伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~   作:めるぽん

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1ヶ月以上間が空き申し訳ございませんでした(´-ω-`)
今回はいつもよりあっさり目というか、短めです。


第20話 石上優は明かしたい

石上とミコ、2人確かに絆が深まった、あの夏の出来事からしばしの時が経った。

夏休みも終わり、2学期が始まり……時は今、11月の下旬までその針を進めていた。

その間、2人の関係には少し変化があった。

と言っても、『生徒会長と副会長』という肩書が無くなっただけだ。

そう、2学期には生徒会選挙が行われ、3年であるミコは生徒会長の座を降り、後進に託す事となった。

その代わりに、石上とミコは2年の途中まで務めていた会計と会計監査に再任命され。

卒業まで、引き続き生徒会に在籍する事となった。

 

そして今、生徒会室では────

 

「ほーい、この書類に目を通しとけ会けぇーい」

 

新たに生徒会副会長の座に就いた藤原萌葉が、石上に生徒会予算関係の書類を渡してきた。

 

「……はいはい」

 

石上が、やや呆れ顔でそれを受け取る。

 

「おーっとなんですかその態度はぁー!?私は副会長ですよー!?生徒会長の次にエライんですよぉー!?」

 

「萌葉、先輩からかっちゃ駄目。3年は今度の期末はセンター前の最後の試験なんだから」

 

石上に妙なテンションでカラむ萌葉に、生徒会長席から……兄と同様、1年で新生徒会長となった圭の諌める声が飛んでくる。

 

「はいはーい、生徒会長さまー」

 

「ははは……」

 

次女のおかげである程度藤原一族という珍妙生命達に慣れつつある石上は、この程度ならまだかわいいものだと受け止められるようになっていた。

 

「ま、心配要らないんじゃない?ここ1年半くらいで成績めっちゃ伸びてるっしょ。私ももう追い抜かれたし」

 

石上の斜め隣で勉強していた小野寺が、テキストに目を通しながら呟く。

 

「そうなんですよねー、お姉ちゃんから聞いた話だと、1年の時は最下位間近だって話たったんですけど。やっぱ何か原因が有るんです?」

 

姉から石上の過去の成績を聞いていた萌葉が、石上に尋ねる。

 

「……まあ、このままじゃいけないって思ったからかな」

 

差し障りの無い答えを述べる石上。

だが……

 

「……何だよ、小野寺」

 

小野寺が、そう答えた石上の眼をじっと見つめている。

そして……

 

「へー?私はてっきり、今花瓶の水を替えに行ってる誰かさんに追い付きたくて……とかだと思ってたけど」

 

「えっ!?」

 

驚きで瞳孔がカッと開き、声が少し上ずる。

図星を突かれた人間の反応であった。

 

「あー……あ〜……せんぱぁい、そういう事だったんですね〜」

 

勝手に合点した萌葉が、姉そっくりのニマニマ笑みを浮かべながら石上ににじり寄ってきた。

 

「ちょ、そういうのじゃねぇから……僕もまあ、あの成績じゃ将来マズいかなって心配になってきたからで……」

 

「はいは〜い、とりあえずそういう事にしといてあげますよ、せ・ん・ぱい♪」

 

明らかに何かを悟り勝ち誇ったような笑みを浮かべる萌葉が、石上の頬を愉しそうにツンツンと突きながら言った。

そして、タイミングが良いのか悪いのか。

小野寺の言うように、花瓶の水を替えに出ていたもう一人の生徒会役員が戻って来た。

 

「あっ、ウワサをすれば、ってヤツですね伊井野せんぱい」

 

萌葉の言葉に、出入口に立ち花瓶を両手に大事そうに持ったミコが、怪訝な表情で首を傾げる。

ちなみに、花瓶の中には今学期からキキョウの花が生けてある。鮮やかな青紫の色が、部屋の彩りにアクセントをもたらしてくれる。

 

「ウワサ?どういう事?」

 

萌葉は答えず、石上の顔をニマニマ笑顔で見つめる。

石上は慌てて、

 

「あ、ああ、伊井野の成績って凄いよなって皆で話してたんだよ。小等部からずっと1位キープだろ?盤石の首位だなって事でさ」

 

と、咄嗟に取り繕った。

 

「……ふーん」

 

イマイチ納得しきれていない様子だが、ミコはとりあえずそれ以上は追及しない事にした。

それに、石上は確かに見た。

花瓶を所定の位置に持っていくミコの口元が、ちょっとだけ緩んだのを。

 

「わ、私の事を褒めるのもいいけど。アンタもせっかく上がった成績落とさない為にも、気を抜いたら駄目よ」

 

「……ああ、分かってる」

 

石上は、静かに、それでいて力強く答えた。

 

その時、時計の針が夕方5時を指し……

 

「……あ!今日、ペスの散歩当番私だった!それじゃあせんぱい達、今日は失礼します!」

 

萌葉が、慌てて鞄を手に持った。

 

「待って萌葉、私もそろそろ帰って家事をしないといけないから。せっかくだから途中まで一緒に帰ろ?」

 

ちょうど業務に一区切り付いた圭も、書類を整えながら萌葉に言う。

 

「……あー、私も今日は妹のアクセ一緒に選んでやる日だったわ。遅れると怒られるから、私もこの辺で」

 

「えっ、ちょっと……」

 

ミコが困惑する中、生徒会役員達が次々とそれぞれの所用で生徒会室を後にした。

 

なお、これは別に石上とミコを2人きりに……という意図が有って行われたわけではない。

実のところ、小野寺の妹は今日は塾の日であり、アクセなど買いに行ける時間など無いのだが、

きっと小野寺はうっかり失念していただけだろう。たぶん。

 

パタンと扉が閉まる音が響いた後には、生徒会室には静寂が訪れた。

ミコは、誰も居ないのは当たり前なのに周囲に素早く目配せしてから……石上の横顔を見た。

 

勉強に集中している石上の横顔。

真剣だからか、いつもより凛々しく見えて……

 

ミコは、慌てて頭を横にぶんぶんと振った。

 

ダメよ、ダメ。

そんな浮ついた事考えてちゃ。

あと2ヶ月後には、大事な入試が控えてて。

その前にもうすぐ、入試前の最後の定期考査があるんだから。

 

そう、ミコは来年1月には、センター試験を控えている。

父と同じ法律関係の仕事に就くべく、国内最高峰・帝都大学の法学部に進学予定だ。

ミコには、秀知院学園生徒会会長を1年務めた特権の『プラチナチケット』も有ったが、敢えて利用しない事に決めた。

推薦が『汚い』という訳ではないのは重々承知であったが、それでもやはり、正々堂々、真正面から入りたかったから。

どの道、法律関係の仕事に就くにはより厳しいとされる司法試験を突破しなければならないのだ。

ならば、今後自分がその苦難を乗り越えていけるかの試金石として。

大学入試を、完璧な成績で突破してみせる。

ミコは、早い内からそう決めていたのであった。

 

……そして、ミコの頭の中にふと疑問が浮かび上がった。

それ自体は、既に何度か疑問に思っていた事なのだが……

 

『石上は、進路をどうするんだろう?』

 

ミコは、今まで何度か『石上は進路はどうするのよ』と尋ねたことがある。

なるべく、何気なく、さりげなく尋ねるように努めて。

しかしそんなミコの内心決死の質問にも、石上の答えはいつも同じ。

 

『まだ決まってないんだよな』。

 

……まさか、今の今に至るまでまだ決まってない、なんて事は無いわよね?

あと4ヶ月程で……卒業だってのに。

ま……まさか!?

 

ミコは、1年生の時に石上が言っていた事を思い出した。

 

『社長になるか、ニートになるか』

 

……ま、まさか、今もまだそんな事考えてる訳じゃないわよね?

……で、でも、もしかしたらっていうのもあるし。

一応、一応だけど。聞いておかないと……

 

不安に駆られたミコは、隣で勉強している石上に尋ねて……みようとした、まさにその時。

 

「……なあ、伊井野」

 

コンマ数秒、先に石上が沈黙を破った。

 

「えっ!?な、何よ」

 

危うく『ねぇ、石上』と口に出しそうになったのを慌てて飲み込んだミコ。

石上は、そんなミコの顔をじっと見つめている。

 

「お前に……言っておきたい事が有るんだ。ちょうど今、2人きりだしな」

 

「え、えっ!?」

 

2人きりで、私に言いたい事?

そ、それっても、ももももももももしかして……!?

ミコの脳内を、急速に甘美な妄想が満たしていく……

 

 

 

実際より凛々しくて50%ほど美形ぶりが誇張された石上が、ミコの両の肩を掴む。

 

『伊井野……愛してる。伊井野が愛おしすぎて、もう我慢できない』

 

『そ、そんな……』

 

真っ赤になった満更でもない表情の顔を見られたくなくて逸らすミコ。

 

だが、照れるミコなどお構いなしに石上は更に距離を縮めてくる。

 

『伊井野……はちきれそうな程のお前への愛、ここで受け止めてくれ』

 

石上の右手が、ごく自然にミコのスカートの中へと伸び……

 

『だっ……ダメっ……私達まだ学生よ……それにここは生徒会室よ……』

 

『言っただろ?生徒会室は校則の範疇外だって……もうここには、明日まで誰も来ない。朝まで、愛し合おう』

 

やや強引にミコの顎をクイッと動かした石上が、ミコの震える唇を────

 

「だっ!ダメ────っ!」

 

爛れた妄想に沈み込みそうになっていたミコは、思わず絶叫してしまった。

 

石上は、当然何が何だか分からずきょとんとしていたが……

 

「わ、悪い。よく分からないけど、今は都合が悪いんだな?じゃあ、また違う日にする」

 

「え、えっ?」

 

石上の言葉で、ミコは我に返った。

だが、我に返るには少々遅かった。

 

「じゃあな伊井野。そうだな……期末考査終わってから、その時に伝えるから」

 

「ちょ、ちょっ……」

 

ミコが引き止める為の言葉を思いつく間もなく、石上は荷物をまとめてそそくさと生徒会室を後にしてしまった。

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

「はぁ……っ」

 

ミコは、自室で大きなため息をついていた。

 

2人きりで、『言いたい事がある』なんて言われたからって。

つい、あんなやらしい妄そ……想像しちゃって。

石上に変な気を遣わせちゃって、結局聞けず終い。

 

……一体、石上は何を言うつもりだったんだろう?

 

ミコは、頭の中で思考を巡らせた。

 

他に誰も居ない2人きりで伝えたい事。

それって、やっぱり……こ、告は……。

けれど、ちょっと待って。

それは、来月の『あの時』にするつもりなんじゃないの?

去年、時計台の屋上で。

石上は、確かに私にそう言ってくれた。

『1年後、ここで伝えたい事がある』って。

なのに、急にこんな何でもない時に言う?

ううん、きっと違う。

でも……じゃあ、一体何?

 

ミコは、数日後に迫った期末考査に向けての勉強に集中出来なかった。

 

それに、石上の進路の事も聞きそびれた。

────私達は、どうなるんだろう。

来年から、どうなるの?

卒業したら……離れ離れになるの?

一緒に居られるのは……あとたった数カ月?

 

自分は、これからも石上と一緒に居られるのだろうか。

ミコの心の中を、不安が渦巻く。

 

……だが、いくら恋に悩める乙女とはいえ、ダテに偏差値77の秀知院学園高等部において1位を堅守してきた訳ではない。

しばし悩んでいたミコであったが、やがて思考が修正されていく。

 

……ううん、今悩んでても仕方が無い。

石上は去り際に言った。

『期末考査が終わってから話す』って。

だったら、その時まで待ってれば良い。

進路だって、その時にまた聞けば良い。

それまで、私に出来る事は。

今まで通りお勉強を頑張って、今まで通りの成績を残す事。

 

だって、そうでしょ?

もし、このまま勉強に集中出来ずに……成績が落ちたら。

私の事をいつも心配して見ててくれるアイツは。

『自分が余計な事を言ったせいで、成績が落ちてしまったのでは』なんて、自分を責めてしまうかもしれない。

 

アイツに、そんな余計な心配をさせたくない。

私は、今まで通りの成績を残して。

いつも通りの状態で、アイツの伝えたい事を聞かないといけない。

 

アイツだって、今は勉強を頑張ってるはず。

だったら、私だって。

いくらここ1年ちょっとで成績が伸びたからって、まだまだアイツに負ける訳にはいかないんだから!

 

ミコの瞳に、決意の炎がめらめらと灯った。

 

 

 

そして、ちょうど同じ頃。

 

「はぁ……」

 

石上もまた、自室で大きなため息をついていた。

 

何で、あんな拒否されたんだろう。

自分としては、結構勇気を出したんだけど。

帰り際に『期末考査終わってから話す』とは言ったけれども。

その時は、ちゃんと聞いてくれるだろうか?

 

石上の胸に不安が過る。

 

……ま、まあ大丈夫だよな?

今度はいきなりじゃなく、前以て伝えた訳だし。

アイツの密かなストレスの元である定期考査が終わった後なら、話を聞いてくれるくらいはイケるだろう。

 

……それよりも、今は自分の勉強だ。

今度言う事だって、もし成績が悪ければ格好が付かないし、説得力も無くなるんだ。

絶対、良い成績を取らないと……

 

石上は、苦手な漢字の問題集に目を通していた。

 

次の問題は……えっと、なになに、餅を『ツ』く、か。

 

しばらく考え込む石上だが、どうしても答えが思いつかない。

常用漢字ではないから無理もないのだが、偏差値77の秀知院学園高等部の定期考査では漢検で言えば準1級のレベルなど平気で出てくるのだ。

 

「……ググって調べるか」

 

数日前、回答集をうっかり紛失してしまった為、答え合わせは検索エンジンで検索する事で行っていた。

 

えーっと、餅を……『搗』く、って書くのか。そりゃ分からんわ、知らなかったし。

 

と、その下に表示された意味の解説に目が留まる。

 

ん?『餅をつく』に餅をペタペタつく以外の意味なんて有るのか?

どれどれ……

 

餅(もち)を搗(つ)・く  の解説

 

1 餅をつく。

 

2 蚊の群れが上下し合う。

 

3 男女が情を交わす。交合する。

 

勉強で疲れた石上の脳内に、やましい考えが満ちていく……

 

 

 

『ねぇ、石上』

 

晴れ着姿のミコが、石上の袖をくいっと摘む。

 

『何だ?伊井野』

 

『ねぇ……せっかく新春なんだし……も、【餅搗き】……しない……?』

 

もじもじと恥ずかしそうに言うミコ。

 

『え?ああ、良いけど。じゃあ、杵と臼を用意して……』

 

しかしミコは、顔を真っ赤にしながら着物の帯をしゅるしゅると解き……

 

『なっ!?何してんだ伊井野!?』

 

『うそ。アンタなら違う意味知ってるでしょ。このスケベ』

 

着物が解けたミコが、石上に迫り……その豊満な胸を押し付けて……

 

『ねぇ……私と、【餅搗き】……して?』

 

『い……伊井野……っ』

 

石上の震える手が、ミコの胸へと伸びて────

 

 

「って、アホか!!!!!!」

 

石上は、思いっきり自分の頭を殴った。

何が!何が『餅搗き』だ!?誰だそんな意味与えた奴は!?

いや、こんな事考える僕も僕だけど!

 

石上は、爛れた妄想を振り払う為に頭をぶんぶんと左右に振った。

 

駄目だ。そんなアホみたいな事考えてる場合じゃない。

もし、今度成績が落ちたら。

 

石上の脳内に、今度は冷たい表情のミコが浮かぶ。

 

『(はぁ……ちょっとは成績上がったと思ってたのに、今度はこんな成績取ったの?これじゃ1年の時と変わらないじゃない?

どうせ勉強してるとかなんとか言って、やらしい慣用句検索してスケベな妄想してたんでしょ……この変態。ドスケベ。エロエロ大魔王。ほんと……生理的に無理)』

 

こんな事を言われても仕方がない!

 

石上は、恐怖で頭を抱えた。

 

────いや、だからこそ。

そんな事を言われてしまわない為にも……勉強に集中しないと。

ちゃんと、アイツを安心させて。

今度伝えるアレに説得力を持たせて。

そして……来月の『アレ』は……絶対成功させてみせるんだ。

 

石上は、決意を新たに固め勉強に打ち込んでいった。

 

 

 

 

 

そして、1週間後。

期末考査が終わり、結果が貼り出された。

ミコは、盤石の1位をキープ。

そして石上は、過去最高の14位を獲得する結果となった。

 

 

 

────その日の夕方。

 

石上とミコは、2人で帰路を共にしていた。

石上が『途中まで一緒に帰らないか』と持ち掛けてきた為で、ミコがそれに乗った形だ。

 

夕焼けの中、しばらくお互い黙り込みながら歩いていたのだが……

 

「────伊井野。1位おめでとう」

 

ふいに、石上が口を開いた。

 

「……と、当然でしょ。これまでずっとそうだったんだもの。最後までずっと続けるわよ」

 

内心褒められて嬉しく感じるも、それを悟られてはまずいと少し顔を逸しながらミコが答える。

 

「……それに。あんたもとうとう14位まで上げたじゃない。最下位一歩手前から、よく上がってこれたわね」

 

「────ああ。やっぱり将来の為に必要だからな。それに……お前に言いたい事も有ったし」

 

────来た。

 

いつ振られるか身構えていたが、いよいよ来たのだろう。

……石上は、一体何を伝えたいんだろう?

……でも、私に出来る事は。

どんな事であれ、それを受け止めてあげる事。

ミコは、強い意志のこもった目でまっすぐ石上の目を見た。

 

「なあ、伊井野。お前、帝都大学の法学部に行くって行ってたよな」

 

「え?う、うん」

 

いきなりこちらの事を聞かれるとは思っていなかったので戸惑うミコ。

 

「凄いよな。早くから親と同じ仕事に就きたいからって、行く学部も決めてずっと良い成績を維持してるんだから」

 

石上が、空を見上げながら呟く。

 

「そんな伊井野と違って、僕は将来どんな仕事に就くかが決まってない。けど、それならそれで僕は、潰しの効く道を選ぶ。母さんの花屋にも、親父の会社の経理にも役立ちそうな道を」

 

言葉を切った石上は、不思議そうな目で見つめるミコの方へと顔を向け直した。

 

「伊井野。僕も帝都大学を受験する。帝都大学の経営学部に入って、母さんの花屋を継ぐにも、親父の会社の経理に関わるにも役立てるつもりだ」

 

ミコの目が、驚きで見開かれる。

 

「だから……その。こ、これからも…………よろしく頼む」

 

石上が、ぎこちなく頭を下げた。

 

目を瞬かせていたミコであったが……やがて、彼女の口元は緩んだ。

 

「……フフッ」

 

「……い、伊井野?」

 

突然笑みがこぼれたミコに、石上が戸惑いがちに尋ねる。

 

「……ば、馬鹿じゃないの。確かに今のアンタの成績だったら受かるかもしれないけど、まだ受かってはいないのよ?気が早いわよ、バカ」

 

────違う。

いや、それもそうだけど。

私は、そんな事で笑ったんじゃない。

ホントは────嬉しくて…………

石上と、まだ一緒に居られる事が、嬉しくて。

 

「……まあ、そうだけど」

 

ばつが悪そうに頬を掻く石上。

 

「……と、とにかく!再来月のセンターまで、今の成績を維持出来るよう頑張りなさいよ!?私も……きょ、協力してあげても良いから」

 

石上は、何も答えなかった。

だが、微笑みを浮かべる彼の表情に、不満や不安は一欠片も無かった。

 

 

 

 

自らの進路を好意的に受け取られた石上。

大学へ行っても、石上と共に居られる事が分かったミコ。

 

2人の『心残り』は、あとたった1つ。

来月に行われる、奉心祭。

残すは────去年の『約束』を、果たすのみ。

 

 

 

 




次回、いよいよクライマックスです。
石上が選ぶ『方法』は……実はもう伏線が有ります。

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