限定時間   作:西月

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はじめまして。こんにちは。
SSを初めて書きます。少しずつですが読んでいただければ幸いです。


夕焼けとの出会い

 今にも赤く焼けた空が、夜の時間に変わろうとしている。

 その赤と黒、2色に染まった空はとても寂しく感じさせる。その空の下で5人の少女たちはそんな光景に対して、『ここに居ること』の証明をするように、それぞれの楽器で音を響かせ、笑顔でその音を楽しんでいる姿は私にとってはとても貴重なシーンのように見えた。

 肩からぶら下げていた一眼レフカメラを自然と構え、細やかな設定を気にすることなくシャッターボタンを押し込む。彼女ら5人全員が映るように、適度な距離感を保ちながらピントをできる限り合わせシャッターを切る。ズームを操作して個々での姿もフレームで捉えつつ、演奏をする彼女らのスピードに出来るだけ合わせながら、彼女らを捉えレンズで追い続ける。

 夢中と言うのだろうか? 眼の前で今貴重なシーンがある。私はそれを残すため機械が私の手元にあるのであればこの光景を残したいと思った。だから私は一眼レフカメラでシャッターを切り続けた。

 

 

 入り込み過ぎたのだろうか? 演奏が終わった事に気が付かず、未だ残るその余韻まで撮影をし続けたため、気がついたときにはフレーム越しに肩口で切られたボブカットの少女がこちらに眼を向け、眉間にシワを寄せ明らかに不機嫌さを伺わせるような顔をしている。

 とても綺麗な顔立ち、いわゆるかわいいじゃなく凛々しいという分類なんだろうな……、と思いながら最後のシャッターは彼女のそんな表情で締めくくることにした。カメラが乾いたシャッター音を響かせたと同時に不機嫌そうな彼女から声が発せられた。

 

「あんた誰? 何、勝手に撮ってるのさ……」

 

 その声と同時にえっ? と言う驚きの声を上げながら5人の眼がこちらに向けられる。さっきまで楽しそうに演奏していた雰囲気が一気に変わり、私と言う異物が混じった空間に少し重い空気が流れ出す。

 

「ええっ? ほんとに撮られてたの?」

 

 と、2つに髪を束ねた子は慌てたように長身の少女に問う。

 

「なんか、恥ずかしいなぁ……」

 

 長身でロングの髪をした彼女は頬を指で掻きながら、照れたような表情を浮かべていた。

 

「って言うかー、放課後の屋上と言っても誰もいない訳じゃないんだしー、カメラで撮られることは想定外だったとしても、誰かに見られるのは想定内じゃんー」

 

 とおそらく淡い色をしたショートカットの子が特徴的な口調で語りかけつつ、首を捻らせている

 

「確かにそうだよね。私は見られるのは想定してなかったかな……」

 

 濃い色のショートカットの女の子は苦笑いを浮かべている。一番始めに声を出した少女は、そんな彼女らのリアクションは一切気にかけないようにずっとこちらを睨むような顔をしながら、視線は一切外してくれない。

 

(やっばいなぁ……。滅茶苦茶怒ってるよ、どうしよう)

 

 思わず撮影しちゃったものだから結構なお怒りを買ってる模様。特に異物の私を見つけてからひたすら睨んでくる黒髪の子。とりあえず何かしらの話をしなければ、確実に撮影データを消せと言われかねない。

 

「えっと、発言よいですか?」

「よろしいー、では被告人証言をどーぞー」

 

 淡い色の子が、ドラマの裁判長役のように発言を許可してくれた。弁明と言うのだろうか? まずは彼女らには勝手に撮ったことを謝るべきだろう。おそらく今回はそれが一番の怒りを買っているはず。特に黒髪の子、この子が一番怒ってらっしゃる。初っ端から喧嘩腰だから困る。

 

「まず、勝手に撮影したことは謝るね、ごめんなさい。屋上で空を撮ろうと思って階段を上がってると何本もケーブルがあってどこに繋がってるんだろう? と思ってたら上でまさか演奏をしているなんて思わなくて。その……貴重なシーンだから思わずシャッター切っちゃった」

 

 自分なりの言い訳なしの言葉。そもそもの始まりは「今日は多分いい感じに焼けそうだ」というメッセージを叔父さんから受けて、屋上からの夕焼けを撮ろうと思って長い階段を上がっていると階段脇にガムテープでところどころ止められたケーブルが眼に入り、先客の予感を感じていた。とりあえず、撮影するだけのスペースを少しだけ先客には借りようかな? と思いながら屋上に出たところ彼女たちに遭遇したのだ。

 

「貴重なシーンって……、どういうことなのかな?」

 

 先程まで苦笑いを浮かべていた、穏やかそうなショートカットの子が私の言葉に疑問を持ったらしく首を傾げながら問いかけて来る。

 

「ほら、人ってカメラ向けちゃうと自然と何らかのポーズ取りたくなるでしょ? だから、無意識っていうか自然な動きをしている人を撮って見たかったの、そういう意味で貴重かなって」

 

 なにかに夢中になっている人。それをカメラで撮影したかったと言う単純な欲求。不意打ちで撮影も確かにいいとは思うが、カメラを構えるまでに気が付かれてしまう。被写体モデルになってくれるような子は私の知り合いにはいない、と言うより望む結果をなかなか得ることは難しく思う。

 

「ああー、なるほどー。急にスマホとか向けられると思わずピースしたくなっちゃうもんね~」

 

 2つに髪を束ねた少女はうんうんと、オーバーリアクション気味に頷いて納得してくれていた。

 

「それ、ひまりだけじゃないか?」

 

 そんなリアクションを見つつ、長身の子が軽く苦笑いを浮かべながら突っ込んでいた。

 

「ええ~そんな事ないって、巴だって急にカメラ向けられたら自然とピース出るはずだって!」

 

「ひまり」と呼ばれた2つに束ねた髪の少女は「巴」と言う長身の子の発言にご不満な模様であった。ちなみに今までのやり取りの中でも、黒髪の少女はずっとこちらを睨み続けていた。正直そろそろこの視線から開放されたい、っていうか怖いからね? その眼。

 

 

「納得してくれたようで何より。ちなみに私からも1つだけいいかな?」

「何?」

 

 明らかに怒りが滲んで居る声で私に聞き返す。

 

「多分、センセー達がそろそろ来ると思うよ? どう考えても屋上で盛大に演奏したのなら、校内に響き渡ってるし……、流石にあなた達、軽音部でもアウト案件だと思うな」

 

 異物の私の登場で彼女らが忘れているであろう内容を思い返させる。放課後とは言えども此処は屋上。楽器を演奏するなら本来部室やら教室があるはずなのに、屋外で盛大に彼女らは演奏していた。どう甘めに見ても小言は言われるだろうし、反省文もおまけで付く可能性がある。私の告げた事実で自分たちのやらかしていたことを思い出したらしく、1人を除いて慌てふためいてそれぞれの楽器の撤収作業をすばやく開始した。

 慌ててないのは黒髪少女だけ、彼女はギターを握りしめながら、変わらず私を睨んでらっしゃる。

 此処まで来るとさすがに困った……、こんな怒ってる人って初めてかもしれない。

 

「まじか、やべーぞ蘭。いつまでも怒ってないで、つぐのキーボードの撤収手伝え!」

 

 先程「巴」と呼ばれた少女が、おそらくドラムのいち部分をケースにしまい込みながら、私を睨み続けている赤いギターをぶら下げた少女……「蘭」……に声を掛ける。他のメンツがバタバタとそれぞれの楽器やらケーブルやらを片付けて行ってる中で部外者の私を睨んでいるのは流石に限界だったらしく、撤収作業は始まってから一番あたふたしている穏やかそうなショートカットの少女の方へ向かっていった。

 

「ご、ごめんね蘭ちゃん……。いつものキーボードと違って勝手がわかんなくて……」

 

 申し訳なさそうに、「つぐ」と呼ばれたキーボードの少女は蘭に謝る。

 

「別にいいよ、軽音楽部のキーボードだもん仕方ないよ」

 

 蘭の表情は私から後ろになって見えないが、睨んでいた時を感じさせないくらいの穏やかな声を掛け撤収を手伝って行く。

 

「モカ、この電源ケーブルはどうするの?」

「とりあえずー、ケーブルは借り物だからー回収しなきゃねぇ。空き教室に置いて明日返しに行こー」

「りょーかい! ちゃっちゃか巻いてっちゃうよー!」

「巴ちゃん! こっちも撤収完了したよ!」

「じゃ、めんどうなことになる前に今日は解散だ」

 

 ばたばたと走っていく音。蘭はまだ私のことを睨んでそして、校舎に吸い込まれていった。彼女達が去ってしばらくすると、怒り心頭といった感じの生活指導の先生がきて周囲を見渡した後に下校を促す言葉を私に告げ、雑に下校を促して去っていった。

 

(残念、ブルーアワー逃しちゃったや……)

 

 スマホの画面を見ると、おじからの2件のメッセージが届いていた。

 

 『良い焼け具合、今日は外回りで良かった』

 

 画面にはおそらくどこかの海岸で撮ったであろう写真が一枚、おそらく今日撮って出しの1枚。太陽が今まさに海岸線に沈んで行くであろう瞬間を切り抜いた、オレンジが鮮やかな写真。

 はたして、この叔父はいったい今どこで写真を撮っているのか……。なにか返事をしようかと思ったが、あえて既読スルーした。

 

 眼の前に広がるのは、すでに紫を追い抜いたわずかに広がる黒の世界。夜へ時間がもう変わる。

 これが私、望月真琴と美竹蘭たち「After Glow」との出会いだった。

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