この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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遅くなって申し訳ありません。
ようやく終わりが見えてきました。

誤字修正、佐藤東沙様ありがとうございます!


この告知のない世界で

 10万人は優に超えているだろう。

 

 始まる前は寒い程に冷気を吐き出していた冷房も、彼らの熱気の前に完全敗北を喫してしまい、火照った体を更に熱く刺激する。

 

 体を冷やすために用意していた飲み水を頭から被ると、程よく冷えた飲料水のシャワーが頭から全身を伝って零れ落ちていく。

 

 水気が心地いい。冷たい水が全身から噴き出す汗を、何もかもを流してくれる。

 

 天井付近に誂えられた電光掲示板の数字を見上げる。先ほどまで自分と対面の彼女に視線を向けていた観衆の目は、全てそこに向けられている。

 

 98と、100。

 

 たった二つ数えれば届く数字が、そこにはあった。

 

 たった二つ。それが私と彼女の差だと、そこに表されていた。

 

 ペタリ、とステージの上に座る。少し水浸しになっていてお尻が濡れてしまったが、構う事はない。

 

 なにせ疲れている。

 

 恐らく生まれてきてこれほど全力を出したことはないという位に全力を振り絞った。全力の出し方すら知らなかった幼少時や、少し調子に乗っていた日本時代とは違う。

 

 全力だった。この日のために研鑽を積み、この日のためにコンディションを整え、この日に挑んだ。

 

 そして、その結果――私は完膚なきまでに敗北を喫した。

 

 少しずつ観客席がざわめきを取り戻す。幕切れが奪い去った観客たちの声が戻って来る。

 

 ペタリ、と背中をステージにつける。寝っ転がったまま、天井付近に誂えられた電光掲示板を再度見上げる。

 

 98と、100。

 

 近いようで果てしなく遠い、敗者と勝者(私と彼女)の距離。

 

『お行儀が悪いじゃない』

 

 そんな私を覗き込むように、勝者の顔が私を見下ろしてくる。

 

『あんたのステージは反対側(あっち)でしょ。アンコールはどうしたのよ』

『私のライブバトルはね。最後は勝者も敗者も一緒にアンコールをするの。わざわざ呼びに来たのよ?』

 

 水に濡れたせいで歪む視界の中。意地悪く笑顔を浮かべる彼女に、精一杯の強がりを口にする私に彼女は首をすくめてそう言い放つ。

 

 アンコールなんて演る余力は残っていないと文句を言いそうになり、けれどそれを口にするのはなんだか更に負けたような気がしてくる。

 

 悔し紛れに手を伸ばし、立たせろとアピールすると“王様”は苦笑を浮かべて私の手を掴み、引き上げた。

 

『私に負けるようなら、タクミには勝てないわよ?』

 

 そして引き上げた際。耳元で囁くようにそう口にする“王様”に、立ち上がろうとしていた私の動きが止まる。

 

 そんな私に“王様”は、再度。

 

 繰り返す様に、呟くようにその言葉を口にした。

 

『私一人に負けるなら、貴女はボトムズ(タクミ)に勝てない』

 

 そう言って、彼女はウインクを一つ。私に背を向け、自分のステージに向かって真っすぐ(・・・・)歩き始めた。彼女の動きに合わせて左右に割れた10万人(・・・・)の観客の中を、ゆっくりとした足取りで。“王様”の名にふさわしい威厳に満ちた足取りで。

 

「……堪んないわね」

 

 このステージの主役は彼女だった。最初から最後まで、私は掌の上だった。

 

 そうこちらに言外に突き付けてくるパフォーマンスに、悔しさを通り超えて可笑しさすら感じながら彼女に向かって歩き始める。

 

 ここで引けば、恐らく自分は挑む資格すらも失ってしまう。

 

 モーゼの十戒のように割れた観客の海の中を歩みながら、ステージ(玉座)の上に戻った“王様”へと視線を向ける。

 

 あの“王様”の向こうに、タクミは居る。

 

 98と、100。

 

 たった二つにしては随分と遠い数字を思い浮かべながら。唇をかみしめ。

 

 勝者の待つステージへと、私は足を踏み入れた。

 

 次へ、挑むために。

 

 

 

 

 私は今、拉致されている。

 

 始まりは日本の自室だった。1週間なりっぱなしだった電話攻勢もようやく落ち着き、ラストツアーの調整もみのりんに丸投げし引退会見にオールバックで登場して場を騒然とさせ新しく立ち上げる著作権管理団体の設営をパッパに投げ数多の鬼畜アトラクションをクリアした人に賞金を出す企画『疾風!タクミ砦』の企画書を最近パッパが株主になったテレビ局に速達で送りゲストに行ったライブで蝋人形にされかけ『な音』の収録で管を巻いて送り付けられた『セブン』の作品に出来るだけ真剣な論評をビデオメール式で返してミカン3の日本国内での販売計画を立てた。

 

 一般人なら死んじゃうんじゃ? と途中で感じる過密スケジュールも終わり、日本ミカン社が開発した横スクロール式格闘アクションゲームで脇を露出させた巫女がブルンブルンとお山を揺らして西洋モンスターをどつきまわすのを堪能していたら、許可も出していないのにドアがバンッと大きな音を立てて開いたのだ。

 

 ファッ!?と口にくわえていた棒付キャンディをぽろりと零しながらドアの方へ視線を向けると、そこにはなにかオーラを放ちながら仁王立ちするジェニファーさんの姿があった。

 

『行くわよ、タクミ』

「え。なんでジェニファーさんが。全米ツアー中じゃ――え、マジで来たの?』

『行くわよ、タクミ』

『や、来たのは良いけど行くって』

『行くわよ、タクミ』

『はい』

 

 有無を言わさぬジェニファーさんの勢いに、私は服従の意志を込めて頭を垂れる。

 

 そうして、私の拉致生活が始まったのでした。

 

 え、拉致じゃないって? 逃げないように全身をロープでぐるぐる巻きにされて屈強な男のスタッフ3人がかりで運搬される姿を見てくれ。どこからどう見ても拉致被害者だろう。

 

 この姿で出国出来たの奇跡としか思えんぞ。新しいテレビの企画か何かだと思われたのかな?

 

『プライベートジェットって凄いわね』

『プライベートジェットでも許される範囲ってあるよね???』

 

 最近は音楽学校の業務で忙しいと言っていたキャロルおばさんの感想に、世間一般で言うところの常識的な言葉で苦言を呈しておく。

 

 が、ダメッッッ!

 

 キャロルおばさんは私の言葉に曖昧な笑顔を浮かべて肩をすくめると隣に座るニールさんに機内食のキャビアについて語り始めた。まるで取り合ってもらえない。なんてことだ、リーダーである私の言葉はもう皆には届かないということか。権威の失墜。関白失脚。

 

 ショックを隠し切れずミノムシのような恰好のまま関白失脚を口ずさんでいると、ジェニファーさんがやたらとポップな曲調で歌をつけ始めた。やめてくれ、これそういう歌ちゃうんです。

 

『まずは上海、台北、そして香港の順ね』

「お、良いねアジア旅行――なわけないか。もしかしてこれライブツアーなの?』

『もちろん。なんだと思ってたの?』

『バンドメンバーによる誘拐かなって』

『香港の次はマニラに行ってそのままシドニーまで空の旅よ』

『うん、ルート決めが意味わからないぞ???』

 

 多忙なみのりんの代わりに付いてきた来たマネジメント専属の社員が恐らくライブ会場のある地点にマーキングを施した世界地図を手渡してくる。ユーラシア大陸を本当の意味で横断するどころかオーストラリアまで摘まんでいくのは無理を通り越して無謀では???

 

 いや、アジア、東南アジアからオーストラリアというのは分かる。非常に良く分かるルート取りではあるんだが、そこからインド側に究極Vモンキー決めるのはどういう事なんだ。そこは素直に香港から大陸沿いに渡るべきじゃないか?

 

『時間がないわ。年末に引退すると言っちゃった以上、ライブスケジュールは詰めていかないと』

『いや。まあそこには罪悪感があるから何とも言わないけどさ』

『だから中4日で各国をめぐるライブツアーを計画したわ』

『バカかな??????』

『短期間で準備出来るって国に話を持って行ったら明日でもOKって返事が来たわよ』

 

 これなら年末までに20か国は回れるわね!と自信満々に口にするジェニファーさんと、なにか覚悟を決めているかのように頷きを返すキャロルおばさんとニールさん。

 

 開いた口が塞がらないとは、こういう感覚なのだろうか。そんな急な準備で、ライブなんて出来るわけがない。巷のライブが、どれだけ入念に事前準備を行っているというのか。

 

 まず告知。いきなり明日ライブ始めます、で人なんて集まるわけがない、彼らだってそれぞれ仕事があるし、生活がある。当然、いきなり明日ライブがあるからなんて事で動けるわけがない。

 

 よしんば人が集まったとして、今度は彼らを収容する会場が問題だ。会場の設営はよっぽど簡素な造りでもなければ一日二日で終わるようなものじゃないし設営した後の音響設備の合わせなどにも時間がかかる。

 

 それに息の合ったスタッフの助けも必要だ。一つのステージはただボトムズが出ればいいってわけではない。私たちが最高のパフォーマンスを発揮するために、縁の下でそれを助けてくれる人々がどれだけ多くいるか。

 

 ライブに来てくれた観客を満足させるために、どれだけの努力が必要か。

 

 そこまで考えて、口に出そうとして――口をつぐむ。

 

 そんなことは、みんな分かっているんだ。私が言うまでもなく、彼ら彼女らはそれを理解している。その上での、今だ。

 

 これは恐らくみのりんの企画だ。ライブツアーの全権を彼女に振った以上、彼女がこの事態を知らないわけがない。ジェニファーさんたちは演者であり当事者であるが、彼女たちがどれだけ要望したとしてもそれが実現できないと思ったらみのりんは蹴る。間違いなく、一片の容赦もなく蹴り飛ばすだろう。

 

 それが、今。私に一言の連絡もなかったとはいえ…………多分連絡忘れてたんだよねみのりんハブってるとかじゃないよね? ごほん。とはいえ、ゴーサインが出てジェニファーさんたちは私を迎えに来て。そうして私は今、機上の人となっている。

 

 恐らく後数時間もせずに私は上海に到着する。そして歌うのだろう。私の引退を告げるために。世界中のファンに、黒井タクミが引退するんだと告げるために。

 

 それだけのために、沢山の人間が。この場にいるメンバーも。この場に居ない人間も。たくさんの人が身を削り、動いている。ほぼ無茶と言えるようなスケジュールで、これが最低でも数か月は続くのだ。

 

 辛いだろう。苦しいだろう。通常の工程でもライブツアーってのは大変なんだ。それを更に限界まで突き詰めればどうなるかなんてわかり切っている。

 

 だが彼ら彼女らはそれを始めた。成功させるために、というのはある。ファンのため、という感情も勿論、あるだろう。

 

 けれど、彼らは。

 

 彼らはみんな、私が引退するから。私の最後の我が儘を、最高の結果で終わらせたいから。

 

 黒井タクミの最後を彩るためだけに、無理で無茶で無謀な計画に自らを投じたのだ。

 

 その覚悟に口を挟むわけにはいかない。口を挟めば、彼らの願いが陳腐化してしまうかもしれない。

 

 この思いを、感情を。全てを舞台にもっていって、初めて彼らは報われる。

 

 それを理解しているから、理解できたから私は口をつぐんだ。同時に、胸の底から熱く湧き上がってくる感情を覚えた。世界ツアーを初めてやった時も、アメリカではじめてSUKIYAKIを歌った時も、日本でパッパに引き上げられた時すら感じなかったものが、私のうちから生まれたのを感じる。

 

 誰かの想いを背負い込む。これは、そういう熱だ。

 

 アトムを歌った時。ゴジラを託された時。私の胸にこみ上げてきた、託される熱だ。

 

 今まで私は、自分のために好き勝手に歌って、好き勝手に生きてきた。自分が聞きたい音楽を誰も歌わないから歌っていた。そうして誰かが後に続いてくれることを期待して、そして誰かが自分好みの歌を歌い始めてくれることを願う。そんなどこか他人事のような気持ちが確かにあった。

 

 そんな私が、今。最後の最後で誰かの想いを背負って、舞台に立とうとしている事を、自覚している。期待にこたえたいと思っている。

 

 最高のライブがしたいと、願っている。

 

『最高のライブにしようね、ジェニファーさん』

 

 特に意識したわけではない。ただ、内心がこぼれる様にそう呟くように口にすると。

 

 隣に座ったジェニファーさんは嬉しそうに笑って頷いた。

 

 

 

 

「で、ハニトラを喰らってるってわけ」

『アッハッハッハッ!』

「ジェニファーさん慣れてるなぁおい。上海ハニーと社交ダンスってか」

 

 ぶどうジュースを飲み干して本革張りのソファに深々と腰を下ろし、イケメン高身長で気遣い上手な男集団を侍らせる。高級ホストクラブを貸し切ったような光景だが別に豪遊しているわけではない。入国した瞬間にまず超長いリムジンが送迎に現れ、そのまま最高級ホテルに招待された私たちは打ち合わせもそこそこに歓迎の宴と称したパーティーに案内されてやたらと偉そうな肩書のおじさま達と挨拶を交えた後に内々の宴だとか言われてここに放り込まれたのだ。

 

 居並ぶイケメン方は誰しもが立派な肩書や経歴を持った御曹司や若社長達であり、彼らは徹頭徹尾こちらを立てて出しゃばりすぎず、けれどもアピールするべきタイミングで前に出てくる。互いがライバルであるハズなのに決してその事をこちらに悟らせず、和気あいあいとした空気でこちらを楽しませてくる。この歓迎にジェニファーさんやキャロルおばさんもご満悦で、ちやほやしてくる若い男の子と遊んでいるようだ。

 

 もちろんニールさんの所にはチャイナなドレスを着た中華美人の姿があったが、彼は妻帯者だって言って断ってた。良かった、奥さんに告げ口する必要がなくなって。

 

『ああ、タクミさん。グラスが空いていますね』

 

 ぶどうジュースを飲み干した瞬間、隣に座るさわやかイケメン風御曹司(〇〇党幹部の跡取り息子)が自然な動作でワイングラスにジュースのお替りを注ぐ。御曹司というよりそれ専門のスタッフだって言われた方が違和感がないが、そんだけあちらさんも本気でこちらを取り込もうとしてるってことなのかな。

 

 まぁ私を口説き落とせばそのままミカン社とエキサイトプロが付いてくるし、高度経済成長期に入ったと言われる中華だと最先端のハイテク技術を持ってるミカン社は喉から手が出るほど欲しいのかな。イケメンの顔を眺めるのは心の栄養になるから良いんだけど、決意を新たに最高のライブをやりに来た瞬間ハニトラなんて喰らっても嬉しくはないんだが。それに私の好みは『俺はクソ真面目な男だ』とか真顔で言ってのけるタフガイよりなイケメンだ。

 

「……まぁ、もういいか」

 

 十分に美男と美食を堪能した。気合も入れなおした。であればだらだらだべるのではなく、やることはただ一つ。

 

『どうされました?』

『うん、ちょっとライブの宣伝してくるね』

『はい?』

 

 隣に座って来た恐らく一番序列が高いだろうさわやかイケメン風御曹司が笑顔を浮かべながら尋ねてくるのでそう答えを返すと、彼は笑顔のままこてん、と首を傾ける。

 

 こちらが言っている言葉の意味が分からなかったのかもしれないが、一々動作が絵になるなぁ。イケメンはやっぱり得だ。

 

『ジェニファーさん、ギターは』

『いつでもOKよ!』

『キャロルおばさーん』

『あいよ』

『ニールさんは……どないしょ』

『ホテルにカホンを持ち込んでる。即席のドラム替わりにはなるさ』

『なんでそんなん持ってきてるの?』

『こういうことがあると思っていたからね』

『お、おう……』

 

 私の声掛けに応じるように、それまで場を楽しんで飲めや歌えや大騒ぎといった有様だったジェニファーさんはいきなり素面に戻ったかのようにギターを担ぎ、待っていましたとキャロルおばさんと一緒に立ち上がった。

 

 ニールさんは、なんというか申し訳ないとしか。

 

 みのりんの代わりについてきたマネジメント専属の社員に目配せすると、彼は眼鏡をキラリと輝かせてふてぶてしい笑顔を浮かべる。うん、流石はみのりんが代役としてつける将来有望枠なだけある。この状況で笑えるならどんなアーティストとも上手くやっていけるだろう。

 

『あ、あの。タクミさん』

『ああ、お兄ちゃん。悪いんだけど警察に連絡しといてね。路上で一発ライブやっちゃうから』

『はい…………………はいっ!?』

 

 時刻は夜の20時。眠らない街と謡われることもある上海ならまだまだ浅い時間帯だし、交通整理は必要だろう。巻き込まれる通行車両が可哀そうだしね。共産党と強い繋がりのあるイケメンニイサンならその辺融通利かせてくれるだろ。

 

 本当なら大人しく舞台が整うのを待つのが筋ってもんだろうが、折角やる気を出していたのに欲張って来た君らが悪いという事で。まぁ、ライブを大成功させるつもりでやらせてもらうから、それで納得してもらいたい。

 

 路上ライブとかどれくらいぶ……あれ。一人だったら割と最近やった記憶があるな。いや、あれは昼間の都内だし私は演奏だったしノーカン。ノーカン。

 

 と、流石にこれだけだと彼らにも悪い。ここで結果を出せなくて立場が悪くなったとかだと寝覚めも悪くなっちまうしな。

 

 あくまでも上海での本番は明日のコンサート。今夜は前夜祭だということでボトムズが上海ジャックしちまうって感じで無理やり話を通してしまえば彼らも賓客の要望を最優先にした、と不手際を責められる際の逃げ道が出来るだろうし、私もあんまり趣味じゃないイケメンからのちやほや攻勢から逃れられる。それに明日のライブの宣伝になると正に一石三鳥の計略だ。

 

 自分のひらめきが怖くなる。これは軍師になれそうだな。ロッカー孔明とでも名乗るか。

 

『ほら、行こうよお兄さんたち。それにそっちのお姉さんたちも。楽しいライブの始まりだ』

『あ、いや。タクミさん。我々はその、それに。ライブは、明日では』

『なにいってんの。今日がライブの初日だよ。年末まで続くライブのさ!』

 

 困った顔でその場に立ち尽くす中華系イケメン&美女軍団にそう声をかけ、よっしゃ勢いで誤魔化せた! とほくそ笑みながら店の外に出る。

 

 店の外ではすでに人だかりが出来始めていた。漏れ伝わる音を聞くにジェニファーさんがギターソロをかましているらしい。キャロルおばさんはアンプのチェック中。ニールさんは箱のような楽器、カホンにのって確認するようにリズミカルに箱を手で叩いているようだ。

 

 あんなんいつ用意したんだと一言こぼすと、臨時マネージャー君が眼鏡をくいッと持ち上げた。ちょっと面白かったからこいつには明日以降もガンガン無茶ぶりしてやろう。

 

 着々と増えていく観衆に一言声をかけると、ワァッと歓声が広がりステージ(・・・・)への道が開かれる。気持ちいいね、以心伝心みたいでさ。こちらがやりたいことを観客側が理解してくれる。即席ライブをやるうえでこんなに嬉しいことはない。

 

 私は出来るだけゆっくりとした足取りで路上のステージ(・・・・)へと歩いていく。一歩、また一歩と進むたびに周りを囲む観客のボルテージが熱を持って上がっていく。

 

 どんどん増えていく観客の海。その中で一か所、ぽっかりと丸く空いた場所が今夜のステージだ。ちらほらと姿が見える赤く肩を染めた連中に指差しで声掛けすると、彼らは嬉しそうな笑顔を浮かべて赤く染められた右肩を叩いた。

 

 ステージ(・・・・)の上に立つ。期待感が空気に乗って、肌を焦がすようだ。

 

 眼鏡をかけた臨時マネージャーがいつの間にか用意したらしいマイクを手渡してくる。それに笑顔で首を振って応え、私はジェニファーさんを指さした。

 

 ギターソロ。つんざくような音色が町の夜景を彩る。

 

 キャロルおばさんを指さした。

 

 ジェニファーさんの迸るギターソロにキャロルおばさんのベースが絡みつく。

 

 ニールさん。

 

 普段とはまるで違う叩き方だというのに普段と全く変わらない正確無比な重低音が二人の音楽を支えた。

 

 嬉しいね。突発的な。しかもかなり久しぶりの合わせだというのに、まるで違和感がない。このバンドは最高だと、改めて思い知らされた。

 

「そして――」

 

 夜空をかけるメロディーに。

 

「私」

 

 私の声が乗せられる。

 

 意味のない音だ。音を合わせるためだけの、簡単な演奏だ。それが夜風に乗って群衆の耳を擽り眠らない町を通り抜けていく。

 

 ただそれだけの作業が、楽しくて楽しくて仕方がない。

 

 一曲目は何にする? 言葉にせず、目配せだけでそう尋ねてくるジェニファーさんに私は笑顔で答えて、右手を掲げる。

 

 ピタリと止まる音。演奏も、群衆のざわめきも。もしかしたら吐息の音さえも忘れ去った上海の夜に。

 

「上を向いて歩こう」

 

 私の言葉だけが木霊した。




クソ女神様とタクミっぽ(ry

クソ女神様
「感謝もしてる。凄いとも思ってる。けど、それ以上に気に食わない」

タクミっぽいの
「捻くれてるね」

クソ女神様
「本当なら自分が受け取れていたかもしれないものを。心の底から欲しいものを一身に浴びてる自分の姿をした誰かがいたら。貴女どうする? それが自分に出来ないことだと思っても。思うからこそ私は殺したくなったわ」

タクミっぽいの
「君殺意凄かったもんね。返り討ちにされたけど」

クソ女神様
「当然よ。少なくとも人間だったころその世界で一番殺しをしたのは私だもの」

タクミっぽいの
「褒めてねぇし偉ぶれる内容ちがうよね」

クソ女神様
「一人を殺せば犯罪でも100人殺せば歴史に残るし1000人殺せば一騎当千。1国殺せば英雄でしょ」

タクミっぽいの
「価値観を現代にアップグレードしようか?????」
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