今年もどうか拙作をよろしくおねがいします!
誤字修正。路徳様、nekotoka様、たまごん様ありがとうございます!
何度も経験した。
役者、音楽家、歌手、芸人。スポーツ選手やモデル、芸術家、アナウンサーに政治家。大凡有名人と呼ばれる存在が一般大衆へと姿を変える儀式を”引退”と呼び、それはマスメディアと共に発展してきた現在の芸能界ではごくありふれた出来事の一つだ。
この道で飯を食って十余年。そんなありふれた出来事を何度も何度も目にしてきた――時には自らが動いてそれを引き起こした事もある――自分にとって、この記者会見はいつもと変わらない一幕である。これだけの注目度だ。暫く記事には困らないだろう。
「……々ちゃん」
「……信じられない……嘘だ」
耳に入る声。ちらりと声の方を見れば、見知った顔の記者がポロポロと涙を落としている。その男は普段はパパラッチと呼ばれ、同業の人間からすらも蛇蝎のように嫌われている人物だ。つい最近、とある俳優の爛れた私生活を暴露し破滅へと追い込んだ男。
出遅れたと話を聞きに行った自分に、良い金になったと得意げに話していた顔は歪められ、ポロポロと涙をながしながら男は嗚咽を繰り返す。とても同一人物とは思えない醜態で、しかし何故か見苦しいとは感じない。
彼のような人物が、会場内の至る所に居るからだろうか。
会場内の至るところから聞こえるすすり泣くような、鼻をすするような音。どいつもこいつもヘドロのようなマスメディアの沼にどっぷり使った人間ばかりが、素人のように目を潤ませ、唇を噛み締めている。
彼らを何故か見苦しいと感じない。感じられない。
そんな思いを抱くことすらできない程に、彼女たちは眩しかった。黒井タクミのように苛烈でも日高舞のように鮮烈でもない彼女たちは、だからこそ彼女たちよりも眩しく光り輝いていた。愛されていた。
二人のアイドルが演じる
――ああ、だからこそ。
会場内のボルテージが目に見えて変わる。会見用の部屋に姿を現した3名の少女の姿に、否応なしにどよめきの声が挙げられる。
――だから。そんな彼女たちを。
無数のカメラが長い黒髪をたなびかせる黒井タクミの背後を歩く、二人の少女に向けられる。パシャパシャと無遠慮に焚かれるフラッシュに眩しそうにしながら歩く小鳥と菜々の姿に、じんわりと涙が滲むのを感じながら、手に持つカメラを彼女たちに向ける。
たった一度の邂逅。彼女は覚えていないだろう。日高舞との雌雄を決したあのステージの後。いつものように961ビルを張り込み、寒さに手を震わせたあの夜。温かい缶コーヒーの味。降って湧いた僥倖に慌てる自分に向けられた笑顔。差し出された小さな手の温もり。
――一枚でも多く。
他者の秘密を暴き出し、金を受け取り、誰かに恨まれる。ろくでもない人間だろう。自覚もしているし、そんな生き方に今更思うところなどはない。蔑まれて然るべき人間なのだ、俺は。
けれど……今だけは。
涙を袖で拭き払い、ファインダー越しに彼女たちを見る。パシャリ、とシャッターを切る。何度も、何度もそれを繰り返す。
――一枚でも多く、この瞬間を。
ただ一人の記者として、彼女たちを追いかけた一人のファンとして。悪徳又一は会見が始まるまで彼女たちの姿をカメラで追い続けた。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます」
「ありがとうございます!」
3名が着席し、会見は始まった。そして始まってすぐにどよめきが会場を覆う。通常、こういった会見の場では司会進行役が存在する。特に彼女たちはいまだに年端も行かない少女たちであり、この会場にいる誰もが専門の司会進行が付くと当然のように思っていた。
しかし、今。始まりの言葉を口にしたのは音無小鳥であり、相槌を打つように立ち上がったのは安部菜々であった。
もうひとり、壇上に登った彼女たちのプロデューサー、黒井タクミは腕を組んだまま目の前にあるマイクに触れもせずに椅子に座っている。或いは彼女が司会進行を務めるのか、という記者たちの憶測は立ち消え、ざわめきが会場を覆っていく。
「本当は、ちゃんとした大人の人の口から言うのが正しいって思います。社長さん達からも、タクミちゃんからもそう言われました」
「ました」
「でも、今回。色々な報道機関で私達の解散や、引退のお話とか。中には菜々ちゃんと私が不仲だからなんて憶測まで飛び交っていて」
「菜々は小鳥ちゃん好きですよ?」
「ありがとう、私もだよ! でも少しだけお口にチャックしてね」
「んー!」
お口にチャック、の言葉に従い、菜々は手振りで口にチャックをかけ、なぜか用意していた『ナ音』で使われている菜々お喋り禁止マスクをわざわざつけて、喋らないという意思表示をしている。
そんな二人の姿に会場内の空気が変わる。張り詰めた風船のような空気は穏やかに。居並ぶ記者たちの表情に微かな赤みがさしていく。
たった数度のやり取り。それだけの事で、彼女たちは会場内の空気を自分たちの方へと引き寄せた。
「だから、この会見……いえ。この言葉は、私達が直接言わないといけないと思いました。大人たちの影に隠れて代わりに行ってもらうのではなく、自分の口で、自分たちの言葉で言わなければいけないと思ったんです」
一言一言確かめるように。自分の言葉が目の前にいる記者たちに。そのカメラの先にいる誰か達に届くように。
「
静かな宣言。小さく起きる悲鳴のようなどよめきに、彼女は動じずに言葉を続ける。
「でも、それは解散だとか、引退だとかそういう事じゃありません。私も菜々ちゃんも別の事務所に移ったり、それによってソロでの活動が増えていく予定で、ペアで動くのが難しくなるから。一度少しお休みしようって、そう皆で話して決めたんです」
別事務所への移籍、ソロ活動。言葉のたびにざわめく会場を尻目に、小鳥は淡々と言葉を続ける。そして言うべき事を言い終えた後、小鳥は菜々の肩をちょんちょんとつつき、菜々はその合図に答えてマスクを外す。
「だから、ファンの皆さん。応援してくれた皆さん。
「夏休みみたいですね!」
「フフッ。そうだね。二学期になったら、また会えるからね」
「宿題はないですよね?」
「いっぱいあるんじゃないかなー?」
菜々の言葉に、それまで淡々とした表情で会見に臨んでいた小鳥の表情が緩む。そして二人は椅子から立ち上がり、フラッシュの光に包まれながら互いに視線を合わせ、小さく笑みを浮かべる。
「みんな、また会おうね!」
「ふつーの
「えっ、そこは普通のアイドルじゃないの?」
「
「「――えっ?」」
互いに何いってるのこの子、と言わんばかりの視線で見つめ合う二人。その様子に盛大なため息を吐いて、黒井タクミは目の前にあるマイクを手に取る。
「はーい質疑応答はこっちで受付ま」
「え。もしかして菜々ちゃんそれでずっと通すの!?」
「通すってなんですか! 菜々はウサミン星人で、あ。夏休みの間はどこ星人なんでしょうか」
「ーす。質問の際は挙手してくださーい」
「落花星人とか?」
「なんか階段から落ちそうでヤです!」
「はいそっちの胡散臭そうな帽子かぶったお兄さん。あ、このチビどもは気にしないでね。で、何? 移籍について? ああそれねー――」
やれやれと苦笑を浮かべながら質問に答える黒井タクミ。真面目にメモを取りながら、しかしチラチラとタクミの隣を見る記者たち。キャイキャイとカメラそっちのけな二人のアイドル。質問すらどうでもよくそんな二人にカメラを向けるカメラマン達。
混沌とした記者会見の姿は、しかし何よりも彼女たち
生中継された記者会見により解散報道からこちら世間を漂っていたお通夜のような雰囲気はその日のうちに霧散し、安堵と笑顔、そして少しの寂しさを視聴者達に感じさせながら、
「で、申し開きは有るのか」
「あのグダっぷりは私悪くないよね? 遺憾の意を表さざるを」
「そっちじゃない。そっちもまぁ言いたいことはあるが、あれはもうあの子らの好きにさせるって決めた段階で覚悟してた」
「記者会見を開くだけで社長に覚悟を強いるアイドルグループがあるらしい」
落花星人は隣で聞いてて思わず笑っちまいそうになったからな。あいつらのフリートークってもしかしたら金取れるかもしれん。ダラダラ宇宙人とかいう名前で深夜枠でひたすら駄弁らせる番組とかもいいかもしれんな。
まぁ、パッパが言いたいのはそういう事じゃないか。執務机から腰を下ろし、椅子に座るパッパと相対するように立ちあがる。
「あの場でお前が立つ理由は無かっただろう」
「ケジメだよ。私なりのね」
私の言葉にパッパはまだ何かを言おうとして、言葉を飲み込むように口を閉じる。
後世には
「その敏腕プロデューサー名指しで依頼がきてるぞ」
「えっ、アニメ見る時間が無くなるからやだ。私これでも多忙ぞ?」
「そうか。これが無理ならお前が前から推していたボトムズの実写版の話を進めたいと」
「待て待て待て待って」
トントン、と手元に用意した資料を纏めながらそう口にするパッパの手を抑え、首を横に振りながら資料らしい紙の束を机に戻す。机? 飛び越えたよ。最近軽くステップするだけで2mとか飛べるんだよ。
「……予想通りの反応なんだが、お前あの作品をメディア展開したいんだよな?」
「展開したいのはアニメーションであって実写化じゃないんだよ???」
注目度の高い手垢の付いてない作品だからって何でも良いってわけじゃないんだ。言ったらボトムズは、そう。もうちっとマイナーな感じで、主流の影に寄り添って『あー。○○も良いけどやっぱ通はボトムズだなぁ』って感じ出してないとボトムズっぽくないっていうかさ。
あと、なんだかんだアニメーターが見つかってないんだよ。ボトムズを作りたいって声は前から上がってるんだけど、作画とかその辺りがね。ちょっとね。求めてるものとちょっと違うっていうか。
マンガゴッドのアニメ制作陣からは『あれはタクミくんの作品だから』って拒否られてるし、他の所だとまだまだ荒削りで任せられないし、
「アメリカのダズニースタジオに頼めばいいじゃないか。ヒーロー物以外で看板になる作品、探してるんだろう?」
「あっこはもう少しCG技術が蓄積してからだね。あと、できれば一発目の作品は日本でやってほしい」
「……お前が、日本を優先するのは珍しいな」
驚いたような表情でパッパが横に立つ私の顔を見る。まぁ仮にも日本人ですしおすし? と適当に言葉を繋げて、心の中で『炎のさだめ日本じゃないとOPに出来ないかもしれんしなぁ』と呟く。最初のOPはアレでしょ。アレしか無い。織田のてっつぁんに該当するだろう音楽関係者が見つかってないけど最悪私が歌う。
その前にスーパーロボットももっと流行らせなければ。一ジャンルとして確立させるためにも、スーパー・リアル両方を育てなければいけない。両方揃ってこそのロボット物だとわたし思うんだ(確信)
まぁ、最近鉄の城がロールアウトされそうな雰囲気あるから、こっちはもう少し時間が進めばいい感じになりそうなんだが。
「正直、ボトムズを打ち込むのは反対なんだよね……もっと長い目で見てタイミング図りたいんだ」
「本当にそこには拘るんだな、お前……ほら。ならこれ読んでくれ」
「あい……パッパが断れないって、これボビーおじさん経由?」
「ああ。よく分かったな」
そら今のパッパに無理な頼み事なんてできる業界関係者は限られるからなぁ。日本国内だと苦楽を共にした高木さんくらいしか思い浮かばないし、米国だと流石にもう少し数が増えるが真っ先に思いつくとしたら向こうの仕事の契機に、そしてその後も窓口となってくれたボビーおじさんになる。彼の協力がなければ今の現状は無かったからね。
もちろん貸し借りという話なら私のプロデュースの仮定や全米オーディションのアイディア譲渡、それに例年の
「よく言う。理由がなければ断るだろう、お前は」
「まぁね?」
ペラペラと渡された書類を捲りながらパッパと軽口を叩き、全ての書類内容を頭に叩き込んだ後、トントン、と書類を纏めてふぅ。と息を一つ。
「ボビーおじさん、私を振れば何でも出てくる打ち出の小槌か何かと勘違いしてない???」
「ちょっと叩けばアイディアが出てくる、とは思ってるかもしれんな」
「いやー、キツいっすわー」
書類に書かれた内容、『新規ドラマシリーズ原案』という今までと全く関係のない依頼の内容に、久方ぶりに口から魂が出そうな程のため息を吐いてソファに寝転がる。断ればボトムズ実写でこれを進めるということだろう。それだけは避けなければいけない以上、やるしかないわけだ。
『『スキヤキ・ショートフィルム』を撮った際の監督を覚えているかい』
久方ぶりにあったボビーおじさんは、かつてとはかけ離れた印象の人物になっていた。初めて会った時のうらぶれた会社員という風体は今はない。上品なスーツ、鍛え直したのだろう引き締まった身体。決して下品にならないように気をつけられた室内の調度品。そして、誰もが羨む肩書。
たった10年に満たない時間でアメリカンドリームを掴み、階段を駆け上がった男。それが今のボビー・ブラウニーだった。
問われて、頭に壮年の男性の姿が思い浮かぶ。監督一筋でTV業界を泳いできた、そしてあと一歩栄光に手が届かなかった男。地元向けの番組を細々と作る生活に飽き飽きし、チャンスと栄光を待ち望んでいた男。
握手の際のギラついた野心に満ちた目を、そしてショート・フィルムを撮り終わった後、『ありがとう。最高の仕事を与えてくれた天使に、感謝を』と、厳つい顔をほころばせた表情が頭に思い浮かぶ。
『リブはあの一本で幸運の女神の前髪を掴んだ。元々運に恵まれれば上に行ける実力も有ったからね。今じゃ毎シーズン彼がメガホンを握るドラマシリーズがTVを賑わせているよ』
『それは良かった。私もあの人との仕事、楽しかったから。あのスキヤキが彼の転機になったなら嬉しいよ』
これは紛れもなく本音である。職人としか言えないほどの拘りを持つ人物だが、彼がメガホンを握っていたからこそあのショートフィルムはあれほどの完成度になった。
そして、そんな人物からの依頼だと私も手を抜くという選択肢はなくなってしまうわけで。時間調整に発狂しかけて黒井への呪詛を喚き散らす石川女史をなんとか宥めて、私はリブ監督のスタジオを訪ねる。
『久しぶりだね、小さな天使』
『いやぁ、その呼び方は気恥ずかしいわ』
感極まったという表情の彼にそっと視線をそらす。ここまでまっすぐ褒められるのは気恥ずかしすぎる。
そのままオフィスに案内され、紅茶で喉を潤しながら歓談することしばし。「さて」と呟いた後、彼は居住まいを正して私に向き直る。
『全く新しい試みをしたい』
彼が私に依頼したいことは、一言で言えばこれだ。
昨今の米国は文化の発展が著しい。”新時代”とまで言われる音楽関連の発展にアニメーション作品の勃興。それに端を発したコミック雑誌の流行。極めつけはコンピュータゲームと言う全く新しい概念の誕生。
それまでメインカルチャーと呼ばれていた諸々を吹き飛ばす程の勢いが、今の米国サブカルチャーには存在する。
『仕掛け人としては鼻高々ですね』
『ああ。あの時、ショートフィルムを撮った時に時代が変わると感じたが。その直感は正しかった』
にっこりと笑ってそう口にすると、苦笑するようにリブ監督は言った。
『我々は――私は、あのショートフィルムで新時代の到来を確信した。だが、それを掴み取るための何かが分からない。迷子のような状態でこの数年を過ごしてきた。もう、時間はない。だが、道がどこにも見つからない』
『……それが、新しい試みと? お話は新規ドラマシリーズの原案を担当してほしい、と伺っていましたが』
『私は結局映像を取る事しか能がない男だったんだろう。名監督だなんだと持て囃された。言われた以上の結果も出したつもりだ。だが、ソレ以上ではなかった。あと数年もすればなんとか保っていた視聴率も落ち込み、やがて私達のTVは愚にもつかない様なバラエティやアニメ、音楽番組とニュースを垂れ流す、退屈なコンテンツに成り果てるだろう』
噛みしめるようにそう口にしながら、リブ監督は言葉を切り、テーブルに叩きつけるように頭を下げる。
『君の力を貸してほしい。少しのアイディアでも、何でも良い』
『ちょ、頭を上げてください』
『何もせず、このまま終わりたくないんだ。時代遅れのレッテルを貼られたまま、消えたくないんだ!』
かつて見た時よりも深く皺が刻まれた顔を紅潮させ、目尻に涙すら浮かべながら監督は懇願する。自分の孫ほどの年齢の少女に縋り付くように、彼は私の手を握り、頭を垂れた。
その姿が――
「私に、魔法をかけてください! 夢を、夢で終わらせないために!」
彼女と重なって。
『……OK』
だから私は。彼の握る手を強く――強く握り返した。
悪徳又一:善澤記者とは対をなすアイマスの悪徳記者。顔立ちは某動画のモデルイメージ
リブ監督:「このアニメのない世界で」以来の登場
クソ女神様とタクミっぽいののグダグダ小劇場
クソ女神様
「その焼け爛れた身体。直さないの?」
タクミっぽいの
「ちょっと前まではもう少しマシだったんですがね」
クソ女神様
「ああ、ごめんなさいね?」
タクミっぽいの
「雷属性とは思わなんだ。言動的に水だろ」
クソ女神様
「水属性は相性悪いのよね。癒やすってなんだか女々しくない?」
タクミっぽいの
「あんた女神だよな???」