デート・ア・ビルド(更新休止中)   作:砂糖多呂鵜

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士道「仮面ライダーアライブこと五河士道は、美九と共に、敵地の最上階へとたどり着く!」

一海「そしてその間、空中でこの俺、かずみんこと仮面ライダーグリスと、タコ足スマッシュによる激しい激闘が繰り広げられた!絶体絶命かと思われたその時、ついにグリスがパワーアップゥ!」

真那「あそこからよく持ち直しやがりましたね。それにしても、あの変身の時のクセの強い音はなんとかならねーんですか?」

一海「しらねぇよ、開発者(戦兎)に聞いてくれ。まぁ今いねぇけど」

士道「………つーかそうじゃねぇよ!前回から一体どれだけの時間が空いたと思ってるんですか!ようやく更新再開!みたいに息巻いてたのに!」

一海「このあらすじ紹介もだいぶ久しぶりだな」

士道「ああもう、ちゃんとやれっかな………つーわけで、みんな、待たせたな。いよいよ第77話、スタートだ!」


第77話 心に剣、輝くブレイブ

 ファングはマイティに対しスラスターを噴かせ、ファングクラッシャーの砲口から一条のビームを放つ。放ちながらスラスターの方向を直線へと変え、急速に接近していく。

 

 

【エッジ・ファング!】

 

 

 やがてビームが止むと、今度はファングクラッシャーの下部からブレードを展開し、攻性の随意領域(テリトリー)を展開してマイティの随意領域(テリトリー)を斬り裂く。

 が、そのブレードがマイティ本体に届くことはなく、すぐにデュアルスレイヤーに防がれ、接した点から火花が散る。

 

「くっ……!」

 

『______一手』

 

 マイティがそう呟くと、腰に挿したもう一本のレイザーブレイドを振るい、ファングの懐へと斬りかかる。

 

「ちぃ……ッ!」

 

 それに気付くとすぐに体勢を変え、斬り込まれるポイントに随意領域(テリトリー)を張る。だが、それも完璧ではない。マイティの振るわれたブレイドは随意領域(テリトリー)を削ると、デュアルスレイヤーによる膂力も加えてファングを後方へ大きく吹き飛ばした。

 

 そこで生じた隙をマイティが逃すはずも無く、スラスターで急速に接近すると、デュアルスレイヤーとレイザーブレイドの二刀流で以って上段から斬りつけた。

 

『二手______』

 

「ぐっ、この………!」

 

 急いで体勢を変え、防性の随意領域(テリトリー)を張りつつ回避の手を取る。デュアルスレイヤーによる一斬は、どうにか随意領域(テリトリー)で防ぐことが出来た。

 だがマイティはそれを防がれる事を読んで、再度接近。続くレイザーブレイドの一撃を、至近距離で喰らわせようとした。

 

『三手_____チェックメイトです』

 

 宣言し、光の刃が振るわれる。

 強固な随意領域(テリトリー)によって編まれた、濃密な魔力のブレードがファングに向けられた。

 

その絶対的な一撃を、防ぐ手は______

 

 

「______ハッ!!」

 

 

 ________思わぬ所から、()()()()()

 

『何………?』

 

「ぐっ_____!」

 

 防いだのは、ファングの右腕だ。右手に持っていたはずのファングクラッシャーは、空中で随意領域(テリトリー)によって浮遊していた。

 

 否、正確に言うならば、防いだのは右腕の甲_____そのスペースから伸びた、鋼色に光る爪である。

 

 【ウルフェイタルファングズクロー】_____ビルドのスマホウルフに搭載されていた【ウルフェイタルクロー】。それを発展させた、ファングの隠し手である。その表面はクラッシャーのブレードと同じく、ファングの生成魔力により作られた細かなレイザーエッジが蠢動し、ウルフマテリアルボトルの成分により、普通の状態でもかなりの強度を誇るのである。

 

『爪____そのような物を、隠していたとは』

 

「はんっ……奥の手ってのは、最後まで隠しときやがるモンですよ!ハァッ!」

 

 強がるファングだが、この機能の事を知ったのはついさっきの事である。しかし、相手が勘違いしてくれているなら別にいいかと、敢えてこう言った。

ともあれ、レイザーブレイドを防いだファングは、そのままクローで弾き返すと、空中で静止していたファングクラッシャーを引き上げ、左手に装備する。

 

 その瞬間、常人には目にも留まらぬスピードで、ファングはマイティへと向かっていく。マテリアルボトルを装填したファングクラッシャーを、エッジモードで蠢動させる。

 

 

【ONE SLOT!】

 

 

【シングルテアーッ!!】

 

 

「ハァッ!」

 

 音声が鳴るとともに、エッジに蒼いエネルギーが纏われる。

そのままそのエッジを、さながら一陣の蒼雷の如し速度でマイティへと振るった。だが、相手は最強の魔術師(ウィザード)にして、最悪の仮面ライダー。

 そんな簡単に攻撃は通らず、デュアルスレイヤーにより防がれる。

 

『直線的ですね。躱すまでも_____』

 

 だが、この攻撃は囮。こんな直線的な攻撃は、彼女に対して有効打足り得ないことはファングも十分分かっている。

 エッジがスレイヤーの刃に触れた瞬間、ファングは自らの随意領域(テリトリー)を微調整し、スロットからマテリアルボトルを勢いよく引き抜く。そしてそのまま空中で操作を途切らせず、ドライバーにセットさせた。

 

 

【CHARGE GO NOW!!】

 

 

 瞬間に、ファングは身を後方へとほんの少しだけズラし、右手に持っていたファングクラッシャーを上空へと放り投げる。

 

『な………』

 

 その咄嗟の行動により、一瞬だけマイティの意識がそちらへと移る。その隙を逃さず、右腕から伸びたクローと、両脚にエネルギーを充填させ______

 

 

ハウンディング フィニッシュ!!

 

 

「オリャァァァ____ッ!!」

 

 目にも留まらぬスピードで、パンチ、キックの応酬、凄まじいラッシュを叩き込む。狼が吠えたかのようなビジョンが浮かび、苛烈な攻撃がマイティへと襲いかかる。その荒々しさは、さながら獲物を噛み砕く獣か。

 

『く………』

 

 マイティはすぐさまその攻撃を、防性随意領域(テリトリー)で以ってガードする。だが、いかにマイティの随意領域(テリトリー)とて、ドライバー性能が上回るファングの渾身の必殺技を相殺するまでには至らない。さらには直前に注意を逸らされたことにより、随意領域(テリトリー)が不完全な状態だった。

 即ち______

 

「オォォォオ____アタァッ!!」

 

『な……っ!?』

 

 最後の一撃とばかりに放たれたクローの一撃が、マイティの堅牢なる随意領域(テリトリー)の守りを僅かながら撃ち破った。

 だがそれだけでは、マイティにはダメージを与えられていない。

 

 あと一手必要だった。あと一手あれば、ファングの牙は黒龍に届く。

 

 そしてその手は、先程ファングが上空へと置いていた。

 

『しまった………!』

 

 マイティが見上げる先には、先ほど空中に放り投げられて、軽く弧を描きながら宙を舞うファングの武器。ファングクラッシャー。

 

 ファングは空いていた左手を空に上げると、随意領域(テリトリー)を操作しクラッシャーを引き寄せた。

 

 ______最強へと一度だけ届く、一手を_______!

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉお______ッ!!」

 

 ファングクラッシャーのエッジの先に魔力を纏わせた事により、光刃によって刃渡りが一〇センチほど伸びる。

 その伸びたブレード諸共、マイティ目掛けて振り抜いた。

 

『は、ぐ………ッ!?』

 

 その刃の先に感じる確かな手応えと共に、マイティの苦悶が響く。

 だが次の瞬間、ファングは脚を見えない手に掴まれ、ビルの壁面目掛けて放り投げられていた。

 

「く………!」

 

 最大出力で減速させ、どうにか壁との衝突を防ぐ。呼吸を荒くしながら、先の交戦で酷使した右肩を押さえる。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

『………やってくれましたね』

 と、マイティが忌々しげな様子でファングを見据える。

 胸元から腹部にかけてアーマーとアンダースーツが破壊されており、生身の肌に、痛々しい傷跡が刻まれていた。随意領域(テリトリー)で止血は済ませてあるようだが、傷を負った際に飛び散ったと思しき血痕が、黒いアーマーに飛び散っていた。

 

 マイティが、デュアルスレイヤーの切っ先をファングに向ける。

 

『裏切ったとはいえ、かつては私に並ぶDEMのナンバー2だっただけの事はあります。私の身体に傷を付けた人間は、生涯で二人目です。………真那。あなたは誇っていい。_____その誇りを冥土の土産に、今度こそあの世へと送ってあげましょう』

 

「く………」

 

 ファングは疲労に軋む身体をどうにか支えて、右手にファングクラッシャーを構えた。だが、どうにか一矢報いたとは言え、未だ戦力差は開いたまま。更に疲労も相まって、このままではジリ貧である。

 だが、そこでマイティはピクリと反応を示すと、何やら耳元に手を当てた。

 

「______アイク」

 

 そしてもう一度ファングを睨み付けてから、第一社屋の方へと顔を向けた。

 

「っ、どこへ行きやがるつもりですか!?」

 

『時間切れのようです。続きはまた次の機会に』

 

「ッ、させると思いますか……っ!」

 

 第一社屋の方には、兄である士道や仲間達がいる。ファングはマイティを追おうと、スラスターを噴かせようとした。

 だがそんなファングの前に、突如降って湧いたように数体の影が現れた。

 

「っ、バンダースナッチ………!」

 

 意思を持たぬ機械人形が、ファングの前へと立ち塞がる。

 ファングは焦りに渇く喉に唾液を落とし、右手の刃を蠢動させた。

 

 

 

 

 _______IDを使い、扉を開ける。

 

 士道は美九を伴いながら、注意を払って部屋の中に足を踏み入れた。

 隔壁の内部は、フラクシナスの隔離エリアによく似た、少し広い構造になっている。広く仄暗い研究区画の中に、強化ガラスで囲われた空間が設えられていた。

 

「………!」

 

 目を見開く。その中に、椅子に手足を拘束された十香がいたのである。眠っているのか、顔をうつむかせていた。

 

「十香!」

 

 叫ぶも、こちらからの音声は聞こえていないようだった。恐らく、フラクシナスのそれと同じ構造なのだろう。

 ならばどこに入口が。いや、そんな悠長なことを言ってられない。いっそ壁を壊してでも______と。

 

 そこで、士道は身体の動きを止めた。

 誰もいないと思っていた研究区画の中に、男が二人、一人は士道達に背を向けて椅子に座り、もう一人は椅子の背もたれに肘を突き立っていたのである。

 

「く___」

 

 士道は気を緩めず、ドライバーを構える。吐き気すら催すほどの悪の気配が、奥から漂ってくるのを感じた。美九もその気配を感じ取ってか、警戒するように破軍歌姫(ガブリエル)の銀筒を構える。

 

「____よぉ。久しぶり………でもねぇか。さっきぶりだな、五河」

 

 二人の人影のうち、立っていた男が不自然な程に軽快な声を響かせ、まるで親しい友人であるかのように両手を上げて、士道達の方へと向かってきた。

 殿町宏人____否。諸悪の根元、マッドクラウンその人であった。

 

「クラウン…………ッ!!」

 

「……もう、殿町とは呼んじゃくれねぇか。___ま。お前と過ごした学園生活は、なかなか悪く無かったぜ?五河」

 

 殿町はそう言い肩をすくめると、冗談めいた小さな笑みを浮かべた。

 その様子____まるで、()()()のようなその振る舞いに、士道は言葉を続けずにはいられなかった。

 

「全部___嘘だったのか?今まで………学校で過ごしてきた思い出も、気さくに話しかけてくれたことも……クラスや、学校のみんなとの時間は、何もかも偽りだったのかよッ!!」

 

「……全部が全部、嘘だったって訳でもねぇさ。たまに楽しんで笑ったりもしたし?ちったぁ悪いこともしたとも思ってるよ」

 

「ッ……!ふざけんじゃねェッ!!」

 

 殿町の言葉に、士道は激情を顕にして叫んだ。

 ドライバーを腰に当て、変身しようとした、その時。

 

「____まぁまぁ、クラウン。折角来てくれたんだ、そう挑発することもないだろう?君たちは、【プリンセス】の友人……でいいのかな?」

 

 椅子に座っていた男が、静かな声を響かせ、椅子から立ち上がる。そして、ゆっくりとした動作で士道達の方に振り向いてきた。

 

「お初にお目にかかるね。DEMインダストリーのアイザック・ウェストコットだ」

 

 言って、その鋭い双眸を細めてくる。

 燻んだアッシュブロンドの髪と、長身。そして、どこか猛禽類を思わせる鋭い____ドス黒い双眸が特徴的な男である。 

 

 その顔を見て。その名を聞いて、士道は微かに眉を潜めた。

 

「アイザック……ウェストコット」

 

「よく来てくれたね。【ディーヴァ】に___」

 

 と、ウェストコットが美九に視線をやり、次いで士道に視線を向けた途端、言葉を止めた。

 

「ん?どうしたんだ?Mr.ウェストコット?」

 

 そして一瞬呆けたような顔を作った後、訝しげに眉を潜める。

 

「君は……何者だ?まさか………いや、馬鹿な。有り得ない、そんな筈は……」

 

 ウェストコットが何かを思案するように、口元に手を当てる。士道は彼の行動が分からなかったが、彼にこう返した。

 

「俺は_____仮面ライダーアライブ。五河士道!ここに、十香を助けに来たッ!今すぐ十香を解放しろ!!」

 

 そしてそう叫び、右手に灼爛殲鬼(カマエル)を出現させ、その先端をウェストコットに向ける。

 瞬間、ウェストコットは大きく目を見開いた。そしてしばしの間、士道の顔をまじまじと見つめ____

 

「___カメンライダー、アライブ。イツカ____シドウ。君が?」

 

 やがて、くつくつと喉を鳴らし始める。

 

「……くく、精霊の力を扱うことができる少年……まさかと思ったが、なるほど、そういう事か。くく、はは、はははははははは!!」

 

「な、何笑ってやがる!!」

 

 その突然の変容に、士道は叫び、灼爛殲鬼(カマエル)の柄を握り直した。

 しかしウェストコットは、構うことなく身を捩って狂ったような笑いを響かせる。

 

「滑稽じゃあないか。結局全ては_____()()()の掌の上だったというわけだ」

 

「なぁ?言った通りだろう?面白い事になるってよ」

 

「ああ!感謝するよクラウン。君は全く最高だ!」

 

 二人が狂気じみた笑い声を上げながら、まるで親しい友人のように話す。

 すると、士道の隣に控えていた美九が、気味悪そうに声を発してきた。

 

「……なんですかぁ、この人達。どこかおかしいんじゃありません?あぁあ、だから男は嫌なんですよー」

 

「別に男なのは関係ねぇと思うがな……早く十香を解放しろッ!!」

 

 士道が灼爛殲鬼(カマエル)を突き付けながら叫ぶと、ウェストコットは心底愉快そうに方を揺らした。

 

「もしもその言葉に従わなかったら、どうなるのかな?」

 

「悪いが無理やりにでも従ってもらう!!従わねぇなら………ここで叩っ切ってやる!!」

 

 士道の脅しに、しかしウェストコッとはくつくつと笑った。

 

「できるのかな?君に」

 

「できるとも。十香を助けるためなら、なんだってな!」

 

 言うと、続くように殿町が言った。

 

「ついこの間まで、友達だったやつにも、か?」

 

「……ッ!」

 

 クラウンの揺さぶりに、士道は一瞬言葉を詰まらせる。

 だが、士道は改めて視線を殿町____否、クラウンに向け、言い放った。

 

「……戦うさ。お前はもう、俺の知ってる殿町じゃねぇッ!!」

 

 それを聞くと、クラウンは肩をすくめて返した。

 

「言ってくれるねぇ。___ま、分かったよ。お前のその覚悟に免じて、俺はお前に手を出さないさ。……Mr.ウェストコット?」

 

「分かっているよ。私はクラウンやエレンのように強くないんだ」

 

 そう言うと、ウェストコットは手近にあったコンソールを操作した。

 すると、部屋中に響いていた小さな駆動音のようなものが小さくなり、辺りがふっと明るくなる。次いで、十香の手足を拘束していた錠がガチャリと音を立てて外れた。

 

「ッ、十香!」

 

 士道が叫ぶと、椅子に座っていた十香が、ふっと顔を上げた。どうやら、ガラスの内側にも声が通じているらしい。

 

『シ……ドー……?』

 

 そして身を起こし、微睡みを振り払うように目を擦ってから、士道の方へと目を向けた。

 

『!シドーッ!』

 

 士道の姿を確認するや、十香は勢いよく立ち上がると、全身に貼られた電極をぶちぶちと剥がして、士道の方に駆けていった。

 そして強化ガラスに両掌と額を押し付けながら、今にも泣きそうな表情を作る。

 

『シドー……シドー、シドーっ……!!』

 

「十香……!悪いな、遅くなって。待たせちまった」

 

 士道の言葉に、十香がブンブンと首を振る。その仕草に、士道は思わず口元を緩めてしまった。

 どうやら無事なようだ。とはいえ、まだ声と姿を確認しただけで、十香を救出したわけではないのだ。未だ二人の間には、分厚いガラスの壁が存在している。

 

「おい!あんた、ここを開けやがれ!」

 

「そんな立派な得物を持っているんだ。自分で切り裂いてみてはどうかな?」

 

 ウェストコットが肩を竦めながら言い、クラウンがニヤニヤと薄ら笑みを浮かべる。士道は苛立たしげに眉根を寄せた。

 

「……美九、言うことをきかせたい。頼んでもいいか?」

 

「ふん、あなたに指図されるのは気に入りませんけど、特別に乗ってあげますよ」

 

 言って、美九が一歩足を踏み出す。美九の声にかかれば、どんなに強固な態度を取ろうとも絶対に言いなりになってしまうのだ。

 だが、二人は美九の能力を知ってか知らずか____恐らくクラウンは知っているだろうに____悠然とした笑みを浮かべるのみだった。

 

「ああ____そうそう、一つ言い忘れていたが。イツカシドウ」

 

 そしてそのまま、小さく唇を開く。

 

「_____そこに立っていると、危ないよ」

 

「は…………?」

 

『っ!シドー!後ろッ!!』

 

 士道が戸惑いの声を漏らし、十香がガラス越しに悲鳴じみた声を上げたのと同時。

 

 ______ぞぶっ。

 

「が____________っ?」

 

 奇妙な音と共に、士道の胸に、熱い感触が生まれた。

 ゆっくりと視線を下ろすと_____自分の胸元から、レイザーブレイドの刃が生えていることに気付いた。

 そして、視界をさらに動かすと____後方に、黒い竜の仮面と、白銀のCR-ユニットを纏ったライダーの姿があった。

 

「マイ、ティ………え、レ、ン………っ!?」

 

『_____アイクに向けられる刃は、全て私が折ります』

 

 淡々とした調子でエレン____マイティがそう言い、士道の胸からレイザーブレイドを引き抜く。

 

「あ、が………」

 

 それと同時に、士道は夥しい量の血飛沫を身体から吐き出し、床に倒れ伏した。

 

『シドー!シドぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 ガン、ガン、と、十香が幾度もガラスの壁を叩き、士道に呼びかける。

 答えたかった。こんなの何でもないと、誇らしく言ってやりたかった。

 だが、士道が受けた傷が、それを許さなかった。全身から一切の自由が奪われ、右手の灼爛殲鬼(カマエル)も消えていく。

 

「___はははっ!だから言っただろう?()()()()()()()()、ってな。嘘は言っちゃいないぜぇ?」

 

 クラウンが挑発するようにそう言う。だが、その声に返す言葉も、今の士道は紡ぐことが出来なかった。

 

「十、香……………」

 

 掠れた細い声で、小さく呼び掛けた。だがもう、既に限界だった。

 声を出すことすらも躊躇われるほどの、激痛。

 視界が真っ赤に、血の色へと染まっていく。

 琴里の加護____その身に受けたあらゆる傷を癒すはずの治癒の炎の熱さも、今は遠い。

 全てが、わからない。

 

 

『___た。____が___ます』

 

『_____を_____しま_____うか___』

 

「ああ_____さ。_____が____だ』

 

 

 ノイズのような雑音が、耳に流れ込んでくる。

 

 それは十香の声か。美九の声か。クラウンの声か。ウェストコットの声か。マイティの声か。

 

 何も分からぬまま、士道の意識は、深い深い沼へと沈んでいく。

 

 落ちたら二度と戻ることの出来ない_____死への道。

 

 このまま、自分は、五河士道は、死ぬのか。

 

 何も為せず、何も果たせず、何も救えず。

 

 何も残せぬまま、仮面ライダーアライブ_____五河士道は、ここで、死ぬ。

 

 全てが薄れ、闇に染まっていく_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『____お腹が空いたぞ、シドー!』

 

 

 

 

 ______笑顔を、見た。

 

 

 

 

『____シドー、シドー、シドー………っ!!』

 

 

 

 

 ______涙を、見た。

 

 

 

 

『____シドーが誰かの笑顔を守るなら、私は____シドーの笑顔を守るだけだ』

 

 

 

 

 ______勇気を、見た。

 

 

 

 

『____シドーは、シドーだ!』

 

 

 

 

 ______笑顔を見た。

 

 

 

 

『____私のヒーローの、シドーだぞ!』

 

 

 

 

 ______くしゃっとした、笑顔を見た。

 

 

 

 

『____シドー!』

 

 

 

 

 ______守ると誓った………笑顔を見た。

 

 

 

 

「ぁ________」

 

 

 閃光のように、流れ込んでくる。

 

 士道が見た、十香が。

 

 その笑顔が、もらった言葉が。

 

 

「そう………か。そう、だよな………」

 

 

 その閃光を、士道は知っている。その光が齎す、胸の内を包むものの正体を、アライブは知っている。

 

 走馬灯_____否。これは、勇気。

 

 

 生きるための勇気。

 

 立ち上がるための勇気。

 

 そして____戦うための勇気。

 

 

「俺、はァ…………ッ!!」

 

 

 その勇気を胸に____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ____アアァァぁぁぁぁぁアァぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

『な……っ!?』

 

 士道は、吠えた。

 痛みを振り払うように叫び、最後の力を振り絞って、全身に力を入れる。そのあり得ない雄叫びに、傷をつけたマイティが驚愕の声を上げた。

 が。

 

「ぐっ………!!」

 

 起き上がろうとした瞬間、貫かれた胸部を起点に、激痛が走る。

 まだ灼爛殲鬼(カマエル)の炎による治癒が済んでいないのだろう。未だ傷口を炎が舐め、溢れる血が少しずつ減っていく。

 未だかつて経験したことのないほどの、凄まじい痛み。

 だが。

 

「それが……っ!どうした…………ッ!!」

 

 士道は歯を食いしばって、精一杯耐える。

 そう、痛いのなら、耐えるだけだ。

 身体の傷なら、例えいくら時間がかかったとしても、灼爛殲鬼(カマエル)の炎が癒してくれる。

 

 

 _____痛みを恐れるな。希望を捨てるな。

 

 

 痛みが怖くってどうする。(アイツ)が怖くてどうする。

 士道にとって何よりも恐るべきは、今この場で十香が奪われること。

 自分がここで倒れて、何も守れぬまま力尽きること。

 

 

 _____そんなこと。

 

 

「そんな事_____させるかァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

 

 叫び、そして____士道は、二本の足で、もう一度立った。

 

『馬鹿な………!』

 

「____ほう?」

 

 

 マイティが狼狽に満ちた呟きをし、ウェストコットが興味深げに吐息を漏らす。

 

『シドー……?………シドーッ!!』

 

 勇者は立ち上がった。守るべき者の笑顔を胸に、閃光の勇気を掲げて、不死鳥の如く燃える魂をその身に宿して。

 

 

 

 

 

 

 ______その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 

 ______ピキィィィィィィィ……………ッ!!

 

 

「………何?」

 

『これは……!?』

 

「………おいおい、マジかよ」

 

 士道の肉体から、溢れんばかりの光が放たれ、その相貌の目から下に、涙のように光るラインが浮かび上がる。そしてさらには灼爛殲鬼(カマエル)の炎が、致命傷であったはずの胸の傷を瞬く間に包み込み、短時間の内に治癒してしまったのである。

 

 やがて、士道から溢れた光は一つに集まり、士道の眼前に、一つの形を創り出した。

 

『あれは……!』

 

「っ……鏖、殺公(サンダルフォン)……!?

 

 そう。

 十香の持つ力にして権能。精霊を精霊たらしめる理外の力、天使。鏖殺公(サンダルフォン)

 

 その剣は士道の前で光り輝くと、二つの光条となった。そしてその光に引き寄せられるように、士道の胸元からある物が飛び出してくる。

 

「これ、は……」

 

 そこに現れたのは、一本のボトル____【サンダルフォンエンジェルフルボトル】と、連れ去られる前に戦兎が投げ渡してきた、小さな鈍色の玉座。

 

 

 そして、光はボトルと玉座に降り注ぎ、ボトルにはより一層の輝きが、鈍色の玉座は美しく彩られ、黄金色に輝く、さながら十香の鏖殺公のような玉座へと変わった。

 やがて光が霧散すると、それら二つは士道の手元へと吸い寄せられるように落ちていき、収まる。

 

 するとその瞬間、部屋中に笑い声が響き渡った。

 

「くく………ははははは!いやはや、やっぱり面白ぇなぁ、五河!まさか、お嬢ちゃんの攻撃を受けて尚立ち上がるとはなぁ!」

 

『……関係ありません。もう一度斬るだけです』

 

 マイティが再び刃を構え、士道に近づこうとする。

 

『っ!シドー………っ!!』

 

 すると、十香がガラスを叩いて、懸命な声でこちらに呼びかけてきた。

 だが士道は、そんな十香に向かって笑みを浮かべると、一言告げた。

 

「ちょっと待っていてれ。____すぐに迎えに行く」

 

『っ……!』

 

「だから____力を、貸してくれ」

 

 

 士道は向き直ると、リビルドライバーを腰部にセットした。

 

 ______キンキン、キンキン、キンキン______

 

 

 サンダルフォンエンジェルフルボトルを振ると、そこから剣のような無数の金属音が響く。

 そして、左手に持ったガジェットにボトルを装填すると、ガジェット上部の【ブレイディングスターター』を押し込んだ。

 

 

 

【激斬ッ!!】

 

 

 

 さらにガジェットを、ドライバーへと勢いよくセットする。

 

 

 

アライブサンダルフォンッ!!

 

 

 

 荘厳な音が鳴り響き、士道はボルテックレバーを握りしめ、回した。

 回すと、変身用顕現装置(リアライザ)が臨海駆動を始め、士道の周囲を囲うように夜色の光のラインが現れ、そのライン上を回るように複数の金色の支柱型ビルダー、【ASピラーズビルダー】が浮かび上がった。

 そしてファイティングポーズを取り、変身の構えを取る。その瞬間、ピラーズビルダーの形状が変化し、マスク、胸部アーマー、腕アーマー、脚部アーマーへとその形を変えていった。

 

 

 

【Are You Ready?】

 

 

 

 その、いつも迷う心を突き刺す問いかけに。

 

 士道は、寸分の迷いなく叫び応えた。

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

 その瞬間、周囲を漂っていたアーマー、【キングダムアーマー】が、士道の肉体を包み込み。

 全身から淡い光を発し、腰からヴェールのようなマントが生成された。

 

 

 

閃光ブレイブソォードォッ!!アラァイィブサンダァルフォォンッ!!

 

 

 

スパスパスパスパシュッパァァーンッッ!!!

 

 

 

 

 _____そこに立つは、黄金の戦士。

 

 

 お姫様(プリンセス)から賜った、黄金と夜色の鎧を身に纏い、右手に大剣を携えるその姿。

 

 それはまさしく、御伽噺のような____囚われの姫を救う、勇者の姿だ。

 

 

 その名も_____仮面ライダーアライブサンダルフォンである。

 

 

 アライブサンダルフォンは、マイティに剣を向け、勇しく言い放った。

 

 

「さぁ____俺たちの戦い(デート)を、始めようか」

 

 

 

 

 




 どうでしたか?
 またしても更新が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 そしてすいません、長くなりそうでしたので、新フォーム、アライブサンダルフォンの本格的なバトルは視界になるかと思われます。

 こちらがイラストでございます。


【挿絵表示】



 そして、一つご報告がございます。

 既に活動報告で見た方もいるかもしれませんが、このデート・ア・ビルド。

 リメイクをすることを決定いたしました。

 理由はいくつかありますが、まずはVシネなどを見た上で、設定を見直さないといけない点や、情報の描写不足が目立ったこと。
 
 そしてもう一つ、これは完全に個人的な理由なのですが、戦兎達のメインヒロインである八舞編を、どうしても書き直したいという欲に駆られました。
 もっとメインヒロインの章として、インパクトのあるものに仕上げたいと思っております。

 とはいえ、リメイク、と言いましたが、今、新しく投稿し直すか、加筆修正するという形にするかで迷っております。
 投稿し直しの場合、今連載しているこのデトビルは、折紙編を目処に更新が終わると思われます。

 久しぶりの更新で、勝手な事をいってしまい申し訳ありませんが、どうかご理解の程よろしくお願いします。

 
 それでは次回、【第78話 閃光のブレイバー』をお楽しみに!

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