この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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前回のあらすじ

アメリカから凱旋帰国を果たした黒井タクミは卑劣なる陰謀により脱税の疑惑をかけられてしまう。
高木の助けにより辛くも検察の魔の手から逃れたタクミは、不幸にも黒塗りの高級車に銃撃されてしまう。検察と養父をかばいすべての喧嘩を買ったタクミが、暴力団に言い渡した示談の条件とは…。

血祭りである。



嘘です!

世間は令和になりますがこの話は平成どころか昭和が終わりません。いつ平成になるんですかね。


誤字修正。五武蓮様、トゥリポン様、燃えるタンポポ様ありがとうございます!

追記
前回の被害者???:太宰治。人間失格過ぎて何しても影響が無かった。


この漫画のない世界で

「私にとって今も昔も変わらない。あの屋台村の小さなステージからずっと同じ」

「目標はただ一つ。タクミに勝つ。それだけよ」

 

~日高舞 決戦の夜を前にしてのコメント~

 

 

 

『見とけ。いいもん見せてやる』

 

 小さなステージの上。突然行われた勝負は当然のように黒井タクミに軍配が上がった。

 当然の結果だろう。特にトレーニングも積んでいない一般人の少女が、既に世界でも有数の歌い手であると認識されている人物に太刀打ちできるわけがない……普通に考えれば。

 

『いいものって、なによ』

 

 ただ二人だけ。この勝負の結果に余人とはまた別の感想を持った者たちがいた。

 

『お前さんがやりたい事さ』

 

 勝負を行った黒井タクミと日高舞。この二名にとってこの勝負の結果は必然ではなかった。

 日高舞は自身が敗北を認めている事に驚いていた。これまで歌で自身と勝負になる同年代の相手は居なかったし、多少世間で騒がれている人物だろうと自分ならば勝てると踏んで……そして、勝負を仕掛けてまるで歯が立たなかった。認めざるを得ない完敗を喫したのだ。

 

『なにそれ。いみわかんない』

 

 悔しさを滲ませた彼女の声に、タクミは少しだけ笑顔を浮かべた。もう一人、違う感想を持った者……タクミはかつて、高木に誘われたプロポーズ紛いの言葉を思い出していた。高木が初めてタクミを見た時、彼はこんな感情を抱いていたのだろうか。ふと心に浮かんだ疑問につい笑ってしまったのだ。

 

 この娘は化ける。仮に彼女と自分のスタートラインが同じならば或いは負けていたかもしれない。そう思わせる何かが確かに感じられた。巨大な原石が自ら磨き上げられていく姿をタクミは正に目にしているのだ。

 

 居るじゃないかこんな所にも。マイコーを見た時と全く同じ感慨を覚えながら、タクミはん、と小さく頷いた。

 

『次のライブ、家族と見に来な……月までぶっ飛ばしてやるからよ』

 

 くしゃり、と舞の頭を撫でつけ、タクミは彼女の手を握った。取り合えずは彼女を親御さんに預けなければいけない。細かい話はそれからだ。

 

 

「ちょっと、とうさん。かあさんもすわってよ!」

 

 1週間後。日高舞は両親に連れられて武道館へとやってきた。大きなタマネギの形をした屋根の下。場内にひしめく人、人、人の群れ。舞達は関係者枠として取られていた席をあてがわれ、案内役だという右肩を赤く染めた青年に連れられて会場内へと入る。

 

 舞の両親は初めてのライブ会場にキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡し、屈強な体をした外人たちの中で目を白黒させている。不安そうな両親を、舞はため息をつきながら席に座らせた。

 

『素晴らしい。タクミの言った通りの娘だ』

 

 それを側で見ていた赤い布を肩につけた外人が、小さく拍手で彼女の行動を讃える。スタッフも兼任しているらしい彼は黒井タクミに日高家の面々を案内するように申し伝えられているらしい。タクミはどうしたのかと尋ねたらたどたどしい日本語で「ライブ前は忙しく時間が取れない」と返答された。

 

「なによ。じぶんでよんどいて」

 

 言っている言葉は分からないが、彼が舞を褒めているのはわかる。少し頬を赤くして、舞はそれを誤魔化すように口を膨らませて席に座る。

 ライブは間もなく始まろうとしている。

 

 

 

 騒がしかった会場の電気がいきなり全て落ちる。ざわり、とどよめきの声が響く。もしかしたら停電か? こんなタイミングで?

 会場中ざわめく声が広がる中、急にステージ上に光が集まる。奥のスクリーン、表示される文字……

 

装甲騎兵ボトムズ( Armored Trooper Votoms)

 

 その文字が日本語と英文で表示された時、会場の、とりわけ端の方に座っていた赤肩の人間たちが歓声を上げた。彼らにとってその文字は日常的な物だ。何せ毎日聞く大事なレコードが入った紙に記された物語。ボトムズ親衛隊(レッドショルダー)なら当然のように持っている全てのレコードに記された物語のタイトルなのだから。

 

 鳴り響くホーンサクションの音。ドラムとベースに彩られたメロディに合わせてスクリーンの中でアニメは進行する。緑色のロボット、スコープドッグが銃を撃ち放ち、戦場を駆け抜け、破壊し、破壊される。音楽の終わりと共に戦闘は終了し、一機のスコープドッグがクローズアップされ、コックピットが開かれ……

 

 

『ハロー?』

『『『ハロー、タックミー』』』

 

 開幕の声が会場に鳴り響いた。

 舞台の上には、気付けば4人の男女の姿があった。オレンジ色で統一されたパイロットスーツにも似た服を付けた4人組……髪をピンクに染めたジェニファー・ヤングがギターソロを挨拶の様に行い始めると、ニール・カリウタが全周囲にセッティングされた砦のようなドラムを縦横無尽に叩き、キャロル・ウェイマスがその二人の演奏をまとめ上げるようにベースでリズムを作り出す。

 

 そして、中央に立つ一人の小さな少女の姿。仲間たちの演奏を背後に聞きながら、マイクを右手に持ち、長いクセ毛をゴムでまとめたその少女は挨拶に対して良い声で返事をした一群……赤肩の一群を指で指してウィンクを一つすると、マイクを口元に寄せる。

 

『日本の皆さん、ただいま。声が小さいね、ハロー?』

『『『ハロー、タックミー』』』

 

 笑うようなタクミの声に、赤肩の人間だけでなく前列に座った客も反応を返した。だが、それに対して彼女はまだまだご機嫌斜めらしい。渋い顔で数回首を横に振り、クイクイっと2階席を指で挑発する。

 

『日本人1万人がたった200人に負けるの? ハロー!』

『『『ハロー、タックミー』』』

『エンジョイ&エキサイティング。忘れちゃだめだよ?』

 

 会場中の空気を無理やりボトムズの熱気に染め上げて、タクミはにやにやと笑みを浮かべる。

 

『そうそう。多分新聞を見てる人は知ってると思うけど、今日はTVとラジオの放送もやってるから。ライブに来れない人はこっちでよろしく』

『『『オーケー、タックミー』』』

『オッケー! まぁ、本当はライブにTV入れる予定じゃなかったんだけどさ。ちょっと色々あったでしょ? あれで私も思う所があったんだよね』

 

 困ったような口調で話すタクミの言葉に、少しの間会場が静かになった。日本中を巻き込んだ騒動からまだ2週間も経っていない。また、この場に居る者にとっても決して他人事とは言えない話だ。当初はライブ自体が取りやめになるとまで言われていたのだから。

 

『後から話を聞けばさ。日本中の他の歌手なんかも同じような目にこれまで合ってて、たまたま私が反抗したから事件が大きくなっただけで今までにも似た様な形で色々あったらしいんだ。慣例って扱いでさ。どれだけ売れても自分には喫茶店のアルバイト位の給料しか入らなくて、マネージャーやプロデューサーがお金を吸い上げてるってのもあった。慣例だからってさ。おかしいよね?』

 

 問いかけるようなタクミの言葉に、黙りこくっていた会場の中からもちらほらと賛同の声が上がる。今回の事件は報道関係が包み隠さずに内容を発表させられた為、予想以上に国民の混乱は無かったらしい。道徳的にも法律的にもどちらに非があるかが分かりやすい事もある。

 

『ありがとう。私もおかしいと思うから、二度と私の邪魔をしないように今回思いっきりやったし多少は風穴開けられたかなって思ってる。それでね。TVやラジオを入れたのは、ちょっと言いたい事があったからなんだ。多分、私と似た様な目にあった人って他にもいると思うから……慣習だとか古くからの習わしとかさ。大事なものかもしれないけど、おかしいと思ったら。苦しいと思ったら。声を上げる必要があるから。戦う必要があるから』

 

 TVのカメラに向かって視線を送り、タクミは小さく息を吸って、吐いた。

 

『この世界のどこかで今も戦っている貴方に捧げます。聞いてください……【ファイト!】

 

 

 

「めちゃんこ臭い事をした。おいは恥ずかしか! 生きておられんごっ!」

「いや、良いライブだったと思うぞ? TV局やラジオ局にあの最初の歌は何なのかって問い合わせが来ているみたいだ」

「うわ恥ず。恥ずか死しそう」

 

 介錯してほしかったんだがクロちゃんから素で返されてつい赤面しちまうというね。その後の歌は普通にアメリカでヒットした曲やSUKIYAKIしたりしたんだけど誰も彼もが最初の歌は何だったのかと聞くんだ。そう言えばニューミュージック的な歌ってこの世界無いんだったか。

 

 ライブ自体は大成功と言える出来だったろう。何か後半曲がかかり出した瞬間からウェーブが客席で起こったり(見たら赤肩の連中が指導してた)してたし。流石に武道館で客席ジャンプする気はなかったからやらなかったけどこっちもちょっとテンション上がってたから「お前らロックンロールは好きか?【I Love Rock 'n' Roll《私は大好きだぜ!》】」とか披露するつもりもない新曲まで出しちまった。合わせてくれた他のメンバーには後で怒られたけどね。

 

 いや、言い訳的に言うと一曲目には空気読まずに言いたい事詰め込んだ歌を用意しちゃったからさ、2曲目以降はいつも通りロックンロールに行ったとしても途中で新曲も織り交ぜておいた方が受けがいいと思ったのよ。実際盛り上がったし日本のセールスにも期待が出来るしな。

 

 ライブ自体は3時間くらいで終わったんだけど終始観客は立ちっぱなしだったし乗りまくってたし終わった後にアンコール叫んでる連中は皆ガラガラ声で「ア”ン”コ”ール”! ア”ン”コ”ール”!」って叫んでたし。アンコールにはちゃんと答えといたよ。一度武道館で【ジョニー・B・グッド】を歌ってみたかったからね……米国に戻ったらチャックさんっぽい人に曲借りたって言っとかないとな。

 

「そういえば何人か面白そうなアーティストが来てたな」

「楽屋の話? あの武田ってお兄ちゃんは良い感じだったね」

「ああ、彼は日本では珍しくロックの知識を持ったアーティストだ。どうだ、お眼鏡に適ったか?」

 

 前世では聞いたことない名前のアーティストだったが……いや、プロデューサーかな? ギターを背負っていきなりやってきて「是非、一曲聞いてください」と言ってきたのには驚いた。いや、パッパが招待した人らしいから良いけど初対面の10歳の女の子に土下座の勢いで突っ込んでくるのはちょっとびっくりしたわ。

 

「評価で言うなら今は7点かな? 10満点で」

「ふむ……内訳は?」

「あの人自体は歌う人じゃないね。作曲も作詞も良いしギターも良かったからそっちに特化した方が絶対いいと思うよ」

 

 下手な訳じゃないが少なくとも彼の歌では米国の16傑には残れない。が、そんなものを補って余りある位に作曲のセンスが良かった。本当に日本で活動しているアーティストなのかってくらいにね。

 

「そうか。なら彼とはこれからも懇意にしなければな」

「うん。日本での作曲はあの人に任せた方が良いかもね」

「それを歌うのはあの娘、だろ。驚いたぞ、タクミ」

 

 感嘆の声を上げるパッパにだろう? と笑みを返す。思い返されるのはライブが終わった後の楽屋裏の風景だ。私のライブはどうだった? と尋ねると舞は小さく「……たのしかった」と答え、そして私を睨みつけた。今思い返してもつい笑ってしまう。

 

「『5年で追いつく』か。私のライブをみてこのセリフが出るんだからヤバいね」

「しかも8歳の女の子が、な」

「私とクロちゃんが出会った時の年齢だね」

「……まだそれだけしか経ってないんだな」

 

 感慨深げに呟くパッパにそうだね、と返して外を見る。今回の日本帰国はビザの関係やらで行われたものだったが、蓋を開けてみればまぁ大概でかい騒動に巻き込まれることになっちまったし予定していた漫画関係の人材の確保も出来ないしで踏んだり蹴ったりの内容だった。

 けどまぁ、日高舞や武田蒼一と出会う事が出来たという事は結構なプラス要素だろう。

 

 スターのいない業界は育たないからな。20年ばかり遅れちまったが日本のポップスが花開くこの瞬間に才能に溢れた人材がいる。間違いなくこれは幸運と言えるだろう。私もポンポン日本に帰れる訳じゃないしね。

 

「ま。その辺りはとりあえず置いとくか。でもアメリカ帰りたくねぇ……せめてアニメか漫画の芽だけでも作らないと何しに来たかわからねぇ」

「それなんだが……コミックは確かに凄い人気だが、日本でも出来ると思うか? 子供の頃に貸本を読んでいた事はあるが、大人になればわかる。あれで生活できる作家何て稀だぞ?」

「出来ぬ出来ぬは努力が足りぬってね。アメリカで出来るって事はシステムがあるって事。それを日本の事情に合わせるのはこっちの腕の見せ所だし……何よりも私が見たいんだよパパ。日本にさ、コミック文化が芽吹くところを」

 

 実際に貸本という非常に限定された商売形態でも一時期はそこそこ流行る事が出来たのだ。最低限の需要はあるし、実際に印刷業界自体はまだまだ強い。ネットが普及する前に強固な体制を作らないと漫画文化が芽吹く前に終わりそうだし……何だかんだ私は日本の漫画が好きだ。アメコミも良いけど、日本の漫画は日本でしか作りえないし、私が見たいのは日本の漫画とアニメなんだ。

 

 そんな掛け値なしの本音を受け取ってくれたのか。パッパはそれ以上は追及せず、「コミック分野を会社の中に立ち上げる。後は声優だな」とだけ言って黙り込んだ。すまんねパッパ、暫く採算は取れないだろうけどその分私が頑張るし、後々デカくなるのは間違いない分野だからさ。

 

 しかし重ね重ね惜しい。せめてこの漫画分野でもどっかにレジェンド落ちてねぇかなぁ……わがまま言いたかないが正直手塚神位の人が居ないとキツイ。どっかに居ないかね、漫画を描くことに情熱を燃やし続けて未だにくすぶり続けてる超人。

 

 というか手塚神どこに居るんだ? 出版関係を高木さんに当たって貰って探してるけど全然情報ねぇぞ。貸本は書いてなかったのかな?

 

 一先ずは新しい会社関連で出版系の部門をこさえて、そこで細々と日本の漫画をスタートするしかないだろうか。しょうがないなー。これはもうしょうがないわ。ボトムズ連載しちゃおう。

 

 後は適当にそこらの生活に困ってる貸本作家を札束ビンタして頭数確保して漫画雑誌創刊を目指そう。それとスタンの爺様に許可貰って日本版スパイダーマンって事でのれん分けしてもらうか。

 

 これならあくまでも分家。無許可でやってる他所の国よりは100倍マシだし厳密には別系統の作品って事でレオパルドン使っても文句は無いだろう。冒険王版ガンダムみたいにコミカライズで作品の印象が宇宙にぶっ飛ぶ事なんて稀に良くあるんだしね。

 

 人気が出るかはわからないけど1年位したら特撮実写化して巨大ロボが巨大化した敵と戦う作品を作るんだ! 凄いぞーカッコいいぞー! 戦隊物のロボアクションの試作にもなるしね。

 

 というか特撮系も早めに手を付けないと手遅れになりそうだから焦ってるんだよ。戦隊物もライダーもメタル系も無いし……この世界だとスパイダーマンから戦隊物とライダーが派生するのか。改めて言葉にするとヤバいな。

 

 私の最推しのドギー・クルーガーの初出がパワーレンジャーになるなんて嫌だからこちらも人を探さないと。私が200人位いたら全部やれるけど流石にそこまで人間やめてる訳じゃないし……影分身できないかな?

 

「やりたい事が多すぎるよクロちゃん! どこかに忍者マスターは居ない? ブンシン・ジツが必要だよ!」

「素直に人に任せる事を覚えなさい。何でも一人でやれるのはそれこそ漫画か映画の主人公くらいだろう」

「そうも言いたくなるようなこんな世の中だよ……」

「その年齢で世を儚むなよ。最近俺は毎日が楽しくて仕方ないぞ。むかつく事もたくさんあるが……な。さ、着いたぞ」

 

 苦笑を浮かべてパッパは車を止める。東京での宿にしている実家……げふんげふん。銀さんの家にたどり着いた私たちは荷物を抱えて家の中に入っていく。いやぁ、実家のように安心できる空間だぜ。正直生まれた家よりもこっちの方が実家って感じがするんだよね。銀さんが居るし。

 

「ただいまー! 銀さん銀さん見た? 私のライブどうだった!」

「落ち着け、タクミ。失礼します」

「おお、お嬢お帰り。丁度良かった」

 

 ライブも疲れたしやっと癒しの空間だぜ、とばかりに実家に駆けこんだ私を、居間に居た銀さんが顔を笑顔にゆがめて見る。玄関をくぐった時には気づかなかったが来客中だったらしい。

 

 もう夜の9時なんだけど。この時代に珍しいな、と思いつつ抱えていた荷物を足元に置いて来客者らしい二人の男性に頭を下げる。随分とボリュームのあるクセッ毛の眼鏡を付けたお爺さんと、同じく眼鏡をかけた片腕のお爺さんだった、はて、こんな年配の知り合い、銀さんの交友関係にいただろうか。

 

 首をかしげていると、銀さんがちょいちょい、と手招きをするのでそちらに行く。来客が居なきゃハグるんだがな。しょうがない、隣にちょこんと座る事で我慢しよう。

 

「この子がタクミです。タクミ、こちら小野島さんと武藤さん。お前に用事があったんだと」

「うぇ? あ、ども。黒井タクミです……あの、どういったご用件でしょうか?」

 

 ますます状況が分からない私は、一先ずそう挨拶をして二人の様子を窺う。二人組は私の様子をまじまじと見た後……いや、というよりも私の顔を食い入るように眺めた後、互いに頷き合ってペコリと頭を下げた。

 

「……小野島 章太郎と申します。東京で小さな出版社を営んでおります」

「武藤 茂と申します。売れない紙芝居や絵本を書いている爺です」

「はぁ……小野島さんと武藤さん。えぇと、どこかでお会いした事がありましたでしょうか?」

 

 これでも記憶力は良い方の人間だから、一度会っていれば何となく顔立ちは覚えている。特にこれだけ外見に特徴のある人物ならば尚の事覚えている筈だ。それが一切記憶にないという事は、少なくとも今生ではこの二人と私は会話をした事が無い筈だ。前世までは分からないが前世で縁の有る相手ならこちらの事を向こうが知る筈がない。顔立ちから年齢まで全て変わっているのだから。

 

 私の質問にまた彼らは互いに顔を見合わせる。何かを悟ったかの様子に眉をひそめながらそれを見ていると、意を決したように小野島さんが口を開いた。

 

「30年ほど前の事ですが、私と武藤さんは貴方にお会いしたことがあります」

「……は? ええと、私はまだ10歳なんですが」

「ええ。恐らく貴方自身ではないのでしょうね。しかし、私と武藤さんは間違いなくその顔に見覚えがあるのです……」

 

 そう言いながら、小野島さんは震えるような手つきで鞄の中から茶色い封筒を取り出した。分厚い。恐らく数百枚は紙が入っているだろうそれから、小野島さんは震えながら中身を取り出す。

 

 それは、漫画の原稿だろう。私が知っている洗練されたものではない、随分と古臭い構成のものが見て取れる。同じように武藤さんも自分が持った鞄から封筒を取り出す。こちらは随分と大きい。どうやら紙芝居につかう物らしい。

 

「30年前。映画監督になりたいと上京をしようとした私に貴方の姿をした誰かが枕元に立ちこう言ったのです。お姉さんは体が弱い。彼女に可愛がられているのにそれを見捨てて上京してしまうのか、と。その言葉に私は姉の為に地元に残りました。姉の死に目を見る事が出来たのは貴方のお陰です」

「私は彼ほどの事ではないが、アパートを価値がある内に売り払って別の物件を買うべきだと言われてね。お陰で子供達にも不自由させずに済んだ。お礼という訳ではないが、こちらを言われた通りに持ってきました」

 

 二人の作品を手に取り、何も言えなくなった私に対して、彼らはそう言葉を続ける。違う。それは、私じゃない。だけど、でも。これは!

 手の中にある作品。『サイボーグ009』と『墓場鬼太郎』と彼ら二人を延々見比べながら、私は何を言えば良いのか分からずに体を震わせた。

 この世界における石ノ森章太郎と水木しげる。かつての世界の伝説が今、私の目の前に居る。




日高舞:5年後なら戦えると決意。高木さんの元でアイドル修行開始します。

ボトムズ親衛隊(レッドショルダー):タクミ負傷の方を聞いた瞬間に日本に旅立った200人。しょうがないので全員分の滞在場所を確保する運営(高木)。代わりにスタッフ代わりに1月こき使った。

ファイト!:中島みゆきの名曲。他人を応援するのではなく自分を奮い立たせてほしいという意味合いで歌われた歌。

I Love Rock 'n' Roll:女性ボーカルのロックならコレという人も多そうな名曲。

ジョニー・B・グッド:チャック・ペリーの名曲。この世界にも彼は居ます。因みにタクミの言葉の元ネタは『GS美神極楽大作戦』の横島の悲願「死ぬ前に一度、全裸美女で満員の日本武道館でもみくちゃにされながら「ジョニー・B・グッド」を歌ってみたかった」から

武田蒼一:原作アイマス世界の大物音楽プロデューサー。日高舞とは同じ作品出典。原作よりも大分早く接点が出来たので彼女の歌は全て彼が作る事になるかもしれない。

ドギー・クルーガー:特捜戦隊デカレンジャーの上司。『百鬼夜行をぶった斬る! 地獄の番犬 デカマスター!!!』

件の二人に関しては何も語りません。次の話でも出る為です。




クソ女神さまのやらかしてない日記
クソ女神
「ウィリアムテルごっこ? いやいや普通に奥さん死んじゃうわよ! お酒に飲まれちゃダメでしょ!」

「お酒は止めたのにドラッグを始めた。あれ、悪化してる……?」

タクミ
「ドラッグエリートさんは酒か薬か愛が無いと止まらないから。お前の言葉に愛が無かったんだろ?」

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