今回はちょっとした思いつきから生まれたこちらの作品を投稿させて頂きます。色々と拙い箇所などがあるかもしれませんが、最後まで読んで頂けるととてもありがたいです。よろしくお願いします。
それでは、早速始めていきます。
第1話 新たな日常と仲間
ポケモン研究の権威であるオーキド博士が住む『カントー地方』などから遠く離れた場所に位置し、古き建物が建ち並ぶ街や自然に溢れる町が各地に存在する『イリス地方』。その『イリス地方』の辺境地にある『イリバタウン』から更に離れ、 周囲を森などで囲まれた山中に建つ一軒の空き家へ向かって家具などを載せた何台ものトラックが走る中、その遙か上空を大きな翼を生やした黒いポケモンが黄色い小さなポケモンを頭に乗せた一人の少年を背に乗せて飛んでいた。
「ふぅ……やっぱりあそこまでは遠いな。ロイ、レド、お前達は疲れてないか?」
「ピカ、ピカピカピ!」
「グォ」
「……ははっ、その様子だとまだまだ平気って感じみたいだな。流石はポケモンリーグ準優勝者の手持ちポケモン達ってところかな」
「ピカッチュ!」
「グォー……」
少年の頭の上でロイと呼ばれたポケモン、ピカチュウがどこか自慢げに胸を張る中、そのロイの様子にレド――リザードンがやれやれといったように首を振った。そして、そんな手持ちポケモン達の姿に少年はクスリと笑った後、目的地へ向かいながらここまでの経緯を想起した。
彼の名前はイクト、数年前にこの『イリス地方』へ家族やパートナーであるピカチュウのロイと共に引っ越してきた14歳の少年だ。彼は幼い頃からポケモンリーグのチャンピオンになる事が夢であり、8歳の誕生日にプレゼントとして貰ったロイと共に日々特訓に励んでいた。そして、旅立ちが許される10歳を迎える前日に家族の仕事の都合でこの『イリス地方』へ引っ越してきた後、引っ越し先の街である『ロンドシティ』に住んでいたロッカ博士に
その後、ポケモン達と共に家族が待つ家へと帰ったイクトは、今の自分には一度自分を見つめ直す時間が必要だと感じ、しばらく旅には出ずに『ロンドシティ』に留まった。その間、旅の最中に出会った他のトレーナー達が会いに来たり、再び旅に出たという報せをもらったり、と様々な出来事があったものの、イクトの心はまったく晴れる事は無く、旅に出たりまたリーグに挑戦するための特訓を始めたりする事も無く、ただ時間だけが過ぎていった。そしてその内に、イクトは自分にはポケモントレーナーの才能はあっても、チャンピオンになれるだけの才能は無かったのではないかと思うようになり、チャンピオンになる夢を諦めようとしていた。そんなイクトの姿に手持ちポケモン達はどうにか元気を出してもらおうと様々な手を尽くしたが、その効果は一向に見られなかった。
そして、ポケモンリーグ挑戦から1年が経ったそんなある日の事、イクトは偶然テレビで『育て屋』についての特集が組まれていたのを目にし、いつものようにロイを頭の上に載せたままで何の気なしにそれをボーッと観ていた。しかし、観ていく内に育て屋の仕事に徐々に興味を惹かれ、預けられたポケモン達がのびのびと過ごすその姿から目が離せなくなっている自分がいる事に気付いた瞬間、イクトは『……これだ』と思わず呟いていた。そして、すぐに育て屋になるために必要な物についての調査や免許取得のための勉強を始め、ロイ達手持ちポケモンや家族に支えながら育て屋になる事を目指して必死に努力を重ねた。だが、今までとはまた違ったジャンルの夢だった事から、その道のりは決して楽な物では無く、イクトは免許取得の試験に幾度も落ちた事で再び夢を諦めそうにもなっていた。しかし、傍で支えてくれているロイ達や家族のため、そして今度こそ夢を諦めたくないという自分の強い思いから、夢を叶えるためにイクトはひたすらに勉強に取り組んだ。
それから1年後、イクトは免許取得の試験に見事合格し、新たな夢への第一歩を踏み出す事に成功した。そして試験に合格をした後、イクトは開業場所に相応しい場所のリサーチをしたり、開業資金を稼ぐために賞金が出るバトル大会に進んで参加をしたり、と帰郷時の様子がまるで嘘かのように精力的に活動をし続けた結果、無事に今日の引っ越しまでこぎ着けたのだった。
「……今日まで色々と大変だったけど、今度は諦めずに頑張ってきたからここまで来られたんだもんな」
「ピカ、ピカチュウ!」
「グォ!」
「ロイ、レド、お前達や他のポケモン達、そして父さん達に心配を掛けてきた分、育て屋として精一杯頑張っていくから、これからもよろしくな」
「ピッカ!」
「グォー!」
頼りになるポケモン達の返答に、イクトは嬉しそうな笑みを浮かべながら頷き、これから自分達の家であり店でもある空き家へ向けて飛んでいった。
「ありがとうございましたー!」
「ピカピカー!」
到着からおよそ二時間後、開業をするにあたって必要な資材や家具などを引っ越し業者達と協力しながら家の中へと運び入れ、イクトとロイは仕事を終えて走り去っていく引っ越し業者のトラックへ向けて大声でお礼を述べた。そしてトラックを見送った後、イクトはこれから自宅兼店となる建物をゆっくりと眺めた。
「それにしても……『イリス地方』の端の方にあるとは言え、こんなにしっかりとした家をよく手に入れられたもんだよな……」
「ピカ……ピカ、ピカピカチュ?」
「……ん? 実はここには何かしらの曰くでもあるんじゃ無いかって?」
「ピカ」
「うーん……確かにそう思うのは仕方ないけど、そんな話は一切聞いた事無いぞ? 不動産会社の調査結果にも特に怪しいところはなかったって書いてたし……」
「ピカ……」
ロイがどこか不安そうに耳をペタンと倒す中、イクトはこの物件を見つけた時の事を想起した。この物件を見つけたのは、開業場所を探し始めてからおよそ1年が経った頃であり、不動産会社から買い手を探している空き家があるという情報をもらってすぐにイクトはその空き家について教えてもらいに行った。そして話を聞いてみると、その空き家というのは『イリス地方』の辺境地にポツンと建つ広い庭付きの二階建ての一軒家であり、そこはある一人の老人の持ち家だったらしいのだが、その老人はある日突然自分の資産の大半を使ってこの家を建てると、建てたその日の内に引っ越しをしてしまったのだという。しかし、その老人は2か月ほど前に病気で亡くなってしまい、その家は空き家となってしまったのだが、老人の親族は誰も住みたがらなかったため、老人の息子は売り値を大幅に低下させてでも良いから、どうにか買い手になってくれる人を探していたとの事だった。話を聞き終えた後、イクトがその空き家の情報が纏められた書類に目を落とし、住所の欄や売り値の欄をしっかりと確認した。そしてその話や立地条件などを承知した上で、この空き家を買い取ったのだった。
「……まあ、最寄りの街からもかなり距離があるし、いくら庭付きの二階建てだとは言ってもこんなところにある一軒家を買おうとする人なんて俺達以外にいないよな」
「ピカ……ピカピカチュ」
「けど、こういうところにあっても来てくれる人が出来るように、これから頑張っていかないといけないんだ。そうじゃないと、ここまで頑張ってきた意味が無いからな」
「ピカッ!」
「ロイ、旅の時にもレド達のリーダーとして頑張ってもらっていたけど、これからも皆の事を引っ張って行ってくれ。頼んだぞ?」
「ピカチュ!」
イクトが頭上のロイに笑いかけ、ロイがそれに対して大きく頷きながら答えていたその時、家のドアがゆっくりと開き、中から二匹のポケモン達が姿を現した。
『主殿、中の掃除並びに家具の設置はおおよそ完了致しました』
『今、レドさん達がお庭の手入れをして下さっていますが、そちらもそろそろ終わりそうです。なので、後はイクトさんのお部屋の掃除と細かい物を片付けるくらいで終わりですね』
「うん、分かった。お前達もありがとうな、シオン、クレイン」
二匹のポケモン達に対してイクトがニコリと微笑みかけると、シオン――ルカリオは静かに首を振りながら『テレパシー』で返事をした。
『……いえ、これも主殿の手持ちポケモンである我々の務めですから』
『ふふ、そうですね。イクトさんに今まで鍛えてもらい、様々な世界を見せてもらった分、これからもイクトさんのために精一杯頑張っていきますよ』
「お前達……ああ、これからも頼りにさせてもらうよ」
イクトのその言葉に、シオンとクレイン――サーナイトが頷いた後、イクト達は住居スペースの片付けの残りを終わらせるために一緒に家の中へと入っていった。
それから数時間後、夕食や入浴などを済ませたイクトは、ロイと共に自室の机に向かって今日一日の出来事を日記として纏めていた。
「……よし、こんなもんかな。それにしても……明日からは店の方の片付けや資材の設置、庭の改造なんかもあるし、しばらくは準備で忙しい毎日になりそうだな」
「ピカッチュ」
「それと、せっかくこういう生活になったわけだし、出来ればレド達の専用の寝床も作ってやりたいところだよなぁ……」
「ピカピカ……?」
「ロイはモンスターボールに入るのがあまり好きじゃないから、いつも俺と一緒に寝てるけど、レド達にはいつもボールに戻ってもらってるだろ? だけど、こういう生活を始めたからには、アイツらにも専用の部屋か寝床くらいは用意してやりたいんだよ」
「ピカ……」
「もっとも、シオンとクレイン辺りにこの話を持ちかけても丁重に断られる気がするけどな」
その様子を想像して思わずクスリと笑っていたその時、部屋のドアがコンコンとノックされ、イクトは一度ロイと顔を見合わせた後、「どうぞ」とドアの向こうへ向けて声を掛けた。すると、ドアを開けて入ってきたのはシオンとクレインの二匹だった。
「シオン、それにクレイン。どうかしたのか?」
『あ、はい……実はシオンさんと一緒にこの家の中を色々と見て回っていたのですか、先程妙な物を見つけたので報告をしに来たんです』
「妙な物……?」
『はい。階段の裏の壁に『アンノーン文字』と呼ばれている物を使用した文章のような物が彫られていたのです』
「『アンノーン文字』……か」
シオンたちのその報告に、イクトは顎に手を当てながら興味深そうな表情を浮かべた。『アンノーン文字』とは、『ジョウト地方』にある『アルフのいせき』という場所に彫られている『アンノーン』というポケモンと同じ形の文字だ。しかし、『ジョウト地方』から離れた場所にある上、『イリス地方』に『アンノーン』が棲息しているという情報を聞いた事が無い事から、イクトはこの家に『アンノーン文字』を使った文章がある事に興味を覚えていた。
「……分かった。とりあえず今からそれを見に行ってみよう。もしかしたら、前に住んでいた老人に関係する事かもしれないしな」
『うん!』
『承知致しました』
『はい』
そして、シオンたちの案内で件の場所へ行ってみると、そこには確かに『アンノーン文字』で書かれた文章が彫られていた。
「なるほど……」
『主殿、これの解読は可能ですか?』
「まあな。一時期、『アンノーン文字』にハマってた事があったから、これくらいなら読めるはずだ。えーと……」
イクトは文章に目を向けると、そこに書かれている内容をゆっくりと読み始めた。
「……『かくされたちかしつそこにちいさななかまたちがいる』、かな……?」
『隠された地下室、そこに小さな仲間達がいる……ですか』
『つまり、この家のどこかにその地下室へ行くための仕掛けがあるという事になるけど……そんなのどこかにあったっけ……? 』
『いえ、そんな物を見た覚えはまったくありませんね……』
『確かに……そんな不可思議な物があれば、見逃すわけは無いですし……』
「そっか……」
シオン達の言葉にイクトは静かに答えた後、「ん……もしかしたら」と何かを思いついた様子でシオンに問い掛けた。
「なあ、アークやグランは何か知らないかな?」
『彼ら……ですか?』
「ああ。家の中に無いのなら、もしかしたら外にあるかもしれないだろ? だったら、庭の方を担当してもらっていたアーク達なら何か知ってるかもしれない」
『……なるほど。確かに中で見つからない以上、外にあるという可能性は高いですね』
『ええ。となると……早速彼らに話を聞きに行った方が良さそうですね。たしか彼らは、外で話をしていたはずなので、まずはそこへ行ってみましょう』
「分かった。それじゃあ案内は頼んだぞ」
『畏まりました』
シオンが恭しく一礼をしながら答えた後、イクト達はシオンの案内に従って他のポケモン達がいる庭へと向かった。そして庭に出てみると、そこではシオンの話通り、レドを含めた他のポケモン達が楽しそうに話をしていた。
「いたいた。おーい、お前達ー! ちょっと話を聞いても良いかー?」
「……グォ?」
「ドォ……?」
「ダイ……?」
不思議そうな表情でレド達がこちらを向く中、イクトはシオンたちと共にサッとレド達へと近付き、シオンに対して目配せをした後、『アンノーン文字』の文章の内容について問い掛けた。
「皆、庭の掃除や手入れをしていた時、何か妙な物を見掛けたりしてないか?」
『妙な物、ねぇ……』
『イクト、君が探してるのは具体的にはどういう物なんだい?』
「そうだな……強いて言えば、何かのスイッチとかレバーとかかな。実はシオン達が『アンノーン文字』で書かれた文章を見つけたんだけど、そこにこの家のどこかに地下室があるって書いてあったんだよ」
『地下室か……それはかなり面白そうな話だが、それに関連した妙な物なんて見た覚えは全く――』
難しい表情を浮かべたレドが腕を組みながら答えていたその時、ドダイトスのグランは『……あ、そういえば……』と何かを思い出したような表情を浮かべた。
「ん……何か気になる事でもあったのか?」
『あ、うん……夕方頃にアーク達と庭の手入れをしていた時、なんだか不思議なものは見掛けたなぁと思ってね』
「不思議なもの……?」
『そう。ロイよりも小さくて、濃い茶色の六角形の頭に青く細い尻尾みたいなのが付いたちょっとドロッとした感じの銀色の体の何か……だったよ』
「そっか……グラン、ソイツは何か妙な動きとかはしてたか?」
『そうだね……特に妙な事はしてなかったけど、何かを
「何かを探してる……」
『うん。でも、すぐに裏口の方に行っちゃったし、庭の手入れの方が忙しかったから、それを追ってみたりはしてないけどね』
「なるほど……」
グランの話にイクトは興味を惹かれた様子で声を上げた後、シオンにアイコンタクトを送った。すると、シオンはそれに無言で頷くと、頭の『房』をふわりと浮かべながら目をゆっくりと瞑り、辺りの『波導』を探り始めた。そして、程なくしてシオンはゆっくりと目を開けた。
『……主殿、どうやらグランの言う通り、裏口には何者かがいるようです』
「そっか……シオン、その波導の主はどんな奴か分かるか?」
『……具体的には分かりません。ですが、グランの話に出て来た何かの他にもう一つ別の波導が、そして家の下方から数多くの波導を感じます』
「数多くの波導、か……」
シオンからの報告を聞いた事で、イクトの表情が更に興味を惹かれたような物へ変わると、それを見ていたオーダイルのアークはニヤリと笑った。
『イクト、そんなに興味があるなら今から裏口に行ってみたらどうだ?』
「え……今からか?」
『おう。まあ、明日の朝に行っても別に良いと思うけど、イクトが久し振りにスゴく興味を惹かれた顔をしてるみたいだから、今から行ってみた方が良いと思ったんだよ。あの日、ポケモンリーグの決勝戦で負けたあの日から、イクトは育て屋の事以外でそんな顔をする事も無かったしな』
「アーク……」
『もっとも、行く行かないの判断はトレーナーであるお前に任せるぜ? 俺を含めたここにいる全員が、お前の判断なら信頼できるって思ってるはずだしな』
そのアークの言葉にロイ達が同時に頷くと、イクトはロイ達を見回しながら「皆……」と嬉しそうな声で呟いた。そして、育て屋見習いとしてでは無く、ポケモンリーグの優勝を目指していた一人のトレーナーだった頃の気持ちを呼び起こした後、イクトはコクリと頷きながらロイ達に声を掛けた。
「皆、裏口に行ってみよう。グランが見たという奴が、一体どんな奴なのかは分からないし、今もそこにいるかは分からないけど、何かを探してるって事はきっと困ってるんだと思うからさ」
『うん、そうだね。もしも困っているのなら助けてあげないといけないからね』
「ああ。よし……それじゃあ行こう!」
『おー!』
ポケモン達が声を揃えて答えた後、イクト達は『何か』が向かったという家の裏口へ向けて歩き始めた。そして裏口に着いた瞬間、『……皆さん、そこで止まって下さい』と言いながらシオンはイクト達を手で制すると、緊張した面持ちで暗闇の中へ声を掛けた。
『暗がりに潜む方々、私達はこの家の新たな所有者です。ですが、私達は貴方達に敵意を一切抱いていないですし、何か困っている事があれば手伝いたいと思っています。もし、私達と話をしても良いと思っているならば、私達の前に姿を見せて下さい』
そして、『どうか、お願いします』とシオンが静かに頭を下げたその時、『何か』がゆっくりと近付いてくる気配を感じ、イクト達は軽く警戒をしながらそちらへ視線を向けた。すると、視界に入ってきたのは、少し不安そうにこちらを見ているグランの話に出て来た姿の生き物と『A』の形をした一体のアンノーンだった。
「……まさか、アンノーンまでいるとはな」
『うん……けど、このポケモン……みたいなのは一体何なんだろう……?』
ロイがポケモンらしきものを見ながら小首を傾げている中、イクトは再びシオンにアイコンタクトを送った後、静かにしゃがみ込みながらそれへ声を掛けた。
「なあ、お前はポケモン……なんだよな?」
『……そうだよ。僕は『メルタン』っていう名前のポケモンで、あの人からはウルって呼ばれてたよ』
「メルタン……やっぱり聞いた事が無い名前だな……。なあ、ウル。お前やそこのアンノーンはこの家の前の持ち主と何か関係があるのか?」
『うん……あの人は、僕達やこのエース達の友達だったんだ』
『そう。種族こそ異なってはいたが、彼は我々にとってとても大切な友人だったのだ。もっとも、出会ってからそんなに月日は経っていなかったが、少なくとも我々は彼の事を良き友人であると思っていた』
『そうだね。僕達はあの人の手持ちポケモンというわけじゃなかったけれど、他のポケモンに比べたら異質な存在である僕達の事をすぐに受け入れたあの人は、僕達にとって掛け替えのないとても大切な存在だったよ』
老人と住んでいた頃の事を懐かしむような表情を浮かべるウルとエースの姿に、イクトが「そっか……」と優しい笑みを浮かべる中、アークは周囲をキョロキョロと見回しながら不思議そうな声を上げた。
『それにしても……地下室へ行くための仕掛けはどこにあるんだ……? 家の中には無かったって言うから、てっきり裏口の方にあると思ってたんだが……』
「……そういえばそうだな。なあ、お前達。この家の地下室に行く方法について何か知らないか?」
『……もちろん知ってるよ。けど……』
『……我々では、地下室へ続く正規のルートの扉を開く事が出来ない。だから、今も仲間達はあそこに……』
『え……それってまさか……!?』
『うん……僕やエースの仲間達は、あの人が亡くなったあの日から、ずっと地下室に閉じ込められてるんだ。あの地下室は、外からしか開けられない上、エースが言ったように僕達じゃ地下室に行くための扉を開けられないからね……』
『なるほど……でも、それならどうして君達は外に出られたの?』
『……通気口を通って外へ出たのだ。もっとも、我々が通り抜けた際、ウルの液状化している手足が通気口の内部に触れてしまった事で軽度の侵食が行われて変形をしてしまったため、空気の通り道はあっても我々はもう通る事は出来ないな……』
『だから、僕とエースはあの地下室を僕達の力で開けられる手段をずっと探してたんだ。地下室には、僕達が主食にしてる金属やアンノーン達が食べる保存食はあったけど、それも流石にそろそろ尽きてしまう頃だろうし……』
『……そうだな』
そう言いながら心配そうにウル達が俯く中、イクトはロイ達と目配せをしながらコクリと頷き合うと、ウル達にニコリと微笑みかけた。
「ウル、エース、だったら俺達がお前達の仲間を助けてやるよ」
『助けるって……本当に良いの?』
「ああ、もちろんだ。さっきシオンが言ったように、俺達はお前達の事を手伝いたいと思っているからな。それに、居住者が困った時に助け合うのは当然だろ?」
『トレーナーさん……』
「イクト、で良いよ。それと……さん付けはしなくて良いぜ」
『……うん、分かった!』
『イクト、そして皆。これからよろしく頼む』
「ああ、こちらこそ。よし、それじゃあ早速仲間達を助けに行こう!」
そのイクトの声にポケモン達全員が頷いた後、イクト達はレドやアークのように体の大きなポケモン達に外で待機をしてもらうように頼み、自分はロイ達と共にウル達の案内に従って地下室の扉を開く仕掛けがある場所へと急いだ。すると、辿り着いたのは先程文章を見つけた階段の裏側だった。
「え……ここにあったのか?」
『うん、そうだよ。少し見えづらいけど、ここの壁のところに仕掛けを解除して開けるタイプの隠し扉があるんだけど、さっきも言ったように僕達じゃ開ける事が出来なかったんだ……』
『やろうと思えば、ウルの『ラスターカノン』や私の『めざめるパワー』で壊すことも出来たが、彼と共に過ごしたこの家を一部分だけでも壊すというのは止めようと皆で決めたため、それだけはどうにも出来なかったのだ』
「そっか……でも、俺達がここに来る前にも以前住んでいたお爺さんの家族とか不動産会社の人とかは来てたんじゃないのか?」
『来てた事は来てたけど……誰も僕達に気付く様子は無かったし、イクト達みたいに信用出来そうな人が一人もいなかったから、声を掛けなかったんだよ』
『イクト達も分かっている通り、ウルはとても珍しいポケモンだ。中には協力をするフリをしてウルを捕らえようとする者もいるだろう。よって、我々は今日まで誰にも助けを求めなかったのだ』
「そういう事か……それで、その仕掛けっていうのは?」
『えっと……あっ、あったあった!』
ウルが指差す方を見ると、そこには何かを填め込むための四角い窪みと『アンノーン文字』の文章があり、その近くには『アンノーン文字』が彫られた木製の正方形の物体が入れられた箱が置いてあった。
「6個の窪みに対して正方形の物体が28個……つまり、これを正しい組合せで入れれば良いって事だな」
『でも……どんな組合せで入れれば良いのかな?』
「それはたぶん……これを読み解く事で分かるんだと思う。えーと……『わたしがいちばんたいせつにおもっているもの』ってこれには書いてるな」
イクトが文章を読み上げると、ポケモン達は揃って困惑した様子を見せた。
『住んでいたご老人が一番大切に思っていた物、ですか……』
『うーん……そう言われてもすぐには思いつきませんね……』
『うん……ねえ、二人とも。何かヒントになりそうな出来事って無いかな? それかどの文字を使っていたか覚えてない?』
『……ゴメン、僕達もサッパリ分からないんだ』
『彼はあまり自分の事を話すようなタイプでは無かったからな……それに、自室を含めてこの家の中には家族の写真などは一つも飾っていなかった』
『そっか……』
ウル達の答えにロイがシュンとしながら耳をペタンと倒す中、イクトはうーんと唸りながら窪みや正方形の物体に視線を向けていた。そして、「……なるほどな」と納得顔で頷きながら独り言ちると、箱の中から正方形の物体を六つ取り出し、迷う事無く順々に窪みに填め込んでいった。すると、家の至る所から何かが動くような音が鳴り出し、それと同時に地下室へ続く隠し扉がゆっくりと開いていった。
「……やっぱり、これで合ってたんだな」
『あ、開いちゃった……ねえ、どうして答えが分かったの? ヒントになりそうな物なんて殆ど無かったよね?』
「いや、ヒントなら充分あったよ。その文章と28個の物体、そしてさっきのウル達の会話の中にな」
『え……それってどういう事?』
ロイはイクトの言葉にキョトンとしながら小首を傾げたが、イクトは地下室の方から視線を外さずに返事をした。
「それについては後で教えるよ。とりあえず今は、ウル達の仲間達のところへ急ごう」
『そ、そうだね』
「……よし、それじゃあ行こう」
ポケモン達がその言葉に頷いて答えた後、イクト達は目の前にある通路を小走りで進んでいった。そして、通路の先にあった木の扉を勢い良く開けると、そこには何冊もの本が収められた本棚や古びた雰囲気の机と椅子、そして力なく倒れ込んでいるウル達の仲間の姿があった。
『み、みんな……!』
『皆、しっかりしてくれ!』
ウル達と共が急いで仲間達の元へ駆け寄ると、イクトはすぐさまメルタン達とアンノーン達の様子を確認した。そして、衰弱はしているものの、命を失っている個体が一匹もいない事を確認すると、イクト達は揃って胸を撫で下ろした。
「良かったぁ……間に合わなかったらどうしようかと思ったぜ……」
『そうだね……でも、早く何か食べさせてあげないといけないよね』
「ああ、それに……一回外にも出してやらないといけないな。シオン、クレイン、裏口にいるレド達に玄関の方に来てくれるように頼んだ後、キッチンからエスパータイプ用とはがねタイプ用のポケモンフーズと皿、それと飲料水と使わなそうな金属を見つけて、それらを庭に運んでおいてくれ」
『畏まりました』
『はい』
イクトの指示でシオン達が部屋から急いで出ていった後、イクトとロイはウル達と協力しながらウル達の仲間達を少しずつ玄関へと運び、玄関に来ていたレド達に渡すといった作業を繰り返していった。そして、全ての個体を庭まで運び終えた後、イクトはシオンたちに持ってきてもらっていたポケモンフーズを軽く水でふやかすと、それを盛った皿や水を注いだ皿などをウル達の仲間達の前へと並べた。
「さあ、お前達。もし食べられそうなら食べてみてくれ」
「メル……」
「ノーン……」
メルタン達とアンノーン達は、弱々しく体を起こしながら目の前に置かれた皿に視線を向けると、よろよろとそれに近付き、ゆっくりと食事を始めた。そしてその姿に、イクト達は再びホッと胸を撫で下ろし、そのまま静かに座り込んだ。
「ふぅ……皆、何とか食べてくれてるみたいだし、これで一安心だな」
『そうだね……まさかの出来事ではあったけど、何とかなって良かったよね』
「ああ。けど……こういう事態に出会す可能性も無くはないし、これを機にポケモンドクターの資格を取る事も視野に入れてみようかな……?」
『……イクト、その考えは悪くないが、それは育て屋としての生活が落ち着いてからにしよう。最初から色々と求めすぎてもキャパシティオーバーで今度はお前がダウンしかねないからな』
「……それもそうだな。とりあえず今は、ウル達の仲間を助けられた事を素直に喜ぶとするか」
心地良い疲労感の中でそんな会話を交わしていたその時、『そういえば……』とロイが何かを思い出したように声を上げた。
『ねえ、イクト。さっきも訊いたけど、どうしてあの仕掛けが解けたの?』
「ん……? ああ、それか。さっきも言ったけど、あれが解けたのは文章や鍵となる正方形の物体、ウル達の会話があったからだよ」
『我々の会話……?』
『……今思い返してみたけど、特にヒントになるような事は言ってなかったような……?』
「いや、ちゃんと重要な事を言ってたよ。少なくともそれのおかげで
『あり得た答え……主殿、それは一体何なのですか?』
「それはな……『FAMILY』、家族だよ」
『家族……だと?』
『イクト、君は何故それを除外できたんだい? シオン達から軽く聞いたけど、文章にはご老人の一番大切にしているもの、と書いていたんだろう? だったら、それは答えとしてかなりあり得たんじゃないのかい?』
「普通ならな。けど、お爺さんの場合はそれが答えになる可能性があまりにも低かったんだよ。自室に家族の写真などを置いていなかったお爺さんの場合は、な……」
そしてイクトは、不思議そうに自分を見つめるロイ達を見ながらどこか哀しげな様子で説明を始めた。
「まず、あの仕掛けを簡単に説明するけど、あの時も言ったようにアレは『アンノーン文字』が彫られた正方形の物体の内、6個を選んでそれを正しい組合せで嵌める事で隠し扉が開くものだった。そして、この場合の正しい組合せというのは、『アンノーン文字』を組み合わせる事で『ある6文字の単語』を作る事だったんだよ」
『ある単語……でも、どうしてその『FAMILY』は違うって分かったの? 一応、それも6文字の単語だし、家族っていう意味ならあり得たんじゃないの?』
「いいや、さっきも言ったように、お爺さんの場合はその可能性は低かった。何故なら、お爺さんの部屋に家族の写真が無かった事やお爺さんの親族がここを売り払おうとした理由から、親族間の仲が悪かったと予想できるからだよ」
『親族間の仲が悪かった……』
「ああ。家族の写真が無かった事は、そういうのを飾る趣味が無かったからとも考えられるけど、それなら家族と一緒に住んでいたのに、わざわざこんな場所に家を建てた上に引っ越す必要はないだろ?」
『それは……確かに……』
「そして、お爺さんが亡くなった以上、この家はお爺さんの親族の誰かの物にしても良いはずなのに、誰かが引っ越したり借家にして利益を得ようとしたりしなかった上、売り値を大幅に下げてでも売りたい程、誰も
『……なるほどね』
「それじゃあ、お爺さんが地下室付きの家を建ててまで引っ越しをしようとした理由やあの仕掛けを解くための答えは一体何なのか。そう考えた時、ふと浮かんだのがウル達だったんだよ」
『ウル達……?』
「ああ。どういう経緯でお爺さんがウル達と出会ったのかは分からないけど、お爺さんは『メルタン』というまったく名前を聞いた事が無いポケモンや『アンノーン』というこの地方にはいないポケモンの存在が親族に知られたら、自分の知らない内にどこかの学者なんかに引き渡されてしまうと思った。そこで、お爺さんは自分の資産の大半を使ってでもこの家を建て、ウル達に地下室という隠れ場所を与えた上に簡単にウル達を見つけられないようにするためにあの仕掛けを作ったんだよ。お爺さんにとってウル達はそうするだけの価値がある存在だったからな」
『そうするだけの価値がある存在……では、あの仕掛けの答えとなる単語は、ウル達に関係する単語という事ですか?』
「ああ。そしてその単語というのが――」
そう言いながらイクトはウル達の方へ視線を移すと、ニコリと笑いながら話を続けた。
「『FRIEND』、
『『FRIEND』……そっか、僕達があの人の事を大切に思っていたのと同じように、あの人も僕達の事を大切に思ってくれていたんだ……』
『……どうやらそうみたいだな。まあ、同じように思っていた私が言うのもアレだが、出会ってからまだ月日も浅い我々をそこまで思ってくれていたとは、彼も中々の変わり者だったようだな』
『……ふふ、そう……だね。ほんっ……と、変わった……人、だったね……!』
エースの言葉にウルは硬球上の黒目からボロボロと涙を零しながらもどうにか答えていたが、やがて耐えきれなくなりその場に泣き崩れた。そして、それを見ていた他のメルタン達も目を潤ませながらウルに近付くと、ウルと同じように泣き崩れ、庭にはしばらくの間メルタン達の泣き声が響き渡っていた。
ウル達の仲間の救出完了から一時間後、泣き止んだウル達がエース達を交えて楽しそうに話をする中、イクトはロイ達と共に微笑みながらそれを眺めていた。
「それにしても……引っ越し初日からスゴい出来事に出くわしたもんだよな」
『そうですね。謎の文章の発見に始まり、ウルさん達との出会いやそのお仲間の救出……旅をしていた時でもここまでの出来事は流石に無かったですからね』
『ふふ、確かに。旅の最中はリングマの群れに追い掛けられたり、妙な組織に出会したりはしたけど、誰も見た事が無いポケモンとの遭遇を超えるような出来事は、一つも無かったかなぁ……』
『まあ、この出来事についてはここにいる全員の秘密って事にした方が良さそうだけどな』
『そうだね……』
『メルタンというポケモンの存在は世間には一切公表せず、ここにいる全員の秘密にした方が、ウル達も幸せに暮らせそうだからな』
「だな……」
ウル達を見ながらイクト達がそんな会話を交わしていたその時、手に一枚の小さな紙を持ったシオンがイクト達の背後に近づき、『主殿』と小さな声でイクトに話し掛けた。
「ん……シオンか。
『はい。この家に住んでいたご老人は、どうやらポケモンの生態を研究していた学者だったらしく、あの地下室にはウル達が生活をするための設備の他に、この地方のポケモンの分布などが書かれた書類やそれについての論文、そしてウル達の観察記録などが残されていました』
「そっか……他には何かあったか?」
『はい。他にはウル達との生活について書かれた日記や各地方に伝わる伝説や逸話を纏めた書籍、そしてウル達と同じ匂いがする不思議な箱がありました』
「不思議な箱……?」
『はい。そして、その箱の傍にはこのような手紙が入っておりました』
イクトはシオンが持っていた手紙を受け取ると、とても真剣な様子で手紙に目を通し始めた。そして、「……そういう事だったのか」と言いながら手紙から顔を上げると、ロイは不思議そうな様子でイクトに話し掛けた。
『ねえ、イクト。その手紙にはどんな事が書いてあったの?』
「そうだな……全部を読み上げようとすると、ちょっと長くなるから簡単に説明するな。まず、メルタンというポケモンは、別の地方である日突然出現したみたいなんだけど、その正体はミュウやセレビィと同じ幻のポケモンと言われる存在なんだってさ」
『幻のポケモン……ウル達って実はそんなにスゴいポケモン達だったんだね』
「そうだな。一応、とても古い文献にその姿などが記されていたみたいだけど、ミュウ達とは違って実際にその姿を見たという人は一人も現れなかった事から、その文献の真偽は不明とされた。そして、その事から『カントー地方』で作られた初期のポケモン図鑑にメルタンのデータが載る事は無く、オーキド博士もメルタンの事はとりあえず伏せて、ポケモンはフシギダネからミュウまでの151匹が存在すると発表をしたみたいだ」
『へえ……つまり、メルタンは最近までその存在すら疑われるようなポケモンだったわけか』
「まあ、そうなるな。最初に発見された時もそれら全てがメタモンの変身した姿だったみたいだしな。それで、そんなメルタンがどうして今になって出現したかなんだけど、それにはシオンが見つけたという箱が関係してるみたいなんだ」
『あの箱が……ですか?』
「そう。その箱の中には錆びた鉄塊が入っているらしいんだけど、自然豊かな場所で箱を開ける事で、鉄塊が特別な反応を起こしてメルタンが生まれるみたいなんだ」
『ほう……という事は、ウル達はこの地方で生まれたメルタンだという事か』
「ああ、この手紙にはそう書いてるよ。因みに、なんでこの家に住んでいたお爺さんがその箱を持っていたかというと、どうやらお爺さんはオーキド博士やオーキド博士と一緒にメルタンについて研究をしていた博士と親しかったみたいで、研究の手伝いを依頼されていたかららしい。因みに、エース達はお爺さんの助手だった人がわざわざ『ジョウト地方』から送ってくれたらしく、それはその箱を預かってきた時と同時期だったみたいだ」
『なるほど……そして、お爺さんは箱を開けてウルさん達を生まれさせた後、研究の一環としてふれ合っていく中でウルさん達やエースさん達の事を一番大切なもの――『友達』だと思うようになり、メルタンやアンノーンの存在を実の家族や周囲から完全に隠し通すためにこの家を建ててすぐに引っ越した、という事ですね』
「そういう事だな。けれど、お爺さんは病気を患っており、自分の命があまり長くない事を悟っていた。だから、この手紙を次の持ち主のためにあの地下室に遺していたみたいなんだよ。残された親族がこの家をさっさと売り払おうとする事を見越してな」
『ふむふむ……』
「他には……申し訳ないけれど、不思議な箱はメルタンの観察記録と一緒に元の持ち主に渡しておいて欲しいって事とその代わりに家の中にある物や庭は好きにしてもらって構わないって事が書いてあったよ。まあ、その持ち主の名前と住所もしっかりと書いてるし、家の中にある物なんかについてはお爺さんのご家族からも自分達は何もいらないから好きにして良いと言われてたから、そうさせてもらうつもりだ。そして、手紙はお爺さんの名前と『私の大切な友人達をどうかよろしく』という言葉で締め括られていたよ」
『大切な友人達をどうかよろしく、かぁ……やっぱりウルやエース達は、お爺さんにとって本当に良い友達だったんだね』
「ああ、そうだな。こんな風に頼まれたわけだし、アイツらが幸せに暮らせるように頑張っていこうな」
そのイクトの言葉にロイ達が笑みを浮かべながら頷いていると、先程まで話をしていたウル達が揃ってイクト達へと近付いてきた。
『イクト、みんな。皆を助けてくれて本当にありがとうね!』
『イクト達が助けてくれた事で、仲間達は誰も命を落とさずに済んだ。本当に感謝している』
「あはは、別に良いよ。あの時も言ったように居住者が困ってるなら助けるのは当然だからさ」
『居住者……そういえば、イクト達がここの次の持ち主なんだよね?』
「ああ、そうだ。そして俺達は、ここで育て屋を始めるつもりなんだ」
『育て屋……?』
「そう。ポケモントレーナーから大事なポケモンを預かって育成を代行する仕事、それが育て屋だよ。まあ、『アローラ地方』にある『預かり屋』の要素なんかも取り入れるつもりだから、一般的な育て屋とはまた違った物になるかもしれないけどな」
『なるほど……それで、いつからその育て屋とやらを始めるんだ?』
「そうだな……店として始めるためには建物を少し改築したり、池を作ったり木を植えたりするために庭を改造したりしないといけないから、営業開始はまだまだ先の話になるかな。それに、他の仲間達を呼ぶ都合もあるしな」
『他の仲間達……?』
ウルが不思議そうに小首を傾げると、イクトはニコリと笑いながら大きく頷いた。
「ああ、この育て屋は人間の従業員は俺だけで、他の従業員はここにいるロイ達や知り合いの博士に預かってもらってる旅の途中で出会ったポケモン達にお願いするつもりなんだ。ポケモン達の事は同じポケモンの方が理解しやすいだろうし、流石に俺達だけだと手が回らない時もあるだろうからさ」
『……なるほどな』
「まあ……いつかは人間の従業員を雇う可能性もあるけど、しばらくは俺達と他の仲間達だけで何とかするつもりだよ。ロイ達がいれば、大抵の事は何とかなるからさ」
ロイ達の方を向きながら再びイクトがニコリと笑うと、ロイ達はそれに対して誇らしげな表情を浮かべた。ウル達はそんなイクト達の姿を前に、一斉に顔を見合わせると、何かを決意したような表情を浮かべながら同時に頷き、イクト達の方へと向き直った。そして、その様子にイクト達が揃って不思議そうな表情を浮かべる中、ウルとエースはどこか緊張した面持ちで一歩前に踏み出すと、ウルは一度深呼吸をしてから静かに口を開いた。
『ねえ、イクト。その育て屋さんの仕事、僕達にも手伝わせてもらえないかな?』
「手伝わせてもらえないかって……それは助かるけど、本当に良いのか?」
『うん! イクト達には色々お世話になったし、僕達に何か手伝える事があるなら手伝いたいんだ』
『もっとも、我々に出来る事は本当に少ないだろうが、この数の多さでそれは補っていくつもりだ。それに、我々もここの住人だ。居住者が少しでも困っているのなら助け合うのは当然だろう?』
その大きな目でウインクをしながら言うエースの言葉に、イクトは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに「……そうだな」と言いながらクスリと笑った。そして、やる気に満ちた目で自分を見つめるウル達やエース達の姿を見回し、嬉しそうな笑みを浮かべながら静かに口を開いた。
「皆、本当にありがとう。そして、これからよろしくな」
『うん! こちらこそよろしくね、イクト! 皆!』
『よろしく頼むぞ、イクト、皆』
ウル達の言葉にイクトはロイ達と共に頷いた後、周りにいる仲間達の存在に心強さを感じながら大きな声で呼び掛けた。
「皆、これから色々大変になると思うけど、世界一の育て屋を目指して全力で頑張っていこう!」
『おー!』
イクトの言葉に揃って答えるその声が辺りに響き渡った後、イクト達は満天の星空の下で仲良く笑い合うと、その場に座り込んで育て屋の仕事の話やイクト達の旅の話など様々な話を夜が明けるまで話し続けた。
いかがでしたでしょうか。今作品は、今のところこの一話のみの予定ですが、お気に入りの数など次第では連載作品として書き続けていく事にしています。なので、もしも連載作品として投稿されているのを見掛けた際は、チラッとでも良いので読んでみて頂けるととてもありがたいです。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また。