー……」と人差し指を顎に触れさせた。
「なんとなくだが、士道が何かに悩んでいる、という事は分かったぞ。そうだ_____ええと、あのとき、士道が四糸乃のときに、凄く落ち込んでいただろう?あの時と少しだけ似たような感じがしたのだ」
小さく頷きながら十香が言ってくる。士道は目を見開いた。
「いや、何もないならいいのだ。もしかしたら、私の思い過ごしかもしれないしな」
「…………」
十香の言葉に、士道は大きく吐息した。
「もしかして、十香。そのために俺を連れ出してくれたのか?」
「む………まあ、その、なんだ。いや、私がシドーと話をしたかったのも本当だぞ?」
十香がほんのりと頰を染めながら言ってくる。そんな仕草がたまらなく可愛らしくて_____そしてありがたくて、士道は思わず頬を緩めた。
「……ありがとう、十香。少し、聞いてくれるか?いや、本当にくだらないなと、自分でも思うんだけどさ」
「む?うむ、何でも聞くぞ」
十香が頷いてくる。士道は首肯しながら、ゆっくりと話し始めた。
自分がどういう存在なのか、本当に人間なのか、分からなくなってしまったと。
細部はぼかしながらも、大まかに自分が悩んでいたことを、十香に打ち明けた。
「むう………」
十香はそれを聞くと、しばらく唸って考えている様子だった。
「いや、本当に大したことじゃないんだ!悪いな、こんな下らない愚痴に付き合わせちまって」
「いや、そんな事はないぞ!………なあ、シドー」
すると十香は小さく首を振り、口を開いた。
「私も、シドーと出会うまでは、同じだった」
「え……?」
「自分が何者なのかも分からずに、どうしようもなく苦しんだし、少しは悩んだ。けど____それを、シドーが変えてくれたのだ。何でも無かった私を、『夜刀神十香』という存在に、変えてくれたのだ」
言うと十香は、ほんの少し頬を緩めて、嬉しそうに口を開いた。
「____それから私は、生きたいと思ったのだ。人間とか、精霊とか、そういうのではなく、私は、私として。そして自分の事を、『夜刀神十香』なんだと、強く思ったのだ。____ええとつまり、私が何を言いたいかというとだな………」
それから十香はむう、と唸ってから、再び口を開いた。
「____シドーは、シドーだ!」
「え?」
「他の人からどう言われようと、私の知っているシドーは………人間で、とても強くて、ご飯が美味しくて、暖かくて、私を救ってくれた_____私のヒーローの、シドーだぞ!」
自信満々に、とてもハツラツとした笑みを浮かべて、十香は言い切った。
それを聞いた士道は_____自然と、笑みが零れた。
「はっ、ははは…………」
本当の本当に_____なんて馬鹿馬鹿しいことに悩んでいたのかと、心底可笑しくなって、笑いが止まらなかった。
「はは、ははははッ!」
「む、むうっ?ど、どうしたのだシドー!?」
「ははは………いや、何でもないよ。有難うな、十香」
「む、むう?」
それを見た十香は、しばし何が何だか分からないような顔をして____そしてもう一度、くしゃっと笑った。
「よくわからないが____シドーが元気になったなら、何よりだぞ!」
その顔を見て、士道もまた、笑みを浮かべた。
______その時。
______ゴォォォォォォォォォォォッ!!!
「うわ………ッ!?」
「な、なんだッ!?」
突然吹き荒れた凄まじい風に、背から地面に叩きつけられてしまった。どうにか近くの防波堤にしがみつき、身を起こす。
そして風が吹いた方向を見て_____愕然とした。
「なッ、なんだよ、あれ………!?」
そこには______天災が、吹き荒れていた。
◆
その嵐が吹き荒れる中で_____戦兎と万丈は、呆気に取られていた。
「【
「呼応。【
耶倶矢が槍を構え、夕弦がペンデュラムの刃を宙に浮かせる。
二人が顕現させたそれは、間違いなく『天使』だった。精霊が誇る最強の武器である。
二人の脳裏に、一瞬で様々な思考が頭の中を駆け巡る。
『ふざけるな』。二人が発したその言葉の意味。それは二人の秘密を漏らした戦兎と万丈に向けられたものなのか_______だが正解は、そうではなかった。
耶倶矢は夕弦を、夕弦は耶倶矢を刺すような視線で睨み付け、忌々しげに口を開く。
「………ふざけた事してくれんじゃないの、夕弦。私を選べですって?」
「反論。耶倶矢こそ、何のつもりですか。夕弦はそんな事、頼んだ覚えはありません」
その言葉と共に、辺りに渦巻く風がさらに強くなっていく。
「_____駄目ね、やっぱり駄目。この方法なら順当に決着が付くと思ったけど、あんたの阿呆さを計算に入れるのを忘れてたわ」
「同意。耶倶矢の馬鹿さ加減には愛想が尽きます。_____結局、こうなるのです。二人で始めた闘いを、誰かの手で終わらせてもらおうだなんて、虫が良すぎたのです」
言って、二人が槍を、ペンデュラムを構える。
「そうね。やっぱり、最後は私たち二人でやるしかないみたいね。ちょうどいいわ、今私、生涯でクライマックスにあんたにむかっ腹立ってるし」
「応戦。夕弦もです。耶倶矢の浅慮さに怒りを隠し切れません」
「______決闘方法は」
「当然。知れたことです」
耶倶矢と夕弦は、再び同時に口を開いた。
『_____倒れた方が、
それが示すはただ一つ。
闘わなければ生き残れない、どちらかが倒れるまで止まない______果てなき闘争。
「やめろ________」
「耶倶矢、夕弦______」
戦兎と万丈の制止の声も聞かず、二人は凄まじい風圧を伴って激突した。
◆
突然、ゴゴゴ______と、まるで地鳴りのような風の音が外から響き渡ったかと思うと、旅館の外壁がギシギシと軋み始めた。
旅館内の生徒達の反応は様々だったが、無論風の吹き荒れる旅館の外に出ようとする者はいなかった。
_____鳶一折紙、ただ一人を除いては。
「…………」
無言で靴を履き、旅館の扉に手を掛ける。
理由は単純明快、士道を探していたところ、亜衣から十香が士道を連れて外へ行くのを見たとの情報を得たのである。
そこからの行動は速やかだった。トランプに誘う亜衣を振り切り、途中の珠恵の制止を振り切り、旅館の出入り口まで走ってきたのである。嵐程度では士道のチェイサーである折紙の足を止める事は出来なかった。
十香と二人きりというのも気に入らないが、それ以前にこんな嵐の中、海から程近い旅館の外にいるだけでも危険である。早く連れ戻さねばならないだろう。
風は強かったが、歩けないほどでは無い。折紙は外へ歩いて行き_______
「………ッ!?」
背後に気配を感じ、咄嗟にその場から飛び退いた。
瞬間、折紙が今までいた場所から、ガシャン、という金属音が聞こえてくる。
「な…………」
そこには______人の形をした、酷く歪な機械が立っていた。
◆
「_____前ッから思ってたのよ!あんたは自分一人で抱え込んで処理しようとして!結局自分が損ばっかして!」
叫びながら耶倶矢が巨大な槍を突き出すと、槍の先端部がドリルのように回転し、竜巻を生み出した。
「反論。その言葉、熨斗とリボンで過剰包装して耶倶矢に突き返します…………!」
しかし夕弦はそんな破壊的な暴風に動じず、手を複雑に動かした。すると握っていたペンデュラムが、まるで意思を持ったかのように蠢き、夕弦の前に方陣のようなものを組んで竜巻を難なく防いだ。
「あんたは優しすぎんのよ!せっかく私が主人格の座を譲ってあげようってんだから、大人しく受け取っとけばいいの!」
「拒否。夕弦は初めから、主人格になる気などありませんでした」
「ッ、今までの勝負で私が上手く負けるのにどんだけ苦労したと思ってんのよ!」
「反論。それは夕弦も同じです。せっかく黒星を稼ごうとしても、耶倶矢が攻めてこなくて焦れたのは一度や二度ではありません」
「八舞は万象薙伏せる颶風の王!それに相応しいのはあんたしかいないじゃない!」
「否定。それは違います。真の八舞の名は、耶倶矢こそが得るべきです」
「っ、私より飛ぶの速いくせに!」
「否定。夕弦より耶倶矢の方が力が強いです」
「私よりスタイルいいくせに!」
「否定。耶倶矢の方が肌が綺麗です」
「私より可愛いくせに!」
「反論。それは譲れません。夕弦より耶倶矢の方が可愛いに決まってます」
口喧嘩のような、そうでないような言葉を交わしながら、高速回転する耶倶矢の槍と、剣のように編まれた夕弦の鎖が打ち合わされる。威力は全くの互角。衝撃の瞬間、周囲に風が荒れ狂い、戦兎と万丈に襲いかかってきた。
「うおっ………!」
「く…………!」
足で力強く踏ん張りながら、どうにかそれに耐える。
ハザードレベルと精霊の加護が無ければ、今頃は二人ともこの風に吹き飛ばされていただろう。そう確信できるほどに、二人の戦いは____正確に言えば、それによって巻き起こされる被害は凄まじいものだった。
だが、それよりも。
「なんでだよ…………なんで、こうなるんだよ…………ッ!」
万丈は耐えきれないと言った様子で、喉をつぶさんばかりに叫びをあげた。
「もういい……もういいだろォッ!お前らッ!お前ら、お互いのことが、大好きなんじゃねえのかよッ!!」
叫んでも、声は届かない。
耶倶矢は夕弦に生き残って欲しくて、夕弦は耶倶矢に生き残って欲しい。
二人とも、互いを大事に想っている。
それなのに何故______こんなにも、すれ違うのだろう。
万丈は、そして戦兎は。それが____堪らなく、悲しくて仕方なかった。
「_____戦兎、万丈ッ!」
その時、不意に後方から、声が聞こえた。
振り返ると、声の主は士道だった。隣には十香の姿も見える。
「士道、十香!お前ら、こんな状況で何してんだ!」
「いや………それより、これは一体どういう事なんだ!?」
「セント、リューガ、一体、何が起こって______」
と、十香が訊こうとしたが、何かを見つけたように言葉を途切れさせ_____
「三人共!気を付けろ!何かがいるぞ!」
声を響かせた。その声に、三人は小さく肩を揺らす。
「な…………」
「何だよ、こいつら………!」
その目には______四人を取り囲むように、二十体程の人影が立ち並んでいたのである。
否_____違う。その内の十体は身体に頭と手足が付いているのは変わらないが、それは明らかに人間とは異なる形をしていた。
フルフェイスヘルメットのように滑らかな頭部に細身のボディ、逆関節の脚部が地面を踏みしめている。対して腕部は大きく、どこかアンバランスな印象があった。
そしてもう十体は、確かに人間だった。だがこちらも、おおよそまともな物とは言い難かった。
鈍色に光るマスクと、滑らかに磨き上げられた金属のアーマー。そして____
「な…………!?」
その腰につけられた物を見て_____戦兎は、戦慄した。
それもそうだろう。何故ならそれは、人を人から遠ざける、悪魔の______
「______
悪魔のドライバー、【リバースドライバー】だったのだから。
それも一つや二つではない、その十体全ての腰部に、全く同じ物が装着されていたのだから。
じりじりと距離を詰めてくる一団に対して構えながらも、困惑が隠せなかった。
「なんで、こんなに………!?」
「量産したからさ。実に簡単な回答だろう」
その戦兎の問いに答えるように、一つの声が上がり、二人の人影が歩み出てきた。
「ッ、神大………ッ!」
一人は、神大針魏。
そして、もう一人は_______随行カメラマンの、エレン・メイザースであった。
「な……!エレン………さん?」
「ぬ、お前は………」
「なんで、あんたが………」
士道と十香、万丈が同時に声を発すると、エレンは大仰に首肯した。
「ようやく人気のないところに来てくれましたね、十香さん。しかしまさか、仮面ライダーの三人が一緒とは____まあ、いいでしょう」
言って士道と戦兎、万丈の方を一瞥する。
すると神大が笑みを浮かべ、四人に訊いてくる。
「それよりどうだい?バンダースナッチと、私の量産ドライバーによる兵隊ライダー______デウストルーパーの感想は?」
「ッ、やっぱりお前が………!」
「プロフェッサー・シンギ。余計なお喋りは慎んでください」
エレンが窘め、神大は肩をすくめて首肯する。
「しかし、驚きました。まさかあの二人が精霊だったとは。_____しかも優先目標の【ベルセルク】ときたものです。積もり積もった不運の代償としてはお釣りが来ますね」
「な…………」
思わず眉をひそめる。今この少女は、耶倶矢と夕弦を【ベルセルク】と呼んだのだ。
「あんた、何者だ。ASTか?」
「ほう………」
戦兎が鋭い視線を向けながら訊くと、エレンは少しだけ戦兎に興味を示したように眉を動かした。
「流石に何度も戦っているだけあって、陸自の対精霊部隊くらいはご存知でしたか。____しかし、残念ながら外れです」
言ってエレンが手を掲げると、それに合わせるようにして、【バンダースナッチ】と呼ばれた人形と、【デウストルーパー】と呼ばれた兵隊ライダー達が、一斉に襲いかかってきた。
「く_____」
三人は咄嗟の事に思わず息を詰まらせた。一瞬で、ボトルを構えて迎撃の準備をする。
が、それよりも先に_____
「む……大丈夫か、三人とも」
浴衣の周囲に限定霊装を顕現させ、その手に光り輝く剣【
「___よお、俺に内緒で何楽しんでんだ」
「一海!」
「かずみん!」
右手にボトルを握った、一海の姿があった。そして鋭い視線で、周囲を見渡す。
すると、十香の姿を見て、エレンが少しだけ興奮気味に目を見開いた。
「_____【プリンセス】。やはり本物でしたか」
「っ、十香の識別名まで………」
士道は眉根をひそめ、戦兎と万丈は焦った。一刻も早く耶倶矢と夕弦を止めねばならないのに、こんな所で敵が来るとは。
しかしエレンはそんな彼らの思考など御構い無しに、十香に向かって手を差し伸べるようにしてきた。
「十香さん。私と共に来てはくださいませんか。最高の待遇をお約束します」
「ほざけッ!」
十香は裂帛の気合と共にそう叫ぶと、エレンに向かって
「お、おい十香。いくらなんでも生身の人間に____」
「違う」
「え………?」
士道が問い返すと、十香は緊張に満ちた面持ちでエレンを睨みつけながら言葉を続けた。
「こうして向かい合って初めて気付いた。_____あの女、物凄く嫌な感じがする。そう………ASTやスマッシュの気配を極限まで濃くした感じだ」
「………俺もだ。よく分かんねえけど………あいつは、危険だ」
野生の勘と言うべきか、万丈も十香に呼応して睨みつける。
と、その言葉に合わせるように、エレンが初めて唇の端に笑みらしきものを浮かべた。
「面白い表現をしますね。______来ないと言うなら、やむを得ません」
言いながらエレンが、黒光りする
「ッ、リバースドライバー……お前もか………!?」
戦兎の困惑した声を意に介さず、腰にあてがい、銀色の帯、【フィクセスバインダ】を巻く。
そして______
「ッ、
取り出したのは_______黒いドラゴンの意匠が施された、【ドラゴンオルタナティブフルボトル】それを軽く振り、【トランリバースリキッド】を活性化させる。
そしてバックルの左側部へと挿し、【アブソーブチャージャー】を引く。
無機質な音声と、重低音の待機音が鳴る。
言い、アブソーブチャージャーを押し込む。オルタナティブボトルの成分が【アブソーブリアクター】へ送られ、変身用
エレンの周囲をフラスコ瓶状の高速ファクトリー、【ボトルリバーストランサー】が展開し、内部に成分を充填する。
そしてフラスコ瓶が割れ、その全身にアーマー、【ドラゴンアウトアーマー】を生成し、装着した。
_____黒い、ドラゴン。
そう形容するのが最もしっくりくる、禍々しいライダーが、そこにいた。
西洋の龍のようなマスク、アーマー。
その黒いシルエットは一歩踏み出すと、大仰な仕草を取り、言った。
『どうです?_____名前は、仮面ライダーマイティ』
彼女がその名_____仮面ライダーの名を出した途端_____戦兎と万丈が、そして士道が視線を鋭くし、前へと進んだ。
「ふざけるなよ…………!仮面ライダーは正義のヒーローなんだ。お前らみたいな奴が、名乗っていい名前じゃねえんだよ……ッ!」
『精霊は世界の災厄。それと戦うのですから、間違ってはいないでしょう?』
「お前…………ッ!」
あくまでも淡々と言うエレンに、士道は怒りを隠しきれないようだった。
「………嬉しい事言ってくれんじゃないの、士道」
「戦兎………」
戦兎が笑いながら、士道の肩にポン、と手を置く。
そして、万丈、一海、十香が、それぞれ円を作り、敵と相対した。
「………こいつらは俺らに任せろ。戦兎と龍我は、あいつらを助けてやんな」
「……助かる。____行くぞ、みんな」
戦兎の呼びかけと同時に、十香を除いた全員が、ベルトを装着した。
そして、戦兎はラビットタンクスパークリングを、万丈はドラゴンスクラッシュゼリーを、士道はアライブガルーダとスピリットボトル、一海はロボットスクラッシュゼリーを、ベルトへと挿し込んだ。
彼らの前後に高速ファクトリーが形成され、各々がファイティングポーズをとる。
そして、戦兎のビルドドライバーと、士道のリビルドライバーから聞こえた音を合図に、全員が一斉に叫んだ。
戦兎と士道の身体をアーマーが挟み、万丈と一海の周囲のフラスコが割れ、溢れたゼリーがアーマーを形成する。
四人____否、五人のライダーが、集まった瞬間に、闘いは始まった。
どうでしたか?
今日のアクア登場+エターナル克己登場決定でテンションが上がりまくりで書き上げました!
今回ちょっと長いです。すんまへん。
ということで、新ダークライダー、エレンさんが変身する【仮面ライダーマイティ】が登場しました。
名前の由来は、あの人作中で最強最強言ってるので。
あと何故ドラゴンなのか、というところですが、彼女が原作で使用するCRユニットの名前が【ペンドラゴン】なのと、最強が好きな彼女ならドラゴンは気にいるだろう、という事で決めました。クローズとの対決も、今回はありませんが、今後させる予定です。
そして_____次回か次々回で、士道、もといアライブが遂に………!?
それでは次回、『第50話 真夜中のライダーバトル』をお楽しみに!
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