「やっぱり、難しい・・・」
グラウンドを走る陸上部員と思しき姿をレンズで追従しフレームに収めてピント合わせをするが、やはりそのままではピントが合わせきる前に次の動きに入ってしまい空振る。何回か繰り返したが、うまくいかない。
「夕方でこの感じじゃあ、駄目っぽいなぁ・・・。素直に帰って撮影設定とか漁ったほうが良いかも知んない・・・」
ちょっと挫けそうだけど、自分の中のモチベーションは高い。今回は特に高い方だと思う。羽沢さんに聞かせてもらった文化祭で歌ったというオリジナル曲、屋上で彼女達が歌っていた歌。決していい録音環境ではないが、とても良いメロディーだった。自分の語彙力の問題もあるが『すごい』しか言えなくなっていた。
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『どうだった?私達の音!ちゃんと録音したわけじゃないから、音悪いけど・・・』
『上原さん、これ未完成なの?聴いても何処が未完成なのわかんないだけど・・・』
『よかったぁ』
『だろう?コレ結構頑張ったんだからな』
『ともちんとひーちゃんの音がちょい走り気味だもんね~』
『もー、その事は言わないでー!』
音楽は詳しく無い、楽器なんて音楽の授業くらいでしか触ったことがない。歌も有名曲ならわかるけどマニアックなのはわからない。
でも、彼女たちが奏でた音楽はどこか聞き入ってしまう感覚。入り込むってこんな感じなのだろうか?わずか数分だったがその音を楽しんで居る私がそこには居た。
『ねえ・・・』
『んー?どうしたの?』
『その音源、もしよかったら私にくれないかな?もっと聴いてみたい・・・』
『ホントに!いっぱい聴いてくれるならあげちゃうよっ!あ、でも流出は駄目だからねっ!蘭が怒るから!』
と、両手を胸の前でバツを作りながら、軽い感じのウインクをしてくる上原さん。
この子はホント女子校で良かったなと思う。共学とかだったら、絶対勘違い男子いるよ・・・。天然無自覚系だよ、絶対。
『じゃあ、連絡先を交換しよ!スマホスマホ~。どこいったかなぁ~』
カバンの中をかき回す上原さんを始めに、羽沢さんがさっきまで音楽再生していたスマホをいじってSNSアプリを立ち上げる。私もカバンからスマホを取り出して、同じくSNSアプリを立ち上げる。
『はい!コレ私の連絡先だよ!』
『ん、じゃあコレで・・・』
『つぎ、あたしなー』
『モカちゃんも準備万端ですよ』
宇田川さんと青葉さんもアプリを立ち上げ終わって、連絡先交換画面になっていたので、そのままの流れで、交換していく。
『スマホ~!見つかんない~!』
『ひまり、さっき上着のポケットの中に入れてなかったか?』
『あ、そうだ!ポケット!みんな、ちょっとまってよ~!私も交換するんだからね!』
『大丈夫、待ってるからあせらないでいいよ。上原さん』
カバンから筆記用具やらポーチやらを出して、スマホを探していた様子を見かねて宇田川さんが苦笑いしながら、スマホ捜索のヘルプに入る。何って言うか、面倒見いいな、宇田川さんは・・・。
『スマホあったー!望月さん、交換画面プリーズ!』
『はいはい。そう言えば、今日は美竹さんは?』
『んー、今日は蘭、お家の用事入っちゃって早めに帰っちゃったの』
『ホントは練習の予定だったんだけどな、蘭の用事でなくなったしちょっとおしゃべりでもしようってなってな』
上原さんのスマホが見つかって連絡先を交換しつつ、さっきまで引っかかってた美竹さん不在の話を振ってみたら、案外普通の回答だった。まぁ、家の用事なら仕方ないよねーとモカもぼやいている。
私もそろそろお暇しようかな・・・、卒業アルバムの件もあるし、何よりライブ撮影用の話も情報を集めてみる必要がある。
『ふーん、そっか。宇田川さん、ライブのレギュレーションの件わかったら連絡ちょうだい?後、どこかで本番と同じような環境になる感じの練習ってやってたりするの?』
『ああ、それならスタジオ練習が一番近いかなぁ、高くて滅多に入らないんだけど、今度音合わせで入るつもりだよ』
個人個人の練習を見て動きを確認できるのもいいが、やはりバンドとしての動きも見ておきたかったので渡りに船の話だ。
『それ、私も参加できるかな?日程って決まってる?』
『ああ、いいぜ。蘭にはあたし達から言っとくし。今週末の日曜の昼と、来週の水曜の放課後に2時間予定だったけ?」
『うん、そうだよ2時間予約だよ、巴ちゃん』
『行けそうか?』
『もちろん、あわせるわ。折角誘ってもらったんだしね』
『よっしゃ!俄然やる気が出てきたぞ』
『ともちん、やる気全開でペース早めないでねー』
After Glowのメンツは茶化しあって居るが、私にはなかなかタイトなスケジュールだ。日程的にも感覚を掴むまでは時間が少ないかも知れない。
『了解。じゃあ私行くね』
『お、なんだ?もう帰るのかよ?』
もうちょっと喋ろうと誘ってくれる宇田川さん。残念だけど、北条先生の話がまだ終わってないので時間があんまり無い。撮影自体は終わっているが編集作業もあるし、スピード感のある写真というのを撮ったことないので、試し撮りをしてみたいのでお喋りを離脱したい。
『ううん、北条先生からの頼み事がまだ残ってるの。さっさと終わらせて「After Glow」の撮影に集中したいしね』
『そっか、それじゃ邪魔したら悪いな。じゃあレギュレーションわかったら連絡するからなー』
『今日は急にごめんね。望月さん』
『できれば綺麗にすらーっと撮ってほしいなー』
『ひーちゃんは本番に向けてダイエットだねぇー。まこちー、さらばだー』
■■■
彼女たちの熱。とても熱い音。聞かされる側も熱を出してしまうだろう。同じ中学生なのに、こんなにもすごい音。きっといっぱい練習したんだろうなぁ・・・。
クラウチングスタートをしている選手をフレームに収め、ピントをあわせる。事前に固定したピントの状態でスタートした瞬間に右手人差し指を自然に押さえてシャッターを下ろす。
「カシャッカシャカシャ・・・」
連続するシャッター音。ちょっと前にネットで見た走行する電車を撮る設定を真似て見たがどうだろう?画面に今撮影したばかりの映像を映す。ブレまではしっかり確認出来ないが、そこそこ形になったのではなかろうか?
「イマイチ感覚がつかめない・・・」
何が良くて、何が悪いのか?頭の中が整理が追いつかない。っていうか、もう疲れた。駄目だ、流石に帰ろう。訳わかんなくなったらやめるに限る。背負っていたリュックをおろし、ブレザーのポケットからレンズカバーを取り出しレンズに蓋をする。腕に止めていた取材腕章を外し、一眼レフとともにカバンにしまう。おとなしく帰ってしまった方がこの霧がかかった思考は手探りで進めるより何かしらのヒントを得て、再度手を出したほうが絶対に良い。
「帰りましょうかね・・・」
今は色鮮やかなオレンジに染まった校舎の壁も、もうすぐ黒い壁に変わる。陽は落ちると早いのだ。今日はいろいろ思い出したり、いろんな人にあったりして面白い日だったな・・・、その足を校門のほうへ向けた。
◆◆◆
『レギュレーションについて聞ける事になったので、明日12時に悪いけど此処に来てほしい。大丈夫か?』
そんな宇田川さんからのメッセージを受け取ったのは北条先生からの依頼の卒業アルバム用の編集作業を土曜日に7割ほど消化し終えた時だった。編集と言っても使えそうな画像をピックアップして、画面で眺めてブレなど無いかを見る程度だ。
そういう意味ではあと一息というところ、現在土曜日の14時を回った所・・・。添付された地図を見るとどうやら楽器店ではなく会場になるライブハウスのようだ。
「なんとかなるかねぇ・・・」
スマホに画面に映し出されるSNSのメッセージを眺めながら、残りの作業量なんかを考える。ついでにスマホを操作してメールなんかの着信もチェックしておく。
「明日はもともと予備日を想定してたからフリーだしね。まぁ、良いかねぇ」
宇田川さんのSNSメッセージに手早くOKの返事を打ちこみ、送信をしてから、ふと思った。
「そう言えば、なんでライブハウスなんだろう。撮影場所とかの説明もあるってことなのかなぁ・・・」
そう言えばバンド練習が日曜にあるって言ってたよね。
「んー?念の為、三脚持っていこう。ズームレンズも持ってとこう。叔父さん、単焦点の明るいレンズもってたよね・・・」
叔父との共用のドライボックスから、いつもつけてる標準レンズと倍率が大きいズームレンズ、そしてレンズ自体が大きい単焦点レンズを取り出す。レンズ3本持っていって外す事は無いだろう。
単焦点はほとんど使ったことが無い、経験的にうまく扱える自信は無いが無いよりマシだろうと思いながらリュックに入れる。
「カメラ・レンズ3本・アルミ三脚・・・、超重いんじゃないの?コレ・・・」
普段はレンズ一本とカメラだけなので、予想より多い荷物にちょっと足踏みをする。念の為、カメラリュックを背負ってみるが、やはり三脚が思ったより重い・・・。普段から背負って歩いていないから、ちょっと感覚がつかみにくい。特にリュックのサイドにくくりつけた三脚。コレ、人にあたったりしたらまずいよね。車に引っ掛けられたら洒落にならないし・・・。
「これちょっと気をつけて歩かなきゃ行けないな・・・」
荷物は決まった。さぁ、追い込みをしてしまおう。荷造りに少し時間は取られたが、編集はしてしまわなければいけない。卒業アルバムに空白を作るわけにはいかない。個人の事であれば、仕方ないと済ませるが、今回の事はそういう訳にはいかない。編集作業は結局深夜まで続いた。
本日も更新させていただきます。日中に過去話の整理を少ししました。
予定ではもう少し早いテンポで進むつもりだったのですが、文字にしてみると進みが遅くなってしまいます。今回は少し短くなってます。