この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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大分難航しました。
今回の二人は本当に難しかった。


誤字修正。五武蓮様、じゃもの様ありがとうございます!


この特撮のない世界で

「私は確かに魔法使いと呼ばれてるが本当の所は少し違う」

「私に魔法を与えてくれた魔法使いは実は別に居るんだ」

「そう。皆が大好きなあの小さな大魔法使いさ」

 

〜スティーブン・ウォズバーン 自伝『魔法使いと呼ばれた男』より抜粋〜

 

 

 

 それは、酷い出来栄えのものだった。

 

 どこから持ってきたかも分からないようなカメラ一つで撮られた映像は所々ぼやけているし、ブレまくっている。恐らく途中で何度か素人が撮っているのだろう。明らかに場面によって精度が違うし、何よりも見づらい。

 

 音声もチャチいし場面場面で流れてくる音楽も恐らくプロではない。楽器を扱いなれている素人……恐らく近くの学校の音楽室かどこかで録音されたそれは幾らかの雑音混じりに簡略化されたBGMを垂れ流している。何よりも俳優が明らかにド素人で芋臭いのだ。唯一見れる演技をしているのが人手不足か博士役を兼任している監督だって所が、更に人材不足を匂わせてくる。

 

 尺も短い。テープかカメラの限界だったのだろう、1時間程度の中途半端な時間で映像は終わった。もしもこの場に映画関係のプロが居たとしたら、監督の熱意と工夫だけで誤魔化して作られた短い娯楽映画。それがこの映画を表する言葉になるだろう。

 

 

 でも、それはゴジラだった。

 

 

 近くの学校の体育館。カーテンを全て締め切った即席の映画館。ワイワイと子供や大人、中には老人までが集まってその映画の動きに言いたい放題に言葉を付ける。中には当時俳優をやっていたのだろう、40を超えただろうオバサンが昔の私は綺麗だったと画面を指さしながら嘯いている。

 

 そんな和気あいあいとした空気の中。最前列でその映画が映し出されるお手製のスクリーンを見ながら……私は……

 

「酷い出来でしょう」

 

 私の隣で車椅子に座りながら、この映画の作り手の老人は静かに語り出す。20年前。何かに取り付かれたかのようにこの映画を作成した時、手伝ってくれた友人と試行錯誤しながら何とか映画の形に整えた。自分の趣味の為だけに使えるお金を少しずつ工夫しながら、数年の月日をかけて。地元の住民も参加したり、高校の吹奏楽部に演奏を頼んだりと色々な人に助けられて完成したそれは、愛すべき地元の名物の一つとして受け入れられている。

 

 それらの苦労話を語る老人は、よぼよぼの顔をくしゃくしゃにして笑いながら楽しそうにこの映画について語ってくれた。嬉しそうに……少しだけ寂しそうに。

 

「この辺りの子供たちは、皆これを楽しい、楽しいと言ってくれます……こんな着ぐるみビデオの、延長線みたいな出来の映画を……」

「……とても、良い出来だと思います」

「ハハッ……そう言って、いただけますか」

 

 絞り出すように答えた私の言葉を、どう受け取ったのか。

 老人は、画面を見ながら静かに語り出した。

 

「今でも思います……あのまま、東京に居れば……私はどうなっていたんだろうと」

「…………」

「……この作品を見て……泣いてくれたのは貴方が初めてです……」

 

 ボロボロと涙をこぼす私に、老人は震える声でそう口にした。

 胸の中を駆け巡る感情が何なのか、私にも分からない。もしかしたら懐かしいとも、悲しいとも、嬉しいとも判別できない不自然な心の動きに、自分自身が困惑しながら私は目元を拭う。

 

 前世を少しだけ、思い出してしまった。父親に手を引かれながら、暗くなる映画館の中。古い映画ばかり流す寂れた映画館で、買ってもらったジュースをちびちびと飲みながら、私は暗くなっていく館内で父親の腕にしがみついていた。白黒の画面に怖いと思ったのは、多分あれが最初で最後だろう。

 

 そうか。私は、今。寂しがっているのか。

 

 孝行できなかったなぁ……親不孝者でごめん。父ちゃん、母ちゃん……また会いたいよ。

 

 

 

「お受けいたしましょう」

「父さん!?」

「良いんだ一郎。来るべき時が来た。それだけなんだ」

 

 これをこの地方に埋もれさせるわけにはいかない。是非ともリメイクし全国、全世界を相手に。出来れば監修をお願いしたいが、それが無理でも知恵だけでもお借りしたい。流石に一人では歩く事もままならない円城さんを第一線に連れていくのは対面した時に諦めた。だが、彼の脳内に収められた戦前に発展していた特撮技術の全てと、このゴジラ作成の際の苦難と工夫はいくら金を出しても惜しくない代物だ。

 

 その私の言葉に、ご子息の一郎さんは難色を示した。待遇についてではない。体力的に考えても90を超す老人に頼む仕事内容ではないと、父親の身を案じての発言だった。その正論に私は納得し、対案を出そうとした時。円城さんは一郎さんを手で制して、私の頼みを最大限聞き入れる形で承諾してくれた。

 

 だが、それはそれで私にとっても予想外だった。私としては設備を整えやすい東京付近で撮影を開始するのが望ましいが、福井に撮影所を新設してそちらに様子を見に来てもらうという予定で算盤を弾いていた。あくまでもオブザーバーとして、後進に知恵を貸してもらう。そのつもりだったのだ。

 

「円城さん、それは」

「皆まで仰いますな。言いたい事は、分かっております」

 

 いくら何でも、90を超えるご老体に東京まで出て貰って、しかも体力のいる撮影現場での指導を行わせるなんて無理だ。間違いなく命を削る事になる。私が口を開こうとした時、円城さんは一郎さんを止めた時と同じように手で私を制した。

 

「確かに、東京まで出向くのはこの老骨には辛いでしょうな……」

「それなら」

「しかし、それでも急がねばなりません。恐らく儂はあと1年生きれるかどうかでしょうからなぁ」

 

 のほほんとした表情を浮かべて自分の死期を語る円城さんに、流石にその冗談は笑えない、と口を開こうとして私は息を止めた。目の前の、90過ぎの老人は。歩く事も儘ならない筈の老体が、居住まいを正し、私にゆっくりと頭を下げたからだ。

 慌てたように父を助け起こそうと動いた一郎さんに、「触るなっ!」とそのやせ衰えた体のどこから出て来たのかという声を上げて、円城さんは顔を上げる。

 

「この老体にはもう時間がありません。もはや悠長に待つ時間は、ないのです……どうか。どうか……」

「……父さん」

 

 震えるように頭を下げる父の姿に、一郎さんは呆けたように眼を見開く。父のそんな姿を見た事もないのだろう……部外者である私よりも、親族である彼の方がショックは大きいのかもしれない。

 

 その姿を目にしながら、私は頭の中で算盤を弾く。この話は私としてはメリットしかない話だ。何せこちらの世界では発明家になっていたが、その前は東京映画でブイブイ言わせていた実績持ち。公職追放の際に当時の一線級の人材が軒並み他職に行き壊滅状態の日本特撮業界に直接打ち込むカンフル剤としてこれほど適任の人は居ない。

 

 だが、この話をそのまま受け入れればこの人は確実に持たない。

 

 あと、20年……いや、10年早く私が生まれて居れば。十全な状態のこの人が作品に関わっていればどうなったか夢想してやまない。この人は、そんな人なんだ。

 

 ……そんな人が、私の様な小娘に頭を下げている。その知識を、その経験を残らず、余さず使い切る為に。最後の一瞬まで、燃え尽きる為に。

 

 頷かなければ、この人は這ってでも東京にやってくる。罪悪感に蓋をして、私は彼の言葉に頷きを返した。

 

「専門でドクターと看護師を常駐させます。世話役には私どもの社員をお付けします。ただ映画を作るだけに集中できる環境を……必ず」

「ありがたい。この老骨を最後まで動かせそうです……一郎」

「……親父……わかった。わかったよ……俺も行こう」

 

 父の顔を見た一郎氏は、何かを諦めた様な表情を浮かべた後さばさばとした顔になり、家族に話してくる、と一言断ってから席を立った。頭を下げてその姿を見送り、私は円城さんに向き直る。

 

 彼にどうしても聞きたい事があったからだ。そして、恐らく彼も私にそれを話したがっている。一郎氏の足音が遠ざかっていくのを目をつぶって確かめ、完全に離れたと判断してから私は目を開く。

 

「改めてご紹介をさせて頂きます。黒井タクミです。初めましてで、よろしいですか?」

 

 尋ねるような私の言葉に、円城さんは眼鏡の奥の瞳を少しだけ細めた後にふるふると首を横に振る。

 

「……それならば、私はこう答えるべきなのでしょうね。お久しぶりです、と」

 

 そう答える彼の顔は、何かを懐かしむような。悔やむような、複雑な表情を皺だらけの顔に浮かべていた。

 

 

 

 昔の伝手がある、という円城さんの言葉に従い東京映画へと事前にアポを取り、長時間のドライブは体に響くからと数日掛けて東京へ移動した我々を待っていたのは、予想だにしない人物だった。

 

「……英ちゃん」

「御無沙汰しとります……黒川監督」

「……よく、よくぞまた……また会えるとは、思わなかった……」

 

 日本が世界に誇る映画監督、黒川明。前世において世界の、と呼ばれた名監督と恐らく同一人物だろうその人に、車椅子に乗った円城さんが軽く頭を下げる。そんな円城さんの姿に、少しだけ過去に思いを馳せたのか懐かしむような表情を浮かべた後、黒川監督は自身が乗ってきた車に私達を案内してくれた。おいおい世界のクロカワ直々のお迎えかよ。円城さんやっぱり半端ねぇわ。

 

 回された車の車中で、早速黒川監督と円城さんは今回の上京の目的について話し合っていた。すなわち、戦後初の特撮映画の撮影と、特撮映画という分野の復活についてである。日本では廃れた分野を復興させるというその話に、思いの外黒川監督は乗り気であった。

 

 というのも、ここ最近の日本映画界は酷い不況の真っ只中にあるのだそうだ。半分くらいが私が理由なのでそぉっと窓の外を眺める。いや、私のせいというよりは前回の私の帰国の際。暴走した芸能界が悪いんだがな。

 

 それまで大物と言われていた人物は、どうしたって上層部。黒い部分と密接に関わる辺りとの付き合いが多かった。そして、実際にただ付き合いがあっただけでも結構なイメージダウンを受けるのは仕様のない事であり、それが元々落ち気味だった業界に止めを刺しかねない痛手になったのだ。完全な自爆だが、業界で真面目に働いてた人間にとっては洒落にならない出来事だった。

 

 そんな状況の中、どこからか大口のスポンサーを連れてきた元腕っこきの特撮技術者からの連絡があり、その内容が特撮映画の復活だった、と。成程、確かにこれは大物が出張ってきても可笑しくないか。本当に後が無いんだ。黒川監督が乗り気というのもあるんだろうけど。

 

 まぁ、そういう状況なら話が早い。どうぞ自由にやってくださいな。ここから先の私の仕事は精々、スポンサーとして何かあったら財布の紐を緩める位に留めて後は現場に任せて良い物を作って貰おう。

 

 というかまさか黒川監督が総指揮撮るとかじゃないよな? この人止めなかったら一回の映画に数十億つぎ込もうとするタイプの監督だぞ? 私は止めないけど流石に採算ベースに乗せないと続きが出せないんだが。フリじゃねーからな。

 

 この作品は、間違いなく映画史に名を遺す名作になるんだ。何十年だって語り継がれて、次の話も作られるようなそんな名作の、その土台に対して私は幾らだって投資しても惜しくはない。けれど、ただの金満映画を作るんじゃ意味がない。

 

 町を一個作ってぶっ壊したらそりゃリアリティは出るだろうが、そんなもん8分の1サイズでも近いことは出来るんだ。職人の手でどうとでもなる所に金を使うんじゃなくて、役者と機材と技術者に金をぶっこもうぜ。それらは次への財産になるんだから。

 

「……お嬢さん、黒井タクミだったか」

「ども。黒井タクミです。はじめまして」

「英ちゃん。とんでもねぇの捕まえて来たな」

「捕まえたんじゃない。捕まったんだ」

 

 黒川の言葉に円城氏がそう答え、室内に二人の笑い声が響き渡る。笑われたこちらとしては口をへの字に曲げるしか出来ないが、それすらも爺さん二人には笑いの種になるようで。いや、良いんだけどさ。気分良く仕事してもらえるなら。だからそのメモ帳に書いた主演:黒井タクミって名前を消しなさい。こっちはそんなに長く日本に居られないんだよ。代わりは用意しとくから。

 

 

 

「随分大盤振る舞いじゃないか」

「その価値はあるからね……あ、それロン。九蓮宝燈」

「はぁ!?」

 

 驚愕の声を上げるクロちゃんの点棒を根こそぎ略奪し、この半荘『も』私の勝利が確定する。転生してからこっち、やたらとピーキーなこの体で一番凄いのはこの阿呆みたいな記憶力と集中力だよな。まさかリアルガン牌出来るとは思わんかった。相手が何持ってるか、何を引くかまで文字通り全部見えるから勝負にならんな、これ。

 

 とはいえ、一度勝負の舞台に立った以上結果がすべて。さぁ、大人しく俳優を出して貰おうか。

 

「クソっ……はぁ。わかった、ウチが全面的に協力しよう。だが、東京映画さんのお抱えの役者も居るだろうに」

「そっちだけだと東京映画の味しか出ないでしょ。今回はさ、もっと色々な味を混ぜ合わせたいんだって」

 

 それに寄せ集めで出来た961プロは各俳優の色がそれぞれに分かれてるからね。システム的にそうなりやすいってのはあるけど。

 

「まぁ、その点はな。ウチは各タレントを中心にしたチームでやっているから」

 

 色々な味、という言葉に納得がいったのか。軽く頷いてクロちゃんがマージャン牌を片付ける。わざわざ私に勝つために通しまで使ってたのにごめんね、勝っちゃって。ふんすふんす。

 

「いや……流石は我が愛娘だと喜びも一入さ」

「その割には笑顔が引きつってるけどね?」

 

 ニヤニヤ笑いながらそう尋ねると非常に複雑な表情を浮かべてパッパが黙り込んだ。負けず嫌いと親馬鹿を同時に発動させてるんだろう、相変わらず難儀な性格の人だ。

 

 とはいえ今回はその難儀な性格に付け込んだ所もある。普通いきなり俳優数十人貸してくれとか言われたら笑顔で「無理」の一言だからな。何とか約束まで取り付けた以上、この人の性格からして必ず守ってくれるだろう。特に私との約束は。身内に弱いからなパッパ。

 

 まぁ、出来ると思ったからこの話を961プロに振ったってのもあるが。というのも、現状の961プロのタレントの管理スタイルがアメリカにある私の会社とほぼ同じなんだよね。

 

 どういうスタイルかというと、ものすごく簡単だ。会社の中にほぼ独立採算部署として各タレントが居る。以上。本当にこれだけなのだ。

 

 これだけだと流石に説明不足に過ぎるからマイコーを例にしてみると、彼女は私の会社に所属しているが、自分でうちの会社に所属しているプロデューサーやらスタッフやらと契約を交わしてチームを編成し、自分で自分が行う仕事を選び行っている。

 

 そして彼女が受けた仕事のギャラは一度全て彼女に支払われ、そこから施設の維持費やら諸々の経費が引かれ、大体9割位が手元に残る。CDの販売の時は流石に経費もデカいからもっと取ってるけど、ライブやTVの出演なんかは大体9割以上は手元に残る。

 

 そんだけ貰えれば大儲けだろう、と考えるだろうがそこはそう上手くいかない。スタッフに払う給料はチームリーダー、この場合マイコーが持たなきゃいけないからだ。彼女が選んだスタッフは彼女と同じく当然超一流。そのギャランティはかなり嵩むだろう。私もボトムズの他のメンバーにはそれぞれ利益の一割は渡してたし。

 

 基本的に会社からの給料という物は最低限のものしかなく、各自の仕事に関してはそれぞれのチームリーダーが契約したプロデューサーを介して行われている。

 

 それなら独立した方が良いだろうと思うかもしれないが、超大御所ならともかくそこそこ人気くらいならこっちの方が良いんだな。まず施設もそうだが、同じ会社内部のアーティスト同士でイベントも出しやすい。それに他のアーティストに来た依頼に一緒に参加させて貰うなんてのもある。

 

 スタッフを自分で選べるというのも結構な利点がある。大体の奴はまず数ヶ月契約を交わして仕事をして、自分と合うか合わないかを確認する。音楽性の違いで解散とかあるだろ。方便に使われてる時もあるが、あれ本当にプレイが合わないって場合洒落にならないんだよ。

 

 相手も自分もクオリティが落ちる上にイライラするからさ。最近はマシになったがこの世界、本当に誰も彼も血の気が多いから、気の合わない奴らで組ませて血を見る事になったらって苦肉の策だったんだが、思いの外この社内契約制度は上手くいってる。

 

 因みにこの契約に溢れた駆け出し連中にはこちらで駆け出し向けの仕事を割り当ててある。後は大御所連中の設営スタッフなんかに駆り出して場馴れさせたりとかな。大御所連中はそうやって駆け出し連中に経験を積ませたり、目に付いた若いのを引き上げる。駆け出し連中は現場の経験と周囲に顔を売る事が出来る。

 

 マイコーやジェニファーさんはこのシステムを『とても重要な事だ』と言っていた。二人は長年燻り続けてた経験があるから、新人へチャンスを与えるという事に凄く積極的だ。キャロルさんは長年の夢だという音楽学校の設立に向けて動いているし、ニールさんは自分のバンドのボーカルに見込んだ新人を参加させて活動を開始している。

 

 新しい風が吹き込まない業界に未来はない。それはこの20年の音楽業界の停滞を見れば一目瞭然だろう。

 

「その新しい風の為に、一肌脱いで欲しいんだが」

「あいよ」

「馬鹿。それはジャケットだろうが」

 

 唐突に話を切り出したパッパに渾身のギャグを返すもウケが悪い。可笑しいな、円城さん親子はゲラゲラ笑ってくれたんだが。

 

「で。何をすれば良いの?」

 

 まぁお遊びは良いかと椅子に座り直した私に、パッパは一枚の紙を私に手渡してきた。ええと、何なに……

 

「アイドルアルティメイト? なんじゃこれ」

 

 その紙に書かれたイベントの草案らしきものに首を傾げる私に、パッパは静かに告げる。

 

「このイベントに参加して優勝して欲しい。参加者全てに、圧倒的な差をつけて」

 

 剣呑な言葉に思わずパッパの顔を見る。いつも通りのクールぶったその表情は変わらない。だが、その視線には、少しの冗談も含まれていなかった。

 

「出来るか?」

「誰にもの言ってんの?」

 

 その言葉と視線についつい口角が上がるのを感じながら、私は努めて冷静さを保つ。参加者一覧に見知った名前を見つけ、先程から胸が高鳴って仕方がないのだ。

 

 どうやら予想より早く再戦する事になりそうじゃないか、日高舞。顔でも見てやるかとは思ってたが、あの原石がもう同じ舞台に上がって来たか。

 

 背中のすぐ後ろにまで追い縋ってきた成長した舞の姿を幻視しながら、私はニヤニヤとイベントの草案を眺める。曲は……あ、さっきの打ち子の二人バンドマンなんだ。じゃああの二人のグループに頼むか。流石にボトムズ招集はやり過ぎだろうしな。







クソ女神さまと多分タクミの日記

クソ女神
「私だって、頑張ってるのに」

「頑張る前にまず世間を見よう。な?」

クソ女神
「世間……」

「ほら、あっち。あの独裁者の寿命を刈り取って世間に貢献するんだよ! プレスリー早死させたの忘れてねーぞやれよ!」

クソ女神
「それ死神の仕事なんだけど」

「そこで冷静になるなら自分のやらかし前に冷静になろうや。後に尾を引きすぎだぞ」

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