「はぁ……」
「お疲れさん、芽吹。ほら、水分補給忘れないようにな」
ありがと、と短くお礼を言って受け取る。早朝、私と夕矢はいつも通りランニングをこなしていた。
「だいぶ慣れてきたわね…もう少し距離伸ばそうかしら」
「おお、良いじゃねえか。そうなればもっと芽吹と二人の朝を満喫できるしな(お互いの体力の向上に繋がるしな)」
「わざとじゃないのよね?それ」
?とよく分かってない顔をしてるバカは放って置いて歩き出す。
「はぁ…まぁ良いわ。それじゃいきましょ、少し早いけど」
「おう……っと、思ったが電話きてるな」
「誰から?」
「あー、母さんからだ。最近、電話掛けてくる事が増えてな…しょーじき困ってる」
と言いつつも、若干口角が上がってる事に気づく。意外な事にこういう所は、割と素直ではないのが鷹月夕矢という男である。
「電話出てあげなさいよ、待っててあげるから」
「いいのか?母さんとの電話…少し長いけど」
「いいって言ってるでしょ。ほら、さっさと行きなさい」
追い払うような手振りをしつつ、夕矢に早く行ってきなさいと急かす。
「さてと」
一人残されたが、どうしたものか。体を動かそうにも過度なトレーニングは逆効果と言うし。
かと言って、この広場には時間を潰せるようなものはない。精々、ベンチがある程度だ。
「仕方ないわね」
短く溜め息を漏らし、近場にあったベンチへと寄って行く。
「…猫?」
誰にも譲らないとでも言いたげに、ど真ん中を占領している。スヤスヤと寝ているネコを起こすのも気が引けるので、移動しようとするが。
「にゃあ〜」
「……」
起こしてしまった。ふわふわな毛で覆われた体を起こし、こちらをジッと見ている。
「ごめんなさい、起こすつもりは…なかったのだけど」
「にゃ〜」
可愛い、なんだろうか…自然と心がふわふわしてくる。
「みゃああ〜」
「そこ寝心地良さそうだものね。邪魔しないよう私は消えるわ」
急に猫が動き出す、ベンチから降りたかと思うと私の足へと擦り寄ってきた。言葉が通じているのだろうか…何となく、その子が行かないでと言ってる気がした。
「一緒にいたいの?」
「にゃあ〜」
「…分かったわ、あのバカが戻ってくるまで一緒にいましょう」
ベンチに座り、おいでと手招きする。膝の上で猫は丸まっている。その愛くるしい姿を見て、自然と笑みを溢した。
「…にゃ〜」
周りを見渡す。周辺に人はいない、なら…少し、少しくらいなら。
「……にゃ、にゃ〜」
猫の可愛さに脳でも溶かされたのか?と思ってしまう。だが、どうにも気持ちが昂って……
「…あなたが良ければ、もう少しここで一緒にいる…にゃ」
自分でも何をやっているんだろうと頭を抱えた。しかし、そんな私に対して猫は嬉しそうに擦り寄ってきた。
「にゃぁ〜」
「…ふふ、可愛い。にゃ〜、にゃ〜」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「いや、誰よりも可愛いの君なんだけど!?」
あまりの尊すぎる光景に声が出ちゃった。急いで口を塞ぐ。…俺の声が聞こえたのか芽吹は辺りを見回している。気のせいだと判断したのか、視線を猫に戻していた。
芽吹が座っている位置から、そこそこ離れている草むらから観察中。
(ヨシっ!……いや、ヨシっじゃねぇ!なんだ!?なんなんだ、あれは…あの、可愛すぎる空間は!?)
電話が終わって戻ろうとした俺が目にしたのは、猫と戯れていた芽吹だった。そこまではいい…
(問題は!芽吹がニャーって言ってた事だ!なんだありゃ!?可愛すぎるだろ、一瞬心臓止まったぞ普通に!)
「ママ〜あそこに不審者さん〜」
「そうねぇ〜不審者さんね〜」
何とでも言いやがれ。この光景を見ていられるなら、俺は不審者にでも犯罪者にでもなってやる(もうなってる事に気づいていない夕矢くん)
にしても、どうしたもんか。そろそろ出ていった方がいいの分かってるんだが……しょーじきこの光景もっと見てたい。
今俺は、モーレツに自分の欲望を優先したい。
『にゃ〜』
『…来ないわね、あいつ。話、弾んでるのかしら?』
…落ち着け、芽吹が待ってるじゃないか。愛する人を待たせるとか、良くないよ?うん。よし、やっぱり合流を
『みゃぁぁぁ』
『そうね、待ってるって言っちゃったし…しっかり待っててあげましょ。あなたとも、もう少し一緒にいたいからね』
えっ、何、芽吹って猫と会話出来ちゃうの?えー、何それ可愛い、付き合ってくれ。
やっべー、己が欲望に負けすぎて全然出ていけねぇ…どうしよ、でも…早く決めねぇと。
〜5分後〜
「んー」
〜10分後〜
「ん〜、にしても芽吹の横顔きれ…って、寝てるぅ!?!?」
アホみたいに悩んでいたら、視線の先にいる芽吹が猫と共にスヤスヤと眠っていた。疲れが溜まってたのかな?ふふ、可愛い…じゃねぇ!!!
「まずいぞ…芽吹みたいな可愛くて美人で可愛すぎる子があんな所で寝ていたら…」
確かに、今は早朝だからそうそう人なんて通らないんだろうがもし通ったら…。
「俺だったら襲うわ」
いや、まぁ嘘だけどね?まぁ…嘘なんだけど…
「……(シャッター音)」
満足するまで自身のスマホに思い出を詰め込んでいく…うん、素晴らしい。
ふぅ、家宝にします。ありがとう芽吹…。ありがとう、神様…ありが…。
「ん?」
目を離した隙に、ベンチからは芽吹だけでなく猫の姿も消え去っていた。
「あれ?芽吹…がいない?あれ?」
「ふふ…随分遅いと思ったら」
頭をガッツリ掴まれる。ヤバイ、頭、ワレソウ。てか、いつのまに俺の背後に?さっきまで…ベンチで寝てたよね?
「あの、これは…ですね」
「立て」
「…へ?」
「立ちなさい、アホ夕矢」
はい…と静かに頷いてから立ち上がる。明らかに怒ってた、もはや阿修羅。でもそんな芽吹も可愛いと思ってしまう私はダメな男でしょうか?
さっきまで芽吹と一緒に寝ていた猫ですら、俺に向かってシャー!っとキレてきてる。ちょっと泣きそう。
「どこから見てたわけ?」
「どこから…とは?」
そんな事言わずとも分かるでしょ?っと言いたげにこちらを睨む芽吹さん。
「い、今来たばかりで…」
「嘘」
「……」
あれ?不思議だ…芽吹に怒られるのって…すごい良いかも…(夕矢くんは新たな嗜好に目覚めた)
「もう一度聞くわ。いつから見てたの?」
「芽吹が…ニャーって言った辺りから…」
「そう…なるほどねぇ」
と、急に一歩下り…蹴りの素振りを行う芽吹。相変わらず綺麗だ…ただ一つ問題点があるとするなら…狙いが俺の頭に向かってることぐらいか。
「あの、芽吹さん?」
「何?」
「貴女様の足が私の顔面目掛けて飛んできそうなんですけど…これはどういう?」
俺の質問に対し、芽吹は笑顔だけを返してくれた。出来れば、俺の質問に対する答えも返して欲しかったです。
「……許してくれぇぇ!芽吹ぃ!!悪気があったわけじゃ…ごふっ(チーン)」
言葉が言い終わる前に、芽吹の蹴りが俺の顔面を直撃した。そのまま、俺は意識を失ったという。
「おっと失礼、このマシン(足)の使い方…私知らないのよ」
なんて言ったかは聞こえなかったが…めちゃくちゃ怒ってるのだけはよく分かった。
ーーーーーーーーーーーーー
「芽吹可愛いぃぃぃぁぁ!!……はっ、ここは、俺の部屋…?」
おかしいぞ、俺…確か芽吹といつも通りランニングをしてたはずだが…いつの間に部屋に戻ってきてたんだ?
「あー、うー頭いてぇ…寝違えたか?」
なんか大事な事を忘れてる気がする。一人困惑していると、部屋のドアが開いた。入ってきたのは芽吹だった。
「おぁ?芽吹、どうした?」
「……」
何故か申し訳なさそうにしてる芽吹。なんか、あったのか?俺と。
「その…夕矢、顔痛い?」
「ん、あぁ、なんか少し痛いな。でもまぁ、どうって事ないぞ、少しヒリヒリする程度だ」
「そう…」と短く答える芽吹。俺が首を傾げていると、何か意を決したかのように芽吹はこちらを真っ直ぐ見つめてきた。
「な、なんだよ…芽吹。さっきから変だぞ?」
「えぇ…確かにね。折角、あんたの記憶から的確に『あの黒歴史』を消せたのに…それを思い出させるような事をしようとしてるなんて」
黒歴史?記憶?消す?なんか知らんが恐ろしいワード勢揃いすぎでは?と、俺が困惑してるところに芽吹は…
「…にゃ、にゃー」
両手を前に出し、そんなもう可愛すぎる事してきた。その時、俺の脳内には一度は失われた記憶が…
「つ、強くやりすぎたし…これでチャラって事で良いわよね…まぁ、喜んでもらえるかは、知らないけど…あれ?夕矢?」
「……」
「お、おーい?夕矢?どうしたの?」
どうしたものこうしたもないさ…ただ、今の俺の胸には言葉では表現できない熱い感情が渦巻いてやがる。とりあえず、叫ぶか。
「ありがとう!!ネコメブゥ!!最高だぜぇぇぇぇぇぇ!!!……はぅ…(チーン)」
「えっ、ちょっ、夕矢……し、死んでる!?」
この後、二人で訓練に遅れた。
お し ま い
〜小ネタ解説〜
「おっと失礼、このマシン(足)の使い方…私知らないのよ」
映画、ガーディアンズオブギャラクシーにて、スターロード達が身元を確認されている場面で、スター・ロードがハンドルを操作するようなジェスチャーをしながら少しずつ中指を立てていくシーンがあり、そん時の台詞をオマージュしてます。
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この作品内のメブは、夕矢くんに対する飴と鞭の使い方理解しすぎじゃない?もう結婚してよ君たち。
あ、本編もその内あげますぜ!