息苦しいまでの監視は御免です。

著者所感
もっと血なまぐさいものが書きたい。

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監視

 悪いようにはしないと言ったが、なかなか恐怖から降りてきてくれない。いくら可憐な美少女とはいえ、黒尽くめで銃を持っていれば人間には怖いということなのだろう。

「なんでこんなところにいたんですかぁ?」

 丸腰の若い女性が1人で私たちの任務地みたいなところにいるなんて、止むに止まれぬ事情でもあったのだろう。不幸なのは私に見つかっちゃったことかな。

 万が一、というのも考えて話を聞こうと思ったのだが、いい反応はもらえていない。嘆息しかけたところで通信機に着信の通知があった。

「はい、45」

「45姉! こっちは終わったよ!そっちは?」

 通信機はそんなに大きい声じゃなくても機能する。

「だいたいね。ずいぶん奥に入っちゃってちょっと時間かかりそう。先に合流地点に向かって」

「はーい!」

 通信を切られる。こういうところだと結構ドライだ。

 さて。

「話す気になりました?」

 彼女は何か握りしめて私を見据える。涙目だ。そんなに怖い顔はしていないと思うんだけど。

 視線を合わせてみる。銃を地面に置く。両手を挙げて投降のポーズ。

「大人しく話せば、撃たないから。迷子なら迷子で、そう言ってくれればいいの」

 まるで子供をあやすみたいだ。ここまでして、彼女はまだ頑固な子供だ。

 普通じゃない気がする。

「かみ……さま」

 私はため息をついた。

 彼女の首飾りを引きちぎって、握りしめられた十字を白日に晒す。

「やだ、返して! 返して!」

「喋れるじゃない」

「返してよ!」

「話してよ」

「返して!」

 やっぱり普通じゃない。いや、こんなものなのか。

 あいにく、私はそういうのを持ち合わせていない。

「迷子? 悪事?」

「迷っちゃっただけ! それ返してよ!」

 銀色の鎖につながれた真鍮の十字。こういうのを大事にする宗教があるのを私は知っている。

「お願い、返して……返してぇ」

 彼女の目に溜まっていた涙が流れ出した。さっきまでの恐怖をまるっきり忘れたみたいに私に懇願する。

 私は逡巡する。彼女の扱いを知る存在は私と彼女だけだ。

「ほら。そのドア出たら長い廊下だからまっすぐ歩くだけよ」

 十字を放り投げる。彼女はそれを命よりも大事みたいに拾い上げて一直線の廊下をフラフラ歩き始める。私は彼女の背中を見ながら銃と都合よく転がっていた鉄筋を拾い上げた。なんとなく、彼女に銃口を向けると、偶然にも、鉄筋が引き金に引っかかり、不運なことに、発射された弾丸は彼女の頭を撃ち抜いた。

 彼女は口を開いていた。「かみさま!」だとか叫ぼうとしたのだろうか。仰向けにひっくり返して、その口の中に十字を落とした。

「これはわたしの血肉である、とかだったっけ?」

その口はもう話すことも十字を噛むこともない。

 

「ごめんね〜遅くなって」

「珍しいわね45が遅れるだなんて」

「416みたいに完璧じゃないからね〜」

 416は何も言わない。

「いつでも出れるよー!」

 四駆の運転席から9が手を振る。そんなに大きな声じゃなくても聞こえる。

 9の隣に腰掛けて、考える。依存先としてなのか、愛としてなのか、怖いからなのか。

 全く不合理だ。「かみさま」ほど非論理的なものはない。わがままで、傲慢で、欲深い。都合が良すぎるし、気まぐれで、嫉妬までする。

「みんなはさ」

 この質問をすると、416はらしくないわねとかどうでもいい突っかかり方をしてきて、9は45姉は知り合いなのとか適当なことを言って、G11は少し黙ったあと考えたことないやとか中空につぶやく。そうなると思う。

「”かみさま”って、好き?」



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