芽吹がちょい優しめ所ではなく、かなりデレている気がするぞ!
「……今日もいい調子だな」
ゴールドタワーの近くにある弓道場で、俺はいつもの如く鍛錬に励んでいた。今日は防人の御役目も訓練もない、休日なのである。
休日という訳で、他の防人の面子は仲の良いグループで集まりお出掛けなどもしているらしい。加賀城や弥勒さん、山伏、亜耶ちゃんも外出しているようだ。
そんな俺はもちろん、大好きな芽吹と過ごす為に朝から息巻いてたわけなんだが……。
(芽吹は……朝から神官に呼ばれてたな。お陰で声掛けそびれたじゃねぇかぁ!!)
朝食も食べ終わった後、俺はもちろん芽吹を一緒に過ごそうと誘おうとした。しかし、女神官の登場によりその夢は砕かれたのだった。恐らくだが、何か防人関連での報告やらなんやらに芽吹は駆り出されたのだろう。
「まーじで許さんぞ、あの神官……はぁぁぁぁぁ〜」
異常な長さのため息が漏れた。いや、わかる、わかってんだよ……芽吹に仕事があることくらい、でも、やっぱり休日は好きな人と過ごしたい。
(芽吹と二人っきりになれれば、なんでもよかったんだけどなぁ……あわよくば、一緒にプラモ作りとかも……まぁ考えても仕方ないか)
そう胸の内でぼやきながらも、順調に的のど真ん中を射抜く。なんというか、朝から芽吹と話せなかったのが相当響いているようだ。
「つーか、昼どうするかな。食堂……でも、一人でいってもなぁ」
ふぅ、と何度目かも分からない溜め息をついていると、道場の入り口が開かれた。
「ここにいたのね、夕矢」
「お、おお?芽吹じゃないか!」
「うるさい、いちいち叫ばない」
「おっと、悪い。つい反射的に……」
突然現れた芽吹に、多少(?)驚く。てっきり今日は何か用事があってゴールドタワーに篭りきりかと思っていたんだが。
「やっぱり、ずっとここで鍛錬してたわけね」
「丸々休みってのは、中々ないからな。たまには篭って鍛錬も悪くねぇかなと」
「ふーん、そう」
「芽吹は?神官さんとの用事は、済んだのか?」
「ええ、終わったわ。ちょっとした仕事を頼まれただけだからね」
「流石だな、ここに来たってことは芽吹も鍛錬か?銃剣の訓練をしに来たなら、手伝うぜ」
俺の言葉に対し、芽吹は首を横に振る。
「鍛錬はしないわ、休みだもの。しっかり休まないと損でしょ?所で、あんた昼食は食べたの?」
「いや、まだ食べてないが……それがどうかしたのか?」
「そう、だったら私の部屋に来なさい。昼食作ってあげるから」
「まじか、助か……って、ん……?」
「それじゃ、準備しながら待ってるから早めに来なさいね」
芽吹が軽く手を振りながら、そそくさと道場から去っていった。道場内が静寂に包まれている。鳥のさえずりがやたら聞こえ……って、んなことはどうでもいいわ!!!
「う、嘘だろ!?えっ!?いま、はぁ!?」
どういうことだ……今のは。俺の聞き間違いじゃなければ、め、めめめめめ芽吹が俺の事を、自分の部屋に来て欲しいと誘ってくれた?それだけじゃなく、昼食を作ってくれる……だと?
今まで、芽吹が俺を昼飯に誘ってくれた事なんてなかった。毎回俺が自分から付いて行ってたし……ましてや、昼食を自ら作ってくれるなんて。
(芽吹の手料理……俺、明日死ぬんじゃね?)
最高のイベント発生に思考がついていかず、その場から体が動かなくなった俺は、なんとか動く腕をクロスさせてこう呟く。
「今日は最高の休日だ……芽吹・フォーエバー!!!」
自分でも何を言ってるのか分からなくなってきたが、それくらい俺の嬉しさメーターは振り切れていた。
音速で着替えを済ませて、道場から出てきた。今、俺は芽吹の部屋へと足を踏み入れようとしている。あ、やばい、なんか足めちゃくちゃ震えてきたぞ。
「落ち着け…俺」
聞いてないぞ、こんなイベント急に起きるなんて。てっきり今日は一日中一人で悲しく道場で鍛錬して、飯食って寝るなんていう悲しいスケジュールの予定だったんだが。
それが今はどうだ?……俺は好きな人に部屋に来て欲しいと誘われ、挙句手料理まで振る舞ってもらえるという。いわゆる、栄光のウイニングロードを駆け抜けようとしているではないか。
「はぁぁ……だめだ。幸せと混乱が俺の頭を支配してやがる」
いつまでも廊下に突っ立っているわけにもいかない為、俺は
「芽吹ー!き、来たぞ〜!」
『早いわね……少し待ってなさい、今開けるから』
ドア越しから、いつも通りの凛々しい声が聞こえて来る。すると、ここに来てまた緊張がぶり返してきた。
(そうだ、こういう時は素数を数えて冷静さを取り戻すか!それだそれしかな)
「来たわね……って何で固まってるの?」
「おい、どうしたんだ……急にどうしたってんだ」
「な、何がよ?」
出てきた芽吹の姿を見て、俺はその場に膝をついた。何故か?そんなのは単純明快だ、芽吹がエプロン姿だったからだ。デザインは非常に、シンプルだが……それでも、芽吹自体が百億満点な為、可愛い、そして美しい。俺はどうすればいい、目の前に女神いるんだが。
「似合いすぎだろ、エプロン……たまんなく可愛いんだが」
「はっ!?い、いきなり何言って」
「あぁ!!やめろ!やめるんだ、芽吹!その姿で恥ずかしがらないでくれ!それは、俺に効く!!」
「ば、バカな事言ってないで!さっさと入りなさい!」
芽吹に引っ張られて、部屋へと連れていかれる。もう何をされても俺は嬉しくなるだろう。あぁ、本当に今日は最高だ。
「自分の部屋だと思って、寛ぎすぎないように」
「えぇ…そこは、寛いでいいわよって言うとこなんじゃないか…?」
「あんたに、それを許したらあんた何しだすかわかったもんじゃないから、言いたくないのよ」
「まさか、何も……しないと思うぞ?」
「その間と疑問形が証拠じゃない、馬鹿」
「に、にしても芽吹の手料理かぁー!楽しみだ。ちなみに何を作ってるんだ?」
「話を逸らしたわね」と、軽く不機嫌そうに呟きながらも答えてくれる芽吹。
「わかめうどんよ、あんた昔から好きだったでしょ?」
「おお!まじか、手料理ってだけでも嬉しいのに好物を食べさせてもらえるとは。ありがたいよ、今日は昼食抜きにしようと思ってたから」
「今日、じゃないでしょ?昨日も、昼食抜いてたじゃない。鍛錬もいいけど、1日三食しっかり食べなさい。力つかないわよ」
「す、すまん…気をつける」
腕を組みながら、ジト目で俺を気遣ってくれる芽吹。優しい…もう、ダメ…頭爆発しそうだ。
「それじゃちょっと待ってて、すぐに作るから。もう一回言っとくけど、勝手にいろいろ触ったり変なことするんじゃないわよ?」
「わ、わかってるわかってる!そもそも、俺が芽吹の嫌がる事をするわけないからな!」
「……どうだか」
ため息まじりに台所へと向かった芽吹の背中を見送りつつ、部屋を見渡す。やっぱり、今でもプラモは好きなんだな。棚の上に沢山置いてる、てかクオリティ高い。
(にしても、急にどうしたんだろうな。芽吹)
部屋に入れてくれたり昼食を作ってくれるのは嬉しいが、なんというか変な感じだ。こんなに芽吹が俺に色々してくれるなんて。
(考えてもわからないからな、後で聞いてみるか。あ〜芽吹の手料理楽しみだなぁ〜)
少しの疑問を持ちつつも、台所の方から香ってくるいい匂いに思考を停止させられる。同時にもうすぐ芽吹の手料理が食べれるかと思うと口元が緩んだ。我ながら、浮かれすぎである。
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「……柄じゃないわね、本当に」
はぁー、と一人台所で私は今日何度したかも分からないため息をまたついていた。
そもそも何故、こういう状況に発展したのか。それを説明するには、昨日の亜耶ちゃんとのある会話を振りかえらなければならない。
『夕矢先輩にお礼をしたい、ですか?』
『ええ、それもさりげなく自然な感じで』
『えと、夕矢先輩の場合、芽吹先輩が日頃の感謝を言葉にしてあげるだけで、大喜びしそうですが……それでは、いけないんですか?』
『私も、最初はそうしようと思ったけど……直球過ぎると、あいつきっと手がつけられないほど調子に乗るし……何より、その…』
『ふふっ、恥ずかしいんですね?』
『……ええ』
『なら、手料理を作ってあげるのはどうでしょう?幸い明日はお休みですし、自然な流れで昼食に誘えるはずです!あと、舞台のセッティングはお任せください!』
と、いうことがあり今の状況に至る。ちなみに亜耶ちゃんの言っていた舞台のセッティングはお任せ発言の意味は朝送られてきたメールの内容で理解することができた。
『雀さん、弥勒さん、しずくさんは、私が昼食に誘うので気にせずお二人で楽しんでくださいね!』
「気合入りすぎよ、亜耶ちゃん……」
何故、お礼をしようとしている私よりも気合が入ってるのだろうか。それに私はただ、昼食を作ってあげるだけだし何を楽しめというのか。
「楽しむも何も、ただ手料理を振る舞うだけだし……」
ぶつぶつ小言を呟きながら手を進めていくと、料理が殆ど完成していた。出来上がった品を、夕矢の元へと持っていく。
「お待たせ、出来たわよ」
「おお〜待ってたぜ!」
「テンション高いわね、そんなに私の料理が食べれるのが嬉しいの?」
「あったりまえだろ!?初、芽吹の手料理なんだしさ!そんじゃ、いただきます!」
いつもよりテンションの高い夕矢を見て、クスリと笑ってしまう。喜ぶとは思ってはいたけど、ここまで喜んで貰えるとこちらとしても悪い気はしない。
「その、味はどう?大丈夫?」
「美味い!サイコーだよ!作ってくれてありがとな、芽吹!」
「っ……そ、そう、喜んで貰えてよかった」
嬉しそうに微笑む夕矢を見て、動揺する。こいつのたまに見せるこういう表情……正直苦手だ、どんな顔をしたらいいか分からなくなるから。
「でもよ、芽吹」
「なによ?」
「いや、なんで急にここまでしてくれるのか気になったっつーか」
まぁ…普通に気になるか。今まで、こんな事した事もなかったし夕矢自身もされるのは初めてでしょうし。しかし、どうしたものか……即座に言い訳も思いつかない。
「それは……」
「それは?」
「き、気が向いたというかなんというか」
部屋が静寂に包まれる。流石に自分でも、その言い訳はどうかと思う……しかし、日頃のお礼も込めてなんて恥ずかしくて言えない。なんで恥ずかしいのかも、理由は分からない。
すると、固まっていた夕矢が口の端を吊り上げ呟いた。
「そっか、ありがたいなぁ。まぁ、理由はなんであれ芽吹が俺にこうやって色々してくれたってだけで嬉しいからいいけどよ!」
「い、いいの?それで?」
「いいに決まってんだろ?俺にとっちゃ、芽吹と二人で過ごせるこの時間が宝物なんだから」
「私との…時間」
夕矢と一緒にいる時間……どこか近いようで遠い私たちの距離、でもこの距離感こそ私は案外好きなのかも知れない。夕矢が歩み寄ってきて、どこか満更でもなくそれを心地よく感じている私。
(私は…夕矢と、どういう風になりたいんだろう?)
最近、よく考える。けど私にはよくわからない、夕矢に対してどんな感情を持っているか、それが自分でも分からないんだから。
「なぁ、芽吹」
「う、うん」
「お前はどうだ?俺と過ごす時間は、楽しいか?」
突然の質問に少し動揺する。でも、何故か私の口は自然に動いた。
「そうね……騒がしくて少し頭が痛くなる時もあるけど、つまらなくはないわよ、あんたと一緒にいるのは」
そう私が、言ったと同時に夕矢はまた嬉しそうに微笑んだ。私もそれに釣られて少し笑った。
「さて、残りもしっかり食べなくちゃな。作ってくれた芽吹に失礼だ」
「ええ、しっかり食べなさい。まだいっぱい残ってるから」
「ちなみに、どれくらい残ってるんだ?」
「そうね、ざっと五玉分くらいかしら」
「……ご、五玉…?な、なんでそんなに?」
「育ち盛りだし、何より昨日の昼を抜いた分も栄養は取らなくちゃでしょ?まさか、残したりしないでしょうねぇ…?私と過ごす時間は宝物…なんでしょ?」
「……死ぬ気で食べさせていただきます!!!」
「それでいいのよ、さぁ頑張りなさい」
その後、苦しみながらもうどんを食していく夕矢と二人で過ごした。そのひと時は、大好きなプラモを一人で作っている時よりも楽しく感じた。
「……お熱いですわね、あの二人」
「な、なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたよ」
「……なんだかんだで、ベストマッチなのかも…」
「芽吹先輩、グッジョブです!」
芽吹が、この四人から夕矢との関係性について冷やかされるのもそう遠くない未来なのだが、それはまた別のお話。
小ネタ解説、ないと思った!?じつはあるんだなぁ!これがぁ!!
腕をクロスさせてこう呟く。
「今日は最高の休日だ……芽吹・フォーエバー!!!」
映画『ブラック・パンサー』にてワカンダの王、ティ・チャラやワカンダ国民が「ワカンダ・フォーエバー」といいながら、腕をクロスさせるシーンから引用。ダサいって言われてますが、僕はめちゃくちゃ好きです、ワカンダ・フォーエバー!!!!
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にしても、楽しかった…何気にデレる芽吹可愛い。さて、次は本編かな、ほかのキャラとも夕矢くん絡ませなくちゃ!