万丈「なあ、こいつカニだよな?なんで黒いんだ?普通赤だろ」
一海「あぁ?そりゃお前、全てのカニが赤なんてことはねえだろ。黒いカニくらいいるって」
万丈「そういうもんか……食えんのかなぁ?」
一海「いややめとけやめとけ。絶対不味いだろこの色!絶対炭みたいな味するって!」
万丈「炭みたいな味!?そりゃ食いたくねえなぁ……」
桐生「ちょっとお前ら!あらすじ紹介そっちのけで何話してんだよ!人型の黒いカニは食べられません!はい、じゃあ第51話をどうぞ!今回はちょっと長めだぞ!」
ビルドとクローズは、突如として現れた敵_____クラブオーバースマッシュと対峙していた。
「おい戦兎………あれ、真那のやつと同じ………」
「ああ……オーバースマッシュだ。今回は、どうやらカニみたいだけどな」
『_________ッ!』
そして目の前のクラブオーバースマッシュが突然目を光らせ、鈍色に光るハサミを二人へ向けて襲い掛かってきた。
「ッ、避けろ万丈ッ!」
「分かってらぁっ!」
咄嗟に回避し、それぞれドリルクラッシャーとツインブレイカーを構える。
「これでも喰らえッ!」
ドリルクラッシャーをガンモードへと切り替え、連続で銃弾を撃ち込む。
銃弾は全てクラブオーバースマッシュへと命中し、その殻にぶつかり爆発した。
が_______
「なっ………嘘だろ………」
『__________』
相手のクラブオーバースマッシュは、まるで何ともないようにピンピンしていた。それどころか銃弾の当たったと思われる箇所には、何一つ弾痕や、僅かな傷すら入っていなかったのだ。
「っ、そうか、カニだから…………!
しかしそれは、考えれば分かることだった。
カニの硬い殻を模したその皮膚が、一切のダメージを無効化していたのだ。
「万丈、遠距離攻撃じゃダメージは通らない!直接攻撃するんだ!」
「分かった!だったら………!」
【シングルッ!シングルブゥレイクゥッ!】
クローズがツインブレイカーにドラゴンフルボトルを装填し、エネルギーを充填したパイルで殴り付ける。
いくら硬い甲殻でも、近距離から攻撃すれば通ると踏んだのだ。
だが。
______ガキィッ!
「な、マジかよっ!?」
『__________』
ツインブレイカーのシングルブレイクすら、鈍い音を鳴らして小さい跡を残しただけで、ダメージどころか、その甲殻に傷一つ付けられなかったのだ。
そして甲殻に当たった状態で止まったクローズをハサミで挟み、遠くへと力任せに放った。
「ぐあッ!?くっ……………」
「万丈ッ!くそっ、だったら……」
クローズのやられた様を見たビルドは、ドリルクラッシャーを一度投げ、ボルテックチャージャーを回した。
【Ready Go!】
そのまま高く跳び上がり、ビルドの前方にワームホール型の図形が形成され、オーバースマッシュを閉じ込める。
そしてオーバースマッシュが閉じ込められたワームホールの中心点目掛けて、ライダーキックを繰り出した。
【SPARKLING FINISH!!】
「ハァァァーーーッ!!」
無数の炭酸の泡と共に、落下の勢いも利用したキックを繰り出す。
そのキックはオーバースマッシュへ直撃し、勢いも相まり敵を後方へと大きく吹き飛ばした。
「はぁっ、はぁっ………やったか………?」
地面へ着地し荒く呼吸をしながら、敵が飛ばされた方向を見やる。
その方向は土煙が立っていたが、しかし。
『_________a______u_________』
「最っ悪だ……………ピンピンしてるじゃねえか…………」
オーバースマッシュは倒れていたもののすぐに立ち上がり、こちらへと歩み寄ってきた。
胸部の甲殻にはキックの跡が付いていたが、ヒビ一つ入っておらず、依然その堅牢さを感じさせていた。
「戦兎………どうすんだよ、これ………」
「やっぱ、ドライバーを狙うしかないな………」
そう言いビルドが見据えた方向には、オーバースマッシュの腰に、変身前と変わらず巻かれたリバースドライバーがあった。
前回のファングオーバースマッシュの時、ドライバーを破壊した事で活動が止まった事から考えれば、今回も同じくドライバーを破壊、もしくは機能を停止させることで倒せるはずなのである。
「よし万丈、連携だ。どうにか隙を作って、その一瞬に二人でドライバーに同時攻撃を叩き込む。いくら殻が硬くったって、大元をやられりゃ関係ない」
「……分かった。行くぞ!」
作戦を説明し、同時に地を蹴り、オーバースマッシュへ向かう。
ビルドはドリルクラッシャーをブレードモードへと切り替え、クローズがツインブレイカーを構えながら、二方向に攻撃を加える。
『__________!__________u______a』
しかしオーバースマッシュは瞬時に二人を見やると、的確な動きで二人の攻撃を捌き、急所を狙い反撃してきた。
「ガハッ……くそっ、悉く避けやがって………!」
鳩尾を軽く打たれたクローズが毒突き、再び攻撃を開始する。
【ビィームモードッ!】
一度距離を取り、ツインブレイカーを変形、ビームモードへと切り替えた。ハサミによる攻撃を間一髪で交わし、素早く移動する。
「オラオラオラァッ!」
そしてオーバースマッシュの後方に回り、連続でビーム攻撃を打ち込んだ。相手には無論ダメージが入った様子がないが、しかし一瞬とはいえ向こうの意識はクローズへ向いた。
「今だ戦兎ォッ!」
「ナイスッ!バッチリだぜ万丈ッ!」
クローズからの指示を受け、その隙を逃さずにビルドが接近し、ドリルクラッシャーにボトルを装填する。
【Ready Go!】
音声と共に、ブレード部のドリルが高速回転する。
その勢いのまま、隙の生まれたオーバースマッシュ目掛けて______
【VOLTEX BREAK!!】
「ハァッ!!」
ボトルのエネルギーを込めた一撃を、ドライバーに放った。
そしてドリルの回転により、継続的なダメージがドライバーへと集中して与えられ続ける。
『________a!_______ua_____ッ!』
クラブオーバースマッシュはここに来て、初めてダメージを食らった様子を見せ、動きが硬直する。
しかし直ぐにビルドの方を見ると、ハサミを持ち上げ_____
「ガァッ!?」
『__________!』
ビルドの胴体を挟み、攻撃を中止させた。
そのまま一度ハサミを外し、刃を閉じてビルドの腹部へと叩き込んだ。
「ガハッ………っ!」
ビルドはそのまま後方へと吹き飛ばされ、木にぶつかって地を数度転がる。ドリルクラッシャーはそこから少し離れた場所へ転がり、やがてドリルの回転が土埃をあげながら収まった。
「戦兎ッ!くそっ………!」
【アァタックモードッ!】
その様子を見たクローズが叫び、アタックモードへと変形させオーバースマッシュへ攻撃を仕掛けようとする。
が、それより先にオーバースマッシュがクローズの方へと向き、ツインブレイカーを左手のハサミで封じ込め、残った右手のハサミで胴体を掴み、ビルドと同じ方向へと投げ飛ばした。
「のわァァッ!?ガッ………!」
数度地を転がり、ビルドと近い距離まで飛ばされる。
「万丈ッ………!」
ビルドがクローズを気遣うがしかし、そんな余裕はなさそうだった。
相手が二人の方向へ、ハサミを光らせながら迫ってきているのである。このままでは、二人揃ってやられるのがオチだ。
「……くそ………っ!」
とそこで、クローズが立ち上がった。全身ボロボロだが、何とか立ち上がる。
そして喉を震わせながら、言葉を紡ぐ。
「………やらなきゃ、いけねえんだよ………。俺が、あいつを、止めなきゃいけねえんだよ…………ッ!_____ウォォオッ!」
そして叫びながら、オーバースマッシュへと向かっていく。
が、やけくその攻撃が当たるはずもなく、いとも簡単に躱され、再び後方へと吹き飛ばされてしまう。
「ガァッ………くそッ…………!」
それでもなお、立ち上がり、喉を震わせながら、吐き出すような思いで言う。
「こんな、とこで………やられるわけにゃ、いかねえんだよ…………!耶倶矢を、止められんのは………俺しか、いねえ………!どっちかが死ななきゃいけねえなんて……そんな事、あってたまるかよ…………!だから、俺が…………」
そして拳を硬く、強く握り、叫んだ。
「俺が_____あいつを、救ってみせるッ!!」
「………万丈。ったく、まるでヒーローみてえによ…………ちったあ、マシな顔になったじゃねえか。マスクで分かんねーけど」
「戦兎………」
その叫びを聞き、ビルドが立ち上がる。
そしてクローズの横へと並び立ち、マスクの下で不敵な笑みを浮かべた。
「
ビルドも、思いは同じだ。
二人を止めて、二人とも救う。
どれか一人の明日を投げ出すなんて選択肢は、この二人には、初めから存在しない。
「______頼む。力を、貸してくれ」
「……あったり前でしょーが。さっさとこいつ片付けて、あの面倒くさい姉妹喧嘩をやめさせようぜ」
そう軽い口調で言いながら、ビルドはラビットタンクスパークリングを外し、【ラビットフルボトル】と、水色のボトル_____【ザドキエルエンジェルフルボトル】を取り出し、振った。
「ッ、お前それ………」
クローズが、懸念するように呟く。
かつてエンジェルフルボトルを使用した際に、戦兎は重度の疲労症状が現れたのだ。その事をクローズは聞いてしかいないが、少し不安だった。
だがビルドは、何でもなさそうに軽く言った。
「出し惜しみしてる場合じゃねえだろ。あいつらを救うまでは、へばらねえよ」
そしてキャップを閉じ、ドライバーに、セットした。
音声とともに、凍えるような待機音声が流れる。
ボルテックレバーを回すと、ビルドの前後には氷漬けになった赤と白のアーマーが形成された。
「ビルドアップ!」
叫ぶと、氷漬けになったアーマーがビルドを挟み、挟まれた瞬間にアーマーの氷が砕け、拡散した。
「勝利の法則は_____決まったッ!」
ファイティングポーズを決め、ビルド ラビットザドキエルフォームが姿を現す。
アイスボックローを取り出し、クローズと共に構え、クラブオーバースマッシュを見据えた。
『__________a』
「ハァッ!」
「行くぜッ!」
【BEAT CROSS-ZER!】
二人で地を駆け、オーバースマッシュへと向かう。
ビルドがアイスボックローのクローモードとドリルクラッシャー、クローズがビートクローザーとツインブレイカーのフル武装で、オーバースマッシュへと集中攻撃を浴びせる。
しかしやはり必殺技を完封しきる程の硬さを誇る甲殻、そう簡単には攻撃が通らない。それどころか、やはり攻撃をハサミによって封じられ、先と同じように飛ばされようとする。
だが。
「_____まだだッ!」
【FULL MATCH BOTTLE!ディスチャージッ!】
アイスボックローにエンジェルボトルではなく、通常のフルボトル、【ダイヤモンドフルボトル】を装填し、ダイヤモンドの成分の硬度をクローに発生させる。
「ハァッ!」
【FULL CLAW BREAK!!】
『_________ッ!』
ダイヤモンドのエネルギーを装填したクローによる連撃で、相手のハサミから免れる。そしてすかさず、
【ガンモードッ!】
クローからガンモードへと切り変え、再びフルボトルを装填し、接近しつつ銃口を向ける。
【FULL MATCH BOTTLE!チャージッ!】
【FULL GUN BREAK!!】
今度はタカボトルを装填し、橙色のエネルギーを銃口へと装填し、エネルギー弾として射出する。
鷹の羽のように無数に分裂した弾丸は分散せず、クラブオーバースマッシュの甲殻の一点、先程スパークリングフィニッシュによるキックを放った胸部へと集中して放たれた。
そして、
『_______ッ!a______o_______!?』
遂にクラブオーバースマッシュの甲殻の一部に、ヒビが入った。さしもの硬い装甲でも、ダメージの入った箇所を一点集中して狙えばヒビの一つは入る。
そしてその攻撃により怯んだことで生まれた隙を、クローズが突く。
【ヒッパレーッ!SMASH HIT!!】
「オリャァーッ!!」
オーバースマッシュに、ビートクローザーの一撃で深く斬り込む。そしてそのまま、ドラゴンボトルとロックフルボトルをツインブレイカーへと装填した。
【シングルッ!ツインッ!ツインブゥレイクゥッ!!】
「行けェッ!!」
『_____a____o_____!?』
さらに斬り込んだ箇所を、ツインブレイクでさらに突く。
強大なエネルギーを伴って放たれた一撃は、オーバースマッシュに大きくダメージを入れ、腹部の甲殻にいくつものヒビと破片を飛び散らせ、後方へと大きく吹き飛ばした。
「行くぞ万丈。同時攻撃でドライバーへ一点集中攻撃だ!」
「おうッ!」
得物を一度放り、ビルドはボルテックチャージャーを回しボトルのエネルギーを充填させ、クローズはアクティベイトレンチを下げ、スクラッシュゼリーを潰した。
【Ready Go!】
「ハァッ!」
「フッ!」
ビルドが左腕のスノウラビットブレイカーから氷結エネルギーを放出し、雪の結晶のエネルギー体をスマッシュへぶつけ、的のようにする。
そのままビルドとクローズが同時に飛び上がり、上空から同時に、ライダーキックを繰り出した。
【HERMIT FINISH!!】
【スクラップブゥレイクゥッ!!】
「ダァァァアァッ!!」
「ハァァァァアァッ!!」
『________ッ!?』
氷とドラゴンのライダーダブルキックは、クラブオーバースマッシュのドライバーを見事にピンポイントで蹴り抜き、破壊し爆散させた。
「くっ、うぅ………………」
そしてスマッシュが地面を転がり、やがて元の肉体へと戻っていく。
ドライバーは完全に破壊されたようだ。
「ハァッ、ハァッ………」
「よし………なんとか、倒せた…………っ」
二人で荒く呼吸を整えながら、武器を拾って先へと進む。
「行くぜ、万丈………」
「ああ………」
まだ疲労と痛みの残る身体に鞭打ち、耶倶矢と夕弦のいる方へと向かう。
この時の二人は気づかなかった。
『ふふふ………ご苦労さん』
_______蠍のような道化師が、蟹の意匠が施されたボトルを拾いながら、不吉な笑みを浮かべていた事を。
◆
一方その頃。
「ハァッ!オリャァ!」
『成る程、なかなかやるねぇ』
ほぼ全てのトルーパーを蹴散らしたグリスは、依然ナスティシーカーと交戦状態にあった。
グリスも強いが、相手のシーカーも攻撃を躱し、隙あらば反撃を加え、なかなかの曲者だった。
「んだよ………結構楽しめんじゃねェかァ………ッ!」
『やれやれ、バトルジャンキーというものは怖い、ねぇっ!』
グリスのツインブレイカーによる突きの攻撃を、ミストブレードでどうにか受け流す。シーカーも攻撃を躱し続けているが、グリスの方が場数は上。やはりその攻撃の重さは、一筋縄ではいかなかった。
『全く骨が折れるよ、猿渡一海。もう少し手加減してくれても、いいんじゃないかな?』
「へッ……戦いに手加減なんかあっか………つーかよッ!」
何度目か分からないツインブレイカーの攻撃を仕掛けながら、グリスがふと問いかけた。
「てめェ………一体どこで
『ふん。そんなもの_______』
答えながら攻撃をしようとして_______止まった。
ふと、シーカーは疑問に思った。
_______自分はどこで、『猿渡一海』という名前を知った?
確かに相手は仮面ライダーグリスとは名乗ったが、本名は言っていない。猿渡一海は今日初めて遭遇した、言うなればイレギュラーな存在。それなのに何故自分は、彼の名前を知り得た?
頭が軋むような感覚。
まるで記憶を強引に揺さぶるような気持ち悪い感覚をシーカーは、神大は感じた。
『くっ…………鬱陶しいッ!!』
その痛みを振り払おうとして、やけくそ染みた銃撃を行う。が、グリスには当たらず、当然のごとく躱された。
「あん?……なんだか知らねえが、これで終いだ!」
グリスはそんなシーカーの様子を疑問に思いながらも、長い時間続いた戦闘を終わらせるチャンスを、逃すわけにはいかなかった。
アクティベイトレンチを勢いよく下げ、肩部装甲からゼリー状のエネルギー物質を放出し、空高く飛び上がる。
そのまま黒金のエネルギーを纏いながら、強力なキックを放った。
【スクラップフィィニッシュゥッ!!】
「オリャァアッ!!」
『ッ!?グアッ!?』
シーカーはそれをもろに喰らい、後方へ大きく吹き飛ばされる。
そのまま数度地面を転がり、変身が解除された。頭を押さえながら、顔を上げ歪める。
「くっ_____今日のところは、引いておこうかな…………!」
頭の痛みを未だに覚えながらも、神大はリバースチームガンの引き金を引き、その場から消えていった。
「………ようやく、終わったか」
グリスはそれを追おうとせず、ゼリーを抜いて変身を解除した。
そしておもむろに地面へ寝転がり、大きく手足を広げ、叫んだ。
「______あーーッ!!疲れたーーーーッ!!ちっくしょぉ、こんな時にみーたんの抱き枕があればなぁ………」
ドルヲタはそれから数分後に立ち上がり、倒れた士道と側にいた十香を連れて、旅館へと戻っていったという。
◆
ビルドとクローズがオーバースマッシュを倒してから、どれほど道を進んだだろうか。
「っ、おい!」
「………!あれは____」
併走していたビルドとクローズは、同時に喉を震わせた。
そう。木々が放射状に薙ぎ倒された森の上空に、激突を繰り返す耶倶矢と夕弦の姿を見つけたのである。
「耶倶矢ッ!」
「夕弦ッ!」
二人は叫び、足を止めた。
今ここで二人を止めねば、きっそ二人の間で決着がついてしまう。
そしてそれが意味することは______どちらか片方の、死。
もし万が一それが成されなくとも、二人が
ならばこそ二人を共に救うためには、今ここで、彼らが封印を施す他ないのだ。
「二人ともやめろっ!今すぐ戦いをやめるんだッ!」
「二人とも生き残れる道があるんだっ!話を聞いてくれッ!」
叫ぶが、二人とも聞こえていないようだった。二人を覆うように渦巻く風の壁が、外からの音をシャットアウトしてしまっているのだ。
「くそッ、どうすりゃいいんだよ!」
「なんとかして、あの風を退かせれば…………」
言いかけて、戦兎は自身とクローズの両手に握られた武器を見て、閃いた。
そして逡巡の躊躇いの後_____唾を飲み込んで、クローズに問うた。
「おい、万丈」
「あ?なんだよこんな時に!」
「_____あいつと、耶倶矢とキスする、覚悟は出来てるか?」
「は_____はァッ!?」
突然の問いかけに、クローズが大きく戸惑う。が、構わずに続けた。
「出来てるか出来てないかって聞いてんだ!いいか、あいつらを救うには、俺らがあいつらにキスして、霊力を封印するしかない!これは分かってるだろ!?お前だって救うって、さっき啖呵切ったじゃねえか!……今ばっかりはお前の恋人の事は関係ねえ!出来るか出来ないか、言え!」
「出来るか出来ないかって…………だぁーもうっ!分かったよ!あいつを救うためだったら、それくらいしてやるっ!」
クローズも少し強引感が否めないが、覚悟を決めたようだった。
その返答を聞き頷いたビルドは、作戦を説明した。
「いいか、俺らがあいつらを助けるにはまず、あの風をどうにかしなきゃいけない。だから、今から俺らの出せる最大火力の必殺技で、あの風を切り裂く」
「はぁっ!?いや、それしかダメなのかも知んねえけど………下手すりゃ、あいつらが巻き添えを食らうじゃねぇか!」
「二人が離れた瞬間を狙う!下手すりゃぶっ倒れるだけじゃ済まねえけど、覚悟は出来てんだろッ!?俺はもう出来てるッ!」
「ッ!」
そのビルドの叫びを聞き、クローズは改めて、上空を見据えた。
未だに空では二人の精霊が、容赦も手加減もない
口々に互いを讃えながら。
一挙手一投足相手を慮りながら。
一撃毎に愛を伝えながら。
どうしようもなく互いが大好きで、どうしようもない不器用者たちの、どうしようもない歪な戦いが、続いている。
______自分自身を殺して、相手の明日を繋げるために。
______そんなことは、到底許容できない。
「ああ………やってみる。いや………やってやるッ!」
「その意気だ。……気ィ入れろよッ!」
ビルドとクローズは互いに拳を当て、そして_____上空で馬鹿騒ぎを続ける不器用者どもを視界にとらえた。
ビルドはボルテックチャージャーを回し、ドリルクラッシャーにラビットボトル、アイスボックローをチェーンソーモードで、ザドキエルエンジェルボトルを装填し、エネルギーを溜める。
クローズはアクティベイトレンチを下げ、ビートクローザーにロックボトルを装填してグリップエンドを三度引き、ツインブレイカーにドラゴンボトルをセットしたクローズドラゴンを装填した。
「ッ!くっ………こいつは………ッ!」
「まだだ………ッ!まだ、速えッ!」
しかしその膨大なエネルギーの奔流が、徐々にビルドとクローズの身体を蝕む。
特にビルドは、ただでさえ負担の大きいエンジェルフォームで、その上長時間変身したままなのだ。もし仮に成功しても、気絶するだけで済むかどうか。
しかし、そんな事は今、彼らの頭の中には無かった。
身体を震わすエネルギーの暴流も、鼓膜を揺らす風鳴りも思考の埒外に置き、ただ一つのことだけを心に描く。
耶倶矢と、夕弦。偶然か必然か、二つに分かれてしまった精霊。
生まれた瞬間から、どちらかが消えることを運命付けられた存在。
しかしそれを認識してなお_____二人は今、互いを生かそうと、最愛の半身を相手に戦っている。
戦兎は、ギリと奥歯を噛み締めた。
「______そんなこと、させて、たまるかよッ!」
そう。あんなにも、馬鹿みたいに優しい二人を、どちらか消してしまうなんて、どちらかの明日が消えるなんて、そんなことあってはならない。
だからこそ、二人の決着が付く前に。
二人の崇高な決闘とやらをぶち壊す、絶対的な瞬間を_____
「ッ!!今だッ!!」
その瞬間を、ビルドは見逃さなかった。二人が離れた、これ以上ないチャンス。この機を逃したら、もう次はない______ッ!!
「万丈ォッ!!!」
「よっしゃァッ!!」
そして、溜まりに溜まった一撃必殺のエネルギーを、全身全霊を込めて________
裂帛の気合いとともに、渾身の一撃を空目掛けて振り下ろした。
瞬間、凄まじいエネルギーの、暴力的なまでの奔流が溢れ、龍の咆哮を上げながら空へ向かって伸びていった。
そしてそのエネルギーは上空に吹き荒れていた風の城を容易く切り裂き、耶倶矢と夕弦の間を通るようにして空へと抜けていった。渦巻いていた雲が真っ二つに分かれ、今まで隠れていた月が顔を出す。
すると辺りに吹いていた風が嘘のようにピタリと止み、狼狽に満ちた声が聞こえてきた。
「な______」
「焦燥。これは………」
互いに槍とペンデュラムを向け合っていた耶倶矢と夕弦が目を丸くし、今の斬撃の出所を探ってか、下方へと目を向けてくる。
そして二人はそこにビルドとクローズの姿を認めると、途端に眉をひそめた。
「龍我、戦兎………!?もしかして、今のあんた達が………?」
「驚愕。凄まじいエネルギーでした」
ビルドとクローズは手の力が抜け、両手に握った武器を地面へ落とした。今にも倒れそうな身体を歯を食いしばって立ち上がらせ、二人の問いに応ずるように口を開いた。
「耶倶矢______!」
「夕弦………ッ!」
これまでの戦いと、今の渾身の一撃により、全身が軋むように痛んだ。だが、今を逃しては二人に声を届かせることなどできない。喉よつぶれよと言わんばかりに、大声を張り上げる。
「頼む………!戦いを、止めてくれッ!」
「これ以上………お前らが傷つき合う必要なんか、無えんだッ!」
しかし二人が訴えかけると、耶倶矢と夕弦は不機嫌そうに顔を歪めた。
「……あんたら、聞いてなかったの?私と夕弦は、どちらかがどちらかを取り込まないと存在出来なくなっちゃうの」
「同調。その通りです。邪魔をしないでください。今この分からず屋に、耶倶矢がどれだけ優れた精霊かを教え込んでいるのです」
「っ、まだ言うか………!私なんかが生き残ったって仕方ないって言ってるでしょ!?なんで分かんないのよこの馬鹿ッ!夕弦、あんたが生きるべきなのッ!」
「否定。そうは思いません。耶倶矢こそ大馬鹿です。耶倶矢こそが生きるべきです」
「あんたは………!」
「激昂。耶倶矢こそ______」
「______いい加減にしろッ!テメエらァッ!!」
「「!?」」
耶倶矢と夕弦の口論を遮るように、クローズが声を張り上げて叫んだ。
その気迫に、耶倶矢と夕弦が一瞬押し黙る。
「さっきから聞いてりゃあよ…………!俺から言わせれば、お前ら二人とも大馬鹿野郎だッ!!自分が消えればいいなんて、そんな事軽々しく言うんじゃねえッ!!お前ら、お互いの事が大好きなんだろ……!?だったら、生かされる奴の気持ちを、ほんの少しでも考えたのかよッ!?」
「「………ッ」」
「例えお前らどっちかが生き残ったってなぁッ!残された奴は相手を死なせたことを、ずっと心ん中で後悔し続ける!それでいいのかよ………!?お前らは、誰よりも大好きな奴が死んだ世界で、楽しく生きられんのかよッ!?」
クローズがまるで自分自身にも向けるかのように、裂帛の気合いで叫ぶ。
「………ったく万丈、馬鹿が馬鹿って言ったって、説得力ねえぞ?」
「うるせえよ!馬鹿って言うなよ!せめて筋肉つけろ!」
「その通りだろ!俺の言いたいこと全部言いやがって!」
「んだと!?」
こんな状況でもいつもの調子で喧嘩をする。
しかしその言葉の通り、クローズが今放った言葉は、ビルドが言おうとしていたことだった。
しかしその言葉を聞いた耶倶矢は何かを吐き出すように口を開き、夕弦は半眼を作った。
「……知った風な口を利かないでよ………ッ!あんたなんかに、私達の何が______」
「分かるさ。この馬鹿にも、俺にも。お前らより先に知ってることが一つだけな!」
「……質問。それは?」
夕弦の問いに、二人で答える。
「夕弦は、耶倶矢の事を思う気持ちが耶倶矢自身よりずっと強くて_______」
「耶倶矢は、夕弦の事を夕弦自身よりもずっと大切にしてるって事だッ!」
「_____っ、それは」
「……………」
二人が言葉を失ったように黙りこくる。ビルドとクローズは今にも倒れそうな身体に活を入れ、全身の力を振り絞った。
「耶倶矢、夕弦ッ!お前らには今、三つの選択肢があるッ!」
ビルドが最初に叫び、クローズが指を一本、ビルドが指を二本だす。
「一つ!耶倶矢が夕弦を取り込んで、真の八舞とやらになる!」
「二つ!夕弦が耶倶矢を取り込み、真の八舞になる!」
ビルドとクローズの言葉を聞いた二人は、答えなど決まりきっている、という顔を浮かべながらも答えようとして_____それより先に、二人が同時に叫んだ。
『三つ!精霊の力を失う代わりに、
『………ッ!?』
二人が言い放った瞬間、耶倶矢と夕弦は目を丸くした。
「は………?何ですって?」
「要求。今、なんと」
「ッ、ガハッ、ガハ………」
「っ、おい戦兎……!?」
「大丈夫だ………」
ビルドがマスクの下で激しく咳き込み、クローズが心配そうに声をかける。
口元に、ぬめりとした感覚があり、舌先が鉄のような味を覚える。恐らくは吐血したのだろう。
だが、ここで止める訳にはいかない。血を飲み込んで、声を絞り出す。
「_____今の俺達にはどう頑張っても、これ以外の選択肢が見当たらねえ。でも悪いな、俺たち仮面ライダーには、諦めるなんて選択肢、ハナっから無いもんでな」
「何を……言ってるの?そんなこと、出来るはずがないじゃない」
「疑念。そうです。そんなの、聞いたことがありません」
耶倶矢と夕弦が、疑わしげな目を向けてくる。当然だ。いきなりこんなことを言われても、信じられるはずがないだろう。
だがそれでも、続けて叫んだ。
「出来るんだよッ!俺とこいつなら!お前ら二人の明日を、繋げることがッ!頼む!一度だけでいい!お前ら二人を救う、チャンスをくれ!もし失敗なんかしたら、煮るなり焼くなり、なんなら殺してくれたって構わない!だから………!」
「………できる訳がない……そんな、こと……あり得ない……!」
「あり得ないことをあり得るようにするのが、ヒーローの、仮面ライダーの仕事だ!現に今、お前ら自慢の暴風を割ってみせただろ!」
「っ………」
「思案。…………」
耶倶矢と夕弦が言葉を失い、目を見合わせる。言葉の真意を探っているというよりは、急な事態に混乱している様子だった。
「だから____やめろっ!もうお前らが、争う必要なんか無いんだよっ!どっちかが死ぬ、必要、なんて…………」
言葉の途中で、戦兎は激しい目眩を感じ、その場に倒れ込んでしまった。同時に変身が解除され、アーマーが粒子となって消える。
「戦兎!おいしっかりしろ、戦兎っ!」
クローズが心配そうな声を発し、肩を揺する。だが、それに答えることはできなかった。
一応意識はあるのだが、ひゅうひゅうと喉から空気が漏れるばかりで、声を発することができない。さらには全身激しい倦怠感と痛みに出血、吐血と来たものである。どうやら______戦兎の身体は、とうに限界を超えていたらしい。
「………………」
「………………」
上空では、耶倶矢と夕弦がジッと見つめ合っていた。
_______耶倶矢が、静かに口を開く。
「………だってさ。どう思う?夕弦」
「不信。信じられません。いくら彼らが強くても、精霊から力を奪うなんて聞いたことがありません」
「だよねー……私も同意見」
「ッ、お前ら………!ぐっ………」
クローズが反論しようとするがしかし、言葉は続かなかった。
変身が解除され、全身を激しい痛みと倦怠感が襲い、その場に倒れこむ。
「くそ………っ、俺もかよ………っ………」
悔しげに吐き捨てながらも、抗えずに地面へと倒れる。
戦兎はそれを見やり、二人の言葉を聞くと、視界が滲むのを感じた。
______止めろ、止めろ。俺には、俺たちには、お前らを救える力があるのに。手を伸ばせば届くのに、掴めるのに。
しかし、戦兎の声にならない声は空に届くことはなかった。耶倶矢と夕弦が、万丈が倒れる様子を見やった後、互いの目を見据えながら言葉を続ける。
「………龍我もぶっ倒れちゃった。まったく二人にも困ったもんね。二度も邪魔してくれちゃって」
「同意。まったくです。せっかく耶倶矢を倒せるところだったのに」
「何言ってんの。私こそ今必殺の一撃を放つとこだったし」
「嘲笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)ですか」
「うッ、うるさい。もう一度言ったらマジで怒るかんね」
「応戦。どうぞ好きにしてください。どうせ勝つのは夕弦です。夕弦が、耶倶矢を生き残らせてみせます」
「そうはいかないもんね。私が勝つわよ。あんたは、生き残らなきゃなんないの」
「反論。耶倶矢こそ」
耶倶矢が槍を、夕弦がペンデュラムを構える。辺りに、再び風が吹き始めた。
______だが。
「………ねえ、夕弦」
「応答。何でしょう」
「あくまでもしもの話。イフの話。可能性の話だけどさ。_______もし二人の言うことが本当だったら、どう思う?」
「請願。考える時間を下さいますか?」
「認める。ただし三十秒」
「……………………」
「はい、終わり。どう?」
「応答。…………とても、素敵だと思いました」
「………ふうん。案外ロマンチストなのね」
「憮然。そういう耶倶矢はどうなのですか?」
「………奇遇ね、私も同じこと考えてた」
「質問。もし二人とも生き残れたら、耶倶矢は何がしたいですか?」
「私?そうねえ………あ、十香が言ってた、きなこパンっての食べてみたいかも。何でも至高の美味らしいし」
「同意。それは美味しそうです」
「夕弦は?」
「回答。______夕弦は、学校に通ってみたいです」
「ああ………いいわね。あはは、夕弦ならきっと学校中の男たちの憧れの的よ」
「否定。それはないと思います」
「へ?なんで?」
「応答。だって、耶倶矢も一緒だからです。きっと耶倶矢の方が人気が出ます」
「は、は………私も一緒?」
「肯定。だって、もしもの話です。制限を与えられた覚えはありません」
「ああ………そうだっけ。そうね、じゃあ放課後は街をぶらつこっか」
「同意。それは素敵です。喫茶店に入ってみたいです」
「はいはい分かってるわよ。でもちゃんと割り勘だかんね?」
「否定。それは不平等です。耶倶矢の方がいっぱい食べます」
「そ、そんなに変わんないし」
「疑問。そうでしょうか」
「………………」
「………………」
その言葉を最後に、二人がしばしの間無言になる。
風鳴りの中、声を再開させたのは、耶倶矢の方だった。
「………ねえ、夕弦」
「応答。なんでしょうか」
「ごめん、私、嘘ついてた。………私、」
耶倶矢の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「私、死にたく、ない………生きたい。夕弦と、もっと一緒にいたいよ………!」
「応と________、」
次いで夕弦の頰に、涙が一筋伝った。
「夕弦も………です。消えたく、ありません。耶倶矢と、生きていたいです………!」
「夕弦………!」
「耶倶矢………!」
二人が視線を合わせ、同時に唇を動かす。
『_________』
だが、二人の喉から発された声は、互いに届くことはなかった。
「何………?」
「注視。あれは_______」
耶倶矢と夕弦が空を仰ぎ見る。
そこには後部から黒煙を噴いた、巨大な黒い戦艦が浮遊していた。
どうでしたか?
色々詰め込んだ結果、今回は長くなってしまいました。
原作のフラクシナスとアルバテルの艦隊戦は、書いても原作コピーになるのでカットさせていただきました。気になる方は原作5巻を読んでみてください。一応次回に事のあらましを簡単に書きますが。
さて、次回でようやく八舞編も終わります。それで前に告知した劇場版編ですが、美九編の後に書こうかと思います。
理由といたしましては、時系列的に結構ややこしくなるのと、そっちの方が何かとストーリーとかが組み立てやすいってのがあります。もう少しだけお待ちください。
明日はいよいよジオウの映画ですね。朝一で見に行きます!
それでは次回、『第52話 ベストマッチな二人』をお楽しみに!
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