限定時間   作:西月

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夕焼けの見え方

 蘭の家は純和風という言葉が似合う家だった。平屋の建物に外から見てもわかる大きな庭。植えられてる庭木にしても、重そうな瓦が乗っている塀。周りの住居とは一線違う事が見ただけで分かった。そしてその重々しさは十二分に目立つ作りだった。

 

「うぉ……。蘭ちゃんの家ってマジでっけぇな、まこっちゃんの家が2つは入るんじゃねぇ? やっぱお嬢なんだなぁ……」

「お嬢って……叔父さん。蘭は蘭じゃない。でも、このお家はほんとにすごいわね……」

「この辺に昔からある。っていうだけで別にそんなにすごくない……」

 

 蘭は顔を背けてそうは言う。が、叔父さんが誇張したわけでなく、私の家が2つは余裕で入るぐらいの大きさはありそうだ。昔からあるとは言えど、土地の大きさは周りの家より2倍はありそうだ。

 

「蘭ちゃん、この門の前に停めちゃって構わない? 一応もう夜だし、僕が玄関先まで行こう。君のお父上とも話しとかないとさ」

「えっ? あ、大丈夫です。多分」

 

 叔父さんは車を家の門の前で停めた。蘭は叔父の発言に少し戸惑った感じで答える。

 

「一応、僕がまこっちゃんの保護者だし、蘭ちゃんが話すより僕が話した方が早いでしょ?」

 

 叔父はそう言いながらフロントパネルにあるハザードスイッチを押し、ハザードランプを点灯させる。

 

「私も行くわよ、一度ちゃんと見ておくわ」

「まこっちゃんは車でお留守番、いいね? 話が長くても意味ないからさ」

「黙ってみておくわよ」

「いーや、絶対君は余計な事を言うから留守番、いいね? あ、蘭ちゃん、横の席に置いてある紫の紙に入ったお土産取ってもらっていい?」

 

 叔父は後部座席のスライドドアの開閉スイッチを押し、蘭の座る席の横のドアを開ける。

「これ? ですか?」

「そうそれ。まこっちゃんはとにかく留守番確定。さあ、蘭ちゃん、ちゃっちゃかと行こうか~」

「ちょ、叔父さん! あっ、蘭また明日ね」

 結局私を残して、蘭と叔父さんは車から降り、蘭が開けた門から蘭と手土産片手に叔父は中に入っていった。車内から蘭に向け手を振っていると、蘭が門に入る直前に手を振ってくれた。

 カチカチと一定のリズムを刻むハザードランプの音を聞きながら、叔父が私を残した意味を少し考える。

 

(まぁ……、顔を見たら確かにしょうもない事を言ってしまうか……)

 

 色々言いたい事を一旦、飲み込んでニコニコ笑顔で立つなんて私にはできないか……。普通に余計な事を言ってしまうだろうから、下手すると蘭に飛び火しかねないな。

 

「はぁー、……なんでもお見通し? ってやつですかね? 叔父様……」

 

 なんだかんだで私は叔父さんに手を引かれないと何もできないのかも知れない。今もこうやって蘭の家に叔父さんの車で来ている。もっと言えば、私が今の学校に通えるのは叔父さんが居なければならなかった……。

 

「やめやめ……、こんなの今更だしね」

 

 そう独り言を言い、時間つぶしにネットニュースでも見ようとポケットからスマホを取り出す。それに蘭が家に帰ったことをモカたちにも知らせなければいけない。

 しかし、スマホの電源を押すが、スマホは一向に画面が映らない。何度か同じ動作を繰り返すが、スマホはうんともすんとも言わない。試しに電源を長押しする、起動画面は開くがすぐに電池切れマークを表示し、ゆっくりと画面がブラックアウトしていくだけだった。

 

「あれ? なんで?」

 

 そんな疑問を口に出しつつ、よく考えてみる。そういえば昨日の夜に充電していない事に気が付いた。つまり、いつからかわからないけどこの時間までずっと電源が入ってない状態だった……。

 

「おいおい……、マジですかぁ……」

 

 スマホを片手に持って、頭を抱え軽く震えると叔父さんが帰ってきて運転席のドアを開ける。

 

「たでーま。いやー固いわ~。固すぎるよ、蘭ちゃんのお父上。危うく食事に誘われるとこだったわ……。って、まこっちゃん頭抱えて何してんの?」

「……叔父様? モバイルバッテリーを持ってらっしゃいますか?」

「えっ? そりゃあるよ? つか、どしたの? スマホ片手に」

「バッテリー切れ!」

 

 叔父の方にも見えるようにブラックアウトした画面を見せつける。

 

「あー、なるほどね。まこっちゃん?」

「なんですか?」

「蘭ちゃんの次にいっぱい怒られな~」

 

 叔父はにやにやした顔で私の肩をポンポンと叩く、うざすぎる……。そんなことしてる間にモバイルバッテリーを出してもらいたい。

 

「叔父様、早くモバイルバッテリーを貸してください」

「そんな怖い顔しないでよ……お茶目なジョークじゃんか……」

 

 叔父は手持ちのバッグから、モバイルバッテリーと配線を取り出し渡してくる。ひったくるように配線をつなぎ、充電ランプが点灯するのを待つ。

 

「んじゃ、帰るかね~。シートベルトつけてくださいねー」

「ずっとつけてる」

 

 充電ランプが赤く点灯しているのを確認し、スマホの電源を再度入れる。今度はちゃんと電源が入り無事にホーム画面が表示される。続いて画面に不在着信のポップアップ画面が表示される、メニューを開くとAfter Glowのメンツからの着信が12時頃まで何度かあったみたいだ。SNSアプリのアイコンの右上に未読のメッセージが表示されている。どうやら20件ほど溜まっている模様……

 

(20件って、マジで……。ほとんどはひまりさんからだけど内容は……。あーやっぱり、結構こっちの心配されてる~)

 

 私は半分泣きそうになりながらも、今日仮病の理由が道端で蹲っているという実にトンでも理論だったことを思い出し、BGMを流しつつその歌に鼻歌を重ねながら運転している叔父を睨む……。しかし、あのトンでも理論が無ければ遅刻もしくは無断欠席だったはずだ……、恨むにも恨み切れない……。

 

(っていうか、これはほんとにどう返したものか……、ひまりだけに返したら、速攻通話きそうだしそれはそれで、対応しきれない気が……あ、全員に返せばいいのか。というかなんて言えばいいのよ? 仮病でした~とか書ける訳ないし……)

 

 しばしスマホの画面と睨めっこを続ける。

 

「まこっちゃん。何してんの? なんか面白い記事でもあったの?」

「仮病した事がばれてない状況で、真実を告げてどうやって場をなごませる事ができるかを考えてる」

「ああ、そういう」

 

 叔父さんは面白い記事を期待してたみたいで、ちらちらこちらを見ていたのを辞めて前を向いて真面目に運転をしだす。家までもうしばらくかかりそうだ。

 

「もう、あきらめて怒られれば? どう言っても無理ゲーじゃないそれ?」

 

 叔父さんは投げっぱなしでこちらに言う。確かにこれは無理だな……腹を決めて怒られようと思いAfter Glow全員に向けにSNSを書き込む。

 

 『電源が切れてました。蘭は先ほど無事に家に帰ってます、私も帰宅途中です、よろしく』

 

 敢えて仮病の件には触れず、サラッと流す。これで何とかなるとは思わないが、とりあえずは連絡は完了だ。しばらくすると蘭が追加でそこに

 

 『私も電源が切れてました。色々迷惑をかけてごめんなさい。詳しくは明日話します』

 

 と記入してきた。

 

(全部まとめて『ごめんなさい』では多分収まらないと思うよ。これはひまりに泣かれるぐらいはあるだろうな……)

 

 これで少しでも蘭は……、いやAfter Glowは、何かを掴めるといいと思う。自称『観測者』としてはそれが彼女たちのいい方向へ進めばいいなと思う。

 

 タイヤが跳ね上げるロードノイズの音とBGMに流れる音楽の音、車のボディが風を切っていく音、いろいろ混ざってしまい聴き取りづらいが、ボーカルの高い声と一定のリズムを刻む低音と電子音がよく聴き取れる。ほかにもいろいろ音が鳴っているのだが、私にはその音が何から発せられた音なのかはわからない。ただ、このボーカルが歌う曲もAfter Glowに演奏してもらうと、その音から彼女たちの顔が浮かぶのだろうか?

 名前の知らないグループが歌うこの曲では人の顔が浮かぶことはない。叔父はこの曲を聞いて顔が浮かんでいるのだろうか? そんな曖昧な思考を巡らせながら、窓から見える景色を眺める外はすでに真っ暗だ、暗い中を街頭が通り過ぎていく。LEDの輝きは目に眩しさを覚えさせ、次の街頭を見る頃には忘れた眩しさを思い出させ繰り返す。連続する光。そんな代り映えのしない景色を見ていると、いつの間にか我が家の近くにまで来ていた。

 

 ◆◆◆

 

 金曜日、今日はちゃんと起きることができた。よかった……。さすがに2日連続での学校さぼりはNGだろう。むしろ、叔父が許すわけがない。

 

 一昨日から入れっぱなしになっていたカメラが入った通学リュックを背負いながら、多くの生徒がいる通学門を横からくぐり抜けようすると、北条先生に呼び止められる。

 

「おっ、来たな」

「おはようございます。昨日はすみませんでした」

 

 結局、叔父から仮病の詳細な話を聞きとりを忘れている分ぼやかしておくのが一番だろう。

 仮病だったことを悟らせないように北条先生に挨拶をし、さっさと持ち物検査している通学門から早々に離れたい気分だった。

 

「いやいや、そうもいかないだろう? とりあえず鞄を開く」

「今更、何をおっしゃってるのでしょうか? 私はそんな危なっかしい物なんか持ってないですよ」

「望月にはそんな物期待してないからな? ほら、開け」

「この学校って結構おかしいですよね? 持ち物検査何て、普通通学門でします? しかも職員総出で……」

「これも私学の通常業務なんだよ。素行不良の生徒の更生、生徒を預けられたらそれをこなすのが業務だ」

 

 北条先生が私学の業務を口にしながら、急かすのでしぶしぶながら鞄を開く。ここで鞄を開くと目立つので嫌なんだよなぁ……。素行不良を自らみせしめるような気分だ。

 

「私、素行不良何てしてませんよ?」

「望月は問題児ではあるぞ……。って、望月さん? なんでレンズ3種類もはいってんですか?」

 

 北条先生が鞄の中身をチェックすると、唖然とした顔で私に問うてきた。ああ、忘れてた。こないだ蘭が来なかった日にスタジオでの撮影用に3本入れたまんまだった。道理で重いと思った。

 

「勘弁してくれよぉ……、っていうか辞書は? 参考書は? 教科書は? どこいっちゃったの?」

「あー、……全部机に入ってますね」

 

 とても苦々しい顔をする、北条先生。まぁ、確かに学校に持ってくるべき物としては北条先生が言っている物は必要だろうな。完全にミスったなぁ……。

 

「お前は後で生活指導をしなきゃならんわ……。写真バカになるのはいいけど、学生の本分をちゃんとしてくれ……頼むからな? 望月よ……」

「はぁ……? やってるつもりなんですが……」

「教科書3冊とメモしか入ってなくて、後、全部カメラ関係じゃねーか……。そのポーチもどうせレンズペンとレンズ拭きだろ……」

 

 呆れながらも中身には手を付けず、北条先生はペンを取り出し何やら小さいメモにサラサラと書いている。

 

「ほれ、放課後に必ずくること……いいな? 写真を撮るのは構わんが、もう少しで高校生なんだからちゃんとしてくれ……」

 

 ちゃんとしているつもりなんだけどなぁ……。机の中にあるなら問題ないと思うのだが……、どうやらだめらしい。お目こぼしは無し。没収されないだけマシと思おう。

 

「あと、望月よ? お前さん、いつの間に美竹と仲良くなったの?」

「先生、まだあるんですか? つい最近ですよ、彼女と仲良くさせてもらってるのは」

 

 生徒指導呼び出しメモを渡されつつ、北条先生に蘭との関係を問われる。言葉の通り、彼女と仲良くさせてもらっているのは最近だ。

 

「美竹も美竹で、問題児だからな……、あんまり無茶しないでくれよ……。これ以上は俺の胃が持たん」

 

(問題児って? 蘭が?)

 

 なんだか意外だ。まぁ、確かにちょっと怒りっぽいけど、真面目だと思うだけどなぁ。口数は……少ないけど。

 

「まぁ、昨日はホントたまたまですね……」

 

 とりあえず仮病のこともあるので、併せておかなければならない。下手に勘繰られても色々面倒だ。

 

「まぁ、いい。放課後の呼び出し、すっぽかしてカメラ撮ってたら全校放送な?」

「放送設備をそんな事に使わないでください……」

 

 軽く脅迫めいた事を口走りながら、北条先生は次の素行不良学生をチェックしに行く。残念ながら、本日はあまりカメラに触ることができなさそうだ……。

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