伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~   作:めるぽん

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今回は3本立てにしてみましたがすんごく長くなりました(^_^;)
今回も僅かにオリ要素(以前出たモブキャラが再登場と追加の独自設定)が有ります。

あと読み進めていただければ分かりますが、1週間ほど前に公開された『あの映画』について、すごーくマイルドに薄めてありますがネタバレ気味の描写が有るので、
絶対NGだという方はお気をつけくださいませ。


第8話 交流会を成功させたい

【交流会!】

 

昨年もパリの姉妹校との間で実施され、白銀達現3年生組が開催準備に奔走した、日仏の学生同士の交流会!

秀知院学園高等部の校長が元フランス校の校長であるという繋がりがある事と、昨年の交流会がフランス側から好評であった事により、

今年も再び開催する事が決定した!

 

そしてその開催が迫りつつある今、生徒会室では準備の為の話し合いが行われていた。

 

「さて、フランス校との交流会の開催が迫りつつある」

 

白銀が話を切り出した。

 

「去年は大変でしたね~……校長先生突然言ってきましたし、準備も大変でした~」

 

生徒会書紀・藤原千花が去年のドタバタを回想しながら言葉を漏らす。

去年の開催間際は、まさに『目の回るような忙しさ』であった。

 

「へえ……去年はそんな事が有ったんですか」

 

去年の開催時にはほぼ『幽霊役員』であった石上は、その大変さを知らない。

 

「そういえば去年のその頃、石上くんは殆ど顔を出してませんでしたもんね。去年は3人だけなので大変でした」

 

かぐやが、石上の方を向いてニッコリと微笑んだ。

 

「……い、いやその、すみません」

 

何か責められているような圧を感じてしまったので、石上は反射的に謝った。

 

「いえ、何も責めているワケでは有りませんよ。ただ……」

 

「た、ただ?」

 

恐る恐る石上が尋ねる。

 

「私からひとつ提案が有りまして。今回は、石上くんと……伊井野さんの2人がメインで準備を整える、というのはいかがでしょう?」

 

「「ええっ!?」」

 

石上とミコが、同時に驚きの声をあげた。

 

「ど、どうしてですか?」

 

ミコがかぐやに尋ねる。

色々と腹黒い一面を持っている事は知っているが、理不尽な事を言う人間ではない事も知っている。

まさか『去年やっていない人間に押し付けてやろう』などという理由ではあるまい。

 

「伊井野さん、次の生徒会長への立候補は当然考えていますよね?だとしたら、私達が手助け出来る今年の内に、会長となった場合の来年以降の為の予行演習を経験しておいた方が良いのではないか……と思いまして」

 

いたって真剣な眼差しで説明するかぐや。

(珍しく)純粋に後輩の為を思った上での考えである。

 

「なるほど……一理有るな」

 

かぐやの隣に座る白銀がうんうんと頷き、かぐやの説明に納得の意を示す。

 

「……僕は次期の生徒会に居るとは限らないですけど」

 

石上がぼそりと呟く。

石上からしてみれば、例えミコが晴れて会長になったとしても、自分が引き続き生徒会役員として選ばれる確信は無い……どころか、選ばれない可能性の方が高いと踏んでいた。

ここ数ヶ月は、何かと一緒に居る時が増えたり、少しドキドキするような事が有りはしたけれど。

別に、距離が縮まった訳ではない……というのが、石上の見立てであった。

 

「あら、伊井野さんが石上くんを引き続き生徒会役員として迎え入れる可能性は充分に有ると思いますよ?ねぇ、伊井野さん?」

 

かぐやが、ミコの方を向いてニッコリと微笑んだ。

 

「えっ!?」

 

突然とんでもない事を振られて慌てるミコ。

 

確かに、もし生徒会長になれたら……石上に生徒会役員をやって欲しいのは事実。

だけど、四宮副会長にはこの前、石上への気持ちがバレている……!

もしかして、この流れでここでそれをバラしてしまったりするのだろうか?

もし、そんな事をされたら!

 

『(なんだ伊井野監査……日頃の石上への態度は照れ隠しだったという訳か?お可愛い奴め)』

 

『(へぇ〜そうだったんですね!素直じゃないミコちゃん可愛いです♪)』

 

そして……

 

『(伊井野……そうだったのか?普段ぎゃいぎゃい言ってきといて、実はそんなに僕にそばに居て欲しかったのか……へえ……へええええぇ……)』

 

それだけは!それだけはダメ!

 

そんなミコの慌ただしい脳内を見透かしているかのように、かぐやは心の中でひとり微笑んでいた。

 

ちょっと話を振っただけでコレだなんて……ほんと……お可愛いこと。

 

ただ、少しからかってみたとはいえいくら何でもこの場でミコの恋心を暴露するようなかぐやではない。

当然、もっともらしい着地点を予め用意した上での行動であった。

 

「だって石上くんは、なんだかんだで2期連続で生徒会役員を務めていますし……新米生徒会長となった伊井野さんをサポートする、経験豊富で生徒会の内情を知っている人間として、他に適任が居ないという事で『仕方なく』選ぶ事は充分に有り得ると思いますよ?『仕方なく』、ね』

 

「ああ、そういう事ですか」

 

『仕方なく』という部分を妙に力を込めて言ったのが功を奏したか、石上もすんなりと納得しつつミコの方を見た。

 

「ま……まあ、か……可能性はあります」

 

少しの照れと精一杯の強がりが出た顔でミコが答えた。

 

あーはいはい、『仕方なく』ね……とも思った石上であったが。

 

『(はぁ?なんでアンタなんかを選ばないといけないのよ?

やっと生徒会からアンタを追い出せるチャンスなのにそんな事するわけないでしょ?

ほんと……生理的に無理)』

 

などと言われないだけマシか、とすぐに思い直す事にした。

 

「という訳で、伊井野さん、石上くん……もちろん会場の設営などは私達もお手伝い致しますので、立案やその他の準備は……お願い出来ますか?」

 

「はい!頑張ります!」

 

「……四宮先輩の頼みなら」

 

次期生徒会長としての実地経験の為に張り切るミコと、かぐやの頼みならよほど理不尽な事以外は逆らえない石上。

そんな2人での、交流会の準備が幕を開けた。

 

 

――――――――――――【その1 『生徒会は仮装したい』】―――――――――――

 

 

「……藤原先輩。コレはやる必要が有るんですかね?」

 

石上が、もはや半ば諦めたような呆れ声で藤原に問い正した。

 

「えっへへー!去年はかぐやさんと会長が何故かおかしくなっちゃったので出来ず終いでしたので……今年こそは是が非でもやるんです!コスプレを!」

 

交流会の開催要項の案を練っていた石上とミコの元に、藤原が裁縫部と演劇部から借りてきた衣装箱を持って来ていた。

 

会長はどこかで見たようなマントとシルクハット姿、かぐやと藤原は猫耳。

石上は……

 

「…………イタい」

 

タキシードに、襟の立ったマント。

ウイッグとして以前の髪型に近いものを被せられた石上のその姿は、吸血鬼をイメージしたコスプレであった。

 

 

「ほらー!似合うじゃないですか!『闇のナントカに抱かれて消えろー』って言いそうな感じで!」

 

目をキラキラさせながら褒める(?)藤原。

 

「……つまり厨二病って事ですね」

 

そんな風に見られていたのかと若干落ち込む石上。

 

「いえいえ!なんか闇の住民って感じがピッタリというか〜」

 

「もういいです。どうせ陰キャの厨二病です。あー闇大好きー」

 

まともに取り合っても傷付いて行くだけのような気がしたので、開き直って受け入れる事にした。

 

そして、ミコは……

 

「お……お待たせしました」

 

隠し部屋にて着替え終え、扉を開け現れたミコのその姿は……

 

「うわあぁぁぁ〜!ミコちゃんかわいい!かわいいよ〜!ほら『ワン』って言ってみて〜!」

 

どんな演劇で使う予定だったのかはさっぱり不明であるが、

ミニチュアダックス辺りを彷彿とさせるドロップイヤー(たれ耳)フードを付けた、小型犬をイメージしたコスチュームであった。

 

「わ……わんっ」

 

尊敬する藤原の頼みなら断れない。ミコは恥ずかしがりながらも、小さく垂れさせた両手を前に突き出しながらリクエストに応えた。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ〜!かわいい!かわいいよぉ〜!」

 

藤原が恍惚の表情で、スマホのカメラでミコを撮りまくる。

 

「ね?ね?石上くんも似合うと思いますよね?」

 

目をキラキラさせながら石上の方を振り向く藤原。

女子2人のやり取りをそばで見ていた、石上の反応は。

 

「……まあ、なくはないですかね」

 

無表情で、予想外の淡白な反応。

ちょっと恥ずかしい思いをした分、石上の反応をちょっとだけ期待していたミコが内心落胆したのは言うまでもない。

 

似合ってないんだろうか?

やっぱり……こういうのは、藤原先輩みたいな可愛い人がやってこそなんだろうか。

自分のような、真面目で可愛げの無い人間がやっても……

 

と、石上の上っ面に見事に騙されて気落ちしているミコには気付けなかった。

石上のその無表情が、自分の中での死闘の結果辛うじて保たれているモノであるという事を!

 

いつぞやの白銀やかぐやのように、にやけそう……というわけではないものの、

ちょっとでも気を抜いたら、実に間抜けな表情が露見してしまうであろうと石上は考えていた。

元々、石上はミコに対して『小型狂犬』というイメージを抱いていた。

小さいから怖くはないけど、やたらキャンキャン吠えかかってくるヤツ。

 

確かに、身体の小さい小型犬はその他の犬に比べ威嚇の為によく吠える一面が有る。

ただし……勿論、うるさいだけの存在では決してない。

機嫌の良い時は その小さな体躯が非常に可愛らしいのである!

背丈の小さいミコが、小型犬を模したコスプレをして!

怒るわけでもなく 戸惑い恥ずかしがるその姿はまさに!

 

【奇跡的相性】であった!

 

やべぇ。なんだこれ……

まただ。どうして。

なんで、あの伊井野が……こんなに……

 

いやいやいやいや、これは違う、絶対違う。

アレだ、思ったよりマッチしてて感心してる。『馬子にも衣装』の諺のリアルケースが見られて感動、的なヤツだよ単に。

 

……第一、伊井野の事をそんな風に思ったところでどうするんだ。

もし、ちょっとでも『かわいい』などと思ってしまった事を悟られでもしたら!

 

『(うわっ……アンタにそんな事思われても全然嬉しくないんだけど?

か弱い小動物を狙うけだものの目で見ないでよ……

ほんと……生理的に無理)』

 

とか言われるだろう……

 

ネガティブな思考をすることでテンションを下げ、高まりそうになった気持ちを冷静に落ち着かせた石上。

 

「も〜石上くんってばつれないですね!じゃあミコちゃんも石上くんのコスプレにズバッと言っちゃいましょう!」

 

藤原が石上の後ろに回り、くるりとミコの真正面に向かせる。

 

ミコと石上の、2人の目が合う。

 

「あっ……」

 

「…………」

 

しばし、流れる沈黙。

そして……

 

「……ま、まあ、終わってなくはない、と言えます」

 

ミコの口から出てくる辛辣な批評。

 

「なんだよその『あと一歩で終わる』みたいなレベル」

 

案の定低評価を叩きつけられたが、予想していた以上に辛辣な評価が飛んできて石上の声に不満が込もった。

 

まさか、ミコが自分に対して懸想しているなどとは気付きもしない石上。

ミコが必死で絞り出した否定の言葉に、まんまと騙されてしまった。

 

確かに、石上のコスプレはかなりキているタイプのコスプレであった。

これで片目を隠しつつドヤ顔のひとつでもキメれば、完全に闇属性タイプの厨二病患者の出来上がりと言えよう。

 

だが、モチーフとしている吸血鬼は厨二病とは別の側面も持っている。

そう、いわゆる『乙女ゲー』に出てくるキャラの定番のひとつなのである!

背が高くてイケメンな吸血鬼が、主人公の女の子を優しく抱き締めながら甘い言葉を紡いでメロメロにし、その首筋に妖しげな接吻を……というのは、乙女ゲーではよくあるシチュエーションである。

イケメンボイスに癒しを求める女子である伊井野ミコは、当然その手のゲームにも手を出していた。

想いを抱く人物である石上優が、自分好みのキャラクターを模したその姿は!

他の者にはともかく、ミコの中ではこれもまた【奇跡的相性】であった!

 

ヤバい。どうしよどうしよどうしよ?

こんなの、絶対に……

危惧して必死で抑えようとするも虚しく、ミコの脳内ではとある光景がもやもやと浮かんでくる……

 

月夜の美しい夜の闇。

どこか趣を感じる旧い館の中で、実際より7割ほど誇張された美形の石上が、後ろからミコを優しく抱きしめてくる……

 

『だ、だめ……石上……っ』

 

石上は、口とは裏腹にあまり抵抗の意思を感じないミコの言葉を嘲り笑い、言葉を返す。

 

『もう諦めろよ、伊井野……お前は僕のモノなんだ……心も、身体も、そして……』

 

石上が、ミコの首筋に顔を近付けていく……

 

『この小さな身体に流れる血も、全部……僕とひとつになって、闇に溶け込むんだ……』

 

石上の唇が、今まさにミコの首筋に……

 

 

「(あああああああああああもういい加減にしなさいよ私こんな事考えちゃ駄目だめだめダメダメ!)」

 

藤原の目もある中頭をぶんぶん振ってはマズい為、ミコは必死でいかがわしい考えを振り切り表情を自然に保つ為、自分の脳内で格闘していた。

 

結局のところ、生徒会の先輩2人同様互いに好評価を表に出さぬよう必死に取り繕い合っていたのだが、

去年の白銀とかぐやの異様さと比べれば絶対的にも相対的にも異様さは控えめであった事により、藤原は2人の不自然さに気付く事はなかった。

 

「まあ、ここまでやっておいてなんですけど……今回は石上くんとミコちゃんがメインですので、やるかどうかの決定権はお二人に有りますからね!本番でやるかどうかは、お二人に一任します!

それじゃ私、今日はペスのお散歩が有るので、失礼しま〜す」

 

そう言って藤原は、手を振りながら生徒会室を後にした。

 

「…………とりあえず、着替えるか」

 

「……そ、そうね」

 

このカオスを産み出した元凶が去るや否や、とりあえず今の状況からは抜け出した方が良いという2人の思惑は一致した。

 

そして、ミコは隠し部屋で、石上はその場で手早く着替えを済ませたその後……

 

「…………で、実際……やるか?アレ」

 

普段の制服に戻った2人が、テーブルを挟んで向かい合って座り話し合っていた。

 

「……や、やる訳ないでしょ。藤原先輩に言われたから仕方なく……」

 

憮然とした表情でミコが却下する。

 

「だ……だよな、まったく藤原先輩は」

 

両者とも、まるで『藤原の提案なので仕方なく付き合った』というような物言い!

しかし!

 

嘘 で あ る

 

この2人 本当は『実施してみたい』と思っている!

2人とも 心の底では『もう一度相手のコスプレを見たい』という小さな願望が有った!

だが両者とも それを悟られて軽蔑される事を恐れ、口では裏腹の事を言ってしまっていた!

 

どうしよう?

このままだと、そのまま流れで『ボツ』となってしまう……

何か、何か自然な論理は無いのだろうか?

ミコはその優秀な頭脳を、生徒会の先輩達同様くだらない事でフル回転し始めた……

 

そして!

 

「で……でもね」

 

ミコが沈黙を破った。

 

「その……運営を任されてる者として、去年の白銀会長達のをなぞるだけじゃ、私達が任された意味が無いと思うの。

今年だから……私達が任されたこそ出来る、『新しい風』っていうのも……必要じゃない?」

 

搦め手!

一個人としてではなく、『交流会の準備を任された者』として意見すれば不自然に思われないという巧妙な切り口!

 

そしてミコと同じく、どうにかして方向性を変えられないかと模索していた石上も――!

 

「あ……ああ、一理有るよな」

 

すぐさま飛び付いた!

 

「そ、そうでしょ!?ま、まあ私としては別にコスプレに拘る必要は無いと思うけど、かと言って今から代替案を考えるのも……」

 

徐々に誘導していくミコ!

 

「そ……そうだよな!いくら藤原先輩の言う事だからってあんまり無下にするのも可哀想だしな!」

 

思惑が一致している為、その誘導に素直に乗っていき更に方向性を矯正していく石上!

 

そうなれば、辿り着く結論はひとつ!

 

「じゃ……じゃあ、実施……してみる?」

 

「……だな」

 

……『素直になれない2人』の話のダシに使われるさだめからは、逃れられない藤原千花であった。

 

 

―――――――――――【その2 『買い出しに出かけたい』】―――――――――――

 

交流会の開催が翌週に迫った、金曜日。

 

「ええと……開催が月曜日で、設営が……前日の日曜日?」

 

「休日返上で仕事……先輩達、去年よくこんな事やりましたね……」

 

スケジュール表とにらめっこをしている2人と、その様子を見に来たかぐやが生徒会室のソファに座っていた。

 

「ええ、まあこの時限りのお話ですから大した事ではないですよ」

 

かぐやが余裕の笑みをもって答える。

 

「あと、設営以外にも……土産菓子やちょっとした雑貨などを買い出しに行く必要も有りますね。まあこれは去年は早さ……いえ私の家のお手伝いさんにやっていただいたのですが」

 

かぐやは言葉を切って、石上とミコの方をチラリと見た。

 

「今回は……明日は天気も良いみたいですし、買う物の量を考えた上で……お2人で買い出しに行くのはいかがでしょう」

 

「えっ」

 

予想外の事を言い出したかぐやに石上が思わず困惑の声をあげた。

 

いや、それは……

多分、伊井野の方も……

 

ミコの方をちらりと見る石上。

だが、ミコのリアクションもまた石上の予想外のものであった。

 

「はい、分かりました。じゃあ明日私と石上で……」

 

「ええっ!?」

 

特段何の反応も無くすんなりと事務的に受け入れたミコに対し、驚嘆の声をあげずにはいられなかった。

 

「何が『ええっ』よ?これも生徒会の仕事なんだから。サボろうったってそうはいかないわよ」

 

ここ最近すっかり『思春期風紀委員』のイメージが定着してしまったミコであるが、

いくら『思春期風紀委員』とはいえ、常時脳内ピンクな妄想を頭の中で繰り広げているわけではない!

今のミコは、すぐそこに迫る交流会の開催に向け、完全に『お仕事モード』の脳内であった!

話を振ってみたかぐやも、ミコがすんなり受け入れた事に拍子抜けしたものの、

思惑は達成出来たので良し、と受け入れる事にした。

 

「それでは伊井野さん、石上くん。明日はよろしくお願い致しますね」

 

「はい」

 

「……まあ、四宮先輩の頼みですし。伊井野も良いってんなら、まあ……」

 

歯切れの悪い石上の返答を、ミコは訝しんだ。

 

石上は、基本生徒会の仕事に対しては真面目なはずなのに。

どうして、今回は釈然としない反応なんだろう。

 

……その答えに気付いた時には、

既に夜中。寝る前に、明日のスケジュールを改めて再確認していた時であった。

 

「(ああああああああああああああああああああああどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ!?!?!?!?)」

 

ミコは、ベッドの上でのたうち回っていた。

 

確かに、あくまで『生徒会役員としての仕事』が主題ではある。

だが、『休日に知り合いの男子と待ち合わせて2人だけでお出かけする』。

それは、まるで……

 

「(まるで……でっ、ででででデートみたいじゃない!?)」

 

真面目に不器用に生きてきた伊井野ミコにとって、休日に男子と2人きりで出掛けるなど初めての事である。

しかもその相手が、密かに想いを寄せてきた『ステラの人』であれば……尚の事、意識せざるを得ないというものである。

 

今から断るわけにもいかない。

石上に対してあんな事を言った以上、自分がサボるわけには絶対にいかない。

そもそも、体調を崩したり不幸があったわけでもないのにドタキャンなんて失礼な行動だ。

 

それに……もし、真意に気付かれてしまいでもしたら!

 

『(何だ伊井野……もしかして急に意識しちゃったのか?僕と出掛ける事を……

あくまで単なる『生徒会の仕事』なのに、お前はそういう風に考えてたんだな……へえ……へええええぇ……)』

 

などと思われるかもしれない!

 

「(お……落ち着くのよ私!とりあえず、明日に備えて寝なきゃ……!羊が1匹、羊が2匹……ラクダが3匹……ゾウさんが4匹……)」

 

突然やって来た一大イベントに備え、兎にも角にも睡眠は必要だと判断したミコは、悩める思考と格闘しつつ必死で睡眠に入る事にした……

 

そして、当日!

 

14時からの待ち合わせであったが、石上は15分ほど早く待ち合わせの場所に到着した。

そう、今日はあくまで『生徒会の仕事』。

たとえ同級生の女子と休日で2人で出掛ける事が生まれて初めてとはいえ、これは断じて『デート』ではない。

……しかし、女子はえてして待たされるのがキライな生き物であるという事は、石上も重々承知していた。

なので、5分前とは言わず15分前ほど前に着いておけば、とりあえず待たせる事は無いであろう……そう石上は考えていた。

だが、待ち合わせ場所に着いた石上が見たものは。

どこかそわそわしながら石垣に腰掛け待っていた伊井野ミコの姿であった。

本人の可愛らしさを十二分に引き立てるコテコテの、しかし何故かクドいとは思わせないファンシーな服装。

髪留めもいつもの質素なモノではなく、ポンポンの付いた可愛らしいデザインであった。

 

「あれ……伊井野、僕ひょっとして時間間違えたか?」

 

15分前に来たのに更に先を行かれていた事に不安になる石上。

 

「大丈夫よ。私も今、本当に1分前くらいに来たばかりだから」

 

そうミコは言うが……

 

「……いや、結構待ってただろ?」

 

石上は冷静にこの場の状況を見ていた。

 

「な、なんでそんな事が言えるのよ」

 

図星を突かれて、ミコの表情に焦りが浮かぶ。

 

「だってお前、それ」

 

石上が指さした先には……2本の紅茶のペットボトル。しかも、1本は空になっていた。

 

「あっ…………」

 

それの意味する所をミコも理解し、口籠ってしまった。

これはつまり、『飲み物を口にしつつそれなりに長い時間待っていました』という証左に他ならない。

 

「……悪かった、僕が時間間違えてたみたいで」

 

石上がばつが悪そうに頭を掻いた。

 

「そ、そう――――」

 

『そうよ、時間間違えるなんて石上はホントにもう』……と、ミコは石上の勘違いに乗じて言おうとした。

 

だけど……

この『優しい勘違い』に、そのままウソをついて乗っかってしまうのは本当に良い事なのだろうか。

石上の気遣いに、自分は甘えるばかりで……

 

それは――――駄目だ。

石上に、ウソで濡れ衣を着せるような事は……するべきじゃない。したくない。

たとえ、本当の事を言う事で自分が恥をかく事になっても……

 

「そう……じゃない!私の方が、時間を勘違いして早く来ちゃっただけ。石上は悪くない。だから謝らないで」

 

ミコは少し恥ずかしそうに、『自分が早く来てしまっただけ』という事実を告げた。

 

――――もちろん、早く来た理由は『勘違い』などではない。

言えるはずもない!

不安と緊張、そしてちょっぴりの期待にいても立っても居られなくて、無意味に早く家を出てしまった、などとは……

 

「……そうか。けど待たせたのは事実だし、わざわざ取り消す事もないだろ」

 

あの伊井野が記憶違いなど果たしてするのか?という疑問は有ったが、これ以上待った待たないのやり取りを続けていても仕方が無い。

 

「じゃ、早いとこ行こうぜ。あのビルの地下だろ?和菓子屋が集まってる所」

 

「う、うん」

 

石上とミコは、目的地のビルに向かって歩きだした。

 

 

16分ほど歩き到着した、デパートの地下。

買い物自体は、つつがなく進行した。

 

「和菓子かぁ……この八ツ橋なんてどうだ?京都の菓子だし丁度良いんじゃないか?」

 

「どうして京都がちょうど良いのよ」

 

「……いや、なんとなく『和』っぽいイメージ有るだろ?」

 

「……まあ、否定はしないけど」

 

「軽めのお土産になる小物か……あ、このハートのアクセサリーとかどうだ?交流会に来るような奴らにはウケが良いんじゃないか?」

 

「……却下」

 

「な、なんでd」「いいからそれは却下!……あ!この和服着たワンちゃ……、し、柴犬のキーホルダー……良いかも」

 

「……良いかもな。どっちも日本っぽさ全開だし」

 

そんなやり取りを交わしながら、1時間半ほどデパートの中をうろつき、

無事、交流会にて配布する物の買い出しを済ませた。

 

石上は、購入した物を大きめのカバンの中に入れ、両手で持ちながらミコと並んで歩いていた。

 

「……結構重そうだけど、大丈夫?」

 

「……まあ僕も一応男だし、コレくらいは」

 

確かに少し重めではあるが、石上とて育ち盛りの男子である。

多少の重めの荷物なら持てるし、何より(別に異性として好意を持つ持たざるにかかわらず)女子の前でモノが持てないなどという弱音を吐くのは格好がつかなさ過ぎるので我慢していた。

 

と、その時。

 

石上の頬を一筋の汗が流れ落ちるのをなぞるように、天上からも一滴の水滴がぽとりと落ちてきた。

頭にその粒が触れるのを感じ、思わずミコは目を瞑る。

 

「やだ……あ、雨!?」

 

「げっ……ほんとだ」

 

自分の頭にも水滴が落ちて来た事を感じた石上が、苦々しげな目で空を見上げる。

 

「予報外れたんだな……でもまあ、このくらいの雨なら駅までは……」

 

だが、天はそんな石上の楽観を嘲笑うかのように、より激しく多い雨粒を空から降らせてきた。

 

「……ちょっ、アンタがそんな事言うから!」

 

急に激しく降ってきた雨から頭を覆いながら、ミコが叫ぶ。

 

「僕のせいかよ!?まあいいや、伊井野!とりあえずそこの建物入るぞ!?」

 

「う、うん!」

 

どこか雨宿り出来る場所をと、2人は手近な建物の中に駆け込んだ。

 

「……はぁ、はぁ」

 

やや重めの荷物を抱えながら小走りした石上が息を切らす。

 

「今日は天気予報、降るなんて言ってなかったのに……あっ、荷物は大丈夫?」

 

「ああ、このカバン防水だから中は大丈夫。今は梅雨時だからいつ降ってもおかしくないからな」

 

用意の良さにミコは感心した。

そんなに用意が良いのなら……

 

「じゃあ、折り畳み傘も持ってたりする?」

 

期待を込めてミコが質問する。

が……

 

「…………悪い、来てから気付いたんだけどさ……机の上に置きっぱなしだったんだよ」

 

「……肝心なモノを忘れるのね」

 

ミコは落胆の色を隠さなかった。

……まあ、そういう所が石上っちゃ石上らしいけど。

 

「……ていうか、い、伊井野。その……」

 

石上が、どこか言いにくそうにミコを指差した。

 

「?何よ?」

 

はっきり言わない石上の指す指先を、取り敢えず追ってみると……

 

今日のミコの服は、本人の可愛らしさを存分に引き立てる白のワンピース。

……だが、白い服が雨に濡れてしまった場合、どうなる事かは……敢えて、言うまでもない事であった。

 

「〜〜〜〜〜っ!!!み、見ないでよヘンタイっ!」

 

ミコは左手で透けた胸の部分を隠しつつ、右手でビンタを繰り出した。

 

「い、一瞬だけだって!ていうか梅雨時にそんな格好してくる方も悪いだろ!?」

 

ミコの拙いビンタをかわしながら石上が釈明する。

 

「とりあえず……ほら、コレ使えよ」

 

石上がカバンの奥からタオルを取り出し、出来るだけ距離を取りつつミコに差し出した。

 

「……う、うん」

 

石上からタオルを差し出されて、急速にミコの怒りは引いていった。

タオルで濡れた服を拭きつつちらりと周りを見てみると、先程自分があげた叫び声のせいか何人かの視線がこっちに向けられている。

もし、石上がタオルを差し出してくれなかったら。

自分のこの姿が、そのまま他の人にも……

 

石上の気遣いの込められたタオルを、ミコは少しだけ強く握り直した。

 

「……あ」

 

石上が、何かに気付いたような声をあげた。

 

「な、何よ」

 

「いや……ちょっとさ」

 

そう言いながら、石上は辺りを見回していた。

つられるようにミコも辺りを見回すと、この建物がどういう場所なのかが解った。

黒い絨毯と、ほんの少し薄暗めの照明、全体的にシックで落ち着くような内装のフロアー。

いくつものポスターと看板が並び、ドリンクやポップコーンの売店があるこの場所は……

 

「……ここ、映画館だったのね」

 

石上とミコは知る由もないが、

去年の春頃、(かぐやの壮大な仕込みにより)白銀とかぐやが共に訪れた、あの映画館であった。

 

「ああ……」

 

返事も半分上の空、石上はとある方向をじっと見つめていた。

その視線の先には、どこか風格漂う男女が立ち並ぶ大きなポスターと看板。

そして傍に有る小さな液晶からは、不穏なBGMと勇壮なBGMが流れていた。

そしてふと耳を澄ませてみると、館内放送のアナウンスが流れていた。

 

「……は、席数が残り僅かとなっております。ご希望のお客様は、お早めにお買い求め下さい……」

 

そう、石上は今思い出したのだ。

全世界で有名なあの映画が、昨日から上映が始まっていた事に……

 

「あー……そっか。もう昨日から始まってたんだな、『リベンジャーズ ラストゲーム』」

 

『リベンジャーズ』!

アメコミの人気ヒーロー達が一同に会し強大な敵と戦う、実写化作品である!

『ナーベルシネマティックユニゾン』、通称『NCU』という同一の世界観の中にある他作品同士のヒーローを上手く融合させた壮大なスケールで世界中で大人気を博しており、

特にこの『ラストゲーム』は、『NCU』シリーズが一区切り着く大きな節目の作品となるモノであった!

 

「あー、CMで見たような覚えがあるわね……アンタ、こういうの好きなの?」

 

「ああ、まあ」

 

本 気 で あ る

 

いわゆる『ヒーローモノ』は、子供や思春期の男子のハートを非常に掴みやすいネタであり、

それは石上も例外では無かった!

特に彼は、これまでの『NCU』シリーズを全て鑑賞してきた筋金入りのファンなのである!

 

「なのに、公開してたの忘れてたの?」

 

「……ああ、まあ」

 

言えるはずもない!

生まれて初めての『女子と2人きりのお出かけ』が決まってしまってから、緊張ですっかり頭の中から吹っ飛んでしまっていた、などと!

もし、そんな事を悟られようものなら!

 

『(うっわ……アンタ何考えてんの?

私はあくまで生徒会の仕事だから嫌々付き合ってあげてるのにアンタはそんな風に考えてたのね……

ほんと……生理的に無理)』

 

などと言われかねない!

 

ともかく、もちろん今日は見る予定など無かったわけだが……

そのつもりなど無かったとはいえ、こうして映画館に訪れたら……嫌でも胸は高鳴るというものだ。

 

そんな石上の視線と意図を、隣に立つミコは薄々勘付いていた。

そしてふと……今更ながら、ある事に気が付いた。

 

自分は、石上の趣味を殆ど知らない。

あれほど言ってきても何度も持ってくるゲームが好きな事くらいは知っているけれど、それ以外のものは、何も知らない……

 

自分は、この『NCU』シリーズの映画も全く知らない。

けれど……これは、ひょっとして。

もし……もし石上が、嫌って言わなければ。

これは、『石上の好きなものについての理解を深める』好機なのでは?

これは、神様がくれたチャンスなのかもしれない。

今……ここで。

勇気を出さなきゃ。

あのポスターの中のヒーロー達の、半分でも良いから……。

 

「ね……ねぇ石上」

 

「何だよ?」

 

「あ……アンタがそんなに観たいんだったら……その、映画……観てっても良いわよ」

 

ミコの口から出た予想外の言葉に、石上は目を見開いた。

 

「……いや、この荷物学校に置いてかなきゃ駄目だろ。お前に任せるには多いし重いし」

 

「そ、そうじゃなくて!

その……ただ『雨宿りに使いました』ってだけじゃ、申し訳無いでしょ!?だ、だから、その……」

 

照れくさそうに、言いにくそうに口籠るミコ。

だが勘の鋭い石上である。ミコの意図は、既に彼には伝わっていた。

 

そういう事か?

そういう事なのか?

いやいやいやいや、まさか、伊井野がそんな……

いや、でもこの流れは完全に……

いやでも、そんな事をしたら。

もう『まるで』じゃなくて、『まさに』になるんじゃないか……?

 

石上の脳内で、『いやもうコレしかないだろう』と淡々と弾き出された答えと、

『伊井野がそんな事を言ってくるなんて有り得ない』という否定がせめぎ合っていた。

 

けど、ここはまあ……

僕から言ってやるべきだよな。

もし、勘違いだったとしても、僕が傷付くだけだ。

 

「一緒に観る……って事か?」

 

口籠もっていたミコは、石上のその言葉を受けて小さく頷いた。

 

「良いのか?僕と一緒に……ってのもそうだけど、これシリーズモノだから前のモノ観てないと分からない所多いと思うぞ?」

 

そう、この『リベンジャーズ』シリーズは傑作ではあるものの、

『リベンジャーズ』を構成する各ヒーロー単独作品の数々を観ていないと十二分に楽しめないという欠点が存在するのだ。

 

「構わないわ。アンタが教えてくれれば良いでしょ?教えたがりでしょ、オタクって」

 

「……自分からオタクなんて言った事は一度も無いけどな」

 

そんなやり取りを交わしつつ、コインロッカーに荷物を預けてから、2人はチケット売り場に歩みを進めていった。

 

だが!

 

「……え?もうカップルシートしか残ってない?」

 

「ええ、つい先程他のタイプの席が完売してしまいまして……」

 

申し訳無さそうな声の調子で案内する受付の若い女性。

 

『カップルシート』。

その名が表す通り、カップルでイチャコラしながら映画を鑑賞するのに適した2人掛けのシートであるのだが、

今の2人にとって、その内容は大した問題ではない。

 

『カップルシートで、一緒に映画を観る』。

その行為が意味するところは……もはや敢えて言うまでもない。

 

困惑の表情で、ミコの方に視線を向ける石上。

そしてミコは、何とかしてこの状況を受け入れる建前を探そうと、頭脳をフル回転させていた。

 

『カップルじゃないけど、カップルシートに座る自然な理由』。

『席がそこしかない』だけでは、少し理由が弱い!

周囲に素早くそしてさり気なく目を配り、ありとあらゆる手がかりを探すミコ!

そして遂に!

 

「……ま、まあ?今日は特別料金で、1人あたりの料金が普通の席より安くなるみたいだし?

 何より、席がそこしか空いてないっていうんじゃ、仕方ないじゃない?」

 

『座席料金』!

通常、この映画館のカップルシートは4000円!

普通の1人向けの席が1900円である事をふまえると、特別な雰囲気が楽しめる代わりにほんの少しだけ割高な席と言える!

だが、映画館では定期的に、特定の席や対象者の料金が安くなるキャンペーンのある日が存在する!

偶然にもこの日はカップルシートの料金が少し安くなる日であり、料金が3600円!

1人辺りに換算すると1800円となり、通常の席より少しだけ安く利用出来る仕組みとなっていた!

計算も得意でありしっかり者のミコの頭脳は、この窮地で素早くそれを計算してみせたのであった!

 

「まあその通りだけど……ほんとに良いのか?伊井野」

 

「い……良いって言ってるでしょ」

 

ミコにも、『流石に行き過ぎでは』という懸念は確かに有った。

だが、この機会を逃せば……石上と一緒に映画を観る機会なんて、二度と訪れないかもしれない。

何より……好きな人の好きなモノを理解する機会を、逸したくはない。

 

「ま……まあ、伊井野が良いなら良いけど……じゃあ、そこでお願いします」

 

かくして、2人は数分前までは予想もしていなかった『カップルシートでの映画鑑賞』をする事になったのだが……

 

飲食物を購入し、スクリーンに入場して数分後。

ミコは、自分の大胆過ぎた決断を少し悔いていた。

 

「(そ……そりゃ『カップルシート』って言うからには、だけど!こ、こんなに近いものなの……?)」

 

カップルシートは、前述した通りカップル用の2人掛けの座席。

一般用の座席と違い、2人の間を仕切るモノは何も無いのである!

飲み物やポップコーンを取ろうとしたタイミングが重なり……どころではなく、

ちょっと動いただけで手が触れ合うような状況と言っても過言では無いのである!

 

すぐ隣にある石上の顔をチラリと見ると、どこかそわそわして落ち着きの無い様子である。

……尤も、それがもうすぐ映画の始まるワクワクから来るものなのか、

今の自分と同じような理由でそうなっているのか、どちらかは解りかねるが……

 

緊張を紛らわす為、ミコは石上から『予習用に』と買い渡されたパンフレットを手に取った。

曰く、一通り目を通せば前作『アンリミテッドウォー』までの設定が大体分かるとの事だ。

 

パラパラとページをめくって行くと、数々のヒーローとその設定・解説が載っている。

チタン製のスーツを身に纏い、持てる技術力の全てで世界を護ろうとする『チタンマン』。

特殊な血清を打たれて能力に目覚めた正義の軍人・『ジェネラルアメリカ』。

7つの『アンリミテッドストーン』を集め、宇宙の生命の半分を消し去った悪役・『タノス』……

ミコが全く見てこなかった世界が、そのパンフレットの中には有った。

 

「(……男の子って、こういうの好きよね)」

 

趣味がメルヘン少女傾向にあるミコは、正直こういったヒーローモノ・バトルモノにはあまり興味を持てなかった。

だが、ゲームばかりしているイメージしかなかった石上も、こういう『普通の男の子が憧れそうなモノ』が好きなのだと知れた事は……収穫と言えるのかもしれない。

 

そんな事を考えている内に……スクリーン内が薄暗くなっていった。

 

そこから、いくつかの予告映像を挟み……いよいよ、映画が始まった。

 

『NCU』作品は、ここまでに20作品を超える作品で構成されているシリーズである。

当然、パンフレットを買っただけでは分からない部分がいくつも有るので、2人の間ではこんな会話が交わされつつ映画鑑賞は進んでいった。

 

「ねえ、あのヒゲのおじさまは誰なの?」

 

「ああ、あの人はケニーの……」

 

「ああ、そういう事なのね……どうりでなんとなく気まずそうなのね」

 

 

「スティーブンがじっと見つめてる女の人は誰なの?」

 

「ああ、あれはスティーブンの……」

 

「なるほどね……それは、見ちゃうわよね……」

 

そして場面は進み、映画も終盤。

とうとうリベンジャーズとタノスとの決戦の場面が訪れた。

終始映画半分、石上との距離感に半分といったミコとは違い、

NCUファンである石上はもはや至近距離にミコが居る事など全く気にする素振りも無く、スクリーンに熱中していた。

そんな石上の横顔を見て、ミコは内心少しだけ不貞腐れていた。

 

自分が隣に居るのに……石上の視線も意識も、もう全部映画の方に行ってる。

……自分と映画を観るという事は、石上にとってはそんなにも『意識するに値しない』事なんだろうか……

 

などと、お可愛らしい嫉妬を脳内で繰り広げていたミコであったが。

かと言って、突然石上に手を握られる事は、いくらなんでも想定してはいなかった。

 

「(えっ!?!?!?いやいやいや何やってんのよいくら何でもそこまでは求めていないっていうかいやそうじゃなくて何してんのよ!?!?)」

 

だが石上の顔を見ると、今しがた自分がしている行為に全く気付いていない様子で、スクリーンに釘付けとなっていた。

そう、石上は別にロマンティックな意味合いでミコの手を握った訳ではなく、単に興奮して手に力が入り、たまたま近くに有ったミコの手を握ってしまっただけに過ぎなかった。

ミコもそれを悟り、一体何がそこまで夢中になれるのか、とスクリーンに目をやると、ジェネラル・アメリカが何やら武器を振り回して戦っていた。

イマイチ展開にカタルシスを感じられないミコには、一体何がそこまで熱中させるのかは分からなかった。

 

と……とりあえず。

石上に声を掛け、この手を解いてもらわないと……

小声で、石上に声を掛けようとする。

 

「(ちょ、ちょっと石が……)」

 

だがその瞬間、石上の手はミコの手を更に強く握った。

 

「おおっ……!」

 

石上が小さく声をあげる。

 

「(えっ!?)」

 

何が起こったのかと、ミコがスクリーンに目をやると……

画面を覆う圧倒的なヒーローと敵の数々。

これまでNCUシリーズを視聴してこなかったミコにとっては大半のキャラクターが『何者かも知らぬ』状態であったが、

周りの観客から漏れる声。そしてここまでの展開におけるヒーロー達の努力から言って、相当のクライマックスシーンである事は理解出来た。

そして、先頭に立つジェネラル・アメリカが何やら呟くと同時に、映画の展開も、観客の興奮度合いもピークに達した。

ミコからすれば、ジェネラルのつぶやきはただの号令にしか受け取れなかったのであったが……

 

いや、そんな事はどうだっていい。

とにかく今は、自分の手を痛いくらいに掴んでいるこの手を解いてもらわないと……

 

だが、石上に声を掛けようとしたミコは、

石上の目に、うっすらと涙が浮かんでいる事に気が付いた。

 

……ひょっとして、感動して泣いてるって事?

ミコは、喉元まで出かかった声を慌てて抑えた。

 

こんな、映画で感動している人に対して、横槍を入れて良いものだろうか?

心優しいミコの中に、躊躇いの感情が浮かんできた。

 

――――それに……

 

思い描いていたシチュエーションとは違うけど。

ちょっと痛いくらいだけど。

こんな風に……手を握られる事自体が、嫌かと言ったら……

 

そう。これはあくまで、感動している所に些細な事で横槍を入れるのは悪いと思っただけ。

決して、この状況が何だかんだで悪くない、だなんて思ってはいない……

 

頭の中でそんな言い訳をしつつ、ミコはこの状況を受け入れる事を選んだ。

 

そして、終幕の時は訪れた。

戦いが終わり、それぞれの道を歩み始めたヒーロー達。

最後は、ヒーローの一人と『約束の女性』が熱い口づけを交わし、幕が降りる事となったが……

ふと隣の石上を見ると、今や『目に浮かぶ』どころではなく、明らかに涙が滴り落ちていた。

 

「……そ、そんなに感動したの?」

 

確かに、戦いが終結した後の一連のシーンは、自分も少し涙ぐんだが……流石にここまでではない。

 

「お前……だって泣くだろこんなん……あのラストのシーンはな……何十年も前の約束をここでようやく……ううっ」

 

「……落ち着いたら後で説明してよね」

 

やっぱり、ここまで感動するには自分も他のシリーズを観てみないと分からないのだろう……とミコは納得する事にした。

ちなみに、ミコがその後空いた時間を見つけ『NCU』シリーズを制覇し、本作を思い返して涙する事になるのは完全な余談である。

 

「ところで。終わったんだったら、コレ……」

 

「は?」

 

「……ほんとに気付いてなかったのね」

 

呆れた顔で、ミコは石上に握られている自分の手を指した。

 

指された先を見て、自分のやっていた事に気付き、だんだんと顔が青ざめていく石上。

 

「ひょっとして、ずっとやってたか?」

 

「……10分以上は確実かしらね」

 

その言葉で、石上は慌てて握っていたミコの手を放した。

 

「わ……悪い伊井野。気付かなくて……けどお前も何でおとなしく握られて……」

 

「……泣いて感動してる人の気を逸らすのも申し訳無いでしょ。だからガマンしてあげてただけ」

 

プイッと顔を背けたミコの顔が少し赤らんでいるのが理由がそれだけではない事を物語っていたが、石上からはそれが見えなかった。

 

「あ……アンタみたいなヘンタイに気を許した訳じゃないんだから。変な勘違いはしないでよね」

 

「……まだここに入った時のアレ怒ってんのかよ」

 

「違う。アンタ、あの『スカーレット・メイジ』って女の人がタノスと戦ってた時……ガン見してたでしょ。胸」

 

「な、な……へ、変な言いがかりやめろよ。僕はあくまで純粋に戦闘シーンを……」

 

嘘 で あ る

 

石上とて、性に一番興味がある年頃であるれっきとした男子高校生!

美女の空いた胸元が大画面で映し出されれば、意識してしまうのもごく自然な事である!

そして、更に!

 

「ウソ。アンタ、声が漏れてたから。『でっけぇ……』ってね」

 

確たる証拠を耳にされていた!

 

「そ、それはタノスの体がって意味で!」

 

「ヘンタイ。スケベ。エロエロ大魔王。おっぱい星人。透けた服ガン見男」

 

「……思春期風紀委員のお前にそれ以上は言われたくねぇな」

 

「何よ!事実でしょ!?このヘンタイ!」

 

「うるせえ!そういう所にいちいち気付く辺りがお前もムッツリ思春期風紀委員だな!」

 

などと微笑ましい『スケベ認定の押し付け合い』をしつつ、2人は雨の上がった駅までの道を帰路に着いた。

 

 

……ちなみに、その翌日。

会場の設営が終わった後、ミコが藤原に『何故か』バストアップの秘訣をこっそり聞いた事は、完全な余談である。

 

 

――――――――――――【その3 『生徒会は歓迎したい』】―――――――――――

 

 

 

「Bienvenue au Japon! Nous vous souhaitons la bienvenue!

(ようこそ日本へ!歓迎致します!)」

 

とうとう迎えた、フランス姉妹校との交流会当日。

事前の打ち合わせ通りコスプレをした生徒会役員の面々が、フランスからの来客を出迎えていた。

 

去年藤原が述べた通り、フランスは日本に次ぐ、いや日本と並ぶ『コスプレ大国』である。

『先輩の顔を立てる為』『新しい風を入れる為』という建前の元実施を決定したコスプレでの歓迎案は、フランス校側からも好評を博した。

 

「Bien! Je suppose que le monsieur kidnappeur porte un thème!

(素敵!怪盗紳士がテーマの装いなのですね!)」

 

「Je suis content d'être content.

(喜んでいただけて嬉しいです)」

 

何人かの女子生徒に囲まれている白銀が、流暢なフランス語で礼を述べていた。

……ちなみに、去年の『完全孤立』が再来しないよう、フランス語の勉強はバッチリである。

 

そんな白銀の様子が気に食わず、内心今すぐにでも囲っている女子共を蹴散らしたい衝動をグッとこらえているかぐやと、

外国人との交流は生徒会のメンツの中で一番である藤原もまた、何人かの生徒に囲まれて対応していた。

 

「C'est un soi-disant "petit diabolique" mignon!

(いわゆる『小悪魔的』な可愛さってヤツですね!)」

 

「Cette sorte de "Yamato Nadesiko" dos à dos est bonne aussi!

(こちらの方の『大和撫子』な奥ゆかしさも良いですわよ!)」

 

「Merci beaucoup En fait, deux de mes juniors ont décidé de mener à bien cette fois ...

(ありがとう!実は今回は私の後輩2人が実施を決定してですね……)」

 

「Merci pour votre compliment.

(お褒めの言葉ありがとうございます)」

 

3年生組は、見事にフランス語での会話をこなしていた。

 

そんな様子を、ミコは物陰からこっそりと、震えながら見つめていた。

 

「(う、うそ……?藤原先輩は知ってたけど、会長と副会長もあんなにフランス語喋れたなんて……!?)」

 

普段は色々とアレな所も有るが、やはりこの学校の生徒会長及び副会長を2期連続で務める器という事だろうか……

 

ミコも学年トップを誇るだけ有って、フランス語が全く出来ないわけではない。

だが、彼女のフランス語の知識は今日に備えて本やCDを利用し短期間で詰め込んだ程度の物。

つまり、去年の交流会の白銀と同じようなレベルであった!

とてもじゃないが、3年生組のように流暢に会話する事などは不可能であった!

 

どうしよう?

こんな事がバレてしまったら……

 

『(えっ?あの娘だけフランス語喋れないの?)』

 

『(しかもそんな娘が次期生徒会長候補だって?周知院のレベルもたかが知れてるなあ)』

 

ミコを強烈に貶していくフランス校の生徒達。

そして……

 

『(なんだ……伊井野ってフランス語も喋れなかったのか…… Ah bon……)』

 

「(そ……それだけはダメ!ダメっ!)」

 

ミコは、いつものように余計な邪念を振り払おうと頭を左右にぶんぶんと振った。

小型犬のコスプレをしている今日は、それに合わせて犬耳がぱたぱたと振れるおまけ付きである。

 

そしてとうとうそんな愛らしい姿がフランス校の生徒に見つかってしまい、続々と生徒が寄ってきた。

 

「Hé, viens ici! Il y a une fille très mignonne!」

 

「Comme c'est mignon!C'est un cosplay de teckel miniature!」

 

「C'est tellement mignon qu'on ne peut pas dire que les garçons sont mignons!」

 

「あっ……あの、えっと……」

 

簡単なお礼の一言程度は、当然ミコも予習してきていた。

だが、続々と見知らぬ顔の外国人(男子が多めだが、女子もそれなりに居る)が集まってくるこの状況では、

ミコの緊張癖が勃発するのを抑えられなかった。

 

「C'est mignon! Puis-je toucher l'oreille du chien?」

 

「Je viens d'entendre parler de cette fille, avez-vous pensé à un plan pour cette réunion d'échange? C'est merveilleux!」

 

「Hey, tu fais Instagram? Si vous aimez mon compte ...」

 

次々と聞き取れないフランス語が耳に入ってきて、ミコの頭はパンク寸前であった。

 

どうしよう。何も答えられない。

けど、答えなきゃ。

せっかく来てくれたのに、黙ったままだなんて失礼だもの。

けど……どうやって答えれば良いの?

分からない。何も分からない。

緊張する。いっぱい視線を感じる。

怖い……こわい。

助けて……だれか……

 

そんな時、聞き覚えのある声が、普段は出さないような大きな声で聞こえてきた。

 

「Euh, désolé, pouvez-vous me passer?

(あのー、すみません、通してもらえますか?)」

 

声のする方向に目を向けると。

吸血鬼のコスプレをした石上が、決然とした面持ちで囲いを割って入ってきた。

 

そして、小さな体をより小さく縮こまらせているミコの腕を取って、

 

「Je suis désolé, désolé que cette personne ait eu un autre travail.

(すみません、コイツ他の仕事が入っちゃったんで、後でお願いします)」

 

周囲のフランス校の生徒達にハッキリと告げると、ミコの腕を引いて会場の隅へと去って行った。

 

人の居ない会場の隅まで連れてこられたミコは、石上に対して驚きの視線を向けていた。

 

「あ……アンタ……フランス語喋れたの?」

 

「……まあ、兄貴に軽く習ってた事が有ってな」

 

別に悪い事でもないのに、どこかバツが悪そうに頭を掻きながら答える石上。

 

「それよりも伊井野。お前簡単な受け答えの練習くらいしとけよ」

 

「し、したわよ。けど……」

 

「……予想以上に人が寄ってきたから、緊張して言えなかったってところか」

 

「うっ……」

 

図星を突かれて、ミコは言葉に窮した。

 

「まあ、今すぐ直せとは言わないけど。無理なようだったら、わざわざここに出なくても」

 

石上の言葉に、ミコは首を横に振った。

 

「先輩達やアンタも出てるのに、私だけ『無理です』だなんて逃げるわけにはいかないでしょ。生徒会役員としての責務でしょ」

 

「……責任感が強いのは良いけどさ。じゃあ、せめて簡単な受け答えくらいは出来ないと……」

 

「しょ、しょうがないでしょ!いきなりあれだけ寄ってきたんだから、つい……」

 

「とにかく。無理はすんなよ?何だったら、会長達にも僕から適当な理由付けて言っといてやるから」

 

「……どういう理由よ」

 

「『昼飯喰いすぎてお腹の調子が悪い』とかがしっくり来るんじゃね?」

 

「もっとマシなの考えなさいよ!いくら私がちょっと、ちょっと多めに食べるからって」

 

「ちょっとどころじゃないけどな」

 

「アンタが少食過ぎるからそう見えるだけでしょ!?」

 

「前四宮先輩にも言われてたろ?」

 

そんな言い合いをしていると……

 

「オー。ジャア、『2人ヲタして2デワるとチョウドイイ』ッテヤツデスヨネ?」

 

隅に居た2人を見つけたフランス校の女子生徒が、少し片言な日本語で話しかけてきた。

 

「わっ!びっくりした……に、日本語話せるんですか?」

 

突然会話に割って入ってきた少女に驚くミコ。

 

「エエ。ワタシ、ニホンゴをベンキョウシてキタノデ、すこしダケナラシャベレマース」

 

にこやかな笑顔で答えるフランス校の女子生徒。

左胸に折り紙で作られた花を刺し、ちょっとした飾り気とおしゃれさを醸し出している。

 

「伊井野。この人なら大丈夫そうだから、僕はもう行くぞ。このコスプレ妙に気に入った人から、一緒に撮られてくれって頼まれてんだよ」

 

「えっ?……ええ、うん」

 

意外にもフランス語を喋れる事が分かった石上を、これ以上引き留めていく訳にもいかない。

ここは……自分で何とかしないと。

 

「んじゃ、頑張れよ」

 

そう言って石上は、足早に会場へと戻っていった。

 

「さっき、アノピンク色のカミのヒトからキキマシタが……今回ハ、アナタとさっきのカレがメインで準備をシタそうデスネ?」

 

「えっ?あ……は、はい」

 

藤原先輩、そんな事を言ってくれてただなんて。

 

意外な事実に、ミコはちょっぴり嬉しくなった。

 

「フフッ、ソンナに緊張シナクてもイイんデスよ?スバラシイ企画、アリガトゴザイマス」

 

ペコリと軽く頭を下げながら、労いの言葉を述べる女子生徒。

その仕草ひとつにも、どこか優雅さが感じて取られる。

 

「い、いえ!私だけの力じゃないですし!先輩達にも結局色々と手伝ってもらいましたし!

そ、それに……アイツも力を貸してくれたので」

 

ミコは、石上が去って行った方向をチラリと見ながら答えた。

そんなミコの様子を、女子生徒は微笑ましく思いながら見ていた。

 

「さっきのカレ……ひょっとシテ、アナタのボーイフレンドなのデスか?」

 

「ええっ!?ちっちちちちち違います!そ、そんな関係じゃ……」

 

いったいどこをどう見てそんな風に思われたのか、いきなり出てきた言葉にミコの顔が一瞬で茹で上がった。

必死に否定するミコの微笑ましい姿に笑いながら、女子生徒は顔を近づけ、周りの人に聞こえないよう小さく呟いた。

 

「Lui, "je peux parler français" est un mensonge.Parce que quand je lui ai parlé, il ne comprenait pas le français……

(彼、『フランス語を喋れる』なんて嘘よ。だってさっき私が話しかけた時、いまいちフランス語が通じてなかったもの)」

 

「えっ?」

 

ミコが聞き取れないにもかかわらず、フランス語で話す女子生徒。

 

「Hé、Olivia! Viens ici!

(ねえ、オリビア!こっちに来てよ!)」

 

別の女子生徒が、彼女を呼んでいるようだ。

 

「Oui, je vais maintenant!

(ええ、今行くわ!)」

 

呼びかけに応え、ミコの前から立ち去ろうとする女子生徒。

しかし、去る前にミコの耳元で、こう囁いていくのであった。

 

「Ce serait bien si vous et lui pourriez être dans une belle relation!

(あなたと彼、素敵な関係になれると良いわね!)」

 

そう言い残し、女子生徒は小さく手を振ってミコから離れていった。

 

「……?」

 

最後のふた言ほどはフランス語なので理解出来なかった……が、何とか上手く対応出来たのだろう。

もっとも、相手がこちらに合わせてくれただけなのだが……

 

そんな光景を、対応がひと区切り付いた石上が遠目で見ていた。

 

「(……何喋ってたんだろ。まあ、僕にもフランス語分からないけど)」

 

本 気 で あ る

 

『兄に習った』など全くの嘘である!

知っているのは、簡単な返事のいくつか!

そして!

ミコがあのような事態に陥った時に使えそうであると予想して習った、ピンポイントな言葉のいくつかだけである!

 

「(……本人の前じゃ絶対言えないけどな)」

 

どうせ、そんな心配される筋合いは無いとキャンキャン吠えられるだろう。

……でも、別に良い。

好かれようと思って、やってる訳じゃない。

ただ、アイツが……今回だって、真面目に頑張ってくれたアイツが。

僕の気まぐれにも付き合ってくれたアイツが。

努力が報われて、この会が無事に終われば、それで良い。

 

そんな石上に見守られている事など露程も知らないミコは、気を良くしたのか自ら進んでフランス校の生徒達の輪の中に入って行った。

外人と会話するという精神的なハードルが取り除かれた上、先程のような人数でなければそう緊張もしない。

 

「(……じゃ、僕も戻るか。出来ないなりに)」

 

元々友好的な人々が集まっているので、気の良い返事がいくつか出来ればなんとかやっていけるというものだ。

石上もまた、異文化交流に花を咲かせる輪の中へと戻っていった。

 

 

かくして、今年のフランス校との交流会も、無事に幕を閉じた。

後日、フランス校からのお礼の手紙が大量に届き、生徒会全員で手分けしてその手紙を読んだのだが……

半分ほどは、ミコのコスプレ姿を絶賛する内容であり、

藤原はまるで自分の事であるかのようにどや顔を決め、ミコは恥ずかしさに顔を赤らめ。

石上はほっとしたような笑顔の中に、やや複雑そうな面持ちを時折覗かせ。

その気持ちを察したかぐやが、ひとり心の中で微笑むのであった。




・フランス語部分は◯ー◯ル翻訳先生に打ち込んだだけの適当仏語です。
・ミコに話しかけてきたフランス校生徒達のフランス語部分は『何言ってるか分からない感』の為にあえて訳していません。
・ミコと石上に話しかけてきた娘は、明言こそしませんがもちろんあの娘です。名前もそれっぽいのを勝手に付けました(笑)

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