遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。遅れた理由につきましては、後書きの方に書いてありますので、そちらも良ければ読んでください。
それでは、どうぞ。
『天央祭………天宮市内の十の高校が合同で行う三日間の、文化祭とは名ばかりの一大イベント』
「それ、誰に向かって言ってるんだい?」
『お前さん以外にいねえだろうがよぉ』
薄暗い、如何にも科学者の研究室、といった内装の一室で、紫色のサソリ男_____【マッドクラウン】が、チラシをヒラヒラと揺らしながら、モニターに顔を向けてキーボードを叩いている白衣の男_____【神大針魏】に言った。
「何故、私にそんな事を言うんだい?」
神大はクラウンの言葉の意味を理解していたがしかし、敢えて訊いてみた。こういう風に彼が言うのは、大抵何か企んでいる時だからだ。
『今回のこのイベント………どうやらASTが動くみてえだからなぁ。精霊の絶好の捕獲スポットになるみてえだしよぉ。お前さんも、何かしら動くんじゃないかと思ってな』
「今回私は動かないよ。私にだってやりたい事があるんだ」
キーボードを叩く手とモニターに向ける視線をそのままに、彼はテーブルの脇に置かれた卵焼きを、一切れ箸でつまんで口に運ぶ。
「うん、美味しい。やはり糖分補給はこれに限るよ………。まあ確かに、データ収集はしたいけどねぇ。それは今じゃなくてもいいし、そもそも私の目的は精霊の確保じゃない。それは本職に任せて、私は私の分野でやるだけさ」
『………例の、新型か?』
そう言ってクラウンが視線を移したのは、モニターに浮かんだデータだった。
3Dモデルで映されたそれは、新たなるライダーシステムのバックルに見えたが、これまでに見たことの無い形状だった。
「そうさ。しかしこれが中々難儀していてねぇ。もう少しリバースドライバーでの戦闘データが欲しい。だから今回は、彼女達ASTと、本社からの出向隊員達に任せることにしたのさ」
『なるほどぉ。ま、そういう事なら、今回は俺が出張ることにするかな』
じゃ、と手をひらひらさせながら、クラウンは薄暗い研究室を後にした。
それを見送ると、神大は顎に手を当てながら、唇に笑みを浮かべた。
「まあ、向こうから動くなら………話は別だけどね」
◆
九月十一日、月曜日。
来禅高校の廊下を、スラっと手足の長い
「…………死にてえ」
「まあまあ、頑張りなさいって。結構似合ってるから…………くふっ………」
「お前らはいいよなぁ!そのままで良いんだからよぉ!!」
「しっ、静かにしなって。周りにバレるだろ?」
「そうそう。つーか、普通にしてればバレねえだろ」
「………お前ら後で覚えてろよ」
戦兎が明らかに悪い笑顔で、万丈が普通の表情でそれぞれ言う。それを恨めしい視線で睨みつつ、三人は目的である、亜衣麻衣美衣の元へと向かった。
しばらく歩くと、三人が見えた。何くれとなくおしゃべりをしているようである。
士道が深呼吸をして、三人に声をかける_______
「よっーす!」
「ん?」「え?」「ほ?」
前に、戦兎が気軽そうに三人の背に声をかけた。
思い思いの声を発しながら、三人が振り向き、戦兎達の方を向いてきた。
「あ、桐生くん。よろし____って、ばばば、万丈くん!?」
「よっ、手伝いに来たぜ。よろしくな」
「う、うん!よ、よろひく!」
「ひく?ま、取り敢えずよろしくな」
万丈の姿を認識した瞬間、熟れたリンゴのように真っ赤な顔になった亜衣が、緊張した様子で万丈に返事をした。
その様子を見てニヤニヤしていた麻衣と美衣だったが、しばらくして戦兎達の後ろにいた士道の事に気付いた。
「ん?桐生くん、その子は?」
「背ぇ高っ、モデルさんみたーい」
どうやら士道とは気づかれてはいないらしい。とりあえずはほうと息を吐く。
「その、葉桜さん、藤袴さん、そこで話しているのは山吹さんですよね、天央祭実行委員の」
「へっ?あ、ま、まあ…………」
「というか、おぬし、どこでその情報を!?」
「まさか敵国の間者か!?」
と、亜衣が慌てた様子で万丈から向き帰り、麻衣と美衣が何やら変なポーズを取りながら言ってくる。とはいえ、本当に警戒してる感じではなかった。戦兎が応じるように変なポーズをとって、あとを続けた。
「士道から伝言なんだけど、今日の実行委員は休ませて欲しいってさ。風邪ひいたらしい」
「へー、珍しいこともあるもんねー」
「風邪言い訳にして逃げたわけじゃないよな?」
「まさかー、もし風邪じゃなくて来ないんだったら火炙りの刑だよ」
なんだか明日どこぞの魔女よろしく火炙りされそうだったが、とりあえず聞かなかったことにした。
「だからこの子と万丈を代わりに行かせるよう言われててさ。問題なかったら、一緒に連れていってもいいか?」
「え?」
亜衣が、キョトンと目を丸くする。
「んー、そりゃ私たちは構わない、っていうか、むしろ人出が増えるから助かるくらいだけど………」
「そもそもあなたどちら様?五河くんや桐生くんたちとはどーいうご関係?」
「そういえばさっき呼び捨てにしてたし、桐生くんとも親しそうだったね。やだ、もしかして十香ちゃんや夕弦ちゃんにライバル出現?」
と、三人がにわかに色めき立つ。士道が慌てて訂正をしようとしたら、またも戦兎が割って入った。
「いや、従兄弟だよ。士道の。一組の五河士織ってんだ。な?」
無論、今考えた適当な設定であるが、戦兎が合わせるように視線を向けてきた。
「へっ?あ、ええ、はい!そうです、一組の、五河士織って言います」
戦兎からの助け舟に感謝しつつ、慌ててそう名乗る。すると、三人はスクラムを組むように会議を始めた。
そして数秒後、ガバッと円陣を展開すると、ポンポンと馴れ馴れしく肩を叩いてくる。
「色々腑に落ちない気もするけど、まあいいでしょ」
「よろしくね士織ちゃん」
「いっぱい働いてもらうかんねー」
「は、はい……!」
どうやら第一関門は突破したらしい。ほっと安堵の息を吐く。戦兎達も安心した様子だった。
と、その時。背後から何やらやかましい声が聞こえてきた。
「どうせ貴様の仕業だろう!言え、シドー達をどこにやった!」
「それはこちらの台詞。隠し立てすると後悔することになる」
振り返るまでもなく、十香と折紙であった。まだ集合場所に現れてなかったのが不思議だったが、どうやら士道達を探していたらしい。
「しまった、十香の存在を失念していた………!」
戦兎が何やら後悔した様子で青ざめたが、もう遅い。
「お、十香ちゃーん、鳶一さーん。こっちこっちー」
亜衣が手を振ると、十香と折紙が視線を向けてきた。
「………うぬ?」
と。士道の姿を目にした十香が、目を丸くする。
そして何やら目を伏せ、匂いを嗅ぐようにひくひくと鼻を動かしてきた。戦兎の顔面からだらり、と冷たく嫌な汗が吹き出る。
数秒後、確信を持った状態で士道の目を見つめてくる。
「何をしているのだ、シ_____」
「………っ!」
「あー、ちょっとストップ十香、ドリフトストーップ」
「ぬ?」
士道が慌てて口を塞ごうとしたのを、戦兎が制して十香の前に来る。十香の口を塞ぐと、亜衣麻衣美衣に見えないようパントマイムで意思表示をした。
「(訳あって・今・こんな格好・してる!悪いけど・知らないふり・してくれ!)」
「ぬ……?」
「(後で・きなこパン・買ってあげるから!)」
「!よし、心得た!」
意思疎通成功。この前興味を示した十香に教えておいて正解だった。それにしても、この交渉するたびに財布が少しずつ軽くなっていくのは気のせいだろうか。
十香は戦兎の提示した報酬に力強く頷くと、やたらと大きな声を発した。
「うむ!よろしくだ、シドーではない女!」
「え?……あ、は、はい、よろしくお願いします」
二人して頰に汗を垂らしながらも、士道が戦兎に深い感謝の視線を送った。
三人娘は少しだけ訝しげな顔をしたが、まあいつもの十香と言う事で納得したのだろう、深くは追求しなかった。
と_____
「…………!?」
「は?」
士道は思わずを目を瞑り、戦兎が困惑の声を漏らした。
理由は単純。突然下方からカシャッという音と共にフラッシュが焚かれたのである。
「えっ、えっ?」
「ちょ、お前何してんだ?」
士道が目を白黒させ、万丈がやめさせようと手を出すと、犯人は素早く逃れて再びフラッシュを焚いた。
不審がってそちらを見ると、すぐに犯人は知れた。
折紙だ。どこから取り出したのか、小型のデジタルカメラを構えて、妙にカッコイイポーズで連続してシャッターを切っていたのだ。無論被写体は士道である。
いつも通りの無表情だったが、心なしか少し興奮したように息を荒くしている気がした。
「あ、あの………」
「動かないで」
言って、折紙がまたもシャッターを切る。右から左から、プロ顔負けの迫力で一心不乱に士道の姿を写真に収めていく。
「目線をこちらに」
「え、えっと……」
「いい。とてもいい。とてもナイス」
「その………」
「一枚脱いで」
「こ、困ります」
士道としてはあまりこの姿を記録に残して欲しくないのだが、それを言ったところで折紙が従うとは思えなかった。顔を背けながら折紙の気が済むのを待っていると、救いの手がやって来た。
「おいコラ鳶一。しど……じゃなかった、士織が困ってるだろーが。そこらへんにしとけって」
「邪魔をしないで桐生戦兎。今凄く良いところだから」
「表情変えずに目だけキラッキラさせんなや。いよいよ通報するぞお前」
シャッターを切る手は緩めないまま、折紙が戦兎の方を見やる。戦兎はそんな鳶一を呆れと恐怖と引きが混じった表情で静かに見据えていた。
亜衣麻衣美衣もそんな様子を見てか、ヒソヒソと話し始めた。
「ねーねー、鳶一さんって五河くん狙いじゃなかったの?」
「女の子もイケるクチ?」
「DNA狙い?」
などと好き放題言われているが、折紙は全く意に介する様子が無く、仰向けに横たわると、ぐぐっと士道の両足の間に手を滑り込ませてくる。
「ちょっ、何を………!」
たまらずスカートを押さえて後ずさるが、折紙がカメラを持っていない方の手でがしっと足を鷲掴みにしてきた。
「こ、この、何をしているのだ!」
「おい、それ以上は流石に………!こ、こいつとんでもねえ馬鹿力で………ッ!!おい万丈手伝え!」
「え?お、おう!」
流石に見兼ねたのか、十香と戦兎と途中参加の万丈が折紙の両足を掴んで、士道から引き離そうとする。端から見たらさぞシュールに違いない。
だが折紙はその細腕からは想像もつかないほどの怪力で士道の足をキープしたまま、カメラからカシャカシャカシャ……と連続した音を響かせてきた。まさかの連写である。
「おい、戦兎……!ダメだこいつ、止まんねえ……ッ!」
「万丈で止められねえって、どんだけ馬鹿力だよ、コイツ………ッ!」
「ちょ、まっ、い、いやぁぁぁぁああああッ!?」
戦兎と万丈が奮闘する中、士道は顔を赤くして、女の子より(少なくとも折紙より)女の子らしい悲鳴を上げた。
◆
「あ"あ"〜………なんか、既に疲れたんだけど」
『まあドンマイ。それより、士道が美九と接触を開始するわ。ここからは士道と美九を二人きりにするから、有事になったら動いてちょうだい」
「りょーかい………」
あれから一時間後、どうにか折紙を引き剥がした後、場を抜け出した士道は戦兎と万丈とは別行動を取っていた。
行き先は勿論、誘宵美九の所である。どうやら今は一号館の竜胆寺のブースにいるようなので、女装している士道が単独で向かっているのだ。
その為今の戦兎と万丈は緊急時以外フリーなのである。万丈は終わった後すぐに、クラスの人に力仕事を任されていた。
「俺もクラスの手伝いに行くか……ん?」
とその時。ふと視界の隅に、見覚えのある人影を捉えた。
「あれは……殿町?」
クラスメイトの殿町宏人だ。何やら周囲を気にしている様子で、人気の無い廊下へと歩いて行った。
「あいつ何してんだ?あんな人気の無いところで」
別に、だからどうという事はない。
だが彼の行動にどこか引っかかる所を覚えた戦兎は、後をつけて物陰に隠れた。
殿町の方を見ると、スマホを取り出してどこかへ電話をかけていた。
「____ああ俺だ。こっちは順調だぜ。そっちはどうだー?」
何やら軽快な様子で笑いながら通話している。学外の友人か、それとも家族だろうか。見たところ、怪しい様子は特にない。親しい人と楽しく会話しているだけのようだ。
考えすぎだったか、と思い、戦兎はクラスの方へと立ち去った。
そして、戦兎の姿が見えなくなってから、程なくして_____
「______で、奴さん本気でおっ始めるって?………マジかよ、そりゃあ面白くなりそうだな。ハハハ!」
そう言って愉しく嗤う殿町の握った左手からは、シャカシャカと、何かを振る音が聞こえていた。
はい、皆さんお久しぶりです。
前回の投稿から約五ヶ月でしょうか。更新が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
今回こんなにも投稿が遅れてしまったのには、いくつか理由があります。
一つには、まず今回の話を書くのが結構悩んだ、と言うことです。お話の構成的に、そろそろこの辺りでストーリーを大きく動かしたいというのがありまして、今回の話でも少なからず動かしたいと思った結果、続きを書くのがとても辛くなってしまいました。
無論、理由はこれだけではありません。次が一番の理由です。
去年の十二月に、兼ねてより病弱だった母親が亡くなりました。
以前から入退院を繰り返しており、その関係で続きを書くモチベーションも下がり、亡くなったことで完全に創作意欲が失せてしまいました。
気持ち的にも沈んでいまして、いっそ辞めてしまおうか、とも本気で考えました。
しかし、待っていて下さる読者の方々の為にも、気持ちの落ち着いた今、続きを出した、という訳です。
長々と語りましたが、ここまで待っていてくださった読者の方々、本当に申し訳ありませんでした。
これから不定期になるかもしれませんが、執筆の方を再開していきたいと思っております。
また予告していたディケイドコラボや日常短編集も、美九編完走後に出したいと思っております。
そして前回後書きで語っていたジオウとデアラのクロスオーバー小説ですが、デアラとは別の作品の方でクロスオーバーさせて、いつか出したいと思っております。
長々と語りましたが、ここまで待っていてくださり、本当にありがとうございます。
最後にご報告になりますが、近々この作品に、大幅な加筆修正を加えたいと思っております。
理由といたしましては、続きを書くにあたって改めて読み返したところ、当時の自分の文章の拙さが目立った為です。
物語のストーリーは基本的に変更しませんので、更新も並行してやっていきます。
それでは、ありがとうございました。
次回、『第59話 祭りへのプレリュード』を、お楽しみに!