この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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大変遅くなって申し訳ありません(白目)

誤字修正。nessralle様、KAKE様、Mr.ランターン様、たまごん様、竜人機様、Paradisaea様ありがとうございます


この宇宙人なき世界で

「私達の仕事は、ただ求められた印象に沿った服を選ぶ」

「それだけだったの。彼女が、あの時カメラの前に現れるまで」

「悔しかったわ。もちろん自分自身に対してね」

「今は毎日が勉強の日々」

「楽しくて楽しくて仕方がないわ。大変だけどね」

 

~961プロ所属デザイナー 密着・961プロダクションでの一言~

 

 

 

 

 

 ごくり、と誰かがつばを飲み込む音が聞こえる。つい先程まで華やかな雰囲気だったパーティー会場はたった一人の男の乱入により、つばを飲み込む音すら聞こえるような静けさに包まれていた。

 

 のそり、と男が動き出す。

 

 法衣に身を包んだ――おそらく外人だろう3,40代の男性はつるりと剃り上げた頭を一撫でし、ぐるりと周囲を見回す。一つ一つの動作に華があるというか、目を離せないような不思議な人物だ。

 

 その服装から察するに雲水だろう彼はやがて目的の人物、私を見つけ、顔を綻ばせながらこちらへと歩み寄ってくる。

 

「――ミノリン?」

「いえ、あんな招待客は居ないはずです」

 

 日本支部の立ち上げパーティーである以上社員か関係先の人間しかこの場に居ないはず。人事について任せてある石川女史に顔を向けるも、彼女も眉を寄せてふるふると首を横に降った。

 

 そんなやり取りをしている間にも推定不審者はにこにこと笑顔を浮かべて私の前へとやってくる。これは、しょうがない。一先ず話をして、害がありそうなら畳んじまえば良いだろ。

 

「あー、うん。外人? ミスター、ここはミカン社のパーティー会場でして、部外者の立ち入りは」

「oh! お会い出来て光栄デース、ミス・エロティシズム!」

「じゃかあしい」

 

 一瞬の躊躇もなく飛び上がり、ドレスをはためかせながら放たれた胴廻し回転蹴りは、不届き者の禿げ上がった脳天を貫いた。

 

 初対面のうら若き乙女にエロティシズムなんて呼ぶやつには相応しい最後だろう。まる。

 

 

 

「で、悪は滅びためでたしめでたし。じゃすまんの?」

「すみません」

「そんなー」

「アイテテ」

 

 私の言葉にわざとらしく頭を押さえて痛がる素振りを見せる外人の坊さん。いや、不法侵入に勝手な飲み食いやらかしといてその程度で済ませただけありがたいと思ってほしいんだがね?

 

「ゴマの風味をイカした素晴らしいスイーツでシタ。熟練の職人によるものデショウ」

「お、わかってるじゃん。京都の会社に頼み込んでさ! 付き合いのある」

「んんっ!」

「おっと」

 

 坊さんの言葉につい脱線しそうになったが、石川女史の咳払いで我に返る。

 

 うん、なんだこいつ。こっちは全然その気がないのにふんわりといつの間にか会話が懐に入り込んできやがった。

 

 不思議そうな顔でこっちを見る表情に偽りは見えないし、多分無意識にやってるんだろうが。随分と面白い不審者だ。

 

「ああ、そうだ。なぁ不審者の坊さん」

「ワタシ、不審者違います。曹洞宗は永平寺で修行しました、ジョブ・素底部デス。」

「ああ、ジョブ……うん?」

「……タクミさん?」

「私、貴女に会いに来まシタ。初めて貴女を見たあの日から、ずっとずっとこの日を待ってマシタ」

 

 どっかで聞き覚えの有りすぎる名前に思わずフリーズする私に、ミノリンが怪訝そうな表情で声をかけてくる。

 

 だが、その声に返事を返す余裕は今の私にはなかった。そうだよ、よくよく顔を見れば確かに分かるんだよ。頭は完全に剃り上げてるし格好も完全に坊さんのそれだが、その顔を私は前世で何度も見たじゃないか。テレビでも雑誌でも、インターネットでも。

 

 私をまじまじと見る坊さんに視線を向ける。技術者としてではなく、ただただ商売人としての視点でもってアップル社を立ち上げ、ビル・ゲイツと鎬を削った男。

 

 情熱と失敗と、栄光と挫折に彩られた人生を駆け抜けた伝説の男の姿を幻視しながら、私は小さくつぶやいた。

 

「スティーブ・ジョブズ……」

「いえ、私はジョブ・素底部デス」

 

 ポツリ、とつぶやいた私の言葉に、ジョブは真面目くさった表情でそう答えを返す。いや、それは分かってるから。ちょっと真剣になりかけた私の感情を返してほしい。

 

 

 

「なぁ、ちみっ子」

「なんですか、うっかり()クミちゃん」

「おっ? なんだなんだちみっ子の分際で時代劇にハマってんのかおい」

「ノリとイキオイで動いてるのがタクミちゃんっぽいとおもうんです!」

「思うんですじゃないが?」

 

 10にも満たない女の子が真顔でそういう事いうんじゃないよ。泣くぞ? 大卒女が恥も外聞もなくギャン泣きするぞ?

 

「あ、そういえばご卒業おめでとうございます!」

「ありがと。いや、まぁ一応研究室には名前残ってるんだけどね」

「……りゅーねんですか?」

「言われるかなって身構えてたけど違うからね???」

 

 肩書的には学生って項目は外れ、どちらかというと共同研究とかそういった扱いに近いんだが。これは流石に菜々に伝えてもわかりにくいだろうし言うつもりはない。

 

 元々私が大学に入った理由は手っ取り早く学歴を手に入れることと、コンピューター関連に興味を持つ学生を青田買いすることにあった。この両者についてはもう十分すぎる結果を出している、と言えるだろう。

 

 後者の方はミカンシリーズやスペースウォーに始まるアーケードゲームの存在によりわざわざ大学内で青田買いなんぞしなくても勝手に集まってくる嬉しい状況で、前者の結果もまぁそもそも結構早い段階で卒業認定は貰える状況だったんだ。ま、幾らか理由があって大学に籍だけはおいてたんだけどね。

 

 理由の一つは私が経営しているミカン社の存在がある。ミカン社とうちの大学はもう切っても切れない、というかむしろ切ったら人材・資金共に色々不味いってレベルのずぶずぶな関係なわけだ。

 

 まずミカン社の扱う大衆向けコンピューターってのは大学側からしても結構な研究対象になるらしい。基本的に大学みたいな研究機関はコンピューターの処理速度向上を至上命題に、そこからどんな技術を発展させるかってのが多いんだが、最初から性能はもう割り切ってしまって個人レベルで扱えるコンピューターってのは彼らにとって目からうろこの考え方だったらしい。

 

 私経由で入ってくるミカン社のパーソナルコンピューターの技術発展は、彼らにとっても非常に重要な研究対象となっていたのだ。

 

 それに資金面や学生の進路という面もある。研究って基本的に金食い虫だからな。大学に対して結構ミカン経由で資金融通なんかしてたんだが、これもなんの遠慮もなく「ミカン社は身内」って内外にアピールできる存在である、学生:黒井タクミの存在が大きかったんだ。学生の進路についても、内情まで知ってくれている教授や講師陣からの紹介ならうちも安心して採用できるしね。

 

 もちろん最新の研究結果を研究機関から直接フィードバックできるってのはミカン社にとっても大変美味しい状況なわけで、特にコンピューターの処理速度向上みたいな基礎分野の研究を自社で行わずに済むのは大変ありがたいものだ。

 

 それこそ前世におけるアップル社レベルの会社なら自社だけでもなんとかなるかもしれんが、今のミカン社には基礎研究にまで手を回す人員は居ない。資金源になるゲーム部門もおろそかに出来ないし、なんなら社員達はゲーム部門の方がミカン社の本体だと思ってるまであるしな。基礎分野の研究をしてくれ、と言ってもノリ気にさせるのはちと難しいだろう。

 

 いや確かにゲーム部門の成長率はやばいしミカン社全体の売上の9割以上を占めてるけどさ。ミカンシリーズの将来性についてもぜひ社員一同には考えてほしいものである。

 

 まぁ、ミカンシリーズについては超強力な助っ人も見つけたしな……誰がエロティシズムやねん。いや、違うそうじゃない。

 

「それで、どーしたんですか? あ、もしかしてタクミちゃんもうちゅーじんに」

「なりたくないわい」

 

 ついつい脳内が最近トップレベルの衝撃で一杯になってしまったが、菜々の言葉でわたしはしょうきにもどった!

 

 ちなみにエロティシズムってのは禁じられた行為に対する性的興奮の事で私がなんかエロいってわけじゃないぞ。あの坊さんが私が声をあててるマンハッタンファイトの女性PC、甲賀クナイちゃん(17)を見て勝手にそう呼んできただけだから。

 

 なんでもうら若き少女が苦悶の声を上げながらも巨漢の男たちに立ち向かう姿にリビドーを感じたらしい。おい坊さんお前はそれでいいのかと思わず顔を赤らめて叫んだのは記憶に新しい。

 

 前世だとそこそこ経験があったから、うぶなねんねって訳じゃない……筈、なんだが。どうにも最近、下ネタなんかに対する耐性が下がってきてるような気がする。

 

「いや、それはいいんだ重要なことじゃない。ええと、だな。こないだの記者会見でだな」

「スゴかったけど、ほんまつてんとーって言うんですよね!」

「……あんなんなるとか普通考えないから(震え声)」

 

 菜々の言葉に含まれる刃がガシッ!ボカッ!スイーツ♪と私の心を抉る。震える呼吸を整えて、菜々に視線を向ける。聞きたいことの前に言うべき言葉が出来てしまったのだ。

 

 声を震わせながら指を指し、私は奈々にゆっくりと言葉を放つ。

 

「良いか、菜々。大人にはな、なんでこんな状況になってるのかよくわからないって時があるんだ。ノリとイキオイで誤魔化すっきゃない時が……正直すまんかった」

「もーちょっと考えて生きたほーがいいとおもいますよ?」

「10年20年後のお前なら分かるから覚えとけ(震え声)」

 

 膝から崩れ落ちながら、ありったけの怨嗟を込めてそう言葉を振り絞る。この眼の前の小娘が。いつか、この日の自身の言葉を思い返し吐血するほど恥ずかしくなる目に合うことを願って。

 

 

~ 20 years later~

 

「げふっ」

「え、ちょ。菜々ちゃん!?」

「な、菜々は! 菜々はなんで……17歳……っっっ!なんで、10年前の菜々は……っっ!!」

 

 346本社一階のカフェで、もはや趣味として店員をしている安部菜々は年に一度やってくる謎の焦燥感と幼い自分の言葉に胸を焦がしながら蹲る。

 

 17歳(~ヶ月)等と揶揄されながら生きたこの10年。たった一度の冗談であったはずなのになぜか普通に認知され、気づけば止められる段階を超えてしまい、そして10年の月日が経過し。

 

 もはや勢いで年齢設定を貫く彼女の姿は、奇しくも20年前。己の前で膝から崩れ落ちた黒井タクミの姿に酷似していたのであった。まる。

 

 

~ 20 years ago~

 

 

 

「せ、せなかがぶるぶるします」

「菜々ちゃん大丈夫!?」

「んだちみっ子。風邪か?」

「……なんだかタクミちゃんのせいなきがします」

「なんだそりゃ」

 

 パシャパシャとカメラの前でポーズを取っていると、急に体を震わせて菜々が蹲り、共に宣材を撮っていた小鳥が慌てたように駆け寄り、声をかける。冷房はそんなに効いているようには感じなかったが、少し肌寒かったのだろうか。二人用の衣装はそれほど露出のあるデザインじゃないんだが。

 

「寒かったらロングソックスにでも変更するか?」

「いえ、そうじゃ……いいです。このお洋服、かわいいからすきですし」

 

 私の言葉になんとも言いづらい顔で返事を返し、菜々が立ち上がる。うん、よく似合ってるじゃん。

 

 今日の二人の衣装は私の意思が大きく反映されたデザインだ。二人の年齢を考えて少し丈が長いブリーツスカートに銀ラメが随所に入ったセーラー服、そして頭に2本の触覚付きのカチューシャ。区別としては小鳥が黄色、菜々がピンクのスカーフを巻いているくらいだろう。

 

 うん、どこからどう見てもちょっと背伸びしたお子様にしか見えんな。

 

 い、いや。少しだけ言い訳をさせてほしい。私の中で女の子の宇宙人ってラムちゃんで、ラムちゃんの格好と行ったら虎柄ビキニかセーラー服なんだよ。流石にこの二人に虎柄ビキニなんか着せるわけにはいかんからセーラー服にしたんだよ。

 

 あと銀ラメ入ってるからそこそこ宇宙人っぽさも醸し出してる。

 

「宇宙人っぽさってなんですか?」

「……ワレワレハ宇宙人ダ」

「わー、扇風機の前で声出したみたいですね! タクミさん凄い!」

「せやろ(どやぁ)」

「小鳥ちゃん、タクミちゃんはほめられるとちょーしにのるからきをつけて!」

「へいちみっ子???」

 

 聞き捨てならない言葉を放つちびをアイアンクローで締め上げつつ、悲鳴を上げる菜々と何故か菜々よりも痛そうにピヨピヨとさえずる小鳥を見て、ふっと頬を緩める。

 

 今は年相応の姿を見せる二人だが、先程までカメラに向かって向けていた二人の表情はもう一端のプロの顔だった。

 

 TVに慣れている菜々の方は兎も角、小鳥がこの短期間で順応してくれたのは嬉しい誤算だな。ニューヨークのクラブで場馴れさせたって話を聞いたときは”キング”が狂ったのかと思ったが、その荒行を乗り切った小鳥の舞台度胸は本物だ。あっちの観客は日本と違って面白くなければ本気でこき下ろしてくるからな。

 

「ま、それでも。いきなり崩れたのはいただけねーがな」

「ぜったいにタクミちゃんがなにかしたんです……」

「してないわ! 私は別に呪術師でもねーぞ、ったく」

 

 ぺしっと鼻先を指で弾き、菜々の乱れた服を軽く整える。宣材の撮影は961本社の一室で行われている。で、この961ビルには、建てる際に私が要望して最新設備を整えた音楽スタジオがある。

 

 つまり、だ。

 

「準備はどうだ?」

「いつでも」

「オッケーです!」

 

 長い言葉で尋ねることはしない。目の前にいる二人は一人前のプロだ。そう思いを込めて尋ねた私の言葉に、菜々と小鳥はまっすぐに私の目を見据えてそう応えた。

 

 にぃ、と頬を釣り上げ、私は手振りでついてくるよう二人に伝える。

 

 舞の渡米からこっち、日本のアイドルを取り巻く一つの空気。舞と渡り合った。その一事でもってユニットアイドルならば売れる、等という思考停止の状況を変える、鮮烈な一撃。

 

 自分や舞のような荒々しさはない。だが、この次の世代に必要なのは荒々しさではない。第三の黒船としてこの二人を選んだのは。この二人が時代に選ばれたのは、才能だけが理由ではない。

 

 アイドルという存在に対する、想いの強さ。アイドルという概念を育てていくのに必要なそれを、私と黒井はこの二人から感じたのだ。

 

「ま、船は船でも宇宙船だがな」

 

 手に持ったCDケースを、さながらUFOのように右の人差し指でくるくると回す。おぉ~、と後ろに続く二人が歓声をあげるのを聞きながら、私たちは撮影スタジオを後にする。

 

 そして1月前後。両A面として発売された二人のデビューシングル、『エイリアン・エイリアン/UFO』は発売1週間でミリオンヒットとなり、日本は空前の宇宙人?ブームを迎えることになる。

 

 なおインタビューで「タクミちゃんいろいろだらしないからそんけーできません」とカメラの前で断言する菜々を各マスコミが英雄のごとく扱うようになるのは、また別のお話である。




両A面シングル:日本のシングルはメイン曲をA面、B面はおまけという印象が強いが、プロモーションの仕方やB面の方が人気が出る、等という諸々の事情で両方をA面とする場合があった。今回は最初から両方をメイン曲として扱っている(くどい説明)

ジョブ・素底部:一体何ジョブズなんでしょうね。



クソ女神様とタクミっぽいのの小劇場


クソ女神さま
「闘争を司る以上負けっぱなしというのは出来ないのよ」

「あ、ああ。そういう意味合いね。てっきり単なる負けず嫌いかとばっかり」

クソ女神さま
「…………」

「そこで黙るのは逆に雄弁にすぎるんだが」

クソ女神さま
「神になっても悔しいものは悔しい」

「それ色々台無しなんだけど大丈夫?」

クソ女神さま
「別に私は解脱して神に至ったわけじゃないから」

「だからブッダ様に信徒取られたんだな? 信徒にすらなるかわからんかったが」
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