「んぁ・・・、・・・・・・ヤバイっ!!」
ベッドの上で眼を覚まして、眠い目を頑張って開くとベッド脇に置かれた時計はすでに10時を過ぎていた。
昨夜は選定作業が長引いて、昨日お風呂に入ってない!さすがに出かける前にシャワーは必須だ。ベッドから飛び起き素早く脱衣所まで行き、色気の無い部屋着のスウェットを脱ぐ。
「寒っ・・・・・・、暖房つけなきゃ・・・」
浴室暖房に電源をつけ、部屋があたたまる前にシャワーを出し始めたが出てくる水はお湯に変わるまで時間がかかる。
その時間で、今日の準備物を改めて考える。
「荷物は・・・昨日の内に準備してる。服は・・・、スカート履かなきゃそれでいいし・・・いつもの撮影着でいいっしょ。ご飯は・・・・・・、コンビニ。ペンはカバンに入ってるし、ノートも入ってるから、乾かして着替えて・・・・・・」
シャワーの水の温度を確かめながら、いろいろ考えてると温かいお湯がシャワーから流れてくる。昨日は何とかベッドに入れたが最後にした作業内容が明確に思い出せない、そろそろ机で寝落ちする癖が付きそうだ。
少し長くなった茶色の髪をシャワーのお湯で解かしていく。
(時間はそんなに無いけど、さっさとお風呂上がらなきゃ・・・)
そんな事を思いながら、今日は一体なにがあるんだろう?と思いを馳せる。
◆◆◆
一通り髪を完全に乾かし終わり、服を着替え終えると時刻は11時を回っていた。
重ための荷物を背負い、家に鍵をかけ、いざライブハウスへ。同じ街の中でよかったと心から安堵する。これで県外だったら完全遅刻確定だ。
途中コンビニでおにぎりを買って、食べながら移動、商店街からちょっと外れた場所。宇田川さんから指示されたメールではここであってるはず。
建物に『CiRCLE』と書かれている周りよりちょっと大きい建物。ライブハウスだからか、両隣は公園みたいになってて開けた場所だ。
(ライブハウスなんか来たこと無いから、ちょっと緊張するな・・・・・・)
腕時計を見ると、もうすぐ指定された時刻の12時だ、一応12時回ったたら電話してみようと思い、公園みたいなスペースに足を運ぶと、どうやら屋外型のカフェが併設されてるらしく、テーブルとベンチが併設されていた。
(おしゃれな屋外型のカフェって感じだね・・・、やたら楽器持った人多いけどこれからライブなのかな?とりあえず荷物おろしたいし、何か頼もう)
そんなことを思いながら、売店の方へ足を運ぶ。店員の頭上に黒板で書かれたメニューを流し見て、結局アイスコーヒーを頼みベンチに座る。屋外カフェの真ん中に、不自然な空きスペースがあって工事現場なんかで見るカラーコーンとトラ柄のプラスチックの棒で四角に囲って、侵入禁止と書かれてる札が眼に入る。何かあそこに新しく作るのかな、と考えながら重たい荷物をおろしベンチに腰掛ける。
「なんとかギリギリ間に合ってよかったなぁ・・・、にしてもライブハウスってより、なんか公園みたいに感じるなぁ・・・、小洒落たカフェにベンチ・・・」
ベンチに座ったのはいいがやっぱり落ち着かない、丁寧に紙ナプキンに包まれたカップに入ったアイスコーヒーに刺さったストローを軽く噛む。『くしゃっ』とつぶれる感覚が口の中に広がり、いい感じに犬歯に引っかかりを覚え、また噛むを繰り返す。
建物はまだ新しいと思う。この街にずっと住んで生まれたが、此処を訪れたのは始めてだった。意図せず此処を訪れるとなるとカフェのメニューが流行るくらいしか無いだろうし、後は有名アーティストのライブくらいしか無いか?
まぁ、何にせよ今日此処を見つけたし、たま~には此処来ても良いかもね・・・。せめて今度来るときはちゃんとした服で来たいなと、自分が来ているマウンテンパーカーを摘まみながら、ほんと色気がないなぁ・・・とわずかばかりの盛り上がりしかない自分の胸にため息をつく。
そんなことを考えて、腕に巻かれた時計に眼をやると12時を回った所だった。アイスコーヒをすっかりつぶれたストローで吸い軽く口に含み、スマホを取り出し先日交換した宇田川さんの連絡先を呼び出す。
何回かプルルルッとコール音は聞こえるが、本人は出ない。んー、時間は間違えてないんだけど、もしかしてカバンかなんかに入れちゃってるのかな?そのまま呼び出しを続けると、宇田川さんの声が聞こえてきた。
『おっす、着いたか?ごめんなー。ちょっと準備に手間取っちまってな』
電話に出た、宇田川さんの声の後ろは確かにちょっと騒がしい。
「全然いいよ、いま外のカフェでお茶してるよ」
『外?中入って来いよテーブルあるから、そのまま入って大丈夫だから』
「なかなかハードルを高い事を仰る・・・」
『はははっ、あたしもそう思ってた事あったけど、ふつーに入って大丈夫だよ。中のほうが暖かいしとりあえず準備終わったら、中のスペースで話するから入ってこいって』
「はぁ、わかったわ。中で待ってるから早めにきてね?」
宇田川さんとの通話を終え、カフェ側からライブハウス店内に入るとまず眼に入ったのは壁際に一列にソファが並べられ、所々におしゃれなテーブルと椅子が設置されてた。
(イメージのライブハウスが偏ってるのかな?なんとなくラウンジっぽいなぁ・・・)
キョロキョロしながら、隅っこのソファに腰掛けて改めて店内を観察する。幸いフロアにはお客は私だけだったので、キョロキョロしてても不審がられずに済んだ。
ソファの反対側、カフェ入り口側の反対側である正面入口の方にカウンターがあり、その向こう側には1人の女性がおり、後ろに並んだコレでもか!と言うくらいのCDを整理してる。ジャケットがあるものもあれば、中にはCDROMをそのまんま、っていうのもある。ただ彼女が整理している棚の端っこに目立つPOPが貼ってあり『どれでも1枚1500円!試聴は店員までお気軽にどうぞ!』と書いてあるところを見ると売り物っぽい。
(CD?なんであんなにジャケットが有ったり無かったりバラバラなんだろう?)
整理していた女性は、カウンターの下からCDを取り出しては棚に並べるを何回か繰り返した後、空になったダンボールを畳み始めた。
「うーん、やっぱり売れてるなぁ~。在庫ラストも今度のイベントで吐けちゃうかもなぁ・・・」
おそらく私の存在に気づく事なく独り言を言ったつもりなのだろう。売れてるってCDの事なんだろうけど誰のCDなんだろう?と彼女の独り言をぼーっと考えてたら、カウンターの女性は私に気がついたらしく「あらっ?」と声を出していた。
「こんにちは、スタジオCiRCLEへようこそ。初めて見る顔だね~、今日はレンタルですか?」
と、独り言を聞かれても恥ずかしがる事なく、お客さん相手の笑顔の接客を始められてしまった。
「あっ、その・・・。知り合いがここで待ってくれって言われまして・・・、ちょっとお借りしてます」
急にその万人受けするであろう笑顔を向けるのは、非常によろしく無いと思います。ちょっと心がときめいちゃったじゃないですか、女子なのに・・・。
緊張した心がバレバレであろうがなんとか声を出して、軽くソファから腰を上げ外で買ったアイスコーヒーが入ったカップを持ち、フリフリして一応、外で飲み物を購入した客で有ることをアピールしつつその言葉に返事をする。
「あ、なんだー!そうなんだ。その三脚って・・・、もしかして待ち合わせって『After Glow』の子達?」
ボディランゲージが通用したらしく、あー座って座ってと言ってくれる。ソファに座り直すと私の恰好を一通り観察したらしく、カメラ用の三脚から話を広げてくれる。
「ええ、今度ライブで自分たちの写真を撮ってほしいと言われまして。その説明を今日聞く予定でしたので・・・。ここって、スタジオなんですか?地図上だとライブハウスだったので、そうなのかと思ってました」
「スタジオ兼ライブハウス兼カフェって感じかな?まぁ、カフェは完全にお遊びだけど本業はスタジオと地下のライブハウスだよー。あっ、自己紹介遅れてごめんね。私は月島まりなと言います。スタジオオーナーをさせてもらってます。まぁ「雇われ」だけどねー」
「そうなんですね。こちらこそ失礼しました。私、望月真琴と申します。羽丘中学3年です」
「なるほどね。あなたが宇田川さん達の話してた『プロ級カメラマン』ってことかな?」
『プロ級』ってなんだ?何いってんだあの子達は・・・、ちょっとこめかみらへんがチリチリする痛みを覚えちょっと頭を抱える。
「カメラは好きなんですけど、流石に『プロ』を名乗ったことはありませんね・・・。私はただのカメラ女子って所ですよ」
「へぇー。でも、青葉さんにこっそり見せてもらったみんなの写真は、After Glowの仲の良さがすっごく出ていい写真だと思ったんだけどなー」
「あれは、素材になった彼女達がいいんですよ、私はその瞬間を切り取って自分の物のようにしただけで、あの瞬間はホントは彼女達の物なんです。私はその邪魔をしたのかも知れません」
「邪魔って・・・。それは無いと思うんだけどなぁ?彼女たちはあの写真を見て、きっと何か感じたはずだよ?それを邪魔というのは少し違う気がするなぁ?」
「だとしても、私の物じゃなくて彼女達の空気なんですよ。だから、あの写真を作ったのは彼女達。私はただボタンを押しただけのただの人間ですよ」
「そっか、じゃあもっとその瞬間増やしてみない?」
「へっ?」
何いってんだ?いまさっきまで喋ってた月島まりなと名乗った雇われオーナーの顔を改めて見ると、なんて言うか美人なのにどこか少年がいたずらをするような顔で「ニッ」と口角を上げて笑ってた。
短く区切ってみています。
2話・3話がやはり長すぎたと実感があったので・・・。
未だスタイルが未完成で申し訳ないです。