デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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桐生「仮面ライダービルドにして、天っ才物理学者の桐生戦兎は!相も変わらず正義のヒーロー、仮面ライダーとして、今日も今日とて悪と戦っていた!」

十香「みんなは夏休み、楽しんだか!?私はシドー達と祭りに行ったぞ!」

万丈「ああ、あれか。なんか戦兎と四糸乃が………」

桐生「いきなり関係無い話挟むんじゃないよ。てかそれ今度出す予定の短編で書く話!」

士道「みんなは今頃まだ夏休み満喫してんだろうけど、もう俺らの時系列じゃ夏休み終わっちまったしなぁ」

桐生「そういうメタな事言うんじゃないの。今度短編で載せるから我慢しなさい。ほら、今回から第6章本格スタートだから。第54話、どうぞー!」







第54話 フェスティバルが始まる前に

 夏休みが明けた、九月八日。夏の暑さがまだ抜け切らない日の午後。

 来禅高校の体育館は今、異様な雰囲気に包まれていた。

 

『今から丁度一年前………我らは多くのことを学ぶこととなった』

 

 壇上に立ったクラスメイトの山吹亜衣が、拳を握りながらマイク越しに声を絞り出す。

 その両脇には彼女の親友である麻衣と美衣が、どこぞの親衛隊かボディガードよろしく『休め』の姿勢で立っており、ついでに左右に来禅高校の校旗まで立てかけてある。その様相は、さながら戦時中に演説を行う一国の元首にも見える。

 

『苦汁の赤い血と、屈辱の涙を………這い蹲られた地の冷たさを』

 

 拳を震わせながら憎々しげに言っていた亜衣が、バッと顔を上げる。

 

『さあ諸君。見るも哀れなる敗残兵諸君。我々は一度の敗北を経た。しかし、これは永遠の敗北を意味するのか?』

 

 ダン!と亜衣が拳を演台に叩き付ける。マイクのハウリング音が辺りに響き渡った。

 

『否!これは始まりなのだ!彼奴等に比べ、我が来禅の力は大きく劣る。にも関わらず、今日まで生き抜いてきたのは何故か!?諸君!それは我らの悲願の為だ!この時のため、我々は牙を研ぎ続けてきた!あの悲しみも怒りも忘れてはならない!我々は今、この怒りを結集し、彼奴等に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる!国民よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ国民!来禅に栄光あれ!我らが渾身の一撃を以って、彼奴らの喉元を噛み千切らんッ!いざ!出陣ッ!』

 

『エイ・エイ・オオオオオォォォォォッ!!』

 

 どこぞの公国の総帥のような演説が終わり、それに呼応するように、体育館にひしめいていた生徒達が一斉に声を上げる。体育館の窓ガラスが微かに揺れ、幾重にも反響した凄まじい音量が鼓膜を痛いほどに震わせてくる。

 

「はは、気合い入ってんな」

 

「みんな元気だなぁ」

 

 士道と戦兎は苦笑しながら、壇上で演説ぶるクラスメートを眺めていた。

 

「シドー、セント、亜衣は一体何を言っているのだ?どこかと戦争でも始めるのか………?」

 

 と、十香が右方から怪訝そうな声を響かせる。普段の美しい表情は、今なんとも難しげな困惑の色に染まっていた。

 ちなみに万丈も同様で、何やってんだあいつ、と頭の上に疑問符を浮かばせていた。

 

 まあ、それはそうだろう。何も知らない者が今の演説を目にしたなら、さぞ混乱するに違いない。今の亜衣はどう見てもどっかの宇宙の独立戦争の英雄か、自己啓発セミナーの講師である。

 

「今月はあれだ、天央祭があるんだよ」

 

「天央祭?なんだそれは」

 

「確か、他の高校と合同でやる、でかい文化祭だったよな?」

 

 戦兎が言うと、十香が目をキラキラと輝かせた。

 

「文化祭………おお、テレビで見たことがあるぞ。学校に食べ物屋が並ぶ夢のような祭りだ!」

 

「ん、まあ間違っちゃいないが」

 

「ま、十香らしいっちゃ十香らしいけど」

 

「おお、そうか、文化祭をやるのか!それはあれだ、うん、いいと思うぞ!」

 

 十香が言って恍惚とした表情を浮かべ、万丈が首を捻りながら訊いてくる。

 

「ん?だったらなんで、こんな演説みたいな事すんだよ」

 

「だから言っただろ?他の高校と合同でやるって。えーっと士道、いくつくらいだったか?」

 

「十校だな。天宮市内の高校十校が、合同でやるんだ」

 

「十校で、合同?」

 

 十香が目を丸くする。士道はああ、と頷いた。

 士道達の住む天宮市は昔、空間震の被害によって地域面積や施設の充実度に比べて住民数が非常に少ないというアンバランスな時期があり、その時に行われていたのが、天央祭と呼ばれる合同文化祭なのだ。

 

「まあ要するに、当時は学校も生徒も少なかったから、一緒にやって盛り上がろうって企画だったらしい。それが、住民数が増えた今でも続いてんだよ」

 

「はぁー、それは知らなかったな」

 

「までも、そういうもんか」

 

 士道が苦笑しながら肩をすくめ、戦兎と万丈が納得したように頷く。

 当初は過疎地域の高校が肩を寄せ合って開催していたささやかな祭典が、今や天宮スクエア大展示場を借り切って三日間行われる一大イベントとなっている。

 何しろ毎年テレビ局の取材などが入り、市外からの観光客も多い上、天央祭を見て志望校を決める中学生も少なからずいるというのだ。もはや高校の文化祭には収まりきらない経済効果である。

 

 だが、最初は各校が手を取り合って文化祭を盛り上げましょうという理念の元始まったイベントは、参加校が増えるにつれて別の意味を持つようになった。

 

 要するに_________

 

『今年こそ!今年こそは、我が来禅が王者の栄冠を手にするのだ!』

 

 壇上の亜衣が高らかに叫び、生徒達が呼応する。

 

 そう。天央祭では模擬店部門、展示部門、ステージ部門などの優秀校を投票により決し、最優秀賞に選ばれた学校は、以後一年王者として君臨することになるのである。

 そのような各校対抗システムがある以上、普段眠る皆の闘争心と愛校心が煽られるのは必然と言えよう。日頃サッカーに微塵も興味を示さない人が、ワールドカップになったら夢中で日の丸の旗を振るのと同じようなものかもしれない。

 

 と、士道が十香達に説明をしていると、背後から何やら声が聞こえてきた。

 

 

「くく……なるほど、亜衣達が奮起している理由がようやく知れたわ」

 

「納得。そういう事であれば負けるわけにはいきません」

 

 

 見やると、そこにはいつの間にか瓜二つの少女二人_______八舞耶倶矢と、八舞夕弦がいた。

 

「おお、耶倶矢、夕弦」

 

「お前ら、列どうしたんだよ。クラス毎で並んでるはずだろ?」

 

 万丈が問う。彼女らは士道や戦兎達と違い、()()()()に転入したのだから。

 当初は彼女らも同じクラスに転入する予定だったらしいが、士道と一緒にいなければ不安がる十香と違い、二人揃っていれば多少の下降はあれど十分に精神状態が安定するため、隣のクラスへの編入が決められたのだという。

 

 その為、集会中の今はクラス毎に整列しているため、八舞姉妹も三組の方にいるはずだった。

 

 しかし、理由はすぐに知れた。興奮状態の生徒達は『ジーク・来禅!ジーク・来禅!』などと叫んでおり、クラスの列などとうに意味をなしていなかったのである。

 

「ふ、とはいえまあ、我ら八舞姉妹がいる以上、来禅の勝ちは揺らぐまいて」

 

「同意。夕弦と耶倶矢のコンビは最強、これ以上無いベストマッチです。どんな相手が来ようとハイパームテキです」

 

「くく、そういう事だ。何しろ夕弦と来たら何をしても完璧にこなしてしまうからな」

 

「肯定。しかもその夕弦以上にパーフェクトな耶倶矢もいるのです。負ける道理がありません」

 

「いゃふふ……このー、なんだー、むず痒いぞ夕弦ー。つんつん」

 

「微笑。耶倶矢こそ。つんつん」

 

 なんて、楽しげに微笑みながらお互いの二の腕を突き合う。

 

「……はは」

 

 そんな二人を見て、戦兎は思わず笑みを作った。

 二月前には至り一帯を巻き込む大喧嘩をしていた二人が、今では付き合って一週間目くらいのでろ甘カップルみたいな仲睦まじさを披露しているのが、二人はようやく分かり合えたのだと思い、嬉しくなった。

 

 と、そこで夕弦が何かを思い出したように、戦兎に視線を移してきた。

 

「請願。戦兎、そういえば一つ、お願いがあります」

 

「ん?どしたの」

 

「要求。_____今度の天央祭、夕弦と一緒に回ってはくれませんか?」

 

「え?」

 

「駄目、でしょうか……」

 

 夕弦が意を決したような様相で言い、戦兎も少し戸惑う。

 だが、どうせ当日は誰と回る宛てもなかったし、この天央祭にも少し興味がある。それに、こんな風にお願いされて、断るというのも気が引けた。

 

「まあ……夕弦が良いなら、俺は構わないけど」

 

「ッ!感謝。ありがとうございます、戦兎」

 

 戦兎が了承すると、夕弦は笑顔を見せて礼をして去った。

 その笑顔を見て、戦兎もなんだか嬉しくなり、同じく笑顔で返した。まあ、たまにはこんな風に過ごしたって、神様は許してくれるだろう。それに『桐生戦兎』にとっては、初めての高校の文化祭だ。年甲斐も無く、心の中で楽しみにしている自分がいる事に気付いた。

 

 するとその様子を見ていた耶倶矢が、しばらく考えた様子を見せた後、意を決した様子で万丈の方へと近付いた。心なしか、頰がほんのりと赤くなっているようにも見える。

 

「り、龍我よ」

 

「あん?なんだ」

 

「い、いやなに。斯様に愉快な祭りだ。龍我も我と共に享楽に耽りたいと思うてな。えーと、その………」

 

「?何言ってんだ?」

 

 耶倶矢が少しどもりながらいつもの口調で話すが、万丈は頭に疑問符を浮かべている。

 緊張しているのだろうか、耶倶矢が上手く話せない様子でいた為、万丈が痺れを切らしたように言う。

 

「おい、いい加減ちゃんと言ってくれねえと分かんねえよ」

 

「ッ、だ、だから!わ、私と………天央祭、回ってくれないかなって…………」

 

 耶倶矢が中二口調を忘れ、赤くなりながら言う。

 万丈はそれを聞くと、キョトンとした様子になる。

 

「なんだ、そんな事か。別に構わねえよ」

 

「い、良いの!?」

 

「ああ。一緒に回るだけだろ?何緊張してんだよ」

 

「ッ!く、くく、龍我よ。これよりは我と交わせし誓約ぞ。もし反故にすればその命、神に返す事になるからな?努努忘れるでないぞ!」

 

「………よく分かんねえけど、分かったよ」

 

「や、約束だからな!……えへへ」

 

 耶倶矢が万丈から離れ、嬉しさを隠しきれない様子で夕弦の元へと向かっていった。

 

「……何だったんだ?あいつ」

 

「……お前も鈍感だよなぁ」

 

「は?どういう事だよ」

 

「別に。一途で良いんじゃない?」

 

「だから、どういう事だよ」

 

 戦兎が少し呆れつつも、万丈に言う。まあ万丈にとっては、友人と回るような感覚なのだろう。

 

 万丈は今でも昔の恋人______香澄の事を想っている。

 だからこそ、無意識のうちにそういう感覚になるのだろう。まあ、それを戦兎がとやかく言うのは違うし、それは万丈と耶倶矢の問題だ。

 

「(………頑張りなよ)」

 

 心の中で耶倶矢にエールを送りながら、再び壇上の方へと視線を移す。

 とそこで、体育館を包んでいた熱狂に微かな変化が現れた。

 

『静粛に、諸君。諸君らの思いはしかと受け取った。_____そこで、一つ願いがある』

 

 言って亜衣がマイクを手に取り、続ける。

 

『親愛なる同胞、桐崎生徒会長以下数名が、志半ばで英霊となられた。そこで、会長らの理念を継いでくれる同志を募りたい。我こそはという者があらば名乗りを上げてくれ!』

 

 生徒達がざわつき出す。多分、皆言っている意味がよく分からなかったのだろう。

 程なくして、前の方に立っていた生徒が手を挙げる。

 

「えーと、つまりどういう事ですか?」

 

 亜衣はぽりぽりと頭をかくと、今までの芝居がかった調子を忘れたように続けた。

 

『うーん……まあぶっちゃけると、会長達がみんなストレスと過労でぶっ倒れちゃったから、代役を決めないといけないのよ。誰か天央祭の実行委員やってくんない?』

 

 瞬間________

 

 つい数瞬前まで地鳴りのような声を響かせていた生徒達が、一斉に静まり返った。

 これはまずいと思ったのか、亜衣が身振りしながらフォローを入れてくる。

 

『いや、って言ってももう大体の仕事は終わってるのよ?ホントホント。会議の時座ってくれるだけでいいからさ!マジもう超アットホームな委員会だから!スキルアップに繋がるから!』

 

 なんだか後半はブラック企業のアルバイト募集の誘い文句みたいになっていた。

 先ほどまであれほど熱狂していた生徒達の熱が、急激に冷めていくのが分かる。皆壇上の亜衣たちと目を合わせないよう、視線を逸らし始めた。

 

「実行委員ねぇ……。なあ士道、どうす_______」

 

 戦兎が士道の方に視線を移すと、そこには_______

 

 

「どうだ!これであいこだ!」

 

「左手で行う指切りは絶縁を意味し、もう二度とその人に関わらないことを示す」

 

「な、何!?し、シドー!違うのだ、私はそんなつもりでは………!」

 

「いや、そんなの聞いたことないからな!?」

 

 

 _____絶賛修羅場発生中だった。

 

 何やら士道の両手の指をかけて、十香と折紙が争っている。______状況から察するに、大方文化祭を一緒に回るか、みたいな話で揉めてるのだろう。

 

 すると二人が士道の両手の小指をそれぞれ引っ張ってきた。

 

「あたたたたたたッ!やめろ、やめろって!あ、戦兎、万丈!助けてくれ!」

 

 すると士道が戦兎を見つけ、これ幸いにと助け舟を要請する。

 戦兎と万丈は気まずげな表情になり、申し訳なさげに言った。

 

「いやー、助けたいのは山々なんだけど、俺も巻き込まれんの嫌だしさぁ。ほら、鳶一が今にも殺しそうな視線でこっち見てくるし」

 

「邪魔立てするなら、容赦はしない」

 

 そしてさらにギリギリと、士道の両手が引っ張られる。

 

「ギャァァァァァアッ!?」

 

「この…………っ!シドーが痛がっているではないか!離さんか!」

 

「それはこちらの台詞。一刻も早く彼を解放すべき」

 

「ちょ、お前らそろそろ士道がやばそうだぞ!?」

 

「てか静かになったせいで、お前らだいぶ注目集めちゃってるけど」

 

「えぇ?………あ」

 

 そう。先ほどと異なり周囲が静かになったものだから、先程から士道達はやたらと生徒達から注目を集めてしまっていた。男子生徒がギリギリと歯ぎしりしながら鋭い視線を寄越し、女子生徒たちがヒソヒソと話し始める。

 すると、その光景を面白そうに眺めていたクラスメイト、殿町宏人が、くるりと身体の向きを変えて、大声を発しながら手を高く上げた。

 

「議長ー!」

 

『はい、殿町くん』

 

「天央祭の実行委員に、五河士道くんを推薦しまーす!」

 

「な……………っ!」

 

 急な友人の発言に目を見開く。

 

「て、てめぇ殿町っ!」

 

「いやぁ、五河が困ってるようだったから、助け舟を出してやっただけだぞ?」

 

「嬉しいけど嬉しくねぇーッ!………あたたたたたたたッ!?」

 

 左右からの強烈なウィンチによって、抗議の声は遮られた。

 そうこうしている間にも、殿町に賛同した男子達が次々と声をあげる。

 

「賛成!頼んだよ五河くん!」

 

「賛成!俺たちの意志を継いでくれるのは五河しかいない!」

 

「賛成!精々こき使われて病院送りになりやがれドチクショウ!」

 

「おい最後本音出やがったな!?」

 

 こうなったら、と士道が最後の足掻きと言わんばかりに、大声を発した。

 ふと、戦兎の背筋に、ぞくりと冷たいものが走った気がした。

 

「だったら!その補佐役として、桐生戦兎を推薦する!」

 

「はぁっ!?ちょおい!なんで俺まで!」

 

 突然の裏切りに、戦兎が目を見開き反論する。

 

「うるせえ!お前も同じ苦しみを味わうがいい!」

 

「完全に八つ当たりじゃねえか!?」

 

 しかし時すでに遅し。

 士道のその言葉にも、多くの人間が賛同した。

 

「よし!ならば桐生くん!五河くんの補佐、頼んだよ!」

 

「頑張れ桐生!」

 

「やったれ戦兎!お前なら出来るって!」

 

「おい万丈!お前自分は安全だと思って同調してんじゃねえよ!」

 

 叫ぶも、五河コールと桐生コールは鳴り止まなかった。男子と女子も混ざって、コールが体育館中に鳴り響く。

 

『静粛に!』

 

 と、それを制すように亜衣が壇上から声を響かせた。

 一瞬、亜衣が宥めてくれるのかと思ったが………どっこい、現実はそんなに甘くなかった。

 

『諸君らの声、しかと受け取ったぁッ!他薦・推薦多数により、二年四組五河士道くん、並びに桐生戦兎くんを、天央祭実行委員に任命しまッす!』

 

「ちょ…………ッ!」

 

「待て!?」

 

『おおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 二人の声は、体育館を揺るがす大歓声に呑み込まれた。

 

 

 

 

 すっかり日も落ちた十九時三十分。戦兎と士道は通学鞄と買い物袋を提げながらバイクに乗り、自宅まで帰っていた。

 

「疲れた………」

 

「なんかバタバタしちまったなぁ」

 

 結局あの後、数の暴力に抗うこともできず、正式に天央祭実行委員に任命されてしまった二人は、半ば強制的に仕事の引き継ぎに付き合わされていたのである。

 ブース設営から始まり、予算配分に各種伝達事項その他諸々の情報を一気に詰め込まれた為、士道は身体の疲労よりも頭と精神の疲弊が深刻だった。

 

「あんな量処理してたら、そりゃストレスで倒れたりもするわな………つか、戦兎はよく平気だったな」

 

「そりゃあまあ、天っ才ですから?………それに」

 

 戦兎はいつもの調子で言った後、少しだけ嬉しげに語った。

 

「………こういうの、初めてだしさ」

 

「え?」

 

「ほら、俺記憶喪失って言ったじゃない?だからかな。あんな風に集まって仕事やるの、確かにちょっとキツかったけど、それ以上になんだか、楽しくなっちまってさ。………って、大の大人が何言ってんだって話だけど」

 

「いや……良いんじゃないか?」

 

 戦兎が苦笑しながらも言う。

 士道もその境遇を簡単に同情することはできないが、それでも少し_____羨ましいと、そう感じてしまった。

 

「ん?ちょい止めるぞ」

 

「え?あ、ああ」

 

 戦兎がバイクを止めると、前方の街頭に照らされた道の上に、小さな人影が見受けられた。

 つばの広い麦わら帽子に、淡い色のワンピースを纏った、青髪と左手のパペットが印象的な小柄な少女である。

 

「四糸乃?」

 

「…………!」

 

 ヘルメットを外した戦兎が名を呼ぶと、少女_____四糸乃はぴくりと肩を揺らして二人の方に視線を向けてきた。

 

「あ………戦兎、さん。士道、さん」

 

『おー、見ぃーつーけたー』

 

 四糸乃が小さな声を発し、パペットの『よしのん』が甲高い声を上げる。

 

「どうしたんだよこんな所で。もう暗くなってるぞ?」

 

「あ、あの………私、士道さんのおうちに、お邪魔してたんです。けど………戦兎さんと、士道さんの帰りが遅くて、琴里さんが心配してたから、その…………」

 

 どうやら様子を見に来てくれたらしい。二人は顔を見合わせて苦笑した。

 

「そっか。でももう暗いぞ。二人だけで出て来たのは感心しないな」

 

 士道が言うと、四糸乃は申し訳なさそうに肩をすぼませた。

 

「あ、あぅぅ……」

 

『怒らないであげてよー。四糸乃にも悪気はないのよー。二人とも心配だったんだからー』

 

「分かってる。ごめんな心配かけて。サンキュー、四糸乃」

 

「は、はい…………!」

 

 戦兎が言うと、四糸乃が大きく頷く。大きい麦わら帽子のせいか、二人の位置からだと顔が見えなくなってしまっていた。

 

「夕飯まだだろ?ちょっと遅くなっちまうけど、食べてけよ」

 

「はい………ありがとうございます。それと、えっと、一つ訊きたいんですけど………」

 

 と、四糸乃がそろそろと右手の人差し指を、今しがた見ていたポスターの方に向けた。

 

「これって、一体………」

 

「ん?ああ、天央祭だよ」

 

 戦兎が小さく頷くと、簡単に説明をしてやった。

 すると、四糸乃が何やら興味深げになる。

 

「そんなのが……あるんですか………」

 

『はー、楽しそうだねー』

 

「ああ、きっと楽しいぞ」

 

「そうだ。良かったら四糸乃たちも来いよ」

 

 言うと、四糸乃が驚いたように目を丸くした。

 

「!い、いいん……ですか…………?」

 

「もちろんだ。うちも色々出展するそうだから、遊んで行ってくれよ」

 

『あっらー、よかったねー、四ー糸乃』

 

「う、うん………!」

 

 『よしのん』がぷにぷにと四糸乃の頬をつつき、四糸乃が嬉しそうに首肯する。

 そんなに喜んでもらえるなら、こっちまでなんだか嬉しくなってしまう。二人はなんだか明るい気持ちになり、戦兎はバイクをスマホ形態に戻して、四人で歩いて家まで帰った。

 

「_____ただいまー」

 

「………おかえりなさい。随分と遅かったじゃない?」

 

 士道が声を張り上げると、廊下に黒いリボンで髪を括った妹____琴里が不機嫌さを隠そうともせずに仁王立ちで立っていた。

 その様子を見た二人は気まずげな様子になり、士道が口を開いた。

 

「悪いな。突然文化祭実行委員にされちまったんだ」

 

「知ってる。先に帰った万丈から聞いたから。それでも、遅くなるなら一本くらい連絡寄越しなさい」

 

 口ではそう言ったものの、琴里はそれを聞くと、なぜか、ほうと息を吐いた。

 

「……一応確認しておくけど、体調が悪かったりとか、そういう事は無いのね?」

 

「え?」

 

「……何でもないわ。それより、早くご飯にしましょ。一海がハンバーグ作ってくれてるから」

 

「え?……マジかぁ」

 

 琴里はそう言うと、フンと鼻を鳴らしてリビングの方へと歩いて行った。

 今日の買い物にあまり意味が無くなってしまったが、まあ、これは明日の分にでも回そう。

 

「……何だったんだ?」

 

「さあな。それより、早く上がろうぜ」

 

 戦兎がそう言い、四糸乃を伴って靴を脱ぐ。

 士道も後を追うようにしてから、ふうむと唸った。

 

 何故だろうか、修学旅行から帰ってきた辺りから、なにやら琴里の様子がおかしい気がする。別に普段はあまり変わらないのだが、士道が少し気怠そうにしていると、何故か妙に落ち着かない様子になるのである。

 

 士道はぽりぽりと頭を掻いてその場から歩きだし、リビングのドアを開けた。

 

 見ると、琴里はソファにダイブしており、隣のマンションで着替えを済ませた十香が、テレビの前でゲームのコントローラを握っていた。士道達の仕事が終わるまで待っていると言って聞かなかったのだが、流石に遅くなりそうだったので、先に帰らせていたのである。

 ちなみにプレイしているゲームは、今人気のRPGゲームで、タイトルは『タドルクエスト』。………どこかで聞いた事がある気がするタイトルだなと、戦兎は思った。

 その隣では万丈が同じくコントローラを握って、十香とゲームをしていた。

 

「おおシドー、セント、おかえりだ!ああリューガ!そこでバーンとしてズカッとしてビューンだ!」

 

「マジかよっ!オッケー!あ、お帰り、二人ともッ!ちょっ、これでどうだ!」

 

 今ので通じるのか。

 二人とも画面に合わせて身体を左右に動かしながら叫ぶ。四糸乃はソファに座り、ゲーム画面と二人の様子を交互に見ていた。

 

「よお、遅かったな二人とも。手ぇ空いてんならちと手伝ってくれ」

 

 キッチンには一海がエプロン姿になりながら、全員分のハンバーグを焼いていた。______人数のせいか、子沢山のシングルファザー臭が凄い。

 

「ああ、分かったー」

 

「何やればいいんだ?」

 

「サラダ盛り付けといてくれ。野菜はそこにあっから」

 

 二人は鞄を適当に放って手洗いうがいを済ませてから、背もたれのエプロンに手を伸ばし、手伝いに入った。

 最近は一海がこうして家事をしてくれている事も多く、士道としては申し訳ないと思いつつ、地味にありがたみを感じていた。

 

 と、士道がキャベツを切り始めた所で、ソファに突っ伏していた琴里が不意に顔を上げ、声をかけてきた。

 

「………ねえ、士道。本当に何にもないのよね?」

 

「んー?なんだー、心配してくれてんのかー?」

 

「ち、違うわよ!そう……十香よ!士道に何かあったら十香の精神状態が崩れて大変になるんだから!ちゃんと体調管理しなさいよねって言ってるのよ!戦兎も!」

 

「え、俺も?」

 

「俺も、じゃないわよ!ずっと発明ばっかやって!たまにはちゃんと睡眠とりなさい!最近また徹夜してばっかじゃない!」

 

「いや、今ちょっと立て込んでてさ。大きい奴はもう少しで完成なんだよ」

 

「知らないわよ!はぁ………」

 

 ひとしきり言うと、琴里はぶすっとした様子で視線を送ってきた。

 名を呼ばれたことに気づいたらしい十香が「なんだ!?」と声を上げてきたが、どうやらその瞬間ボスキャラが出現したらしい。すぐにゲームの方に戻っていく。

 琴里が再び嘆息し、ソファの背もたれに身体を預け、十香達に聞こえないくらいの音量で言葉を続けてきた。

 

「………でも、本当に気を付けて。色々と厄介な状況になってきたし」

 

「厄介な状況?」

 

「と言うと?クラウンとか、神大の件とかか?」

 

 問うと、琴里は「まあ、それもあるけれど」と頷いた。

 

「でも、その他にもいくつかあるけど………さしあたっては、【ファントム】ね」

 

「【ファントム】?なんだそりゃ。精霊の識別名かなんかか?」

 

「ええ。五年前、私と士道の前に現れた『何か』の事よ。いつまでも『何か』のままじゃ不便だしね。この前の会議で便宜的に識別名が付けられたの」

 

「ああ、あの」

 

 五年前に琴里に精霊の力を与え、士道と琴里の記憶を封印した、精霊であるかどうかさえも分からない、正体不明の存在。

 確かにあの存在は懸案事項だった。未だその実像や目的など、一切が謎に包まれていると言うのだから、尚更に。

 

「そしてもう一つはさっき戦兎が言ってたのも含まれる_____例の会社ね」

 

「DEM、か………」

 

 戦兎が呟くと、琴里が首を前に倒すのが見えた。

 

「DEMって言うと………確か、前の島の時に、襲撃してきた奴ら、だったよな」

 

 とそこで一海が、フライ返し片手に話に参加してくる。その発言に、琴里が「ええ」と頷いた。

 先月の修学旅行での襲撃事件_____あの事件の犯人が、DEM、デウス・エクス・マキナ・インダストリーであると言うのだ。

 

 様々な分野に進出している会社ではあるが、元を辿れば軍需産業で急成長したという話である。非公開ではあるが、ASTが用いている顕現装置(リアライザ)も製造しているらしい。

 

「でも、これである程度話が繋がったな」

 

「え?」

 

「この前の襲撃事件で、少なくとも神大はDEMに付いてるってことが分かった。て事は、これまでにあった一連のスマッシュの出現。これらにも、DEMが絡んでると見てまず間違いない」

 

 まだこれまでに街を襲っているスマッシュと、神大やクラウンとの因果関係は確定ではないが、リキッドやオーバースマッシュの件から見て、ほぼ間違い無いだろう

 

「相変わらず、倫理観のない外道どもね。そいつらの所為で、真那も…………」

 

「ッ!」

 

 琴里が不意に言ったその言葉に、士道は拳を硬く握った。

 琴里がしまった、という顔を作ったが、士道は既にリバースドライバーの件で、真那の身体に起こったことを知っている。だからこそ、彼らの非道な行いに、激しい憤りを感じていた。

 

 すると。

 

 

 _______________ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ____________

 

 

 

「…………!な、これって……」

 

 リビングの窓ガラスを微かに震わせ、街中に空間震警報が鳴り響く。

 刹那、琴里が立ち上がり、スカートを翻して走り去っていく。

 

「あ、おい!」

 

「話は後よ!士道、戦兎、万丈、それに………一海も準備をして。仕事よ」

 

 そう言って、琴里はチュッパチャップスを一本取り出し、一瞬で包装を解いて口に放り込んだ。

 




どうでしたか?
いよいよ本格始動、美九編です。

さて今回の章ですが、ちょっとだけネタバラシ。


既存キャラクターが、新ライダーへと変身します!


と言っても、内容的には割と後の方なんですけどね。
あ、一応補足しておくと、デアラ世界はこれまでの平成ライダー達の世界や、ビルドの世界とは繋がっておりません。

それとあらすじ紹介で行っていた通り、夏休み中にデート・ア・ビルドの短編集、『デート・ア・ビルド とらいあるっ!』を出したいと思います。本編で言うところのアンコールですね。
お楽しみに。

それでは次回、『第55話 リリィな歌姫』をお楽しみに!

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