おとぎの国 小説詰め 作:美杏
苦手な人はお気をつけを。
――ピンポーン。
風呂から上がってそろそろ寝ようかという頃に、突然響いたチャイムの音。
時計を見上げると、針は11時を過ぎている。
不審に思いながらインターホンを確認すると、そこに映っていたのは大切な恋人――お雪ちゃんの姿。
慌てて玄関のドアを開け、彼女を迎える。
「どうしたんだい、こんな時――」
「真月様っ!」
雨が降っている中、傘も差さずに来たのだろう。勢いよく抱きついてきた彼女は髪も着ているパジャマもずぶ濡れだった。
「・・・とりあえず、上がって。話は中で聞くよ」
「え、でもそれだと真月様のご迷惑になってしまうのでは・・・」
「大丈夫、ここに来ている時点であまり変わらないから」
そんな事よりも、まずはお風呂に入れることが先決かな。
「――それで、何があったんだい?」
シャワーを浴びて着替えも終えた彼女にホットミルクを出すと、疑問に思っていたことを尋ねる。
一口飲んでほぅ、と息を吐いてから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・・・・お父様が突然、婚約者を決めるって言い出したんです。もう恋人がいるから、ってどれだけ言っても聞いてくれなくて。ついカッとなった
なるほどね。お雪ちゃんらしい。
「・・・そっか。なら現時点で選択肢は2つ」
「2つもあるのですか?」
「うん。・・・あ、ちなみに家に帰るというのは最初から除外してるから。君なら、絶対に帰りたくありません!・・・とか言うでしょ?」
思ったことを素直に述べると、目の前に座る相手は苦笑する。
「まぁそれはいいとして。ひとつは、おとぎの国の住民になる。そうすれば辛いことも悲しいことも全部忘れて、あの場所で幸せに暮らせる」
「でも、それって同時にこの想いも、真月様のことも忘れてしまうのでしょう?そんなの・・・私は嫌ですわ」
「そう。じゃあ、もうひとつの提案」
そこで一旦言葉を切り、指をもう一本伸ばす。
「僕もお雪ちゃんも、共に死ぬ」
「え・・・?」
そう呟きながら、彼女は目を見開く。
「ど、どうしてです!?私はともかく、真月様まで死ぬことなんて・・・」
「君も知ってるでしょ?僕はもう、君以外に
「それはとても嬉しいお言葉ですが・・・本当によろしいのですか?」
その問いかけに、もちろんと頷く。
「とは言っても、最終的には君が判断することだけれどね。・・・さてと」
立ち上がり来客用の布団を用意しながら「ところでお雪ちゃんはベッドと布団、どっちがいい?」と尋ねる。
「いえ・・・!私はソファーで構いません」
「そんなところで寝たら絶対に風邪引くでしょ。だいたい君の家にあるような高級なやつじゃないと思うし・・・あ」
突然黙り込んた僕を不思議に思ったのか、「どうしたのですか?」と首をかしげる。
「一人が嫌なら、一緒に寝るってのもあるけれど?」
笑みを浮かべてそう言うと、顔を真っ赤にして勢いよくかぶりを振った。
こういう冗談にも反応してくれるところが可愛らしい。
「・・・で、では布団の方、お借りします」
おやすみなさい、と挨拶をした彼女は疲れていたのかすぐに静かな寝息をたて始める。
しばらくの間目を閉じていると、いつの間にか眠っていた。
「――真月様。私は決めました」
いつもより少し賑やかな朝食を終えてコーヒーを飲んでいる途中、お雪ちゃんはそう宣言した。
僕は何も答えず、次の言葉を待つ。
「真月様と一緒に・・・死ぬことにしますわ」
「・・・わかった。なら早速行こっか」
言いながら、時計を見上げて時間を確認する。
荷物は・・・持っていっても意味が無いだろうし、別にいいかな。
「行こっかって、こんな時間からどこにですか?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ?おとぎの国だよ」
今日は平日だから楓ちゃんも高校に行っているだろうし、店が開いてさえいれば入れるだろう。
そこまで考えているうちに、・・・そういえば、この子も学校あるんじゃないの?という疑問が浮かんだが、スルーすることにした。
「おとぎの・・・国?」
「ん。こっちだと下調べとか終活とか色々としなきゃいけないけれど、向こうは君の城があるからね。そのうち皆も忘れると思うし」
そう解説すると、彼女はなるほどと頷いた。
「・・・さて、そろそろ行こうか」
氷の城の一番高い位置にある部屋に向かって、歩みを進める。
・・・店長さんが何も言わずにおとぎの国に入れてくれたのは幸いだった。
もし質問されたら答えることはきっとできなかっただろう。
「・・・そうだ」
「?」
彼女の左手を取り、そのまま歩く。
「ま、真月様、手!凍ってますわ」
「知ってる。けれど、最後くらいこうしてもいいんじゃない?」
そう答えると、彼女は何も言わずにうつむいた。
繋いだ手が握り返されたのが、何よりの証だろう。
「あの、真月様」
「ん?」
「えっと、その・・・、ありがとうごさいます。本当に色々と」
笑みを浮かべる彼女の伝えたいことがなんとなくわかった僕は、心の底から微笑んだ。
部屋のバルコニーに立つと、どちらからともなく落ちる。
愛おしい人の安らかな顔をぼんやりと見つめながら、僕はそっと目を閉じた。
どうすれば綺麗にまとまるか悩んでいたらいつの間にか1年以上過ぎていました・・・。
その間に作風とか色々変わりましたが、なんとか形になったのでひと安心。
リクエストありがとうございました!
キャラ提供:アルル様、メジェド様