伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~ 作:めるぽん
今回から3年生編。まずは2年編でスルーしたミコの誕生日回です。
私立・【秀知院学園】!
かつて貴族や士族を教育する機関として創立された、由緒正しい名門校である!
貴族制が廃止された今で尚、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が多く就学している。
────そんな彼等を率い纏め上げる者が 凡人であるなど許される筈もない!
「あっ……ねえ皆見て!」
ここは秀知院学園・高等部。
1年生の廊下にて、一人の女子生徒が指差した先には。
「まあ!生徒会のお二人ですわ……!」
第69代生徒会にて、生徒会長と副会長を務める2人の男女が並んで歩いていた。
生徒会会長・【伊井野ミコ】!
ここ偏差値77の秀知院学園において、学年模試は小等部から現在に至るまで不動の1位!
その明晰な頭脳に加え、学内の環境改善に向けたひたむきで細やかな活動が評価され、生徒会長の座を射止めた優秀な女子生徒である!
前会長に比べカリスマ性は劣るものの、その努力家な姿勢から周りのサポートを得、会長として申し分ない成果を挙げてきている!
そして、そんな生徒会長を傍らで支える男が。
生徒会副会長・【石上優】!
内向的な性格ではあるが、優秀な会計処理能力を買われ1年時から生徒会役員を務め続け、現在まで3期連続で生徒会役員を務める経験豊富な役員である!
3期目に当たる今期は、それまでの経験を生徒会長に買われ副会長に抜擢され、会長を傍らでサポートする役割に徹している。
副会長に任命後は、その責任感から勉学に磨きがかかり、
現在では学年20位に位置するまでに成績を伸ばしつつある、こちらも会長ほどではないが努力家である!
そんな2人も、今や最上級学年である3年生。
高等部に進学したばかりの1年生達にとっては、憧れの存在であり尊敬の的である。
「伊井野会長……今日も凛々しいですわ……」
サラリとした髪を靡かせるミコの横顔を見て、恍惚の表情を浮かべる女子生徒。
「石上副会長も……なんつーかあの落ち着きっぷりが良いよな」
それまでにあれこれあった石上も、今や尊敬してくれる後輩は少なくない。
そんな感じの称賛の声をかけられながら、廊下を歩いていた2人だが……
「あっ」
ミコが、廊下の少し傷んでいる部分に足を取られ、躓いた。
前に倒れそうになるミコの身体。
しかし────
「お……っと」
隣を歩いていた石上が、ミコが声を上げるや否や彼女の方を振り向いて一瞬で事態を理解し、倒れそうになった彼女を支えた。
「ほら……気を付けろよ伊井野」
「……う、うん……」
まったく仕方のない奴だ、といった声の調子の石上。
無事に抱き止められ、お礼を言いつつも気恥ずかしさから顔を逸らすミコ。
そんな光景を目の当たりにした周囲から、歓声が上がる。
「きゃあ────!素敵ですわ!」
「女性を的確に支える男性……!はぁ……っ」(バタン)
「あの身長差も良いですわね!つい色々と妄そ……いや想像してしまいます」
「あの2人……やっぱり付き合ってるのかなぁ?」
「生徒会長と副会長でしょ?釣り合い取れてるし不思議じゃないよね!」
「そんな……!だとしたら私もう妄想が捗りすぎてしまいますわ……!」
そんな声が耳に入ったからか、ミコが少し顔を赤くして発言元の1年生達に声をかける。
「……こ、こほん。あなた達、変な話に花を咲かせてないで、きっちり勉学に励みなさいよ」
「は、はいっ!」
「はーい!」
ミコの言葉に、素直に返事する1年生達。
ミコに直接声をかけられた事で、その目は喜びで輝いていた。
そして取り敢えず周りを落ち着かせた2人は、生徒会室へと足を運んでいった…………
────生徒会室────
「もう!みんなくだらない話ばっかり!」
生徒会室のテーブルで、ミコは先程の1年生達の声に憤慨していた。
「私とアンタが……つ、付き合ってるとか。有り得ないような話を!」
そう言いつつ、ミコはちらりちらりと石上の横顔を伺っている。
だが、石上は普段の熱の無い表情を崩さず淡々と答えた。
「まあ、高校生ってそんなもんだろ。そういう年頃っていうか、そういうのに興味津々な時期な訳だし」
「……そりゃまあ、そうかもしれないけど」
正論を言われ、返す言葉に詰まるミコ。
「……けど、そんな話ばかりしてたらいずれ風紀の乱れに繋がるわ。生徒会長として、風紀委員に取締の強化をお願いしておかなくちゃ」
「……今はまだ好きに言わせておけばいいだろ。僕達がテキトーな噂されてるだけなら僕達がスルーすればいいだけの話だ」
「…………そうよね。しょせん『変な噂話』よね」
「……ああ」
────そう、それはしょせん根も葉も根拠も無い『変な噂話』。
有り得ない話なんだ。自分達2人が付き合ってる、だなんて。
────そう、そもそも、アイツの事なんて……
「いや、好きなんでしょ?」
「えっ!?」
場面は変わり、昼休憩の生徒会室。
生徒会室のテーブルでドカ弁を食べていたミコが、親友の大仏にツッコまれていた。
「な、何よこばちゃん!?」
「いや、声に出てたから。もう認めなよ?バレバレだよ、石上が好きなの。『石上が好きで好きで仕方ないの……寝ても覚めても石上の事ばかり考えちゃうの……』って本人に言えばイチコロだと思うよ?」
「ば、バカな事言わないで!好きなんかじゃないから!色々と変人で危なっかしいから監視として傍で見てるだけだから!」
ミコが顔を真っ赤にして否定する。
「そもそも、仮に!仮にだよ?仮に1435歩くらい譲って認めたとしても!私そんな事言わないから!!」
「何その半端な数字」
この期に及んで未だに石上への気持ちを意固地になって認めようとしない頑ななミコに、大仏は内心溜息をつくのであった。
──一方その頃、3-Aの教室では。
「いや、好きなんでしょ?」
「は?」
同じく昼食を摂っていた石上が、同じく生徒会役員である小野寺に指摘されていた。
「いや、独り言声に出てたから。そろそろハッキリさせよ?アンタって伊井野の事好きなんでしょ?」
「はぁ?い、いやその」
迂闊だった。まさか考えが声に漏れ出ていたとは。
「そろそろ認めろって。いっつも伊井野の事チラチラ見て気にかけててフォローしてやっててさ。伊井野の王子様じゃん?コクれば即落ちするっしょ」
「ば、バカなこと言うなよ。別に好きなんかじゃ……妙にチョロくて危なっかしくて見てられないから手を貸してやってるだけだって」
石上が連々と否定の言葉を述べる。
「そもそも、仮に、仮にだぞ。仮に認めたとしても……僕が告っても受け入れられないだろ」
「……あーね」
小野寺が『あーね』と言ったのは、受け入れられないという部分に納得したのではない。
『何故石上が受け入れられないと思い込んでいるか』を察して納得したのである。
そう、この2人。
付き合いは長く、その多くの期間は互いにいがみ合っていた。
──互いに互いを陰ながら助け合いつつ、である。
それなのにその事実にちっとも気付かず、『うるさい恩知らず』として表面では互いに嫌い合い続けてきた。
だが、一昨年頃からそれまでの陰ながらのフォローに気づき合い。
お互いの本当の姿に気付き出し、良い点を見出していって……今に至る。
だが、嫌い合っていた期間が長かったせいで、お互いに『自分は好きだが、向こうは嫌っているのではないか』という疑念が未だに心の奥底に根付いたままなのである。
それ故、生徒会長並びに副会長就任以降徐々に周囲からもひそひそと『お似合い』と評されるようになった今でも。
2人の関係は、なかなか次のステップに上がれないでいた。
一応、次のステップに上がる布石は石上の方から打ってはある。
昨年12月、奉心祭の後夜祭にて。
トラブルが有って告白に失敗するも、『1年後、また同じ場所で伝えたい』と約束を交わしたのだ。
故に、実のところそれまでは何か事を起こさなくてもほぼ安泰、と言えた。
だが、あくまで『ほぼ』である。
1年も待たせる事によって、何かしらの心変わりが起きるリスクだってあるのだ。
いざ今年の『約束の時』を迎えた局面になって……
『(はぁ?ああそう言えばそんな事言ってたわね……でも長く待ち過ぎて忘れてたわよ。そもそも1年も待たせるって有り得ないでしょ?ほんと……生理的に無理)』
となってしまう恐れも充分に有る!
故に、『約束の時』を迎えるまでの間にも。
関係を少しでも進展させ、成功率を高めておく事が必要不可欠である──と、石上は考えていた。
そして、時分は5月。
5月には、関係を進展させる可能性のある大きなイベントが控えていた。
────そう、5月5日、こどもの日。
伊井野ミコの、誕生日である。
去年はその時、ちょうど運悪く体調を崩し祝うどころではなかった為、今年こそは祝ってやらねばならない。
だが、それにはいくつか石上を悩ませる問題点が存在した。
まず『誕生日を祝う』と言っても、『周りの親しい人間を巻き込んで祝う』場合と、
『自分一人で祝う』場合の2つに分かれる。
しかし自分は普段、周りには『伊井野はあくまで単なる生徒会役員同士、向こうが自分の経歴を買って生徒会入りを頼んできたから仕方なくやってあげている』という体で通している。
そんな状況で、周りの人間に『伊井野の誕生日を一緒に祝おう』などと言い出そうものなら!
『(え〜?石上せんぱぁい……伊井野先輩の誕生日祝ってあげるんですかぁ〜?
普段何回聞いても『別にただの腐れ縁』とか言ってたくせに?
やっぱりアレって……ただの照れ隠しだったんですね?
せんぱぁい……お可愛いですね〜)』
石上の脳内に、ニマニマ笑顔の藤原……千花ではなく、今年から新たに書紀として生徒会入りした1年生・藤原萌葉のニマニマ顔が浮かぶ。
中等部時代も生徒会の副会長を担っていただけあって能力は申し分無いのだが、
やはりあの藤原千花の妹だけあって石上は散々からかわれ手を焼いているのだ。
やはり、一人でこっそりと祝うべきか。
しかし、そちらもそちらで違う問題が出てくる。
『男が女の誕生日を一人で祝う』という行動には、何らかの意味が出る。
──意味!『男が女の誕生日を一人で祝う意味』!
例えば幼馴染クラスの長い付き合いで有り、誕生日を祝い合う事が幼い頃からの慣例化しているのであれば特別問題は無い!
だが、そうでなければ話は別である!
ハッキリ言えば、『意中の女子に対するポイント稼ぎ』!これしか無いのである!
……もし、後々になって『自分が伊井野の誕生日を一人でこっそり祝った』事がバレたら!
『(あっ……石上先輩、そういう事だったんですね。そこまでして伊井野先輩に好かれたいと思ってたんですね。意外です)』
もう一人新しく生徒会に加入した、白銀御行の妹・白銀圭がジト目でこちらを見てくる姿が浮かんでくる。
こちらは藤原妹と違いクセは無く素直で良い子であり大変助かっているのだが、
何せあの白銀先輩の妹である。これを機に勘付かれてもおかしくはない。
そしてそもそも、『距離感の問題』も大事になってくる!
最近の自分と伊井野の距離感は、ネガティブにもポジティブにも考えなければきっと『嫌いではないが好かれてもいない、友達と言えるかどうか』程度の関係だろう……たぶん。
例えば、『女子が男子の誕生日を祝う』のであれば、その程度の距離感でも問題無いだろう。
嫌いではない女子に祝われれば男は満更でも無いし、女子側のアクションなら下心無しの『健気』などと優しい目で見られる事も多々ある。
だが、『男子が女子の誕生日を祝う』場合はどうか。
好きでもない男子から個人的に誕生日を祝われても、女子は嬉しくないどころか、下手をすれば嫌悪感を催されるだろう。
そして周りからはほぼ確実に、『あーアイツってあの娘の事オトそうとしてるんだな』と捉えられてしまう!
……もしも伊井野が、僕から祝われる事を快く思わなかったら。
『(はぁ?アンタに祝われても気持ち悪いんだけど……
『友達以上恋人未満』って訳でもない距離感の女の子の誕生日を普通祝う?
もしかしてアンタって……私の事……
嫌っ……生理的に無理)』
それだけは。それだけはダメだ。
そして、この問題を乗り越えて『伊井野の誕生日を祝う』と決めたとしても、もう一つの由々しき問題が有る。
『一体何を贈れば良いのか』という問題である!
伊井野の好きなもの……と考えて、まず頭に浮かぶのは。
『美味しい食べ物』。それも、沢山の。
だがそうなると、食べ物でない品とは違い、その場で渡して終わりではなく『共に食事に出かける』事になる!
そんなのはもう殆どデートに誘うようなものであり、告白同然の行為!
駄目だ!ハードルが高過ぎる!!
となれば、やはり何かモノを贈る事になるだろう。
……けれど。
伊井野って、何が好きなんだ?
モノで、アイツが気に入りそうなのといえば……
石上の脳内に浮かんだのは、イケボで励ましてくれる『重めの』ヒーリングミュージックであった。
……無い。それだけは無い。
あの時は、大して何も思わなかったけど。
今は……他の男の、しかも高確率で遊び慣れてそうな男の声で癒やされる伊井野なんて、見たくは……
じゃあ、何を贈れば良い?
考えるも、これと言って良い物が浮かばない。
結論の出ない様に、石上は自嘲した。
……僕って。
伊井野の事、まだ全然知らないんだな。
誕生日の贈り物ひとつで、これほど悩むなんて……
と、ネガティブな考えに陥りかけていたが、石上は慌てて頭を横に振った。
いや。これから知れるようになれば良いんだ。
だからその為に、この誕生日のプレゼントは成功させなきゃならないんだ。
僕1人の頭じゃ浮かばない?それなら……
出来れば、使いたくない手段。
どう茶化されるか分かったものじゃないからだ。
だが、そのいっときの苦痛を耐え忍んででも今回は成功させねばならない。
石上は、固い決意を胸に秘めたのであった。
誕生日を翌日に控えた今日。
伊井野ミコは、一人で街に繰り出していた。
目的は食べ歩き。特に最近見つけたシュラスコの店がお気に入りなのである。
勿論、知り合いに見つからないようにこっそり……である。
それ故に、周りに知り合いが居ないかどうかの警戒は怠らない。
周囲に素早くサッと視線を巡らせつつ、速い歩調で歩みを進める。
目的の店まであと少し。
店に近づく毎に、ミコの心は浮足立っていった。
────しかし。
そんなミコの心を一瞬で凍てつかせる光景が、彼女の視界に飛び込んで来た。
ミコの視線の先には、石上が居た。
そして彼は、一人ではなかった。
慌てた表情を浮かべる彼の右腕には。
ミコの尊敬する先輩……藤原千花が、笑顔で絡みついていたのだ。
その光景を見たミコは、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
まるでその場で、足が動かぬ棒になってしまったかのように……
そして、誕生日当日。
衝撃の光景を見てしまったミコは、絶望の縁に叩き落とされ……
ては、いなかった。
彼女は、2ヶ月前の石上の誕生日の事を覚えていたのだ。
あの時、白銀と共に誕生日プレゼント選びをしていた所を石上に目撃され、あらぬ勘違いを生んでしまった事である。
そう、だからアレもきっと。
私のただの勘違いなだけ。
私の誕生日プレゼント選びを……とまでは行かなくても。
きっと、何か藤原先輩を頼らなきゃいけない用が有っただけのはず。
藤原先輩は、天才で尊敬出来る人なんだから。
石上も、やっとその事実に気付いたのよ。そうよそれだけよ。それだけなんだから。
でも……
そんな藤原先輩にだからこそ、石上もひょっとして……
いや、変な事を考えるのはやめよう。
去年まで生徒会室で、しょっちゅう容赦無く貶し合ってたじゃない。
そんな2人が私の危惧するような関係に……なんて有り得ない。有り得ないわ。
ミコは気を取り直して、『今日が誕生日』という事にほんの少し期待を膨らませながら……石上の席をちらりと見た。
今は休憩時間。石上は席を外していた。
……しかし、カバンから『何か』が少しはみ出しているのが見えた。
「(……何かしら、これ)」
ひょっとして……もしかして……私への……
などと淡い期待に満ちた妄想が膨らんだが、慌てて萎ませた。
何故なら、はみ出している袋から見えたものは何かのDVDのパッケージらしきものだったからだ。
自分へのプレゼントなら、たぶんDVDは選ばないだろう。
では、何なのだろう?
……ほんの少しの好奇心が悪戯をして、ミコの手を伸ばさせた。
しかし、それが間違いであった事を悟るのに時間は要らなかった。
ミコの目に飛び込んで来た、DVDの内容は────。
ピンクの髪に、たわわな胸を携えた可愛い妙齢の女性が艶めかしいポーズを決めた写真の上に。
『淫○ピンクな巨乳女子大生とイチャラブ○○○○!!』
『目の前が真っ暗になる』というのは、こういう時の事を言うのかと、ミコは痛感した。
ショックで気絶しそうになるのを、ミコはやっとの思いで堪えた。
しかし、眼前に見える景色は。
急に色を失ってしまったかのように、全てが暗く色褪せていた……
昼休み。
生徒会のメンバーは、生徒会室にあつまり昼食を摂っていた。
……だが、そこには肝心の人物が抜けている。
会長であり、いつももりもり大量に弁当を食べるミコが居ないのだ。
「石上、何やらかしたの?」
小野寺が石上に問い掛ける。
「何で僕なんだよ」
石上とて、数時間前からのミコの絶望的な様子には全く心当たりが無くて戸惑っているのだ。
「いや、伊井野があんなに落ち込むのってどうせ石上関係だろうなって」
「いや、だから僕は何も……」
「えっなになに?石上せんぱいまた伊井野せんぱいに何かやらかしたんですかぁ〜?」
萌葉がにやにやしながら会話に入って来た。
「……何でそんなに嬉しそうなのかな?」
「だってこじれた恋バナって面白いじゃないですか〜」
……こういうところはさすが『藤原一族』だなと石上は心の中で毒づいた。
「萌葉、先輩困ってるから。興味有る気持ちは分かるけど」
「……そこは興味無いって言って欲しかったな、圭ちゃん」
中途半端な助け舟に石上がツッコむ。
ちなみに『妹コンビ』である萌葉と圭は、どちらも生徒会の皆からは名前呼びだ。
『苗字だと兄や姉と混同しちゃいません?』とのことで、名前呼びが定着した。
「ともかく、何で伊井野があんなに落ち込んでるのか分からなくて僕も困ってるんだよ」
そう、何故か分からないので困っているのだ。
このままでは、せっかく用意したアレが……
「あれあれ?何で伊井野せんぱいが落ち込んで石上せんぱいが困るんですか〜?あれあれ〜?」
萌葉がうりうりと石上の頬をぐりぐりしつつ詰ってくる。
……しまった。失言だった。
「い、いや、生徒会長があのザマだと、僕もそれを支える副会長として困るって事だよ」
「……ふ〜ん。まあそういう事にしといてあげますね?」
とは言いつつ、萌葉の勝ち誇ったような、何かを悟っているようなニヤニヤ笑顔は変わらない。
『全然気付かなかった』姉と違い、この辺のレーダーが敏感である事は石上も薄々勘付いていた。
「でもさ、そういう事言うんだったら」
小野寺が石上に改めて声をかけた。
「生徒会長が立ち直って業務に戻れるようにするのも、副会長の仕事じゃない?」
……うぐっ。
「一理ありますね」
圭が資料に目を向けたまま同意した。
「そうですよ!石上せんぱいの出番ですよ!『僕がいつも支えてあげるから……』とか言えばイチコロですから!」
「ちょ、ちょっ」
何で、僕が伊井野を励ます展開になってるんだ。
……けれど。
アイツの誕生日である今日という日を不意にしない為には、確かにもうそうするしかないのかもしれない。
やるしか……ない。
何とかして、伊井野を立ち直らせて。
アイツの誕生日を……祝うんだ。
そして、放課後。
下校時刻が迫り、誰も居なくなった教室でミコは自らの机に突っ伏していた。
やっぱり。
やっぱり、そうだったんだ。
あれは、私の勘違いなんかじゃなかった。
石上は……藤原先輩と……
しかも、もう『そういう関係』にまで行ってしまっている可能性が高い。
いや、まだ行ってなくても、少なくとも石上は藤原先輩とそうなりたいと思ってるのは確実だ。
あんなDVDを持ってるくらいだもん。絶対、藤原先輩をそういう目で見てるのは確実だ……。
ここ最近、心のどこかで『石上は私の事を好いてくれてるんじゃないか』なんて思ってたけど。
全部、私の勝手な勘違いだったんだ。
勝手に勘違いして、勝手に独りで喜んで。
迷惑だったかな?迷惑だったよね……?
……もう、このまま溶けて消えてしまいたい。
恥ずかしくて、痛々しくて、辛くて、苦しくて……。
すると、その時。
教室の戸が開き、誰かが入ってきたのがミコの耳に入って来た。
だが、ミコは顔を上げる気にはならなかった。
もう、どうでもいい。
放っておいてほしい。
私みたいな……バカバカしい勘違いをしてしまう駄目な女は。
「おい、伊井野」
そんなミコの肩を、教室に入って来た人物は優しく叩いた。
「えっ?」
その声は、待ち焦がれていたような、あるいは拒絶したかったような、複雑な思いを抱かせる声。
思わず顔を上げると、そこには。
石上が、心配そうな顔でこちらを見下ろしていた。
「い……今更何よ?」
ミコは、涙が流れるのを必死に堪えて我慢していた表情を見られたくなくて再び顔を伏せた。
「……いや、何で今日は昼前からずっと落ち込んでるのかと思って」
「アンタに関係……無いでしょ。私の事なんて気にしてる場合?……かわいい彼女が、待ってるでしょうに」
そう、今更何故、こんな駄目な自分などに構うのだろう。
藤原先輩という、可愛くて天才でおっぱいも大きい、スゴい彼女が居るというのに……
だが、不貞腐れるミコの耳に聞こえてきたのは、「あっ」という声と。
呆れが多分に混じった、大きなため息をつく音であった。
「……伊井野、よく聞けよ?」
ミコは反応しなかったが、石上は聞いていると判断して言葉を続けた。
「多分、この前僕が藤原先輩と一緒に歩いてるのを見たんだろうけど。アレは……コレを一緒に選んでもらう為だったんだぞ」
そう言うと石上は、カバンの中から可愛らしいラッピングに包まれた箱を取り出し。
ミコの頭に、軽くぽんっと乗せた。
「えっ……?」
ミコが頭を上げると、その箱が目の前に落ちてくる。
「ほら……その……今日、お前の誕生日だろ?頑張ってるお前に、その……何というか、日頃の労いというか、なんというか」
流れで渡してしまったものの、やはり土壇場で恥ずかしくなってしまい言い訳じみた言葉を石上が述べる。
だがミコは、目の前に提示された真実に対し頭が混乱し、素直に受け入れないでいた。
「う、うそ……だって、アンタ!じゃあ、カバンに入ってたあの藤原先輩似のスケベなDVDは何なのよ!?」
「あ、アレは最近よく話す奴がこの前勝手に僕のカバンに突っ込んでったヤツだよ!今日は返す為に持って来てたんだよ!」
……じゃあ。じゃあ。
……全部、私の、勘違い?
「……はぁ。なんか、僕らってほんと……」
「?ほんと?」
「…………いや。何でもない」
石上は、途中まで言いかけて慌ててミコに背中を向けた。
この前、自分も伊井野と白銀先輩が一緒に居る所を見て同じような勘違いをした。
そして、伊井野も今回は……
うっかり、そう思ってしまったのだ。
相手に、自分のしてきた事を素直に言えず隠してたところといい。
勝手に勘違いして、勝手に不貞腐れるところといい。
つくづく自分達は……似たもの同士だ、と。
だが、まさか本人を目の前にして。
それは、恥ずかしくて言えなかった。
「ま、まあいいだろ。それより、開けないのか?」
「ここで開けても良いの?」
「ああ、せっかくだから感想を聞いておきたいだろ」
石上の了解を得たので、ミコはその場で丁寧にラッピングを解きつつ箱を空けた。
中に入っていたのは……
「……ふわぁ…………」
ふわっふわの、ミニチュアダックスを象ったぬいぐるみと。
手入れ用のぬいぐるみ用ブラシであった。
「……かわいい」
小声でそう言うミコは、思わずそのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱き寄せた。
「……ふわふわだ」
ぬいぐるみを抱いて、目を閉じて幸福感に浸っているミコから、石上はたまらなくなって目を逸らした。
何だよ。何だよ、コレ。
ある程度妄そ……いや想ぞ……いや予想はしてたけど。
この組み合わせ、反則的だろ。
「……ありがと、石上」
ミコはゆっくりと目を開けると、石上の方を向いて。
「嬉しいよ、石上」
何一つ曇りの無い笑顔を見せた。
それはいつかの夜に見せた、あのとびきりの笑顔を彷彿とさせた。
恥ずかしかったけど。
変な勘違いもされてしまったけど。
この笑顔を見れただけでも……贈って良かったと、石上は心の底から思えた。
そして……そんな2人の様子を、僅かに開けた教室の戸の隙間から覗く者が、3人。
「(うわぁー。うわぁー。何でアレでまだくっついてないんですかねせんぱい達?)」
「(去年からずっとあんな感じだよ、あの2人は)」
「(うわぁー見ててもどかしーっ)」
「(何か意外というか……けど割とお似合いというか……)」
すっかり2人の世界に入ってしまい、小野寺と後輩2人に覗き見られている事には気付けなかった、石上とミコであった。
ちなみに、もう一つの余談として……
秀知院学園高等部、とある一室にて。
「俺さあ、この前石上にエロDVD貸したんだけど」
「何貸してんだよ」
「石上副会長を汚さないでくださいませんか!?」
「まあ聞けって。まあ勝手にカバンに忍ばせて貸したから今日突っ返されたんだけど」
「まあ、そうなるわな」
「それがさぁ。『淫○ピンクな巨乳女子大生とイチャラブ○○○○!!』『クール系ギャルJKに迫られて○○○○されたい』『ナマイキな巨乳妹JKを○○○したい』『クールでエリートな美少女妹JKと○○○○』は返ってきたんだけどさ……」
「変態!!変態ッ!!」
「ちょ、待てって!けどさ……一つだけ『ちょっと見当たらなかったから今度探して返すわ』って言われたのが有るんだよ」
「へぇ、どんなのが?」
「よく聞けよ。『低身長巨乳な彼女と一日中イチャラブ○○○○したった』って作品がな」
一瞬の静寂が訪れた後……
「あー。これ確定だな」
「キャー!キャー!副会長の野獣がバクハツしちゃうかも的な!?」
「いつでも赤飯炊ける用意しとく?」
「そ、そんな!?石上副会長と伊井野会長はもっとピュアな……」
石上が、果たして本当にそのDVDだけをうっかり無くしてしまったのかどうかは定かではない。
だがともかく、その日『生徒会のお二人を応援し隊』の集会室が大いに盛り上がったのは……完全な余談である。
あえて前回と似たようなお話にしてみました。
クリパ以降石ミコファンは色々葛藤が有るでしょうけれど
私はクリパ以降の嫉妬丸分かりなミコちゃんもお可愛く思えるのでオッケーです(笑)