この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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本編の更新になります。少し短めです。

誤字修正。たまごん様、薊(tbistle)様ありがとうございます!


このTVアニメがなかった世界で

「タクミちゃんはアイドルとしては尊敬できないです」

「一人の友達としては大好きだし、ミュージシャン黒井タクミは尊敬してますけど」

「でも、アイドルを名乗ってた黒井タクミは尊敬できません」

「だって、彼女は誰かのアイドル(あこがれ)になるには……強すぎるから」

 

~安部菜々 デビュー20周年記念のインタビューにて~

 

 

 

 人には幸せだと感じる場面が幾つかある。

 

 例えば友人と居る時。例えば恋をした時。家族と居る時。遊んでいる時もあればただぼんやりと景色を見ている時なんてものもあるだろう。

 

 何故こんな話になるのかって?

 

 ――それは勿論。

 

「落ち着け。素数だ、素数を数えるんだ。1、2、3,4」

「本当に落ち着け。ただ数数えてるだけになってるぞ」

「時間だな。そろそろ始まるぞ」

 

 ヒッヒッフーと息を吐く私に苦笑を浮かべるパッパと銀さん。二人に挟まれてソファーに座る私は、目の前のテーブルに置かれたポップコーンとよく冷えたコーラを忙しなく口にする。

 

 刻一刻と刻まれる時計の音に早く早くと急かされる心。胸のドキドキが止まらない。こんな気持ちでテレビの前に座ったのは何年ぶりだろうか。

 

 ニュースが終わる。次の番組への切り替えの瞬間。思わず身を乗り出した私の頭を撫でるパッパの手。

 

 今、間違いなく。

 

空をこえて ラララ 星のかなた

 

 私が幸せだからだ!

 

 

 

 

【日本初! テレビアニメ「鉄腕アトム」放映開始!】

 

 

 次の日。新聞の一面にデカデカと乗ったその文章に思わずにやけ顔を浮かべながら、すれ違う961プロの社員に新聞をバラ撒く事しばし。

 

 騒ぎを聞きつけた高木さんに最近「タクミ部屋」と名付けられた元遊戯室へと引きずられ、30分程OHANASHIしてわたしはしょうきにかえった!

 

「PC用ゲームのエンドファンタジーだったかな?」

「そそ」

 

 数か月前に開催した世界規模のPCゲームグランプリで優秀賞を勝ち取った作品。高木さんも会場に居たから覚えてたんだろう。

 

 グラフィックや音楽やらは個人規模である以上限界があるが、それを差し引いても素晴らしい出来栄えだった。勿論即座にスカウトしたよ。

 

 後は足りない部分、グラフィックや音楽に関しての梃入れを行い、そして再度製品用に作り直せば傑作が出来上がるだろう。今から完成が楽しみだ。こういった稀有な人材が見つかるんだからグランプリ様様である。

 

 そう、PCゲームグランプリだ。最初はゲーム作れる位プログラミングに対応できてる奴なら開発の方にも早めに対応できるだろって安易な考えで行ったゲームグランプリなんだが、びっくりする位の盛況さになった。

 

 ミカンシリーズっていう大衆向けのPCが世に出た以上、それを元に何かをしようとする奴はそこそこ増えるだろう位に思ってたんだけどさ。

 

 まさかせめてハコがスカスカにならなきゃ良いなぁくらいに考えてたイベントが、応募数が多すぎて3回もハコをアップグレードする羽目になるとは思わなかった。

 

 いや、土台は確かにあったんだ。ミカンボックスのゲームって結局は殆どミカン1か2で作成してるからね。ハマって、自力でゲーム作ろうって頑張ってる奴らが居るだろうとは私も思ってたんだが。

 

「まさか自分でミカンボックス買って中身に自前のゲームぶち込むような猛者が複数いるとは。見抜けなかった、この黒井タクミの目をもってしても……っ!」

「お陰で変にプライドを刺激されたアメリカのゲイリー氏が2日目に発売前の『マンハッタンファイト』を持ってきて大騒ぎになったね」

「万人収容できる会場をぐるぐる回る長蛇の列とか。今生で初めて見たわ」

 

 前世だったら何度か見たことあるんだけどね。東京ビッグサイトとかそれ位の長さはあったろ。

 

 というか人が多すぎて複数日開催になったり祭りだと勘違いされて屋台が出たり。今から思えばこれどこのコミケ?ってレベルのイベントになっちまった。

 

 アメリカの方の夏の陣と冬の陣を経験してなかったらヤバかったかもしれない。途中でヤバイと気づいてスタッフをかき集められたからな。

 

 最終的には10倍くらいのスタッフで会場内外を対応したんだが、それでもごみ問題や熱中症で倒れた人なんかの対応がキッツキツだった。当初の予定のスタッフ数だと間違いなく捌き切れなかっただろう。

 

「下手しなくても東京ゲームショーみたいなもんだよなぁこれ。いや、ノリはコミケっぽかったけど」

「コミケ……コミック?」

「あ、いや。なんでもないよ」

 

 ボソリと呟く言葉に高木がピクリと反応を返すが、なんでもないと首を横に振る。あぶねぇ、夏の陣と冬の陣の二の舞が起きる所だったぜ。

 

 あのイベント今だと10万人規模の、モーターショーとかその辺りと比較される規模のイベントになっちまってるからな。今でもイベントの度に一巡とかしてんだが流石にあれを日本でもやるのはキツすぎる。

 

 まぁ、当初の目的であるプログラミングに”強い”興味を持った人材の確保は順調に進んでるらしいし、今回出てきた作品でも優秀な物は作者とライセンス契約を結び、順次ミカンボックスに対応させていく予定だ。

 

 これでゲームの頭数もガッツリ増えたし、アーケードゲームという分野の開拓が一気に進むだろ。後はミカンボックスをガンガン量産させるだけなんだが、発売から一年超えたのにまだ製造即出荷の流れが止まらないんだよな。

 

 2,3000万は世界中に流れてる筈なんですがねぇ(震え声)

 

「マンハッタンファイトでダメ押ししたからでしょう。声までつけちゃって」

「ウィルがどうしてもって言うから……」

 

 どストレートに原因を投げ込んでくる高木さんのスタイルに、思わず目をそらして声を震わせながら答える。

 

 そう、声付き、だ。

 

 私が全く知らない内に【ミカン】内部の幹部どもが結託して、何故かエキサイトプロダクションまで巻き込んで開発が始まったこのゲーム。

 

 無駄に技術のあるロマン屋ばかり集まってるせいで、いつの間にかBGMどころか音声データまで突っ込める余地を作って「声充ててください」とか報告書上げて来た時には仰天を通り越して顔が虚無猫になったよ。

 

 勿論主犯のウィルは筋肉バスターの刑に処した。少年飛翔好評連載中の筋肉マン、独特の理論と格闘技の融合という斬新な切り口が人気の作品だ。アニメ化の予定も組まれてるし素晴らしい漫画なんだ。

 

「あ、そうだアニメだ。アニメ化だよ高木さん!!! ついに日本初のアニメが、日本のスタジオで完成して、日本で放映されたんだ!!!」

「……まぁ、誤魔化されましょう。でも起きた事はなくなったりしませんよ?」

「かみはしんだ」

 

 マンハッタンファイト、キャラセレクトでは3キャラ選べてそれぞれモデルが私、マイキー・バイソン、あとジャパニーズ・ニンジャモチーフのキャラと特色のあるキャラクターを選べるんだけどね。

 

 どっかのバカ共が音声入りなんて事をやらかしたせいでキャラ選択率の偏りが驚異の9割超えなんだそうな。数台並んだミカンボックスの筐体から私の声で「オラァ」とか「タァ」とか「ウグッ」とかいう声が連呼されるわけだな。

 

 2,3個ならまだいい。これが10台くらい並んでる店だともう店内中に響くわけだ。中途半端な演技の私の声が。

 

 恥ずかしすぎてそのまま死にそうだった。映画とかに出る気はないけど、もうちょっと演技の練習しとこうと思ったよ。

 

 死因:恥ずか死とか末代まで指差されるレベルの汚名だぞ。いや、まぁ今んとこ結婚願望はないけどさ。

 

 ……ま、まぁ良いんだ。これも過ぎた事。人気出すぎて2が、とか言い出したらその時はウィルに筋肉ドライバーを仕掛ければ良いとして、本題はアニメだ。アニメこそが私にとっての本題なんだ。

 

 ついに……ついに手越の爺様がやらかしてくれました。

 

「ふへへへへ」

「タクミ君。顔、顔」

 

 高木さんの苦笑交じりの指摘にごめんなさいを返しながら、私は手に持つ新聞を広げる。

 

 その一面にはデカデカと鉄腕アトムと書かれたOPの画像と、日本初テレビアニメの文字。そして、瞬間最大視聴率36%という文字が紙面を飾っていた。

 

 

 

 

「そりゃあ、慣れない作業が多かったから苦労もあったさ。今だってストックがある内にどんどん続きを作らなければいけないしね。大変だよ、とても」

「……苦労をお掛けしました」

「いやー―大変だと思うけどね。苦労だとは欠片も感じないよ。アトムが動く姿をこの目で見れたからね」

 

 そう淡々と語る手越氏の声は、落ち着いているようでしかし言葉の節々に強い情熱を感じる物だった。

 

 少年漫画は今や飛翔と日曜日の二大勢力が鎬を削る状況。

 

 そんな少年漫画成長期と言っても過言ではない状況で、日曜日最大のヒットメーカーである手越氏が自作のアニメーション化を打診してきたのは、おおよそ1年前。私が幸姫ちゃんの引退ライブの準備に奔走する少し前の事だった。

 

「アメリカのコミック誌の状況を見てもね。このままずるずる漫画だけでってのはどっかで頭打ちになるでしょう。恐らく貴方の知る私も、そう思ったんじゃないかな」

 

 予てから私と手越さんは日本でのアニメ制作を話し合っていた。だが、ここまで具体的に話を持ち込まれたのはこの時が初めてだった。

 

 恐らく、彼は時が来たのだと判断したのだろう。

 

 日本の漫画文化が発展し、一枚の紙の中から飛び出す時。それが、今なのだと。

 

 勿論、私に否はない。何せ日本にアニメ文化を根付かせるのは私にとっての最終目標にも等しいのだから。二つ返事で協力を約束し、ある程度の打ち合わせを行った後に私は国際電話でダズニースタジオへと連絡を入れる。

 

 アニメーションを知るものが今の日本には居ない。だから、すでにテレビアニメを作っている人間を連れてくる。いや、むしろこれを事業拡大の機と捉えるのも良いかもしれない。

 

 ダズニースタジオジャパン。素晴らしい響きである。DSJとでもロゴを書かせよう。

 

 パッパやミノルちゃんには以前から日本にもアニメーション市場を広げたいという意図は伝えていた。アメリカのマーブルエキサイト社の成功もある。

 

 そして肝心のアニメ化からのグッズ販売についても宛てはある。なんせ京都の老舗の花札屋さんとはゲーム関連ですでにガッツリスクラム組んでる間柄だ。

 

 そちらの持つ玩具販売網も頼れるし、なんなら日本におけるグッズ生産を行う相手先を『紹介』して貰っても良い。花札屋さんが大きくなればなるほど私にとっても都合が良い。

 

 ――恐らく、すでに開発は始まってるだろう。世界のゲーム史に燦然と輝く名機。ファミリーコンピューターに類する何かが世に出るのが早まれば御の字だ。

 

「いくつか考えられるが……まずはアニメ制作に関わる人間の拡大、だな。流石に今のスタッフだけで全てを賄いきるのは無理だろう」

「そちらは、勿論。アニメーション制作に興味がある人材を色々な伝手から探していこう。漫画家のアシスタントとかさ」

「後はアメリカからアニメを輸入して放映するのも良い。どういったものなのかを知らなければ手出しもしづらいだろうしな」

 

 私の展望を伝えた所、パッパはそう言って一つの懸念を述べた。現在日本ではその手の知識を持つ人間がほぼ居ない状況だからな。前世の手塚治虫以上の苦労があるのは間違いない。

 

 だが、それ以上にこれは大きなビジネスチャンスであるのも間違いない。なにせアメリカのマーブルエキサイトというモデルケースがあり、そこで培ったノウハウを使えるんだから。

 

 日本の内情に合わせる必要はあるが、かなり成功率の高い投資なのは間違いないだろう。

 

 そして日本にアニメを根付かせるという意味でも、ダズニースタジオ制作の物なら比較的簡単にもってこれるだろうからアニメの頭数も増やすことは出来る。

 

 問題は放映してくれる局があるかだが、こちらに関してはパッパが自信がありそうだから任せる事にするとして、だ。

 

 後は、気持ちの問題だろうな。

 

「日本で初めて週間放送されるのは日本のアニメが良い」

 

 小さな拘りかもしれない。だが、これは私と手越氏共通の願いでもある。同時に放送開始されるのは良い。だが、最初に放送されるのは日本製のアニメでありたい。そんななわがままだ。

 

 そのわがままを叶える為に、私と手越氏は他の仕事がある中時間が空けば互いに連絡を取り合い、人を集め、会社を立ち上げ――そして一年。

 

 日本でダズニースタジオ製アニメの放送認可を貰った直後に間に合わせて、鉄腕アトムは日本の茶の間に姿を現した。

 

 ――日本のテレビに鉄腕アトムの姿がある。

 

 感無量とは、この事なのだろう。

 

 

 

「タクミちゃんタクミちゃん!」

「んだちみっ……子?」

 

 わたしはしょうきにかえった! したとはいえこの胸を溢れる喜びまでは抑えきれない。

 

 部屋にいても床の上でゴロゴロするだけだし、誰か絡める奴いねーかなーと961本社ビルの1階に来た私を、聞き覚えのある声が呼び止める。

 

 346に移籍予定のちみっ子がなんじゃいとそちらに目をやると、そこに居たのは形容しがたい冒涜的な何かだった。

 

 ありていに言えば銀色に光るちび宇宙人みたいな仮装に身を包んだ菜々である。宇宙的脅威か何かを再現しようとしたのか?

 

 いや、菜々自体がそんなに大きな方ではないから余計にグレイっぽく見えるんだが。この衣装考えた奴何考えてるんだろうか。

 

「どうしたんお前。キャトルミューテーションでも喰らったんか?」

「きゃっとみゅーてしょん?」

「あ、いやいい。その恰好どうしたん?」

 

 たまに忘れそうになるがそういえば7歳……たしかもう8歳だったか、の子供だ。横文字なんて知るわけもないか。

 

 話を変えるついでに水を向けてやると、菜々は眼をキラキラとさせながら振り返り、「小鳥ちゃーん!」と声を張り上げる。お、良い声出すなこいつ。鍛えたら歌の方も結構いい線いけるかもしれんな。

 

 等と考えていると、ビルの奥の方からやたらと周囲を気にしながら歩いてくる銀色に光る宇宙人が現れた。おいおいペアルックか。ペアルックなのかおいおい。

 

 呆気にとられた私を尻目に菜々は自信満々に、小鳥は周囲をおどおどと気にしながら二人並んで立ち、ビシッと劣化ギニュー特戦隊のようなポーズを取り始める。

 

「じつはじつは!」

「ぴよぉ……わ、私たち!」

「「うさみん星人だったのです!(ですぅ)」」

「……お、おう」

 

 二人の言葉に、一先ず私は首を縦に振り、必死になって相槌の言葉を絞り出した。

 

 え。最近追いかけられてなかったけどさ。

 

 この時代の流行って……これなの?





クソ女神さまとタクミっぽいのの小劇場


クソ女神さま
「神へと至るのは人にとって最大の幸福では?」

「んなわけねーだろ。こんなろくでもない職業に好んでつきたがる奴はよっぽどのいかれポンチか聖者笑 だけだよ」

クソ女神さま
「……言いたいことは多々あるが貴女も似たようなものではないか」

「やりたくてやってんじゃないからね。死んだと思ったら首根っこ掴まれて身代わりにされただけだゾ」

クソ女神さま
「ああ、今流行の雇用形式ね」

「なにそれ怖い」
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