伊井野ミコは告らせたい~不器用達の恋愛頭脳戦(?)~   作:めるぽん

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第6.5話(番外編) 四宮かぐやは認めさせたい

石上優が、失恋を乗り越え立ち直ったその翌日。

彼への片想いを自覚するに至った少女・伊井野ミコは、『落とし物箱』の前に立っていた。

 

彼女にとって、見過ごせないものがその中には有った。

それは……奉心祭にて、石上から手渡された、ハートのアクセサリー。

かぐやが白銀への告白に用いようとして落としてしまった物を石上が拾い、自分に渡してきた物である。

 

奉心祭の伝説。

ハートの贈り物をすると、永遠の愛がもたらされる……

ロマンティックさをご多分に求めるミコは、当然その伝説を知っていた。

尤も、石上がそういう意図で自分に手渡してきた訳ではない事も知っている。

『落とし物は風紀委員に』というロマンティックさの欠片もない理由で渡してきた。ただそれだけの事。

 

しかし、理由がどうあれ、このアクセサリーが『奉心祭で石上から渡されたハート型の物』である事は確かだ。

 

……このハートのアクセサリーがこの落とし物箱に入れられて、もう3ヶ月以上は経過している。

3ヶ月以上経った落とし物は、誰が自由に持ち帰っても構わない……そういうルールが有る。

だから、ミコがこのハートのアクセサリーを持ち帰る事には、何の問題も無い。

 

……もし、これを私の物にしたら。

奉心祭で、石上から貰ったハート型の物を自分の物にする。

それは、つまり……

 

『永遠の愛』。

憧れるような響きが、ミコの脳内を満たした。

 

 

少し恥ずかしくなって、ミコは顔を赤らめる。

そっと、ゆっくりと……ミコはハートのアクセサリーに、手を伸ばした。

その時。

 

「――――そのハートのアクセサリーをどうするつもりでしょう、伊井野さん?」

 

背後から、声が聞こえてきた。

振り返るとそこには……口元に妖しい笑みを浮かべたかぐやが、立っていた。

 

「し、四宮副会長!?」

 

背後に居る事に、全く気付かなかった。

そんなに、自分はこのハートのアクセサリーに夢中になっていたのだろうか。

 

「伊井野さん、そのハートのアクセサリーが欲しいんですか?」

 

ニマニマしながら、ミコの方に歩み寄ってくるかぐや。

 

「い、いえその、コレちょっと可愛いなーと思っただけで、べっ、別に欲しいなんて事はそんな……」

 

ミコが額に冷や汗を浮かべながら慌てて否定する。

 

「あら、そうですか。ではこのハートのアクセサリー……以前私の落とし物であると伊井野さんにもお話してますし、私の手に戻っても何ら問題は有りませんよね?」

 

「えっ」

 

「いえ、以前はもう要らないと言ってしまいましたが……伊井野さんの言う通り、コレ可愛いですもんね?私もそういうモノを手元に置いておきたくなったので。構いませんよね?伊井野さん?」

 

「……え、えっと、その」

 

かぐやの言う事には筋が通っている。3ヶ月が経つ前に確かにかぐやの落とし物として聞かされているし、何より落とし主の手に戻るのが一番自然な事である。

引き留めたかったミコであるが、何も言い返せなかった。

 

そんな言葉に詰まったミコに対し、かぐやはますます妖しい笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「本当に良いんですね伊井野さん?私てっきり……」

 

ここで一度言葉を切り、間を作るかぐや。

 

……もしかして。

突然不安が胸を過ぎったミコであったが、その不安は正しかった。

 

「『ハートの贈り物で永遠の愛がもたらされるという奉心祭で』『石上くんから渡された』『ハート型の』アクセサリーを、伊井野さんが欲しがっているものだと……」

 

一言ひとこと、噛みしめるように、愉しむように単語を繋げるかぐや。

ミコにも、かぐやの思惑はしっかりと伝わっていた。

 

「そっ……そんな事……」

 

それでも、最後の抵抗とばかりに否定する事しか出来ないミコ。

だが、そんな相手を陥落させる事など四宮かぐやにとっては容易い事であった。

 

「まあ、他ならぬ伊井野さんの望みであれば。『納得出来るしっかりした理由』があれば、譲ってあげても良いのですけど……」

 

「あっ……あうぅ……」

 

「例えば、先程のような理由だとしたら、とても素敵なお話ではないでしょうか?私も喜んで譲れるというものですよ」

 

左手を口元に当て、すぐそこまで迫っている勝利の時を愉しみながら待つかぐや。

 

「その……そんな……こと……っ」

 

いくら勉学において秀才であるミコも、この場で目の前の天才・四宮かぐやを納得させられるだけの理由を、でっち上げる事は出来なかった。

 

このまま、四宮副会長を納得させられなければ。

あのハートのアクセサリーは、再び四宮副会長の手に戻ってしまう……

 

「う……うぅぅ……」

 

悩みの中、うめき声が漏れるミコ。

今やかぐやは、葛藤するミコを笑みを浮かべて観察しながら、答えを待つのみであった。

 

そんな状態が、数分間も続いたが……

とうとう、かぐやが次の一手を打った。

 

「いつから気付いてたんですか?石上くんが『ステラの人』であると」

 

ミコが認めやすいよう、助け船を出した形だ。

油断していたミコは、その船にまんまと乗ってしまった。

 

「……四宮副会長と石上が話してたのが聞こえ……」

 

ここまで言って、かぐやの質問が罠であると気付いてしまった。

 

「あ、あっ……!」

 

かぐやには、以前『ステラの人』への想いを打ち明けていた。

そして今、石上がステラの人であると気付いている事を認めてしまった。

それの意味する所を……ミコは、瞬時に理解してしまった。

 

「あ……ああっ……」

 

とうとう遠回しに認めてしまった恥ずかしさで、ミコの顔は赤く染まっていった。

 

「あの時もそうでしたけど……そんなに頑なにならなくても良いですのに」

 

とうとう石上への好意を認めさせたかぐやは妖しい笑みを辞め、『ちょろい』後輩の可愛らしさといじらしさに、思わず苦笑いを浮かべた。

 

「……副会長、全部、知ってたんですね?」

 

赤らめたままむすっとした顔で、ミコがかぐやに尋ねる。

 

「ええ、まあ半分程は『女の勘』とでも言いましょうか……もう半分は、伊井野さんがどこか嬉しそうに落とし物箱のある方向へ向かって行ったので、多少なりの確信が有りましたよ」

 

「……やっぱり四宮副会長は意地悪です」

 

気付いててこんな責め苛まれ方をされた事への不満が、幼さの残る顔に隠さず表れていた。

そんなミコの顔を見て、クスッと自然な笑みがこぼれるかぐや。

 

「ほんと……伊井野さんは……お可愛いこと」

 

ミコの頭を撫でながら、笑顔を見せるかぐやであった。

 

「勿論私は応援しますよ、伊井野さん。きっと、今までの仲から行って茨の道であるとは思いますが……『永遠の愛』が、『ステラの人』と結ばれると良いですね」

 

そう言いながら、かぐやはその場を後にした。

 

 

こうして、元の持ち主公認の元、ハートのアクセサリーはミコの手元に渡った。

このハートのアクセサリーが、2人の今後を示す物になるかどうかは……まだ、誰も知らない。

 




・番外編なので特殊タグ機能(ただの太字ですが)も使ってみました。
・今後、かぐやは出しゃばり過ぎない程度にミコの恋、ゆくゆくは2人の恋をサポートする事になります。
・遅れましたが、沢山のアクセスと高評価、まことにありがとうございます。筆を走らせるモチベーションとなっております。
毎話の誤字報告も大変ありがたいです。

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