この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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おまたせしましあ(燃え尽き並感)


誤字修正。路徳様、日向@様、たまごん様、N2様、牛散歩様、3104imas様、豚々様ありがとうございます!


このエイリアンなき世界で

 流行。

 

 言葉にするとただそれだけの文字だ。ある様式や風俗が世間一般に広まりもてはやされるというたったそれだけの事。それにどれだけの人間が心血を注ぎ、そして惑わされてきた事か。

 

 パサリ、と本日付の新聞を机の上に広げる。

 

【巻き起こるエイリアン旋風!】

【貴方はピヨちゃん派? それともナナちゃん派?】

【改造セーラー服大流行! 乱れる学生たち】

【エイリアンダンス特集!】

【タクミちゃんカットの全て】

 

「成程ね」

 

 紙面を彩る文字。その不可思議な魔力――この状況を作り上げたのは自分だ、という昏い自負心と功名心がふつふつと湧き上がるのを感じ、それを言葉にすることで胸の内から外に吐き出し。

 

 瓶コーラをグビリと一口飲んで、泡と共に残滓を胃袋に流し込む。

 

「カーッ、うまい!」

 

 マスコミ関係の人間がよく態度に出す全能感。”世間を握っている”という傲慢に過ぎる感覚の正体はこれかあ。と内心で納得しながら新聞を片付ける。こんだけ自尊心を露骨にくすぐられると、普通の感覚なら天狗になるわな。

 

 仮に私に前世というブースターがなく、全く真っ白な状態からこの状態を作り上げたとしたらヤバいかもしれんな、平静で居られる自信がないわ。

 

 そう考えると理性的な対応をとれていた一部のマスコミの人たちは本当に凄い連中なのかもしれん。『な音』でメインカメラやってたあの兄ちゃんとか、後はパッパや高木さんの友達の善澤さんとか。

 

 私が日本のマスコミ嫌いだって噂があったせいで(なんとパッパですらそう思っていたらしい)あんまり接点はないけど、私が米国から日本に戻る際の騒動では高木さんと共にパッパたちが『勤めていた』会社をキレイキレイしてくれたらしいし。

 

 あれ、結構世話になってるな。私があんまり知らんだけやん。

 

 ……と、兎に角、だ。

 

「エイリアン×エイリアンの活動は順調。というか頭に超とか絶を入れてもいいくらいに好調だね。タクミちゃんカットはなんだこれ聖子ちゃんカットの亜種か?」

 

 例の記者会見以降、町中の女子連中が大体ボンパドゥールリーゼントかポニーテールになってるのは笑えるを通り越してホラーにしか思えんぞ。空前の賑わいに全国の理容組合からは何故か感謝状が送られてきたけど。

 

 経緯が経緯だから正直私としては失敗の色合いのが強いんだが、本命である小鳥と菜々のユニットは順調だし……まぁ問題はないだろう。

 

 このまま二人が活躍していけば、一時の流行に乗った粗製ユニットアイドルはほぼ消える。別にユニット活動が悪いって訳じゃないが、ただ単に流行に乗っかるだけの連中がのさばっちまうと、折角育ってきているアイドル業界がまたしぼんじまったかもしれない。

 

 幸姫ちゃんが残したガラスの靴(アイドルの火)を、次の時代の灰被り(シンデレラ)に渡る前に壊すわけには行かない。それは、それだけは駄目だ。

 

「まぁ」

 

 そこまで考えて、ふぅ、と一つ息を吐く。

 

「あの二人なら、私が手を回さなくても大丈夫だった気がするけどね」

 

 テレビ画面に視線を移す。丁度開いていたニュース番組でも、チャンネルを変えたバラエティでも。どれを見ても世間はエイリアン×エイリアンの二人にお熱な状態にある。

 

 そもそもが魅力的な二人で、才能はピカイチな上に話題性も有る。更にダメ押しに魔法(ドレス)もかかっている。

 

 本来の二人のキャラクターに、更に宇宙人としてのキャラ属性の付加。そして単調で覚えやすく、かつ踊りやすいダンス。一度聞いたら忘れられない特徴的なメロディ。徹頭徹尾大衆受けを狙い、そしてその結果がこのバズり具合である。

 

 萌えって概念自体は割と古く、それこそ竹取物語とかあの辺くらいから日本人はキャラ萠え好きだったりする。日本人にとっては割とポピュラーな感情だったりするのだ、萌えるってのは。

 

 まぁアイドルに物語性を付加してキャラ属性を足すってのはこの世界じゃ初の試みかもしれんが、現状は予想以上にうまく行っている、と言えるだろう。

 

 当初は確かに私のプロデュース、という要素が耳目を集めていた。だが、たった数度のライブで瞬く間に広がったファンを虜にしたのは、これらの魔法(ドレス)を身に着けた二人の力だ。この調子で小鳥と菜々には日本人の心の奥底に眠る萠え属性(性癖)を揺り起こしてほしいものである。

 

「――案外」

 

 舞は海外に行くの、早まったのかもしれんな?

 

 その言葉を口の中に飲み込んで、テレビのリモコンを手に取る。今日は日曜日で連載されていたロボット漫画【アイアン二十八号】が待望のアニメ化を果たした記念すべき日である。

 

 このまま邁進して、いずれは……右手を握りしめ、バキリと音がしたリモコンを慌ててテーブルの上に置く。最近、力加減がうまく出来ない時がある。あの魔術師かぶれの漫画原作者曰く、どうも未だに私の肉体は成長し続けているらしい。

 

 ……一度、体をしっかりとコントロール出来るように訓練でもした方が良いんだろうか。このままじゃマイク握った瞬間粉砕しかねんぞ、これ。

 

 

 

 

 富・名声・歌。この世の全てを手に入れた女、ロック王ブラック・タクミ!

 

 彼女が戯れに放った一言は、人々をステージへと駆り立てた!

 

『私の歌ァ? 欲しけりゃくれてやる。歌え! この世の全てはそこにある!』

 

 人々はニューヨークを目指し、夢を追い続ける。

 

 世は正に、大ロック時代ッッッ!!!

 

 

 

「なぁにこれぇ」

「全米オーディションのCMだろ」

「全米オーディションのCM」

 

 CMとは一体、と呟きながらソファに寝そべる私を避けるようにしてパッパがソファに座る。すでに数回開催されているこの催しの優勝者には毎回私が作曲した歌がプレゼントされており、嘘は言ってないのだがなんだか釈然としない内容のCMである。

 

 こんな言葉いつ言ったっけかなぁと不思議に思いながら、黒井パッパの邪魔にならないようにソファから起き上がり、その隣に座る。寄りかかると重いだの鋼鉄製だのと心外な言葉を吐かれるからな。隣に座るだけだ。

 

「チャンネル、変えてもいいか」

「いいよ。アニメ終わったし」

 

 毎日18時のアニメタイムはすでに終わっている。最近は漫画ゴッドだけでなく少年飛翔系列のアニメ化も進んでいて、おばちゃんとしては嬉しい限りである。

 

 特に今日の番組は『星闘士せいやっ!』ってどっかの女神直属拳闘士達がこまめに半裸になる番組で良い目の保養になった。勿論もっとも嬉しいのはロボがロボロボしく戦う作品なんだがまぁそれは週末のアトムと最近始まったアイアン二十八号を楽しみにしよう。

 

 アニメ化したこの2作の影響か、ここ最近の日本漫画ではロボットをメインに扱う漫画も増えているんだ。どっかで見たことの有る虚無感バリバリな作風の人とかさ。

 

 鉄の城がそろそろロールアウトされるのではないか気が気でないぞ。毎週の購読にも熱が入ろうというものである。

 

「本業に障りがない程度にしてくれよ」

「失礼な。デッカいマネーを生み出してる以上これもれっきとした本業だよ! 日米で盛り上がるコミックブームに乗ってコミック>アニメ化の流れも順調! アメリカで放映されたアニメの輸入と逆にこちらから輸出したアトムを始めとする日本アニメの放映も順調! 欧州やアジア圏での放映権売買の話も上がってきてるしこの流れに乗ってグッズ販売も絶好調の倍率ドン!」

「お、おう。お前の流行に関するセンスは信用してたが、正直ここまで一気に形になったのは予想外だったよ」

「へへへ。それ褒めてる?」

「……勿論だ」

 

 若干引き気味になりながらそう言われると微妙な反応しか返せんのだが。元々前世で流行ってた産業をタイミング見計らって出してるだけでほぼインチキみたいなもんだからな、あんまり偉そうにするのは気が引けるんだ。

 

 個人的には種だけ巻いて、後は誰かが育てて大輪の花が咲いたあたりで一消費者としてそれを享受したいんだがね。完成形を知っている人間が私しか居ない以上、私が馬車馬のように働かないと望んだものは手に入らないのだ。

 

 まぁ、その甲斐あってか。私としてもほぼ人生の目標とも言えたアニメ産業を興す事に成功したし、最近では何やらハリウッドの方で私が自分たちのレコードに(勝手に)封入していた「装甲騎兵ボトムズ」の映像化を、という話も出てきた。

 

 勿論間違ってもハリウッドで映像化なんて特大の地雷を踏む気はない。ないが……そういう話が出てくるということはだ。世間がその手の作品――ロボット物やSFといったジャンルに興味を持ってきたという事でも有る。

 

 風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私のほうに。 中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。

 

「お前は……いつだって前に向かっているんだな」

「当たり前じゃん」

 

 少しだけ、顔をこちらに向けた黒井の言葉にふっと笑みを浮かべながら視線を返す。

 

「人生あっというまなんだ。立ち止まってる暇なんて一欠片もありゃしないよ? 私は()()()()()()()を我慢できないししたくもない」

「……お前の夢は、全力でだらける……だった筈だが」

 

 心底呆れたような、羨むようなその声。視線の先の黒井は笑おうとして失敗したかのような、覇気のかけらもない有様だった。

 

「音楽も、漫画も、アニメも。コンピューターだって」

 

 だからだろうか。

 

「私は、自分がそれを欲しかったから。欲しい物がなかったから、一から作りあげたんだ。その為に私はあの日、貴方の手を取った。そして、貴方は私の手を引いた」

 

 柄にもない義父の不甲斐ない姿に、年甲斐もなく熱くなってしまったのは。

 

「そうだろ、黒井崇男さん」

 

 向き直るようにして真っ直ぐ自分を見つめる私の視線を。

 

「――ああ、そうだな」

 

 黒井はそう口にして、ただ見つめ返した。

 

 

 

 画面から流れる聞き覚えのある音楽。釣られるように私と黒井は視線を移し互いに無言のまま画面に移った二人のアイドルの姿を見る。

 

 そういえば今日は連中、音楽番組の生放送だったか。成程これが見たかったのかと下がりかけたパッパへの評価を上方修正しておく。そういや朝方「見てくださいね♪」って小鳥に言われてたんだ。パッパグッジョブ、愛してるぜ。

 

 そんな事を画面越しに思われているなど知る由もないだろう音無小鳥と安部菜々は、普段通りに二人用に改修された改造セーラー服を身にまとい、スポットライトに照らされながらステージに現れた。

 

 音楽に合わせて揺れる照明。カラフルな照明によって演出されたステージは、明るすぎず、暗すぎず。夕暮れ時のような印象を視聴者に与えながら、二人の演技を引き立てる。

 

 音楽に合わせて揺れる二人の髪。少し小さめのスカートがはためく姿に日本中の男どもの反応を思い浮かべてうんうん頷いていると、黒井がぎゅっと両手を組み、握りしめる姿が目の端に映る。

 

 TV画面に固定された視線にふぅ、と一つため息を吐き。

 

「ぐえぇっ!?」

 

 脇腹を”軽く”摘んでやると、潰れたカエルのような声を上げて黒井が飛び跳ねる。加減しておいたんだが随分と大げさな。せいぜい内出血するかも、くらいだろうに。

 

「お、お前なに……!」

「大方、音無琴美がうんたらかんたらとかつまんねー事思い返してるんだろうけどさ?」

 

 声を荒げる黒井の言葉を遮って、TV画面から黒井に視線を向け直す。彼の視線に混ざる濁った感情の正体がようやく理解できた。

 

 私の視線を受けて開きかけた口を閉じる黒井にため息を一つもらす。高木といいどうしてこううちの会社の男どもは過去の女を引きずってんだ。マリッジブルーか? 男のマリッジブルーなんぞ女々しいにも程があるだろうに。

 

「あの画面に映ってるのは音無小鳥で、パッパは私の手を取った。パッパや高木さんがぶち壊したかった世界をぶち壊したのは音無琴美ではなく黒井タクミで、ここに居る貴方はかつての閉塞感に苛まれながら燻っていた黒井崇男じゃない」

「……」

「メディア王、日米芸能界最大の大物、昭和最後にして最大の革命者。ちょいと変わった所じゃ義娘のヒモ。それが今の黒井崇男でしょ?」

「……ヒモは、流石に遠慮したい評判だが」

「頑張れ」

 

 言いたい事をぶつけてTV画面に視線を戻す。これだけ喝入れて効果がないならもう知らん。新婚の嫁さんの尻にでも敷かれて矯正されると良いだろう。

 

 そんな事よりも今は。

 

「余分な事考えないでさ。うちのアイドルのライブを楽しもうぜ?」

 

 そう言葉にして、座り心地の良いソファーに深く座り込みながら、より掛かるように黒井へともたれかかる。重い? 知るか罰だ。

 

 

 

 

 ライトアップされたステージを眺めながら、小さく息を吐く。ここ数ヶ月何度も立ち、そして未だに慣れた気がしない場所。嫌いというわけではない。ただ、現実味がまだ湧いてこないだけだ。

 

 少し前までは、自分がこんな場所に立ってるなんて思ってもいなかった。

 

 あの日の。幸姫のステージを見た時の自分が今の自分を見れば、どう思うだろう。

 

 うらやましがるだろうか。それとも、恥ずかしがる?

 

 自分の事こそよくわからないなぁ、と思いながら、菜々は隣に立つリーダーの右手を握る。

 

「小鳥ちゃん」

「……あ、ごめん。なに?」

「いえ。今日はおゆうはんはなにが良いですかね?」

 

 物思いにふけっていた小鳥に声をかけると、彼女はハッと気がついたようにこちらに視線を向ける。これからステージに立つという緊張は少しも感じられないその姿に、慣れというものの恐ろしさを感じる。

 

 ――すごい子だ。何度目かもわからない感想を思い浮かべて、ちらりと小鳥の横顔を見る。

 

 1年前まで、彼女はただの少女だった。かつて黒井社長と高木部長が手掛けたアーティストの娘。ただそういう名前を持った、芸能界とは少しの関わりもない少女だった。

 

 そんな彼女は、1年にも満たない期間でアイドルとしての道を駆け上がり。仲間たちと奇跡とも言える偉業を達成し。そして――そして、

 

「私は、小鳥ちゃんがうらやましいです」

「え、いきなりどうしたの?」

 

 本来なら、自分とユニットなんて組まなくても彼女は一人でやっていけただろう。舞台度胸といい、アイドルとしての才能といい、彼女は菜々が持たないものをいくつも持っている。

 

 自分が持たないものをもつ少女に……幸姫が大切な仲間と称した者の一人に、目いっぱいのジェラシーを込めてそう口にして、菜々はクスクスと笑い声をあげる。

 

 ――舞台の準備が整ったのだろう。こちらを向くADの姿に頷きを返し、菜々は小鳥に目を向ける。

 

 菜々の視線に気づいた小鳥は苦笑を浮かべた後、菜々と向き合うように立ち、口を開いた。

 

「『貴女は、貴女の音楽を感じている?』」

「……『もちろん(Of course)』!」

 

 そのやり取りにどちらからともなく笑顔を浮かべて、二人は手を握りあったままステージへと向かう。

 

 流れる音楽。ライトアップされたステージ。いまだに現実感のないその場所は、けっして楽しい場所ではない。

 

 けれど。

 

『本日のメインゲスト、エイリアン×エイリアンのお二人です! 曲目は勿論――【エイリアンエイリアン】!!』

 

 彼女と一緒ならば、けっして嫌いな場所でもない。

 

 

 

【ゆれる街灯 篠突(しのつ)く雨 振れる感情 感覚のテレパス】

 

 エイリアンエイリアン。ユニット名を関するこの曲は、菜々のソロから始まる。

 

【迷子のふたりはコンタクト ココロは恋を知りました】

 

 顔の横くらいまで持ち上げた両手をわきわきと動かし、リズムに合わせて上下させるエイリアンダンス。菜々の歌声に合わせるように観客たち、そして他のゲスト達の両手が上下する中、一仕事終えた! と言わんばかりに笑顔を浮かべた菜々がその手に持ったマイクを隣で踊る小鳥に手渡した。

 

【タ!タ!タ!タイトロープ ツギハギの制服 重度のディスコミュニケーション】

 

 唐突に放り込まれたアドリブにどもるようにアドリブを繋ぎ変えし、小鳥は2本のマイクを手に持ったまま菜々にジト目を送る。

 

【眼光 赤色(せきしょく)にキラキラ ナニカが起こる胸騒ぎ】

 

 ギミックにより赤色に光る視線に貫かれた菜々。急き立てるような音楽に合わせて体を縮こませる菜々と、彼女を追い立てる小鳥。

 

 緊張感を増していく音楽、滑稽な二人のアイドルの様子。会場内のボルテージが音楽に合わせて上昇していき、やがて臨界点へと上り詰め。

 

【エイリアン わたしエイリアン】

【あなたの心を惑わせる】

 

 息のあった二人の歌声。何事もないかのようにステージに立ちマイクを握る彼女たちの姿。

 

【交ざりあう宇宙の引力で 感じてる気持ちはトキメキ】

 

 先程までの寸劇に詩の通り惑わされていた事を悟り、観客たちの表情に苦笑いが浮かぶ。

 

【エイリアン あなたのエイリアン】

【引きあう心は逃れられない】

 

 そして、そんな彼らの様子に蠱惑的な笑みを浮かべて二人のアイドルは歌を続ける。

 

【あなたに未体験あげる】

 

 惑わせて、引き寄せて。そして、心を逃さない。

 

【異世界の果てまで トキメキ】

 

 それが彼女たち。

 

【シュキー♪】

 

 エイリアン×エイリアン(音無小鳥と安部菜々)なのだ。

 

 

 

 

「くっ……ふ、くっくっく」

 

 押し殺したような笑い声。くつくつとしたそれはやがてはっきりとした声となり、最終的に爆笑と言える声量にまで跳ね上がる。

 

 随分とまあ楽しそうな事で。いや、まぁ確かにあれは楽しかったけどさ。あいつらバカだろどんなアドリブかましてるんだよ。

 

「ふぅ……お前の仕込みじゃないのか?」

「んなわけあるかい」

「ああ、お前はマイクパフォーマンスはともかくマイクをぶん投げるなんてのはやらんからな。天然か」

「菜々……恐ろしい子っ!!」

 

 最近少女向け漫画ってのも出始めてるから、このセリフの元も出てくるかもしれんね。

 

 まぁ、それはともかく、だ。

 

「で、結果はどうだいおじさん」

「ああ。なんというか、すっきり……おじさん?」

「マリッジブルーおじさん略しておじさん」

「前半まるで入ってないよな?」

「……マリおっさん?」

「何故か京都方面に謝らないといけない気がしてきたからそれはやめよう」

 

 神妙な表情を浮かべる黒井パッパの勢いに思わず頷きを返す。今生だとあのヒゲの配管工誕生するんだろうか。久しぶりに緑甲羅無限UPがやりたいぜ。

 

 ――まぁ、この様子なら大丈夫だとは思うが。パッパも高木さんも変な所で後ろ向きだからなぁ。そんだけ小鳥の母ちゃんに思い入れがあるって事なんだろうが。

 

「高木さんとか大丈夫? パッパでこの調子だとあの人発狂してないよね?」

「あー……ま、まぁこないだ飲みに行った時盛大に泣きまくってたからちょっと怪しいかもしれんが」

「あの人マジで独立できんの? 小鳥任せて大丈夫???」

「だ、大丈夫だよあいつはやるときはやるから……たぶんきっとメイビー

 

 あまりにも不安になるパッパの物言いにぐいっと肩を掴んで視線を合わせるも、避けるようにパッパはそっぽを向いた。

 

「……」

「わかってる。酒で吐き出せるようになったって事は、あいつももう折り合いは付けてるはずだ」

 

 視線をそらしたままそう口にする黒井に、一つため息をついて彼の肩から手を離す。まぁ、高木の話はすでに私の手を離れている事柄だ。これ以上、私が口を挟むのも筋が違うだろう。

 

「信じるよ?」

「ああ。任せてくれ」

 

 それでも最後に一言尋ねてしまった私の言葉に、力強く黒井は頷いた。先程までの覇気のない姿とは雲泥の違いに頷きを返して、頭を下げる。

 

「菜々と小鳥の事。よろしくおねがいします」

「……わかってる」

 

 そう口にした私に、黒井はそうとだけ返してソファから立ち上がった。

 

 そして、数日後。

 

 今後半年を目処とした安倍菜々と音無小鳥の他事務所への移籍、そしてそれに伴うエイリアン×エイリアンの活動休止が、世間を騒がせることになる。

 

 

 

『黒井タクミの伝説 その34 タクミちゃんカット』

 

 【タクミちゃんカット】

 

 現在では【タクミちゃんポニー】と【タクミちゃんリーゼント】と呼ばれているこの髪型は、発端となった伝説の記者会見から数ヶ月の間全国の美容室を発狂させ、何故か理髪店にまで特需を生み出した。

 

 この原因としては、当時の日本では【タクミちゃんリーゼント】の正式名称であるボンパドゥール・リーゼントの知名度がなく、客層が口を揃えて【タクミちゃんカット】という単語でしかその髪型を伝えられず客と店舗側で齟齬が生まれたこと。また利用客の大幅な増加で美容室のキャパシティを完全にオーバーしてしまった事があげられる。

 

 このキャパオーバーの結果、何故か理髪店にまで女性が詰めかけるというなんだかそれでいいのかよくわからない事態が起き、また理髪店側も分からないものはわからない、と出来るのは【タクミちゃんポニー】だけという対処を行った結果、全国の理髪店の売上が倍増する結果となった。

 

 ちなみにこれと全く逆の現象が後のリーゼント旋風の際に起きており、美容組合はその際に黒井タクミに感謝状を送っている。

 




クソ女神様とタクミっぽいのの小劇場

クソ女神様
「そもそも、貴女はなぜここに?」

「さっきも言ったぁ。自業自得でクタバって丁度いいから雑用スタートで悪魔してんだよいわせんな恥ずかしい」

クソ女神様
「悪魔の場合は徳、もしくは業を積めばいいわよ」

「唐突に助言ありがとうございます」

クソ女神様
「どうせあの娘の業も貴方が肩代わりしたんでしょ」

「……」

クソ女神様
「いえ、違うか。むしろ貴女の分を――」

「ま、他人じゃないんで多少ね?」
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