デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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今回はメイン三人がストーリーの都合でぶっ倒れてるので、あらすじ紹介は無しでいきたいと思います。決して手抜きとかじゃないですから!(必死)

投稿間隔の振り幅が大きかった八舞編も、いよいよこれでラストです!

それでは、どうぞ!


第52話 ベストマッチな二人

「艦長!これ以上高度を下げては危険です!不可視迷彩(インビジブル)を張っていない状態では、住民に気づかれる恐れが______!」

 

「黙れェ!」

 

_____冗談ではないッ!

 

DEM空中艦【アルバテル】の艦長パディントンは、苛立ちを堪えきれずに一喝した。

 

今回の作戦、アルバテルやバンダースナッチ、そしてデウストルーパー、エレン・メイザースの能力を以ってすれば、成功以外あり得なかったのだ。

それが今ここまで失態を重ねた理由______全ては、あの忌々しい【ラタトスク機関】の所為だ。

 

精霊を懐柔し、空間震を解決させようなどという酔狂な集団にしてやられたという事実など、パディントンにとってこれ以上無い失態だ。

それを帳消しにするならば、それを補って余りある成果が必要になる。

パディントンは、画面上に映し出された二人の少女を睨み付けた。

 

先程通信が途切れる直前にもたらされた情報によれば、あれが彼の精霊【ベルセルク】であるという事だった。

 

遠隔制御室(コントロールルーム)の消火は済んだな!?艦に残っているバンダースナッチを全て発進させろ!なんとしても【ベルセルク】と【プリンセス】を拿捕するのだ!」

 

「し、しかし!」

 

「いいからやれッ!」

 

パディントンの怒号から一拍おいて、クルーが奥歯を噛みながらコンソールを叩いた。

 

 

 

 

「_____何よ、あれは」

 

「同意。空気を読んで欲しいです」

 

耶倶矢と夕弦は上空に現れた巨大な鉄の塊を見上げながら、不機嫌そうに声を発した。

せっかく最愛の半身と和解し合えたというのに、絶妙なタイミングでそれを邪魔されてしまったのである。

 

その上、戦艦の下部のハッチらしき部分が開いたかと思うと、そこからバラバラと、手足や背に様々な武器を積んだ人形が落ちてきたのである。

しかもその人形達は、空中で背のウイングを広げると、存外軽やかに空中を旋回し、耶倶矢と夕弦を取り囲むように飛び始めた。

そして次の瞬間、その人形達が、右手に備えた筒のようなものを二人に向け、そこから光線を発してくる。

 

「うおっ!?」

 

「…………!」

 

耶倶矢と夕弦はすんでのところでそれを躱すと、キッと人形を睨み付けた。

が、すぐに他の人形たちもそれに追随するように砲を構え、耶倶矢たちに攻撃を仕掛けてくる。

 

「く、なんだこの人形たちは!」

 

「攻撃。鬱陶しいです」

 

耶倶矢と夕弦はそれぞれ槍とペンデュラムを構え、周囲の人形達を吹き飛ばしていく。

が、吹き飛ばされた人形たちは、何事もなかったように姿勢を直すと、再び二人に向かってきた。

耶倶矢と夕弦は不快そうに眉を歪めた。

 

「む………気味の悪い輩よ」

 

「同意。正直触りたくありません」

 

耶倶矢と夕弦は再び人形を吹き飛ばすと、再び上空を仰ぎ見た。

まだ人形は打ち止めでは無かったらしい。またもバラバラと、巨大な艦から人形が投下される。

 

二人はそれを見てうんざりと眉を歪めると、全く同時に口を開いた。

 

「あのさ、夕弦」

 

「提案。耶倶矢」

 

声が綺麗に重なる。耶倶矢と夕弦はキョトンと目を丸くすると、顔を見合わせた。そして何処からともなく、「ふふっ」と声が漏れる。

 

「やっちゃう?」

 

「肯定。やっちゃいます」

 

二人は小さく頷き合うと、耶倶矢が左手を、夕弦が右手を差し出し、ぴたり、と合わせた。

 

すると二人の霊装と天使が光り輝き_____耶倶矢の右肩に生えていた羽と、夕弦の左肩に生えていた羽が合わさって、弓のような形状を作った。

次いで夕弦のペンデュラムが弦となって羽と羽とを結び_____耶倶矢の槍が、矢となってそれに番えられる。

 

今度は、耶倶矢が右手で、夕弦が左手で。

 

霊装の鎧に包まれた手で以って、左右から同時にその弦を引いた。

最大まで引いた弓を、上空の戦艦へと向ける。

そして。

 

 

 

『【颶風騎士(ラファエル)】_________【天を駆ける者(エル・カナフ)】!!』

 

 

 

二人が、全く同時に手を離し、その巨大な矢を、天高く打ち上げた。

瞬間、これまでが比べ物にならない程の風圧が、周囲を襲う。

 

彼女らの直下にいた戦兎と万丈はまだ良かったが、二人に飛びかかろうとした人形は、その余波だけで吹き飛ばされ、残った木々は薙ぎ倒されて、森が波打つようにざわめいていく。

 

風の加護を持った矢の進行を止められるものなど、この世界に存在しない。

 

絶対にして無敵の一点集中攻撃。

 

八舞たる二人、耶倶矢と夕弦______()()()()()()な二人が一つになって初めて放たれる、最強の矢。

 

人間の産物の戦艦に、それを防げる道理などあるはずがなかった。

 

巨大な戦艦は瞬く間に颶風騎士(ラファエル)の矢に貫かれ、それの纏った風圧により内部を滅茶苦茶に破壊され_____巨大な爆発を伴って夜空を赤く染めた。

 

 

 

 

「………く、ぁ……」

 

呻きのような声とともに、折紙はうっすらと目を開けた。

視界に映るのは、四角い照明に照らされた旅館の一室の天井であった。脇腹に鈍い痛みが走る。

顔をしかめながら胸元に触れてみると、湿布と包帯で手当が施されている事が分かった。

 

「一体、何が…………」

 

「……ああ、目覚めたかい」

 

と、枕元から、眠たげな声が聞こえてきた。副担任の村雨令音だ。

 

「先生……ここは」

 

「……私の部屋だ。外で君が倒れていたのでね、悪いが運ばせてもらったよ。他の生徒に見つかっては騒ぎになってしまうだろうからね」

 

「あの………人形は____」

 

「人形……?ああ、あれか。君の倒れていた近くで、固まっていたよ」

 

「______そう」

 

折紙は短く言うと、軋む体をどうにか起こした。

 

「……無理をしない方がいい。今日は大人しくしていたまえ」

 

「この治療は、先生が?」

 

「……ああ。有り合わせで悪いがね」

 

「いえ。………感謝します」

 

「……どういたしまして、かな」

 

言って、令音が肩をすくめる。折紙は声を続けた。

 

「先生、その、人形のことは」

 

「……誰にも言わないさ。その方がいいんだろう?」

 

「…………」

 

折紙は無言で令音の顔を見返した。

 

………この村雨教諭、倒れた所を運んだようだが、あの人形を目の当たりにしていながら、妙に落ち着いている気がした。その上で冷静に折紙に手当を施し、それを誰にも話していないと来たものだ。

確かに折紙としても、あの件を無闇矢鱈と広めて欲しくなかったのだが……何と言うのだろうか、少々優秀すぎる気がしないでもなかった。

 

だが、折紙はそんな思考を中断し、もっと大事なことを訊いた。

 

「_____士道」

 

「………ん?」

 

「士道は、どこ」

 

「………ああ、無事だよ。もう旅館にいる。ただ少しばかり怪我をしたようでね、別室で寝かせているところだ」

 

「………っ!」

 

怪我をした、という言葉を聞き、折紙は布団から這い出る。

しかしその場に立ち上がった瞬間、腹部に鈍い痛みが走り、折紙は膝をついてしまった。

 

「う………っ」

 

「……だから言っただろう。無理はいけない。なに、大丈夫さ」

 

「……………く」

 

折紙はその場に四つん這いになったまま、畳に拳を突き立てた。その衝撃でまたも腹部に軽い痛みが走るが、構わずもう一度畳を殴る。

 

ただの一撃。武器を使ったわけでもないただの一撃で、これである。

 

あまりにも、無力で、あまりにも弱い。

折紙は自分の脆弱さを呪い、ぎりと奥歯を噛んだ。微かに血の味がした。

 

「_______たい」

 

「……うん?」

 

自分に言い聞かせるように、折紙が唱える。

 

「強く……なりたい。何にも頼らず………士道を、守れる………くらいに……ッ」

 

「…………」

 

その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか_____令音は、静かに目を伏せて折紙の肩に、優しく上着を掛けた。

 

 

 

 

「くっ………うぅ………」

 

「ッ、シドー!」

 

士道は全身に激しい倦怠感を覚えながら、うっすらと目を開けた。

 

「気がついたか、シドー!」

 

「ようやく目ぇ覚ましたか」

 

「……一海、さん………十香………ここは……」

 

「旅館だ。突然倒れたシドーを、かずみんがここまで運んでくれたのだぞ」

 

「倒れた……?っ」

 

十香の言葉に、ハッとなる。

確か自分は、マイティと戦って、それから________琴里の力を使って、その場から逃げた、筈だ。

 

「ッ、そうだ、戦兎…………ッ」

 

立ち上がろうとするも、力が入らず、その場で転がってしまった。

 

「ぐ………っ」

 

「無理すんな。なんでもお前、凄かったらしいな。今日はもう休んどけ。戦兎達なら戻ってくるさ」

 

「一海さん………」

 

一海がやれやれといった感じで笑いながら、布団を掛け直す。

そして再び、口を開いた。

 

「………けどまぁ。お前の覚悟は、貫き通せたんじゃねえか?」

 

「………そう、ですね………」

 

一海さんが言った、その言葉を聞き、士道は少し笑って____再び、眠りについた。

 

 

 

 

「………アルバテルは沈んだか。まあ、予想通りといえば予想通り、かな?」

 

或美島の森で、神大は端末を操作しながら呟いた。バンダースナッチが機能を停止した事からも間違いないだろう。

それを確認した神大は、端末を閉じた後、思い出したように不快な表情になった。

 

「それにしても………あれは一体、何だったんだ」

 

もう一度頭をさすり、先の出来事を思い出す。

 

あの瞬間______確かに激しい頭痛と、記憶が揺さぶられるような現象が起こった。

今まで味わったことの無い、自分の手の届かない所を痛めつけられるような、この上なく気持ち悪く、嫌な感覚。

 

あれが何なのか______考えようとしても、霧がかかったように思考が纏まらず、糸が絡まったようにぐちゃぐちゃになった。

 

「全く、もうこんな事は無いようになって欲しいものだねぇ………」

 

神大は不快そうな表情を隠し切れずに、再び、森の中を歩き始めた。

 

______その痛みが、自分の運命を歪める事になるなど、この時は考えもせずに。

 

 

 

 

「______おい、龍我よ。そろそろ起きんか」

 

「______呼掛。戦兎、起きてください」

 

意識の遠いところから、声が聞こえる。

 

「う………んぅ?」

 

「ぁ………あぁ?」

 

戦兎と万丈は、混濁した意識をどうにか立ち上げ、うっすらと目を開けた。

視界に映ったのは、自分を見上げる、耶倶矢と夕弦の姿だった。

 

「む、ようやく起きたか。この寝坊助め」

 

「同調。膝が疲れました」

 

戦兎達が目を開けたところを見て、耶倶矢と夕弦が呆れたような、しかし嬉しげな笑みを浮かべて話す。

 

「…………は?」

 

「…………ん?」

 

思わず唖然とし、そこでようやく自分が、何やら柔らかい物に頭を預けている事に気づく。

視界に映る顔とその感覚から、自分たちが膝枕をされているという事実にようやく気付いた。

 

「うっ、うわっ、悪い!今すぐどくから………いっ!?」

 

「あ?どうしたんだ………うっ!?」

 

二人が退こうとするも、身体に上手く力が入らず、さらには激しい痛みが全身を襲う。

しかしどうにか力を振り絞って起き上がり、周囲を見渡す。耶倶矢と夕弦が正座をしながら笑っている姿と、薙ぎ倒された木々、日が昇りかけている夜空が目に映った。

 

「無理をするでない。あれ程の怪我だ、仕方あるまい」

 

「同意。無理をしないでください」

 

「いや………大丈夫だ。お前らが、助けてくれたのか?」

 

「ああ。くく、砂浜で無様に倒れていたからな。こうして我らが直々に膝枕をしてあげた、という訳だ」

 

「解説。膝枕をすると言い出したのは耶倶矢ですが、すぐに赤くなって照れていましたよ」

 

「なっ!?て、照れてないし!夕弦、適当言うなし!」

 

夕弦の冷静な言葉に、耶倶矢が顔を真っ赤にして反論する。

その様子を見て、戦兎と万丈が顔を見合わせ、互いにくしゃっと笑った。

 

「む……?何がおかしいのだ」

 

「同意。どうしたのですか?」

 

「いや………そんな風に二人で笑い合えるようになって、本当に良かった」

 

「ああ。………もう、生かし合わなくて済むな」

 

二人がそう言い、再び笑う。これまでの様子からは考えられないくらいの、仲直り振りだったのだ。

すると耶倶矢と夕弦がキョトンとし、二人に顔を合わせた。

 

「まだだぞ。龍我よ」

 

「同調。その通りです、戦兎」

 

「え?」

 

「あん?」

 

()()だ。龍我よ、早く我らの力を封印して見せよ」

 

「同意。まだ時間はありますが、早いほうがいいです」

 

「「あ」」

 

耶倶矢と夕弦のその言葉に、ハッとなる。

今までぶっ倒れていて忘れかけていたが、まだ二人には封印を施していない。

 

戦兎と万丈は顔を見合わせると、気まずげに視線を逸らした。

 

「あー、それはほら………万丈、やれよ」

 

「はぁ!?なんで俺が先なんだよ!お前からやれよ経験者だしよ!」

 

「経験者とか言うなよ!なんか言い方に悪意あっから!」

 

二人が言い合うのを見て、耶倶矢と夕弦が不満げに漏らす。

 

「なんだ、我らの力を封印するというのは嘘だったのか?もしこの颶風の御子に虚言など吐いたなら、その骨すら残らぬと思え」

 

「私刑。ぼこぼこです」

 

「は!い、いや、嘘じゃねえよ。なあ、万丈?」

 

「あ?お、おう!その通りだぜ!」

 

二人で思わず肩を組み、笑ってサムズアップしてみせる。

 

『……………』

 

二人は疑わしそうな目で戦兎と万丈を見た後、小さく息を吐いた。

 

「くく……まあ良いだろう、信じてやる。……と、そうだ」

 

「想起。大事な事を忘れていました」

 

二人がポンと手を打ち、口を開く。

 

「………戦兎、龍我。まあ、なんというか、ありがとうね。いろいろと」

 

「多謝。二人のおかげで、耶倶矢と争わずに済みました」

 

「いや、んなこと………」

 

「気にすんなって」

 

急にしおらしくなられ、少し面食らう。万丈は顔を逸らして頰を掻き、戦兎は困ったように苦笑した。

と、耶倶矢と夕弦は互いに目配せしてから、二人に視線を戻してきた。

 

「だから、まあ、つまんないものだけど、お礼にと思って」

 

「請願。目を閉じていてください」

 

「は?目って、なんだよ」

 

「い、いいから!少しの間だけ、目を閉じているがいい!」

 

耶倶矢に押し切られ、万丈が観念したように目を閉じる。

 

「請願。戦兎も」

 

「へ?あ、うん」

 

戦兎も慌てて目を閉じ、大人しくする。

すると_____

 

「「…………!?」」

 

戦兎の唇と万丈の唇に、同時に柔らかい感触が生まれ、二人とも目を白黒させた。

そう。耶倶矢が万丈に、夕弦が戦兎にそれぞれ同時に口付けてきたのである。

 

「な、な…………!?」

 

「お前ら、何を______」

 

「だ、だから言ったでしょ、お礼代わりって。私と夕弦なんて超絶美少女のファーストキスよ?喜び舞い踊るならまだしも、その反応はなんなのよ」

 

「謝罪。ご迷惑でしたか」

 

耶倶矢が顔を赤くして腕組みし、夕弦がすまなそうに顔を俯かせる。と______

 

「な…………」

 

「驚愕。これは_______」

 

耶倶矢と夕弦は喉から狼狽に満ちた声を発した。だが無理もあるまい。

何しろ彼女らの身に纏っていた拘束衣と鎖が光の粒子となって消え、戦兎と万丈の手の平に収束していったのだから。

 

「おい戦兎、これって………」

 

万丈が確認するように訊くと、万丈の手のひらの光の粒子は、紫色の槍と、右向きの銀の翼の意匠が施された橙色のボトルへと変化した。

戦兎の方は、青色のペンデュラムと、左を向いた銀の翼の意匠が施された、万丈のそれと同じ橙色のボトルに変化した。

 

「う、うきゃぁぁぁッ!?」

 

「狼狽。えっちです」

 

すると二人が揃って胸元を覆い隠し、その場にうずくまる。戦兎と万丈は慌ててフォローに回った。

 

「お、落ち着いてくれ!実は、今のキスが霊力の封印に必要な事だったんだ」

 

「と、とりあえずこれ着とけ!」

 

万丈が顔を赤くして目を逸らしながら、慌てて腰に巻いたスカジャンを耶倶矢に被せ、戦兎もワイシャツを脱いで夕弦に掛ける。

 

「うわっぷ!?……うぅ、こんなのなんて、聞いてないし…………」

 

「憤怒。こうなるならちゃんと説明してください。ぷんすかです」

 

耶倶矢と夕弦が掛けられた服を縋るよう掴みながら、涙目で抗議してくる。

戦兎と万丈はそれを見ると困ったような顔になり、全身の痛みに耐えながら、二人を慌てて宥めた。

 

 

 

 

嵐が吹き荒れた夜が明け、翌日。

旅館から出発した戦兎達は、天宮市に帰るため空港にやってきていた。

着替えなどを纏めた荷物を預け、幾つかの注意事項を説明された後、飛行機の出航まで待機するよう言われた生徒たちは、お土産を漁ったりフードコートで空港グルメを食べたりしていた。

 

「………若さっていいなぁ」

 

「………何年寄り臭い事言ってんだよ」

 

「………実際この三日間で、ちと年取った気がするなぁ」

 

戦兎と万丈と士道はぐったりとロビーの椅子に腰掛けながら、遠い目をして生徒たちを見ていた。

 

「ならお前も混ざってくるか?」

 

「……やめとく。つか混ざったら死ぬわ」

 

「はは…………。まあ、色々あったもんなぁ」

 

万丈が肩をコキコキと回しながら言い、士道が力なく笑う。

 

「いやー、なんだかんだで一瞬だったなー」

 

と、三人の隣で快活に笑いながら、殿町が言ってきた。

 

「ああ……そうだな」

 

「んだよー、ノリ悪いなー。………つか、桐生と万丈のその怪我、どうしたんだ?」

 

「ああ………気にすんな」

 

「おう………ちと、沖縄のカニに絡まれてな」

 

「そ、そうか………」

 

三人が枯れ果てた老木のような調子でそう答えた。

昨晩の一件以降、三人揃って全身を凄まじい虚脱感が襲っていたのだが______一晩眠ってからは、その上さらに強烈な筋肉痛が加算されていたのである。

まあ、あれ程の激闘を繰り広げた二人と、天使の力を顕現させた士道なら、代償としても頷けるだろう。

そして、耶倶矢と夕弦が救えたなら、この程度安いものなのかもしれないが。

 

なお、旅館を出た後から、耶倶矢と夕弦の姿はなかった。

二人と、ついでに一海はフラクシナスに転送されていたのである。二人は検査で、一海はフラクシナスクルーへの紹介も兼ねてそのまま連れて行くらしい。多分耶倶矢と夕弦に会うのは、全ての検査が終わってから、天宮市に戻ってからになるだろう。

 

「そういえば五河、鳶一はどうしたんだ?今日姿が見えねえけど」

 

「折紙、か………」

 

「そういや見てないな。戦兎、なんか知らねえか?」

 

「あー?いや知らないよ。ずっと寝てたから。ふぁ〜………あぁ、まだ寝足りねえ」

 

士道は頰を掻き、戦兎は欠伸をしながら答えた。

折紙もまた、今朝から姿を見ていないのである。令音の話によれば、嵐が止むのを待ってから近くの病院に搬送されたため、天宮市に帰るのが遅くなるかもしれないとのことだった。

なんでも例のバンダースナッチに襲撃を受けたとのことだったが、大丈夫だろうか。

ちなみに戦兎達は戻ったのが遅かったため、止むを得ず一度天宮市に戻ってから、フラクシナスで再度治療を受ける運びになっている。骨折などは見受けられなかったのが、せめてもの幸いか。

 

すると、遠くの方からタマちゃん先生の声が聞こえてきた。

 

「はーい、皆さーん、そろそろ時間ですので、集まってくださーい!」

 

「お……もうそんな時間か。殿町、お前土産とかはもういいのか?」

 

「ん?ああ、大丈夫だ。すっげえ土産をもう手に入れたからな」

 

「?……まあ、それならいっか」

 

殿町がどこか含みのある笑みを浮かべていたのが気になったが、特に追求しなかった。

 

「さて、俺たちも行くか……」

 

「だな。よっこらせ……と」

 

「いってて………」

 

と、三人がよろめく足に力を入れてどうにか立ち上がると、それに合わせるようにバタバタッという足音が聞こえてくる。

 

「シドー、セント、リューガ!たくさんお菓子を買ったぞ!」

 

言って、両手に土産物屋の袋を下げた十香が、ニッコニコしながら走ってくる。

こちらは昨日あんな事があったというのに、元気百倍全力少女だった。

 

「おいおい、ちょっと買いすぎじゃないか」

 

「そんなことは無いぞ!見ろ、限定味のチュッパチャップスだ。琴里も喜ぶぞ!」

 

心底嬉しそうに屈託のない笑みを浮かべられると、士道は何も言えずにポンポンと頭を撫でて、ゆっくりと集合場所に歩いて行った。戦兎と万丈もそれを見て肩をすくめながら、後に続くように歩いて行った。

 

「はいはい、全員集まりましたかぁ?では、これから飛行機に乗り込みますので、順番に並んでくださぁい」

 

タマちゃん先生がロビーに集まった生徒たちを見渡しながら声を響かせる。

 

「シドー、帰りは私が窓の方でいいか?」

 

「ああ、別に_____」

 

「______それは認められない」

 

「へ?」

 

「うん?」

 

「おい、あれ……」

 

士道の声を遮るように響いた声音に、三人が反応する。

見ると、後ろには身体の各所に包帯を巻いて松葉杖を突いた折紙の姿があった。

 

「お、折紙!?なんでここに!?ていうかその怪我………大丈夫なのか?」

 

「問題ない」

 

折紙は平然と言うと、士道の側にぴとっと寄り添い、再び十香との喧嘩になった。

 

「お、おい!お前ら落ち着けって………」

 

「ハハッ。じゃあ士道、俺ら先行ってるな」

 

「頑張れよー」

 

「ち、ちょっと待てよー!」

 

士道達の痴話喧嘩を冷やかしながら、戦兎達が先に向かう。

すると。

 

 

「____くく………遅かったな、龍我よ」

 

「同意。待っていましたよ、戦兎」

 

 

「え……?」

 

「は……?」

 

前方から聞こえた声に、二人揃って唖然とした。

 

何しろそこには_____昨晩フラクシナスに収容されたはずの、耶倶矢と夕弦の姿があったからだ。

 

「夕弦!?」

 

「耶倶矢!?お前ら、何で………」

 

その背後には令音の姿もあり、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……どうしてもセイとバジンと一緒に飛行機に乗ると聞かなくてね。状態も安定していたから、特別に許可を出したんだ。本格的な検査は天宮市に帰った後で行う」

 

「………なるほど」

 

「お前ら………」

 

そこで耶倶矢が万丈の、夕弦が戦兎の腕に絡みついてくる。

 

「くく………光栄に思えよ龍我。最初はただの興味の対象と、決闘の贄に過ぎなかったが………我は貴様を気に入った」

 

「寵愛。夕弦もです。戦兎のこと、もっともっと知りたくなりました。所謂ぞっこんです」

 

「そこで、だ。戦兎、龍我。貴様らはそれぞれ、我らの財産とすることが決定した」

 

「同意。そういう事です。朝のおはようから夜のおやすみまで、思うさま愛してあげます」

 

「は……はぁッ!?」

 

「お、お前ら何勝手なこと言ってんだ!?」

 

戦兎と万丈が堪らず叫ぶと、二人がしたり顔で言い放った。

 

「ふふ……覚悟しておれよ?我の寵愛を受けるなど、この世で至上の幸福なのだからな」

 

「同意。戦兎、これからはずっと一緒です。覚悟してくださいね?」

 

二人が言うと、二人は顔を見合わせて、困ったような笑みを浮かべて言った。

 

「最っ悪だ………」

 

「でも………最っ高だ」

 

二人がこうして、互いに死なずに今、存在している。

 

二人の明日を繋げたことが………戦兎と万丈は、堪らなく嬉しかった。

 

 

________ただ、自分たちの明日はこれからどうなるのか、一抹の不安がよぎった。

 

 

 




どうでしたか?
これにて八舞編、ようやく完結です!
いやー、これまでの章より長めになっちゃいましたね。個人的に八舞姉妹と戦兎達の絡みは、これから大事に書いていきたいので、どうか注目していてください!

そして次回、いよいよ新章突入です。

学園祭、DEMとの戦い、そして新たなる真相_____色々詰め込む予定ですので、どうか楽しみに、待ち刻んでてください!

それでは新章、『第6章 美九ヒーローズ』『第53話 ヒーロー達の新たな日々』、をお楽しみに!

次回は戦兎達の新しい日常や、説明的な回になるかと思われます。本格的に始まるのは次々回からですね。

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