伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~ 作:めるぽん
伊井野ミコが、石上こそが『ステラの人』であると気付いてしまってから密かに心に決めている事がある。
それは!
『こばちゃんには絶対相談しない』という事である!
ミコの中では、以前会長が計画した『仲良し作戦』の時に大仏が言った事が尾を引いていた。
……もし、大仏こばちに『石上がステラをくれた人だった、これからどうしよう』などと相談しようものなら!
『(えっ!?ミコちゃんが11回も私に話してくれたあのステラの人って石上だったの?
えー……じゃあミコちゃんって、石上本人にはあれこれ言ってるくせに、私には『理想の愛の人』って言ってたって事だよね?
うわぁ〜……やっぱり照れ隠しだったんだね!青春あるあるだね!お可愛いんだ〜)』
これだけは避けたい!
瑣末な違いはあれど、絶対こんな感じの事を言ってくるはず!
幼少の頃からの一番の相談相手に相談出来ないのは痛いが、仕方の無い事だ。
こばちゃんだけじゃない。自分の今までの石上の態度は程度の違いこそあれど殆どの人が知ってるはずだから、他の人からも同じような事を言われる可能性だって充分にある。
誰にも、明かすわけにはいかない。
これは、自分一人で答えを出さなければ――――。
ミコは、そう固く決心していた。
……尤も、それは無駄な隠し事となるのであったが。
ミコに伝え忘れた事を思い出し、ミコの後を追った大仏が見た光景は、
何故かお礼の言葉を述べている石上と、その石上に両肩を優しく掴まれ顔を赤くしているミコの姿だった。
予想外のシーンに出くわし、慌てて壁の陰に隠れる大仏。
えぇ……何か石上が絡んでるとは思ってたけど、本当に当たっちゃってた?
しかも何アレ?傍から見たら何かあながち悪い雰囲気でもないというか、青春のワンシーンっぽいというか!
2人の関係を知ってるからこそ、逆に燃えるというか!
個人的には……熱いシチュです。
……ところで。
「(……紀先輩、でしたよね?何やってるんですか)」
そう、大仏が慌てて隠れた場所には先客が居た。
今しがたすぐ近くの場所で行われている行為に目を爛々と輝かせ、スマホのカメラで録画しているカプ厨少女、
マスメディア部2年・紀かれんである。
「(だってだって!仲が悪いとされる石上編集と伊井野監査のお二人のシーンですわよ!?
表では嫌い合っているように見えて本当はお互いに……だなんて!生徒会役員同士のツンデレカップル!会長×かぐや様には及びませんが尊みが深くて!私もう!ああ!きゃー!)」
石上『編集』?と心の中で疑問符が出た大仏だが、それは置いといて、ここは1つ釘を刺しておかねばならない。
「(あの……ぶっちゃけ絶好の面白いネタっていうのは同感ですが、あの二人の場合ここで記事にしちゃうと多分本当に付き合う前に霧散しちゃいかねないというか……ミコちゃんの風紀委員としての活動に支障が出るというか)」
ここでマスメディア部にスクープなどとして扱われてしまえば、間違いなく両者にそれなりのダメージが行ってしまうだろう。
「(ご安心くださいな!まだ記事にはしません……泳がせておけば、いつかもっと決定的なシーンが撮れるかもしれないので、これは私が個人的に愉しむ用にしますわ)」
個人用って……どんな用途なんだか。
内心呆れつつも、気を取り直して2人の方に視線を向け直す大仏。
って、ちょっとちょっと。
いつもならあんな事されたら『生理的に無理』くらい言いそうなもんなのに、何だかミコちゃん満更でもないような?
しかもなんかもじもじした挙げ句、何でか知らないけどお返しにお礼言っちゃったよ?
石上がちょくちょくミコちゃんにしてるフォローの事に気づいたのかなぁ?
「(きゃー!やっぱり何だかすっごく良い雰囲気じゃありませんこと?ねえ大仏さん!?)」
この人はずっと興奮しっぱなしだし……
自分一人だったらこの人みたく興奮してたかもしれないけど、隣にこういう人が居ると何だか逆に落ち着いちゃう事ってあるよね。『人のふり見て』的なアレで。
さあ石上はどう出る?と陰から観察を続けていたのだが……
うーっわ、石上それはないでしょ……。
彼女でもないどころか自分を嫌ってる女の子に、普通おでこくっつける?
何というか、こういう持ち前の気持ち悪さというか風変わりな所で損してるよね、石上……
「(きゃ――――――――っ!きゃ――――――――っ!石上編集、見かけによらずグイグイ攻めるタイプですのね!)」
この人は熱いシチュが見れればどうでも良いみたいだけど……
あ、ほら。やっぱりこれはいくらなんでもアウトだよね。ミコちゃんの見事な右ビンタ炸裂。
「(あら……流石に攻めすぎたんでしょうかね)」
一気に良い雰囲気(?)が崩れて紀先輩のテンションも崩れ去った。
しかも石上は『やっぱ熱有るわ』とか言ってるし。
傍から見ればそっちの方が熱有るでしょって言いたいというか、それはお互い様というか……
……でも、ミコちゃん、最後の一言は本当に怒っただけなのかな?
あの顔の紅さと表情は、それだけじゃないような気もするけど……
いやいやまさか、本当にそんな事って無いよね。
あの時は、その場の落とし処を提示する為に言っただけだし。
まさか本当に、『照れ隠しでした』って事は……無いよね?
いくら基本的にミコなザコちゃん……じゃなくて、ザコなミコちゃんでも、それは無いよね?
もし、本当にそうだとしたら。
お可愛いすぎるでしょ、ミコちゃん……
まあ、いっか。
それはそれで面白そうだし。
『二人がお似合い』ってのも、あながちあり得ない訳でもないし。
下手に触ったら、お互い強がり合って拗れそうだし。
これからも私は、そばで見守るだけ……にしておこう。
という訳で、知らぬ所で既に大仏とかれんにも半分バレかけてました。
今後この両者がどれくらい絡むかは未定です。
番外編1 おしまい