限定時間   作:西月

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夕焼けの誤観測 6

 結局、スライドショーは一次校正の作業である「対象の選別」は火曜の最終下校時間の直前になんとか終える事が出来た。

 北条先生曰く、業者へ返信を行って選定された内容でさらに細かい修正や写真のトーン調整を行い、スライドプレビューとなるそうだ。

完成前のプレビューは見せてもらおうと思い、北条先生には声をかけておいた。

 

 以前、北条先生に指導室へ呼び出しを貰っている為、写真用品を大量に持ち込む時はあらかじめ朝から北条先生に預け、職員室に保管をして貰う事となった。

水曜の朝にレンズや三脚といった大型装備を北条先生に預け、放課後にそれを返却してもらってからAfter Glow達とは特に顔を合わせる事なく、一人でCiRCLEへ移動する。

もう道順は覚えた、そこまで子供じゃないので一人で行くことぐらいできる。荷物も重いのでさっさとCiRCLEへ行ってしまおうと予め思っていた通りの行動をする。

 私がCiRCLEに到着した時にはすでに数名のスタッフさんが、様々な機材を地下に下ろす作業していた。

いつもなら月島さんが座ってるはずのカウンターに座っている人は私の知らない誰かが座っており、ロビーには何組かの今回のリハーサル参加者と思わしきバンドがテーブルでおしゃべりをしたり、譜面のチェックをしていた。

 

「あ、望月さん。もう来たんだ! ちょうどいいわ~。ちょっとこっち来て、うちの人達に紹介するからね~」

「えっ?」

 

 どこに座ったもんかな? とロビーで立ち尽くしていたところ、地下ライブハウスへつながる階段から月島さんが軽快なリズムで登ってきたかと思うと、いつもの気持ちの良いかん高い声で出迎えてくれた。

 

「ん? 今回は関係者なんだから、ある程度の意思疎通ぐらいはできないと~。それに間違えて追い出されたら意味ないでしょ?」

 

 スタッフシャツ着て腕章まで巻くのにそう簡単にはトラブらないとは思うのだが……。まぁ、万が一の事も考えて月島さんの言うとおりについていきリーダー各の何人かを紹介されて挨拶をして周る。CiRCLEでは月島さんぐらいしかまともにしゃべる事はないのであまり意識していなかったが、ライブハウスって結構な人が動いているんだなぁ、という感想を持った。

 

 一通りの挨拶を終えて、ロビーに戻ってくる。さすがに挨拶周りには邪魔になるだろうと懸念した荷物をカウンターに預けていたので、月島さんの代わりにロビーを担当している女性から荷物を受け取り、こちらも準備をし始めた。

 リュックの中からいつもの一眼レフと広角レンズを取り出す。レンズカバーを開けた時にチラッとレンズプロテクターに軽く埃が付いていたのが気になり、メンテナンス用のポーチからブロワーを取り出しレンズの前に被せられているに軽く吹き付け埃を飛ばす。

 そういえば……、まだAfter Glowの姿はまだ見ていない。もしかしたらクラスのSHRが長引いているのかもしれない……。そんな懸念を覚えつつ、三脚の脚のロックを外して最大限まで伸ばしていく。

 

(カメラってもう入っていいのかな? 三脚伸ばしたまま持ち歩きたくないんだけど……)

 

 先ほどまで、何度も下に降りたり登ってきたりしていたスタッフさん達だったが、その回数もだいぶ少なくなってきていた。時々ではあるが地下から何かしらの楽器の音が鳴っている。そろそろ、この三脚の固定場所を決めたいところだ。

 

「望月さん~。そろそろカメラの位置が決めできるわよ~」

 

 地下から上がってきた月島さんの声がロビーに軽く響く。その声が響いたあと先ほどまでざわめいて居たロビーが一瞬、ぴたりと止まる。そんな周りを気にせずにさっさと準備していたカメラを首からぶら下げ立掛けていた三脚を抱え地下の階段の方へ歩いていく。

 

(まぁ、伸ばしたら180センチある三脚を抱える女の子、何て早々居ないもんね……)

 

 この微妙な空気はおそらくそういった奇異の目だろうと決めつけ、さっさと階段を下りていく。黒い壁、黒と銀色の階段。革のローファーで降りていくと小気味音が鳴るもんだなぁ……。

 大きめの防音扉を開くと、そこにはある程度の準備を終えた舞台が見えてきた。前にも見た光景なのだがやはり舞台が広く感じられる。

 スタンディングエリアの最後尾にちょっと高そうなビデオカメラが設置されているのを見て、おそらくあそこが最後尾のセンターなのだろうと思い、ビデオカメラの右側に三脚を立てて一眼レフを固定みる。

 床にはマーキングラインが色テープによって作られており、横2畳ほどのスペースが用意されていた。

 

(こっからはみ出ると、三脚は蹴られそうだな……)

 

 何分ライブ経験がない。スタンデングのライブがどんな物かは動画サイトで見たが全くもって理解をしたとは言えない。

 ファインダーを覗くと不自然にセンターを外した映像が映し出されている事が分り、もう少し工夫できないかを検討してみる。

 少し斜めを意識して三脚ごと、カメラを向けてみる。ギリギリ舞台の袖までファインダーを覗きこみながら調整をしていく。

 

(今度は高さが足りない……)

 

 三脚を限界まで伸ばせば私の身長では取り扱えなくなる。あくまでも身長からマイナス15~20センチが限界の操作目安だ、そうすると眼の前に男性が立ったと想定すれば画面はおそらく舞台が見えなくなる。私が脚立に乗ったとして50センチを稼げるとした場合。画面もずいぶんと変わってくる。

 

(しまった。下調べの時に三脚立てておけばこの辺もわかったはずなのに)

 

「望月さんも平台とか箱馬使う?」

 

 いろいろとカメラをいじくっているといつの間にか横には月島さんが立っていた。その声に少し驚きはするものの、体をびくつかせるまでは無かった。

 

「月島さんじゃないですか。その平台? 箱馬? って何ですか?」

 

 聞いたことのない単語が出てきて、オウム返しのようにそれを聞きなおす。

 

「あー、舞台の踏み台みたいな物だよ。ほら、ビデオカメラも平台と箱馬で台を組んでるでしょ?」

 

 なるほど、ビデオカメラの三脚は黒い簀の子のような物が敷かれ、その上に箱を乗せて簡単な底上げをして居た、その固定のために黒いガムテープで簡単に箱どおしをくっつけていた。確かにアレを使えばうまく高さを出せるかも知れない……

 

「月島さん。あのワイン箱みたいな奴4つほど貸してもらえますか?」

「りょーかい。んじゃ、持ってくるね~」

 

 月島が持ってきてくれた箱を使い自分の足場と三脚の足場を立てる、箱の位置が狂わないようにガムテープを使い固定しておく。幸いクイックリリースの雲台を使った三脚であるため、カメラとの分離はそこまで問題ではない。唯一、三脚の位置さえズレて無ければそれでいい。三脚も限界に伸ばした足の接合部をそれぞれマスキングテープで固定をしておく。

 リハーサルの誘導が始まったようで、続々と参加者が地下に集まってくる中で、隅っこの方で広角レンズのピントを何回か合わせてシャッターを切っておく。なんか凄く視線を感じるのは気のせいじゃない気がする。

 月島さんが各参加者にリハーサルの諸注意事項の説明を行っている間も、ちらちらこちらの様子を伺っているような視線を感じて、段々と居心地が悪くなってくる。素知らぬふりをしたまま、舞台袖の控室の方へ逃げる。

 

「どう考えてもまずい気がするぞ……。自意識過剰か? いやでも……」

 

 頭の中でいろいろと考えながらも、控室の隅っこの方でできるだけ演者の邪魔にならないようになっておこう。さっき月島さんが言っていた事からすれば、各バンド1曲を軽く演奏してみてる。本番と同じ機械を使ったただの調整なだけなはずだ。

 

「あの~」

「ひゃ、あ。はい? なんでしょう?」

 

 全く見知らぬ少しふわふわとしたボリュームのある髪をした女の子から声をかけられる。全く想定をしていなかったため、変な声が出る。んっ? 誰だこの子? 制服も観たことがないのでこの辺の学校の子ではない事は確定だ。

 

「もしかして、最近CiRCLEでカメラマン始めた方ですか?」

 

 ええぇ……、なんでこんなところでその質問なの? ってか確かにカメラを持っては居るけど……、あなた達もうすぐリハーサルなのよ?

 

「えっ? マジ? ロビーに変わった人が居るなぁ~と思ったんだけど、やっぱりそうだったんだ?」

「ほら、この間まで掲示板に張ってた人だよ」

「どの子だ? プロ級なんだってよ、挨拶しとこうぜ!」

 

 女の子が発した言葉が瞬く間に、狭い控室内で何組もバンドの居る中に広がっていく。これは本格的にやばい……。

 

 ◆◆◆

 

 控室内で私も私も……といった挨拶の大渋滞になり、このままではリハーサルの運営の邪魔になってしまいそうと思い、とりあえずカメラを片手に逃げ出してきた廊下で月島さんとすれ違い、慌てて足を止める。

 

「月島さん! カメラマンの噂が拡がっているじゃないですか!」

「ええぇ~、お店のポスターはもう剥がしたよ!」

「私、もう控室の中には入れませんよ……挨拶合戦ですよ」

「うへぇ……ごめーんー」

 

 もうやだ……この状況。男女とも年齢が上の人まで私に挨拶してきて「ぜひ俺(私)のパフォーマンスみていってくれ(ね)!」とアピールを受ける状況。とりあえず廊下やり過ごすにも先ほどの人達がリハーサルの終わりで流れてくるかも知れない、フロアの方ではリハーサルが始まったようで楽曲の音が廊下の方にまで漏れてくる。

 

「とりあえず、最後尾でAfter Glowが入るまで様子見します」

「わかった。私はリハーサルの手伝いあるから、手を離せないけど気楽にね~」

 

 最後尾ならば、スタッフの人しかいないはず。余計な事にならず、After Glowの入りが分かれば舞台袖に走ればいいだけだ。

 カメラ周りに居るスタッフの方たちに挨拶しつつ、自分の立てた三脚前にまで移動し、首にかけていた一眼レフを一旦三脚に取り付ける。

 

(ホント困った……)

 

 ファインダーを覗きこみ、ステージに立っている人にレンズを向け、その動きに注目をしてみる。この眼にはAfter Glowの動きくらいしかまともに見たことがなかったので、ほかの人の動きはそれはそれで楽しめるが、やはり少し物足りないというか……、言い切れない感覚を覚えた。

 もう少し元気に動けばいいもののやはり、本番とリハーサルではどこか違うものなのだろうか?

 ぼーっと、そんな事を思っているといつの間にか曲は終わってしまっていた。

 

「次、〇〇〇入りまーす」

 

 そんな声が聞こえ、ゾロゾロと男性ばかりのバンドが入ってくる。この人達も数あるバンドの中の一つだろう。そんな風に思っていた。イントロのギターとドラムから始まる聞き覚えのある曲……『カルマ』が私の耳に入ってきて思わずファインダーから眼を外し、その演奏する姿を見る。

 

(なんで……? もしかして選曲が被ってる? こんな事ってあるのか?)

 

 After Glowが歌うはずの『カルマ』が先に歌われてしまう。一体どんな状況になってるのか? 曲が中盤に入ったところで、居ても立ってもいられず月島さんを探すがフロアには見つからない。

 

(控室の方か?)

 

 ビデオカメラに気を付けながら、後ろを通りすぎようとすると、そこには今回の主催の江戸川さんと槇村さんが居る事に気が付く。

 

「あの? いいですか?」

「おお。真琴ちゃんじゃないか? どうした? なんか困りごとか?」

 

 私は困っちゃいないがライブで選曲が被るのはどうかと思う、かと言って今回のライブのために彼らも練習してきているはずだ、もちろんAfter Glowだって一緒だ……。

 

「いや、その……」

「次、After Glow入りまーす」

 

 ええぇ、選曲被りな上に順番被りって、どんなに悪いくじ弾いてるのよ……。

 

「お、巴ちゃんのとこだな。真琴ちゃんもしっかり撮らなきゃいかんぞ?」

 

 江戸川さんにそう言われてハッとする。

 

(駄目だ、今言ってももう遅い話だ。おそらく彼女たちも舞台袖で前の組の曲は聞いているはずだ、後は演奏して被ってる事に気が付いてもらうしかない)

 

 三脚に取り付けていた一眼レフを取り外し、舞台の最後尾から細い廊下を人がパラパラと居る隙間を縫って、カメラをぶつけないように抱えて走る。

 彼女たちのチューニング演奏が終わるまでに、舞台の袖から多少見切れても彼女たちの姿を納めなければいけない。




『誤観測』だけでここまで引っ張ってしまいましたが、ようやくAfter Glowの出番になりました……長かった。

本日もありがとうございました。
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