おとぎの国 小説詰め 作:美杏
「―――おや、アリス殿」
今日もオズの城に遊びに来た私は顔見知りの侍従と遭遇すると、急かしていた足を止めた。
「こんにちは。オズは?」
そう訊くと「部屋で書類仕事をしていますよ」と答えが返ってきた。が、すぐに「・・・よろしければお呼び致しましょうか?」と首を傾げる。
一瞬そうしてもらおうかな?という考えが頭に浮かんだけれど、滅多にやらない仕事の邪魔をするのは流石にちょっと・・・・・・。
だったら、どこか一ヶ所部屋を借りて待っていた方がいい。
勉強道具も持ってきてるしね。
その旨を伝えると、彼は「では図書室をお使いください。それでは、仕事があるのでこれで失礼致します」と言い残し、足早に私の前から去っていく。
恐らく本当に仕事が溜まっているのだろう。
悪い事しちゃったなと思いながら、ゆっくりと長い廊下を歩き始める。
彼が忙しいのは、きっとオズがあまり仕事をしないせい。
オズの国の、そして世界の王として必要最低限の仕事しかしないから、それ以外はきっと全部側近の彼らに回されているのだ。
そこまで考えて、私はあれ?と疑問に思った。
確か私がおとぎの国に来たばかりの頃はもっとちゃんと仕事してなかったっけ・・・?
ぼんやりとだけれど、そんな記憶がある。
「もしかして、これって私が原因?」
・・・・・・なんて、それは無いか。
人の気持ちの移り変わりなんて、誰にもわからないのだから。
例え、どれだけ共に同じ時を歩んでいようとも。
「――あった」
城の一画にある大きな部屋の扉を開けると、壁に設置された背の高い本棚といくつかの長机が見えた。
私は一番端の椅子に座ると、持っていたエコバックから教科書とノートを取り出す。
4月になったら、本格的な受験シーズンに入る。
そうなってから後悔しない為にも、このテストは落とすわけにはいかない。
・・・・・・本当は家とか図書館で勉強した方がいいんだろうけれど、私は幼少期からずっと通っているここが一番良いと思った。
それに、オズにも会える。
今の変態なオズはちょっと嫌だけれど、それでも会うととても嬉しい。
オズの顔を思い出してふふっと笑みをこぼした時、ふいにドアが開く音が聞こえた。
その音に振り返ると、そこにはオズの姿が。
――まぁノックをしてない時点でなんとなく想像はついていたのだけれど。
「アリス!来ているならいると教えてくれ」
その言葉と共に、後ろから抱きしめられる。
多分、仕事が終わった後に彼から話を聞いて急いでやって来たのだろう。
「ごめんね、仕事の邪魔するのは流石にダメかなって思って」
そう答えると「そんなこと思わなくていい。仕事よりアリスと一緒に過ごす方が大切だ」とさりげなく照れる事を言われる。
嬉しいけれど、同じくらい仕事も大切にしてほしい。
「私、もう帰るね。そろそろ現実世界も夕方だろうし」
エコバックに広げていた教科書をしまいながらそう言うと、オズは不満そうな顔をする。
もっと一緒に居たいっていうのは私も同じだけれど、このまま過ごしているとお母さんに心配をかける。
「また今度、受験が終わったら来るから。その時は泊まってくね」
何ヵ月、何年先になるかはわからないけれど、絶対に果たしたい約束。
いくらオズでも、その間に私を探しに現実世界に出てくる事は無いだろう。
「ねぇ、オズ」
オズに見送られて国と国を繋ぐ橋に来た時、私は最後に訊いてみることにした。
「ん?」
「・・・・・・私のこと、どう思う?」
「もちろん、愛している。それでは不満か?」
私のその質問に、当たり前だとでも言うように答えるオズ。
「ううん、全然!それじゃあまたねっ!」
ありがとう、オズ。
その言葉を聴けただけで、私は嬉しいよ。
―――その日を境に、アリスがおとぎの国に現れることは無かった。
・・・なんか違う。
アリスじゃなくて麗華としての話もいつか書きたい。
あと季節ネタ。
キャラ提供:大蛇(うわばみ)様