さぁさぁ■の中で出会うのは、誰なのか。
目を閉じる度に、思い出す。彼女の笑顔、彼女の声、彼女の姿、彼女の温度、彼女の…くれたモノ。
ソンなモノ、いまさら思イダしテなンになる
頭痛が止まらない。ずっと、ずっと、こんな痛みに苦しめられている。
夢の中でなら、彼女に会えると思った。でも、そんな事はなかった。
見るのはいつも決まって……地獄のような光景ばかり。あの子が死んだ、大事な子が死んだ、守れなかった、好きだったのに。
オまえハ、たすけラれナカッタ
失った、目の前で。彼女の体は真っ赤な血に染まり、息遣いは荒々しく、苦しみに顔を歪めていた。それでも、彼女は最期に…
ムくイだ、むクいだ、一人で背負った『報い』ダ
『報い』か。にしたって今回の■は最高に趣味が悪い。悪趣味にも程がある。今まで見てきた■も酷かった、目を閉じ、眠りにつくという行為すら苦痛になる程の地獄を見せ続けられたのだから。
けど、これはいけない。
コロシタイ?ころしたい?殺したい?
その姿……それは『今の俺』がもっとも見ていけないモノだ。見たが最後、俺は我慢出来なくなる。
ナら、殺そう。殺してしまおう、どうせこれは■だ。何をシヨウとオマえのジゆうだよ
ならば、ここは本能に従うとしよう。そちらの方が俺としても気が楽になるだろうし。
実際、起きている間では、有害な奴等とはいえ沢山の人間を手に掛けただろう。なら、思う存分……なのに……
胸がちくっとするのは何故なんだろう?
こういう時に限って、『■■』の顔が浮かび続けるのは何故だろう。
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〜夕矢視点〜
「…んだ、ここ」
倒れていたのだろうか、やたらと冷たい地面から起き上がり周りを見渡す。オレンジ色の光に包まれた空間、俺の記憶の中を探ってもこのような場所に見覚えはなかった。
「大赦……の連中がやる事にしちゃ手が込みすぎてるか?」
そもそもここに倒れる前に何があったか、それが分からない。だから、誰のせいとかどうしてこんなとこにいるのかとか一切情報がない。
「てか、芽吹…芽吹がいねぇ…」
訳もわからない場所に飛ばされた事などどうでもいい。芽吹の姿を一目でも見たい、何故かいつも以上にそんな衝動に襲われた。
「芽吹ぃぃ!どこだぁ!?」
てか、加賀城や弥勒さん、亜耶ちゃんに山伏もいなければその他の防人面子もいないってのはどういう事だ。
「そもそも、なんで俺は防人になってんだ…?」
考えが纏まらない。深く考えようとすると、謎の頭痛に襲われるせいで先に進みゃしない。
悪態ばかりついていると、かつ、かつ、かつという乾いた足音が響いてくる。
「…誰かいるのか?」
周辺からの光が強すぎて姿は見えてこない。が、このような意味不明の場所で警戒を解けば足元を掬われかねないのも分かっている。即座に弓を展開し、構え、臨戦態勢に入った。
「止まれ」
足音が止まる。どうやら言葉は通じるようだ。
「あんたが手に持ってる
警告を飛ばしてすぐ、足音が更に近くなる。一足早く、相手が持っているモノ……鋭利な切っ先が光る刀を視認した事からの呼びかけ。
『…』
やっと姿が見えてくる。光の中から現れた奴は、漆黒の着物のようなものを全身に身に纏っており、黒に塗り潰された見た目をしていた。深々とフードが被られていたが、唯一、目のみが露出されている。
刀を構えながら、鋭い目がこちらを捉える。一瞬、怯むが奴の気迫に体が勝手に反応する。
「随分と、殺気立ってるな」
『……』
黒衣の男は何も言わない。お互い視線を外さず、円を描くように牽制し合う。一瞬の油断で首を叩っ斬られる……そう思わせる程に相手の殺気は本物だった。
「…なんだ、その…あんた、お名前は?」
お見合いか、アホが。もっとマシな声の掛け方あっただろうが()
『ハッ……お喋りが好きなのか?それとも、相当余裕があるのか、いや単純に莫迦なのか』
「すぅ〜……こちらとしちゃ、出来れば殺し合うのはごめんなんでね。少し話でもと思ったんだが」
ここがどこだろうと殺し合いはごめんだ。俺は、防人という役目を人を傷つける為にやってる訳じゃないのだから。だからと言って、相手も同じ気持ちとは限らない。
考えを読んだのか、それとも察したのか。殺意に染まった目玉が、俺を凝視する。
『甘いな、敵意を向けてくる相手に対しての考え方とは思えん』
「ああ、そりゃ悪かったな…、けど」
『名前はない、そして、もう必要ない。これで満足か?青二才』
「質問には答えたぞ」と言い黒野郎は刀を構え直す。こちらの呼び掛けは無駄、余分に呼びかけるのは逆効果の可能性もあるが…。
(何にせよ、多少の荒事は避けられそうにないな)
にしても、この黒野郎。一切隙がない。刀の構え方からして、無形……型のない自由な戦闘スタイルを有している事が分かる、だから尚更やりにくい、どう攻めてくるのかも分からないし、こちらから攻めて返り討ち遭う可能性もある。
『っ…お前は、癪に触る』
「随分な言いようだな、おい」
殺意は明確なものとなった、ただ俺を殺そうと黒衣の男は動く。右手に持っている凶器を逆手に持ち替え、血走った目が俺の首を捉える。一瞬、本当に一瞬の出来事。
「ッ!!」
即座に反応。矢を4本射り、側面に飛ぶ。
矢は突っ込んできた相手の両腕、両足を捉えている。そんな速度で矢に当たればひとたまりもない事は相手も分かっている筈だ。
例え避けられたとしても、奴の背後に回った瞬間に爆破。直後その爆風で飛んできた体を押さえ付けさえすればこちらが有利となる。
(殺し合いする気はない…とか言った割に迎撃が本気すぎたか?いや)
やりすぎなどではない。そもそも、そんな上手くいくわけがない。目の前の男はそんな手に引っかかる程弱くはないと。本能が警告している。
『俺を止めたければ、もっと本気でやるんだな』
本能による警告は間違いでない事を確信する。両腕を捉えた二本の矢は奴の放った手裏剣によって応戦され、両足を捉えた矢は刀で叩き落とされていた。その動きはまるで…
「……分かってたみたいじゃねえか、クソが」
憎々しげに呟く。同時にきっと同じ立場だったのなら、自分もそうしていたと考えながら、次の行動に移った。奴の手持ちの武器は今知りうる限りでは刀と手裏剣の二つ。
後ろに飛びつつ、矢を放つ。相手にこれと言って目立った遠距離戦の出来る武装がない事はここまでのやり取りで分かる。
白兵戦が苦手なわけではない。が、近接武器しか持っておらず、ましてやあからさまに白兵戦が得意そうな相手に対して真っ正直に近接戦闘を仕掛ける必要もないだろう。
(少しの間、得意な間合いを保つ)
今もこちらに詰め寄る黒衣の男を応戦しつつ、背中にある矢筒に備えられた特殊な矢、それらの機能がどういうものだったか。春信さんから、あれやこれやと説明を受け(一応)頭に叩き込んだ知識をこの場で思い返す。
矢筒に備えられているトリック・アローと呼ばれた特殊な矢。これを駆使し、奴を追い詰める。仮に…成功せず、策が奴に破られてしまった時は……。
「ま、そん時はそん時だな」
あっけらかんと短くそう吐き捨てた。矢で相手を牽制、そう簡単に離れさせてくれない事は分かっている。ならば…スプリットショットアロー、所謂分裂する矢を扱い、相手の出方を見る。
一度に5本の矢を番え、一気に引き絞り放つ。矢は複数の発射体に分かれると、こちらに迫る敵へと不規則な動きで迫っていった。
『分裂弾……そして、追尾か』
殺意に駆られている割には冷静。奴のこれまでの立ち回り、目の良さ、状況判断能力、それに付いていける戦闘技術……動きの端々から見えるのは、俺が過去に会得した技術と酷似しているような?
(いいや、んなことは今どうでも良い)
余分な思考を振り払う。追尾する矢は、黒衣の男を捉えた。もう逃れる事は…
『邪魔だ』
「っー!避けようともしないのな!」
早速、一手が破られる。関係ないと言わんばかりに、刀で矢を迎撃する黒衣の男。荒々しさがありながらも、その技には冴えがある。認めたくはないが、相当な手練れであることは明白。
背後に飛び、2本の矢を番える。先ほどよりも少々力を入れて、放った。
『いい加減、殺されてくれ』
「直球だなてめぇ!」
放たれた矢は二本。それは相手の真横をすり抜ける。
『どこを』
相手が言い終わるよりも早く、すり抜けた矢が地面に付着し爆発を起こす。瞬間、爆発が起きた場所に吸い寄せられるように男の体は引っ張っられていく。
『狙いはこれか』
「面白いだろ、インプロージョン・アローって言うんだぜ?」
爆縮矢とも言うらしい。爆発した瞬間、その中心部に対象を引き付ける面白い効果を持った矢である。二本の矢が立て続けにその効果を発揮した事で、黒衣の男との距離が離れた。
すかさず、矢を番え放つ。体勢を崩した相手に対し、矢を連続で使う。1本、2本、体勢の崩れなど関係ない、寧ろ崩れた事を利用して相手は矢を避けて見せた。
(なら、次は…)
気にせず、追撃。お次はパルサー・アローと呼ばれた矢。立て続けに矢を避けている相手に対してさらに追い討ちをかける、が。
『舐めるな』
飛んできた矢を手掴みで封じられる。直後、矢は小規模な爆発を起こすが鎧のような物に覆われている為、相手にダメージは皆無だった。
『狙いはいい、だがどれも後一手足りない』
偉そうに黒衣の男は言う。その言葉に判断が鈍ってしまった。その隙を相手は見過ごさない。離れていたはずの距離を一瞬で詰められた。
「させ、ねぇ!」
一瞬の判断、弓をシングルアクションで槍状態へ移行する。ガギィッ、と鈍い金属音が空間を満たす。刀と槍が火花を散らしながらぶつかり合う。互いに一歩も譲らず、戦闘の激しさのみが増していく。
相手の挙動、その全てを悉く俺は潰した。繰り出される剣戟には、槍術を扱い完封する。だが同時の、俺の反撃も全て防がれた。まるで
「俺と…戦ってるみたいだ」
『…殺す』
その発言が気に食わなかったのか、より一層奴の攻撃の威力が増した。それに直ぐついて行く。
休む間もなく、一進一退の攻防が続く。俺が相手の攻撃を防げているのには理由があった。いや、詳しく理由が分かるのかと言われたら、何とも言えないが。
『読んでいるのか、分かっているのか……いや、視えているのか』
「さぁ、ね」
力は緩めず、正面の相手を少し挑発するように呟く。自分でも訳が分からないが、相手の言う通りだった。俺はこの男が次にどのような動きをするのか。それが何故か『視えてくる』のだ。
さっきまでは視えてこなかったものが、奴に近づいた瞬間視え始めた。妙な感覚に襲われながらも、手は止めない。
『……チッ』
大きな舌打ち、それが聞こえた次の瞬間、俺の体勢は相手の足払いで崩された。手元にばかりに注意が行きすぎたせいだ。さっきまでの戦闘が嘘のように空間から音が消える。
『…事が終わる時とは、呆気ないものだ』
「…同感だ」
体勢を崩し、地面に寝かされた俺は相手に首根っこを掴まれているせいで身動きが取れなくなった。奴の手に握られた凶器、それは俺の脳天を捉えている。誰がどう見ても、絶対絶命の状況だ。なのに
『何故だ』
「あ?」
『…このような状況下でも、
そう、黒衣の男は鋭い視線を向けながら、俺に問うてくる。
「何故って言われてもな、まだ負ける気がねぇからくらいしか理由がないが」
『やはり、莫迦なのか?この状況を見ろ、お前は終わりだ。死ぬんだ』
「死なねぇよ、俺は」
忌々しそうに奴の目が俺を見る。だが、その目には先程までの狂気が消えつつあるように思えた。
「逆に聞くけどよ、
戦闘が始まる前から気になっていた事を言葉にする。フードの中から見える奴の目には光はなかった。奥底に視えるのは、怒りと悲しみ、それだけのように視えた。
『……本当に、嫌な■だ』
奴がボソッとそんな呟きを漏らす。直後、奴は立ち上がり、刀を腰にある鞘へと納め出した。警戒心はとかず、俺も身を起こす。
「……殺すんじゃなかったのか?」
『失せた。こんな奴に殺意を剥き出しにしていた自分がアホらしくなった』
「そうかよ」
『あぁ、そうだ。何より、こんな所で殺さなくても……
言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。そんな俺のことを気にせず、奴は背を向けた。殺されかけたが、元より俺に殺し合いの意思はない。相手が引くのであれば、俺も追いはしない。
「……鷹月夕矢だ」
『……は?』
「俺の名前だ。あんたに言わせようとしておいて、自分の名前言ってなかったしな」
「知ったことか」と言いながら、男は俺に背を向ける。その後ろ姿が俺にはやけに哀しく見えた。
『醒めたくなくなるのかと思ってたが…その逆とはな。こんなのはもう見てられん、さっさと醒めるとしよう』
黒衣の男は歩き出す。それが合図かのように、先程までの明るかった周辺の光がゆっくりと消えていく。
「……結局、お前はなんなんだよ」
最後に疑問を口にする。俺からの言葉に一瞬、男は立ち止まる。徐々に暗闇へと染まっていく中で、男は深く被られたフードを外し、顔をこちらに向けた。
『これで…分かったか?』
暗闇に包まれる視界。だが包まれる寸前、最後の瞬間に見えた『その顔』は。
『じゃあな、
そんな言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は途絶えた。
「あ、起きた」
「夕矢!よか……ごほん、夕矢、体調はどう?」
目を開けると、心から安堵するような表情を浮かべたかと思ったら、すぐにいつものキリッとした表情に戻る芽吹と、それに対して何か言いたげな顔をする加賀城、二人の顔が映った。
「…なんで、二人が俺の部屋に?…てか、もう昼じゃねえか!?」
慌てふためく俺の姿を見た二人は顔を見合わせると、心配そうにこちらを向いた。
「ユウ、もしかして覚えてない?」
「は?、えっ、何がだよ?」
「あんた、私と一緒に朝のランニングをこなした後…倒れちゃったじゃない」
「えっ」
冷静に思い返すと、そんな事があったようななかったような。起きたばかりだからなのか、頭が回らない。
「…悪かったな、芽吹。心配かけて」
「別に気にする事ないわ、特に心配もしてないし」
「えぇ〜よく言うよ、メブ〜。倒れちゃったユウを連れてきた時は、あんなに真っ青な顔して」
「夕矢、少しこの部屋が赤くなるかもだけど、許してくれるわよね」
「ちょっとまってメブ赤くって何が赤いのかなそしてその手は何かなやめて、やめてー!謝るからー!ユウもなんとか言ってー!」
「悪いな、俺芽吹の味方なんだ」
「私も心配してたのにー!!」という加賀城の断末魔が部屋に響く。少し痛む頭を抑えながらも、芽吹と加賀城のじゃれ合いに微笑む。
が、一瞬また頭痛に襲われた。瞬間、最後に見た男の顔を思い返す。
「…あれは、俺、だったのか」
「ユウ?」
「どうしたの?夕矢」
二人がこちらに視線を向ける。これ以上心配させるわけにはいかないと、首を振って余分な思考を消した。
「わり。なんでもねぇ、さーて寝てた時間の分取り返すとするか!」
「とりあえず元気になってよかったわ」
「あぁ、それもこれも芽吹が横にいてくれたお陰だな」
「はいはい、そんだけいつもの減らず口を叩けるなら大丈夫そうね」
嫌な気分が消えていく。うん、やっぱり芽吹は最高だ。芽吹がいてくれる限り、俺はどこへだっていける気がする。今日はより一層、そんな風に思った。
「……あのー、イチャイチャしながら、頬引っ張らないで?メブ」
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『…醒めたか』
少し寒い。どうやら雨にずっと打たれていたようだ。
『…さて、仕事の時間だ』
機械のように、動き出した。一つの命令にずっと従い続けるロボットのように俺はまた殺しに向かう。
いつまでも満たされる事のない渇いた心を抱えながら。
『本当に…いつも以上に最悪の気分だよ』
〜小ネタ解説〜
〜今回登場した黒衣の男。
彼のモチーフは知っている人なら分かるかもしれませんが、ローニンです。
ローニンとは、原作のマーベルコミックスにおいてはキャラの名前ではなく複数のヒーローによって使われる仮の姿って奴です。見た目は、忍者のような見た目をしており、全身が漆黒に包まれた着物のような衣装を纏っています。
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)においても『アベンジャーズ エンドゲーム』にて登場しており、ホークアイことクリント・バートンが素性を隠しながら行動する際、ローニンになっていました。
〜夕矢が今回使ったトリック・アロー
インプロージョン・アロー 爆縮矢
対象に当たった直後爆発を起こし、またその爆発の中心に対象を引き寄せる特殊な矢。
スプリットショット・アロー
複数の発射体に分かれて、対象を追尾する特殊な矢。
パルサー・アロー
爆発物を搭載した矢。対象に付着、または地面などに付着させ、夕矢の持つ弓に搭載されているリモコンを使う事により手動で爆発させることが可能。
「……鷹月夕矢だ」から『知った事か』ていう二人のやり取り。
これは『シビル・ウォー キャプテンアメリカ』にて、空港での決戦の際のホークアイ/クリント・バートンとブラック・パンサー/ティ・チャラとのやり取りより抜粋。
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過去最高に小ネタ説明長くなっちゃった…申し訳ない。とりあえず、次回からはしっかり本編進めます!にしても、今回出てきた子は誰なんでしょうね、分からないなー(棒)