この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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感想欄を見ながら思いついた前回のあらすじ


「さぁ、ニッポンからやってきた謎の少女が振りかぶって、投げたぁぁああああ゛あ゛あ゛!? 消えた! ボールが消えたぁ!」

ス、ス、ストライィィイク!

「審判からはストライクのコール! 何という事だ、消えました! 少女の投げたボールはまるで燃えるように光ったあとに姿を消し、忽然とミットの中に収まっていました! 信じられない! 魔球です、魔球が現れました!」
「ああ、バッターの全米音楽業界、戦意を喪失しています。これはいけません」
「しかし、スタンドの全米国民からは必死の声援が……何と全て少女に向かって贈られています!」
「たったの一球で全米を味方につけてしまったのですね。末恐ろしい怪物が誕生してしまいました」



タクミ「(今の見せ玉でなんでこの反応?)」


誤字修正。五武蓮様、彩守 露水様、キーチ様、nicom@n@様、スミネル様、kuzuchi様、久遠 篝様ありがとうございます!

追記
前回の被害者。プレスリー。軍役中に死亡。


事前に確認して大丈夫だと思ってたんですが曲名だけでも危ないかもしれないと指摘を受けました。確かにギリギリを責めすぎたかもしれませんし運営に逆らうつもりもありません。なのでちょっと修正しておきました!
>FAQに曲名はOKとあったと教えてもらい確認。曲名を入れました。


このロックのない世界で

 タクミに初めて会った時、俺は神の実在を確信したよ。

 なんせ目の前に居るんだ

 

~ニール・カリウタ 世界ツアー中のインタビューにて~

 

 

 

 挫折。という二文字が頭を過ぎる。そう、これは挫折だ。先程まで幸せな気持ちで読み進めていた手紙がハラりと手から零れ落ちる。

 その手紙が同梱されていた封筒の中には私が自信を持って書き込んだ漫画の原稿が入っており、手紙の中身は、最初は絵の技量とキャラクターのデザインや設定の作り込みを称賛する、それこそべた褒めという位に褒め称えられた文字が並んでいた。

 

 流石は天下のマーブル(微妙に名前が違った)、よく分かってるじゃないかとニヤニヤしながら二枚目を捲り、そこで私はこの人生で初めての挫折を味わう事になる。そこから先はまず簡潔にこの話は売れないという事と、今現在書かれている作品に対する影響。そして何よりも。

 

「レオパルドンは駄目だったかー」

 

 スパイダーマッの着想はこの世界にはまだまだ早すぎたらしい。でもデザインは褒めてくれたから許す。

 

 

 

 さて、趣味はともかく仕事の時間だ。漫画? 勿論趣味に決まってるじゃないか。他人が描かないから自分で描いてニヤニヤしてるんだよ。多少の絵心が人類最高峰の器用さと発想力により気付けば一流の絵師並みに発展していたのでこのレオパルドンなんか3Dみたいだぜ。他人に自慢したくて投稿したが、戻って来た以上もう絶対手放さないからな(頬ずり)

 

 実を言うとマーブル(チョコの名前みたい)から専属絵師にならないかと誘われたのだがロボットが書けないんなら意味がないと断った。それに仕事の足場固めもまだまだ終わってないしね。

 そう。ここからはお仕事の時間。ホテルでのんべんだらりとする時間はもう終わり、本格的にロックを羽ばたかせる時がやってきたのだ。

 

『ようお嬢!』

『ニールさんおっすおっす』

 

 この人は私の作ったバンドの専属ドラマー、ニール・カリウタさん。ジェニファーさんに知り得る限りで一番巧いドラマーを教えて欲しいと頼んで紹介して貰った人だ。まぁ、ジェニファーさんも音楽学校時代の伝手で知り合っただけの相手なんで交渉は私とパッパが行ったんだが、現地であった瞬間にハグされてつい投げ飛ばしちった。変態かと思ってさ。

 まぁ、どうも感極まってただけみたいで投げ飛ばされた後もあっさり復活して『あんたに一生着いていく』とか宣言してたので大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。既婚者らしいし。

 

 気になるその腕前はというと、神。そうとしか表現出来ない人だった。幾つかのジャズバンドに所属したり、スタジオミュージシャンもやってたりとこの音楽不遇の時代でも第一線でバリバリ活躍してる超絶ドラマーだ。

 

 やたらとドラムを並べ始めた時は正直大丈夫かと思ったが、その懸念はすぐに晴れた。背後に設置されたヘッド(ドラムの膜の部分)まで叩いてた時はニュータイプなんじゃないかと疑ったけど。

 

『お嬢。ほら、寝癖。しっかりおし、今日は最初の一歩なんだろう?』

『ごめん、キャロルおばさん』

 

 そしてこちらはベーシストのキャロル・ウェイマスさん。キャロルおばさんという呼び名から分かる通り、なんとぶっちぎりの年上、御年50の大御所だ。初めて前世の私より年上の知り合いが出来たぜ。

 この人は私の専属ベーシストという訳ではなく、ボビーおじさんが私のバンドの為に契約をしてきたどちらかというと放送局側の人なんだが……うん。それでも良いわ、この人も神様級だ。

 

 プレスリー存命の、今よりも女性に厳しかった時代にジャズにロックにプレイし続けたというだけでも凄いのに、その中でも一握りの一線級で活躍していたという事実。これだけでもレジェンド扱いしていいのに、プレスリーが亡くなった後の停滞期も第一線に居続けた人だ。

 これがどれだけ難しいかは、アレだけの腕があるのに夢を諦めかけていたジェニファーさんを見ても分かるだろう。それだけ深い幅を持ったプレイヤーという事だ。

 

 ボビーおじさん的には多分、無名のジェニファーさんとニールさんが心配で、せめてベースにはと超一流を連れてきてくれたと思うんだけど、その考えナイスだね。彼女はジェニファーさんもニールさんも居住まいを正す大御所にしてプロフェッショナル。

 そんな人物が参加しているバンドだ。多少辛い目線で見てくる業界人も頭ごなしに否定してくる事はあるまい。

 

『さ。やろっか』

『オッケー。さぁ、何からやる? 渡された楽譜は全部体に叩き込んできたぜ!』

『こっちも』

『当然の事さ』

 

 お、おう。やる気満々だね。ていうか渡した楽譜って私が最初に覚えてきてってお願いしたビートルズ全集と明らかに違う奴が手元にあるんですがそれは。

 もしかして知ってる60~70年代の名曲を集めて無造作に書きまくったあれかな。確か100曲以上あった筈だし一部しかなかった筈なんだけど……コピーしてそれぞれの楽器に合わせて手直ししたんですか。なるほどっていやいや流石にそれで更に覚えて来るって普通に早すぎね? 夢でも練習してるってそれ完全に病……いえ、何でもありませんです、はい。UR枠の情熱甘く見てたわ……

 

 ま、まぁともかくとしてレコーディングの準備はバッチリって事だな。素晴らしい! ここまで状況が進んでいるなら心配していた第2、第3のアルバムの発売も順調に行きそうだ。このバンドでは基本的にロック系統の曲を中心に行っていく予定なのだが、音楽はただ作って流すだけでは駄目だ。

 まず大衆がその音楽を受け入れる土壌を作らなければいけない。土壌づくりの段階で根腐れしてしまった米国の音楽業界は、豊富な栄養(需要)を蓄えた土壌が何もされずに放置されている状態。まずはここを耕して、多彩な音楽という作物を育てられる環境にしないといけないのだ。

 

 私としてはこのバンドによって音楽の土壌になる部分を刺激し、芽を出す前に枯れかけている他の作物を刺激するのが目的だ。何せロックってのはWiki先生でも星の数ほどあるって表現しかできない位多様化するジャンルだからな。こいつが立ち枯れてたら私の知る音楽の8割位が消えちまうんだからこちらも必死にやるしかない。

 

『という訳で、ジェニファーさんから一番魅せるつもりでギターソロかましてください』

『えっ?』

『30秒くらいしたらニールさんが参加してガンガンに叩きまくったって。そこから30秒位で今度はキャロルおばさん。御免だけど上手い事二人を纏めてね』

『ジャムかい。あいよ』

『オーケー。お嬢が入る間もない位に叩きまくってやるよ』

『ふふん。この私の邪魔を出来るとでも思っているのかな?』

 

 何をするのかって? 勿論超簡単なメンバー紹介だよ。ライブでもよくある、メンバー紹介の際に名前を呼ばれたそれぞれが自分のアピールを行うあれだ。あれをアルバムの最初の曲に持ってくる。勿論半分くらい賭けだが、配当は決して悪くないと踏んでいる。このバンドに参加している3人は、私がアメリカに居ない時に代わりに米国音楽業界を盛り上げてくれるスーパースターになってもらうつもりだからな。

 

 私一人で全部作って後は丸投げ、では意味がない。私の後に続く誰かが新しく曲を作り、演奏し、スターになり、そしてまた次に続く流れが出来ないと意味がないのだ。年齢的にジェニファーさんはバンドを率いたりするのは難しいかもしれないが、一プレイヤーとして超一流の著名人が居れば、彼女を目指してベーシストが育つかもしれない。仮に失敗したとしても息を合わせるのには役に立つし。このジャムセッションが決して無駄にはならないと踏んでいる。

 本当に合わなかったら収録しなければいいしな。

 

 

 

 尚、この初めてのジャムセッションは無事に成功を収め、スタジオは良い雰囲気のまま収録に突入。第一曲目にジャムセッションを設けるという結構な賭けをしてしまったにしては纏まりのあるアルバムが完成した。個人的には半分くらいビートルズの曲だからそら纏まるだろ、という気分だったが。イーグルスとかも使ったよ? カリフォルニア行ったことないけどね。歌詞については「ご本を読んだの」で通してるから深く突っ込まれたら、その、困る。年齢的にね。

 

 前回の坂本九スタイルの時の反省を踏まえてまずはアルバムのMVを作成。今回は小芝居を少なくして音楽を聞かせるミュージシャンがかっこよく見える様に撮影をして、私の部分を減らしてある。これで私に集中してた注目も少しは減るだろうし、そろそろ近所の商店でアイスを買うくらいは一人で出来る様になるだろう。「ひとりでできるもん!」ってゴネてるんだが黒井パッパと電話で銀さんにまで怒られたので自重してるんだよ。金属バット位なら最近素手で曲げられるようになったんだけどね。

 

 ボビーおじさんも気合を入れてTVで特集を組もうと頑張ってるので宣伝に関しては私はノータッチだ。餅は餅屋。専門家が身内に居るのに頼らない手はない。後はギャラの事だが、こっちは実はもう話がついている。パッパ、所属会社の米国支社の支社長に就任しました。ちなみに社員は私含めて二人な。あ、ジェニファーさんとニールさんが一応所属する事になるから4名か。

 

 零細企業にも程がある陣容だがやたらと金とコネはある。事務なんかも会計処理なんかを専門に行ってる他社に外注して賄ってるから全然問題ないし、こないだの『上を向いて歩こう』のレコードが100万枚位売れて未だに品薄状態って言うから本社側もこっちがやる事には基本寛容だ。というかその後のTV出演やらのギャラとかCMソングへの起用とかで本社の年間業績並に稼いでるってパッパが震える声で言ってたし暫くしたら追加人員も来るんじゃないかな。ほら、こんな所で怖気づくんじゃないよ。これからまだまだレコードを売るんだから。

 

 最初の『上を向いて歩こう』は結構売れたし、今なら補正も効いて初週100万も行けるかもしれんな。よし、パッパ。200万だ。200万枚を目処に刷っていこう。どうせ次のアルバムが出るまで多少時間はあるんだ。今のうちにガンガン行こうぜしても十分捌けるって。数字が見た事もない物になってる? それがどうした。ようこそミリオンダラーの世界へって奴だろう。ビリオンダラーまでまだまだあるんだ、暫くすれば見慣れるよ。

 

 頭の中で皮算用を弾かせながら私は動きの鈍いパッパの首根っこを掴んで契約しているプレス工場に連絡を入れ、200万枚のレコードプレスを依頼した。余りの数に向こうも驚いていたが、この程度では驚くようじゃまだまだ甘い。君の所にはこれからもガンガン働いてもらうからよろしく頼むよ。サイン? ああ、もちろん良いとも。手形で良いかな?

 

「よぉし、じゃあ次はアルバムの表紙だね。超かっちょいいロボット描くから見てろよ見てろよー」

「万……200ま……こ、こらタクミ! 表紙は4人の顔写真だって決まっただろうが」

 

 最近は常に持ち歩いているサイン色紙に鉛筆でスラングルを書いていると、正気に戻ったパッパが待ったをかけてくる。そらねぇよ父っつぁん。見てくれよこれ、良く描けてるだろう? 一応スーパー枠なのに操縦席が露出してるマジンガーよりも思い切ったこの造形。しかも83年当時の流行りを反映させてガウォークっぽい形態まであって、更にOP曲の『亜空大作戦のテーマ』が意味不明で面白いんだ。曲は関係ないだろうって? 面白いは正義なんだよ。機体名じゃなく組織名をひたすら連呼するんだぜ。しかも連中の組織名は類人猿だ。

 

「Gorilla!」

「うむ。動物園に行きたいのか? 今度の撮影でどこか貸し切って使えないか確認してみよう」

「全然違うけどありがとう。久しぶりのお出かけは嬉しいよパッパ」

 

 お礼にぎゅっと抱きしめてやるとパッパが慌ててパタパタと暴れ出した。これで色んな所に恋人のいるプレイボーイなんだから分からんもんだな、男ってのは。

 

「ああ、表紙と言えば。バンドの名前をまだ伝えてなかったようだが、大丈夫なのか?」

「んー、まぁ。決まってるし皆にも聞いて許可はとったけどさぁ」

「何か引っかかるのか。言ってみなさい」

 

 私が渋い顔をしていると、パッパは真剣な表情を浮かべてこちらに視線を向けた。いやぁ、実を言うと私の内部の問題なんでね。そんなに大したことでもないし。

 この名前は、私にとって一つの根底だ。だから、世に出すのを少し躊躇っている。それだけなのだ。

 

「名前は決まってるよパッパ。これは、今のバンドのメンバーを見た時から決めてたの」

 

 夢を諦めて故郷に帰ろうとしていたジェニファーさん。夢を諦めきれず、掛け持ちで様々なバンドやスタジオで演奏をして糊口を凌いでいたニールさん。かつての華やかさを忘れられずに落ちぶれた業界を離れる事が出来なかったキャロルおばさん。そして、5歳で家族を失い、ただ一人で生きてきて。そして今、ここに居る私。

 そんな私たちを表す名前は、一つしかない。

 

「私達は『ボトムズ(最低野郎)』。かつての栄光を探して、見知らぬ街をさ迷い歩くボトムズ(最低野郎)だ」

 

 言葉にすると、すとん、と胸の中にその言葉が下りてくるように感じた。ボトムズ。私の原点。もう一度取り戻すのだ。あの栄光の日々を。プラモとアニメと漫画に溢れたあの家を。

 

「……頼もしいな」

「パッパ。油断してるとあっという間に置いて行っちゃうよ?」

 

 私の顔を見て苦笑いを浮かべる黒井パパを再び抱きしめる。愛娘のハグは発奮材料だろう? パッパは私の共犯者なんだ。途中下車なんて許さねーぞ。

 言外のメッセージが伝わったのか伝わらなかったのか。黒井パパは何も言わずに私の体に腕を回し、抱き寄せる。そのまま自宅代わりに使っているホテルまで、私たちは互いに言葉を交わさずに親子のふれ合いを楽しんだ。

 

 

 

 等という事を言っていた私ですが心折れそうです。初週どころか初日に100万枚売り切れは読めなかったわぁ。

 暴動起きてるの? プレス工場に頑張ってって伝えてください(震え声)




バンド名:ボトムズ ドン底からの再起を意味する。

ニール・カリウタ:ドラマー。既婚者。

キャロル・ウェイマス:ベーシスト。50歳。30年以上現役の生き字引。モデルの人もまだ存命でバリバリの一線でプレイしてる化物。

Gorilla!:一回OPを聞いてもらえば理解して貰えると思う。スラングルは凄い()



クソ女神
「プレスリーの時代のロックスターはまだ居るしビートルズが居れば大丈夫だよね!」

「プレスリーの入隊と同時期に殆ど居なくなるしビートルズも居ないじゃない!」

タクミ
「ロックスターの方は史実だけどビートルズ何があったし。というか何をしたし」
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