限定時間   作:西月

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夕焼けの誤観測 4

 私と月島さんとの話に割り込んできた、湊先輩は自己紹介を終えた後、私に向かって軽く頭を下げてくる。その動作につられ私の自己紹介を簡単に返す。

 

「初めまして、望月真琴と言います。話的には既にご存知かと思いますが羽丘女子学園の中等部3年です」

「ええ、学校内でも有数の変人だと聞いているわ。カメラの腕はプロ級で確かだと月島さんから聞いているわ」

 

 そう言われて、月島さんの方に目で訴える。また、この人は余計な事をしてくれて……。って言うか、私は高等部では変人で名前が通っているのか……。

 ああ、高校入学前から早速クラスから浮きそうな予感がする……。いや、今も浮いてる状態だから変人なんて事を言われているのか……。別の意味でショックだ……。

 

「……あいにく私にはその腕がプロであると認識できるほどの鑑定眼は持ち合わせてないわ。ただ、私のCDを手に取ってもらえる機会や紹介される時の私の認知度を向上できればそれでいいの」

「はぁ……。すみません、湊先輩は一体、月島さんに何を吹き込まれたんですか?」

 

 なんとなくの想像はできるのだが、一応言われた人間からちゃんと事情聴取ができるなら今後の展開に有利になれるだろう。

 

「次のロットの私のCDにジャケットをつけたいと思っているの。そのための人材としてあなたを推薦してされているわね」

 

「あちゃー」と手を頭に当ててリアクションを取っている月島さん。湊先輩が変に曲げずに情報を漏らしてくれたので明るみに出る状況。月島さんの方に向き直り、ちょっと怒りを混ぜながらふざけた応対をしているのを咎めるように視線を送る。

 

「……月島さん? 一体何言ってるんですか……」

「いやー、実はAfter Glowの子たちにあなたが撮ったって言う写真をもう一回持ってきてもらって……。ほかにも手の写真とかさ、前回は青葉さんがチラッとしか見せてくれなかったから、ちゃんと見たのは初めてでさ。その取れ高が良過ぎて、ここで騒いでたらその時間に居た常連さんたちにもバレちゃって……。いろんな人と話してたらさ、紹介してほしいって話になりまして……」

 

 少し、しゅんとしながら尻つぼみになる月島さん。あー。もう状況がぐちゃぐちゃじゃないか……。CiRCLEの常連にバレるのは100歩譲っていいとして、なぜこのように湊先輩のような人達が出てくるというのだ。写真を褒めてくれるのは嬉しいが、ほかの人も撮ってほしいというのはさすがに躊躇われる。私はCiRCLEの常連でも無いし、専属にもなった事は無いのだ、そもそも完全に専門外の人間を担ぎ上げるのはさすがにやめてほしいなぁ。

 

「なんで、こんな事に……」

「ほら……、前に話したじゃない?CDのジャケット撮影してほしいって人はやっぱりニーズが広かったんだなって、私も今日改めて知ったわ……」

 

 このままでは必然的に振り回されかねない……。私は写真を撮る事をそこまで崇高な儀式なんかにしているつもりはない、時間さえとお金さえあれば誰にだってできる事だ。この世界にはお金を貰って撮影する人なんて猛者がたくさんいる。それこそネット上には何人だって人を被写体にしたプロ級でありながら道を完全に極めているようなカメラマンなんて大勢いる。

 

「……だとしても、ちょっと話を盛りすぎです。私は今回が初めてまともに人を撮るのに……」

「だからこそ選考事項なんだよ! 実績としてこんな写真を撮ってるんです! って言う風に見せるための」

 

 いや、そうだとしてもですね……、私自身は今はAfter Glow以外を撮るつもりはない。そもそもAfter Glowでさえも納得できる物が撮れる自信なんてこれっぽっちも無い。まずは目下、月島さんから間違いの情報を吹聴された湊先輩にはあと腐れが残らないように引き下がってもらおう。

 

「湊先輩。まずですね……」

「いい、あなたと月島さんとのやり取りでなんとなくわかったわ。どちらにしても撮影は誰かにしてもらいたいのは事実だから」

 

 ええ……、あの状況を見ても話が変な方向に勝手に走り始めてるぞ……。湊先輩、ちゃんと私の事見てくれていた?

 

「私は音楽以外の事に時間をかけるのは無駄な事だと思っているわ。でも、月島さん曰く、CDを広く頒布していくのであればジャケットはあった方がいいと言われた。だからその月島さんが見込んでい……」

「友希那ちゃん、ちょっとすとーっぷ。そろそろ時間だからまた今度その話をしよっか~? ほら、スタジオの時間が始まっちゃうよ?」

 

 湊先輩がしゃべっているところに月島さんが割り込んで、スタジオ貸出の時間を告げる。そういわれて時計を見ると確かにもうすぐ18時を時計の針は差そうとしている。

 

「だから、この話はまた今度ね? 私からちゃんと改めてするから」

「……わかりました。またCDの事はお世話になると思いますのでよろしくお願いします」

 

 軽くお辞儀をして、紫の長い髪をなびかせて奥にあるスタジオの中へ湊先輩は入っていった。これから練習なのだろう……、が、その姿に少し違和感を感じる。

 

(なんで一人で入っていったんだろ? 普通はバンドとかじゃないのかしら?)

 

「彼女は結構高いところを見ちゃっててね……。周りが付いていけないの。元々のレベルは相当高かったんだけど、ここ最近は著しくレベルが上がってるわ」

 

 私の目線を察したのか、月島さんはカウンターの方に戻りながら私の方に語り掛けてくる。

 

「もちろん耳の方もかなり良くてね、普通のバンドを組むだけでは彼女の要求するレベルには追い付けない。むしろ彼女が求める物が得られなくなるみたいだね、彼女が原因のトラブルもあったりするわ」

 

 月島さんは何やらPCを操作して、無音だったロビーにBGMが掛かりだす。先ほど聞いた声ではあるがその声はまるで別人のような声。録音の関係かわからないが少々音がこもっているように聞こえるが、迫力は本物なのだろう、まったく褪せる事が無く広いロビーへ拡がっていく。

 

「これ、彼女のオリジナル曲よ。すごいでしょ? これがプロじゃないんだからさ……。今はまだバンドから声をかけられてライブには出てるけど、あまりにもレベル高すぎて出演数もぐっと減ってきている。早めにプロから声をかけてもらうか、彼女自らが主導のバンドを組むかをしないと埋もれちゃう才能だね」

 

 どんどん前に出る事が減ってきていることに焦って、早急に知名度を上げてプロのスカウトに引っ掛けてもらう事をしなければいけないという事か。それもただ待っているだけでは伸びてきている実力を見せる事もできない。そのために他とは一線を引くためにジャケット撮影して露出を増やし、認知度の向上を図って、今の状況から何とか脱出したいというところだろうか?

 

「それでジャケット写真ですか……。あまりに安直過ぎませんか?」

「いいえ、彼女はこれ以上立ち止まっている事は出来ないわ。私が思うにこの辺のライブハウスでゲストボーカルを迎えるようなバンドはそんなにない。そんな中に知名度向上目的の彼女を迎えては彼女だけが離脱する……、そんな事がずっとできると思う?」

 

 そんな消耗品的な動きでは、いずれどこかで帳尻が合わなくなる。機械を引き連れてバンドをする訳じゃない。そこには人が居て楽器を鳴らすのだ。彼女だけが目立って離脱を繰り返していては、いずれバンドを組んでくれるような人も居なくなって、彼女だけが取り残されてしまう。

 

「だから、今のうちにプロに売り込みをかける。そのためにはまず誰が歌ってるかわからないような白いジャケットじゃ意味がない。スカウトじゃなくこちらから売り込みをかけるなら『湊 友希那』って存在がステータスになるぐらいの知名度は必要だし。デモテープを送るにしても完成度が高いと注目を引きやすい。ここに置くにしても他に置くにしてもジャケットが付けば顔とその声の認知度は確実に跳ね上がるわ」

 

 なるほど。彼女が写真を求めるのは分かった、だが、知名度を向上させるのであれば私のような人をまともに撮った事が無い写真では圧倒的に役不足だ。そして、それの吟味のためのモデルにAfter Glowを使う事は私としては進まない所だ。

 正直、私の見解としてはAfter Glowは揺れていると思っている。巴が言ったように『まだ』続けられている、そんな状況だ。揺れて居るものの皆が前を向いてまた歩き出してる。彼女たちのゴールはどこにあるのかは分からない。しかし、今、続ける事の難しさに直面した彼女たちを下手な事で揺らす訳にはいかない。

 

「そうだとしても、私が撮る必要は無いですね? 本当に知名度が必要なら本物のプロに撮影してもらった方が彼女の良さは出ると思いますよ。ほら、衣装とかスタジオなんかもありますし……?」

 

 私が月島さんの顔を見ながら話す。今までのような調子ではなくこれは本音の部分だ。私には人をちゃんと撮るための知識なんて持ってない。ましてや、いままで撮影スタジオや衣装の手配なんてしたこともない。

 

「言わなかった? あなたが撮ったAfter Glowの写真をみたって……。仮に不十分であったとしても、あなたに知識がなかったとしてもあの写真には私から見たAfter Glowをちゃんと抑えていた、仮にあの写真がまぐれだとしても、ここでそのまぐれが実力になるまでを撮り続けていけばいいのよ」

 

 まぐれが実力になるまで……、その言葉は一瞬だけ私を迷わせた。今まで自然物・人工物相手の撮影をしてきた。中には自分のお気に入りの写真や人に見せるためのポートフォリオまで作成している。この数年のうちに自分の中で、写真と向き合ってひたすら休む間もなくずっと撮り続けた結果……、すべて積み重ねてきたものだ……。

 

「……だとしても、今はそこは考えません。今撮っているのはAfter Glowのためです。私はそんなに器用じゃないです。あと、このチラシは絶対に外してくださいね……」

「はい……」

 

 ◆◆◆

 

 結局、月島さんとは意見が物別れに終わったような会話になってしまい、最後は月島さんが今回も話を折れるように誘導されて、そこにスタジオ貸出の人達が来てしまいうやむやになってしまった。

 

「人を撮るって簡単じゃないんだよなぁ……。お金をもらって撮るような立場でもないんだし……」

 

 立場の問題だけではない。真摯にお願いをされたAfter Glowを撮っている内にほかの人を撮るような事になって、それがまた重なって……となっていくと一番懸念なのは期待を裏切る事だ、そして、期待を裏切るという最もわかりやすいバロメーターはクオリティーの低下だ。

 折角、自分たちが作った曲にジャケットが付くというに妥協をしたクオリティーの写真を提供されればそれにするしか無い……、そういった事があってはそれは裏切りになる。

 この役目はとても重いのだ……。NGならNGと言ってもらえるのであればいいだろう、だがそれに慣れていない人はどうだろうか? 写真の良し悪しを付けられない人に適当な写真を渡すわけにはいかない。私が妥協をすると、わからない人には妥協の塊を渡すことになり、そんな物をメインに使われてしまうと本当に望む物ではなくなってしまう。ずっとそんなプレッシャーがある中での制作など……正直あまり考えたくもない。なんだかんだと言い訳ばかりが頭の中を回り続ける……。そんな中でも足はちゃんと家に帰る方向に向かっていた。

 我が家の玄関を開けると叔父が飛び出てくる。

 

「まこっちゃん~! おかえり~。ちょうどよかった! 今まさに写真が見つかったよ~」

「お、叔父様……、ちょっと落ち着いてください……写真ってなんの写真ですか」

 

 叔父のテンションの高ぶり方にちょっとあっけに取られる。はて? なんの写真というのか、例の『グリーンフラッシュ』でも写っていたのだろうか?

 

「うん、僕が若かりし頃に撮影したオヤジライブの写真だよ!」

「はぁ?」

「ほら、この間言ってたじゃんライブを撮影したことあるか? って。この土日にPCつけっぱなしでずっと検索かけてたんだけど、ようやく引っかかってサルベージしてきました! しかも、拙いながらも現像してあってね~、いや見つかってよかった~」

 

 叔父はピースサインを私に向けてくる。叔父が撮ったライブ撮影写真……。しかも、現像してある物があるって……。最近の物なら現像なんてよっぽどの事が無いとやらないはずなのに……。

 

「それ、一体どんな使い方をしたの? もしかして印刷にかけたの?」

「うん。僕も気になったから渡した本人に聞いてみたんだけど、その時に音源も録音していて個人製作のCDにしたらしいよ~。編集とか含めて全部を個人レベルでやったみたい。実データもばっちりもらいました!」

「どっ、どんなレベルまでやったの? それ、今すぐ見たいわ」

 

 私は玄関で慌てて靴を脱ぎすて、素早く玄関に上がり叔父の背中を無理やりに押して階段を登らせる。もしかしたら何かのヒントになるかも知れない……。

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