この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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ご無沙汰して申し訳ありません。
ちょっと長くなったので切りの良い所で前後編にしてます。
後編は明日か明後日になると思います。

誤字修正。物理破壊設定様、にょんギツネ様、SERIO様、じゃもの様、sk005499様ありがとうございます!


このアイドルのない世界で

アイドルという職業が誕生したのはごくごく最近の話だ。

その言葉の語源は英語の“偶像”、“熱狂的なファンを持つ者”、“崇拝される人や物”を指す言葉で、最初に“アイドル”と評された人物に対して、黒井タクミがそう口にした事に端を発する。

この歯切れの悪い、あやふやな表現。これを『あの』黒井タクミが行ったのだ。

彼女をして、ミシェル・“マイケル”・ジャクソンはそう評するしかなかった。それほどまでに彼女は際立ち、そして、輝いているという事の証左と言えるだろう。

 

~とある雑誌の特集 “キングと呼ばれた女”より抜粋~

 

 

 

 ニューヨークのとある雑誌社が赤肩の連中に“平和的に”取り囲まれるという珍事が発生したらしい。何が起こったのかと連絡を取るとどうやらマイコーについての記事を記載していた雑誌で、私が過去に言った言葉が引き合いに出されていてそれについてMs.Mが激おこしてしまったらしい。

 

 割と赤肩でも温厚なM氏が激おことか何か変な事言ったかなぁと思い問題の記事の内容を確認すると、何の事は無い。私がマイコーをべた褒めした件が変に曲解を受けていただけだった。言った事は間違いないが、これはなぁ。ちょっと私のミスな気がする。

 

 いや、前世意識によるちょっとしたミスというかさ。前世の方なんだけど、日本だとアイドルって言えばアイドルとしか言いようがないじゃないか。そのノリでマイコーは歌手なのか、それとも踊り子なのかという変な疑問がどっかの番組で話し合われてて、馬鹿らしくて『いやいやあの娘はアイドルでしょ』とか言っちゃったんだよね。

 

 やたらとその言葉の響きが良かったのか、あれからマイコーの紹介を見る度に職業:アイドルって出てるし、本人も気に入ってくれてアイドルを名乗ってるからあんまり気にしてなかったんだけど。まさか数か月単位で遅れて火が付くとは見抜けなかったな。このタクミの目をもってしても。

 

『とりあえずMs.Mには私はマイコーの熱狂的なファンだから、そういう意味だよって言っといて』

『え、あの。タクミ、それは』

『んじゃよろしく!』

 

 アメリカに先に戻ったみのりんに電話口で一先ずの指示を伝えて電話を切る。本当はマネージャーであるみのりんにも来て欲しかったんだけど、あっちの業務も大概忙しくなってるし彼女は米国での私への窓口としての役割がある。今回の訪日はほぼ私の目的……一応対外的には趣味の為の帰国って事にしてる……の為なので、長々と彼女を付き合わせるのも難しいのだ。

 

 最初の数日はこっちでの仕事のあれやこれやがあるから961プロに二人して籠りっきりだったが、その後は1週間くらい休暇って事で実家に戻って貰い、休暇が終わった後はそのままアメリカの方に飛んでもらった。折角お給金も上がったんだし親孝行して来なさいと伝えたら泣かれて抱きしめられたのは少し困ったが、ウチは仕事より家族を優先させるをモットーにした健全な会社だからね。上がその辺りをきっちりしないと下で働く社員も困るんだ。

 

 と、少し話がずれてしまったが。まぁ、火消しの話である。火が付いた以上は誰かが鎮火しなければいけないし、正直めんどくさいんだが……燃やしてるのが私達のファンだからな。流石に無関係でござい、なんて顔はできない。

 

 Ms.Mは確かマイコーの事も詳しかったし恐らくファンだろう。共通の好きな者があって、その好きな者を褒めるつもりで言ったんだよ! って言っとけばそれ以上怒りはしない……しないよな? この世界の人間の沸点の低さは海のリハクじゃなくても読み違えそうだから正直怖い。

 

 最悪、急いでニューヨークに飛ぶかなぁとか思ってたら、この数時間後には円満解決という意味の分からない言葉が電話口から飛んできて別の意味で混乱する事になった。が、まぁこれは良い。ここは問題が起きなかったことを喜ぶべき所である。

 

 問題は、何故かマイコーがやたらめったら張り切って新しいアルバムの制作に色んなスタッフ巻き込んでどでかい事をやらかしそうって所なんだよな。電話口でみのりんが震えてたぞ。

 

 これショートフィルムじゃなくてマジのフィルム作るつもりなんじゃ? とばかりに豪華なスタッフとどこから用意したのか潤沢な予算を用いて、半年近くロケを行うとか報告が上がってきた時は食ってたそばを噴射しそうになった。マネージャー代わりに付いてくれてる銀さんが居なかったら多分吹いてたわ。銀さん、食べ物粗末にしたらマジで切れるんだ。

 

「ま、まぁマイコーがやるんだし……最悪ヤバそうなら誰かが止めるだろうしうん、向こうに任せよう」

「実際、予算のほとんどは彼女がかき集めてきたようだからな。大丈夫、だろう。多分……きっと」

 

 私と一緒に青い顔をして報告を受けていたパッパが、若干希望を込めてそう呟いた。否定はしないよ、私もそう信じたいからな。も、もしトチったらこっちから何とか助けてやろう。流石にありえないと思うが、今彼女がコケたら影響がデカすぎるなんてもんじゃねーからな。

 

 何せ、ボトムズの活動が抑えめになった所で代わりに台頭してきて、世論の流れを主導しているのは彼女……いや、彼女を筆頭にした新興のアーティスト達、“アイドル”なんだから。その旗印がこんなどうでもいい場面でミソつけられるなんてたまったもんじゃないぞ。

 

 

 

【〇月×日 日ノ本テレビジョン 大ホール】

 

 

 会場内の空気は、その華やかな外装とは裏腹に酷く重苦しい雰囲気を醸し出していた。

 原因は分かっている。メディア王とまで呼ばれている男、961プロダクションの黒井崇男が、961プロの要人を引き連れて会場内に現れたからだ。群がるように各雑誌社やラジオ局の人間が彼に挨拶をと近寄っていく中、近くを歩いていた一人の顔を見た黒井が「ふむ」と声を上げた。

 

 その場にいた人間たちの視線が集まると、その視線の先にいた人物もギョッとした表情を浮かべて彼らに気付く。そんな男に黒井は笑みを浮かべながら歩み寄った。

 

「やあ、日ノ本テレビジョンの……」

「こ、これは黒井さん……ご無沙汰して」

「ああ。確かに最近はどうもうちの会社からはあまりお世話になっていませんからね。顔を合わせる事も無くて当然だ」

 

 黒井崇男の言葉に日ノ本テレビジョンの専務はハハハと居心地悪そうに笑いながら額に伝う汗をハンカチで拭う。その拙い誤魔化しを詰まらなそうに眺め、黒井は取り巻くようについてくる人々を引き連れて自身の名札が置かれている席へと歩いて行った。

 

 彼の座る961プロ用のテーブルには、名プロデューサー兼アーティスト部門の部長として最近名を上げている高木順二朗などの961プロの重鎮や、関連会社であり発展著しい週刊少年飛翔を抱える小野島出版の小野島が座っており、これ幸いとファッション誌や週刊誌などの出版社の人間がひっきりなしに彼らに対して挨拶を行っている。

 

 彼等の反応も当然だろう。961プロはタレント保有数で言えば国内最大手。以前に起きた騒動の影響で実績と知名度が高いタレントも複数在籍しており、仕事の料金もタレントの格で変わるとはいえほぼ相場通り。大手事務所にありがちな圧力営業等も一切ない上に、何よりも所属するタレントの仕事へのハングリーさが他と段違いなのだ。

 

 961プロに所属するタレントは誰も彼もが非常に高いプロ意識をもっていると言われており、相場以上の仕事をタレントが『自主的に』行おうとする。特殊なマネジメント契約を行っている結果かは分からないが、その姿勢はここ最近失墜している芸能界の信用度を底上げし、共に仕事をする他の業種の人間にとっては非常に好ましく映る物だった。

 

 その結果、つい半年前まではTVやラジオ、雑誌等ありとあらゆるメディアで961プロのタレントを見ない日は無かった。いや、今現在も、ラジオと雑誌ではほぼ必ず961プロの誰かが仕事をしているだろう。

 一部の例外を除いて。

 

「……非常に不愉快だ」

「黒井……社長。余りそういう事は」

「気持ちは分かりますがね。トップの貴方が強く感情を見せてはいけない」

「……その通りだ、すまない。しかし……奴らのあの面を見たらつい、な」

 

 同じテーブルに座る高木と小野島が黒井を諭すように声をかける。二人の言葉に渋々とながらも頷いて、黒井は周囲を見やる。そんな彼の視線から、ついっと目をそらす人間たち。彼らはいずれも、TV業界の人間だった。

 

「無駄な事を。誰の得にもならない対立なんぞ起こして……」

 

 吐き捨てるようにそう呟いて、黒井は用意されていた温い水を口に含む。嫌がらせの一環か、カルキ臭のするそれに眉を顰めながら口を湿らせ、彼は舞台袖を睨みつける。彼の視線の先……そこには半ば巻き込まれるように対立の軸にされてしまった、哀れな大手プロダクションの社長の姿があった。

 

 美城秀則。決して無能な人物ではないが……時流を見誤ったか情に流されたか。歴史があるという事はしがらみが多いという事だからな。恐らくは古くからの付き合いのある人物に頼まれて断り切れず、と言った所だろうか。彼は酷く青い顔をしたまま、周囲を取り囲むTV局関連の人間と話をしている。

 

 事の起こりは、半年前。

 961包囲網と呼ばれるTV業界による961プロへの攻撃は、半年前のとある日曜日から始まった。

 

 

 

 アイドル、と言葉にするのはたやすいが、その言葉の内容はひどくあやふやなものだ。要するに他者から注目される人、尊敬されたり、一目置かれたりする人という意味合いで言われているが、決して確固とした形があるわけではない。その言葉の意味は見る人や感じる人によって変わるものだ。決して一個人を指す言葉ではない。本来は、そうだった。

 

 彼女がこの世に現れるまでは。

 

 

ミシェル・“マイケル”・ジャクソン

 

 

 凄いアーティストを発掘する。ただその趣旨だけで開催された途方もない全米オーディションという試みで、あの怪物は世に生み出された。

 

 彼女は、一言で言い表すならば完ぺきであった。

 

 いや、その完ぺきという言葉すらも彼女の前では霞むかもしれない。その歌唱力は数多の歌手達を圧倒し、その斬新な踊りの技術はこれまでの技法を全て過去の物とした。そして、何よりもあらゆる美姫が霞む美貌と、その美貌を活かす“魅せる”技術。

 

 全てにおいて彼女は頂点だった。フィルム越しに見る彼女のパフォーマンスは見る物を魅了し、世界中が彼女に夢中になった。

 

 そして、そんな彼女が頂点だとするならば……自分たちはその光に誘い込まれた小さな蝶か、それとも蛾か。自嘲気味に笑みを浮かべて、マイナスに陥っていた自身の考えを自覚し、美城幸姫は深く息を吸って、吐いた。

 

「ゆきちゃん、大丈夫?」

「……はい、いえ。少し、緊張しているみたいです」

 

 隣に座るマネージャーの言葉にそう微笑みを返して幸姫は周囲を見渡した。

 

 彼女の居る控室はこのテレビ局が用意できる個人用の控室としては最上級の場所であるらしい。広くて清潔で、空調も効いている。大きな鏡が壁際にあり、先ほどまで幸姫はそこの前に座らされ、彼女の専属のコーディネイターから何か一工夫出来ないかとあーでもないこーでもないと着せ替え人形にさせられていた。

 

 流石に本番直前に大きく変更を加える訳にもいかず、また私が明らかに疲れた表情を浮かべていたためにようやく解放されたが、あの様子では放っておけば本番直前まで引っ張られていたかもしれない。

 

 まぁ、それだけ私の魅力を出来る限り引き出してくれようと頑張ってくれたのだ。文句は言うまい……言う訳にもいかない。彼女も必死なのだ。何せ、あの化け物相手に何とか私を勝たせろと、私のスタッフ達は厳命されているのだから。

 

「ゆきちゃん、貴方は何も心配しなくていい。いつものパフォーマンスを維持すればいいの。それだけで……後は何とかなるから……」

「……三浦さん、それは」

「分かってる。だけど、961がねじ込んできた二人……片方はほぼ間違いなく日高舞でしょうけど……彼女とこの半年、TVの最前線で戦い続けていた貴方との実力差は、そこまで大きくはないはずよ。実際この半年の貴方の成長は目を見張るものがあった。多少の差なら、きっと……」

 

 何かを察したのか。マネージャーの三浦さんは私の手を握ると、座った私と目線を合わせてそう言った。その言葉の内容に言葉を失いかけた私に少しだけ表情を陰らせながら彼女は首を横に振り、私を奮い立たせるように何度も言葉をかけてくれる。

 

 ……その姿が、何よりも辛かった。

 

「……やめて、」

「ゆ、ゆきちゃん」

「もうやめて!」

 

 声を荒げて耳を塞ぐ。デビューしてから1年。その間、ずっと苦楽を共にしてきた彼女を、私は姉の様に想っていた。美城の娘だからとレッテルを張らず、ありのままの私を受け入れてくれようとして。小さな娘さんも居るというのに必死に私の為に時間を作ってくれて。そんな彼女が、彼女に……こんな。

 

 ここまでしないといけない、まともに戦えば決して勝てないと周囲に判断された事実が私を打ちのめした。八百長なんて真似を彼女に決断させた自分にも、会社にも、全てに対して、口惜しさと情けなさが湧き上がってくる。

 

 いっそ、この喉を裂いてしまえば楽になるのだろうか。黒い考えが頭を過った、まさにその時。

 

 

「お邪魔しま~す。ちょっとメイク道具貸しちくり~」

 

 

 ガチャリ、と無遠慮に開け放たれたドアから、良く分からない着ぐるみを着た少女が全ての空気をぶち壊して楽屋の中に入ってきた。

 呆気に取られた私と三浦さんをしり目に少女は着ぐるみを脱ごうとしてジッパーに手が届かない事に気付き、バタバタと藻掻く様に背中へと手を伸ばす。その様子に思わず背中に手を伸ばし、背後のジッパーを引き下ろす。

 

「あ、あんがと! いや~、映画の宣伝作れって言われたんだけど体にフィットしすぎるのも駄目だなぁ。あ、これタクミニラっていうキャラね。可愛いだろ? なんなら握手する?」

「あ、いえ……どういたしまして」

 

 着ぐるみをスポンッ、と脱いだ少女がふぃー、と額の汗をぬぐい、あ。と小さく声を上げて私を見る。

 

「ところであんた誰?」

「え、ええと……美城幸姫と、申します」

「ふーん」

 

 私の言葉に特に何事も感じなかったのか、彼女は私の目を見て、小さく微笑みながら右手を差し出した。

 

「私、黒井タクミ。よろしく!」

 




Ms.M:一体何マイコーなんだ……

マイコー:映画伝説の一夜(ワンナイト・カーニバル)の撮影に入る。

みのりん:帰省時に家族にハワイ旅行をプレゼントしたらしい。当時の庶民の夢だからね!

美城芸能事務所:まだ346ではない。

美城幸姫:誰かは分からないけどアニメであの人のデザイン見て絶対にアイドル志して日高舞に心折られたんだろうなって妄想してます。




クソ女神様とタクミっぽいのの小劇場


「つーか、結局お前さん何の神様なんだ? パンチとロンゲとは明らかに違うよな」

クソ女神様
「……私には全知とまで言える力はないの。ある程度の歴史の本流くらいは知ってるけど」

「んな事察しとる。もし全知持っててこれなら殴ってたゾ」

クソ女神様
「それでも、与えられた職責は全うする為に努力してきたわ」

「それが出来てないと……いや、もうそいつを判断する前に早く権能言えよ」

クソ女神様
「繁栄と闘争よ」

「うん………………うん?」
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