美竹蘭はどうすれば見ることができるのか?そんな事を考えていると、先程まで少し寂しそうな顔をしていた青葉さんはカバンの中から例のフレームに入った写真を取り出した。
「まこちーが何者かわかった所で、さて今日の本題はこれー。蘭から預かったのはこの写真だよー」
フレームに入った写真を青葉さんは上原さん達に渡す。
「うわー!なにこれっ!コレ、私なの??」
「すっげぇ・・・、めちゃくちゃ綺麗な夕焼けじゃん!」
「うん!まさに「After Glow」って感じだね!」
「ちなみに蘭いわく、ここに居るまこちーに口説かれた上に押し付けられた、って顔真っ赤にしてポツポツ喋る蘭が超レアでしたー」
青葉さんがものすごく悪そうなニヤケ顔でこっちを見てくる。いや、そんな顔をされても私は美竹さんを口説いたつもりは一切無いので、首をブンブン横に振る。
「えっ、嘘。蘭を口説いたの・・・。一体どうやって?」
「それ、私も気になるな。普段、蘭ちゃんって人にはクールだし、真っ赤にするって滅多に見たことないや」
「まぁ、あたし達と居ても蘭ってどっか冷静だもんなぁ。たまにやらかすけど」
「いやぁ・・・、ほんとに口説いてないからね?青葉さんが多分話盛ってるだけだよ・・・」
なんとなく視線を合わせづらくなって、そっぽを向いて取り繕う。
「んー、モカちゃん的には蘭があそこまで乙女になるのは超珍しいと思うんだけどなぁ・・・」
「いや、ほんとだって・・・。ちょっと撮影に付き合ってほしいってお願いしただけ。ほら、美竹さんって独特な空気感あるじゃない?それを撮らせてほしいってお願いしたのよ」
「ふーん?」
なんか、あんまり納得されてないけど要約したらそんな感じだ。嘘はついてない。あの時は確かに口が思わず回ったけどさ。
「そっか・・・。私達こんな風に見えるんだね・・・」
「ああ、文化祭の時も写真は見せてもらったけど、遠かったからこんな風に写してもらえるとなんか嬉しいよな」
「うん、私達の本当に一番大事な物だから・・・」
フレームに入れられた写真をとても優しい眼をして上原さんたちはまじまじと見ている。彼女達の言う「大事な物」がその写真にはあるのだと言う。ならば、撮った側はそれを意識せずに撮ったという点では、なんとも言い難いが大事なものが撮れたのならばそれで良い。カメラマンとしては駄目だと思うが、個人的には満足だ。
「ねえねえ、まこちー?この写真さー、私にも1枚もらえないかなぁ」
「えっ?」
青葉さんの反応を聞いて、ちょっと言葉に詰まる。
「だめ?」
「いや、別にだめとかじゃないけどね・・・」
「あっ、モカずるい!望月さん!私も1枚ほしい!!」
青葉さんが上目遣い気味におねだりをするような体勢に入って来ると、先程までフレームに収まった自分達をみて優しい顔をしていたが、青葉さんの抜け駆けを許さない!という顔を向けてくる。
「あ、あの私もできれば1枚もらえたら嬉しいなーって」
「あたしもほしいな、この写真」
ちょっとおずおずといった感じで小さく手をあげる羽沢さんの横で、豪快に手をあげちゃう宇田川さん。いや、現像した写真を欲しがってもらうのは全然いいんだけど・・・。
「あの。その・・・、これ盗撮しちゃった写真だよ?被写体になったあなた達に欲しがってもらうのはとても光栄だとは思うけどすごい後ろめたさが・・・」
「んー、いんじゃない?盗撮しないと蘭のこの表情は無いだろうし、蘭もこの写真みてなんだか安心していたみたいだしね。何よりも私達の形がちゃんと見えるからほしい」
「私もそうだよ!その・・・急に撮られちゃったからびっくりしたけど、私達の見えないものも見えるこの写真はすごくと思う!だから、この瞬間を収めてくれた望月さんには感謝しかないよ!」
青葉さんと羽沢さんが私の後ろめたさをフォローしてくれる。申し訳ないけど、やはり盗撮には違い無い、が、彼女らがそう言うのであるのなら、この写真は大事にしておこう。
「わかった。またこの写真を持ってくるね」
「あっ!でも流出はNGだよ!蘭が超怒るからね!」
上原さんが頭に指を立てて鬼のポーズをする。そりゃそうだろう、不意打ちの写真が自分の管理外に出てしまうとか一番最悪だ。
「もちろん。SNSとか投稿サイトは興味ないからそういうのには上げたりしないよ」
「まぁ、取扱には気をつけてくれりゃ、安心ってことで。にしても望月さんってカメラで撮るのほんと上手だよな、なんか写真集見てる気分になるよ」
「ありがと。でも、趣味のレベルだしプロの作品はもっとすごいわよ」
宇田川さんは引き続き、他のポートフィリオの写真を眺めて言ってくれる。
「ちなみに私達の写真も結構な気合いが入ってるみたいだけどポートフィリオには入れないの?」
「あぁ、それね。んー、個人的には人をちゃんと撮ったこと無いからもっとちゃんと撮ってみたいかな・・・って。ねえ、ちなみにさっき話しにあった「アフターグロウ」って、なんの事?」
「「After Glow」は夕焼けって意味。それで、私達のバンド名でもあるの!」
「バンド?軽音楽部ってことじゃないってこと?」
「そだよー、軽音楽部じゃなくて、外部で私達だけで活動してるバンドなの!」
ひまりは自分のカバンから1枚のポストカードのようなものを取り出して私に差し出してくる。そこには「After Glow」とデザインされたロゴと、ライブイベントの開催日時が入っている。なるほど、彼女達は「ガールズバンド」を組んでいたのか。最近、たまにテレビで特集されてたりする奴だ。
だから屋上で練習をしていたんだな、と先日の出来事を思い出す。にしては、この場に写真の登場人物である美竹さんが居ないのに引っかかりを覚える。
「まだまだ下手っぴだけど、今度ライブしちゃうんだからー!」
「えっ、それすごくない?」
「ライブと言っても楽器店主催でコピー曲を1曲だけの出演なんだけどね」
上原さんはドヤ顔で言いながら胸を張るが、羽沢さんは頬を軽く掻きながら苦笑いしてる。いやいや、楽器店主催とは言えどもイベントで演奏するとか、ガールズバンドとかよく分かっていないけど、あなた達すごいでしょ・・・。
「いや、羽沢さん。素直にすごい事なんじゃないの?バンドは始めて長いの?」
「うーん、もうすぐ2年目になるかなぁ・・・。中学2年の春からだよ!ホントはオリジナル曲もやりたいんだけど、機会がなくてね。」
「今回もコピー曲指定だったし、仕方ないよなぁ~」
「ちなみに、去年の文化祭ではオリジナル含め3曲やりました!」
去年の文化祭というと11月の文化祭か・・・。あの日は・・・。
「私、去年の文化祭は風邪引いて休んでた・・・」
「ええぇ・・・、音源持ってなかったかなぁ」
「ひまりちゃん、私のスマホに録音音源入れてたはずだから出すよ」
「つぐ、さすが!」
「さすつぐー」
「あたし、イベントのチケット余分に持ってるぞ」
「さすともー」
スマホを取り出し、曲を探しているのかポチポチ操作をしだす羽沢さんとカバンを引き寄せて先程話にあった楽器店のイベントチケットを取り出す宇田川さんに青葉さんが間の手を入れていく。この人たちはホント仲良しなんだなぁ・・・と思う。
「ほらよ」
「ありがとう、いくら?」
宇田川さんが1枚のチケットを差し出してくる。こういうのは大体お金がいるはず、会場だってタダじゃないしノルマだってあるだろうしね。
「そんなの別にいいって。それよりさ、お願いごと頼めないか?」
「チケットばらまくの手伝えって言うのは受けれないわよ?私、友達少ないって自信あるし・・・」
「はははっ、違う違う。今から聞く音源の感想とまた私達を写真に撮ってほしいんだよ」
音源の感想はまだしも、写真の依頼が来るとは思わなかった。
「できればさ、イベントであたし達の撮影してほしいんだ、撮影許可とかのレギュレーションはこっちから伝えるからさ」
ライブハウスでの生撮影。モデルを立ててのポートレート撮影とは違う。それこそ楽器を演奏しながら動いている人を撮るのだ、しかもライブハウスは大体くらいはず。難易度はとてもじゃないけど高いと思われる。正直、私のレベルじゃ着いて行けない可能性もある。
「写真に撮ってほしいって・・・、専門の人居るんじゃないの?」
「一応、楽器店が映像は残してくれるらしいけど、写真は無いと思うな。何回か会場を見に行ったことあるけどでもたまに身内が撮影はしてる程度・・・かな」
「ライブの撮影ってすんごい難しいと思うのよね・・・」
「そうなのか?」
「うん、演奏しているスピードもあるし、何より人が暗所で動くと思うと、正直今の私ではまともに撮れない。ある程度練習しても、ちょっと難しいかも・・・」
「ふーむ、慣れればなんとかなるとかの問題じゃないんだな」
「どうなんだろう、専門に撮ってる人じゃないから私はなんとも言えないかな、試し取りってどこかで出来そう?」
「試し撮りってどんな感じにするんだ?」
「まずはスピード感。演奏する時にどんな感じで動くのかを確認したいかな。あとは・・・人をあんまり撮った事無いからどんな感じにあなた達が動くのかも見ておきたいかも、後はどれくらいの明るさなのかとか、どんな並びとか、撮影場所の確認とかかなぁ・・・」
やるとなれば手探りで行くしか無いが・・・。正直、あんまり人の記念になるような撮影は撮りたく無いのが本音だ。
なんというか、期待されるのは良いが、こちらはカメラを扱ったことがある人であってプロでは無い。何より機材にも限界はある。プロとの違いはすぐに出ると思っている。
「でもね、宇田川さん。お話はありがたいけど私はさっきも言ったけどプロじゃない」
「ああ、そうだな?」
「だから、記念とかそういうイベント感のあるなら辞退したいな」
「おお?いや、待ってくれ。そんなつもりはじゃないんだよ」
「そう?何かそういうのならプロを雇った方がいいわ、仕事にしている人の写真とはやっぱり違うからね」
「まこちーでもやっぱりそんな風に思うんだ?私はまこちーの写真はどれもすごいと思うけどなぁ」
「ありがと。でも、それは多分全部素材が良いからだと思うわ、私の中ではプロならもっと良いものが仕上げれると思ってるし、それには遠く及ばないわ」
「素材が良いからかぁ・・・」
「まっ、この話は置いといて。今は宇田川さんの話だしね」
「うんうん、望月さん。私達は別に何かの記念とかそういうのじゃなくて「After Grow」を誰かに撮ってもらいたいだけなんだ。この写真もそうなんだけど、私達の形ってどんな風に見えるのか私達とは違う視線で見てみたいの」
羽沢さんはスマホ片手に意気込んだ感じで話す。なるほど、誰かに撮ってもらいたいなら別に構わないだろう。
「はい、これ!聞いてみて、私達のオリジナル曲の1作目。まだ完全には未完成だけどね」
なんか気合が入ってる羽沢さんって結構勢いがあって圧倒される感じがする。とりあえず渡されたイヤホンを片耳にさして指でOKマークを作る。
「じゃ、いくね!」
羽沢さんのその言葉の後、耳に1つの音が流れ始めた。
この作品を読んでくれてありがとうございます。
少しずつ話は進めていくつもりで居ます。