傭兵達に花束を   作:元素。

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後編

「うおっ!?」

 

エクリプスはいきなり面食らうことになった。敵の姿を目視したと同時に、左手の盾に攻撃を受けたからだ。

その攻撃自体は問題ではない。彼の機体は防御重視、多少の攻撃では気にもならない。では、何が問題かと言えば。

 

「なんつー精度だよ……明らかにロック範囲外だったろ………」

 

その、距離である。

彼のシールドに突き刺さった光の矢、恐らくはレーザーライフルの攻撃は、システムのサポートを受けられるロックオン可能範囲の外から放たれた。純粋な、己の力量のみの狙撃。それを、当てた。つまりそれは、自分の動きを完全に予測されたことを意味する。

そして相手は、攻撃をシールドに当てた。本来の射程の外からの、ほとんど威力の無い攻撃を、わざわざ本体でもないシールドに。

 

「……警告ってことかよ。舐めやがって!」

 

思い切りブースターを吹かし、一気に相手に接近する。警告を無視して迫ってきた敵に対し、さらにレーザーが放たれる。

ギリギリで避ける、もしくはシールドで防ぐ。

連続して撃ち込まれる光線に、まるで濃密な弾幕に突っ込んで行くような錯覚を覚える。先ほどの防衛兵器のものよりも、さらに濃く、厚い弾幕に。

 

「ッ…だが、捕まえたぜ……!」

 

ようやく敵をはっきりと確認する。

重量逆関節型の、イエローとオレンジが鮮やかな機体。手にはレーザーライフルとバトルライフル、ハンガーにはパルスマシンガンとレーザーブレードが積まれている。そして肩には、燃え盛る花弁を持つ花のエンブレム。

 

「ハッ、良い趣味してるぜ。でも、こっちもお仕事なんでな、悪いけど、喰われてもらおうか!」

 

ガトリングが連射される。まるで獣の狩りのように荒々しく、正確に。

しかし、相手も避てくる。逆関節型の機動性を生かして、文字通り縦横無尽に跳びまわる。お返しとばかりに、バトルライフルから大口径のHEAT弾が撃ち込まれる。機体をわずかに下がらせて避ける。

両者とも回避を続ける中、花の機体のハンガーが動く。

レーザーライフルがパルスマシンガンに持ち替えられ、そこから無数の光弾が放たれる。ガトリングと同じように連射されるそれは、着弾する直前にプラズマを撒き散らして炸裂する。

踊る紺と黄色の機体の間を、三色の弾丸が飛び交い、砂のカンバスを好き勝手に彩っていく。

その様子は一種の芸術性さえ感じさせるものだったが、当事者である二人には見とれる余裕などなく。

 

「こ、のっ………!当たれよ……!」

 

両者の実力は互角であり、そしてどちらも決して弱くなかった。それ故の、相手の、そして自らの限界を探り続けるような戦闘。

 

そしてついに、相手の攻撃がシールドの耐久力を上回った。

 

『パージします』

 

「チッ……」

 

他人事のような機械音声に舌打ちで返事をする。

シールドが放棄され、空いた手には自動的にショットガンが握られる。

 

「くそっ、ちょっと不味いかもだな…」

 

好機とばかりに撃ちまくる相手に、彼も弾幕で応える。このまま消耗戦となるか、と、第三者が居れば思っただろうが。

 

あいにくそれは、彼の好みではなかった。

 

「こう言うのは、あまり好きじゃないんだが…………このままじゃあ、面白くないよなあ!!」

 

それまでの繊細な機動が嘘のように、強引に接近する。まさに装甲に物を言わせた特攻だが、彼は努めて冷静に右のハンガーを操作した。

新たに右腕に装備されたのは、実体型のブレード。名をMURAKUMOと言う、金属の刃で斬り付けるだけの単純な武装。特にギミックと呼べる物が何も無いそれは、機体の運動エネルギーがそのまま威力に直結する。つまり、速度に乗った状態でなければ、ダメージを与えづらいということ。それ故に、使いづらいと言って多くの傭兵から敬遠される武装でもある。

しかし、彼ならば。

傭兵エクリプスの腕ならば。

その短所は長所に変わる。

そして彼は。

 

「これでもぉ………!」

 

己の間合いの内ならば、外さない。

 

「喰らええぇぇ!!」

 

肘から伸びるように展開された刀身が十分な速度で叩き付けられる。

さらに、

 

「おらぁっ!」

 

短くブーストしての蹴り。

 

「もう一丁!」

 

再度、斬撃。

 

立て続けに三度の攻撃を受け、相手はたまらず大きくブーストして下がる。

 

両者の動きが止まる。

数秒間の沈黙を破ったのは、花のエンブレムの機体だった。

エクリプスを真似るかのように、右のハンガーを動かし、その手にレーザーブレードが握られる。

まるで三日月のように孤を描いた刀身が特徴の、MOONLIGHTの名がつけられた武装。その名を示すように、孤の内側から月光のごとく青白い光が溢れ出る。

 

「真っ向勝負ってわけか…………いいぜ、乗ってやるよ!」

 

両者の機体が、合図も無しに同時に前に出る。

そして、まるで最初から決まっていたかの

ように、光と鋼の刃が、一点で交わった。

 

「くっ……!」

 

斬り抜けるようにして、双方ともに距離をとる。

見れば、右腕の刃は、半ばから溶断され、武器としての機能を失っていた。

 

「でも、痛み分けってとこか………」

 

振り返ると、相手の右腕にあるそれも、半分ほどで断ち斬られていた。

 

『傭兵、こちらは終了した。作戦は成功だ。貴様も撤退しろ』

 

ようやくミッションの終了が告げられる。

 

「了解、すぐ行く」

 

『パージします』

 

ブレードをその場に放棄し、機体を後退させる。

花のエンブレムの機体は、何もせず、ただ見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

いつの時代も、仕事の終わったあとには酒の一杯でも欲しくなるものだ。今では店も少なくなってしまったが、人はその一杯の落ち着きからは離れられない。それは、鋼の巨人の一部となっても、変わらない。

 

「あぁ~、この一杯のために殺し合ってる」

 

「お客さん、そんな物騒なこと気持ち良さそうに言わないでくれよ」

 

傭兵となり、エクリプスと名を変えても。

 

「なんだよぉ、俺、今回は本当に死ぬかと思ったんだからな」

 

「そりゃご苦労なことだがな、こういう店は、雰囲気が大事なんだよ」

 

「はいはい…」

 

いじけたようにそっぽを向くと、一人の女が目に入った。

緩くウェーブのかかった金髪と、日に焼けた肌が特徴的な美女だ。

彼女は、まったく気負わないような歩き方で、彼に近づいていく。

 

「…や、横、いいかな?」

 

「……ああ、かまわないけど」

 

近づかれると、その大きく張り出した胸に目が行ってしまう。悲しき男の性である。

 

「で、いったい何の用だ?男なら他にもいるだろう」

 

初対面のわりに馴れ馴れしい、とは思わなかった。

 

「そんなたいした用じゃないよ。ただ、

――――私を殺しかけた相手が、どんなやつか気になっただけ」

 

初対面どころか、命のやり取りをした仲だったから。

 

「……やっぱりか」

 

「あ、やっぱりわかった?私も、なんかわかっちゃったんだよね~。根拠は無いけど、本当になんとなく。なんでかな?運命?」

 

「そんなロマンチックなもんじゃないだろ……」

 

「ああ、自己紹介まだだったね。私はコロナって名前で傭兵やってるの。機体名はブレイズフラワー。かわいいでしょ?」

 

「まあ、殺人マシーンの名前にしては、な……」

 

その後は、何気ない雑談が続いた。不思議と二人は話が合い、酒も進む。

 

「…………私ね、小さい頃は、お花屋さんになりたかったんだ」

 

「花?今の時代、植物が育つ環境なんてほとんど無いだろ。弾丸売った方がよっぽど儲かるぞ?」

 

「あはは…だよねぇ…………でもさ、それでもなりたかったんだよ。今じゃ、このざまだけど」

 

「生きてられるだけましだろ。夢も、無いよりはずっといい」

 

「ん……そうだね。ありがと。優しいんだね」

 

「そうでもねーよ」

 

そして夜もふけたころ。

 

「ごめんね、おごってもらっちゃって」

 

「気にすんな。あんたに勝ったおかげで、多少は余裕がある」

 

「あ~、そうだよね………悔しいなぁ」

 

「さっきも言ったろ、生きてるだけましだ」

 

「んふふ、そうだね。生きてて良かった。………君に会えたし、ね」

 

「そーだな」

 

「ほとんど、偶然だけどね。でも、なんとなく会える予感はしてたよ」

 

「ああ、俺も何か来るような気はしてた」

 

「やっぱり、運命かな?」

 

「それはねーって」

 

「ふふふっ……さて、私はもう行こうかな。次は、敵として会わないことを祈ってるよ」

 

「ああ、それは同感。あんたと戦るのは、もう二度とごめんだ」

 

「じゃ、また」

 

「またな。戦場以外で」

 

 

 

 

 

 

 

「……………これって、フラグって言うんだっけか……?」

 

 

 

 

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 

 

数週間後。

 

「おい、やっぱりフラグじゃねーか」

 

『あはは………これも、運命かな?』

 

「だからねーって」

 

二人はまた、戦場で向かい合っていた。

今回はエクリプスが防衛側で、コロナが攻撃側。あの日とは逆の立場だ。

 

「ま、そんな予感はしてたけどさ………準備してきて、正解だったな」

 

そしてもう一つ違うのは、互いの武装。

 

『私も同じだよ。やっぱり気が合うね、私達』

 

二人の機体の背にあるのは、巨大な機械の塊とでも言える物。 本来ACの規格に当てはまらない兵器を、無理やり取り付けた、オーバードウェポンと呼ばれる武装。二人が装備しているのは、傭兵達の間でそれぞれGRIND BLADE、そしてHUGE BLADEと呼ばれている。

 

「機体も立場も違うが………ここはなんだかデジャビュだな」

 

エクリプスの機体、ホープイーターの左腕が強制排除される。

 

『そうだねー……恐いけど、面白いね』

 

コロナの機体、ブレイズフラワーの背から巨大な筒が引き出される。

 

「お前のために用意したんだ、ちゃんと受け取ってくれよ?」

 

『私だって、君に会えると思って、頑張って準備したんだからね!』

 

無数の刃が赤熱し、高速で回転を始める。

無数の光が収束し、エネルギーが溢れ始める。

 

「いくぞ」

 

『いつでもいいよ』

 

そこには、恋人どうしが花束を交換するような感情も、わずかに込められて。

 

「『……っ……!』」

 

熱と金属の花束を。

光と放電の花束を。

 

あの日と同じように、互いにぶつけ合った。

 

……………………………………………

 

…………………………………

 

………………………

 

……………

 

………

 

 

 

 

 

 

「おい、目開けろ!」

 

機体に空いた穴からなんとか引きずり出したが、右半身はぼろぼろになり、右目も潰れている。

 

「ん…………あれ………私、生きてる……………?」

 

「……ああ、生きてる。もう大丈夫だ」

 

「………ふふっ……やっぱり、君、優しいね………………けど、もう駄目だよ………生き延びても、これじゃ傭兵続けられないし…………このまま…………」

 

「…ふっざけんな!花売るのが夢なんだろ?!だったら傭兵なんか辞めて、そうやって生きていけよ!身体が動かないってんなら、俺が支えてやる!だから、生きろ!」

 

「……………ホント?」

 

「ああ、本当だ」

 

「ホントにホント?」

 

「本当だって」

 

「嘘じゃない?」

 

「違うっての」

 

「絶対に?」

 

「絶対だ」

 

「…………ふふ」

 

その言葉を聞くと、彼女は幸せそうに瞳を閉じた。

 

 

 

「…………コロナ?」

 

「いよっし、言質とったー!」

 

「はぁ?!」

 

「前言撤回は許さないからね~♪」

 

「お、おま、さっきのは演技か?!」

 

「ううん、死にそうなのは本当」

 

「いやヤバいじゃねーか!何してんの?!」

 

「支えてくれるんでしょ?早く病院まで連れて行ってよ~」

 

「ちっくしよう!お前、後で覚えとけよ?!」

 

 

 

 

 

 

「ね、やっぱり運命だったでしょ?」

 

「………かもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し後、大陸の隅にひっそりと小さな花屋ができたのだが。

それはまた、別の話。

 




なんとか書き終えた……

なんだか、自分の未熟さを再確認した感じです
(;´∀`)

一応、機体の設定なんか。

・ホープイーター

右腕…ガトリング
左腕…シールド
右ハンガー…実ブレ
左ハンガー…ショットガン
肩…KEロケット

重量二脚型。
傭兵エクリプスの乗機。近距離重視。シールドと装甲に任せて肉薄し、蹴りとブレードを多用しつつ撃ちまくる戦法が得意。短期決戦タイプ。
ゲームで自分が使っている機体がモデル。僕はあんなに強くないですが……。


・ブレイズフラワー

右腕…バトルライフル
左腕…レーザーライフル
右ハンガー…レーザーブレード
左ハンガー…パルスマシンガン
肩…サブコン

重量逆関節型。
傭兵コロナの乗機。遠距離重視。離れた敵に跳ねまわりながら狙撃する。だが接近戦もできないわけではない。ゆっくり堅実タイプ。
こっちも自分がゲームで使っている、UNACがモデル。相手によっては僕より強いかもしれない……。
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