伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~ 作:めるぽん
『女子会』!
大昔より 男子は狩り 女子はコミュニティ運営と 役割を分担してきた歴史がある!
『人間関係の情報共有』は女性にとって根源的な欲求といえる!!
……聡明たる読者諸賢なら既にお気付きの通り これは過去にも行われたやり取りである!
そう、『女子だけの伊井野ミコ歓迎会』である!!
だが、あの時はかぐやと藤原の女の戦いのような何かが勃発してしまい 主役のミコが置いてけぼりになってしまったのを反省し
藤原の提案による『やり直し』が 生徒会室にて行われる事となった!!
……が、藤原の思惑はそれだけではなかった!
以前と違い、つつがなく会が進行し場も出来上がってきた頃に、おもむろにミコに対して妖しい笑顔を向ける藤原!
「じゃあ、ミコちゃん!今日こそミコちゃんに『ドキッ☆』な事を聞いちゃいますよ~?」
「えっ?」
そう、藤原千花が『やり直し』たいのは、歓迎会だけでは無いという事である!
「ズバリ!ミコちゃんはこの前の奉心祭で誰に告白されたんですか?」
右手の人差し指を勢いよくピシイッ!と指し、さながら決めポーズのような雰囲気を漂わせる藤原。
……を、ミコは呆然とした表情で数秒見つめていた!
「……えっ、何の話ですか?」
嘘偽り無い反応である。ミコ自身に、先の奉心祭で誰かに告白されたような自覚は全く無い。
しかし、藤原はそんな反応にもめげずに、どこからか取り出した『ラブ探偵』帽子を被り、ウィンクしながら指をチッチッチと振る。
「隠しても駄目ですよーミコちゃん?私の友達が偶然、見ちゃったんですから……
後夜祭の時、ハートのアクセサリを何とも言えない表情で見つめるミコちゃんの姿を!
さあ!ミコちゃんにハートのアクセサリを贈った身の程知らずな男は一体誰なんですか!?」
あの場面を見られてたなんて。ミコは心の中で頭を抱える。
が、ここでミコが言うべき答えは1つだった。
「……えっと、アレ、石上から落とし物として預かっただけなんですけど」
「……なーんだ、そういうオチなんですか〜」
全く嘘を感じさせないミコの答えに、ロコツに落胆する藤原。
相手が他の男なら「本当の所はどうなんですか〜?」とニマニマしながらツッコむ所ではある。
が、落とし物として風紀委員のミコに預けられただけで、しかもその相手がミコと険悪な仲のあの石上と来れば、
藤原が『何の面白味も発展性も無い』と結論付けてしまうのも仕方の無い事であった!
かくして、藤原のもう1つの目論見である『恋バナリターンズ』は終わったのだが……
「あっ、もうこんな時間!それじゃまた明日〜♪」
歓迎会もお開きとなり、いつものように藤原が笑顔で生徒会室を後にする。
その場に残ったのは、ミコとかぐやの2人となった。
少し何かを考え込んでいたかぐやが、ミコに話しかける。
「伊井野さん……さっきのお話にあった『ハートのアクセサリ』って、どこに落ちてたかとかは聞いていますか?」
「えっ……?ああ弓道場って言ってました」
弓道場。
会長から『ウルトラロマンティック』を見せられる前に、射手としてキャンプファイヤーの火矢による点火を行う為に着替えに寄った場所……
現物はここには無いであろうが、恐らくあの時自分が落としたものであろう。
(きっと、それを偶然石上くんが拾って伊井野さんに渡したんでしょう)
生徒会の後輩達の手を巡り巡っていたとは、何やら不思議な縁である。
「……それ、多分私が落とした物ですね」
「えっ、四宮副会長の物なんですか?」
思いもよらぬ所で所有者が見つかった事に驚くミコ。
何せ名前も書いてないし、奉心祭中に見つかったハート型のモノとくれば、例のジンクスも有って持ちうる人物はいくらでも居たのだ。
特定など出来そうにもなく、半ば所有者の発見は諦めていたが……
「どうしましょう、やはり持ち帰るべきですよね?実のところ、もう必要は無いのですけれど……」
「ええ、分かった以上は引き取ってもらうのが…… えっ?」
『もう必要無い』という、かぐやの何気ない事実を表す一言。
だが、学年1位をキープし続ける才女・ミコの頭脳は、その一言からある事実に勘付いてしまった。
「……えっ?じゃあ四宮副会長、誰かと付き合っているんですか?」
「え……ええっ!?ど、どうしてかしらっ!?どうしていきなりそうなるんですか伊井野さんっ!?」
不意に予想だにせぬ図星を突かれて、かぐやの態度から余裕が一気に消え失せた。
顔を赤らめ、しどろもどろになってミコから目を逸らす。
誰の目から見ても、図星を突かれて慌てふためいているのは明らかであった。
―――そう、ミコの言う通り!
かぐやは今、付き合っている相手が居た!
もちろんその相手は、長らく両想いであり続け、先の奉心祭でやっとそれを互いに明らかに出来た男・白銀御行である!!
奉心祭後もかぐやの『勘違い』がもたらしたやらかしの影響でひと悶着有りはしたものの、めでたく交際を開始するに至ったのである!!
だが、交際を始めた事実は周りの人間に伏せていた!
もちろん気恥ずかしさも有ったのだが、
男女交際という事実に風紀委員として口うるさそうなミコ!
心の中で死ね死ねビームを撃ってきそうな石上!
もはや言うまでもない藤原千花!!
周囲の人間に交際の事実を明かせば多少なり面倒な事になるであろうと考え、
相談の元、『今まで通りの関係を装う』事に決めていたのだった!!
にも関わらず、何故今突然悟られてしまったのか?
「だって、奉心祭でハート型の物を持ってて、今はそれが必要無くなった、って事は!
告白しようと思ってたけど先に相手に告白されてOKしたから必要無いって事ですよね!?
そしてその慌てぶりはやっぱりその通りなんですね!?副会長ともあろう人が誰と交際してるんです!?四宮副会長!!」
妙な所で鋭いところが、尊敬する藤原とそっくり……と、かぐやは心の中で毒づいた。
こんな数少ない要素から、それを導き出してしまうなんて。流石は学年1位を誇る頭脳である。
「(こうなったら……仕方ありませんか)」
もはや、ウソを貫き通せそうにない。
いずれ、ふとした事からバレてしまうような事が有り得るという事は、かぐやも覚悟していた。
そしてそれを認めてしまうような相手が居たとすれば……それはミコか石上のどちらかである、とも考慮していた。
石上は自分をどこか恐れている節が有るので秘密を守らせる事は容易(内心死ね死ねビームを撃たれるにしても)だし、
ミコのちょろさというか、扱いやすさもかぐやは心得ていた。
藤原千花や、その他の知人や赤の他人に比べたらよほど与しやすい人間であった。
それに、明かす事にもメリットは有る。
身近な存在相手に、交際をひた隠す労力が一人分減るという事だ。
いくら秀才である白銀とかぐやとて、しょっちゅう顔を合わせる3人に関係を隠し通す事には疲れを感じていた。
生徒会の過半数である3人に隠すのと、過半数以下である2人に隠すのでは、精神的な疲れも違ってくるだろう……
「ええ、そうです。実は……」
覚悟を決め、表情に凛々しさを取り戻したかぐやは、ミコに明かせる限りの全てを話した。
「――やっぱり白銀会長とだったんですね」
その答えは予想していたので、ミコもあまり驚く事はなかった。
……が。
「あれっ?じゃあちょっと待って下さい……じゃあやっぱり!生徒会室で会長が『気持ち良すぎて死んじゃう』とか言ってたのも!体育倉庫で2人きりで密着してたのも!やっぱり会長といかがわしい事を……!?」
以前オシャカになった『会長とかぐや淫行説』が、『思春期風紀委員』であるミコの中で再燃してしまった。
「あの……伊井野さん?お話聞いてましたか?私達が付き合い始めたのは奉心祭の少し後ですから、その頃は……」
「し、神聖な生徒会室で……!やっぱり会長はけだもの……っ」
「伊井野さん?妙な妄想はその辺にしておきましょうね」
かぐやが、顔に柔和な笑みを貼り付けながら妄想を暴走させる後輩にピシャリと言い放った。
「大体、伊井野さんは『男女交際』を穿った目で見すぎじゃないですか?交際する男女の誰も彼もがいやらしい事を節操無くしている訳じゃないんですから」
「いいえ、会長と副会長は愛が行き過ぎてる節が有るみたいですし、信用ならないです」
プンプン怒りながらかぐやに反論するミコ。
「会長じゃ無かったら、四宮副会長の方から会長を脅してあんなそんな事をしてたりするんじゃないですか?」
「してません 会長を脅すだなんて……伊井野さんは私を何だとお思いなのですか?」
「それはもう、女お……あっ」
危うく決定的なワードを吐き出す前に、ミコは口をつぐんだ。
『何だとお思いなのですか?』と聞いた時も、今この瞬間も笑顔な事は笑顔なのだが、どこか恐ろしさや腹黒さを感じさせる笑顔なのだ。
尤も、ミコのブレーキ虚しく、かぐやの方はミコが何を言いかけたのかは重々気付いていた。
『氷のかぐや姫』などと周囲に呼ばれていた時代、揃いも揃って妙な目付きをした男達に、
『踏まれたい』『ムチで叩かれたい』などと不穏な言葉とセットで自分に対してぼそぼそと投げ掛けられた事のある言葉だからだ。
「と……とにかく!私の求める愛というのはそういういやらしい欲に爛れたモノじゃないんです!あのステラの……」
「ステラの?」
「あっ」
何とか切り返そうとして、またしても余計な一言が出て来てしまった。
「『ステラの』……何ですか?伊井野さんの求める恋愛観に関わるものなのであれば、是非聞いてみたいものですね」
「え……えっとその、今のは何の関係も……」
「私の大きな秘密もお話ししたんですもの。伊井野さんにもそういう秘密がお有りなのであれば、そちらも話してくれても良いのでは?」
「う……ううっ」
「ほら……先程誰かが言いかけたような気がしますが、『女王様』のお願いですよ?まさか……断るなんて事は有りませんよね?」
うっかり口が滑ってしまい、虎の尾を踏んでしまった事を悔やむミコ。
今や、『秘密を話すまでは帰しませんよ』という確固たる意思を全身から黒いオーラとして滲み出している副会長を落ち着かせるには、
自分も相応の代償を払わなくてはならないと、ミコは悟らざるを得なかった。
「……誰にも、本当に誰にも言っちゃダメですからね?」
「ええ、四宮家たる者、口が軽くては信用も威厳も無くなってしまいますからね。お互いに秘密を打ち明ける者同士、私と伊井野さんの秘密という事で」
かぐやの口の堅さを信用し、ミコはこばち以外に明かしたことの無い、あの秘密を打ち明けた……
「――――って事が、中学の頃に有ったんです。名前も告げず励ましの言葉をくれたこの人みたいに、見返りを求めないピュアな想い……こういうのが本当の愛の形だと思うんです!!」
ステラの押し花と手紙をかぐやに見せながら、ミコが力説する。
かぐやの正直な印象は、『伊井野さんらしい』といったところであった。
前々からミコがかなり度の入ったメルヘンチックを求める少女であった事は解っていたので、こういった『理想』を説かれるのはかぐやの想定の範囲内であった。
唯一想定外な事が有ったとすれば、それはただひとつ。
見せられた手紙の字が、かぐやのよく知る人物に非常によく似ていた事だった。
そう、かぐやはこの字の筆跡に見覚えが有った。
自分が定期的に教鞭をふるって勉強を見ている、あのちょっと気色が悪い所も有るが不器用で可愛い後輩の字にそっくりなのである。
「なるほど……という事はつまり、厳しい理念を抱く伊井野さんも、その『ステラの人』となら男女交際を受け入れても良い……そういう事かしら?」
「ええっ!?えっと、その……いや、男女交際というか、その……えっと……うぅ……」
突然痛い所を突かれて、答えに困窮するミコ。
しかし小柄で真面目でがんばり屋な彼女がおたおたと慌てふためくその姿も、またどこか可愛らしさを感じる。
そんな様子を見て面白くなってきたかぐやは、更に追い打ちをかける。
「あらあら……その人ですら受け入れられないんですか?では一生独り身のままで生きていくのでしょうか?風紀にのみ生涯を捧げていくのですか?
あなたの尊敬しているお父様とお母様も、恋の末に一緒になってあなたを授かったはずですのに……」
「そっ……それは……確かにそうですけど……」
確かに、紛れもない事実だ。
ミコが最も尊敬する『正義の人』である父と母も、その昔恋をして結婚し、そして自分が産まれたのだ。
それは確かにその通りであった。だが……
「まあ、風紀委員という立場上認めにくいかもしれませんね?ではこう聞き直すとしましょう……
もし、今後誰かと恋に落ちてしまうような事が有ったとすれば……その相手はやはり、『ステラの人』が良いのでしょうか?」
先程より妥協した質問であったが、ミコは答えにくそうに押し黙ってしまう。
そんなミコを、(プレッシャーをかけ過ぎないように気を配りつつ)じっと見つめるかぐや。
そうして、1分ほどの沈黙が続き……とうとう、顔を真っ赤に染めたミコが、無言で小さく、こくりと頷いた。
「もう、そこまで頑なでなくてもいいのに」
ここまで意固地に『ステラの人』への異性としての好意を認めたがらなかった後輩の頑固さといじらしさに、思わず笑みが溢れるかぐや。
「あなたのお友達の大仏さんだって、風野先輩と付き合っているのでしょう?風紀委員とて、想い人くらい居たって何もおかしくはないですよ」
「ほ……ホントは認めたくなかったんですよ!いいですか四宮副会長!絶対、ぜーったい誰にも言っちゃ駄目ですからね!
藤原先輩もそうですけど、特に石上とか!アイツに知られた日には……」
ミコの脳内で、妙に腹立たしい勝ち誇った笑みを浮かべた石上が自分を見下ろす。
「(へえ……伊井野も結局恋愛とかしたいんじゃん?普段あんだけぎゃいぎゃいうるさく取り締まってんのに……
伊井野の『正義』も結局は恋に負ける程度の物だったんだな……へえ……へええええ……)」
「……ってなります!」
「(……何でしょう、このどことなく既視感というか親しみを感じるお可愛い妄想は)」
口には出さないが内心呆れるかぐや。
そして、もし自分の考えが正しかったとしたら……今、彼女の『理想の恋』はとても面白い状況下に有る、と感じていた。
もし、その『ステラの人』が、自分が見覚えの有る字を書く、あの後輩だったとしたら……?
ミコと、その後輩の関係ならば充分知っている。簡単に言うならば、非常に険悪である。
真面目な彼女が、勘違いなども無しにナチュラルに辛辣に毒を吐く唯一の存在である。
もし、そんな相手が、その『ステラの人』の正体だったとしたら?
唯一『恋に落ちても良い』と渋々ながら認める男性だったとしたら?
「(――一体、伊井野さんはどう思うのでしょうか)」
僅かばかりの悪戯心が、かぐやの中に芽生えた。
――が、彼女の理性がそれをすぐに萎ませた。
『これこそが本当の愛』と力説していた時のミコの目の輝き。
あれを鑑みれば、きっとその『ステラの人』への想い入れは、自分が測りかねる程には強いものなのだろう。
それが、今自分が毛嫌いしている相手が正体かもしれないなどと、好奇心から無粋な真似をしてお可愛い幻想を粉々に砕くような事をしなくても良い。
それに、まだ確定した訳ではない。
ほとんど同じ字を書き、妙に花に詳しい人物が一人思い当たる。まだそんな段階だ。
「(これは――……まず、その人にそれとなく確認してみるのが先決でしょう)」
かぐやは心の中で、一人ニヤリと笑みを浮かべた。
翌日、生徒会室。
石上が、かぐやに勉強を教えてもらっていた。
今年度最後の定期考査も近付いてきたので、またかぐやのスパルタコーチが幕を開ける事となったのだ。
だが、石上は一抹の不安感を覚えていた。
今日は今までに比べ、妙に問題も優しいし教え方もより丁寧だし、笑顔も多い。
それに最近は図書館かLINEのやり取りで問題を送る方式だったのに、何故今日は生徒会室なんだろう?
そんな事を考えていると、隣のかぐやがふとペンを机に置いた。
「ところで、石上くん……石上くんって確か、妙に花に詳しい所が有りましたよね?」
あ、こっちが本題だったのか。と石上の優秀な観察眼は答えを出した。それにしても、妙って。
「ええ……まぁ。でも『気色悪い』んですよね。この前もうっかりつばめ先輩の前で花の話しちゃって……気を付けてるんですけどね」
少し前の失敗(と石上が思い込んでいる)を思い出し、気落ちする石上。
「いえ、花の知識が有ること自体は素晴らしいことなんですよ。
けれど石上くんの場合それを女性に妙な手法で贈ろうとするからダメなのよ」
「ぐっ……」
痛い所を突かれ、石上がますます気落ちする。
「石上くん、まさか……昔に花を誰か他の女の子に贈ったなんて真似はしてませんよね?」
「えっ?」
「ほら、貴方って意外と気配り屋でしょう?その方法が問題なだけで、それ自体はとっても良い所だと思うけれど……
例えばですけど、中等部の頃とかに、孤立している女の子を励ます為に名無しで花を贈った……とか、やらかしてそうだなぁと思いまして。
まさかそんな事はしでかしてないとは思いたいですが、確認の為に、一応聞いておこうかな、と……」
妙な質問だとは思ったが、石上にはその心当たりは有った。
中等部の頃、その融通の利かなさすぎる真面目さが故に周りに疎まれていたアイツ。
方法はともかく、必死で頑張っているアイツが孤立無援になるのは見てられなくて、
名前の入っていないメッセージと共に、一輪の花を贈った、というか机に忍ばせておいた事が有る。
だが、それをバカ正直に言う必要は無い。
どうせ言えばまた気色悪いなどと言われてしまうだろう。
「えー……いや、流石の僕もそんなキザったらしい事はしないですよ。花と匿名のメッセージカードなんて、そんな……」
「あら?私は『花』とだけ言ったつもりですが……『メッセージカード』とは?一体何の事でしょう石上くん?」
あ、やらかした。
「えっ……いやその、そんな事する奴は花だけじゃなくて、きっとそういうの添えてそうですよね?だからそういう想像ってだけで、別に僕の事じゃ……」
「あら、そうでしたか。変な事言ってごめんなさいね」
あれ、案外素直に納得してくれた?
「何しろ石上くんの事ですから、そういう事をしてしまっていそうな気がしたもので……」
「いやいや、いくら僕でもそんな事しませんって」
やれやれといった感じでため息をつく石上。が、どこか芝居がかっていてわざとらしい。
「ああ、ですが石上くん?少し前に皆で10円玉ゲームしたじゃないですか?実はあの時藤原さんが持ってきたウソ発見器……まだ、ここに置いてあるんですよ」
かぐやが戸棚をガラッと開けると、そこには見覚えのあるポリグラフが鎮座していた。
あ、ヤバい展開だこれ――――石上の直感が危険信号を発していた。
「念の為ですけど、石上くん……まさか、ウソなんてついてませんよね?
いえそんなはずはないですよ、普通に考えれば石上くんが私にウソをつくなんてあり得ない事です。けれど、もしも、って事も有りますからね?
もし、ウソをついていたとしたら」
「すみませんでした」
もうその先を聞くのが怖くなったので、石上は素直に白状する事にした。
「実はですね……」
かくして、石上は打ち明ける事にした。
誰にも話したことのない、かつての行為を……
「――――って事なんです。まあ……今その贈られた相手がそれをどう思ってるかまでは知りませんけど」
石上は、贈った相手がミコである事を伏せて話した。
どうもここまでうっすらと勘付かれていて誘導された感が有るが、まさか贈った相手がミコである事は気付いてはいまい――――と、石上は考えていた。
だが、かぐやはとうとう点を繋げ、全てを察するに至った。
贈った、贈られた当人達でさえ知らぬ事実に、かぐや一人だけが辿り着いていた。
「(これは……面白いような、複雑なような。何と言ったらいいのでしょうね……)」
ミコが心の支えとしているステラの花とメッセージを贈った相手。
そして、微かに恋焦がれている相手。
それが、普段はつんけんとした態度を取るも実はちょくちょくミコの事を気遣ってきていた、目の前に居るこの男。
なのにそれが伝わらず、ミコが何かと毛嫌いしているこの男・石上優である事にもはや疑いの余地は無かった。
石上が、ただ単に『励ましてやりたい』と思って贈ったステラの花とメッセージ。
それがミコの心を惹き付けてはいるが、
ミコは石上を毛嫌いしている。心惹かれている相手の正体が、彼である事も知らずに……
「……やっぱ、気色悪いとか思われたんですかね、アレも……」
かぐやの複雑そうな表情を見て、石上が調子の落ちた声で呟く。
「えっ?いや、どうでしょうかね?そこまでは分かりかねますが……ただ、まあそんなに悲観しなくても良いかと思いますよ?少なくとも、つばめ先輩にやろうとした作戦の数々よりは数段マシですから」
慰めになっているのかいないのかよく分からない慰めであるが、咄嗟に思い付く慰めはこんなものだった。
「どうでしょうかね……アイツ全然感謝してなさそうだし」
卑屈さ全開でため息をつく石上。
かぐやは心の中で石上の甘さを指摘した。
あらあら、その言い方には含みを感じられてしまいますよ?
ここで更に問い詰めてみましょうか?『あら、今の言い方だと贈った相手はまるで私も知っている知り合いのように聞こえますが?』
『あなたに感謝してなさそうで私も知っている同学年の人……それってもしかして伊井野さんなのですか?』なんて。
けど、まあここはよしておきましょう。事実確認が取れただけで充分です。
もし石上くんに一度全てを話させてしまったら、また今のように何かの拍子でヒントを口滑らせる事になってしまうかもしれない。
それはよしておきましょう……石上くんの為にも、伊井野さんの為にも。
――――ここ数ヶ月で『後輩への面倒見の良さ』というものを得たかぐやは、この奇妙な事実は自分の心の中だけに留めておき、成り行きを見守ろう――――そう気遣う事にした。
だが、その気遣いは無駄となるのであった。
石上とかぐや、2人きりであったはずの生徒会室、その扉の前。
予定されていた風紀委員会が委員長の体調不良の為急遽キャンセルとなり、
『ならばテスト休みの期間で誰もいないはずの生徒会室を利用して勉強しよう』――――そう考えていた少女が一人、扉の前まで来ていたのであった。
石上もかぐやも、その少女の手からショックで荷物がバラバラと零れ落ちる音には気付かなかった。
扉の外で、その少女――伊井野ミコが、中で行われていた話の内容に、まさしく『絶句』していたのであった。
「(……………………う…………う、そ……で……しょ……?)」
密かに、微かに恋心を抱いていた小さな少女は、あまりに突然に現実を思い知らされてしまったのだった。
はじめまして。密かに執筆していたものがストックが出来つつあるので投稿してみました。
お気付きの通り冒頭3行は原作77話2ページ目からの引用です。