この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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全然話が進まない申し訳ない(白目)
新年度頑張っていきましょう(白目)
今年度もよろしくお願いします(白目)

誤字修正、日向@様ありがとうございます!


この電話ばかりの世界で

 つい最近導入されたばかりの新型ファクシミリからガーガーと音を立てて紙が吐き出されていく。その光景を見ながら、今年入社したばかりの青年ははぁ、と小さくため息をつく。

 

 学生時代は勉学に励み一流の大学に入学・卒業。大学教授の勧めで大手出版社に就職。絵にかいたようなレールの人生を歩んできて、今している事は電話番だ。

 

 自分のようないい若い者が電話とファクシミリの前で日がな一日座りっぱなし。仕事を覚えるため、部署を覚えるため。様々な言葉をかけられて早半年。取材に駆け回る同期の姿をうらやましく思いながら吐き出されたファクシミリ用紙に目を通す。誰よりも早く情報を見ることが出来る、というのはこの仕事唯一の長所だ。

 

 さて、今回はどの部署の管轄だ。内容をよく吟味して提出しないとえらくドヤされることになる。何々、黒井タクミが引退する、なるほど。黒井タクミと言うとあの黒井タクミか。日本人でありながら日本を飛び越えて米国でデビューし、たった数年でロックという一大ムーブメントを巻き起こしたアーティスト。アーティストの枠に留まらず大スターの登竜門と呼ばれるオーディション番組という枠組みを作り出したプロデューサーであり、また世界一売れたコンピューターの会社を保有する実業家であり、アニメ・漫画といったサブカルチャーを勃興させた人物としても知られている。

 

 これはラッキーだ、どこの部署に持ち込んでも関係があると言い張れる。

 

 そこまで考えを回して席を立った時、あれ、ともう一度手に持ったファクシミリ用紙に書かれた文字を読み直す。

 

「黒井タクミ、アーティスト引退の報告」

 

 送信者は961プロダクションとなっている。番号を確かめて、961プロからの発信であることは間違いない、という事を確認する。

 

 次にもう一度文章を読み直す。黒井タクミ、アーティスト引退の報告。一言一句間違いはない。

 

 そこまで確認をして、ようやく、彼の頭の中にその単語が染み込んでいった。

 

「……………………!!!!!!?」

 

 ドカリ、と大きな音が響く。彼が椅子から転げ落ちた音だ。何事か、と集中する視線にも気づかず、彼は震える手でもったファックス用紙の文字をもう一度読み直し、声にならない叫びをあげた。

 

 新入社員は走った。廊下に飛び出て、なんだなんだと部屋から顔を出す諸先輩方にパクパクと口を動かしながら言葉を発することもできず彼はビル内を駆け回った。それは騒ぎを聞きつけた警備員に取り押さえられるまで続き、彼が取り押さえられた後になぜそれが起きたのかが周知されると規模を拡大してまた叫び声が上がった。

 

 この光景は日本だけではなかった。日をまたがずに連絡がいった米国、英国、欧州、アジア各国。

 

 黒井タクミの、ボトムズのCDが販売されているすべての国で似たような事柄が起き、多くの国ではその日に発行されるはずだった新聞や週刊誌が発行をストップする事態に陥る。記者が記事を書けなかったからだ。

 

1996年。×月×日。後に黒い月曜日とも、早すぎたノストラダムスの大予言とも呼ばれる出来事はこうして起きた。

 

 

 

『ああ、うん。引退する、詐欺じゃねーって、うん。うん。一緒にライブしたい? ああ、うん。そこら辺はみのりんと調整して。いや違うって。マイコーと一緒に舞台に上がるのは私も楽しみだから。うん、うん。それじゃあ、うん。世界ツアーのアメリカの奴で、うん。みのりんには伝えるよ――は? エキプロ所属のアーティスト全員? キャ、会場のキャパ足りるかな、あ。いや、うんわかった。その予定で、うん。みのりんにはそう伝えとくよ。みのりんなら大丈夫だろ。多分きっと。そんな先の事より舞とのライブバトルの準備はどう? 順調、か。まぁ当然だよね、うん。あいつは良いアイドルだよ。分かってる? ごめん、ちょっと自慢したくて。ああ、うん。うん。じゃあまたね、私も大好きだよマイコー』

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

 カチャ

 

「はいこちら黒井タうぉおうっせええええ! こらチビ、電話で叫ぶなってああ!? 引退!? するよ!? 次の世界ツアーで! ええ!? だから叫ぶなって! ああ、もう。ほら落ち着けよ。いやお前さんが落ち着いたらそれは別人か……うん。うん。いや、あくまでもアーティストとして舞台に立つのは引退するだけだって。【な音】に呼んでもらうのは別に構わないから……おう。スケジュール次第だけどよ、うん。ああ、また今度会った時に詳しく話すわ。おう、収録頑張れよ、ナナ」

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

 カチャ

 

「はいこちら黒井タクミ。ああ、幸姫ちゃんおっつおっつ……うん、そう。引退するよ、今度のツアーで。まぁ、完全に終わるってつもりはなくて、また気が向いたらどっかでライブはやりたいって思ってるけどさ。うん。うん、そうだね……私も幸姫ちゃんが引退したときはさ。多分似たような感じだったと思うよ? あ、ごめん。今のは意地が悪かったわ。うん、うん。アーティストとしては引退するけど、そっちはまだまだ続けるよ。プロデュースって面白いしね。手広くやりすぎて仕事が多いのもまぁ、自業自得だけどさ。うん。もしかしたら、幸姫ちゃんとは別の形で一緒に仕事するかもね。うん、楽しみにしとく……またね」

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

「…………」

 

 カチャ

 

「はいこちらタックミー……あ、はい。はい。黒井タクミです。はい、ええと、〇月の、はい。式典に参加、ですか。はい、そちらは秘書の石川に一任しておりますので、はい。引退前にぜひ、あ、はい。ええと、すみませんスケジュールは石川と――大統領からの熱烈な? いや私に言われても困るので、え、引退しないでくれ? あの、『担当官さん? 落ち着いて話を。あ、こら泣くなって、なぁ。え、レッドショルダーなの? あ…………そっかぁ……うん。辛い事も苦しい事もボトムズで乗り切れたってそれは嬉しいけど違うよ。お前が乗り切ったんだ。私たちはそのちょっとした助けになっただけさ。ほら、泣くなって。な? 今度結婚する? そりゃめでたいな! え、相手の子もボトムズファンなの? 結婚式にアンド・アイ・ラブ・ハーを流す? ありがとう! 式はいつなんだ? 電報送るよ! だから元気出せって、湿っぽい顔で嫁さんに心配かけんなよ!』」

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

「……………………」

 

 カチャ

 

「こちら黒井タクミです。この番号は現在使われておりません。御用のある方は――『最後まで言わせろよ。ああ、うん。引退するのはアーティストの方だけだよ。会社ほっぽりだす気はないって。うん。ミカン4については順調みたいだね。うん、だからゲームは一日1時間な。え、日本から送られてきた横スクロールアクションゲームが最高? ああ、なんだっけ空想郷縁起譚だっけ。日本支社でもやたらとBGMが評価されてるんだよね、巫女さんが胸バルンバルン震わせながら侵略してきた吸血鬼の軍勢を殴り倒すのは最高だよなぁ! あれならマンハッタンファイトで性癖拗らせた北米のゲーマーどもでも満足すんだろ。でもゲームは一日一時間な』」

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

「…………………………………………………」

 

 Trrrrrr

 

 Trrrrrr

 

「ああぁぁぁ」

 

 カチャ

 

「はい、こちら黒井タクミ……『は? ジェニファーさんちょ、泣かないでうん。いや、相談しなかったのは、ごめへ? 今から日本に来る? いやいやいやいや今ジェニファーさん全米ツアーちゅはぁ!? ちょ、ま、待ってよ!』…………………」

 

 ツー、ツー、ツー、、、

 

「あぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

 やることがおおいのになにもできない!

 

 

 引退を発表した次の日。優雅に朝コーヒーをしばいていた私を襲ったのは延々となり続ける電話の嵐でした。まる。

 

 いやほんと嵐としか言いようがない。私の部屋には直通の電話が一本しかないからそれが延々なり続けるだけだが、黒井プロも米国のエキサイトプロも今日は朝の始業時間からほぼ全回線が使えなくなっていると報告が来てる。

 

 なんだこの事態。こちとら引退に向けたラストツアーの調整をしたり引退会見開いたり取材受けたり新しく立ち上げる著作管理団体の話し合いしたりテレビの企画について相談受けたりゲストで呼ばれてるライブの調整したり【な音】の収録で管まいたり日本ミカン社内部で開発したゲームのテスターやったりミカン3の販売計画会議に出たり【セブン】で作られた映像作品の講評やったりしなきゃいけないんだぞ? なんでこんなクソ忙しい時期に引退騒動なんて起きてんだよ。誰だ引退なんて言い出した奴は! 私だよ!

 

 受話器を電話に戻す気力も起きずに机の上に突っ伏して息を吐く。出なきゃいけないのは分かってるがかれこれ半日も電話対応を続けていたらな、さすがに辛い。しかも私の方に架かってくるって事は私の直通番号を知ってる相手か私じゃなきゃ対応できないからこちらに回されてくる相手だけだ。なんで引退しただけで米国大使館から連絡が来るんだよ。そして受話器越しに泣かれるんだよ。結婚おめでとうって電報準備しとかないとな。

 

「とりあえず飯……腹にモノを入れないと…………」

 

 なけなしの気力を振り絞って受話器を持ち上げる。秘書課に連絡すれば何かしら持ってきてくれるだろう……と、受話器を戻し内線ボタンを押そうとしてハッと気づいたときには時すでに遅く。

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

「ほりぃしっと」

 

 結局この日は一日中電話が鳴りやまず、心配して銀さんが様子を見に来てくれるまで私は飲まず食わずで電話対応をする羽目になった。この塩おにぎり、塩っ気が効いてて美味いなぁ。

 

 

 

 

『自業自得ではありませんか』

「みのりんが厳しい」

『私の状況はもっと厳しいんですが???』

「すんませんっした!」

 

 電話越しににじみ出る怒気にその場で深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする。日本人特有の電話越しなのに頭下げるあれだ。本当に悪い事したと思ってるときはついつい頭下げちゃうんだよね。相手に伝わらないけど。

 

 まぁ相手に伝わらないとはいえ謝罪だ。本当にすまないという気持ちで胸いっぱいな謝罪とはどんな所でも頭を下げられる事なので、たとえこれが電話越しだろうと肉焦がし骨焼く鉄板の上だろうと謝罪する気持ちが重要なんだよ。

 

『いえ、それは意味が分かりませんが』

「はい」

『…………はぁ…………いえ。これもいつかは訪れていた事ですから。それが、少し早かっただけですよね』

 

 ため息と少しの沈黙。そして口を開いた石川女史の言葉には、呆れたような、諦めたような感情が乗せられていた。

 

『黒井タクミが表舞台から降りるその瞬間に、当事者の一人として立ち会うことが出来た。その事はきっと、私の今後の人生でも曇ることのない、一等輝く星のような出来事なんですよね……』

「みのりん、さすがに大げさだっ……」

『分かりました。スケジュールの調整は万事。会場についても手配しておきますので、タクミさんは万事心配なく日本での用事を済ませてください。米国は私が差配しきってみせます』

「あ、うん。はい」

『貴女は私にとって、私たち日本の音楽関係者にとって眩いほどの輝きを放つ一等星でした。最後の最後まで貴女が貴女(黒井タクミ)らしく輝けるよう、最善の努力を尽くします……タクミさん。貴女と仕事が出来て、楽しかった――また米国で会いましょう』

 

 しょんぼりとした雰囲気から一転。返ってきた情熱あふれる言葉の勢いに押されて頷くと、石川女史はそう口にして。最後に少しだけ恥ずかしそうに言葉をつけ足して電話を切った。

 

 電話が切れた後。ツー、ツーという音を耳にしながら、受話器を元に戻そうとして、直前で電話機本体の横に置く。受話器を戻したら次の対応が始まってしまう。それが少し、今は勿体ないような気がしたからだ。

 

「楽しかった、か。私もだよ」

 

 ギシリと椅子を揺らして天井を仰ぐ。石川女史との会話は、疲れた心身に染みるような気持ちよさだった。

 

 数十秒ほど目を閉じて余韻に浸った後、目を開ける。

 

 さぁ、やることは一杯だ。著作権管理団体の作成は、必ずやらなければいけない。ジョンと出会ったあの日、決意したのだから。

 

 自身が持っている著作権は、どれもこれもが過去生で自分が慣れ親しんだ曲だった。自身がやりたいことをやる力を得るために今までこれらの楽曲を使用していたが、本来これらの名声や富を受けるべき人物は全く別の人々だ。彼ら彼女らが世に出ていないからと、いつまでも自分がその恩恵に預かり続けるのはどうにも気持ちが悪かった。

 

 そう、私の気持ちが悪かったのだ。他人に向けられるべき賞賛をどれだけ浴びても、それは重いヘドロのような重圧しか与えてくれない。

 

 だから、これらの楽曲をあるべきところに返す――のは無理だとしても。それに近い何かしらの手立てがないかとずっと考えていた。考えに考えて、特に思いつかなかったからボカシてパッパやみのりんなどにも相談して、ある程度考えが煮詰まったところで日本の著作管理団体との一件が起きた。

 

 あんまりな対応にムカムカしながら、心の中でパズルのピースがハマったような感覚だった。私がやるべきことはこれなのでは。私が持っている事になっている(・・・・・・)楽曲を、この手法でならという思いが芽生えたのだ。

 

 私が著作権を所有している楽曲を自由化する。誰しもがカバーを行ったり、自由に演奏することが出来るように。

 

 そうすればジョンさん達だって自由に演奏することだってできる。せっかく楽曲を返したのに中々演奏してくれない英国の女王様のバンド(QUEEN)だってWe Will Rock You(ロックをかまして)くれるかもしれないしあるいはカバーバンドという形になっても世に出ていなかった彼ら彼女らが姿を現してくれるかもしれない。

 

 そりゃあ著作権は大事だ。音楽家ってのは基本的に金がないから、彼らの大事な飯のタネを私の一存で潰すなんて気は毛頭ない。だからこれはあくまでも私が著作権を持つ楽曲だけの話になるだろう。もちろん私の著作権を管理する団体は基本的に私がこれまでに稼いだお金で運営する。税金対策って事ならパッパもみのりんも文句はつけないだろう。

 

 とりあえずは法律関係、特に音楽関連の法律に強い弁護士や専門家を集めなければいけないな。今現在私の著作権を管理してる団体に三行半を叩きつける必要もあるし、本当にやることがいっぱいだ。やることが、やることがおおいっっ!

 

 ウシッと小さく気合の言葉を吐いて、受話器を電話機に戻す。秘書課に連絡を入れよう、あそこの美人さん方なら961プロご用達の弁護士さんの連絡先も――

 

 ガチャン、Trrrrrr

 

「oh...」

 

 天丼かよ、と天井を仰いだ後、私は小さく息を吐いて、受話器をあげる。

 

 二日連続で電話で潰れそうだな、と口の中でこぼしながら、私は「ハロー」と受話器の向こうの相手へ声をかけた。




クソ女神様とタクミっぽ(ry

クソ女神様
「自分が間違ってたなんてわかってた。あの魔術師に行動を封じられた時、自分が致命的なミスを犯したとも理解した。でも分かってるから、だからなに? 間違ってるから、何も行動をせずにただ時を無駄に過ごせというの? そんな事は出来ない。私は、そんな事が出来る人生を歩んでこなかった。神という存在になったのだって脇目も降らずにただ人生を駆け抜けた結果だった。私は、過ちを認めて振り返るなんてできる存在じゃない。そういう存在じゃないの」

タクミっぽいの
「語るやん」

クソ女神
「クソ悪魔」

タクミっぽいの
「どう考えてもお前さん一人でこの世界を、なんてさ。誰も考えてなかったと思うけどねぇ。世界が滅亡する手前であの娘が間に合ったのか、それとも元々ここで世界が滅ぶことはなかったのか。私がここに居る理由……まぁ。いま振り返った上ではどうとでも言えることだな。お前さんは自分の尻拭いをしたあの娘にもうちょっと感謝した方がいいぞ」

クソ女神様
「語るじゃない」

タクミっぽいの
「語るよぉ。おばさんなもんでね、おしゃべりは好きなんだ」
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