デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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桐生「仮面ライダービルドにして!天っ才物理学者の桐生戦兎は!或美島で二人の精霊、耶倶矢と夕弦を救い出し、また少し忙しい日常へと戻っていたー!」

万丈「最近あっついなぁ………なあ戦兎、アイス奢ってくんね?」

桐生「はぁ?嫌だよ。自分で買ってきなさいよ。あとついでに俺の分も買ってきて。スイカバーでいいから」

万丈「はぁ、分かった………って!さらっとパシリにしてんじゃねえよ!」

桐生「くっそバレたか。万丈のくせに鋭い」

万丈「しっかしほんとあっちいなぁ………昆虫症になりそうだ」

桐生「熱中症な?そんなウジャウジャしてそうな症状トラウマになりそうで嫌だわ。さて、みんなはこんなバカにならないよう、熱中症に気をつけてな!」

万丈「おい!どういう事だよそれ!」

桐生「そんじゃ、第53話をどうぞ!」

万丈「話聞けよ!」






第六章 美九ヒーローズ
第53話 ヒーロー達の新たな日々


 或美島修学旅行から、そろそろ一ヶ月が経とうかという日の朝。

 夏休みも終わりが近づき、多くの学生は残りの休みを堪能しようと躍起になるか、溜まった課題の消化に涙している頃だろう。

 

 そんな中で、修学旅行で散々体力を削られた自称天才物理学者はというと_______

 

 

「…………zzz………だぁから、大事なのは砂糖の割合だって………んゅ…………」

 

 

 爆睡していた。それはもう、見ている方が眠くなるほどに、スヤスヤと。

 夏休みも開発やら修理やらスマッシュやら外出やら何やらがあり、あまり身体を休めていなかったのである。

 ようやく開発と修理がひと段落つき、ここ最近はスマッシュの目撃情報が少なくなったので、久し振りにこれ幸いと惰眠を貪っていたのである。

 

「………んぅ…………あ、暑い……………」

 

 が、そんな至福のひと時は、体に感じた寝苦しさにより終わった。

 身体を起こそうとして、戦兎は左腕にかかった重さと、掛け布団の左側の不自然な膨らみに気付いた。

 

「………ッ!」

 

 嫌な予感がして布団をひっぺがえすと、そこにはすやすやと幸せそうな寝顔で戦兎の左腕に絡みながら寝る、つい先日に検査を終えた八舞夕弦の姿があった。

 

「ま、マジで…………?」

 

 その姿を確認すると、戦兎は一瞬驚いた後、盛大に頭を抱えて溜息を吐いた。

  どうしてここでこんな状態で夕弦が寝ているのかは知らないが、無闇に騒いで起こすのも良くない。

戦兎はベッドから出ようとして、左腕を抜こうとしたが_____

 

「ぬ、抜けない………!?」

 

 とても強い力で、左腕はガッチリとホールドされていた。

 それもそのはずである。何せ、ホールドして寝ていたはずの夕弦は______

 

「挨拶。おはようございます、戦兎」

 

 バッチリと目を開けて、ガッチリと左腕を掴んで離していなかったからだ。

 

「ゆ、夕弦………お前、何してんの?」

 

「回答。戦兎を起こそうとしたのですが、あんまりぐっすりと寝ていたので、添い寝をしていました」

 

「そ、添い寝………?」

 

「肯定。以前言った通りです。朝のおはようから、夜のおやすみまでと」

 

「…………」

 

 さもそれが当たり前であるかのように言うので、何も言い返せず顔が引き攣る。

 

 包み隠さず正直に言うなら、夕弦は贔屓目なしに言ってもかなりの美人の部類に入るだろう。そんな彼女にこんな風に添い寝をされる事に、正直悪い気はしない。

 しかし忘れてはいけない。今の戦兎は見た目こそ高校生だが、実年齢は既に二十代の折り返しに来ている大人だ。

 

 だからこそ戦兎もそれを理解し、理性がストップをかける。四糸乃と同じく、そういう目で見てはいけない、と。

 

 仕方ないとはいえキスをした相手に何を言ってるんだ、と言われればそれまでだが、一応戦兎にも大人としての自覚と責任がある。流されるままでは駄目なのだ。

 

 しかし夕弦は当然そんな事を知る由などない。だからここは、あくまでもやんわりと______

 

「……いやまあ、嬉しいっちゃ嬉しいけどさ。ほら、もう起きたし、そろそろ出ようかなと、思ってるんだけど_____」

 

「拒否。もう少しゆっくりしましょう。まだ龍我達も寝ていますよ」

 

「でもな、年頃の女子高校生が、こんな風に______」

 

 と、注意しようとした、その時。

 

 

_______チーンッ!

 

 

 

「?疑問。何ですか、今の音は」

 

 電子レンジのような音が部屋に響き、夕弦がそちらに意識を向け、疑問符を浮かべる。

 

 そして戦兎はこの音を聴くや______

 

「ッ!出来た!」

 

 ウサギ耳のような癖っ毛を立て、拘束が緩んだ夕弦の手を振り払い、大急ぎでベッドから起き上がって、音が鳴った方向______先日創った発明品の、試作型ボトル精製機へと小走りで向かった。

 

 ある物を作る為に、試験的に前の世界で使っていた浄化装置を参考に制作したのだが______その『ある物』の試作サンプルが、ようやく出来上がったのだ。

 

「おおッ!」

 

 そしてドアが開かれ、蒸気が漂う容器の中から、一本のボトルを掴み取り、まじまじと見た後、頭をゴシゴシと掻いて、満面の笑みを作った。

 

「最っ高だ!」

 

「質問。戦兎、それはなんなのですか?見た所、ラビットフルボトル……でしたか。それのようですが」

 

 後から付いてきた夕弦が、戦兎の手元を覗き込み、訊いてくる。

 

 彼女の言う通り、戦兎が手に持っていたボトルは、ぱっと見はいつも戦兎が変身に使っている、ラビットフルボトルにそっくりだった。しかしよくよく見ると、ボトルの上部と下部のパーツの色が黒から青色に変わり、またキャップ部分に描かれているクレストも、そのボトルの成分を表すイニシャルが無く、歯車のみとなっていた。

 

「ああ、今丁度新しいベルト作ってて、それに使うボトルのサンプルなんだよ。ねっ、凄いでしょ!最っ高でしょ!天っ才でしょ!」

 

「賞賛。おー」

 

 戦兎が興奮した様子で言うと、夕弦が分かったような分かってないような表情で、パチパチと手を叩いた。

 

 思わず胸を張ったところで、気付く。

 

 

 ________あれ?これチャンスじゃね?

 

 

 ベッドから起き上がって、夕弦の拘束も逃れた今がチャンス。

 

「そ、それじゃ、先行ってるなー!」

 

「応答。はい…………ハッ!」

 

 天啓を得たとばかりに戦兎は、その名の通りウサギのようにタッタと扉を開け、急ぎ足で部屋を後にした。

 

 

 

 

「おはようー!」

 

「おう、おはよう戦兎……どうしたんだ?そんな急いだ様子で」

 

「いや、ちょっとベッドの侵略者が………」

 

「そ、そうか…………あ、丁度朝飯作り終わったからさ、運ぶの手伝ってくれ」

 

「ん、わかった」

 

 リビングまで降りると、士道が丁度全員分の朝食を作り終えたところだった。精霊たちはマンションに引っ越したとはいえ、だいたいご飯の時はいつも五河家まで来るのである。

 見ると、精霊達ほぼ全員の姿が見受けられた。

 

「おおセント!おはようなのだ!」

 

「戦兎さん……おはよう、ございます」

 

『おっはよー!戦兎くん!』

 

「おはよーだぞ、戦兎おにーちゃん………」

 

 十香、四糸乃、よしのん、琴里が、それぞれ挨拶してくる。琴里の方はまだ起き立てだったようで、少し眠そうだった。

 

 

「よお、戦兎」

 

「ああ一海、おはよ………って、何してんだよお前」

 

「ああ?見りゃわかんだろ。朝飯作ってんだよ」

 

 

 そして士道と同じく厨房に立っていたのは、猿渡一海だった。

現在はラタトスクの機関員という扱いになっており、フラクシナスと五河家を半々で過ごしているのだが、大体食事の時は五河家まで来ている。

 しかしなんと言うのだろうか、一海がエプロンを着けて包丁を握っている姿は、なんとなくしっくり来た。

 

 全員におはよう、と返し、朝食の準備を手伝う。すると廊下の方から、約三人分の足音が聞こえてきた。

 

「おはよぉ〜……」

 

「挨拶。おはようございます」

 

 どうやら起きたばかりらしい万丈と、後から来た夕弦だった。万丈の方はまだ寝巻き姿で、顔は洗ったようだが髪はまだ寝癖が残っていた。

 

「よお龍我。ほら、暇してんならこっち手伝え」

 

「分かってるよ……」

 

 一海が呼びかけると、万丈も眠たげながらも食器を運び始めた。

 すると万丈が、何かを思い出したように戦兎に尋ねる。

 

「ああそういや戦兎、俺のドライバー知らね?」

 

「え?お前の……ビルドドライバーか?」

 

「ああ。部屋探したけど見つからねえんだよ………誰か心当たりのあるやついねえ?」

 

 万丈がその場にいる全員に訊くが、皆知らない様子だった。

 とそこで、万丈が何かに気付く。

 

「あん?そういや……耶倶矢はどうした?」

 

「………そういや見てねえな。夕弦、何か知らね?」

 

「否定。何も知りませんよ?」

 

 戦兎が双子の夕弦に訊いても、何も知らないようだった。

 すると______

 

 

「くくく………!我を呼んだか!」

 

 

 そんな声と共に、耶倶矢がドン!という効果音が出そうな雰囲気で、やたらと格好いいポーズを取って現れた。

 

「耶倶矢!お前どこ行ってたんだよ。あ、そういや、俺の______」

 

「ドライバーは____これであろう?」

 

 万丈の質問を遮り、耶倶矢が取り出したのは、万丈のビルドドライバーだった。

 

「あ!俺のドライバー!勝手に持ち出すなよ!」

 

「くく、まあ待て。勝手に持ち出したことは詫びよう。だが…………少しばかり、興味が湧いてな」

 

「………おい、まさか」

 

 そんな格好いいセリフとは裏腹に、耶倶矢の目は新しいオモチャを与えられた純真無垢な子供のように、キラッキラに輝いていた。

 そしてドライバーを腰にあてがい、アジャストバインドを巻き付かせる。

 

「驚愕。まさか、耶倶矢_______」

 

「くく、その通りよ夕弦…………我も変身するのだ!」

 

 耶倶矢がまたもバン!という効果音が出そうな勢いで、格好良いポーズを取りながら、ドラゴンボトルを取り出す。

 すると耶倶矢の上空にクローズドラゴンが飛び回り、手のひらに収まった。

 

「リュ、リューガ!大丈夫なのか?耶倶矢が変身するぞ!」

 

 十香が興奮したような、心配したような表情で万丈達の方を見る。

 てっきり怒るものと十香は思っていたが、万丈達の表情は寧ろ、少し心配気だった。

 

「あー………やめとけやめとけ。お前じゃ無理だ」

 

「そうだな。やめといた方がいいぞ?」

 

 ドライバーを取られたことに対して怒るというよりは、これから起こる事に対して心配しているようにも見えた。

 

「むっ、なにおう!今に見ておれ!さあ行くぞ!_____えーっと確か、これをこうして………」

 

 格好いいポーズを取り、ぎこちない動作でボトルを振り、ドラゴンへと差す。

 

 

Wake Up!

 

 

 そしてドラゴンを両手で構え、不敵な笑みを浮かべた。

 

「さあ、我の様を見るがいい!変身ッ!」

 

 そして勢い良く、ドラゴンをドライバーへセットした瞬間______

 

 

ERROR

 

 

「きゃッ!?」

 

 そんな電子音声と共に、ドライバーからバチバチと電流が走り、耶倶矢は後方へ飛ばされ、ドライバーとドラゴンが床に散らばった。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 万丈が耶倶矢の元へと駆け寄り、その場にいた全員も駆け寄る。

 

「いってて………」

 

「だから言っただろ?やめとけって。ほら」

 

「おう、サンキュー」

 

 戦兎がやれやれ、と言った様子で近寄り、ベルトとドラゴンを拾って万丈へと渡す。

 

「ほら、立てるか?」

 

「だ、大丈夫………」

 

 万丈が耶倶矢の手を取り、立たせる。耶倶矢は尻をさすりながら、少し悔しそうな顔になった。

 

「むぅ………なんで変身できなかったの?」

 

「そういえば、そうだな。どうして耶倶矢は変身出来なかったのだ?」

 

 耶倶矢と十香が訊いてくる。

 

「簡単に言えば、ハザードレベルが足りない、ってこったな」

 

「「「「はざーどれべる?」」」」

 

『何なのさそれー?』

 

 琴里を除いた精霊四人とよしのんが、一同に首を傾げる。

 その様子を見て戦兎が、そういえば話してなかったか、と手を打った。

 

「それじゃ話す………と、言いたいとこだけど、先に飯食ってからな。折角士道が作ってくれたんだし」

 

 戦兎のその言葉で、その場の全員が席に着き、朝食の時間と相成った。いつもより早く食べ終わったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

「______と、言うわけだ。分かったか?」

 

 朝食後、戦兎はざっと、話せる範囲でハザードレベルについての話を琴里を除く精霊たちに話した。

 ネビュラガスという成分に対する耐性を示す、病原菌の抗体のようなものであることを始め、話してもそこまで問題のないものを。

 

 まあガスを注入したら普通の人間はだいたい死ぬ、という辺りは、主に四糸乃あたりが怖がりそうだったので、オブラートに包んで話したが。

 あと、ビルドドライバーでの変身にはハザードレベルが三以上必要、とかはぼかして、一定値必要、とだけ話した。正直に話したら上げたいと言い出す子が出るかもしれない、という事で。(主に耶倶矢とか)

 

 すると暫く唸っていた十香が、戦兎に訊いた。

 

「なるほど………ならセント。私達のハザードレベルは幾つなのだ?」

 

「え?」

 

「あ……私も、気になります」

 などなど、他にも琴里や耶倶矢、夕弦なども知りたい、と言ってきたのだ。

 確かに、知るだけならばそれほど大きな問題ではない。それに、戦兎としても気になることがある。

 

「……分かった。じゃあ、ちょっと待ってろ。えーっと、確か………」

 

 そう言い戦兎は部屋へ戻り、中程度の大きさの機器を運び、ビルドフォンと繋いだ。すると繋がれた機器のプロジェクターから、人体が映された立体画面が流れ、その光景をみて精霊たちがおお〜、という声を出す。

 

「おい戦兎、こいつは?」

 

「解析用顕現装置(リアライザ)を応用した、簡単なハザードレベル計測用の装置だ。これを使えば、おおよそのハザードレベルを測ることができる。……ちょっと気になることがあって、作ってたんだよ」

 

「何だよそれ!すげー便利だな」

 

 一海の質問に答えながら計測器を操作し、はしゃぐ万丈の方を向いた。

 

「よし、とりあえず万丈、そこら辺に立ってろ」

 

「え?お、おう」

 

 万丈は一瞬戸惑いながらも、言われた通りの位置に立つ。すると戦兎が計測器を操作し、万丈の身体に赤色の光が当てられ、立体映像の画面内にパーセント表示が現れた。

 

「な、なんだこれ!何してんだ!?」

 

「落ち着きなさいって。今それでお前のハザードレベル測ってっから」

 

 いきなりの事に驚く万丈をいつもの調子で窘め、画面を眺める。

 すると表示が『100%』になり、次いで画面上にいくつかのウィンドウと、中央に『4.6』という数値が映し出された。

 

「よし、計測完了。今出てる数値が、万丈の今の段階でのハザードレベルってこったな」

 

 戦兎がそう言うと、精霊たちは再びおおー、という声を出し、士道も「こういう感じか」、と感心していた。

 しかし万丈と一海はその数値を見て驚きと、どこか納得したような、複雑な表情を浮かべた。

 

「……なあ、戦兎。やっぱ________」

 

「待て。……言いたいことは分かるけど、それは後でだ」

 

「……分かった」

 

「……一海も」

 

「……了解だ」

 

「三人とも、なんの話をしているのだ?」

 

「………いや、何でもない。じゃ、十香から測ってくか。そこ立ってくれ」

 

 戦兎は小声で二人に伝え、次に十香に測るよう告げる。

 十香はそれを聞くと少し首を傾げながらも、素直にそこに立って計測を行った。

 

 その後も四糸乃、琴里、耶倶矢、夕弦、一海、士道、最後に戦兎自身を測って、全ての計測が終わったのだった。

 

 

 ◆

 

 

 DEM社日本支部。

 その名の通り、全世界に支部を持つDEMが、日本に建てた支部である。

 

 その第一社屋の一室で、二人の男が話していた。

 

「______それで、どうだ?ライダーシステムの様子は」

 

「ああ、上々だよ。キミとプロフェッサー・シンギには感謝しなくてはならないね。アレは私の目的に、大いに役に立ってくれる事だろう」

 

「ハッハ、アンタにそう言ってもらえたんなら、こっちとしても嬉しい限りだ」

 

 一人は黒のスーツに身を包んだ、白髪の男。DEMインダストリーの社長である、アイザック・ウェストコットだ。

 

 そしてもう一人は、おおよそこの場において、あまり相応しくない様相をしていた。

 

 まずその服装______恐らくはどこかの高校であろう、その制服を身につけており、歳の頃も十六か十七といったところ。まずこうして話している光景が、そもそも異常であると言えるだろう。

 

 

 しかし、その少年を取り巻く空気は_____明らかに、異質だった。

 

 

 ウェストコットのそれとは似通っていて、しかし決定的に違う、ともすれば人外とも言えるその雰囲気。

 

 

 恐ろしさ、狂気、冷酷_______あらゆる負の面を、全て詰め込んだかのような、濃密な空気。

 

 

 

 とてもただの高校生が、出せる空気ではなかった。そしてその空気をものともしないウェストコットもまた、同様に異常であると言えた。

 

 その少年は会話の後、ああ、と思い出したように言った。

 

「そういえばお宅んとこのお嬢ちゃん、この前【プリンセス】を逃しちゃったんだって?」

 

「ああ。何でもライダー達に妨害された、との事でね。気に病んだかい?」

 

「いいやぁ。寧ろそっちの方なんじゃないか?折角のご馳走をみすみす逃しちまったんだからさ」

 

「ハハ、確かにそうだね。でも、悪い事ばかりじゃあない。………先日のお礼だ。私から君に、一つ良い事を教えてあげよう」

 

「良い事?」

 

「ああ。君が言っていた件の少年______五河士道、だったかな?私も彼の顔や、実際の様子を見たわけではないが_____」

 

 ウェストコットは一度置くと、目を細め、とても面白そうに、少年へ話した。

 

 

「______彼が、()()()()の一端を解放したらしいよ。エレンとの戦いでね」

 

 

「ッ!…………ハハ、ハハハッ!」

 

 それを訊くと少年は、可笑しくて堪らないとばかりに、大声をあげて笑った。

 しかしその表情は純粋無垢で、まるで自分のプレイしているゲームのキャラクターが、長い時間をかけて強くなった時のような、そんな雰囲気だった。

 

「なぁるほど成る程ッ!そいつぁ傑作だッ!確かに良いなァ!これ以上無くッ!ハハハハハッ!」

 

 少年は愉快な()()()のように高笑いを続け、やがてウェストコットへと向きかえり、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「ハハハ、いやぁ、良いもんを訊かせてもらったよ。それで………これで終わるつもりはないんだろう?Mr.ウェストコット」

 

「当然さ。………私の目的のためにも、必ず【プリンセス】は手に入れる」

 

 ウェストコットはそう言うと、こちらもニッコリ、と邪悪な笑みを浮かべた。

 少年はそれを見ると、肩をすくめて言った。

 

「お前さんの目的のために、こちとら()()()待ってやったんだ。しっかりやってくれよぉ?」

 

「ああ。勿論だとも。_______が開く日も、近いかもしれないねぇ?」

 

「違いねえ」

 

 二人はそう言うと、再び笑い合った。

 

 そこには、他の誰も立ち入る事を許されない________そんな、恐怖と邪悪で満ちていた。

 

 

 

 

 ハザードレベルの計測後。

 戦兎は自室に戻り、端末で先の結果を見て、顎に手を当て、疑問符を浮かべた。

 

「これは………どういう事だ?」

 

 そこに表示された数値。一覧はこうだ。

 

 

十香………2.5

四糸乃………2.5

琴里………2.5

耶倶矢………2.5

夕弦………2.5

一海………4.4

士道………4.6

万丈………4.6

戦兎………4.6

 

 

 これが現段階での、全員分のハザードレベルだ。

 

「どういう事って………どこが可笑しいんだよ、戦兎」

 

 万丈が同じくビルドフォンの数値を見て、尋ねる。

 それに戦兎は、神妙な表情で答えた。

 

「精霊達の数値だよ。見てみろ。全員、2().()5()で固定されてる」

 

「っ、そういや………」

 

 戦兎が疑問に思っていたのは、精霊たちのハザードレベルだ。

 本来ハザードレベルは、ネビュラガスの人体実験を受けない限り、殆どの人間は1.0か、2.0であるはずなのだ。ごく稀に2.0以上の耐久力を持つ者もいるが、それでもここまで均一になるのだろうか。

 

 するとそこで、ある一つの考えが戦兎の脳裏に浮かんだ。

 

「そうか……!霊力だ!」

 

「あ?霊力って確か………十香とかの力の源、とか言ってた、あの霊力か?」

 

 万丈が尋ねると、戦兎はウサギのようなアンテナを立てて頷いた。

 

「ああ。恐らく、精霊の持っている霊力が、ハザードレベルを擬似的に引き上げているんだ。……つまり、封印状態での精霊のハザードレベルは、2.5ってことか。……ネビュラガスのガスを注入してないのに、ここまでのレベルだったってのは、そういう事か」

 

「成る程な。………でもよ、ガスを注入してないってんなら、士道もおかしくねえか?」

 

「……そう、なんだよな」

 

 それは、戦兎としてもずっと気になっていた事だった。

 確かに精霊のハザードレベルも気になるが………士道のハザードレベルの数値、『4.6』というのも気になった。現段階で、戦兎や万丈とタメを張っている。

 確かにハザードレベルは、レベルの大小はあれど誰にも備わっているものだ。確かに戦闘経験を積む事である程度の成長は出来るが、ここまでとなると、少量でもネビュラガスを取り込まないとほぼ不可能な筈なのだ。

 

 さらに言うなら、士道は戦兎達と会うまではただの高校生だった。加えてそこから、変身が可能になるまでのスパンが早すぎる。エボルトの遺伝子と人体実験によってネビュラガスを取り込んだ万丈はともかく、ただの人間であるはずの士道が、ここまで成長したのは何故か。

 確かにハザードレベルは精神などによっても左右されるものだが______ただの特異体質か、それとも________

 

「まさか………これも、霊力のせいか?」

 

「は?どういう事だよ」

 

「………俺とお前もだけど、士道は十香と琴里、二人の精霊の霊力を封印してる。十香たちの例を考えるなら、封印した霊力が擬似的にハザードレベルを上げてるってのも、納得できる話だ」

 

 万丈はその話を聞くと、しばらくウンウンと頷き。

 

「…………何言ってんだかサッパリ分かんねえ」

 

「………要するに、士道は霊力を封印してるから、その影響でハザードレベルを上げたんじゃねえか、って事」

 

「ああ、成る程!最初っからそう言えよ戦兎!」

 

「最初っからそう言ってるでしょうがこの馬鹿」

 

「なっ、馬鹿ってなんだよ!せめて筋肉かプロテインって付けろ!」

 

「ワード一つ増えたな」

 

「………っつーかそれも気になるけどよ!俺たちのハザードレベルもどうなってんだよ!前より全然下がってるじゃねえかよ!」

 

「………それはー………」

 

 万丈がした当然の指摘に、戦兎は知ったかぶった雰囲気で、話した。

 

「…………若返ったから?」

 

「だったらかずみんも下がってるのはどうしてだよ」

 

「…………一度死んで蘇ったから?」

 

「………そういうもんなのか?」

 

 誤魔化す感じも多分に含まれていたが、戦兎達の低下したハザードレベルについては、今のところこれくらいしか、納得のいく説明がないのも事実だった。

 そもそもどうしてこの世界へ飛ばされたのか。なんで戦兎と万丈のみ若返ったのか。それら全てが未だに謎なのだ。

 

 その鍵を握っていると思われるのは_______例のマッドクラウンと、神大針魏という男。

 

「………あの二人から話を聞き出さない限りは、どうにもならないなぁ。とりあえずは、新世界を創るときに、謎のエネルギーで飛ばされて、若返った、て感じにしとくか」

 

「………そういうもんか。ていうか、戦兎」

 

 万丈は戦兎の話を聞き終わると、神妙な面持ちになって、口を開いた。

 

「………いつになったら、あいつらに言うんだよ。俺たちが、違う世界の人間って事」

 

「……………」

 

 それは、当然の疑問だった。

 士道と琴里、フラクシナスクルー以外の、十香達全員は、戦兎達が違う世界の住人である事を知らない。ライダーシステムについても、戦兎が作った、という事くらいしか知らないはずだ。

 

「いつまでも話さねえわけには、いかねえだろ。つか、何であいつらには黙ってるんだよ」

 

「………今余計な事言って、あいつら混乱させるわけにもいかねえだろ。その内話すさ。それまでは、お前も話すなよ?」

 

「………分かったよ」

 

 万丈も不承不承、といった様子ではあったが、頷いた。

 

 そう言った戦兎の言葉には______どこか逃げているような、何かに怖がっているような感情がこもっているような気がした。

 

 

 

 




どうでしたか?
学校の文化祭で出す冊子の原稿に追われてました。

今回の話、今度出す予定の短編集に乗せて番外編にしようかとも思いましたが、一応現在の戦兎達のハザードレベルや、精霊達のハザードレベルに関する事、そして後々の伏線(?)的なエピソードもあるので、一応本編として今回載せました。

ちなみに士道のハザードレベルについてもきちんと理由がありますが、それは後々。

そして、ウェストコットと話していた、少年の正体とは一体…………!?

次回からいよいよ、美九編本格始動です!

戦兎と万丈と士道、そしてかずみんの活躍や、新たなる秘密も明らかになります!楽しみにしててください。

あ、あと美九編は原作の都合上、どうしてもこれまでより長くなると思うので、投稿間隔が空く可能性もありますので、そん時は、ゴメン。
失踪だけはしませんので、安心してください。

それでは次回、『第54話 フェスティバルが始まる前に』を、お楽しみに!

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