この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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何回書いてもライブのシーンが難しかった。楽曲上手く使いこなしてる人すげぇ

誤字修正。MUI to YUI様、路徳様、サンダーミアン様、たまごん様、げんまいちゃーはん様、ARR様、kuro様、sk005499様、赤い羊様、科駄芽様ありがとうございます!


このユニットなき世界で

「好きなキャラクター? マンハッタンファイトの甲賀クナイ一択だよ」

「体力ゲージ残30%の、衣服のほつれ具合と声がキュートだよね」

 

~NYゲームショーレポ 法衣を着た男性へのインタビューにて~

 

 

 

 

 うだるような夏のある日。武内 力丸と彼の父親は、とあるライブ会場までの通路を歩いていた。外は生憎の雨模様。外に居るうちは夏の暑さを洗い流してくれたありがたい雨は、屋内に入った途端クーラーの冷気で衣服を冷やし、体を震わすほどの寒さとなって襲いかかってくる。

 

「力丸」

「なに?」

「寒いか」

 

 ブルリ、と体を震わせる力丸を見て、父親は立ち止まり彼にそう声をかける。その言葉に素直にうなずいた彼を、父親は黙って抱き抱えた。

 

 父親は彼を抱えたまま足早に通路を歩く。力丸が大事に持つパンフレット型の入場券――彼にとっての宝物――に書かれた会場までの道筋は、ほぼ問題なく覚えこんでいる。それに、自分たち以外の観客は止まること無く一方に向かっており、間違えた道に入ることもなさそうだ。

 

 ある程度歩くとスタッフらしき影が見えてくる。どうやら入り口にたどり着いたらしい。何故か全員がセーラー服を身に着けたスタッフ達は、よほど入念に打ち合わせをしてあるのか。父親の目から見ても多すぎると思う観客たちを迷いなく、淀みなく裁き会場内へと案内していく。

 

 その動きを見て、こういったイベントごとには疎くあまり良い感情を持っていなかった父親も少しだけ、見直すように一つうなずいた。

 

 スタッフの指示に従い、整然とした動作で中へと入る列へ加わり扉を潜り抜けた、その時。

 

 力丸と父親は、確かに空気の質が変わるのを感じた。先程まで感じていた肌寒さは一瞬の内に消えて失せ、中に入って数分もしないうちにじんわりと汗ばむ程に体温が上昇している。

 

 暑いのではない。むしろ会場内はこれまでの通路以上に冷房が効かされている。人数が居るからその分温度が上がっている、というのも間違っていないが正しくもない。これはそんな単純な温度の話ではない。

 

 活火山の真上とでもいうべきだろうか。巨大な熱源の側に立っている。そんな有り得るわけもない幻想が、力丸の父の脳裏を過ぎる。

 

 指定された座席の位置にたどり着く。見ると1区画を括るように張り紙と番号が書かれている。どうやらこの一塊のエリアのどこに座っても良いという方式らしい。前側の席はすでに埋まっていたので、奥側の通路に近い席を選び、座る。

 

「お父さん」

「なんだい」

「たのしみだね、ライブ!」

「……ああ」

 

 キラキラとした目で自分を見上げる力丸の声にそう曖昧な返事を返し、父親はステージを見る。

 

 あのラジオを聞いてから、息子は変わった。以前は自分や妻の言葉なら疑うこと無く頷いていた。だが、今は違う。自分で考え、自分で決める。納得できなければ頷かないし、自分が納得できたなら貫き通す。

 

 よく言えば一本気のある、悪く言えば頑固。二次性徴も迎えていない、まだ10にも満たない子供が、である。

 

 たった一日、それも数時間にも満たない応答で、自分たちの息子は大人への階段を駆け上がったのだ。

 

 年相応の顔でステージを眺める力丸を見ながら、父親は小さく嘆息をつく。この変化が正しいものなのか、間違っているのか。それを確かめるためにこの場に来たというのに、自分はもう飲まれかけている。会場の空気、感じる熱量。その全てが彼の冷静さを奪っていこうとささやきをかけてくる。

 

 ――開演までは、もうまもなく。

 

 ステージを見つめる観衆のボルテージは限界に近づいていた。

 

 

 

 会場を覆う熱気が熱波となってステージを通り、舞台脇を吹き抜ける。

 

 この空気を何度浴びても慣れることはない。そう思いながら、衣装に乱れがないかを軽く確認する。

 

 うん、バッチリ!

 

 チラリと隣に立つ相棒へと目を向けると、彼女は自分たちの持ち歌を口ずさみながらダンスの振付を復習しているようだった。気負い過ぎにも見えるが、彼女は完全に本番型のタイプだ。事前に想定したパフォーマンスを本番の調子次第であっさり上回ってしまう。見る限り調子は悪くなさそうなので、実際にステージに立ってしまえば問題はないだろう。

 

 自分もよし。相棒も、よし。なら、後はもうやるしかない。やるっきゃない。

 

 くるりと振り返る。そこにはパタパタと暑そうにうちわをあおぎながらこちらを見る彼女に目を向ける。光沢のある黒い長髪を後ろで束ね、Tシャツにデニムのショートパンツというラフすぎる格好の彼女。これから自分がプロデュースするアイドルが初ライブを迎えるというのに、まるで気負わないその姿に思わず苦笑いが出そうになった。

 

 これが、この娘がわたし達の仕掛け人。

 

 リーダーとアネットと私を引き合わせてくれた恩人で……リーダーの夢の幕を引いた、魔法使いの女の子。

 

 わたしの視線に気づいた黒井タクミは、ポリポリと頬をかいた後にいたずらっ子のような表情を浮かべて、両手の指で自らの口角を釣りあげた。笑顔のジェスチャー。遠慮せず笑え、とでも言いたいのだろうか。

 

 なら、遠慮はしない。彼女の作った笑顔のポーズに応えるように、わたしも両手の指で口角を上げる。

 

「タクミさん」

「ん」

「みんなを、笑顔にしてきますね!」

 

 このポーズのように、と指で両方の頬を軽く叩くと、タクミは少しだけ目元を緩ませ、そして頷いた。

 

「菜々ちゃん!」

「あー、うー。いつもとキンチョーが……はい?」

 

 呼び声にこちらを見上げる相棒の視線に、更にテンションを上げる。上目遣いにこちらを見る彼女は反則的に可愛い。こんな娘が相棒で、これから一緒にステージに立ち、タクミの作った歌を歌う。

 

 それがどれだけ楽しいか、想像しただけで心のワクワクが止められない。テンションに任せて思わず彼女を抱きしめると、胸元から「うきゃー」という悲鳴が聞こえる。

 

「ね、菜々ちゃん!」

「もー、なんですか小鳥ちゃん!」

 

 腕の中から開放した菜々が眉を寄せてこちらを見る。少し失敗、と反省しながらわたしは彼女に向き直る。

 

「『貴女は、貴女の音楽を感じている?』」

「ほえっ?」

「うふふっ」

 

 音楽の基礎を叩き込んでくれた師の言葉。歌を歌う時やステージに立つ時、いつも心の中に思い浮かぶ言葉。

 

 自分の中の音楽がなんなのか、それはまだわたしには分からないけど。

 

「頑張ろうね、菜々ちゃん」

「も、もちろんですよー! ふんす!」

「力まない。笑顔、笑顔だよ!」

 

 そう言って、わたしは両手の指で口角を上げて笑顔のポーズを見せる。笑顔は素敵だ。臆病なわたしに勇気を与えてくれる。誰かの前に立つ力をわたしに与えてくれる。

 

「小鳥ちゃん、菜々ちゃん! 時間です!」

「はいっ!」

「はーい!」

 

 相棒の右手を左手で握る。ちらりと振り返ると、こちらに親指を立てるタクミの姿。ぐっと菜々と一緒に親指を立てて彼女に向け――わたし達は、ステージへと駆け出した。

 

 

 

 フッと消える照明に、ざわめきの声が会場内に広がる。

 

 停電か? しかしクーラーは動いている。最低限の照明、それこそ常夜灯にも劣るような光源はあるが、スポットライトやステージ上の照明などは軒並み明かりが消えた。

 

 隣に立つ人物の顔も判別できない薄暗さ。そんな中、十秒、二十秒。時間の経過と共に少しずつ暗闇に目がなれてきた観客たちは、とある事に気がついた。

 

 ステージの上。先程までは何もなかったそこにある、時折キラリと光るなにか。最前列に居た者の声で周囲が気づき、そこから伝染するように『正体不明のなにか』は彼らの口から口へ、やがて最後列まで伝わっていった。

 

 そして。

 

 パっと光る光線群。それまで沈黙していたスポットライトが光を放ち、光線をステージに向けて解き放つ。暗闇の中を貫くように走る光の束。その眩しさに観客たちが目を伏せる。

 

 ――最初に気づいたのは、やはり最前列の者だった。眩む視界の中、『正体不明のなにか』に視線を向け続けていた彼の努力は、最も早くそれを目にするという名誉で持って報われる。

 

 それを日本の言葉にするのなら、円盤だろう。ふわふわとした様子で揺れながらステージ上に漂う円形のなにか。先程までは姿が見えず、今は見えているのにも関わらず正体不明の円盤。そして、その円盤から放たれた二本の光に包まれ、まるで円盤から降り立ったかのように佇み、目を閉じ顔を伏せる二人の子供の姿。

 

 先ほどとは別種の歓声に近いざわめきが起こり、そしてすぐに止む。

 

 耳障りな不協和音が流れ始めたからだ。甲高く、不安になるようなその音の波に観客たちのざわめく声はかき消されていき、やがて不協和音だけが会場内に響き渡る。

 

 これは危険だ。何かが迫っている。少しずつ早くなるテンポ、迫りくるなにか。音による危機感に観客たちは固唾を飲んでステージに目を向けそして。

 

【U・F・O】

 

 顔を上げた二人の子供が、全てを塗りつぶして掻っ攫う。

 

 高められたボルテージが、掻き立てられた危機感を。諸々全てを薪にして、二人の子供はテンポに合わせて踊り出す。

 

 単調なリズムのベースに合わせて上下する二人の腕。沸き立つ感情を持っていかれた観客たちの目は全て二人に釘付けられ、上下のリズムが彼らの脳に染み渡る。

 

【手をあわせて見つめるだけで】

 

 くるくると回る指。踊る足。

 

【愛し合える話もできる】

 

 一つ一つの動作が彼らの視線を捉えて離さない。

 

【口づけするより甘く ささやき聞くより強く】

 

 10歳前後の少女たちの歌が、仕草が。ほのかに揺れるその瞳が。

 

【私の心を揺さぶるあなた】

 

 観客たちの心を掴んで、離さない。

 

【信じられないことばかりあるの もしかしたらもしかしたらそうなのかしら?】

 

 マイクを持つ音無小鳥の。安部菜々の視線が交差する。

 

【……それでもいいわ。近頃すこし】

 

 笑顔の深さを変えて互いに向かい合い、微笑みを交わしながら観客席を指差して。

 

【地球の! 男に! 飽きたところよ!】

 

 蠱惑的とすら言える笑みを浮かべて、二人の初ステージは幕を開く。

 

 

 

 

「エイリアンって異星人ってより侵略者とかって意味らしいんだよね」

「かわいくないのでチェンジしたいです」

「お、ダメだぞ?」

 

 すでに諸番組で可愛くないことやらかしてる癖にこのちみっ子は何を言っているのか。おめーの相棒なんかほれ、エイリアンモードの小悪魔スタイルと普段のギャップ萌えでキャラ立ちしまくってるじゃねーか。ギャップ萌え、いい言葉だ。どっかにそれまでツンケンしてたのに嫁さんがハタかれた瞬間に『よくもオレのブルマをー!』とかキレ芸してくれそうなイケメンいねぇかな。あ、嫁持ちじゃつばつけられんか。

 

「小鳥ちゃんといっしょにしないでください。オンオフすごすぎてたまにポカーンてします」

「ピヨもかい!キング塾の塾生だからなぁ」

 

 なんせあいつ、初ステージが1ステージうン百万のギャラが出るクラブだったからな。普段ぽやぽやしてっから忘れがちになるが、あいつは現在この世に3名しかいないキングオブポップとクイーンオブポップの薫陶を受けたアイドルだ。

 

 カメラの前に立つ経験なら菜々のが圧倒してるだろうが、ことステージの上じゃまだまだ小鳥が引っ張る形になるだろう。

 

 その小鳥相手に相棒として成り立ってる菜々も大概なんだがなぁ。こいつはこいつで理想が高いから若干気にしてるというか、相棒に引っ張られる形になってる現状は思う所もあるようだが。

 

 そこら辺の勤勉さは好ましいもんだし私も買ってるんだが、その辺は適材適所だと思うんだけどね。ピヨの方は逆に菜々のバラドルとしての能力を羨ましがってるし。

 

「あいつピンだと本当にアドリブド下手くそだからな」

「さ、さんぽさんとかが司会の時はもうちょっとちがうと思いますよ?(震え声)」

「上手く料理してくれる人じゃないと扱いきれないんだな、わかります」

 

 逆にそこがコンビの時とまるで違ってウケるかもしれんが、しばらく一人でお仕事に出すのは難しいだろう。ステージだけならなんも心配しないで見れるんだがな。

 

 その点、菜々の方はピンでの仕事を元々やってたから安定感がある。というか娯楽方面の番組だと菜々以上のアイドルってのが正直思いつかないくらいだ。

 

 世間では天然入った面白いちみっ子のイメージが強いんだろうが、菜々の一番の武器はそこじゃない。こいつの一番の武器はむしろ状況や人物を見てその時最善の行動を感じ取る地頭の良さと、それをあえて崩せる思い切りの良さだ。

 

 面白さってのはセンスも勿論だが、それ以上に求められるものはタイミングだ。芸人というその道のプロですら一部の上澄みしか感じ取れない好機を感じ取る抜群の嗅覚と、それを踏まえた上でその状況を使いこなす柔軟性。

 

 自分が最も輝く瞬間(笑いが取れる)を躊躇なく他者に投げられるのは、自身が輝くよりも尚難しい行為だ。少なくともそこらの芸人、それこそ大御所と呼ばれる人間ですら難しいかもしれない。

 

 芸人出身の司会者に菜々が人気なのもその辺が大きいだろう。将棋で言えば飛車角の働きも出来る金。いや、むしろ桂馬も出来る竜馬って所か。指し手としてはこんなに便利な奴はそうそういない。

 

「ま、今は居ない奴の事を延々話しても仕方あんめぇ。ほれ、手を動かせ、手を」

「タクミちゃんがはなしかけてきたじゃないですかぁ!」

「お、そうだな(めそらしー)」

 

 がおー、と吠える菜々をなだめすかし、あやしながらペンを握らせる。雑談にかこつけて多少は休憩させたしあと100枚はイケるやろ。

 

 何をしているのかというとあれだ、直筆サインである。私もボトムズのレコードにやってたアレだな。私の場合はイラストまでつけてたけど。

 

 初回特典に直筆サイン。元手が全くかからない上にサインの練習にもなる圧倒的鉄板の販促方法である。私はイラストまでつけたけど(重要なことなのでry)

 

「菜々のおえかきでよければいれますけど」

「そういうのは次回でいいかな。お前のおえかきだと微笑ましすぎるわ」

 

 それもギャップ萌えかもしれんが、もう少しエイリアン×エイリアン(お前ら)には小悪魔チックな路線でいってもらいたいからな。

 

 そう、小悪魔チックというか、エイリアンモードというか。この二人にはしばらくの間、そういったキャラ付けでユニット活動をしてもらい、黒井タクミ・日高舞に続く第三の黒船、侵略者になってもらいたいのだ。

 

 日本歌謡界を新しい時代へと誘う、侵略者に。

 

「おフネの絵をかけばいいんです?」

「集中力切れたな??? ま、いいや、次のシングルに入れちまおう。私んときは意外とバレなかったから大丈夫っしょ」

「わーい! 『エーリアン わたし エーリアン~あなたのここーろを』」

 

 早熟とは言え所詮はちみっ子。サイン書きに早々飽きたらしく、許可を出すとすぐさま持ち歌を口ずさみながらお絵かきに興じ始める。このシーンカメラで収めたら全国のちみっ子ファンが尊死するかもしれんな、用意しとけばよかった。

 

 と、どうもプロデューサーとしての意識が前に出過ぎちまうな。いかんいかん。ちみっ子の髪をぐしゃぐしゃとかき回して冷静さを保つ。

 

「あ、なにするんですかー」

「おっと手をぐしゃるのに最適だからつい」

「もー! タクミちゃん! モー!」

 

 私怒ってます、と全身で表現する菜々にへらへらと笑って謝りながら、ついでに軽く頭を撫でる。あくまでもついでだ。

 

「ピヨが握手会から戻ってくるまでに、サイン書ききるぞ。なんなら代筆したろうか?」

「わかりましたけど、それはなんだかダメな気がします」

 

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でながらそう尋ねると、菜々は神妙な表情でそう返事を返した。

 

 そっくりに書けるんだがな?




エイリアン×エイリアンは持ち越されました(しろめ)
いや、UFOのイメージがものすごい強くて情景描写が(言い訳)


クソ女神様とタクミっぽいのの小劇場

クソ女神様
「でもあの男はブッちゃん先輩の忍耐ガードも越えてきそうだけど」

「三回くらいは平然と越えてきそうだな」

クソ女神様
「私の方で引き取るのが先輩の為になる気がしてきたわ」

「気のせいだぞ。そもそも信仰対象は人に選ばせてやろうぜ?」

クソ女神様
「信仰は奪い合うものでしょうに。むしろ有情な理由じゃない?」

「リクルートどこ? この業界怖すぎ」

クソ女神様
「貴女だと徳が足りないわ。信仰でも良いけど」

「悪魔にどうしろと?」

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