Paradise Lost Division   作:陽朧

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悪魔、降臨せし時㉓

恐る恐る開かれた扉は、きいと小さく音を立てた。

明かりが落とされていたが、傾いた陽の光が窓から入って来るために視界は悪くはない。

夕暮れのオレンジ色が病院特有の白い床と壁を染め上げ、誰もいない病院内は静かに彩られていた。

鼻を刺す消毒液の匂いの中を、二郎は1つ1つの部屋を見て回る。

 

かつかつ、と2人の歩く音が、静謐に包まれた病院に響いていた。

 

 

「おーい、いち兄ぃ! ……あーくそっ、何処にいるんだ!?」

 

 

探し人の名を呼び回る二郎は、人の気配をまるで感じない病院に不気味さすら感じながらも、折角見つけた手掛かりを前に逃げ帰るわけにはいかないと必死に足を進める。

そうして、診察室前の通路を通っていた二郎はふと窓ガラスを見た。

良く磨かれたガラスは、夕暮れに染まる外の景色を綺麗に映し出している。

よくよく見ると自分の顔も見えて、疲れた顔をしているのがわかった。

 

 

「はあああ、ほんと何処行ったんだよ」

 

 

そう肩を落とした二郎は、後ろにいる三郎に声を掛けようとして、とある違和感に気が付いた。

窓ガラスに映るのは、外の景色と、薄らとだが診察室も映っている。そして、二郎も。

そのまま足元に目を向けると、そこには二郎の影が廊下に伸びていた。

 

 

「―――どうしたんですか?」

 

「ん? あ、ああ、なんか……、おかしくねえか?」

 

「え? なにが、です?」

 

「……なにって、お前」

 

 

二郎の後ろから聞こえてくるのは、年齢相応の、少し高めの声だ。

それに違和感はない。ない、はずであった。

廊下に伸びる“1つ”の影を見て、二郎は気付いた。気付いてしまったのだ。

 

むしろ何故今まで気付かなかったのだろう、と二郎は固唾を呑む。

この三郎というクソ生意気な弟は、基本的に“一郎意外に敬語を使わない”。

そして、基本的に“一郎意外に笑顔を見せない”のだ。

確かに最近イレギュラーは増えたが、そのスタンスは変わっていない。

なのに何故、後ろの少年は“そんな言葉で二郎に語り掛け”、“そんな顔”で二郎を見ているのだろう。いや違う、と二郎は体を強張らせる。潤んだ瞳を歪ませたその顔は、一郎を見るそれとは違う。あの(ひと)、だ。あのヒトを、見る目に近い。

 

 

「ねえ、……じろ兄」

 

 

しなる指先が、二郎へと向けられる。

何でもない、少年にしては細めだが普通の指だ。

普通の指である筈なのに、それを視界に収めた時二郎の背中に氷が這った。

それは恐怖という名の氷であることを、彼は本能で理解する。

「ひっ」とも「うあ」とも取れぬ悲鳴を溢した二郎に、三郎は鬱蒼とした笑みを浮かべる。

ゆっくりと、舐るように、上がっていく口角は、生々しい艶やかさがあった。

 

―――“既視感”。なんて感じ取る余裕はもはや二郎には残されていない。

 

理解が、追いついていないのだ。

だって、三郎は、自分の弟は、窓ガラスに映っていない。

傾いた夕日がつくり出す影も、1つしか伸びてはいない。

それなのに何故、自分は“それ”を知覚しているのだろう。

 

 

「無視、しないでくださいよ。ねえ」

 

 

 

 

 

かつん、と白い床を靴で叩いた音がする。

 

それは一歩、二郎へと近付いた音である。

 

二郎は、それ以上動くことはできなかった。

 

その恐怖は、二郎の本能を蝕み、思考を停止させる。

 

指先1つ動かすことのできない、圧倒的な恐怖であった。

 

 

 

 

 

「じろ、」

 

「ちがうっ……!

お前は、三郎じゃ、いや俺の弟じゃねえ……!!」

 

「……あははっ、それ、冗談のつもりですか?」

 

 

恐怖に凍てつく二郎を救ったのは、彼の“言霊”であった。

恐怖はいわば自己暗示である。未知なるもの、得体の知れないものに感じる、それを彼は言霊で払拭しようとしたのだ。力を持った言葉は、目の前の三郎を否定した。その姿は真実ではないと、告げたのだ。

しかし目の前の三郎は、相変わらず歪な笑みを浮かべるだけだ。

それは、二郎の言霊では敵わない存在であると、暗に告げていた。

 

 

「酷いなあ、この(ぼく)を否定するなんて。ねえ、じろ兄?」

 

「っ、……っざっけんな、誰が、だまされるかよ……!

弟を、間違えるほど……俺は、」

 

「あれ? おかしいな、だって、さっきまで気付いていなかったじゃないですか」

 

「それは……!」

 

 

かくりと首を傾げた三郎は、口元は緩めたまま蔑むような目で二郎を見る。

それもまた真実だった。二郎が三郎の違和感に気付いたのはたった今のことだ。それまでは、この三郎(にせもの)三郎(おとうと)として、接していたのだから。

 

 

「あはっ。偉そうなことを言って、大したことないんですねえ。

ああ、元々……大したことないか。だって、いち兄がいないと何も出来ないヒトですものね」

 

「なっ、」

 

「ふふふ、ふふふふふ……。いいこと思いつきました。

順番を入れ替えましょう。

どうやら、じわじわと追い詰められるよりも、一気に蹴り落された方が、効果がありそうだ」

 

 

くすくすと、それは服の袖で口元を隠して笑む。

猫のように細められた瞳に、言い知れぬ恐怖がまた二郎を襲った。

かつ、かつ、とそれが歩く音に、また近付いて来るのかと息を詰めたが、どうやら違うらしい。音に敏感な二郎の耳は、それが“遠退いていく”のを聞き取った。

 

 

「な……なんなんだ、いったい、……なんなんだよっ!!」

 

 

それの気配が消えて、どこかの扉が開いて閉じた音がした。

しかし二郎はそれを追うことはできなかった。何故ならば、その体がふと崩れたかと思うと、彼はそのまま廊下の床にへたり込んでしまったのだから。

力が入らない二郎の体は、かたかたと小刻みに震えていた。

 

―――“誰もいなくなってしまった”

 

そんな筈はないし、それを認めるわけがないのに、心に浮かんだ言葉は消えてはくれない。

さらに追い打ちをかけるように、病院を包み込む静謐が彼の心を(ひず)ませる。

 

力の入らない体をずるりと壁に凭れかからせた二郎は、自分の膝を抱え込むと顔を埋める。

何が起きているのかさっぱりわからなかったが、何かが起きていることだけはわかった。何かそう、大変なことが起きて、取り返しのつかないことになろうとしている。それだけは、はっきりと理解していた。それでも、二郎は動けなかった。

 

弟ではない何かに怯み怖じ惑うだけの自分が情けなくて、ただ足を竦めさせるだけで何もできなかった自分が悔しくて、二郎は心の中で、何度も兄の名を呼んでいた。にい、ちゃん……と、零れたのは言葉だけではない。彼が体を震わせる度に、ぽたりぽたりと、白い床に落ちる透明な粒が、声なき慟哭を形にしていた。

 

 

 

 

 

―――かつん。

 

再び、二郎の耳に足音が聞こえた。

二郎がその音を理解する前に、彼の涙がぴたりと止まった。

リズムと音を肝とするラップをする彼にとって、音を聞き分けることは朝飯前である。

あの三郎もどきの音とは違い、重みがあり、少し遅い、ワザとゆっくりと歩いているのだろうか。気が付けば、二郎は恐怖を忘れその音に集中していた。

段々と近付いて来るそれに、二郎はゆっくりと顔を上げる。

二郎の視界に、黒い影が伸びてくる。かつ、かつ、かつ、と近付いて来る音の方を二郎は、ただじっと見つめる。

 

 

 

 

 

「おっと、此処にいたのかい。探したよ」

 

 

 

 

 

二郎がその足音から思い描いていた人物と、同じ男が姿を現した。

洒落たスーツを着ている以外いつもと変わらないそれは、そう二郎に声を掛けた。

黄昏時は終わりを迎え、下りはじめた夜の帳がその顔に陰影をつける。

 

 

「フフフ、いい顔をしているね。誰にイジメられたんだい?」

 

 

目を見開いて己を見る二郎の瞳から、ぽろりと雫が零れ落ちた。

オッドアイの宝石のような瞳にぷくりと膜を張り、きらきらと落ちるそれは、とても清らかでうつくしいものに見える。ひと粒落ちれば、またひと粒と、溢れ出す宝石の粒に、“赤い瞳”はゆっくりと弧を描いた。

そうして、壁に凭れ座る二郎の前まで近づいたベリアルは、片膝を付いてその白い指先を伸ばす。眼前に迫る血の気を感じさせない指先からは、先ほどのような恐怖は一切感じなかった。ひんやりとした指が、二郎の顎に触れる。その指に微かに力が込められれば、二郎の視線は上を向いた。

 

零れる涙を拭うわけでも、慰めの言葉を言うわけでもなく、ベリアルはただ二郎を見つめる。

柔らかな微笑(うすわらい)を浮かべながら向けられるその瞳を、蛇のようだと二郎はぼんやりと思った。

 

 

「ふうん。……キミは、強いんだね」

 

 

いいコだ、と瞳を緩めたベリアルに、くしゃりと二郎の顔が歪んだ。

 

 

「っと、積極的じゃないか」

 

 

そうして二郎の体が動いたのは、本人にも無意識のことである。

勢いのままにというか、感情のままにがばりと飛び付いた二郎を、ベリアルは体勢を崩すことなく受け止める。ぼふんと固い胸に顔を埋める形になったが、ふわりと鼻を擽る香水が、必死に押し殺していた感情を解きほぐしていく。

二郎の胸を占めるのは、ただひたすらの安堵感と、微かな罪悪感であった。

 

 

「よしよし、かわいそうに。

キミのおニイさんが行方不明になったんだろう?

それでキミは、必死に探し回って……。ここに辿り着いたわけだ」

 

「っ、う……うう、……にいちゃんが、かえって、こなくて、おれ、」

 

「わかるよ。大事なものほど喪うのは恐ろしい。

だから、一番大切モノのは一番奥に隠し持っておくのが良いんだケド……。

中々うまくいかないのが現実さ。困ったことにね」

 

「でも、おれは……。にいちゃんがいないと、なにも……できないから」

 

「フフフ、そんなコトはないさ。

キミは1人で此処まで辿り着いたじゃないか。

それってすごいコトなんだぜ?」

 

「……え、?」

 

「キミは、兄弟を助けたいかい?」

 

「っ! と、とうぜん、だ……!」

 

「なら、体位を変えようじゃないか。

フフフ……。今度はキミが主導権を握る番ってことさ。

そんな情けない面じゃ、萎えちまうぜ?」

 

 

悪戯な言葉は、優しくも二郎を奮い立たせるような声音によって告げられた。

ぱっと顔を上げた二郎に、ベリアルは微笑を湛えたまま囁く。

 

 

「オレも、力を貸してあげよう」

 

 

 

男の肉体であるが故に柔らかさは皆無であったが、その品のある香りとぬくもりによって、二郎は落ち着きを取り戻す。強い光を取り戻したオッドアイに、ベリアルが残念そうな顔をしたのを、二郎は知らなかった。

 

 

 

 

 

「な、なあ、兄ちゃん。

そもそもなんで、兄ちゃんが此処にいるんだよ?」

 

「オレが此処に来なければ、キミはずっと濡れたままだっただろう?

少しは感謝してくれたって良いんだぜ」

 

「……っ! ま、前から思ってたけど……。

兄ちゃんの言い方なんか、アレだよな」

 

「うん? オレの言い方がなんだって?」

 

「っ、そ、その、なんつーか、えっと、」

 

「フフフ、駄目じゃないか。物事ははっきり言わないと」

 

「だっ、だあああ!! 一々、ヤらしいんだよっ!」

 

「ははっ、思春期真っ盛りのボウヤには刺激が強かったかい?

でも、この方が感じるだろう?」

 

「も、もうしらねーっ!」

 

 

漸く床から立ち上がった二郎は、ふと疑問を口にした。

ベリアルが来てくれたことは、彼にとっての僥倖であると同時に疑問でもあったのだ。

しかし返って来るのは、案の定戯れの言葉ばかりである。

違うことを連想させる言葉の数々に、顔を赤らめた二郎はベリアルから顔を背けた。

そうやって、年相応の反抗的な口調とは裏腹に素直な反応を見せる彼は、ベリアルにとっては良い玩具であったのだろう。愉快だといわんばかりに軽薄な笑みを湛えたまま、二郎の肩に手を置くと、くつりと喉を鳴らしたのであった―――。

 

 

「イイ感じに夜も更けて来たし、さっさとイこうか。

―――お愉しみはこれからだ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

―――舌から染み入る“味”は、鉄のそれだ。

 

噛み締めれば、噛み締めるほど、濃厚でまろやかで、甘くて。

 

飴を転がすように、ワインを味わうように、口の中で舐り呑み込む。

 

時折こみ上げる嘔吐感すら心地よく思えるほどに、その味に酔い痴れていく―――。

 

 

 

 

 

「おーい、無事かー! って、なんだこりゃ!?」

 

 

薄暗い部屋で、ベッドに寄り掛かりながら、何も考えられずただその行為だけを繰り返していた耳に、どたどたという廊下を走る音が聞こえて来た。特に施錠をしていなかったドアがばんっ!と開かれ、入って来た男は自分よりも年若い見覚えのない人物であった。

 

 

「ちょっ! いくらなんでも乱暴すぎでしょ!

どっぽちん、吃驚するからっ! ねえ、聞いてる!?」

 

「うっせ。にいちゃんに“もう限界だろうから様子を見てやれ”って言われなきゃ、好き好んで男の部屋なんか来ねーよ!」

 

「だからそのにーちゃんって誰なんだって! あ、ちょっと乱暴は止めてよねっ!」

 

「にーちゃんはにーちゃんだって!

ほら、アンタも手伝えっ! 大変なことになってんじゃねーか!」

 

「うっそ、どっぽちん大丈夫!?」

 

 

近所迷惑、という四字熟語が真っ先に頭を駆け抜けたくらい騒がしい2人組は、部屋の主である独歩に駆け寄った。そうして“何かが抜け落ちたような”独歩の虚ろな目を見た乱入者の1人である帝統は、あっちゃーと自分の額を抑える。

 

あの“謎”の会社訪問の後、ベリアルからの指示を受けた帝統は、独歩の住むアパートへとやって来た。インターフォンを鳴らすと、運が良いのか悪いのか偶々仕事が休みであった一二三が出て来たので、大分ざっくりと事の詳細を話すと彼を押し退けて中へと入ったのである。見知らぬ男が突然訪問してきて、突然中に押し入ったのだ。当然のことに一二三は、驚き戸惑った顔を見せた。

しかしそれも、あえて一二三が開けようとはしなかった独歩の部屋のドアを、その男が無遠慮に開け放ったことで変化した。

 

 

「まあ、想定よりはマシってか」

 

 

帝統からすれば、“かなりヤバい状況”を想像するに禁じ得なかった。

なにせ、あのベリアルが『彼、ヤバいかもね』と言っていたのだ。ホラー映画の如く部屋の中で惨殺されているのでは、とまで思っていたくらいである。

しかし中に入ってみると、部屋は至って普通であった。帝統が想像したようなことは一切なかったし、そもそも部屋も荒れておらず、男性の部屋にしては綺麗で清潔感がある。悪く言えば生活感があまり感じないのだが、そこはベリアルの部屋も同じであろう。

 

そのような部屋だからこそ、ベッドに寄り掛かり天井に虚ろな目を向けている独歩の姿は余計異様に映ったのだ。ちなみに帝統は、独歩や一二三とは今回が初対面ではあったのだが、のんびりと挨拶をしている暇はなさそうである。帝統は、腕に着けた“お守り” を擦った。

 

微かに香る鉄の匂いは、おそらく血であろう。

その匂いのもとは言わずもがな、座り込んだ男である。

指先と、唇から、赤いそれが滴っており、焦点の合わない目は何処も見ていない。

 

 

「おい、おいってば! 聞いてる!?」

 

 

両肩を掴んでがたがたと揺さぶりながら、一二三は悲痛な声を上げた。

帝統は腕を組むと、独歩の様子をじっと見る。

『おそらく、彼はヒプノシスマイクの使い手であるが故に“中途半端に壊されて”しまっているだろうね』とベリアルは帝統に告げたが、その言葉通りの状況となっている。

 

 

「……」

 

 

帝統は眉を顰めて、改めてベリアルの指示を思い出す。

何故あのベリアルが、独歩を助けようとしているのか。帝統はずっと疑問に思っていた。

彼から見ても、ベリアルは態々蟻地獄に落ちた蟻を助けるような性格はしていない。それならそこに、何らかの理由がある筈と、彼は考えていたのだ。それが何であるかはわからないが、もしそれがわかれば、ベリアルの意図を掴めるだろう。帝統の瞳が、煌めいた。

 

 

「おい、(あん)ちゃん。アンタもマイク持ちだろ?」

 

「あ、ああ、持ってるけど?」

 

「よっし、やんぞ」

 

「へ? やるって……何を?」

 

「そりゃ、マイクが2本ありゃやることは1つだろっ!」

 

 

帝統がマイクを起動させると、独歩の部屋は一瞬にして精神の世界となる。

ヒプノシスマイクを持つものたちは、こうして現実の世界から離れた場所を展開して戦うこともできるのだ。3人のいる場所はあっという間に、選ばれし戦士たちのみが入ることのできる戦場と化した。

 

 

「じゃあ、いくぜ! 有り金毟り取ってやるよ!」

 

「……。そういうことかい。

仕方ないなあ、あんまり乱暴なことはしたくないんだけど」

 

「ははっ、つまんねーこと言うなよ。

やるからには、本気で来なっ」

 

「わかってるさ。いくぜ、どっぽちん!」

 

 

帝統が展開しただけあり、辺り一面は金色を基調とした派手な装飾に変わっている。

このように展開した者によって、ステージは様相を変えるのだ。

おそらくカジノをモチーフとしてつくられたであろうステージに、2人は立つ。

独歩は一二三の傍でしゃがみ込んだまま、相変わらず精気の抜けた顔をしていた。

 

少々荒療治となるが、独歩もまたマイクを持つ人間である。

ラップバトルによって独歩の精神を引き戻そうと、帝統は一二三と独歩をこのステージに引き摺り込んだのだ。状況的には2対1であるが、実質一二三が独歩を庇いながら戦う形になるので、彼の負担は大きいだろう。帝統は2人の関係を明確にしらなかったが、同居している以上それなりに仲は良いのだろうと思った。同居人が自分を庇い傷ついていく姿を見ても、戻らなければ、その時は―――。

 

 

「させねえよ!」

 

 

ステージを彩る金色にも負けぬ輝きを持つその男は、真直ぐに帝統を睨み付ける。

まるで帝統の考えを全て見抜いているかのような、眼差しであった。

 

一瞬だが目を見開いた帝統は、ふと口元に笑みを浮かべる。

そうして夜のバトルは幕を開けた。

 

 

 

 

 

―――鳴り響く音楽は、魂を揺さぶる。

 

紡がれる言霊は、精神を奮わせる

 

手に(マイク)を握り締め、2人は言霊をぶつけ合う。

 

 

その姿はまるで、戦場で切り合う戦士のようであった―――

 

 

 

 

 

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