「モカ、それ本気で言ってるの?」
「そうだよぉー、モカ辞めた方がいいって……。流石に私でも無理だって」
「本気だよー。今のモカちゃんは真剣そのものなのだよ」
「モカちゃん……、絶対後悔するよ? 辞めた方がいいと思うよ」
「あたしもつぐに同意、絶対やめた方がいいって」
「ともちんもつぐも何言ってるの、こんな機会絶対ないんだから挑戦すべきだよ」
青葉さんはギターを弾いてる時でも見せないくらいの真剣な顔をして言うが、それに対しAfter Glowの面々は反対するが、青葉さんは折れる気配がない。もはや説得は無理だろうなと思い、一応この場に居る人間として一言だけ言ってこう。
「青葉さん、勇気と無謀は絶対ちがうからね?」
彼女が後悔しないように、私も念押しはした。
「まこちーもわかってないなー。こういうのはちゃんと楽しまなきゃいけないんだよ? さぁ、ボタンを押すのだ、まこちー」
「わかったわ。何があってもAfter Glowが責任もって処理ってことで……いいかしら?」
どんな言葉を彼女に伝えても無駄なようだ……。正直、どこからこの情熱が来てるかわからない。ほかのメンツを見ても、もはや何も言うことができないのか沈黙で返答を返す。
「……沈黙は肯定とみなすわ」
とりあえず注文ボタンを押す。まさか、たかがファミレスに来てこんなシリアスになるとはだれが思うか……。
「望月さんって、結構さばさばしてるよな?」
「よく言われるわ。今更気にしても仕方ないし、女の子らしく振舞ってもあんまり得がないもの」
「でも、毛先のウェーブが羨ましいなぁ……。すんごい似合ってる。それパーマ当ててるの? それともコテ当ててるの?」
「これ、天然物なのよ。これ以上、伸ばしちゃうと湿気を吸って重くなっちゃうから維持するのが逆に大変なのよ……」
少し伸びた茶色が混じった毛先に指を軽く絡ませる。この癖っ毛は今でこそ耳がちょうど隠れるくらいショートに落ち着いてるが、小さい時には伸ばしてみたり縛ってみたりアイロンを当てたりしてみたりといろいろ実験してみたが、どれも合わないことが分かってる。伸ばせば毛先同志が絡む、縛れば髪ゴムに絡んでほどけない、アイロンは持って半日とかなり強情な毛だ。特に梅雨の時期はもう最悪だ……。頭が朝から重くつらくなる。
「天然でそのウェーブって……、やっぱり羨ましいなぁ、私の髪なかなか言うこときかなくて……」
「そう? 天然だとほんとアレンジが効かなくてとても困るわよ? 気分で髪型を変えたくなるじゃない? 施しようがないもの」
「あたしはあんまそういうのないかなぁ」
「私もちょっと思うかな。今ショートだからも少し伸ばそうかな。でも、巴ちゃん、昔はショートだったんだけど今はロングだもんね」
「宇田川さんはなんで伸ばしたの? ショートも似合いそうなのに」
宇田川さんは自分の毛先を筆みたいして「うりうり~」と隣にいる美竹さんの顔をなぞっては、それを追っかけて猫みたいなパンチを飛ばされている。
「あれだ、商店街のイベントで男と間違われたから伸ばしたんだ」
「巴の事を知らないあこちゃんの同級生から、告白されたんだっけ?」
「蘭、悪かったって。やめてくれ。それ黒い歴史だ」
「あこちゃん?」
「あこちゃんはともちんの妹~、とってもかわいい子だよ~」
ああ、なるほど。宇田川さんの豪快な性格はお姉さんだからか……。なんとなく合点がいく回答だ。姉御肌というか面倒見もいいところも納得だ。
「なるほどね、確かにお姉ちゃんって感じがするわ」
「あこはあたしの大事な妹だからな、時々誰に似たのか暴走するときあるから、ちゃんとしてやらないといけないんだよ」
「頼もしいお姉ちゃんだよね」
「へへへっ、照れるな……」
「お待たせしました」という店員が私たちのテーブルにやってくる、そしてカートに乗せられてくる各々が頼んだスイーツ。その中に一際目立つものがあった。
「あれ……だよね」
「ああ、そうだな。マジででっかいな……」
青葉さんを見ると待ちきれん顔でちょっと口からよだれを垂らしている。
まずは小さいケーキ類が青葉さんを除くAfter Glowと私の前に置かれ、問題のそのバケツの容器に入ったアイスクリームの塊みたいな奴だ。
「お待たせしました、時間制限タワーパフェでございます」
店員はバケツみたいな容器にこれでもかというくらいにアイスクリームの乗った、その暴力的な物質をパフェと言った。ねえ、いまこれをタワーって言った? どこら辺がタワーなの? むしろ橋脚のセメントの塊にみたいに見えますよ?
「はーい。それあたしのでーす」
青葉さんが元気よく手をあげる。圧倒的物量の差にドン引きのテーブル。どう見ても、1人でチャレンジするものじゃない。グループとかで来て分け合って食べる奴だ。
「よーし、モカちゃん頑張るぞー」
◆◆◆
事の顛末はAfter Glowとファミレスに入ってすぐに青葉さんは店頭に張ってあるポスターに目を輝かせた。バケツに山ほどのアイスクリームとウエハース、チョコソースがかかってフルーツがトッピングされている甘味の塊が描かれたポスターに3000円と書かれ、30分以内の完食の場合無料と刺々しいピンク色の文字で書かれている。
『ひーちゃん! このタワーパフェ行ってみよう! 甘いものが大好きなひーちゃんなら、30分で完食なんて余裕でしょ?』
『モ、モカ? いや、さすがに私は無理だって! 絶対こんなの食べたらおなか壊しちゃうよ……』
『んー、でも甘いものならひーちゃんでしょ? この間もつぐのお店で午前中からケーキ2つ食べて、お昼にパスタ食べてたじゃん』
『あ、あれは朝ごはん食べてなかったから……その……。つぐぅ~!』
『ひまり……マジで?』
『アッハハハ、ひまりらしいなぁ~』
美竹さんは信じられない物を見るような顔を上原さんに向ける。うん、私も同じ意見だ朝ごはん抜きにしてもその量はちょっと食べすぎだと思うわ。
『ほらー、女性限定で30分以内で無料になるんだよ?』
『いや、さすがに無料にしたってこの写真見て、もうすでにおなか一杯になるぞ』
『ともちんノリ悪い~』
『3000円払うなら、ほかのケーキ食べたほうがいいんじゃない?』
『そんなことない、決めた。モカちゃんはこれに挑む』
◆◆◆
「では、ルールの確認になります。30分以内にすべてお召し上がりいただければ、時間制限パフェの料金は無料になります。制限時間を超えられるもしくはリタイア宣言されますと、パフェのお代をいただくこととなります。グループでのシェアはご遠慮ください。では、こちらのタイマーで計測いたしますので完食次第、確認に参ります。リタイアの場合も呼び出しボタンでお願いします」
店員はフードバトルの説明を行い、ポケットからキッチンタイマーを取り出しに30分を設定して机に置く。
「りょーかいですー」
「では、スタートです」
「いっただきまーす」
青葉さんは少し大きめのスプーンを持って、今日一番の笑顔で両手を合わせてアイスの塊に挑戦を始めた。しばし、その様子にあっけにとられたが、結構な速度で順調に減っていく様子を見ていた。なんだかんだ言ってこれは、意外といけるんじゃないの? 青葉さんが静かに食べていく間に、カメラバックからタブレットを取り出し、今日撮影した内容のフォルダを開き宇田川さんに手渡す。
「宇田川さん。これ、今日の写真よ、全部じゃないけど主だったところをピックアップしてある」
「えっ、もう見れるのか?」
「ノー編集だから、多少見苦しいところもあるかも知れないけどね」
「巴! 真ん中に置いて! 私にも見せて見せて」
上原さんが机の上に置くよう催促をする。何気に美竹さんも宇田川さんの後ろからタブレットの画面をのぞこうとする。
「こんな感じになる。っていう、参考程度でお願い」
机の真ん中にタブレットを置き、一番左端に配置されてるファイルをタップする。液晶に映し出されるのは上原さんが真剣な顔をして手元を見ながらベースを弾いてる姿。
「うわ……。うわ……。これ恥ずかしい……」
「ひまりちゃん、すごくかっこいいよ」
「なんか、ほんとにアーティストのオフ写真みたいな感じになるんだな」
「謙遜しすぎでしょ」と思いながら、ストローでアイスコーヒーを吸い上げる。ドリンクバーにありがちな独特な薄い酸味が口を濁す。どう考えても氷が解けて味が薄くなっているだけでなく、元のコーヒー自体が薄い感じだ。
(CiRCLEのカフェのアイスコーヒーのほうがおいしいな)
宇田川さんたちは、画面をゆっくりスワイプしながら自分たちの写真をゆっくり堪能している。はじめこそはいろいろ言っていたが、言葉がどんどん少なくなって、スワイプする手が止まってきた。
「どうしたの? なんかまずいところでもあったかしら?」
「いや、その……な……」
「なんか、こう恥ずかしくなってきちゃって……」
ああ、そういうことか。はじめは茶化しあって何とか見れてたけど、自分の写真を意識しだすとどんどん恥ずかしくなって行くやつね。私は机の上に置かれたタブレットを持ち上げ、アルバムアプリの設定開き、自動プレビューの有効化を行う。
「はい、これで自分でスワイプしなくっても画像が流れていくわよ」
「ちょ! ま、まって! 心の準備が!」
「すでに撮影されてる物だし、今更でしょ。心の準備も何もないでしょ?」
「いや、あるよ! 見る準備ってあるってばぁ!」
「鏡見るのと対して変わらないってば。上原さんは鏡見るときにいちいち見る準備なんてしないでしょ? それと同じだよ?」
「違う! 全然違うよ」
確かに違うかも知れないが、これはばっかりは慣れてもらうしかない、見せないでいる事もありだが、ちゃんと見てもらわなければ撮った甲斐が無いし、私の人物写真の雰囲気を掴んで慣れてもらわなければいけない。タブレットはそうこうしている間にも、次々と彼女たちのプレビューを自動的に映し出していく。
「あ、これあたしだ……いつこんな近くで撮ったの? 全然、気が付かなかった」
「ほんとだ、蘭ちゃんのすごい近くで撮ってるみたいだね……」
「多分、それはズームで撮ったやつかな」
「なんか……ちょっと恥ずかしい」
美竹さんは顔を赤らめて、自動プレビューで表示された自分の写真をスワイプして次の写真に飛ばす。
「これ、全員の写真だね? だいぶ下から撮ったんだね……巴ちゃんが見切れそう」
「まぁね……。下から撮ってやっとこんな感じ、順番的に次は上からの写真だと思うわよ」
画面をスワイプすると、画面が次の写真に切り替わる。スタジオ内の椅子の上に乗って、全員を撮影したものだ。そこまで高さはないがこれも全員がちゃんと入るが遠目なのもあり少し表情が見えにくい。
「他にも何枚かあるけど、今日撮ったのは基本的には個人事の写真が多いかな……、全体写真はちょっと少ない」
「まこちー、なんかそれ理由あるのー? あっ、ついでに店員さんを呼び出して~、パフェ終わったから」
さっきまでバケツパフェを食べていた青葉さんが会話に参戦してくる。あなたこの間のパンの時も思ったけど、めちゃくちゃ食べるの早くない? かなり量あったはずのバケツはすっからかんになっている。
「早っ! モカほんとに全部食べちゃったの?」
「食べたよー、まこちーはやくはやく~。タイマー止めてもらわないと~」
「そ、そうだったわね……」
ちょっと唖然としてしまった。呼び出しボタンを押すと、店員は素早くこちらに来て伝票に何かを書き込み、「完食おめでとうございます~!」と言って去っていった。なんだ? この店結構完食されているのか?
「で、何の話だったかしら?」
「全体写真が少ない理由かな~」
青葉さんはタブレットをスワイプしながら、自分が見てなかった写真を見ているようだ。
「うーん、言い出したら切りないけど部屋自体が狭かったから収まりきらなかったのと、画面がごちゃ付き過ぎてあんまりいいものにならなかったから……かな、あとは私の実力不足」
「そっかぁー、ならまこちーも練習だね」
「そうね、その通りだと思うわ。練習もそうだけど……」
と、その時机に置かれた、美竹さんのスマホが鳴り始める。
「あっ……」
美竹さんが慌てて電話を持ち上げ、画面を確認し何やら操作する。電話みたいじゃないし、メールかな? 急に鳴ったもんだから、ちょっと驚いたけど、でもみんなの顔は何やら心配げな顔をしてる。
「ごめん、ちょっと用事ができちゃったから……今日は帰るね……。望月さん、写真の扱いだけはお願いだから気を付けて。あと、ひまり?」
「えっ……。あ、どしたの蘭?」
「スタジオで話した件はお願いするね」
「りょーかい! ひまりちゃんに任せて!」
何かをお願いされて、大きく胸を張る上原さん。ちょっと寂しそうな顔をして美竹さんは手を振る。
「じゃ、みんなごめんね……。お疲れ様」
「ばいばい、蘭ちゃん」
「また明日なー」
何やら意味深な言葉を残し、狭いファミレスの店内を少し早歩きで出ていく美竹さんを見送る。
「さて、蘭が居なくなっちゃったけど、も少し女子トークしようね? 望月さんは大丈夫?」
「私はまだ時間大丈夫だけど、みんなは大丈夫なの?」
「全然へーき」
「私も今日は手伝いはないから大丈夫!」
「あたしも今日は平気、あこは父さんと母さんが買い物に連れて行ってるからな」
美竹さんが居なくなった席のお皿とグラスをテーブルの端に寄せ、そこに自分たちの使用済みのお皿も載せる。そのうち店員さんが通り掛けに回収してくれるだろう。
「ごめん、私ドリンクバー取ってくるけど他に居る人いる?」
「まこちー、モカちゃんもいきますぞ」
青葉さんが空いたグラスを片手にあげ、アピールしてくる。
「ついでに入れてこよっか?」
「んーん。今度はコーヒーにするから一緒にいくー」
「そう、なら行きましょ」