この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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今回少し短めです。
あ、タクミのイメージ画を知り合いに書いてもらったので載せます!

【挿絵表示】

やったぜ可愛い!

誤字修正。佐藤東沙様、sk005499様ありがとうございます!


この魔術のない世界で

「彼女と初めて言葉を交わしたのは、あのラジオでした」

「当時の私にとって、彼女はいきなり自分の世界に飛び込んできた物語のヒーローのような人でした」

「そんな人が私と会話して、そして自分の思いをぶつけてくれた」

「今の私を形作っているのは、あの時の会話だと断言できます」

「まぁ、そのせいで中高と少しやんちゃをしてしまいましたが。顔が怖いと言われるのもそのせいでしょうか」

「……え、恐らく違う?」

 

~武内力丸~ 【346特集・名プロデューサー“武内P”の素顔に迫る】にて

 

 

 

 唐突だが、私は普段ビジネスの場では私用に誂えたスーツを着用している。

 

 理由は単純。長時間ひらっひらしたスカートやら何やらを身に着けるのが苦痛なのだ。

 

 これは前世から変わらない性分で、私にとってはスカートよりはズボンが良いのだ。身に着けるならば着飾った服装よりもジーパンのような気軽な物か動きやすい物、と本気で考えてる根っから飾り気のない生き物である。

 

 ただ、流石に最近ではみのりんから毎回のように「もっと身代に合った格好に。というかファッションリーダーとは言わないからもう少し何とかしてください」と泣きつかれたので、今回は専門のデザイナーさんに頼んでちょっとお高めなドレスで身を整えて商談の場に立った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 効果は覿面。普段は私に憎まれ口しか叩かないクソジジイ(スタン老)が一瞬言葉を無くして「……日本の諺の意味が良く分かった。馬子にも衣装、か」と言ったり、相手方の社長さんが「美しい……まるで女神のようだ」とか素で言ってくる位に場の空気を掴むことに成功したのである。

 

 結構コーディネート代掛かったけど、これからもこのデザイナーさんはひいきにさせてもらおう。あ、いや待てスタンのジジイ結局憎まれ口叩いてるじゃねーか。

 

 ……コホン。とまれ商談の場でのファーストインパクトには成功。商談は終始和やかに進み、後は調印を済ませるだけ、という段階まで進んだ時。

 

『社長! 社長はどこだーっ!』

 

 蹴破るように会議室のドアを開き、男は現れた。

 

 ギョロっとした目。ぼさぼさの長い髪に髭。

 

 そして何より異様なのはその服装だろうか。どこぞの魔術師が攻めて来たのかと一瞬本気で考えたくなる黒いローブを着た男は、そのギョロ目で会議室を睨め付ける様に見渡すと、大口を開けたまま呆けるDCC社の社長に視線を向け、ドスドスとした足取りで部屋の中に入ってくる。

 

『吾輩達のロイヤリティを払うと言っておきながら身売りとはどういうつもりだ!』

『や、止めろアームストロング! 来客中だぞ』

『喧しい! 大体こいつらが……スタン・リードが何故ここに?』

 

 DCC社の社長に食って掛かるようにわめき散らしていた男は、こちら側の席に座るスタン爺さんの顔を見て初めて怒り以外の感情を浮かべた。

 

 身売りの相手がライバル社という事を理解したのか。小さなため息をついた後、手近な椅子にドサリと男は座り込んだ。

 

『そうか……DCCは負けたのか』

『ストーリーの勝ち負けやライターの問題ではないけどね。発信力でマーブルエキサイトはDCCを上回った。その結果がこの会談での立ち位置の差かな? 見た所ギャラの払いも厳しくなっていたみたいだね』

 

 男がポツリと呟いた言葉にスタンさんが返答し、それに対してDCC社側は苦々しい表情を浮かべる。

 

 マーブルエキサイトは昨年度から比べてもコミック売り上げが倍増。更にアニメの放映やグッズ等のロイヤリティはコミック売上の数倍に上る利益をマーブルエキサイトにもたらしている。

 

 対して、DCC社はマーブルエキサイト側にパイを奪われる形で売上が減少。大人向けのコミックは堅調な売上だがそれもテレビ効果を持つマーブルエキサイトの勢いを止める事は出来ず、DCC社は完全に手詰まりの状態へと陥った。

 

 もしもこの段階でダズニースタジオ以外に大手のアニメーションスタジオが生き残っていればDCC社も二匹目のドジョウを狙ったかもしれないが、まだまだアニメ業界が育っていない現状だと難しいだろう。

 

 ……ちらほらとアニメーション会社自体は出てきているようだが、それらの小規模なスタジオがダズニースタジオ並みのクオリティが出せるかと言われると厳しいだろうしな。

 

『まぁ、DCCコミック自体はそのまま手を付けないから安心してくれ。一社独占はうちの会社のオーナーとしては避けたい事態らしいからね』

『オーナーの意向だと? 上層部からの口出しを嫌う貴様の言葉とは思えん』

『勿論内容がおかしければ何を言われようが従う気はないさ』

『おい、ジジイ』

 

 面と向かって「納得できれば従ってやる」と言われ頬を引きつらせるも、苦言を言われた爺さんはどこ吹く風とばかりにそっぽを向いてこちらと目を合わせようとしない。

 

 この爺さんがそういう奴だというのは理解していたが、よりにもよって他社との買収話の最中にやらかすかこいつ。あっちの社長さんとか明らかに呆気に取られてるじゃねーか。

 

『……その小娘がオーナーか』

 

 向こうサイドとみのりんが呆気に取られている中。ただ一人冷静に私とスタン爺さんの掛け合いを見ていた謎の男は静かにそう言い私を見る。

 

『邪神の眷属……いや、端末か? しかし、自我を持っているように思える。ならば――』

『ふぇっ?』

 

 何だか良く分からない言葉と共にスッと右手を宙に上げた男は、驚く私の顔の前で何やら指で幾何学模様のような物を象ると、そのまま私の額に人差し指を付けた。

 

『がっ』

 

 その瞬間、私の頭の中で激しい火花が走り始める。右へ、左へ。火花が飛び散るたびにマネキン人形のように私の頭が揺れ動く。

 

『タクミちゃん!?』

『アームストロング、何を!』

『静まれ。危害を加えているわけではない』

 

 みのりんとDCC社の社長が慌てたように男を止めようとするが、彼の有無を言わさぬ言葉に気圧されたように黙り込む。

 

 飛び散る火花に脳の中心をガンガンに殴りつけられながら、私は頭の片隅で冷静に周囲を分析する。痛み自体は全くないが、平衡感覚を保てないというかなんというか。

 

 不思議な感覚に少し楽しさすら湧いてきた時、唐突に頭の中身が切り替わるかのような感覚が広がった。

 

『アラン。一体……』

『害はない。ただ、少し影響を受けすぎていたからな。接続を遮断した。直に終わるだろう』

 

 ある種の全能感だろうか。透き通った視界。冴えわたる頭脳。細胞の一つ一つまでを理解できるかのような。恐らく今なら奇跡だって難なく起こせるだろうという、ある種確信めいた感覚。

 

 それらはアランと呼ばれた男の言葉通り、唐突に終わりを告げる。透き通った視界に色が戻ってきた時、アランは満足げに頷きながら私の額から指を離した。

 

『その体に封印を施した存在は相当な御仁だろうな。吾輩ではその御仁の穴埋め程度しか手が出せんが、これで貴様の精神に干渉する影響からは逃れる事が出来よう』

『……なんかめっちゃ視界や思考がクリーンになってたんだけど』

『それがその体の本来の性能だろう。中身が無ければ我が神グリュコーンの依り代にしたいほどだ』

 

 生贄になるのは勘弁して欲しいなぁ、と素直な感想を告げると、アランは至極真面目な顔で「残念だ」と頷き、席を立つ。嵐のように現れた男は、その登場からは想像できない程に静かに部屋を去っていった。

 

 いや。

 

『タクミちゃん、だ、大丈夫!? どこも痛くない!?』

『あ、ああああ本当にとんだ失礼を!』

『うーん、このコーヒーは美味しいね。どこの産地かな』

 

 嵐の様に周囲が騒ぎ始めたから、やっぱり嵐の様に去っていったで良いか。あと爺さん、一人だけのんびりしてないでせめて相手の社長は押さえろやおい。

 

 

 

 数多の戦いがあった。

 

 ブルース・スプリングス。ニュージャージー州の代表。ロックに憧れた少年は青年になり、大人になってそしてステージに立った。20年以上もの間くすぶり続けた魂の錆を落とし、自らの後に続く若者たちを引き連れて。誰よりも熱く燃え上がる為に。

 

 マドゥンナ・ルイ。開催地ニューヨーク州の代表。彼女には野心があった。誰よりも美しく、誰よりも高い位置にまで上り詰める。彼女には夢があった。己の才覚を認められたい。誰よりも幸福になりたい。「神様より有名にならなければ私は幸福じゃない」自身の信念を胸に、彼女はステージに上がる。

 

 綺羅星の様に輝く面々だった。この場に集う16組のアーティストは誰も彼もが輝いていて、最高で、イカれていた。

 

 だが、何事にも始まりがあるように終わりがある。

 

『レディース&ジェントルメン! お待たせいたしました! 本日最後のグループ、『ジャクソンブラザーズ』の登場です』

 

 最高潮に達した舞台の上で、司会者が大きな声を張り上げる。その言葉と共に、舞台袖から5名の男女がステージの上に立つ。

 

 彼らの姿に、一部の白人の紳士や淑女が眉を顰めた。ジャクソンブラザーズは黒人グループだ。人種差別という世紀を跨った問題は、未だに根深くその爪痕を残している。

 

 会場内のそんな空気を感じ取ったのだろう。ステージ上に立つ彼らの表情は暗い。また、それまでの熱気あるパフォーマンスに場が“温められすぎている”のもある。緊張と不快感が彼らの体を固くした。

 

 そして、そんな状況の中。ふいに彼女は笑顔を浮かべて、すっと彼らの前に出る。

 

 ざわめく観衆の声。兄弟たちの視線。くるりと兄弟たちに振り返ると、彼女はただ一言。静かな声でこう言った。

 

『お願い、信じて』

 

 それが一夜限りの伝説(ワンナイトカーニバル)の、終幕の始まりであった。

 

 

 

「いや、映画じゃん」

「……はい、そうですが?」

「はいじゃないが」

 

 撮影の進む様子を眺めながら思わず内心を吐露すると、隣に立つみのりんが不思議そうな表情を浮かべる。いや、確かにちょっと派手なのは撮るって聞いてたけどまんま映画撮るとか思わなかったんだってばよ?

 

 ステージ上ではジャクソンブラザーズが必死にあの日の再現をしようとパフォーマンスを行っている。うわー豪華だなーあれ全員本人じゃん。本人による再現映画とは恐れ入ったわ。

 

 まぁ、この映画も結構助かる点はあるっちゃあるから文句は言いづらい。前半はジャクソンブラザーズというよりはオーディション参加者の過去というか、どういった経歴でこのオーディションに参加したのかってのが主になるんだがね。

 

 こういうのが好きなゴシップ記者とかがうようよいるのがアメリカだからね。先出である程度オブラートに包んだ経歴を周知させるってのは、そこそこ効果あるんじゃなかろうか。

 

 あと、ついでに他のアーティストの活躍の場やエキストラとしての仕事まで設けてくれてるのはありがたい。大所帯だと仕事を用意するのも大変になってくるしね。もっとマネージャー増やさないと……

 

 いっその事もっと色々な権限を持たせて、複数のタレントを管理する人物……そうだな、プロデューサー的な役職を作っちまおうかね。

 

 それぞれの得意分野によって担当するタレントを決めて、仕事の割り振りを行う。また、自身の管轄するタレントでは対応できない仕事なんかも専門のプロデューサーが居るとなれば話はしやすいし。一遍考えてみるか。

 

 この辺りは元々本職であるみのりんが一番詳しいだろうし一度相談してみるかね。

 

 しかし、あれだな。うん。今回の楽曲、完全に“BAD”だわ。聞いた瞬間に背筋が一気に電流走ったよ。一番ヤバいのはマイコーだってはっきりわかんだね。

 

 「本当のバッド(ヤバい奴)は誰か?」ってお前しかいねーよ。聞かされた時に曲に合わせてマイコー指差したわ。

 

 まぁ、その指差しがまたマイコーの琴線に触れたみたいで映像の中に取り入れられてるらしいんだけど。“BAD”の宣伝MVの筈なのに全く別物になってるんだけどこれは良いんだろうか。面白いけどさ。

 

 というかあのバックバンド女王の国のバンド(QUEEN)じゃん今めっちゃ忙しい筈なのにあいつら何やってんだ?

 

 うだうだと心の中で管を巻きながら、私は新しく新調したスーツに身を包む。

 

 まぁ今は兎も角だ。

 

『社長、出番ですよー!』

「ほら。呼んでますよ?」

「ボスケテ」

 

 自分的に黒歴史認定している瞬間を再現してくれってそれなんて罰ゲーム?

 

 タスケテ、誰か……たす……あ”ー!!!

 

 

 

 アメリカでの順調といえば順調な日々の中。この調子で進んでいけばと私は思っていた。いや。この状況になる事は分かり切っていたけれど。体調管理にも気を配っていた。だが、それにだって限界はある。

 

 先生たちは手を尽くしてくれていた。家族たちの協力もあった。それでも、時計の針は無情に過ぎ去っていくのだ。

 

「間先生! 一郎さん!」

 

 医院に駆け込んだ私を迎えてくれた間先生達は静かに私を見ると一つ頷いて、促すように医院の中を歩き始める。私が何も言わずに彼らの後をついていくと。一つの病室の前で彼らは立ち止まった。

 

「設備の整った大きな病院を、紹介もしたんだ」

 

 唐突にぽつりと間先生はそう口にした。

 

「でも、撮影現場が見える場所が良い。この間医院が良いと……」

「先生。貴方は出来る限りの事をしてくれました。俺達家族は、先生に感謝しかしていません」

 

 二人の会話を聞きながら、私は大きく息を吸って、吐く。

 

「黒井さん。親父が二人きりで、話がしたいと。先ほど目覚めて……次に目を覚ますのがいつになるか……わかりません」

「はい」

「早く……早く行ってあげてください」

 

 噛み締めるようにそう言い切って、一郎さんは何も言わずに私の脇を抜けて外へと歩き出す。ペコリ、と間先生が頭を下げて一郎さんの後へと続き――私は、ドアノブに手をかける。

 

 ガチャリ、と音を立ててドアが開く。木目調の床。脇の方に山の様に置かれたお見舞いの品々。白くて清潔なベッド。

 

 そして――

 

「やぁ、タクミくん」

 

 その声は。つい先ほどまで昏睡していたとは思えないほど生き生きとした声だった。

 

 窓脇に、二本の足で立つ円城さんの姿。その窓の向こう……撮影現場のあるスタジオを見ていたのだろう。車椅子が無ければ動けない筈の彼の姿に驚きと共に、悲しみが襲ってくる。

 

「残念だが、私はここまでのようだ」

 

 ロウソクは、燃え尽きる前に最後の輝きを放つ。

 

 それが……彼の中のロウソクがもう尽きようとしている事が何故か理解できて。

 

 私は、ぽつりと一筋の涙を流した。

 




アラン・アームストロング:ちょっとキャラの印象がつかみきれてないのでご容赦ください(無理)





クソ女神様とタクミっぽいのの小劇場



クソ女神様
「理解できない。人はなぜ自ら不幸に陥ると分かっていて苦難へと落ちるのか」

「うん、多分その苦難ってのはお前とその他で認識違うんだろうな

クソ女神様
「私はただ、幸せに、健康に生きられるように声をかけていたのに」

「死ぬほどひどい目に合っても、いやな目に合ってもやりたい事ってのがあるもんさ。それが人って奴だろ」

クソ女神様
「……私が人だった頃は、ただ安寧に生きられればそれこそが最上の幸福だった」

「どういう地獄のご出身で?」
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