万丈「ついに始まったのか……頑張れよ、士道」
一海「そうだな。ファイトだ、士道」
戦兎「おい、俺への応援は?」
万丈「お前出るわけじゃねえんだし別にいいだろ」
戦兎「一応裏で色々やってるから、もっと応援してくれてもいいんじゃない?」
一海「具体的には何だよ」
戦兎「それは……後のお楽しみ?ってことで!」
万丈「誤魔化したよ………」
戦兎「誤魔化してねえよ!それにほら、もしかしたら俺がステージに立つかも知れねえだろ?」
一海「女装してか?」
一同「「「…………」」」
戦兎「………さっ!という事で、俺は女装しない第60話をどうぞ!」
二人「「強引に話進めたな」」
『______これより、第二十五回、天宮市高等学校合同文化祭、天央祭を開催いたします!』
天井付近に設えられたスピーカーから実行委員長の宣言が響くと同時、各展示場が拍手と歓声に包まれた。
九月二十三日、土曜日。天宮市内の高校生が待ちに待った、天央祭の始まりである。
今士道達がいるのは、主に飲食関係の模擬店が立ち並ぶ二号館である。ここは来禅高校の勝敗をも握る最重要拠点だ。
だが、そんな最重要拠点に居るはずの士道は今、地面に手をついて全身から暗い空気を発し、戦兎と万丈は腹を抱えて必死に笑いをこらえていた。
「おっ、おぉぉ…………」
「うっぇ、ひっ、くくっ……!」
「おま、そんな哀愁出して………えっひっ………!」
理由は至極単純なものである。
士道はゆらりと顔を上げ、辺りを見回した。周囲には様々な模擬店が展開されている。たこ焼きやクレープなどの定番系に始まり、その種類は多岐にわたる。
だが、士道達来禅高校の必勝策はそんな生易しいものでは無かったのだ。
士道は頭をぐりんと回し、自分の背後に聳えている看板に目を向けた。
【メイド&執事カフェ☆RAIZEN】
その無慈悲なる名称を頭の中で反芻しながら、視線を下にやる。そこには、
「おお!ひらひらだな!」
フリルのいっぱい付いたエプロンの裾をつまんでひらひらさせながら笑う十香や、
「ぷ、くく………し、士道、御主、おなごの格好もなかなか似合うではないか」
「不覚。失笑を禁じ得ません」
士道の姿を見て含み笑いを漏らす、十香と同じ装いの耶倶矢、夕弦。そして、
「お、お前ら、もうその辺にしとけって………!」
「そ、そうだぞ、ふっ、くくっ、し、士道だって、本意じゃ………!」
身体が垂直に曲がりそうな程腹を抱える、彼女たちとは対照的に黒を基調とした執事服に身を包んだ万丈、戦兎の姿が見受けられた。
そこまで再確認し、士道はさらに視線を下へ。自分の装いを見直した。
戦兎や万丈と同じ執事服………では無く。
______その逆、十香や八舞姉妹たちと全く同じデザインの衣服を。
濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のドレス。ついでに頭部には、これまた可愛いフリルで飾られたヘッドドレスが。
それを一言で言い表すなら、これ以上ないメイドさんスタイルだった。
「なんで……こんな………せめて、戦兎達と同じ執事服でいいじゃねえかよ………!」
「も、もう、お前それ以上喋るな………!」
「ば、バレるから……!やべっ、は、腹痛え………!」
女子制服も大概だったが、流石に士道も、人生においてメイドさんのコスプレをさせられるとは思わなかった。なんだか男の子の心の大事な部分を汚された気がして、再びがっくり肩を落とす。あと、さっきから必死に笑いこらえてる二人は後でシバく。
と、そんな士道の肩に、ポン、と優しく手が置かれる。_____亜衣(メイドさんフォーム)だ。背後には、同じ格好をした麻衣と美衣も見受けられる。
「どーしたのよ看板娘ぇ。ほら、そろそろお客さん来るんだからしゃんとして」
言ってグッとサムズアップしてくる。士道はゆらゆらとその場に立ち上がった。
「……あの、これ、メイド&執事カフェって」
「ああ。いいっしょ?竜胆寺に勝つにはこれしか無いって決めてたのよ」
「ほんとはメイドだけの予定だったんだけど、せっかくイケメンが二人いるんだし、裏方にするには勿体無いと思ってねー」
「そうそう。_____ていうか、万丈くんの執事服姿………やばい、直視できない………」
亜衣が何やら小さく呟いて辛そうに顔を下に向けたが、そんな事より。
「いや、ていうか………よく許可でましたね、こんなの」
天央祭はその規模こそ大きいものの、あくまでも高校の文化祭である。自由そうに見えて、意外と縛りは多い。学生に相応しくないと判断されると、そもそも許可自体下りないのだ。その点こういった接客メインの店舗は微妙なラインというか、グレーゾーンすれすれの筈だ。
そういった点は重々承知しているのだろう、悪い顔をしながら肩をすくめてくる。
「だから印象操作に苦労したのよー。最初はキャバクラで提出したからねえ」
「ぶッ!?」
士道は思わず吹き出した。亜衣麻衣美衣がカラカラと笑う。
「あんときはこっぴどく怒られたよねー」
「うんうん。でもそのおかげで本命のメイド&執事カフェが通りやすくなったし」
「ほんとはもっとスカートの丈短くしたかったけどね。マジ引くわー」
言いながら、美衣がスカート越しに士道の太腿に線を引いてくる。士道は顔を青くしてスカートを押さえた。そんな様子を見て亜衣麻衣美衣は再び笑う。ちなみに戦兎と万丈は過呼吸気味になっていた。
「まあ、士織ちゃんたちステージメンバーは入り口に立って客寄せパンダしててよ。ホールスタッフにはガチで接客教え込んであるから安心して呼び込んじゃって。戦兎くん達も宣伝よろしく!」
「そそ。出来るだけ派手にお願いねー。もう行列作っちゃう勢いで!」
「うんうん。メイドの方は天真爛漫絶世美少女とタイプ別双子に、長身気弱系。男の方もクール系イケメンに筋肉ワイルド系。これで釣れない奴はもう熟女好きかオジ専か同性愛者くらいのもんよ」
「…………」
「いやぁそんな褒めるなって!それほどでもあるけどー」
「筋肉ワイルド……カッケェなそれ!」
いつの間にか気弱系にカテゴライズされていたことに複雑な心境で苦笑する。
と、そこで士道は「ん?」と首を傾げた。
「そういえば………折紙さんはどうしたんですか?」
そう。他のステージメンバーはみんな揃ってメイドさんをしているのに、折紙の姿だけそこになかったのである。
「んー?鳶一さん?そういや朝から見てないわねー」
「一応担当場所はメイドカフェのはずだけど………」
「あの日なんじゃないのー?」
美衣が言うと、三人はあははと笑った。士道はどうリアクションしていいか分からず、ぎこちない笑みを浮かべるしかなかった。
「戦兎、あの日ってなんだ?」
「………それくらい察しろデリカシーがないな」
「デリカシーってなんだよ」
「それくらい調べろ馬鹿」
「馬鹿じゃねえよ!俺は筋肉ワイルドだ!」
「アレ気に入ったのかよ!」
ちなみに、士道の横で二人はいつものやり取りを繰り広げていた。
「ま、そのうち来るでしょ。ステージに間に合えば別に文句ないわよ」
「そ、そうですね………」
士道が頰を掻きながら答えると同時、正面入り口の方から夥しい数の足音が響いてきた。どうやら、お客様……もとい『ご主人様』と『お嬢様』がやってきたらしい。
「さ、じゃあここはよろしくねー!」
「時間になったら呼ぶからさー」
「あーみんな、ここは士織ちゃんに任せていくから、ちゃんと指示に従ってねー」
言って、亜衣麻衣美衣が店の中に引っ込んでいく。すると。
「あ、悪い山吹。ちょっと良いか?」
「ん?どったの桐生くん」
戦兎が亜衣を引き止め、何やらコソコソと話しかけていた。
「んー、別にいいけど、そんなに長くできないよ?」
「いや、大丈夫だ。あと______」
そう続けながら、二人揃って歩いて行った。
「え………っ、ちょ______」
店の中に残されたのは、士道、万丈、十香、八舞姉妹、そしてその他の、各クラスから選りすぐられた客引きメイドと執事が併せて十六名程である。それら皆が、今し方客引き隊長ち任命された士道に目を向けてきていた。
「え、ええと………」
士道は困り顔で頰に汗を垂らすと、コホンと咳払いをした。
「その、取り敢えず、皆さん、頑張ってください」
『はいっ!』
士道の声に応え、メイドと執事達が一斉に礼をする。きちんとメイドは手を前に合わせ、執事は胸の辺りに手を当てた綺麗なお辞儀である。なんだかんだでちゃんと教育されているらしい。……まあ、中には「おー!」と手を振り上げた万丈や十香、八舞姉妹のような者もいたのだが。
ともあれ、ここに決戦の火蓋が、切って落とされたのであった。
◆
それから間もない頃。
展示場内は開始前とは打って変わって、人と声が溢れかえる非常に活気に満ちた場となっていた。
「さあ、入っていくのだ!楽しいぞ!美味しいぞ!」
「お!おーいそこの奴!良かったら来てくれよな!」
「くく……ここより先は地獄の釜ぞ。常人たるぬしらに耐えられるかな?」
「掲示。こちらがメニューおよびシステムです」
「さ、お嬢様方、こちらにどうぞ」
カフェ入り口の右側で十香と万丈が元気よく(あまりメイドと執事っぽくはなかったが)声を上げ、左側で耶倶矢が客引きなのか客除けなのかよく分からないことを言い、夕弦がメニューの書かれたプラカードを掲げる。そして戦兎は一応執事キャラを全うしようとしているのか、丁寧な口調で爽やかな笑みを浮かべながら客を誘導していた。そんな五人の呼び込みもあってか、カフェには男女問わず多くの人が入っていった。
「おお……盛況じゃないか」
周囲の店と比べてみても、なかなかに好調な滑り出しだった。少なくとも士道の位置から窺い知れる店の中で、この店ほど人の集まっている場所は見受けられない。
と。
「……なかなか調子がいいみたいじゃないか、シン」
「よー、元気でやってるみた…………」
会場からどれくらい経った頃だろうか、前方から、二つの声が聞こえてきた。
「ああ、令音さんと一海さん。来てくれたん______」
と、士道は自然な調子で振り向き_____そのまま固まった。
その場にいたのは予想通り令音と一海だった。そこまでは良い。………だが、その二人が麦わら帽子を被った少女を一人連れ、一海が必死に舌を噛んで笑いを堪えている、という状況が加わったなら、話は変わってくる。
「あ、あの……」
「お、四糸乃じゃん」
「あ、戦兎さん……その、執事服、とってもかっこいい、です……」
「お!サンキュー!」
とその前に、麦わら帽子の少女____四糸乃に戦兎が挨拶する。四糸乃が戦兎の執事服を褒めると、礼を言いながら麦わら帽子越しに四糸乃の頭を撫でた。四糸乃は擽ったそうに、そして少し恥ずかしそうに身をよじったが、帽子のつばで表情は読み取れなかった。
そして再び、士道の方へと視線が向けられる。
「………それで、えっと……」
身体を向けた四糸乃が頬を染め、何か見てはいけないものを見てしまったような様子で視線を逸らす。
次いで彼女の左手のパペット『よしのん』が、カラカラと頭を揺らしながら甲高い笑い声を発した。
『やっははは、もしかして士道くん?似合うじゃなーいのー。もういっそ下取って上つけちゃいなよー。需要あるよー?』
「ぶっ!お、おいよしのん、やめ……うぇっく……!し、士道お前……そんな自然な感じで………ぐぅふっ!」
よしのんのその言葉でツボに入ったのか、最早笑いを堪え切れていない一海が指を指しながら腹を抱える。
「よ、四糸乃………」
「……き、来ちゃいました」
士道が掠れた声で名を呼ぶと、四糸乃がそう答えてくる。
確かに、四糸乃は先日士道と戦兎が誘っていた。何らおかしなことではない。
だが、どうやら女装の件は聞かされていなかったらしい。四糸乃は気まずそうに視線を戻し、士道の全身を上から順に眺めてくる。
「えっと……そ、その………可愛い、ですね」
言って、ぎこちない笑みを浮かべてくる。士道は後ろを向いてしゃがみ込み、メニュー表で後頭部を覆った。
「やめて見ないで!優しい言葉をかけないで!汚れた私を見ないでぇぇぇッ!!」
女言葉を止めるわけにもいかず、士道は悲鳴じみた声でそう叫んだ。
何故だろうか、十香や戦兎や万丈、折紙や一海や八舞姉妹に見られた時にはそこまででもなかったのだが、四糸乃の澄み切った双眸に見つめられると、何だか自分がとてもいけないことをしているような錯覚に襲われるのだった。
「あ、あのっ、私はそんな……」
「いいか四糸乃。誤解がないように言っとく。士道は決して、自分の趣味でやってるんじゃない。とても重要な任務に従事しているだけなんだ」
すかさず、戦兎がフォローを入れてくる。四糸乃がキョトンと目を丸くした。
「そ、そうなんですか……?」
「そ、そうだぞ。最近は女装にもブフッ…慣れて、グロス塗る時の仕草が、女にしか、見えねえけどうぇっふっ……断じて、士道が好きでやってる訳じゃなひぃぇっ、くくっ……!」
「何吹き込んでんだよお前!あと笑い堪え切れてねえからな!!」
「ぶぁははははははッ!!!」
堪らず立ち上がり叫ぶ。が、戦兎は途中で堪え切れなくなったのか少ししゃがんで手で顔を抑え、一海に至っては堪えることを放棄したのか大爆笑していた。それから少ししてヒー、ヒー、と笑いを沈めるように、二人が深呼吸を繰り返す。
………というか、いつのまにそんなに手慣れてしまっていたのだろうか。魔道に堕ちないよう注意しようと心に決めた士道だった。『仮面ライダーアライブは女装趣味』、などと囁かれた日には笑い話にもならない。
「入っていくんだよな?ちょっと混んでるけど、今なら並ばず入れると思うぞ?」
「あ……は、はい」
「……では、邪魔させてもらおうかな」
「おう。邪魔するぜ」
言って、令音と一海が四糸乃を連れて、メイドカフェに入っていこうとする。こうして見ると、三人家族のように見えなくもない。………父親の遺伝子が子に全く受け継がれていそうにない、という点に目を瞑ればだが。
「それではご主人様、お嬢様。こちらにどうぞ」
すると笑いのインパクトから立ち直った戦兎が、執事キャラで三人をもてなす。
「………お前なんだそのキャラ」
「仕方ねえだろ今一応執事なんだし」
「………なんか、気持ち悪いわ」
「はっ倒すぞ」
………何やら剣呑な空気が流れたが、一先ずはカフェへと案内する。
と、そこで四糸乃がくるりと振り返ったかと思うと、
「あの……ステージも、楽しみにして、ます」
そう言って、ぐっと右手を握ってみせた。
「おう、見ててくれ。俺たちのステージ。頑張るよ」
言って、返すように右手でぐっとサムズアップする。
四糸乃がぺこりとお辞儀をし、カフェに入っていく。士道達はその背を見送りながら小さく笑った。
思わぬところで勇気をもらってしまった。これは何が何でも勝たなくてはなるまい。
そう心に固く決心した、士道だった。
◆
令音と一海、四糸乃がカフェ内に入ってからしばらくして。
戦兎はんー、と背伸びをすると、辺りを見渡した。
「だんだん行列になってきたな」
「ああ。でもこれなら、しばらく客には困らないだろ」
万丈がメニュー表で肩を叩きながら言う。確かに、十香達の呼び込みが功を奏したのか、次々と行列が大きくなっている。これならしばらくは持たせられるだろう。
戦兎は「……よし」と小さく呟くと、店に入っていった。
「ん?おい、戦兎ー?」
「あれ?どうしたんですか?」
万丈が声をかけると、不思議そうな顔をした士道が尋ねてきた。
「いや、急に戦兎が……つか、俺らの前なら女言葉じゃなくてもいいんじゃね?」
「いや、一応客の前なので……」
そう言って、士道は苦笑する。
万丈と士道が店の中を見ると、メイドと執事が四人程、店の中から出てきた。それから後に続くように、戦兎が何やら紙を持って出てくる。
「どうしたんだよ戦兎」
「万丈、これ持って耶倶矢と一緒に宣伝してこい」
「はぁ!?ここはどうすんだよ!」
「代わりの人頼んだから。じゃ、そういう訳で!」
戦兎が手に持ったビラを万丈に手渡し、手を振って耶倶矢の方へと向かう。
「えっ?………えぇっ!?」
耶倶矢も似たような反応で、戸惑いつつもビラを受け取る。
すると、戦兎が何やら耶倶矢の耳元で何かを囁き、瞬間、耶倶矢の顔が少し赤くなった。
「な……!そ、それは良いな!」
「だろ?ほら、行って来なさいって」
耶倶矢が何か天啓を得たような表情をして、戦兎に押される形で万丈の元に駆け寄ってくる。
「よ、よーし龍我よ!まだ何も知らぬ者達を、地獄の釜へと共に
「はっ?ちょ、おい引っ張んなって!」
と、顔が赤い状態のまま、耶倶矢は万丈の手を掴み半ば強引に連れ立って行った。
「……どうしたの?」
「別に。ちょっとお膳立てしてやっただけさ」
士道が訊くと、戦兎は悪戯っぽい笑みを浮かべて、人差し指を立てて答えた。
その真意を読み取ると、士道は納得した様子で頷いた。
「…………あー、そういうこと」
「そ。ま、こういう時に後押ししてやらなきゃ、あの一途な馬鹿は落とせないよ」
そう。宣伝というのは方便。実際は二人の関係を応援(というより面白がっている)戦兎が、遠回しに耶倶矢に万丈を文化祭デートに連れて行け、という目的で行かせたのだ。
本人は気付いていないかも分からないが、傍目から見るととても楽しげな様子の耶倶矢と、戸惑いつつも付き合うつもりの万丈の後ろ姿を見て、戦兎はうんうんと頷いた。
すると。
_____クイックイッ。
「ん?おお夕弦。どうした?」
夕弦が戦兎の執事服の裾を引っ張ると、何かを主張するようにポケットへ手を入れ、先程戦兎が二人に渡していたビラを広げた。してやったり顔になると、夕弦は口を開いた。
「確認。戦兎、ここまでしたら分かりますね?」
「あー………」
要するに、夕弦も戦兎と回りたいという事だろう。先ほどの戦兎同様悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ほんのりと頰が赤く染まった夕弦に、戦兎は困った顔をして頭を掻いた。
確かに代わりの従業員は頼んであるし、方便とはいえ宣伝も出来る。
______ライブが始まるまでは、この祭りを楽しんでもバチは当たらないだろう。
「そうだな………ま、この前一緒に回るって約束したしな。_____行くか?」
「っ!応答。もちろんです」
戦兎が誘うと、夕弦はパアッと明るい表情になった。
「じゃ、早く回ろうぜ。……悪いな士道、俺と夕弦、少し抜ける」
「いや、代わりの人はいるし、大丈夫だ。楽しんで来いよ」
士道に伝えると、二人は一緒に並んで文化祭巡り_____デートへと、繰り出して行った。
◆
それから______
「____お!これ美味えな!おい耶倶矢、これ食ってみろよ」
「む?どれどれ…………おお!中々美味ではないか!」
万丈と耶倶矢はメイド&執事カフェの宣伝という名目で、文化祭デートに繰り出していた。
とは言えカフェでの仕事や、士道達のステージの応援がある為そう長い時間は取れない。それでも限られた時間を楽しもうと、少なくとも耶倶矢はこのデートを楽しんでいた。
一方の万丈も、この時間が悪くないと思っている自分がいることに気付いた。最初は振り回される形で連れ出されたが、文化祭を回るというのもなかなか楽しい。 デートの時に流れるラタトスクからの通信も、今日は何故か来ないのも一因だろう。
それにこうして耶倶矢と回っていると、想い出す。
かつての恋人、小倉香澄との________
「っ………」
「うむ、これは夕弦の分も______む?どうかしたか、龍我よ」
「!……いや…別に」
慌てて視線を逸らし、何もない風に装う。
楽しいのは間違いないし、耶倶矢といる事が嫌というわけではない。変な口調を除けば、気兼ねなく話せる距離感も良いと思える。
______だからこそ、どうしても重ねてしまう自分がいた。
耶倶矢は香澄じゃない。耶倶矢と香澄を重ねてしまったら、香澄を、香澄への想いを、どうしようもなく裏切ってしまう気がした。
耶倶矢が悪い訳ではない。悪いのは自分だ。
彼女をかつての恋人に重ねてしまう、自分の馬鹿さが悪いのだ。
______これ以上は、いれない。
「あ、あー……悪い、俺ちょっと、忘れ物しちまったかもなー!ちょっと、取り行ってくるわ____」
そう言って、その場を離れようとした瞬間。
「____ちょっと待って!」
「っ!?」
強い口調で、耶倶矢が万丈の手を掴んだ。
周囲から視線が向けられるが、そんな事は知らないとばかりに、耶倶矢は手を掴む力を緩めない。
「おい、耶倶矢_____」
「_____我とのデートは、やはり不満であったか?」
「っ………」
口調を戻して、耶倶矢が先ほどとは打って変わった少し弱々しい声音で話した。
「_____図星だな。この我の魔眼を欺けられるとでも思うたか?ふっ、やはりお主は馬鹿者よ」
「っ、なんだと___!?」
「忘られぬのだろう?恋人の事が」
「ッ!」
耶倶矢の言葉に、万丈の身が強張る。
その様子に耶倶矢は、やはりな、と、どこか分かっていたような表情で呟いた。
「………龍我が、その人の事を忘れられないのは………分かってる。だから時々、様子がおかしかったんでしょ?」
「……それは」
口調が普通に戻り、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。万丈は彼女に背を向くと、申し訳無さそうな表情をした。
______自分のせいで、耶倶矢に無理を強いていた。
自分が後ろめたい気持ちで耶倶矢と居たことを、彼女はとっくに分かっていた。
それなのに、そんな様子を見せずに、純粋にデートを楽しんでいた。
そして、彼女に背を向けたまま、答える。
「………俺は、お前の事を嫌ってるわけじゃねえ。お前と一緒にこの文化祭を回ってる時間は、確かに楽しかった。短いけど、それこそあいつと______香澄と一緒にいた時間と、同じくらい、楽しく感じれた」
「…………」
万丈の独白を、耶倶矢は黙って聞いている。後ろを向いているため表情を見ることができないが、振り向く事は躊躇われた。
「………でも、だからこそ。俺はお前と、香澄を重ねちまった。それが………怖かったんだ。香澄とお前を重ねる事が、自分を裏切っちまうような気がして………!これは、俺の我儘だ」
「…………」
我ながら、酷い理由だと思う。まさにどうしようもない馬鹿の屑が言うことだ。
______耶倶矢が自分に、好意を寄せてくれていることは、何となく分かる。
正確に言うなら、分かったのはつい最近か。それともずっと、目を逸らし続けただけかもしれない。
だからこそ自分勝手な理由で、耶倶矢を遠ざけようとする自分に、どうしようもなく嫌気がさした。
「だから耶倶矢、俺は_______」
それから言葉を続けようとした、次の瞬間。
「ッ!お、おい!?」
「………!」
耶倶矢は、万丈の背に抱きついた。周囲の視線を気にせず、耶倶矢が口を開く。
「……龍我の言ってる事は、よく分かった。でもだからって______諦めたく、ない」
「……!」
「確かに、龍我の恋人____香澄って人と私じゃ、いた時間だって違うし、どっちの方が好きかなんて聞くまでもない事だと思う。でも、それでも私は______この気持ちを、捨てたくない。私と夕弦を助けてくれた。一緒に生きられるようにしてくれた。そんな、馬鹿で真っ直ぐな龍我への想いを______私は、諦めたくない」
「…………耶倶矢」
紛れも無い、耶倶矢の本心だった。
口調は普通だし、普段の強気な雰囲気もない。心の奥底からの、吐露だった。
「_____離さないから。龍我が離れようとしたって、私が追い付いて繫ぎ止める。龍我が振り向いてくれるまで、ずっと」
「…………」
「…………」
一瞬、静寂が流れる。
やがてその静寂を破るように、耶倶矢が龍我の背中から離れ、言い放った。
「___くく、それにな、我とて待つばかりではないぞ、龍我よ。お主が忘れられぬと言うのなら、それを上回るほどに、お主を我の魅力の虜にしてくれるわ。覚悟すると良い!」
そう言い締めビッ!と万丈に指を指し、すっかりいつもの調子に戻った。
「………ぷっ」
それがなんだか可笑しい______いや、いつもの耶倶矢っぽくて、堪らず吹き出してしまった。
「な、何故笑う!我を愚弄するか!」
「い、いや___なんつーか、やっぱ耶倶矢は耶倶矢だと思ってよ。話し方が普通になったかと思ったら、相変わらず訳わかんねー話し方だし」
「わ、訳わかんなくないし!訳分かってない龍我が馬鹿なだけだし!」
「馬鹿って言うなよ!せめて筋肉つけろ!」
「じゃあ筋肉馬鹿!超筋肉馬鹿!」
「んだと!?」
「なにおう!?」
何故か言い合いになり、互いに睨み合い火花を散らせる。
暫くそうした後、龍我が表情を崩しふっと吹き出す。
「まあでも、お前の思いは伝わったよ。____そこまで言うんなら、俺を振り向かせてみろよ」
万丈は不敵な笑みを浮かべると、その勝負に乗った。
「!くく、当然だ。寧ろ感謝するのだぞ?この我の寵愛を受けられるのだからな。まずは____」
そこで一つ言葉を区切り、万丈の手を取る。
そして、後ろの万丈に振り返って______
「______この宴を、思う存分楽しもうぞ!」
そう言った時の耶倶矢の笑顔は、きっと忘れないだろうと、万丈は思った。
どうでしたか?
タイトルのデート部分を後半に詰めた結果、文字数が一万字近くに行ってしまいました。どうしても今回万丈と耶倶矢の絡みを書きたかったんです。そのくせあまり内容進んでないし、やる気あんのお前と自分に言いたくなりました。
次回はもっと内容進めるようにするので、許してください!
それと報告ですが、今回からこの作品の投稿を、毎週日曜の0時に定期投稿にしようと思っています。
理由と致しましては、先日までの投稿の遅れなどがあったため、やはり何かしら自分で登校する決まりみたいなのを決めた方がいいかと思いまして。稀に異なる曜日で投稿する日もあるかもしれませんが、その時はご了承ください。
あと、第5話までの加筆修正が終わりました。よければ見て行ってください。
それでは次回、『第61話 歌姫・オンステージ!』をお楽しみに!
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