それでは、早速第2話をどうぞ。
引っ越し先で新たな出会いを果たした日から数日後、手持ちポケモン達やウル達が協力し合いながら改築案の話し合いや庭の改造を進める中、イクトはロイと共に自室の机の上に広げられたノートなどの荷物を一つずつ確認をしながらリュックサックへと入れていた。
「えーと……こっちが今日までのロイ達の記録で、こっちが俺がつけたウル達メルタンの観察記録とエース達アンノーンの観察記録で……」
「ピカ、ピカッチュ!」
「ん……ああ、ウル達についてお爺さんがつけていた記録の写しか。サンキューな、ロイ」
「ピッカ!」
ニコリと笑いながら答えるロイに微笑みかけた後、イクトは再びリュックサックの中に次々と物を入れていった。そして、最後の荷物を入れ終え、「うん……これで良いな」と言いながらリュックサックのチャックを閉めると、イクトは椅子に静かに座りながら小さく息をついた。
「ふぅ……これで後は出発するだけだな。それにしても……まさか引っ越してからまだ数日しか経ってないのに、もう『ロンドシティ』に戻る事になるなんて思わなかったな」
「ピカ……ピカ、ピカチュウ」
「そうだな。一番の目的はロッカ博士からの頼まれ事だけど、せっかく帰るからには父さん達や
「ピカ! ピカ、ピカピカチュ……!」
「ああ、俺も早くアイツらに会いたいよ」
ロイの言葉に笑みを浮かべながら頷いた後、イクトは『ロンドシティ』に帰る事になった出来事について想起した。
昨晩の事、夕食も食べ終え食器などの後片付けも済んだ後、イクトがロイ達と共にリビングでのんびりとしていたその時、突然廊下のテレビ電話から着信を告げるベルの音が聞こえ、イクト達は揃って顔を見合わせた。
「ん……こんな時間に誰からだろう?」
『さあ……? でも、もしかしたらお母さん達かもしれないし、とりあえず出てみようよ』
「そうだな」
ロイの言葉に頷きながら答えた後、イクトはロイ達と共に廊下へ出てテレビ電話の受話器を手に取った。すると、画面には白衣を着た茶色のポニーテールの女性の姿が映し出され、その姿にイクトは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ロッカ博士! お久しぶりです!」
『ええ、久しぶり……と言える程、前に会ってからそんなに日にちは空いてないんだけどね。でも、その様子だと引っ越し先でもロイやレド達とは元気にやってるみたいね』
「はい。ただ……まだやらないといけない事があるので、育て屋を始めるにはもう少し掛かりそうですけど、ロイ達や新しい仲間達と一緒に毎日頑張っています」
『新しい仲間達……?』
「はい。あ、今紹介しますね」
そして、イクトが足元にいたウル達を抱き抱えると同時に、エース達が揃ってイクトの背後に並んだ瞬間、ロッカ博士は信じられないといった表情を浮かべた。
『……え? そこにいるのってもしかして……!?』
「はい。後ろにいるのがアンノーンで、今抱き抱えているのがメルタンというポケモンで──」
『やっぱりそうよね!? え、なんでイクト君達がメルタンと一緒にいるの!?』
「あ、えーと……ここの家の前の持ち主が、どうやらポケモンの研究者のような人だったみたいで、メルタンの研究をしていた博士から依頼を受けて、メルタンが発生するために必要な箱を預かっていたみたいなんです」
『うんうん、それでそれで!?』
「それで、発生させたメルタン達や自分の助手だった人が送ってくれたアンノーン達と一緒に生活をしていたんですが、その人は病気で亡くなってしまったんです。その結果、コイツらの部屋兼前の持ち主の研究室だった地下室を見つけられる人がいなくなってしまい、地下室に取り残された仲間達をこのウルとエースがどうにか助けようとしていたところに俺達が偶然引っ越してきたんです」
『なるほど……そして、イクト君達がその子達を無事に助け出し、シオンやクレインの通訳で会話した結果、共に暮らす仲間となったってところね』
「はい。それで、前の持ち主の願いでメルタンを発生させる箱は、もう元の持ち主である博士に返してしまったんですが、観察記録や研究データはまだ手元に残しています」
『え、そうなの……!?』
「はい。元々、観察記録や研究データも全て渡すつもりだったんですが、返しに行った時にウル達の事を話したら、その博士から『そういう事なら、これらのコピーだけは取らせてもらうが、このデータ自体は君が持っていると良い。これらの記録は、メルタン──ウル達との生活の中できっと役に立つだろうから』と言われ、そのまま持ち帰ってきたんです。もっとも、頂くだけなのは流石に申し訳なかったので、これからもウル達の観察記録や研究データは俺なりに採っていき、それをその博士に送る事にはしたんですけどね」
『そ、そうなのね……』
少し驚いたような声で答えた後、ロッカ博士はしばらく黙り込んだ。そしてその様子に、イクト達が疑問を感じ始めたその時、電話の向こうから再びロッカ博士の声が聞こえ始めた。
『……ねえ、イクト君。その資料って誰かに見せたり渡したりしたらいけないって言われてる物だったりするかしら……?』
「え……いや、俺が信用出来ると思った人になら見せても良いとは言われてま──」
『それなら、お願い! 私にもそのデータを見せてくれない!?』
「え……ロ、ロッカ博士……?」
『お願い、イクト君! メルタンの研究データや観察記録なんて滅多に見られる代物じゃないから、見られるなら是非とも見てみたいのよ!』
「博士……」
電話口から聞こえるロッカ博士の必死な声から、自分が持っているデータがロッカ博士にとってどれだけの価値があるかを感じ取った後、イクトはふぅと一度息をついてから微笑みを浮かべた。
「……それぐらいお安いご用ですよ。そろそろ博士のところでお世話になっているポケモン達にも会いに行きたいと思っていたので、明日にでもこのデータのコピーを持って研究所にお邪魔しますね」
『ほんと!? ありがとう、イクト君!』
「いえいえ、博士にはこれまでロイ達の事も含めて色々お世話になっていますから。それじゃあおやすみなさい、ロッカ博士」
『ええ、おやすみなさい』
そしてイクトが受話器を置いた後、ロイはとてもワクワクした様子でイクトに話し掛けた。
『ねえねえ、明日研究所に行くって事は、お母さん達や他のみんなにも会えるって事だよね……!』
「ああ、そういう事だ。けど、こっちの作業も同時に進めないといけないから、明日連れて行けるのは数匹程度になるかもな」
『……まあ、それは仕方がない事ですからね。それで、明日は誰を連れて行くおつもりなのですか?』
「それはこの事をレド達にも話してから話すよ。という事で、まずは全員を庭に集めるぞ」
そのイクトの言葉に全員が頷いた後、イクト達は手分けをして育て屋の従業員を庭に集めていった。
そうして、昨夜の出来事を振り返り終え、イクトはクスリと笑っていたその時、部屋のドアを静かにノックする音が聞こえ、イクトはドアの方へ顔を向けながら「どうぞ」と声を掛けた。そしてドアをゆっくりと開けながら『失礼します』と言って入ってきたのは、小さなバスケットを持ったシオンだった。
『主殿、私達の準備は全て整いました』
「うん、分かった。こっちも準備は整ったから、そろそろ行こうか」
『はい、畏まりました』
イクトの言葉にシオンが恭しく一礼をしながら答えていたその時、バスケットの蓋が独りでにパカッと開き、中に入っていたウルとエースがヒョコッと顔を出すと、イクトはウル達に顔を近付けながらニコリと微笑みかけた。
「ウル、エース、その中の居心地はどうだ?」
『うん、風通しも良いし、スゴく居心地が良いよ』
『私も同意見だ。しかし……本当に私達もついていって良いのか?』
「ああ、もちろんだ。まあ……作業の件もあるから、他の皆を連れて行けないのはちょっと残念だけどな」
『うん……せっかく帰るからには、みんなで行きたかったよね……』
「まあな。でも、同じ地方なわけだから帰ろうと思えばいつでも帰れるし、次に帰る時こそは皆で帰ろうぜ」
『イクト……うん、そうだね!』
満面の笑みを浮かべるロイの頭を軽く撫でた後、イクトは荷物を入れたリュックサックをゆっくりと背負い、帽子を被ってからロイを頭の上に乗せた。そして、そのままシオン達の方へ向き直ると、シオン達にニコリと微笑みかけた。
「よし、それじゃあ行こうぜ、皆」
『『うん!』』
『はい』
『ああ』
ロイ達が揃って返事をした後、イクトはロイ達と共に自室を出た。そして、リビングなどで作業をしていた他のポケモン達に声を掛け、玄関から外に出ると、イクトは玄関先で眠っているレドに声を掛けた。
「レド、お待たせ」
『……ん? お前達、準備は出来たのか……?』
「ああ、バッチリだ」
『ふわぁ……そうか。よし……それじゃあそろそろ出発するか』
「ああ、『ロンドシティ』まで頼んだぜ、レド」
『ああ。大体一週間ぶりのフライトだが、安全第一で送り届けてやるよ。さあ、乗った乗った』
そんなレドの声に促されてイクト達がレドの背に乗ると、『……皆、しっかり捕まってろよ!』と一言声を掛けてからレドは軽く翼をはためかせ、両足のバネを上手く使ってそのまま空へと勢い良く舞い上がった。そして、雲と同じ高さまで飛び上がりながらバランスを整えつつ体をゆっくりと前へと倒し、俯せのような姿勢で滞空すると、ロイはイクトの頭上から辺りを見下ろしながら楽しそうな様子で声を上げた。
『わぁ……! 空から見る景色ってスッゴく綺麗だね……!』
『ロイ……お前、空を飛んだ時はいつもそう言ってるよな』
『別に良いでしょ? 空を飛んでる時はいつもそう思ってるんだから』
『……はあ、まあ良いさ。ところで、スゴく今更かもしれないが、ウルとエースって高いところが苦手とかでは無いよな?』
「どうだろうな……シオン、ちょっとバスケットの蓋を開けてやってくれるか?」
『畏まりました』
シオンがバスケットの蓋を静かに開け、中からウルとエースがヒョコッと顔を出した後、物珍しそうに辺りを見回すウル達の様子にイクトはクスリと笑った。
「……どうやら、お前達は高いところが苦手っていうわけではないみたいだな」
『うん。まあ、こんなに高いところへ来たのは初めてだけど、時々エースに頼んで高いところまで連れてってもらってたから、高いところは平気だよ』
『私も問題ないぞ、イクト』
「ん、了解。それじゃあそろそろ『ロンドシティ』に向かうとするか。ウル、エース、バスケットの蓋を閉めるから、中に戻ってもらっても良いか?」
『うん、分かった』
『了解した』
ウル達がバスケットの中へと戻り、シオンがしっかりと蓋を閉め終えた後、レドは再び『ロンドシティ』へ向けて上空を飛び始めた。
出発から約2時間後、イクト達が育て屋の事などについて話をしていたその時、突如前方に薄い霧が立ちこめる街のような物が見え始めた。
「……おっ、見えてきたな。俺達の第二の故郷、『ロンドシティ』が」
『ふふ、まだ一週間くらいしか経ってないのに、なんだかようやく帰ってきたって感じがするよね。博士のところにいるみんなは元気かなぁ……』
『……まあ、
『……そうだろうな。さてと……とりあえず研究所のところに降りれば良いのか?』
「ああ、そうしてくれると助かる。父さん達に顔を見せたいのはやまやまだけど、まずは博士に観察記録やデータを届けたいからさ」
『分かった』
イクトの言葉にレドは頷くと、そのまま研究所がある方へと飛んでいった。そしてそれから数分後、レドが研究所の前に着陸すると、イクト達は静かにレドの背から降りた。
「……よし、到着だな」
『そうだね。それにしても……一週間ぶりのはずなのに、随分久しぶりな感じがするね』
『……そうだな。さて、ここまで飛んできてちょっと疲れたし、こっちの家に帰るまでどっかで眠らせてもらうな』
「分かった。それじゃあその時になったら起こしに行くよ」
『おう。それじゃあまた後でな』
そう言いながらレドが研究所のポケモン達の生活スペースに向かって歩いていった後、イクトは研究所の中へと入っていった。そして、ロビーにいた研究所のスタッフ達と軽い挨拶を交わしながら歩いていたその時、研究室の内の一つから白衣姿の茶色のポニーテールの女性が現れ、イクト達の姿を見た瞬間、とても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「イクト君! それにロイ達も!」
「こんにちは、ロッカ博士」
『博士、こんにちは!』
『ロッカ博士、こんにちは』
「はい、こんにちは。ふふ……まさかこんなに早く来てくれると思ってなかったから、スゴくビックリしちゃったわ」
「あはは……早めに観察記録やデータを届けた方が良いと思ったので、朝一でレドに乗せてもらってきたんです。そして……これがその観察記録やデータです」
そして、イクトがリュックの中から取り出した観察記録などを渡すと、ロッカ博士はそれをとても嬉しそうに受け取った。
「ええ、ありがとう。そういえば……レドは今どこに?」
「父さん達に会いに行くまで眠らせてもらうと言って、ポケモン達の生活スペースの方へ歩いていきました。もっとも、アイツらがいるところで静かに眠れるとは思えませんけどね」
「ふふっ、そうね。ところで……シオンが持ってるそのバスケットには何が入ってるのかしら?」
ロッカ博士が不思議そうな様子でバスケットを指差すと、イクトは「それはですね……」と微笑みを浮かべながらバスケットの蓋を開けた。そして、ウルとエースが恐る恐る顔を出した瞬間、ロッカ博士はウル達の姿に
「イ、イクト君……もしかしてこの子達って……!?」
「はい、昨晩もテレビ電話越しに見せた新しい仲間達です。せっかく帰るからには、コイツらにも『ロンドシティ』がどんなところなのかを見せたかったので、こうしてバスケットの中に入れて連れてきたんです」
「あ、ああぁ……目の前にメルタンが……それも再現のために作られた人形やCGじゃなく、実際に生きている本物のメルタンが……!」
感動で声を震わせるロッカ博士の姿にイクト達が苦笑を浮かべていると、ロッカ博士はとても興奮した様子でイクトの方へ顔を向け、珍しい物を見つけた子供のように目をキラキラとさせながら大きな声で話し掛けた。
「イクト君! イクト君達が帰る前にこの子達と少しふれ合わせてもらっても良いかしら!?」
「あー……はい、それは構いませんけど……ウルとエースが嫌がる事だけはしないで下さいね?」
「ええ、それはもちろんよ。私だってポケモン達の事が大好きだし、どうせなら仲良くなりたいものね」
ロッカ博士は先程までの興奮した様子とは一転し、落ち着き払った様子でニコリと笑いながら答えた後、どこか緊張した様子で自分を見つめるウルとエースに顔を近付けると、笑顔を浮かべたまま話し掛けた。
「昨晩もテレビ電話越しに会ったけど、改めて初めましてと言わせてもらうわね。初めまして、私はこの『ロンドシティ』でポケモン達の研究をしているロッカって言います。これからよろしくね、ウル、エース」
『は、はい! こちらこそよろしくお願いします、ロッカ博士!』
『よろしくお願いします、ロッカ博士』
ロッカ博士の自己紹介に対してウルが緊張気味に、そしてエースが落ち着き払った様子で答えていたその時、『……む?』とシオンが何かに気付いた様子でゆっくりと背後を振り返ると、イクトは小首を傾げながらシオンに話し掛けた。
「シオン、どうかしたのか?」
『いえ……研究所の玄関の方から波導を二つほど感じたので……』
「波導を……?」
『でも……その波導って一体誰の波導なの?』
『それは──』
ロイからの問い掛けにシオンが答えようとしていたその時、「ジュ……」という鳴き声が聞こえ、イクト達は揃って玄関の方へ振り返った。すると、イクト達の視界に入ってきたのは鋭い目付きをした緑色のトカゲ型のポケモンと黒い大柄な体格でふよふよと浮く一つ目のポケモンの姿だった。そして、そのポケモン達の姿にイクト達が嬉しそうな表情を浮かべる中、ポケモン達はゆっくりとイクト達へ近付き、目の前でピタリと足を止めると、緑色のトカゲ型のポケモン──ジュプトルはイクトの目を真っ直ぐに見ながら話し掛けた。
『……一週間ぶりだな、イクト』
「ああ、そうだな。でも……まさかお前達の方から来てくれるとは思ってなかったよ、
『……俺は待っていても良いと思ったんだが、
『それはそうだろう、フォード。レド殿が言っていた通り、イクト殿達は研究のデータを届けに来たり、新たな仲間の紹介にしたりするためにいらっしゃったのだから、わざわざ私達のためにこちらの方までお越し頂くのは無礼という物だろう?』
『……必ずしもそうとも限らないだろう、ダスク。まあ……今回ばかりはお前の方が合っていたと思っているがな』
ジュプトルのフォードとヨノワールのダスクの二体の会話を聞き、イクト達は懐かしそうな表情を浮かべながらクスリと笑った。
「フォード達は相変わらず仲が良いみたいだな」
『ふふっ、だね。けど……
『……アイツなら、いつもの
『今朝、朝食を食べ終えた直後に『……あ、気が向いたからちょっと散歩に行ってくるねー』と言ったかと思うと、自分の分の食器を片付けてからそのまま出掛けていきました。まあ、あの様子ならば、遅くともお昼頃に帰ってくるかと』
「あはは、そっか。まあ、アイツはちょっと気分屋なところがあるし、それは仕方ないよな」
『……そうだな』
フォードが溜息交じりに答える中、ダスクはシオンが手に持つバスケットの中から興味深そうに自分を見つめているウルとエースの視線に気付くと、その姿に一つしか無い赤い目を丸くした。
『……おや、こちらの方々はどうやら私と同じ一つ目のようですね』
「ん、そういえばそうだな……まあ、タイプはそれぞれ違うけど、同じ一つ目同士仲良くしてやってくれ」
『はい、それはもちろんです。まあ、一つ目仲間では無かったとしても仲良くさせて頂くつもりでしたが』
そして、ダスクはフォードと共にゆっくりとバスケットに顔を近付けると、その威圧感のある姿に警戒した様子を見せるウル達にニコリと笑いかけた。
『初めまして、私はヨノワールのダスクと申します。ロイ殿達と同じイクト殿のポケモンで、少しだけですが旅のお供をした事もあります。今はフォード達と共にこの研究所にお世話になっているので、イクト殿の育て屋業のお手伝いをなさっているお二方とは中々会う機会は無いかとも思いますが、これからどうぞよろしくお願いします』
『……そして、俺はジュプトルのフォードだ。ダスクと同じでお前達と会う機会は少ないかもしれないが、これからよろしく頼む』
『あ……うん、こちらこそよろしくね』
『……こちらこそよろしくな』
挨拶を返し終えると、ダスクの見た目からは想像できなかった温和で礼儀正しい姿にウル達は驚きの表情を浮かべていた。そして、そんなウル達の様子にイクトは「やっぱりな」と苦笑すると、ダスクの横に立ちながらウル達に話し掛けた。
「今のお前達がそうだったように、ダスクは見た目からちょっと怖いポケモンだと思われがちなんだけど、普段は木陰でのんびりと昼寝をしたり、草タイプのポケモン達と一緒に花を眺めていたりするようなスゴく暢気なポケモンなんだ」
『そうだったんだね……勘違いしちゃってゴメンね、ダスク……』
『ダスク……本当に申し訳なかった』
『いえいえ、このくらいは慣れていますし、自分でもこの見た目ならば仕方が無いと思っていますので気にしないで下さい。これも大柄なゴーストタイプの宿命みたいな物ですから』
『『ダスク……』』
目の前でニコニコと笑うダスクの姿にウルとエースは顔を見合わせたが、何かを決意したような表情で頷き合うと、その表情のままダスクの方へと向き直った。
『ねえ、ダスク。君にとってはよけいなお世話のように感じるかもしれないけど、君がこの先さっき僕達がしたような勘違いをされないように何か手伝える事は無いかな?』
『……え? いえ、大丈夫ですよ。先程も申しましたが、そういうのはもう慣れっこですから』
『確かに慣れているのかもしれないが、それでも傷つかないわけではないだろう? 後からちゃんと仲良くなれるとはいえ、初対面の相手から怖がられたり警戒されたりするのは辛いだろうからな』
『ウル殿……エース殿……』
『だから、ダスクがこれからはそういう勘違いをされないように何かしてあげたいと思ったんだ。さっきダスクが言ったように、僕達は一つ目仲間だからね』
『もちろん、ダスクの意思を無視するつもりはないから、本当に大丈夫だと言うのならこれ以上は何も言わない。だが、私達は同じ一つ目の仲間であり、イクトと共に歩んでいくと決めた仲間としてダスクのために何かをしたいと考えている。それだけは理解しておいてほしいんだ』
『…………』
ウル達の言葉にダスクは少し驚いた表情を浮かべながらしばらく黙っていたが、その表情はやがて柔らかな笑みヘと変わった。
『……ふふ、分かりました。では、そのお言葉に甘えさせていただきますね』
『ダスク……うん!』
『まあ、もちろんそれ以外の悩みが出来た時や雑談がしたい時でも遠慮無く声を掛けてくれ。お前達が先程言ったように、会う機会は少ないかもしれないが、こうして会えた時こそお互いの事を知る事が出来る良いチャンスになるからな』
『ええ、そうですね。イクト殿と共に歩むと決めた者同士、私はお二方とこれからも仲良くしていきたいと思っていますし、何よりお二方とはフォードやリーチェとはまた違った絆を結べそうですから』
そんな事を言いながらダスクがフォードを一瞥すると、フォードはやれやれと首を横に振りながら軽く溜息をついた。
『それはそうだろう……俺達の繋がり程、特異な物も中々無いだろうからな』
『特異って……』
『どういう事だ?』
『……簡単な話だ。今はこうしてイクトというトレーナーの元で仲良く暮らしているが、俺達は以前
『て、敵同士……!?』
『ええ、そうです。その頃の私はあるトレーナーのポケモンで、イクト殿とそのトレーナーは仲間同士だったのですが、ある出来事からイクト殿がそのトレーナーと敵対関係になった事で、フォードと私も当時は敵同士となったのです』
『尤も、その関係性もイクトがそのトレーナーからダスクを譲り受けた事で無くなり、多少の蟠りがしばらく残ったものの、今では同じ仲間として暮らしているというわけだ』
『なるほどな……だが、何故そのトレーナーはイクトにダスクを譲り渡したんだ? いくら以前は仲間だったとはいえ敵であるトレーナーに自分のポケモンを譲り渡すなんて普通なら考えられない行為だと思うが……』
『確かにその通りです。ですが、彼は私をイクト殿に譲り渡そうと決意し、それを実際に行った際にイクト殿もその疑問を彼へとぶつけました。すると、彼はただ一言こう言ったのです。
『コイツはお前と一緒にいた方が強くなれそうだと思ったからだ』と……』
『イクトと一緒にいた方が強くなれそうだと思ったから……』
『はい。事実、彼のポケモンだった頃に比べれば、私は強くなったと自負していますし、彼の選択が間違いだったとは思っていません。一時はある力に目がくらんで悪事に手を染めていましたが、彼は本当に腕の立つトレーナーでしたし、イクト殿と同じようにポケモンの事をとても大事にしているトレーナーでしたから』
当時を懐かしむように語るダスクの姿にウルとエースは一度顔を見合わせた後、同時にクスリと笑った。
『どんな悪事を働いていたのかは分からないが、そのトレーナーはダスクにとって本当に良いトレーナーだったんだな 』
『ええ、それは間違いありません。まあ……この『イリス地方』が
『あははっ、それは確かにおこ──え!?』
『ダスク……今、この『イリス地方』が消滅の危機に瀕したと言ったか……?』
『はい。今から大体二年前に『イリス地方』自体が地理的にも世界中の人々の記憶からも消えてしまいそうになった事がありまして、そんな事態を引き起こしたのが先程から語っている私の元トレーナーなのです』
『地理的にも記憶からも消えそうになるって……一体何をしたらそんな事に……?』
『……
その落ち着いたフォードの声にウルとエースは驚いた表情を浮かべながら視線を向けると、フォードは壁に軽くもたれ掛かりながら再び口を開いた。
『アイツはあるポケモンが持つ時を渡る力を使って過去へと戻り、自分の望みを叶えようとした。しかし、そのポケモンの力が暴走した事で過去の『イリス地方』は次々と時間の狭間へと消えていき、現代の『イリス地方』もその影響を受けて、この世界や人々の記憶からゆっくりと消えていったんだ』
「……あの時は本当に焦ったよ。目の前で森や川、町や人がどんどん消えていったのに、それがあった事を俺達以外は誰も覚えてないんだからさ」
『そうだよね……もう終わった事ではあるけど、あの時の事を思い出すと、今でも震えが止まらないよ……』
『ええ、本当に……』
当時を思い出してイクト達が暗い表情を浮かべる中、ウルとエースが同じように暗い表情を浮かべていると、フォードは壁にもたれ掛かったままでイクト達に視線を向けながら話を続けた。
『だが、イクト達の活躍で『イリス地方』の消滅はすんでのところで止めた事で、イクト達が現代に戻ってきた頃には消えていた部分も全て元に戻り、それを覚えているのは俺達やダスクの元トレーナー達だけとなった。そのため、その行為の証拠は一切無いが、ダスクの元トレーナーは己の行為を悔い、自分を止めてくれた事について礼を言った後に自分のエース以外をイクトに預け、幹部の一人と団員の一人を連れてここまでに行ってきた悪事を自白しに行った事で、この事件は無事に終息を迎えたわけだ』
『そっか……それで、そのダスクの元トレーナー達は、今はどうしてるの……?』
「……今は刑務所にいるよ。まあ、刑期を終えるのはまだまだ先の話だけど、刑務所から出て来たその時には、またあの人とバトルをする約束をしてるんだ。あの人とのバトルはとても楽しかったし、色々と勉強になる事も多かったしさ」
『それにダスクや預かってるポケモン達にも会わせてあげないとだしね』
「ははっ、そうだな。アイツらもあの人の事をスゴく気にしてるし、出て来た事が分かったらすぐにでも──」
その時、イクトの服のポケットから突然プルルッという音が聞こえ、イクトがポケットから四角形の青い電子機器──『ポケフォン』を取り出すと、画面から青色の制服に身を包んだ男性のホログラム映像が現れた。
『イクト様、アーサー様より着信がありますが、いかがなさいますか?』
「アーサーさんから……!? 分かった、繋いでくれ!」
『畏まりました』
そして男性が恭しく一礼をすると、男性が消えると同時に画面には紺色のスーツ姿の黒いオールバックの男性とワインレッドのスーツ姿の金髪の女性が映し出された。
『よう、イクト。久し振りだな』
「あ、はい……お久しぶりです」
『はは! その様子だと、どうやらサプライズは成功したようだな。なあ、クリス』
『はい、そのようです』
「サプライズ……というか、アーサーさん達は今どこにいるんですか?」
『ん? どこって……『ロンドシティ』だぜ? それも──』
そのアーサーの声と同時に研究所のドアが開く音が聞こえると、イクト達は玄関へ視線を向けた。するとそこには、黒の『ポケフォン』を操作して通話を切りながらニヤリと笑うアーサーとその隣に静かに立つクリスの姿があった。
「改めて久し振りだな、皆。元気そうでなによりだぜ」
「アーサーさん……」
『ど、どうして……!? だって、アーサーさん達は今も刑務所にいるはずじゃ……!』
「あー、それなんだけどな……実は刑期が短くなったんだよ」
「刑期が短くなった……?」
「ええ。この前、同じ刑務所にいた犯罪者が脱獄をしましてね。それを捕まえる手伝いを頼まれて、それをこなしたら特例として刑期が短縮されたんですよ」
「脱獄……そういえば、そんな記事を読んだ気がしますけど、まさかそれにアーサーさん達が関わっていたなんて……」
「正直、俺達もそれを刑務官達の執務室で言われた時は耳を疑いましたよ。ソイツらよりも罪が軽いとはいえ、同じ犯罪者である俺達に手伝いを依頼するなんて、前代未聞ですからね」
「ですが……脱獄犯達は一筋縄ではいかない連中だったそうですし、脱獄をされた際に何人もの職員達やポケモン達も傷ついた事で人手が足りなかったため、やむを得ず私達に依頼したとの事でした」
「そういう事だったんですね……」
「ああ。んで、それを受けた俺達はそれぞれのエースポケモンを受け取り、まずは俺が社長を勤めていた『ベイカー・コーポレーション』の本社に連絡を入れた。お前達も知ってる通り、『ベイカー・コーポレーション』はこの『イリス地方』の各地に支社を置いてるから、『イリス地方』に何らかの異常事態があればすぐにわかるしな。まあ、連絡をいれたところで今更俺達みたいな奴らに手を貸してくれるわけないと思ってたんだが……アイツら、すぐに各支社に連絡を入れてくれた上、本社まで呼ばれて行ってみたら俺達用として育ててたっていうポケモンまで渡してくれたんだ」
「……アーサーさん達、本当に大切に思われているんですね」
「……そうだな。それに、社長は俺以外にいないから、早く戻ってきて欲しいなんて言いやがった。まったく……『イリス地方』全土に迷惑をかけた奴を今でも社長として認めてくれるなんて、アイツらくれぇなもんだろうよ」
「そうかもしれませんね」
「そして、準備を整えた俺達は支社から入った情報を元に現地へと向かい、脱獄犯達とやり合った後、無事に連中を捕まえ、駆けつけてきた刑務所の職員達に引き渡した。その後、俺達は今まで通りに刑に服してたんだが、昨夜になってその見返りとして刑期を今日までにする事になったと告げられ、ついさっきこうやって表へ出てきたってわけだ」
「なるほど……」
アーサーの説明を聞き、イクトが納得顔で頷いていると、アーサーはダスクへと視線を向けニッと笑った。
「お前も久し振りだな、ダスク。お前もアイツらも元気か?」
『は、はい……! 私も彼らも元気に毎日を過ごしています!』
「ははっ、そうかそうか! そんなら、良かったぜ」
『あ、あの……ボス、彼──シャロはボールの中なのですか?』
「ああ、まあそうだが……んじゃあ、そろそろ出してやるとするか」
そう言うと、アーサーはベルトに付けていたモンスターボールを一つ手に取り、静かにスイッチを押した。そして、中からシャロ──パイプを咥えた色違いのピカチュウが姿を現すと、ロイはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
『シャロ! 久し振りだね!』
『……ああ、久しぶりだね、ロイ。君とこうして会うのは……あのバトルの時以来かな?』
『うん! 君も元気そうで良かったよ』
『ふふ、君も元気そうでなによりだよ。ところで……そこに見慣れないポケモン達がいるようだけど、君達の新しい仲間達なのかな?』
『うん、そうだよ。あ、今紹介するね』
そして、ロイがウル達の紹介を終えると、アーサー達はとても驚いた様子を見せた。
「……まさか、そんなポケモンがいたなんてなぁ……」
「それに、まだもう二匹いるとは……本当に驚きです」
『そうだね……こうなってくると、イクトの元には他の伝説のポケモン達も次々と集まってくるんじゃないかという気になってくるよ』
「あはは……流石にそれは無いと思うぜ? まあ、今でさえレイとリーチェがいるけどさ」
「くくっ……そうだな。さて……イクト、こうして会えた事だ。そろそろ約束を果たすとしようか」
「約束……ふふ、そうですね。言っておきますけど、俺達は絶対に負けませんよ?」
「はっはっは! それはこっちの台詞だぜ、イクト? これでも元悪の組織のボスだからな。そう簡単には負けてられねぇぜ」
『ふふ、そうだね。君達に負けたあの日から、ずっと悔しさを募らせてきたんだ。この勝負、絶対に勝たせてもらうよ』
『こっちだって負けるつもりはないよ!』
二組のトレーナーとポケモンが火花をバチバチと散らす中、それを見ていたロッカ博士はクスクスと笑った。
「帰ってきたばかりなのにもう勝負の話なんて……まあ、私としても気になる勝負ではあるし、審判をしながら観戦させてもらおうかしらね」
「では、せっかくですので私も観戦させて頂きます」
『もちろん僕達も! ねっ、エース!』
『ああ、イクト達の本気のバトルには興味があるからな』
ロッカ博士やウル達が楽しげに観戦への意欲を見せていると、シオン達は顔を見合わせて頷き合ってからイクトに話し掛けた。
『では、私達はレド殿達にこの事を話して参ります』
『他の皆もイクト達には会いたがっていたからな』
『無論、ボスのポケモン達もボスには会いたがっていたので、帰ってきたと知れば、すぐに会いに来る事でしょう』
「はっはっは! そいつぁ嬉しいな! それじゃあ伝令は頼んだぜ、お前達」
「お願いな、皆」
『『はい』』
『ああ』
揃って返事をした後、シオンはウル達が入ったバスケットをロッカ博士へ手渡すと、フォード達と共にレドや他のポケモン達がいる生活スペースへと走っていった。そしてそれを見送った後、イクト達が揃って研究所のバトルフィールドへ向けて歩き始めた時、「そういや……」とアーサーは何かを思い出したように声を上げた。
「なあ、イクト。シアには最近会ったか?」
「シアですか? この前……俺が引っ越す前日にリアさんと一緒に会いに来てくれましたけど、その後『ポケバンド』の事で何日か別の街まで行く用事があったみたいで、リィルとオルタ、それとレイを借りてそのまま出発しましたよ」
「……そうか。まあ、お前が帰ってきたと知ったら飛んで帰ってきそうだが……一度帰るって連絡はしたのか?」
「あ、いえ……用事に集中して欲しかったので、連絡はしていないです」
「そうか……だが、バトルを終えて少し落ち着いたら連絡はいれてやれよ? アイツも俺達に手紙を寄越してくれてたんだが、お前の事や育て屋業の事は心配していたからな」
「はい、もちろんです」
そんな事を話しながら歩く事数分、イクト達は研究所のバトルフィールドへ着いた。そして、すぐにそれぞれの位置へ着くと、ロッカ博士はゆっくりと両者に視線を向けた。
「それでは、これよりイクト君とアーサーさんのポケモンバトルを始めます。ルールは1対1のシングルバトル。どちらかが先に倒れた時点でバトルは終了とします。二人とも準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!」
「ピカ!」
「こっちも問題ないですよ、ロッカ博士」
「ピカ……」
「分かりました」
両者の言葉に頷きながら答えると、ロッカ博士は両手を高く上げながら声を張り上げた。
「それでは……バトル、スタート!」
第2話、いかがでしたでしょうか。次回はイクトVSアーサーのポケモンバトル回+αですのでお楽しみに。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。